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        おまえは眠たげに紅い唇で

        紅く濡れた彼女の傷ぐちを吸う。

        彼女の血が吸血のために涸れて

        身を地に沈めるとき、おまえは燃える。

        飽くなき眼、輝かせ

        飽くなき口は 渇いて。

                ――チャールズ・スヴィンバーン






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◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 100m先から見たその何かは、見ようによっては奇妙なオブジェのように見えるであろう。
鋭角的な趣向が、やけに目立つデザインだった。或いは、異様に刺々しく見えるとでも言うべきだろうか。
遠目から見た『それ』のイメージを語るのであれば、ウニか、ハリネズミである。兎に角、棘のような意匠が目立つ。
先端恐怖症の者が見れば、引きつけでも起こしかねない程に鋭い。茨か、棘か、針か。そんなような物が、至る所から剣山めいて飛び出ているのである。

 一見して、何を表現したがっているのかが解らない。
現代アートの、よくある形の1つとも言えようし、前衛的で先鋭的な物を追い求めすぎて、意図したものが伝わらなくなってしまった、『あるある』に陥ったようにも見える。

 では、いったいこれは何なのだろうと、徐々に近づいて行く。
勘の鋭い者は、少し近づいただけ……いや違う。その、100m先の段階からの時点で、嫌な予感を感じ取り、退散してしまう。
察しの悪い者は、解らないから、更に近づく。30m前の段階にまで達するや、途端に鼻孔に叩きつけられる、濃厚なまでの鉄の香りと腐臭で、これは拙いと殆どの者は踵を返す。

 ――それでも。
此処まで来たら、怖いものを見てみたいと、勇み足した者は、その奇妙なオブジェの正体を知るや、胃の中の物を全て吐き戻しながら、後悔するのだ。
見なければ、良かったと。この光景を忘れる事は最早2度と出来ず、事あるごとフラッシュバックするこの悪夢めいた代物と、生涯付き合って行かねばならないのである。

 オブジェ、と認識していたものの正体は、串刺しにされた人間であった。
我々が、串刺し、と言う単語を聞いて、真っ先に連想するような物と言えば、川魚か何かの塩焼きであったり、バーベキューの肉を焼いたりなど、そんな物であろう。
だがこれを人間でやろうとするとなると、途端に、それを行った当人の異常性、残虐性、と言うものが露わになる。とても、好んでやるような殺し方ではなかった。
そして何よりも、そのオブジェは、杭か何かの尖ったような物を、尻から突き刺して口から飛び出させたりだとか、上向きにした杭に人間を仰向けか俯せに落として突き刺しただとか。そんな感じの殺し方ではなかった。

 果たしてそれは、如何なる方法を用いたらこうなるのであろうか。その死体に人間的な部位など欠片も残されていなかった。
付近に転がっている、嘗てその者の一部であった事を雄弁に物語る、分離された頭部を見て辛うじて、彼が元は人間であった事が解るのだ。
長さにして、50~70cm程の杭が、全身に突き刺さっていた。杭である以上、外部から肉体を突き刺した。そうと考えるのが、普通は自然な筋であろう。
その固定観念を思わず疑ってしまう程に。その死に様は酷かった。身体の内側に杭を生じさせ、それが突き破って出て来た物も、何本かは存在するのではないかと。
思ってしまう位壮絶な死に様だ。彼が果たして、どれ程の激痛を味わって死んだのか。察するに、余りある。

「……」

 酸鼻を極める光景を、実に、冷めた目で眺める男がいた。
その男の印象を語るとするなら、白、だった。絹より白い白髪は、加齢とストレスでそうなった物ではない。
産まれた時からそうだったと納得させるに足る、暴力的なまでの生命力と精彩とで漲っていた。
肌の色もまた、漉いたばかりの上白紙を思わせるような、真っ白い色味をしていた。肌の色を指して、白人と呼ばれる人種がいる事は常識だが、本当に肌の色が真っ白と言う訳ではない。
この男の場合は違う、本当に、白だった。しかも、ただの白色ではない。陽光に晒される事を忌み嫌い、森の奥に建てられた古い館に引き籠る、吸血鬼の肌を思わせる、不健康かつ、不気味な白。

 多少、医学的な知識を齧った人間であれば、アルビノ、と呼ばれる遺伝子異常の事が思い浮かぶかも知れない。彼の場合が正しくそれであった。
立派な遺伝子疾患、障害にカウントされる病気であり、紫外線に対する耐性が極端に弱くなる。早い話、太陽の光を浴びるのが、気分の問題を抜きにして、本当に苦痛となる。
医療技術が発達した今日に至っても、完治・根治は不能であり、その様にして産まれたのなら、一生、疾患と付き合う事を余儀なくされるハンディキャップであった。

 普通であらば、同情される。
産まれながらにして障害を抱えて生きて行かねばならなかった、その境遇に、人は哀れみを覚える。
だがこの男の場合は、きっと、憐憫と惻隠の情を、寄せられる事はない。その肌の色とは対極にあるような、漆黒の制服の故であった。
一般教養レベルの世界史の知識がある者が見れば、その男が身に着けている制服が、20世紀最悪の独裁者として広く人口に知られる、ナチスドイツの最高指導者の親衛隊が纏っていた物だと解るだろう。
そして、ナチスの軍事についてのマニアックな知識を有する者であるならば。男が胸に付けている徽章から、第36SS武装擲弾兵師団に所属する軍人である事も理解するだろう。無数の戦争犯罪を犯したSS部隊であり、その評判の悪さたるや国外のみならず、同胞のSS高官からすら『恥さらし』と忌み嫌われていた部隊である。

「……解ってた事とは言え」

 此処まで、手緩いとは思わなかった。粗暴性と獰猛さを同居させた端正な顔立ちに、気怠い物が差した。
SSはその特別性を保つ為に、入隊基準に身長から家系図までに厳格な規定を設置したと言うが、この男の背格好と顔つきであれば、犯罪者上がりが多い36SSではなく、もっと別の部隊へと入隊出来る道も、あったであろうに。

