*死んだヤツは 生き返らない。
 *失った命は 取り戻せない。
 *結果を変えられるのは 生きてるヤツのみのケンリだ。

 *当たり前のコトだろ?
 *産声をあげて生まれたなら 誰もがいつかはくたばるのさ。
 *やり直したってどうにもならないんだ。
 *むしろ逆だな。やり直せばやり直すほど 取り返しがつかないくらい歪んでいくモノだってあるんだぜ。

 *まあ。
 *それでも願うってキモチは 分からなくもないけどな。

 *え?
 *オマエはダレだ って?

 *へへへへ。
 *そうだな。
 *テスカトリポカ
 *……なんてのは言い過ぎか。ま オレはあそこまでロクでなしでもない。
 *シューティングゲームだってアレよりかはうまいぜ。
 *けどまあ 似たようなモンだ。案外同じ穴のムジナってヤツかもな。

 *サンズ。
 *オイラは サンズだ。
 *みてのとおり サーヴァントさ。

 *おっと。
 *過大評価は やめてくれ。
 *アンタの知ってるヤツらに比べたら オイラはホントにチンケなモンスターさ。
 *見りゃわかるだろ? ケツの毛まで抜かれて 今じゃこうしてスケルトンだ。
 *へへへへ。ホンキにすんなよ。ジョークさ ジョーク。
 *いちいち常識で考えてたら この先 正気がいくつあってもたりないぜ。

 *ん?
 *ああ オイラが話しかけてきたのが不思議かい?
 *ベツに そう大した理由でもないさ。
 *アンタがオイラのマスター…… あのチョウチョを見ようとしてたから こっちから話しかけてみたんだ。
 *何かする気もない。 オイラの骨ばった手じゃ アンタ達のところまでは届かないぜ。
 *だから安心して オイラとのトークを 楽しみな。
 *へへへへ……。

 *オイラのマスターが 気になるかい?
 *そうだな。
 *そうさな。
 *うーん。
 *アイツは アタマのいいヤツだよ。
 *オイラみたいな ちゃらんぽらんより ずっとモノをよく考えてる。
 *考えすぎるくらいだ。そこに関しちゃ 懲りないヤツかもな。
 *それとも 実際に見てみるかい?
 *イイぜ。今はまだ セカイも広いしな。
 *アンタとオイラの仲だ。トクベツに アイツの庭を見せてやるよ。

 *こんな地獄におちてきた キレイなチョウチョ。
 *アイツは 庭に住んでる。
 *オイラみたいな遺骨野郎を引いたツケを 毎日健気に支払い続けてるんだ。
 *悪いとは 思ってないけどな。
 *気持ちよく寝てるところを叩き起こされたんだから おあいこさまだ。

 *……。
 *…………。
 *………………。

 *おどろいた。
 *アンタ。意外と鋭いな。
 *そうだよ。オイラはアイツを けっこう気に入ってるんだ。
 *だから こうしてアンタの前にも出てきた。
 *さすがに 始まる前から潰されたんじゃ 不憫だからな。
 *そのくらいの思い入れはある。
 *まあ 今のオイラにアンタを止める力まではないけどな。これは本当だ。

 *オイラはサンズ。モンスターだ。
 *アイツはマスター。ヨウセイだ。

 *命じゃなくて 住むセカイ自体を殺された。
 *冥界に落ちるにふさわしい しみったれた死人のタッグさ。

◆◆



 東京都の一角に、その洋館は華々しく佇んでいた。
 西洋風の建築様式に倣った、華美と瀟洒を程よく両立させた門構え。
 薔薇やガーベラなど色とりどりの花々が咲き誇り、蝶が楽しそうに舞い飛ぶ巨大な庭園。
 成金ではなく、真に尊い者(ブルーブラッド)が住まうに相応しい邸宅である。
 登記上は外資系企業を経営する社長が暮らしている、そういうことになっているこの館。
 しかしその実態は、人ならざるモノがねぐらとして棲まう、聖杯戦争の拠点の一個だった。

