「私、悪い子だったんです」
蓋が開けられた鍋の底は糸蒟蒻や、蒸された人参やら馬鈴薯。庶民からすれば馴染みのある和風料理。
大和撫子、といえる程かは兎も角それに連なる美貌を兼ね備え。
温和で心優しい表情で、桜のように儚い紫色の髪が揺らしながら。
この冥界にて巻き込まれた葬者である少女が、眼前のちゃぶ台机の前に座る己のサーヴァントに語りかけた。
「……ますたーも、"わるいこ"だったの?」
英霊は、小さな小さな、女の子だ。
小学生どころか、幼稚園児ほどの大きさの女の子が、身の丈にあった漆黒の修道服に身を包んでいる。
純粋無垢、そう言えると言うべきそんな存在が、この場にいるであろう狂戦士(バーサーカー)の英霊である。
外見通りなその幼さの中に、狂気と残虐性と、一抹の孤独を宿した、そういう存在。
そんな英霊が、自分の主(マスター)たる葬者――間桐桜という少女の、英霊であった。
「……はい。幼い頃に、酷いことばかりあって」
魔術世界における御三家。
アインツベルン。遠坂。――そして間桐。
間桐桜という人物は元来間桐ではなく遠坂であり、父の意向によって間桐の家へと送り込まれた。
父親はあくまで父親の中の善意で自分を養子へと送り込んだようであるが、待ち構えていたのは文字通りの地獄。
当主・間桐臓硯が出来損ないの息子の代わりとして、彼女の身体を"改造"した。
蠱を用いて、文字通り彼女を作り変えたのだ。
「架空元素・虚数」。その魔術の才能に恵まれていただけの少女の身体は、母体として優秀だったのだから。
斯くして、少女は間桐(マキリ)の魔術属性たる『水』を付加される。
空を飛ぶ鳥に、無理やり水の中を泳げるようにする無茶ぶりであり、当人の意思を完全に無視した外道の所業である。
さすれば、彼女の心が壊れることなど確実だろう。―――事実、壊れた。
間桐桜の心は壊れ、その身体は臓硯の望み通り変質した。
絶望し、諦観し、桜の花は朽ちた人形と成り果てた。
「何もかも、諦めてたんですよ。――先輩に出会うまで」
元々は親の命令だった。かつての聖杯戦争にて勝ち残った衛宮の、その息子。――
衛宮士郎という少年。
密偵を命じられて、触れ合いながら。彼と彼と一緒に暮らしている大河という人相手には、笑えるようになった。
ひび割れて壊れた心が、戻ったような気分だった。
「……やさしいひと?」
「……はい。少なくとも私は、やさしい人だと思ってます」
冬木市にて開かれた第五次聖杯戦争。唯一の生き残りのみが聖杯を手にする蠱毒の夜。
少女は己が好意を抱く少年がそれに巻き込まれたことを知って、陰ながら助けようとした。
戦いの最中、少女は少年と結ばれた。
「……こんな、こんな悪い私を、助けてくれた、怒ってくれた、救ってくれた」
結ばれて――別の悲劇を以って反転した。
「この世全ての悪(アンリ・マユ)」。願望機たる聖杯の内に潜める大いなる呪い。
その断片を埋め込まれていた間桐桜は、義兄である間桐慎二の殺害を引き金に反転し、黒へと染まった。
いや、既に"影"は蠢き、暴走し、殺戮の限りを尽くしていた。
殺して、殺して殺して殺して殺して殺し尽くして――。
人間を飴玉を噛み砕くごとく飲み込んで、染めて、殺して。糧として。
間桐慎二を殺した瞬間、無意識下で行っていた虐殺を自覚したその時に。
「たくさん殺したんです、数え切れないほど殺したんです。やりたいことを、やりたいだけ」
やりたいことを、ただどす黒い感情の赴くままに。
自分から湧き出して止まらない感情の慟哭のままに。
「やりたいことやって――。私の大切なものを私の手で壊しちゃった事、気付いたの」
気づいた時には、取り零した後だった。
自分が理想とした姉、自分が欲しいもの全て持っていた姉が。
自分と同じ、かつて孤独で、何かに縛られていた人間だと。
本当に欲しいものが目の前にあったことに、最後の最後に気づいた。
罪深い、情けない、そんな誰かこそ。
それが間桐桜という弱虫で、臆病で、酷い人間だった。
「約束通り、私のことを叱ってくれたんです」
かつての約束。
自分が悪い人になったら許してくれないのかどうか。
彼は、衛宮士郎は、「悪いことをしたら叱る」と言ってくれた。