 これが、此度の聖杯戦争に、ランサーの位階(クラス)で召喚されたサーヴァント。『ヴィルヘルム・エーレンブルグ』こと、ベイの初戦であった。
魂の奥から屈服し、敬服しているラインハルト・ハイドリヒに、聖杯を献上する為の天覧試合。ベイは、聖杯戦争なるものを、その様に解釈した。
およそ教育と呼べるものを何一つとして受けた事のないベイであるが、半世紀超も、年老いぬ身体のまま退屈を持て余せば、嫌でも勉学座学の類をして見たくなると言うもの
その過程で、聖杯伝説と呼べるものを、学んだ事がある。エイヴィヒカイトと呼ばれる魔人に己を昇華させてから、魔術の知識を重点的にベイは学び、刻み込んだ。
魔術的観点から言って、この聖杯、本当に実在すると言うのであれば、疑いようもない最高の聖遺物である。これに比肩する聖遺物があるとすれば、ラインハルトが持つ聖槍位の物である。

 それを、手に入れられる御前試合。俺は今、ハイドリヒ卿に見られ、試されている。ベイは、己の今の境遇をそう判断した。
ならば、無様を晒す訳には行かない。ラインハルトへの忠誠心について、微塵のブレもない。手に入れて、我欲の為に願いを消費する。
そんな物は唾棄すべき不忠である。得られるものは、優勝の栄誉のみで十分。トロフィーたる聖杯は迷わず、ラインハルトへと献上するつもりだ。

 だが、それを手に入れられるかどうかとなれば、話は少々変わって来る。
ベイは己自身を、この聖杯戦争に召喚された最強の戦士(エインフェリア)だと確信しているが。敵も然るもの。中々の手練だと考えていた。
一筋縄では行かない戦い。思わぬ苦戦を強いられる可能性だとてゼロではないと考えていた。……とは言え、その心配すら、どうやらなさそうだった。
目の前にある、奇怪で、血腥いオブジェを見るが良い。アレこそは、カズィクル・ベイの真骨頂。己の能力の一端を解放した顛末である。
本気など微塵も出していない。それなのに、つい3分前までは元気な姿だった、ライダーのサーヴァントはこのザマになっていた。

 楽に優勝出来て、しかもどんな願いでも叶えられると言うのならば。
それに越した事はないと思うだろう。だが、それで喜ぶような者は、黒円卓の中ではマレウスか、シュピーネ位のものだろうとベイは思っていた。当然、ベイ本人は違う。
確かに楽に聖杯が手に入るのなら、それは良い筈なのだ。当初にベイが掲げた目標である、ラインハルトへの献上が達成出来るからだ。
しかし同時に、楽な戦いで手に入れた物を、ラインハルトが受け取るか、と言われれば、疑問符が付く。部下からの献上物を断る男ではないが、良い顔はするまい。
それにベイ自身が、勝ち戦で武勲を挙げた等と思われるのが、嫌なのである。本来戦いとは傷付くものであり、厳しいものであり、苦渋を舐めるものである。
戦いの本質とは苦しい事であり、そう言う苦難を経て得た勝利にこそ、意味が宿るのである。
蹂躙の良さは否定しない、殺しの愉悦も肯定する。だが、そればかりでは魂が腐る。ひり付く何かを味わなければ、戦士と言うのは嘘である。

 そう言う物を、聖杯戦争に期待していたと言うのに、示されたのは、ベイと言う魔人の優秀さのみ。優勝する蓋然性を、証明しただけだった。
それが、ベイには酷く憂鬱だ。今しがた殺したライダーが、聖杯戦争におけるトップ層だとは思っていないが、これが平均レベルだと言うのなら、お里が知れる。
『来た、見た、勝った』では、自慢にならないではないか。あらゆる世界の、過去・現在・未来から、名うての戦士が召喚され、彼らと戦えると言うから期待していたのに……。初手からこれでは、気勢も萎えると言うものだった。

 ベイは自分が強者だと言う確固たる自負を持っているし、それは他者から見ても紛れもない事実である。
その事実を淡々と、この聖杯戦争で示して終わりになるのだろうかと。センチメンタルな気分になりかけていたその時だった。
ブゥン、ブゥンと、懐に入れていた物がバイブレーションする。それは、マスターに渡された、格安スマホだった。
自分のナンバーを知っている人間は、この聖杯戦争に於いて1人しかいない。ベイを召喚した、マスター当人である。直ぐにベイは、電話に出た。

【どうした】

 もしもし、などない。信頼しているからではなく、電話先の相手がムカつくから省いているだけだ。

【電話に出たって事は終わってるって事で良いんだな?】

 電話先の声。男。若々しい。年配と言う感じの声音ではなかった。
数分前、隠れているマスターを探すと言ってその場を離れた男。その人物こそが、ベイのマスター、電話を掛けて来た相手。

【3分前に終わった。テメェはどうだ、猿】

【こっちは2分前だ。言うだけはあるな、流石に早ぇ】

【なんの取り柄もねぇヤーパンの猿に負けちゃ示しがつかねぇんでな。まぁテメェも上出来だ。とっとと戻って来い】

【……あぁ、それなんだが、少し待ってくれ】

【あん?】

【ついでに、知恵を貸して欲しいんだがよ】

【……】

【俺はこのレース、もしかしたら大穴の『シュピーネスパイダー』が一着だと思うんだが、ランサーはどう思――――】

【馬券買ってんじゃねぇぞクソ猿、ぶっ殺すぞテメェ!!!】

 思わずスマホを握る手に力が入り、それが粉々に粉砕される。
この東京にサーヴァントとして呼ばれて、これで3機目の端末破壊。ベイ本人も悪気があってやっている訳ではなく、全て、マスターによって齎されるストレスの故であった。

 ――そう。
ベイ自体は兎も角、マスター自体が、とんでもないじゃじゃ馬の暴れ馬で。
魔力もなければ念話も出来ず、挙句の果てにはベイの魔力探知にも引っかからないと言う、お荷物を越えたお荷物。
そんな人物と共に優勝しなければならない事が、目下最大の試練で……。ベイの頭をとみに痛ませる、最大の問題点なのであった。



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◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「やっぱ、所詮穴は穴だったな」

 その男は、部屋に入るなりそんな事を言いながら、手にした馬券を破り捨てた。
明白な目的意識を以て、鍛え、切磋琢磨した身体つきだった。大型のネコ科の動物。
それも、豹やジャガー、チーターと言った、しなやかな身体つきの動物を、その身体を見て連想させる。
自分の筋肉を大きく見せる為に鍛えた訳ではないだろう。アスリートのように、長時間ないし、短時間の間に、最高の運動パフォーマンスを発揮する為に鍛えた肉体。
……否。そう言う、お上品な目的で鍛えた物でもない。武道家や戦士のように、相手と戦う目的の身体。それすらも、正確ではない。
『殺し』。人を、獣を。それ以外の『何か』を。殺す為に鍛えた肉体。その男の身体と、其処に染みついた人生の残穢を評するならば、そう言う事になるのだろう。