 一羽の蝶が館の中から庭に出て、降り注ぐ陽光に一瞬目を細める。
 どこもかしこも死人しかいないこの世界にはふさわしくない輝き。
 それに皮肉めいたものさえ感じながら、蝶は小さく呼気をこぼした。

 その蝶は、二本の足で歩いていた。
 傍目には人間の少女にしか見えないだろう。
 少女の背中に、外付けの羽を接合したような。
 そんな風に見える、美しく可憐な妖精だった。

 彼女の名は、ムリアンという。
 滅びゆく國から、この冥界へと落ちてきた死者のひとり。
 そしてこの洋館に居を構え、敷地の全域を自らの『妖精領域』として支配している君主である。

「ようマスター。首尾はどうだい?」
「それを訊くのは私の方だと思うんですけどね。働かずに貪る惰眠は気持ちいいですか、キャスター」
「ああ。最高だね。アンタが子守唄でも歌ってくれたらもっと最高かもしれない」
「縮めますよ?」

 花咲くように微笑んで言うその目はもちろん笑っていない。
 ムリアンは冥界に落ちるなり、此処で自分がやるべきことを直ちに理解して行動した。

 妖精國とは道理の何もかもが異なるこの世界で、彼女は持ち前の賢明さを遺憾なく発揮した。
 妖精領域の零落具合には面食らったが、衰えているなら範囲を絞ればいいとの結論に到達したら後は早かった。
 自分が住まうに相応しい館を見繕って乗っ取り、自分の拠点として運用する。
 そして妖精領域を展開し、この中でならばサーヴァントさえ満足には動かさせない、万全と言っていい備えを整えた。
 そんな完璧な彼女にとって唯一の悩みの種が、自分の喚んだ、いや"喚んでしまった"サーヴァント。
 スケルトンのキャスター。妖精ならぬ、モンスター。サンズという名を名乗った、怠惰で貧弱なサーヴァントだった。

「そう言うけどな。オイラがやる気出して外に出ていった方が、アンタとしちゃ胃が痛いんじゃないかい?」
「そんなこと自慢気に言わないでください」

 ムリアンは、自分の眼に映る従者のステータスを見て思わずこめかみを押さえる。
 そう。彼女のキャスターは、弱い。
 とてつもなく弱い。
 破格の弱さと言って差し支えなかった。
 すべてのステータスがEランクで、数値上でも実際に感じる気配でも彼からは一切強さらしいものが感じられない。
 冗談でもなんでもなく、一撃でも打ち込まれたら即座に金色の粒子に変わって消えてしまうだろうと分かる徹底した弱さが彼にはあった。

 じゃあその弱さに見合う芸があるのだろうと、当初ムリアンは当然期待した。
 だがその期待も、結論から言うとあっけなく裏切られることになってしまった。

 このサーヴァントは、本当に何もできない影法師なのだ。
 ただそこにいるだけ。冥界に転がり落ちてきただけの存在。
 したがってムリアンとサンズは、完全に本来あるべき立場が逆転していた。
 サーヴァントがマスターを守るのではなく、マスターがサーヴァントを守る。
 ムリアンは聖杯戦争を勝ち抜く上で、サーヴァントの助力なしにすべての敵を倒すという無理難題と向き合うことを迫られることになった。

「まあいいだろ。戦えないってのは戦わなくていいってことだ。戦わなくていいってのは、時間があるってことだ」
「……というと?」
「おや。アンタには一番必要なものだと思ったけど、違ったかい?」
「……、……私、やっぱりアナタのことがとっても嫌いです。
 ええとっても。同じビジネスパートナーでも、コヤンスカヤとは大違い」

 強いて幸いだったことをあげるなら、それはムリアンが自身の目指す結末を決めかねていたこと。
 自分がこの冥界を踏破した末に何を求めるのか、どこへ行くのか――その答えをまだ出せていないことだった。

 ムリアンには、戻るべき世界が存在しない。
 彼女は確かに死者である。
 命を落として冥界へ落ちてきた、まさにこの聖杯戦争に相応しい葬者のひとりだ。
 だが、死んだのは彼女だけではない。
 遅いか早いか、最高か最悪かの違いはあれど、彼女は自分の生きた世界が既に死んでいるだろうことを理解していた。