罪の所在も、罰の重さも関係なく。
衛宮士郎という『正義の味方でなくなった』人間は、間桐桜という人間を、全てのコトから守ると。
守り通すことを、誓ってくれた。
そして、『この世全ての悪』に繋がれた、罪と罰に塗れた自分自身を、救ってくれた。
「……あっ、ごめんなさい。肉じゃが冷めちゃったかな?」
「…………ううん。わたしは気にしないよ、マスター」
すっかり開けっ放しにした肉じゃがに今さら気づき、あわてて器に盛る。
長い自分語りですっかりご飯のことを忘れそうになっていたことを軽く謝罪するマスターの姿に、バーサーカーは思わず顔が緩んでいた。
「……でも、うらやましいかな」
その憂いを秘めた表情。
バーサーカーもまた、"わるいこ"、なのだから。
第二世代エンジェロイド・タイプε(イプシロン)、通称カオス。
生みの親に虐げられ、優しさを知って、見捨てられたと思い込み。
手に入れたかった愛を手に入れて、自らの罪過を自覚してしまった。
「わたしは、そんなしあわせな終わりかた、できなかった」
暴走して、自棄になったカオスは、最後に姉(アストレア)と相打つ形で自爆した。
「いっしょにこわれる」という結末しか、辿れなかった。
それでも優しさはあった、自分が求めたかったものの欠片を掴めた気はした。
バーサーカー・カオスはそれ以降から"止まったまま"である。
愛を求めて狂気に堕ちた、悲しき機械天使。
手に入れたかった大切なものが、目の前にあったのにそれを自ら壊してしまった。
かつての間桐桜も、カオスも、同じ悪い子であることには変わらない。
冥界がそう導いたのか、それとも運命だったのか。
それは、恐らく誰にもわからないことだ。
「…………マスターはさ」
「わかってます、バーサーカー」
間桐桜にとって、今再びの聖杯戦争。
救われた間桐桜にとって、聖杯なんていらないものだろう。
だが、これが自分に用意された罪への罰だと言うのなら。
「私は、まだ終わりたくない」
そうだとしても、終わりたくない。
自分の贖罪はこんな簡単なことで終わらせたりなんてさせたくない。
生きるという罰を、中途半端なことで終わらせたりなんかしない。
「それに――」
ライダーや姉さん、大河さんのこともある。
だが何よりも、自分を救ってくれたヒトは、『間桐桜の味方』になった彼は、まだ戻ってきていない。
彼が帰るあの家で、彼をちゃんと待っていないと。
そう誓った約束を、自分から破りたくはない。
「――待たせてる人がいるから」
「……そっか」
その言葉だけで、バーサーカーが決意を秘めるに十分な事だ。
自分はおうちに帰れなかった。
そんな思いを、マスターにも味わってほしくはない。
それは寂しいことだから。
それは悲しいことだから。
「――てつだうよ。マスターがおうちにかえれるように」
自分はおうちには帰りなかったけれど。
彼女が帰りたい場所に戻れるように。
自分がたどり着けなかった
未来へと辿り着くことが出来たマスターに。
いつか、彼女の春が来ることを、願って
【クラス】
バーサーカー
【真名】
カオス@そらのおとしもの
【属性】
混沌・中庸
【ステータス】
筋力B 耐久C 敏捷B 魔力A 幸運D 宝具B+++
【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
狂化:D+
筋力と敏捷のパラメータをランクアップさせるが、その代わり特定の要素に対して歯止めが効かなくなる。
バーサーカーの場合は「愛」。痛みを愛と思い込んでしまったバーサーカーは、その為に誰かを傷つけることを厭わない。
ただし後述の「エンジェロイド」のスキルの影響もありマスターに対しては比較的まともに接する。
単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。
【保有スキル】
エンジェロイド:A
天上世界「シナプス」の科学者が作り上げたアンドロイドにして空の製品。Angelとoidを組み合わせた語源らしく天使のような姿が特徴。
人間における心臓に当たる動力炉に自己修復プログラムを含めた各種武装、人間とほとんど変わらない生体部品などから構成された生態メカとも言える代物。