 『伏黒甚爾』。
それが、状態を維持していた都内某所のオンボロビルの中に在る、数年前に夜逃げした幽霊企業が最後の瞬間まで使用していたままの状態の一室に入って来た、男の名前であった。

「大穴にだけは勝たせねぇように、よく出来てるもんだな。勝ってたら2000万の配当だったんだが、ままならねぇもんだ」

「言いてぇ事はそれだけか?」

 埃の積もったオフィスデスクの上に、行儀悪く足を乗せながら踏ん反り返るベイ。声には、殺意が漲っていた。

「何で俺が怒ってるかわかるか?」

「面倒くせぇメンヘラみてぇな事言うなよ。その服装で『察してちゃん』とか止めろよ、気色悪ぃ」

 オエッと言う仕草をする甚爾を見て、額に青筋を浮かべるベイ。

「まぁそうピキるなよ爺ちゃん。手ぶらで帰るのはアレだからよ、しっかりと土産も買って来てやったぜ?」

 そう言って甚爾は、左手に提げていた、スーパーのビニール袋をベイ目掛けて放る。
何かが入っている事は明白で、綺麗な放物線を描いて、彼の下へと近づいて行き、これをベイはパシッとキャッチ。中身を検分する。
ビールのロング缶が数本と、アーモンドと小魚が入った真空パックのおつまみ。それが、甚爾の言う土産であるようだ。

「怒ってばかりじゃ疲れるだろ。少しは怒りを抑える事を学ぼうぜ。小魚のカルシウムはイライラに――――」

 瞬間、凄まじい音を立てて、オフィスデスクが真っ二つに破断した。ベイが、軍靴の踵を乗せていたデスクがピンポイントで破壊されていたのである。
恐らく、その事実に気付く前に常人は当然の事、並一通りのサーヴァントは即死している。手強さで売っている英霊であっても、机の破壊に気付いた瞬間には首が飛んでいよう。

 ガッ、と。甚爾は不敵な笑みを浮かべて、右手で何かを掴んでいた。
猛禽の爪の様に指を曲げた右手を、彼に伸ばすベイだった。この恐るべきアルビノのランサーの、右手首を掴んでいたのである。
甚爾の首まで、その手が到達するまであと10cm程。防げていなかったら、甚爾の首が、血を拭き散らして宙を舞っていた。そのレベルの威力が、内包されていた一撃だった。
この一撃を、時速400km以上のスピードで、甚爾の下へと接近し、ベイは叩き込もうとしていたのだ。並のサーヴァントが、見切れないのも当たり前の話であった。

「いい加減にしろよ猿。やる気がねぇなら、ねぇって言えや。多少痛いがすぐに楽にしてやる」

「ある訳ねぇだろナチ公崩れが。人生の延長戦で、何でテメェみたいなのとツーマンセル組まなきゃなんねぇんだ」

 どちらも、憤怒を顔に浮かばせていた。空間が歪む程の怒気を、身体中から発散させていた。
片や、望んでもいない戦場に再び呼び起され、サーヴァントやら英霊やらと言う訳の分からない、呪霊のプラスイメージ版のようなものを使役しろと言われ。
片や、魔力の一切を保有していなければ、念話も一切通じず、挙句には態度だけは間近でみた星の様に大きいと言う、屑のようなマスターに従わなければならず。

 不和の理由は明白だ。
聖杯戦争、と呼ばれる物へのスタンスの違いだ。甚爾の方が全く乗り気ではなく、ベイの方はやる気がある。この時点で食い合っていないのだ。
しかもこれに加えて、双方のキャラクター性の強さである。両名共に、全く譲り合う気も、尊重(リスペクト)の念もない。何せ互いの呼び名が、ナチ公と猿である。信頼関係など築ける、筈もなかった。

 力を籠めるベイ。それに呼応して、力で押し返そうとする甚爾。
本来、サーヴァントの力に、生身の人間が抵抗する事など、不可能事に等しい。
そう言う理屈を抜きにしても、ベイを相手に、力どうしの拮抗が成立している、この光景がありえない、夢界の出来事のようなものなのだ。
そんな拮抗勝負が、10秒程続いた頃だったろうか。ベイが、剣呑な笑みを浮かべ、口を開いたのである。

「――やめだ」

 ベイが腕を払う様に動かす。それに合わせてか、甚爾も、手首を掴んでいた手を放す。

「この冥府の地とやらで、俺と力で張れる奴なんざいねぇと思ってたが……それが、戦士でもねぇ、マスターの猿と来やがる」

「面白れぇか?」

「つまらなくはねぇよ」

 この、伏黒甚爾と言う男。とことんまでベイの癪に障る男だった。
骨の髄まで、アーリア人至上主義。有色人種(カラード)、況して黄色(イエロー)に従うなど、ベイと言う男の矜持が許さなかった。
しかもこれに加えて、これまでの生意気で、人を小馬鹿にしたような態度である。ベイの性格自体が、難ありである事を差し引いても、甚爾と仲良くなれる存在は、まぁ、いなかろう。

 だが、強い。甚爾と言う男の強さ、これだけは、ベイも認めていた。
勿論、ベイは本気を出していない。形成位階程度の出力しか出していないが、その出力のベイと、拮抗出来ると言う時点で既に異常なのである。
況してこの甚爾、当たり前の事ながら、エイヴィヒカイトではない。正真正銘生身の人間である。今のような魔人になる前のベイ、即ちヴィルヘルム・エーレンブルグであったのなら。
殺されていたのは、ベイの方であった事だろう。間違いなく言える。素質と言う面で言えば、伏黒甚爾と言う男は、ベイの知る黒円卓のメンツの中でも、ぶっちぎり。
エイヴィヒカイトになる前と言う点で比較すれば、この男に勝てる団員は、ベイが心服する『あの男』も含めて、いなかったであろう。それ程までの、逸材であった。

「俺と渡り合うその力だけは、認めてやる。その一点だけは、疑いようもない真実だ。テメェは心底ムカつく猿だが、テメェを引き摺って聖杯を獲得するのも、ある種の『縛り』だと思って許してやるよ」

「オイ、俺は競馬のハンデで馬に付けられる重石か?」

 それはそれで、甚爾としても不服の念がある。
彼にしてみればベイと言うサーヴァントは、男であると言うだけで既に共同生活の相方としては論外なのに、それに加えてこの口の悪さ、教養の無さよ。
ただでさえ底を割りそうな、聖杯戦争のモチベーション、それが更に下降しようと言うものだった。