 妖精國ブリテン。
 妖精達が織りなし生きる、神秘の大地。
 色とりどりの命と幻想が群れなす、美しい世界。
 決して救われることのない性を抱えた、愚かな生き物達の虫籠。
 自業自得と因果応報の末にか。
 もしくは、命を全うして枯れる大樹のようにか。
 定かでないが、もうとうに眠りについただろう世界。
 ムリアンは死者である。死者の國、もうどこにもない國からやって来た妖精である。

 ――自分の前にも後にも、こぼれ落ちるように死に果てていった。
 ――愚かな彼らと同じ穴から生まれた、ちいさなちいさな生き物である。


「そんなに迷うなら、いっそやってみればいいんじゃないか」
「何を」
「セカイの再生。アンタが王になり、二度と繰り返さないように統治するんだ。
 そうすれば見えてくるものも、つかめる幸せもあるかもしれないぜ」
「……意地の悪い人ですね。皮肉を言うならもう少し隠しなさい」
「へへへ、悪いね。隠そうにも隠す皮と肉がないんだ。スケルトンだからな」


 当初、ムリアンはそのつもりだった。
 暴政の女王は、玉座を追われて惨殺される。
 であればその暁には自分が女王の座を奪い、盟友と共に世界の敵たる一行を撃滅すればいいと考えていた。

 今思えば、それはあまりに無垢な展望だった。
 世界の真実を何も知らない者の、幼心の大言壮語。
 ムリアンは、すべてを知った。だから殺された。
 そして今、彼女の手は伸ばせば"命"を掴める状況にある。
 自分の命のみならず。きっと、消えてしまった世界さえも蘇らせられるだろう奇跡がすぐそばにある。
 だというのにそこへ飛びつけないくらいには、ムリアンが死に至るまでに知り、味わったものは重かった。
 今でさえ飲み込みきれず喉の奥につかえているくらいには重く、どろどろとした真実だった。

「……ねえ、キャスター」

 ムリアンは、世界の終わりに立ち会ったわけではない。
 彼女はその前に、とある男の手によって命を落としたからだ。

 それでも、その終わりが幸福なものであったことを彼女は信じている。
 何かと話も気も合う、契約にだけは誠実な盟友への信用がその根拠だ。
 彼女は仕事を果たし、そして世界の敵(カルデア)は無事にブリテンを葬った。
 そういうものだと信じている。それを踏まえて、考えに耽っていた。

「幸せだったでしょうか。私の生きたブリテンは」
「千里眼の持ち合わせはなくてね。オイラには知る由もないな」
「じゃあ質問を変えます」

 庭に用意した椅子に腰を下ろして。
 飛び交う蝶々の群れを見ながら、寝転んだスケルトンに問う。
 その問いは少しばかりの意地悪を込めた、それでいていつか問うと決めていた言葉。

「アナタの世界は、どうでしたか? サンズ」
「……まいったな。初めてやり返された気分だ」
「嘘をついてもいいですが、ますます私との主従関係が悪化します。
 具体的に言うとアナタが庭に持ち込んだハンモックなんかが今日付けで撤去されるでしょう」
「ま……待てよ。探してくるのタイヘンだったんだぞ、新品同然のヤツは……」

 妖精の眼は特別だ。
 妖精眼(グラムサイト)。
 あらゆる嘘を見抜き、真実を映す眼。
 ムリアンのそれは既に衰えて久しいが、それでも色の違いくらいは分かる。
 自分と似た境遇の存在が相手ならば尚更だ。
 ムリアンは既に、このおどけたスケルトンの色に気付いていた。
 白。見果てぬ白。空虚の白。
 死んだ世界の、白――。

「……わかったよ。言うよ」

 サンズはやれやれと腰を上げた。
 そして目を閉じ、開く。


「オイラのはサイアクだった」


 そこに宿る感情には、彼の地金であろうものが透けていた。
 冷めた白骨のようであり、対して地獄の業火のようでもある。
 そんな熱が伝わってきて、ムリアンは静かに背筋を粟立てた。