マスターとインプリンティング(契約)すると、首元に付けている首輪がマスターとなる人物にに伸びて繋がる事になる。この鎖は物理的なものではなく、あくまで契約関係の証左みたいなもので行動を阻害するような効果はない。
基本的に契約したエンジェロイドはマスターの命令に従順であり、命令の内容によって出力が増強することも。このため令呪を重ねての命令によるブーストの恩恵が他の英霊よりも大きい。
バーサーカーはシナプスの王であるミーノースによって製作された第二世代のエンジェロイドであり、通常のエンジェロイドとは一線を画す性能を誇る。
その他、バーサーカーに限りエンジェロイドにとってタブーとされる夢への干渉が可能。
加虐体質(愛):C+++
戦闘において、自己の攻撃性にプラス補正がかかるスキル。
これを持つ者は戦闘が長引けば長引くほど加虐性を増し、普段の冷静さを失ってしまう。
彼女の場合は愛を知る為、愛を与えるためのもの。その為「愛」に関わる事柄になってしまうと更に歯止めが効かなくなってしまう。
これはバーサーカーとして召喚されたことで愛に狂う少女としての側面が大きくなった為。
変化:B
データさえ揃っていれば汎ゆる人間に変身することが出来る。
バーサーカーはそれを用いての精神攻撃も得意の内。
【宝具】
『自己進化プログラム・Pandora(パンドラ)』
ランク:B+++ 種別:対人・対軍宝具 レンジ:1~100 最大補足:500
エンジェロイドに搭載されている自己進化プログラム。文字通りの禁忌の箱。他のエンジェロイドにも搭載されている代物だが、バーサーカーのそれは別物。
他の物質を取り込むことで外見を変化、戦闘能力を上昇させることが可能。マスターの魔力及びバーサーカーの霊器が保つ限り青天井に性能が伸びていく。
あくまで保つ限りであり、歯止めが効かなくなった場合の進化と言う名の出力上昇はマスター及びバーサーカーの身体を壊しかねない。
生前ですら取り込んだエンジェロイドの武装の再現が可能だったが、英霊となったことで取り込んだのが英霊や異能者の血肉等ならそれらの異能やスキル、自己進化次第では英霊の宝具すらある程度再現することが出来る。
【Weapon】
カオス本来の武装の他、生前に取り込んだエンジェロイドの兵装を一通り扱う
【人物背景】
シナプスの王ミーノースが開発した第二世代エンジェロイド・タイプε(イプシロン)。
「愛」を求め、他のエンジェロイド同様に「愛」に狂った世界を知らなかった少女。
ただ、いい子になりたかっただけ。
此度においてバーサーカーのクラスで召喚された彼女は、「愛を求める狂ったエンジェロイド」としての側面が色濃く出ている。
その為か桜井智樹が石板を使って行われた世界再生以降の記憶、彼らに謝って本当の意味で受け入れられた記憶は欠けている。あるのはアストレアと相打ちになって自爆した記憶まで。
【サーヴァントとしての願い】
マスターをおうちに帰す
【マスターへの態度】
わたしとおなじ"わるいこ"だったひと
でもわたしとはちがってしあわせなけつまつにおわったおんなのひと
だから、なおさらほうっておけない
【マスター】
間桐桜@Fate/stay night[Heavens Feel]
【マスターとしての願い】
元の世界へ帰る
【能力・技能】
「架空元素・虚数」と言う稀有な魔術属性を保有しているが、間桐家の方針で別の魔術を無理やり慣らされたこともあり、生来の能力を完全に発揮できない。
彼女自身も魔術に長けているわけではなく、強いて言うなら負の面を刃にする以外の攻撃手段はない。あとは一応弓道の心得はある。
ただしここは冥界の聖杯戦争、「架空元素・虚数」を彼女なりに扱えるかどうかは、この先次第であろう
【人物背景】
血だらけの手を取ってくれる運命がいてくれた女。
幾多の間違いの先に、春にたどり着いた少女。
士郎が帰って来る前からの参戦
【方針】
できる限り犠牲は出したくない。
もし、先輩や姉さんだったらどうしてたんだろうなぁ
【サーヴァントへの態度】
サーヴァントとは思えない程に幼く、そして優しい子。
最終更新:2024年05月28日 18:42