 だが、強い。ベイと言う男の強さ、これだけは、甚爾も認めていた。
この地上に、此処までの強さを持った存在がいたのかと、甚爾は驚いた物だった。
如何控え目に評価しても、ベイの強さは呪術師、呪霊の双方から見て特級クラス。それも、特級の中の上澄みだ。
甚爾の記憶の中に在る、禪院家の連中。彼らが束になって掛かった所で、ベイの前では嬲り殺し。呪霊操術の力をもったあの青年で漸く勝負になる可能性があるレベル。

 ――俺を殺したあのガキなら……――

 漸く、圧倒出来るかも知れない、と言った所か。
甚爾はベイに対して、やけに軽んじた態度で接してはいるが、内心では唸っていた。この男は、強い。
この男の強さで制圧出来るのは、国どころか最早『世界』だろう。その次元の強さで、甚爾はベイを見積もっていた。

「つーかテメェのような奴が13人もいて、何で戦争に負けてんだよ。敵国にチャック・ノリスでもいたのか?」

「いたらすっ飛んで戦ってるよ。生憎と、総統(フューラー)の理想には全員興味がないし、俺達の首領は別にいてよ。従う義理もなかった訳だ」

「お前の、ボス? 意外だな、愚連隊みたいに一人で気ままにやってんのかと思ったぜ」

「見えねえし似合わねぇって言うのは百も承知だが、昔ながらの騎士の忠義って奴を大事にするクチでね。主君に魂を捧げろと言われりゃ、そうするつもりさ」

「何だそりゃ、随分と惚れてんだな」

「テメェが心を入れ替えて、見合う働きをしたんなら、拝謁の場を用意してやっても良いぜ。口利きはしておいてやる」

「御免だね」

「勿体ねぇな。お前の働き次第じゃ、好きな奴を蘇らせるって事も出来るのによ」

「……お前のボスとやらは、神様か何かかよ」

「そう言うもんだと思って、接してるよ」

 ――いや。
やがては神以上の存在になるのだと。ベイは、信じていた。ラインハルトは、神以上の器なのだと、確信している。

「そんな存在と接点があるのに、何で態々、こんな得体の知れないイベントに来るかね。お前のボスに叶えて貰えよ」

 断片的な話を聞く限りでも、ベイの話す主君と言う存在は、呪術師とか呪霊とか言う括りを、更に超越した所にいる怪物にしか甚爾には聞こえなかった。
死者を、蘇らせる。有史以来、誰にも覆された事のない大いなる法則だろう。ベイの主と言うのは、それに待ったを掛けられるという。
これが神でなくて何だ? そんな存在とナシが付いているのなら、聖杯など求めず、その化け物にでも縋れば良いじゃないか。

「言っただろ? 忠義を重んじるってよ」

 話を聞いていたのか? とでも続けたそうな、ウンザリした声音で、ベイが反論する。

「何でも願いが叶えられる権利を与えてくれるトロフィーで、願いの抜け駆けをする。究極の不義理じゃねぇか、俺は許せねぇ。俺は、俺の優れている事を証明出来ればそれで良い。聖杯は、卿に捧げるつもりだ」

「それで、お前の忠義に、卿って奴はどんな見返りをくれるんだ?」

 溜息。ベイの方から。

「餌が欲しくて芸を覚える、ボールを取って来る犬と勘違いしてんじゃねぇのか? 褒美は強請るもんじゃねぇ、働きに応じて、与えられるモンだ。やらない、と言われたら引き下がるんだよ」

「結構な事じゃねぇか、俺には到底理解に苦しむ生き方だよ。だが俺には、お前が叶えたい願いが1つもないような、欲のない人間には見えなくてね。それすらも、ないのか? お前の個人の、細やかな願いって奴がよ」

「……」

 ベイが、押し黙る。
今まで浮かべていた不敵な笑みが、冷たい無表情に転じて行く。
その様子を見れば、気の弱い者は、機嫌を損ねたと思い、必死に機嫌直しに走るだろうが、甚爾は違う。肝が据わっているのか、そう言う阿諛追従には走らない。
ベイは其処で、先程破壊した机の所まで移動し、その近くに置いていた、先程甚爾が買ったビニール袋に入った缶ビールを2本取り出した。
「飲めよ」、そう言ってベイが缶を放る。それを甚爾がキャッチしたのと同時に、ベイはプルタブを開け、もう中身を口にしていた。

「お前、女いた事あるか?」

 甚爾がプルタブを開けようとしたその時に、ベイがそんな事を訊ねて来た。

「聞く事のレベルが修学旅行の夜じゃねぇか」

「良いから答えろよ」

「どう思う?」

 質問を質問で返す行為に対して、特にベイは不服そうな顔をしない。

「テメェはいただろうな。時代の新旧関係なく、ダメ男って奴に惹かれる女はいるからな」

「オイ、俺はダメな男かよ」

「鏡見ろや猿」

 プチっと、タブを開け、甚爾はビールを口にする。

「……シスターの癖に手癖の悪い女でよ」

 ベイは滔々と語り始めた。遠い目だ。彼の過去の、どの時点に向けて、今の言葉を紡いだのか。

「家も身寄りもなさそうだったから、親切心見せて家に住まわせてやったら、勝手に台所仕切るわ彼女面するわで、面の皮が厚いったらねぇ」

 不思議と、ベイは語り口に、悪感情を見せていなかった。
事情を何も知らない甚爾から見ても、解る。懐かしんでいる、と言う事を。憎い仇敵について話していると言うよりは、昔日に一緒に遊んだ悪餓鬼との思い出でも、語るような口ぶりだった。