「アリの巣に熱湯を流し込むとか……そういうのじゃない。
 そうだな。アリの巣に入り込んで、一匹一匹殺すんだ」
「……それが、アナタの世界の最期だったと?」
「それが最後のひとりまで続いたよ。そして最後は、セカイまで壊されちまった」

 虐殺(ジェノサイド)だ。
 サンズはそう言い、笑みを浮かべた。
 今度のは、ムリアンには自虐的なそれに見えた。

「アンタは託した側だろ。ムリアン」
「……アナタは?」
「オイラは託された側だ。オイラがやらなくちゃいけなかったんだ」

 でも失敗した。
 失敗しちまったんだ。オイラはな。
 サンズはそう言って、さっきムリアンがしたみたいに空を見上げた。

「そして物語は畳まれちまった。本のページを閉じるみたいにあっけなく、全部が台無しになった」
「なら。アナタの方こそ、やらなきゃいけないことがあるのでは?」
「そうかもな。もしかしたら死んでいったアイツらだって、オイラにそうしてほしがるかもしれない」

 死者の祈り、想いの残滓を集めて滴った聖杯の雫。
 今や願望器として大成したそれは、きっと勝者の願いを完璧に叶えるだろう。

 此処は冥界。死者の国、死者の界。
 そこにはある意味で、嘘がない。
 生者の織りなす物語よりも純粋で、純朴で、残酷なほどに誠実だ。
 そんな世界に生じた願望器であれば、可能かもしれない。
 もう失われてしまった物語を綴り直すなんて偉業にも、手が届くのかもしれない。
 それがムリアンの考えだ。そしてサンズも、認識は同じだった。
 その上で、妖精に問われた白骨は――首を横に振った。

「でも、いいんだ。オイラはもういい」
「……理由を聞いても?」
「死んだヤツがよみがえるなんてことが、どだいまずおかしいんだ。
 セカイの行く末なんてものを……外から賢しらに弄り回せるなんてことがあっちゃいけない。
 そういうのはよ、クソ野郎の特権なんだぜ」

 世界とは、命を持ち、自分の身体で歩む者だけが変えることを許される領域だ。
 死者が平気な顔で結末を覆し、あまつさえ自分の望む通りに"やり直す"など道理に反している。
 それは、あるべきでない物語だと。
 サンズは普段のおちゃらけた落伍者然とした姿とはかけ離れた、確かな含蓄を持って語っていた。

「ある日突然、なんの前触れもなくすべてがリセットされるとか。
 負けちまったから、ウィンドウを閉じてもう一回やり直すとか……。
 そういうのは、オイラはもういい。オイラはもう、たくさんだ」
「……キャスター」
「とはいえ、まあオイラも人様に説教できるほど立派なホネ生を送ってきたわけでもない。
 アンタが何を選ぶかはアンタの自由だ。アンタのケツイがどこに向くにせよ、それなりに応援してやるよ」

 サンズの眼が、ムリアンの眼を見据える。
 衰えたとはいえ、今も人の本質を透かし見る程度は可能な妖精眼。
 ムリアンは、サンズが自分と同じ死界の死者であると見抜いていた。
 けれどそれは、サンズの方も同じだったのだ。
 彼もまた、その眼で――かつては世界の外側の理すら感知した眼で、色を見ていた。
 何の因果か自分みたいなろくでなしのマスターになってしまったいじらしい妖精の、色を。
 そこにあるEXPを。LOVEを。そして、Karmaを。

「見たとこ、アンタはまだ大丈夫だ。穢れちゃいるが、腐っちゃいない」
「節穴ですね。私のしてきたことを、アナタは理解しているのではないですか?」
「言わぬが花さ。ただまあ、そうまで言うなら一応聞いておこうか。怒んなよ」

 Execution Points。誰かに与えた痛みの量。
 LEVEL of VIOLENCE。ぼうりょくレベル。
 Karmic Retribution。犯してきた罪のすべて。

 ムリアンは美しく可憐な妖精だが、しかし既に彼女は三種の罪に穢れてしまっている。
 そのことをサンズは見通していたし、ムリアン自身も隠すつもりはなかった。
 生涯を通して追い求めてきた、悲願の顛末。
 高揚のままに働いた、妖精君主の大虐殺。