「極めつけにあの女、俺の事を愛してるだとか天使だとかほざくその口で、俺を半殺しにした挙句に……魂を半分奪って蒸発しやがった」

「……追わなかったのか?」

「善き処、って奴に逝っちまったよ。多分其処は、人殺しの俺には絶対に潜れない門で、閉じられた場所だ」

 成程、それは取り立てに行けない。
何せ、目の前のベイは勿論――甚爾にだって、其処は到達し得ない場所なのだから。

「多分だが、俺は俺である限り、不完全何だろうと思う。かつての俺を構成してた部分を、半分も持ってかれちゃあな」

 呪術師の中でも特に古い歴史と、強い権力を持った、御三家の内の一家門。
禪院家と縁が深い甚爾には、解る。ベイの言っている魂を持っていかれたと言うのは、文字通りの意味なのだろうと。
良く生きていられたな、と甚爾は感心する。魔術も呪術も知らない素人は、魂の実在を先ずは疑うだろう。信じたとしても、そんな物が半分も奪われて、無事に済むのかと疑問に思うだろう。
無事で、済まない。済む訳がない。死ねるのならばまだマシな方だ。最悪の場合、人間としてのあるべき形を失い、意識すらも溶け落ちた、タンパク質で出来た異形のバケモノとすら化す。
こう言う事情を知っているからこそ、ベイの異常性と言うのが良く解る。魂と言うものは、人間のみならず、生命体全ての急所である。
脳や心臓、睾丸など、魂魄に比べれば及びもつかない。これを半分も奪われ、人としての形を保ち、当人の意思もそのままでいられる。尋常の範疇、その外の生命体としか、ベイは思えなかった。

「俺の願いは、ただ1つだ。戦い続ける事。闘争こそが、我が使命」

 ベイは、滔々と語り続ける。気づけば、2本目のビールを開けていた。

「腕をもがれ、足を吹っ飛ばされ、首から上を斬り落とされようが。大量の血を流しながらよ、見ている傍から急速に身体を再生させてよぉ、相手に食らいつきぶっ殺すのよ。血を流せば死ぬ? 身体を欠損させれば、命乞いして許しを請う? それは人の道理だ。吸血鬼は、死なないんだ。無敵なんだぜ」

「そんなアクティヴな吸血鬼がいてたまるかよ」

 水のようにゴクゴクと、ビールを飲んでいくベイとは対照的に、甚爾の方のペースはチビチビとしたものだった。
己の呼び出したランサーのサーヴァントの、呆れるような哲学に、彼は耳を傾け続けている。

「俺の母は、姉だった」

 唐突に、そんな事を口にするベイに、甚爾は疑問符を浮かべる。
間違いなく、ベイの話した言葉は、日本語であったにもかかわらず。その言葉が意味する所を、脳が、理解を拒んだからである。

「それを言うと皆、今のテメェみてぇな顔をするんだよ。実の娘を犯した父親、父親の精子で妊娠した娘。そんな娘から産まれたのが、この、俺。実に愉快な一家じゃねぇか」

 無言で、甚爾はベイの話を聞いているが、内心はハッキリ言って、引いている。
近親婚。別に珍しい話ではない、神話でも、兄妹、ないし姉弟。それどころか、母と子との間に、更に子孫を設けるケースなど、珍しくない。
有名所では、古代エジプトの王朝では、近親婚によって己の血統の純度が高められ、聖性を帯びると信じられたと言う。
一説によればツタンカーメン王とは、そう言う近親相姦を繰り返した末裔であるが故に、先天的な障害を伴って産まれたのではないかと言う話もある位だ。

 確かに、近親婚は珍しい話ではない。『神話』の時代、『紀元前』の時代に於いてなら。
ベイの服装を見るに、この男は疑いようもない近現代の住民。どころか、しっかりと、ナチス・ドイツ時代のサーヴァントだと自分からアピールして来ている。
つまりは、日本の元号で言えば、モロに昭和の時代と同じ年代に生きた男である。当然その頃には、近親婚は大体の先進国ではタブー扱いであるし、法で禁止されている国の方が多かった筈だ。

「親父は戦争で足をもがれ、頭がおかしくなった傷痍軍人。おふくろは、親父が興奮するって思ったら人前で糞する事すら厭わない変態女。生きててもしょうがねぇカス共だろ」

 「――俺はな」

「そんなクソ共から産まれた自分が嫌で嫌でしょうがなくてよ。だから、こいつらの事をテメェの手で精算して、後は野となれ山となれの喧嘩三昧。そんな生活を送ってる内に、あの御方が現れたんだよ。俺の苦境から遥か遠くて高い所にいながら、チンピラ同然だった俺に本当の生きる理由を与えてくれた、黄金の獣がな」

「……」

「戦い、傷付き、そして、殺して。手足をもがれて血を流すその内に、俺は、俺じゃない何者かになる事を期待した。親父と母親の血を全て流し切り、奴らの子供としてのヴィルヘルム・エーレンブルグじゃない。ハイドリヒ卿の爪牙としての、ヴィルヘルム・エーレンブルグに新生したかった」

 哀しいまでの、自傷癖だった。
要するにこの男がこの世で一番忌み嫌うのは、日本人のような黄色人種でもなければ、不忠者でもない。
ろくでなしの父母から産まれ、その血を確かに引いている、ヴィルヘルム・エーレンブルグ、自分自身であるのだろう。
だが、それを茶化す気には、甚爾はなれなかった。知っているからだ。流れている事を嫌悪するような血統が、この世にはある事を。
その血が流れている、そんな事実を忘れたかったら、俺は、『伏黒』と言う姓を名乗っているのではないか。

「そいつが俺の願いだ。それを俺は、曲げた事がないし、これからも曲げるつもりはない」

「……」

「……だがよ。時折思う事がある。あの女が魂を半分持ち逃げしてなかったら、俺は、何処まで行けてたんだろうなってよ」

 ワルシャワで出会った、あの女……クラウディアに対して、恨みを持っているかって問われれば、俺は、ねぇよ。
まぁ、ヘルガの奴は未だに恨み骨髄らしいがな。時折思い出すと、愛しのヴィルヘルムを奪った泥棒猫がどうたらこうたら、キャンキャン煩くて仕方がねぇよ。
クラウディアは、上手くやりやがったな。俺を振り切って上手く逃げやがったよ。しかも、人様の魂を奪って、一生俺が入り込めねぇ駆け込み寺にトンズラと来たもんだ。
流石の俺でも、死んだ奴の所には取り立てに行けねぇよ。況してそこが天国って言うんじゃな……。全く、シスターらしい逃げ方だよ、キレるより感心しちまうよ。

 奪った物を返せ何て、そんなダサい真似はしねぇ。
勝った奴が、奪う。負けた奴は、獲られる。当然の理屈じゃねぇか。俺だって、勝利の暁に、命と血と魂を随分と奪って来た。
やって来た事をやり返されたから、文句を言う。恥ずかしくて出来る訳ねぇだろ。だから俺は、クラウディア、テメェを称賛してやる。
喧嘩もした事がない修道女、しかもアルビノ、余命もねぇ。そんな弱者の見本みたいな女が、俺から一本奪ったんだからな。そこを褒めてやれなきゃ、英雄(エインフェリア)じゃねぇだろ。

「アイツが奪った魂の中に、俺を俺足らしめていた、根幹の何かが、あったんじゃねぇかって、思うんだよな」

 クラウディア。お前、俺から何を奪ったんだ?
力じゃねぇのは解ってる。多分俺の出力は、お前と会う前から下がっちゃいない。それは俺自身が良く解ってる。
だが、力が減じてないって事は、お前は『俺の力が欲しかった』訳じゃないんだよな。お前にとって俺の力は、惚れる要因ではなかったんだよな。
じゃあ、お前が一番愛したって言う、俺の価値は、何だったんだ? 命を賭して、この畜生腹の身の何処を愛して、持って行ったんだ?

「戦って殺されるのは良い。それを覚悟で俺だって殺してるんだからな。だが、昔の女が分捕った物が理由で、地面にキスしちまったって言うんじゃ、俺だって死ねねぇよ」

 何を奪ったのかも解んねぇ。それが、俺の強さに繋がるものだったのかも解らねぇ。
……そもそも、俺はあの時、クラウディアに対して何を思って接していたのかも、今となっては良く解らねぇ。
笑える話だ。初恋って奴はこんな、昔見た興味のない映画のあらすじみたいに、うろ覚えなのかよ。そんな訳ねぇだろ、それをアイツが持ってったんだろうがよ。

 例え、クラウディアが、俺の何かを持って行ったとしても、だ。俺の生き方はいつだって、1つ。

「クソみてぇな血が流れている自分が許せねぇから。欠けてる自分が許せねぇから。その分だけ、戦い続ける。生き続ける」

 「それが――」

「聖槍十三騎士団黒円卓第4位、ヴィルヘルム・エーレンブルグ=カズィクル・ベイの、願いって奴だ」

 ――ああ、そうだ。
昔どこかで聞いた、若くして死んだ天才音楽家やら芸術家やら文芸家みたいに、随分な若さで死んだクラウディアよりも。
長く、永く、久く、宇宙の寿命よりも長じて生き続けてやる、と誓った事は、覚えてるんだよな。そうすりゃ、アイツが奪った物を、ふと、思い出せそうな気もするからよ。

 夭折したクラウディアの10倍、100倍、1000倍。
長く生きて、戦い抜いてやる。アイツが、天国何てつまらない所に飽きて、俺の所にやって来るまで、生き抜く。
それが、俺を相手に唯一勝ち逃げ出来た女に出来る、復讐だった。

「……言ってしまえば、男のつまんねぇプライドか」

 全てを聞き終えた甚爾が、ふと、そんな事をボヤき始めた。

「そうさ。笑える位つまらない、男の意地だよ。それの、何が悪い」

「悪かねぇよ」

 甚爾は漸く、1本目を空けたようで。後ろに、缶を放り捨てた。カラン、と言う音。

「笑わねぇよ」

 皮肉気な苦笑いを浮かべ、甚爾は言葉を続けた。

「俺も、それを捨てきれずに死んじまったからな」

 金にならない仕事はしない、危険な博打は打ち過ぎない。
そう言う賢い生き方を心掛けていた筈なのに。自分は引き際を見極められる、デキる男だと思っていたのに。
とっくの昔に捨てたと思っていた、安い自尊心で、選択肢を誤って。結局、それが理由で、積み重なった過去を、死と言う形で精算してしまった。

 そうした結果。
伏黒甚爾と言う男は、こんな冥府の底で、ナチス崩れの不良軍人と、タッグを組まされているんじゃないか。

「お前、俺に女いた事あるかって聞いたよな」

「ああ」

「いたよ」

 傍から見ても駄目で、近寄っちゃいけない男に近づいてきて。
よせば良いのに、子供まで産んだ、物好きでお人好しな、阿呆な女が、俺にもいたのさ。
小指を立てながら、俺は言葉を続ける。

「多分俺のこれも、ランサー、お前の女が言う『善き処』って奴に逝っちまった。んでもって、多分俺も、向こうの門扉は開けられそうにない」

「……そうかい」

「だが俺には、子供がいる」

「おう」

「俺の勝ち」

「あぁ!? ガキと借金なんざ俺の親父でも作れるもんじゃねぇか、んなもん作った位で勝ち誇ってんじゃねぇぞ!!」

 予想外の所から攻められた挙句、訳の分からない勝ち名乗りを挙げられて、ベイはいきなりキレた。
どうも、勝利宣言を挙げられるのがこの男にとっては我慢がならないらしい。見た目通り解りやすい奴だな、と甚爾は思った。

 そして、子供を作った位で偉そうにするな、と言う物言いも、御尤もだな、とも思った。
自慢出来る訳が、なかった。息子は……恵は、物心つく前に、下手すりゃ父親の顔も名前も覚えるよりも早く、禪院家に売ったのだから。
だがそれでも、甚爾は、俺よりはまともに育つだろうと思っていた。産まれたその時に、母親に抱かれていたから。ぬくもりと、愛を覚えていたのなら、まあ多少は、マシな男になるだろうと、思っていた。

「ビール寄越せよ、ランサー」

 凄い不服そうな態度で、ベイが缶ビールを投げた。時速、160km。手首の力だけで投げた缶が、得た加速度がこれである。

「ついでにそのアーモンドの小魚開けてくれや、しょっぱいのが欲しい」

「怒りっぽい俺の為にくれたんだろ、お前はビールだけ飲んでろや」

 「そりゃねえだろ爺ちゃん」、と言いながら馴れ馴れしく甚爾は近づいてきて、勝手に小魚の袋を開け始めた。
ベイは最早突っ込む気すらない。3本目のビールのプルタブを開け、それをグビグビと飲み始めたのだった。





【クラス】

ランサー

【真名】

ヴィルヘルム・エーレンブルグ@Dies irae

【ステータス】

筋力B+ 耐久A++ 敏捷A+ 魔力A 幸運E+ 宝具A

【属性】

混沌・悪

【クラススキル】

対魔力:A-
魔力への耐性。ランク以下を無効化し、それ以上の場合もランク分効力を削減する。事実上、現代の魔術師ではランサーを傷つける事は出来ない。
但し、特定の属性を宿した攻撃に限り、対魔力の効果は無効化される。