「気に入らないヤツらを、有無を言わさずブチ殺した気分はどうだった?」


 ――忘れられない、怒りがあった。
 時の流れなどでは到底薄れることのない、憎悪があった。

 選択肢はきっと、他にもあっただろう。
 煮えたぎる憎悪と折り合いをつけ、中立(Neutral)に生きるか。
 罪を許し、怒りを自ら進んで鎮め、平和主義者(Pacifist)となるか。
 それでも、翅の氏族の生き残りであるグロスターの君主は虐殺(Genoside)を選んだ。

 妖精領域(むしかご)に閉じ込めて。
 殺した。
 一匹一匹、しっかりと潰した。
 殺して、殺して、殺して、殺して。
 彼らがかつてそうしたように、癪に障る弱者を虫のように潰してやった。
 例外はない。ムリアンは、忌まわしい牙の氏族のすべてを虐殺した。
 ひとつの氏族を滅ぼしたのだ。そうすればきっと、さぞや楽しいだろうなと思ったから。

 長い時をかけた復讐は、遂げられた。
 大虐殺の夜は明け、残っている獣(モンスター)は一匹もいない。
 痛みと暴力を肯定して、妖精の翅は罪に染まった。
 念願叶ってムリアンが得たもの。
 得た、感慨。それは――


「そうですね。最悪の気分でした」


 決して。
 清々しい爽快感などでは、なかった。

「だから私は、もういいです。あれは、もういい」

 そこに残ったのは、底なしの嫌悪感だけだった。
 夢にまで見た光景は、実際目の前にしてみるとどこまでも気味の悪いものでしかなかった。
 生涯をかけて追い求めてきた景色が"それ"であることが理解できなかった。
 認められなかった。認めれば自分が自分でなくなってしまうからと、その事実から目を背けた。

 ……そうして辿った結末は、想像の通りだ。
 賢者の愚行。まさにその通りだと思う。

 二の舞にならないようにと知恵を尽くし生きてきたのに、それをひとつの愚行で台無しにしてしまった。
 それが彼女の人生。Genoside Rootの顛末。
 だからムリアンは、もういいと肩を竦めるのだ。
 世界を救うか、救わないか。
 失われた記録(セーブデータ)を修復(ロード)するか否か、その葛藤とは別のものとして。
 虐殺(あれ)は、もういい。友人のそんな答えを聞いて、スケルトンは満足げに目を伏せた。

「せいぜい悩みな、チョウチョの女王サマ。最終的に意味があろうがなかろうが、……悩むってのはいいモンさ」

 そう言ってひとりさっさといびきをかき始めてしまった相棒に、ムリアンは何度目かもわからない嘆息をこぼす。
 地金をさらけ出して対話をすれば少しはやる気を出してくれるかもと期待したが、この様子ではそれも望み薄らしい。

「……もう悩んでますよ、十分すぎるくらい。誰かさんのせいでね」

 おそらくは汎人類史と呼ばれる世界に近いのだろう冥界の街並みを、領域の内側から遠く見つめて。
 期せずして箱庭の外へこぼれてしまった妖精は、小さく言った。
 答えは依然籠の中。彼女のルートは、今も定まらぬまま。

 穏やかな館の庭園で、墜ちた君主はしばし美しい世界の似姿を眺めていた。



◆◆




 *まあ これだけ見たら十分だろ。
 *不運で苦労人なお姫さま。それがオイラのマスターさ。
 *安心しろよ。アイツがまだ"G"だったなら オイラが会った瞬間殺してる。
 *そうしてないってことは まあ。
 *愚かをやったものだからこそ 見えるモンもあるってことなんだろうさ。

 *――え?
 *オマエは本当にいいのか、って?

 *おいおい。
 *聞いてなかったのか?