【保有スキル】

エイヴィヒカイト:A
極限域の想念を内包した魔術礼装「聖遺物」を行使するための魔術体系。ランクAならば創造位階、自らの渇望に沿った異界で世界を塗り潰すことが可能となっている。
その本質は他者の魂を取り込み、その分だけ自身の霊的位階を向上させるというもの。千人食らえば千人分の力を得られる、文字通りの一騎当千。
また彼らは他人の魂を吸収し、これを自己の内燃エネルギーとして蓄えられると言う都合上、魔力の燃費が極めて良い英霊にカテゴライズされていて、
具体的には、余程ノープランな運用をしていない限りは、魔力切れのリスクがかなり低いと言う事。
肉体に宿す霊的質量の爆発的な増大により、筋力・耐久・敏捷といった身体スペックに補正がかかる。特に防御面において顕著であり、物理・魔術を問わず低ランクの攻撃ならば身一つで完全に無効化してしまうほど。人間の魂を扱う魔術体系であり殺人に特化されているため、人属性の英霊に対して有利な補正を得るが、逆に完全な人外に対してはその効力が薄まる。

魔力放出(杭):A+
魔力の放出による、遠近双方の、戦闘に際しての選択肢の増加。ランサーの放出形態は『杭』。あらゆる英霊を見渡しても、特異な形態となっている。
実際上は魔力を杭にしていると言うよりは、自らの血液を杭にしていると言うべきで、これを凄まじい速度で射出したり、近距離でパイルバンカーの要領で打ち出し大ダメージを与えると言う事が可能。

吸血鬼(偽):A
吸血鬼であるかどうか。高ければ高ければそれは吸血鬼としての格が高まって行く事を意味するが、同時に、正統な英霊からは遠ざかる。
ランサーは正真正銘、人間の英霊であり、純正の吸血鬼ではない。己の祈りと願い、渇望の強さによって、自身を吸血鬼であると狂信しているだけである。
これだけならば歪んだ信仰でしかないが、後述の宝具によって、本当に吸血鬼としての特性を獲得してしまうに至る。ランク相当の怪力と再生能力を有する複合スキル。

修羅への忠:A
生涯をかけて仕える。爪牙として、敵対するものを引き裂く。そうと決めたランサーの心の在り様。
高度な精神防御として機能する他、勇猛、戦闘続行スキルを兼ねた複合スキル。

奪われる者:C
ランサーの師とも言うべき、詐欺師にして魔術師である男から授かった呪いの言葉。
ランサーは、本当に欲しいと思ったもの、心の底から倒したいと思った者程、無粋な横槍によって取り逃すと言う宿命を背負って産まれているとの事。
決着をつけるべき相手を取り逃す、欲しい物に逃げられる。そう言う星の下に、ランサーは産まれている。

枯れた恋の薔薇:-
このスキルは、初恋の女に持ち去られている。本来であれば、極限域ランクの鋼鉄の決意スキルを保証すると言う効果を持つ。
ランサーと言うサーヴァントが、ヴィルヘルム・エーレンブルグと言う存在である限り、絶対に思い出す事はない筈のもの。
間違いなく彼はこのスキルを保有していたが、今となってはそれが何だったのかを思い出せない。それを象徴するスキル。
……本来であれば、このスキルが記載される事すらないのであるが、冥府と言う死後の世界が此度の聖杯戦争のロケーションの為か、奇跡的にこのスキルが捻じ込まれている状態となっている。

【宝具】

『闇の賜物(クリフォト・バチカル)』
ランク:B 種別: レンジ: 最大補足:
聖槍十三騎士団黒円卓第四位であったランサーの操る聖遺物。武装形態は人器融合型。
素体となったものは、オスマントルコの兵士達を生きたまま串刺しにした事で知られる、ワラキア公国の領主であるヴラド3世の血液が結晶化した物。
世界に数ある吸血鬼伝説のモデルとなった人物の血と言う事で、聖遺物としての特性も非常に吸血鬼然としたものとなっている。
これに加えて、ランサー自身が吸血鬼と言う在り方を諸手を上げて受け入れている事から、聖遺物としての相性が抜群に良い。

宝具としての効果は多岐に渡るが、最も解りやすい物としては杭の射出と創造。
この杭は平時は不可視の状態となっており、霊性を持たぬ者は視認すら出来ぬまま貫かれて即死。
杭の強度や威力を上げると、この不可視のメリットが帳消しになるが、視認が出来る程になると言う事は単純な威力の上昇に留まらず、
因果に作用する程の不運と不吉を纏う様になり、余程の幸運スキルを持たない限りは完全な回避は不能。命中率に多大なボーナスが掛かるようになる。
勿論、威力も速度も桁違いに上がる為、幸運が高くとも見切る事は困難。この杭を目に見えぬ程の高速度で射出する事と、身体から飛び出させ、
威力を向上させた上での近接戦闘が、ランサーの戦闘の基本骨子。また、攻撃のみならず、杭の高硬度を利用して、防御にも転用出来るなど、応用も幅広い。
そして、この杭の最大の特徴が、『相手の魔力や生命力を吸収してしまう』と言う点。この杭を通してダメージを負うと、ランサーが活動するのに必要な魔力として吸収される他、
生命力も合わせてドレインされる為、体力の回復すら許してしまうと、継戦能力の著しい向上にも寄与している。この生命力のドレインとは、有機生命体に限った話ではなく、
水や電力や金属、そしてガソリンを初めとする燃料物すらも対象となっており、こう言った物からですらもエネルギーや生命力を吸収し、活動エネルギーに変換してしまう、邪悪な性質をも持つ。但し、ランサーに言わせれば、この冥界では物質よりも、生命体。それも、サーヴァントやマスタークラスの生命からじゃないと、食いでがない、と言う事らしい。

『死森の薔薇騎士(ローゼンカヴァリエ・シュヴァルツヴァルト)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:50 最大補足:結界内にいるなら無差別
創造位階・覇道型。『夜に無敵となる吸血鬼になりたい 』と言う、ランサーの渇望のルールを具現化した覇道型の創造。
能力は『周囲の空間を夜へと染め上げた上で、効果範囲内に存在するものから力を吸い取り、かつ、夜が展開されている間は術者を吸血鬼に変える』と言うもの。
固有結界に似た性質を持つ一方で、自己強化に似た性質を付与する効果も兼ねており、このような覇道と求道の性質を持った創造を持つのは、彼のいた黒円卓に於いてはランサーしかいなかった。

 発動した瞬間、ランサーを中心とした直径1km圏内が、上述のように夜の世界に変貌する。
これは昼間の状態に能力を展開しても同様で、外から見ても何て事はない空間だったのに、結界内部に入り込んだ瞬間、途端に空が夜になるのである。
昼間にも発動出来るが、夜に発動する方が圧倒的に効率が良く、具体的には、消費魔力と維持魔力が、昼間の間の半分以下で済む上に、宝具効果も跳ね上がる。
結界内部にいる存在は敵味方の区別なく、常時生命力と魔力を吸い上げられ続け、これはランサーの活動維持。つまり、宝具の維持と、自身のステータス強化の為に汲みあげられる。
この宝具の範囲内にいるサーヴァントは常時、宝具ランクを除く全てのステータスが1ランクダウンしている状態となり、その反対にランサーの方は、
全ステータスが1ランクアップしている状態となり、この上で、吸収した生命力と魔力の分、更にステータスが常時上昇する事になる。
結界内部はランサーの体内に等しい空間であり、結界内の何処に隠れようとも、ランサーには筒抜けの上に、会話も丸聞こえの状態。
更にはランサーの意志で、相手の認識を阻害する事も可能であり、任意の物質や人間を不可視にさせて混乱させる事も、特定の物質の強度を上げて移動を阻害する事も如意自在。
また、宝具の結界内部に侵入する事は容易いが、出るのは困難を極め、ランサーが許可した存在でなければ脱出する事は、これに特化したスキルや宝具を持たない限り不能。
結界内でのランサーの強さは、単純な肉弾戦の場合でも悪魔的なそれと化すが、仮に目の前にランサーがいなかったとしても、彼は結界の範囲内に限り、
何処からでも上述の、闇の賜物による杭を放つ事が出来る。また、『なにもない空間』から杭を生やす事も、この宝具の発動時には可能となっている。当然、杭の威力も更に桁違いに跳ね上がっており、直撃すれば命の保証はない。

 このように、高い性能を保証する宝具であり、攻撃面・防御面・相手の弱対面・妨害など、全てに於いて高水準に纏まった宝具である。
但し、これだけの性能を得る為に、幾つかの縛りを己に課している面もあり、最大の弱点となる要素が、自身が吸血鬼になると言う点。
これは良い事ばかりでなく、『一般的に吸血鬼の弱点とされる要素』をも会得している事も意味し、炎や腐食、銀・聖水・十字架・陽光・流水と言った属性に弱くなっていて、
心臓に杭を打つと言う効果に至っては、生前の在り得た未来の1つで、この方法で生身の人間にしてやられている末路も辿っている為、致命傷を負う事が確約されている。
また、ランサーは結界維持の為の核を、夜空に浮かぶ薔薇色の満月に設定しているらしく、この満月を何らかの手段で破壊されると、結界も壊されてしまう。
それ以外にも、この宝具による生命力・魔力の吸収は本当の無差別となっており、敵味方の区別なく、吸収してしまう。それが例え、マスターであっても。
これらの弱点を全て、ランサーは承知しており、また隠す気もない。弱点の多い吸血鬼と言う在り方を、誇りに思っており、寧ろ堂々と振舞っている。

『血色の薔薇よ、咲き誇れ(キッス・イン・ザ・ダーク)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:1
ランサーの体内に取り入れられた、第一宝具・闇の賜物の、もう1つの形態。これを別宝具としてカウントしている。
ランサーの任意で発動する事は出来ず、ランサーが是が非でも倒したい、屈服させたいと言う相手で、かつ、相手がランサーを越える強さを持ち。
そして、莫大な魔力量を持っていると言う3つの条件が重なる事で発動出来る宝具。宝具としての能力は極めて単純で、闇の賜物の同調率が急激に上昇し、
ランサーの身体が自壊するまでステータスが際限なく上昇して行くと言うもの。この宝具を発動している間、ランサーの身体の中に住まう、姉であるヘルガ・エーレンブルグが、
ランサーの心の中で実体化。「いけー!! 淫売の息子!!」と言う感じで滅茶苦茶応援しまくっており、これがステータス上昇の原因となっている。

【weapon】

【サーヴァントとしての願い】

ない。手に入れた聖杯は、ハイドリヒ卿へ献上する。

【マスターへの態度】

猿。カス。ゴミ。マスター何て言いたくねぇよ。
魔力がないからテメェで魔力を吸収してリソース節約しなくちゃならねぇわ、言う事も聞かねぇわ、創造を展開して何度殺そうと思ったか解らない。
と言うかこいつ、魔力ねぇから吸い殺しも出来ねぇし、何処にいるかも解らねぇし、結界も何か実家みたいな感じで出入りしやがる!! は~クソクソクソクソクソクソクソ。
ただ、強いという点だけは認めている。心を入れ替えて働けばハイドリヒ卿にも渡りをつけてやるって言ってんのにサボりやがる。殺すぞ~~~~~!!(ヤバいエイヴィヒカイトのSUSURU)
しかもコイツ俺と何か死に様の共通点まで多いのが余計にムカつく。この聖杯戦争って奴、メルクリウスの奴噛んでねぇんだよなマジで?



【マスター】

伏黒甚爾@呪術廻戦

【マスターとしての願い】

ん~~~……。どうしよっかね……?

【weapon】

【能力・技能】

天与呪縛:
一般人ですら僅かでも持つと言う、呪力を一切持たないという、生まれつきの縛り、『天与呪縛』を課せられている。
この縛りの代償として、超人的な運動能力を兼ね備えている。所謂、フィジカルギフテッド。
人間は勿論、下手なサーヴァントすら超越する身体能力並びに五感を兼ね備え、第六感じみた直感すらも併せ持つ。
余りにも五感が鋭すぎる為に、本来見えないし感じられない呪いの類すらも感知出来てしまい、呪力も一切持たない為に、呪いへの耐性も強い上に、呪力・魔力を利用した感知にも引っかからない。
一方、素手では呪霊を傷つける事が出来ないので、攻撃には呪力の込もった道具を用いる必要がある。本企画では、ランサーの杭を一本借り、これを振るって相手を攻撃する事にしている。
サーヴァントは呪霊とも勝手が違うようなので、甚爾の目にも視認が出来る。

【方針】

聖杯は欲しいけど、願いはまだ決まってない

【サーヴァントへの態度】

呪術師大国の日本ですら大問題の火種が多いのに、こんなのが史実のドイツに居たら大問題だろと思っている。
口は悪いが、実は結構優等生の、委員長タイプなんじゃないかと思っており、実を言うと嫌いではない。まぁ、緩くやろうぜお爺ちゃん。

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最終更新:2024年05月26日 18:57