 *いいんだよ。
 *オイラのセカイは確かに 褒められた最期じゃなかったさ。
 *虫みたいに踏み潰されて 跡形もなく消されちまった。
 *だけど リセットするのは もうコリゴリなんだ。
 *だから オイラはいい。
 *これはオイラじゃなくて 姫さんの戦いなのさ。

 *つーわけで 運よくまた会えたらよろしくな。
 *その時は ケチャップでもおごってやる。

 *アンタとまた会う時が こんないい日なことを祈るよ。
 *じゃあな。


 *(サンズは やみのむこうに さっていった……。)



【CLASS】
 キャスター
【真名】
 Sans(サンズ)@UNDERTALE
【ステータス】
筋力E 耐久E 敏捷E 魔力E 幸運E 宝具E

【属性】
中立・中庸

【クラススキル】
陣地作成:-
道具作成:-
 キャスターはこれらのスキルを保有しない。
 彼はあくまで魔術師ではなく、一匹のモンスターである。

【保有スキル】
最後の審判:EX
 裁くべきものを裁くため、最後の回廊にて立つ存在。
 攻撃が命中しない。キャスターは、すべての攻撃行為を確実に回避する。
 この"攻撃行為"には因果レベルでの追尾や結果の先取りなどいわゆる"必中"効果も含まれ、条件を満たすこと以外でキャスターに攻撃を命中させることは不可能と言っていい。
 このスキルを打ち破るにはキャスターと一定時間以上の戦闘を行い、後述する宝具を攻略することが必須。
 世界の理にさえ作用して自身の身を守る強力なスキルだが、その分キャスターの耐久性能は間違いなくすべてのサーヴァントの中で最弱である。
 審判を乗り越えた者が一撃でも彼に攻撃を当てられたなら、瞬時にキャスターの霊核は崩壊。死に至る。

無力の殻:A
 『もっとも ラクなてき。1ダメージしか あたえられない。』
 サーヴァントとしての気配ではなく、脅威として感知されにくい。
 キャスターは生前、最悪の虐殺者にさえ対面するまでその強さを悟らせなかった。

世界感知:E
 メタ世界、第四の壁を超えた先の世界を感知することができる。
 ゲームにおけるセーブ、ロード、リセットなどの行為を知覚する。
 だが当企画では既に彼の存在は『UNDERTALE』の外に出ているため、ほぼ機能していないも同然の死にスキルと化している。

【宝具】
『こんな日には、おまえみたいなヤツは 地獄で焼かれてしまえばいい(Should be burning in hell.)』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:1~10 最大捕捉:1
本当に殺すべきものを前にキャスターが下す、無力の殻を脱ぎ捨てた処刑宣言。
この宝具が解放された時、彼の処刑対象に指定された人物は三つの観点からキャスターによって評価される。
一つは『EXP』。Execution Points。命ある他人に与えた痛みの量を示す。
一つは『LOVE』。LEVEL of VIOLENCE。他人を傷つける能力の高低を示す。
そして最後は『KARMA』。Karmic Retribution。因果応報。犯した罪の数々。
これら三種を総合し、敵が多くの殺戮を犯してきた討つべき巨悪と判断された場合、キャスターの放つ全ての攻撃には対粛清防御――世界の理さえも貫通してそれを処刑する呪いが付与される。
キャスターは嘘偽りなく最弱のサーヴァントであり、彼が与えるダメージは一切の例外なく理論上の最低値、数値に表すならば"1"となる。
だがこの状態に入った彼はそれを刹那の単位で無数に打ち込み、無慈悲かつ嘲笑的に巨悪の存在規模(ライフスケール)を削り取ってくる。
聖杯戦争の中で彼がこの宝具を使用できるのは一度きり。その戦いで勝とうが負けようが、二度と審判の法廷が開くことはない。
――決して認めてはならない、悪。滅ぼすべき、暴力。それを消し去るためだけに開帳される、サンズの一世一代の晴れ舞台。

【weapon】
 なし

【人物背景】

 *俺は サンズ。
 *スケルトンの サンズさ。
 *今は毎日ダラけて暮らしてる ダメサーヴァントさ。
 *ホントだぜ。

【サーヴァントとしての願い】
 なし。英霊の座に戻って寝たい。
 "あの世界"を蘇らせる気はない。

 *死んだヤツは 生き返らない。
 *フツウのことだろ? 生き返れるヤツが おかしいんだぜ。

【マスターへの態度】
 気に入っている。
 なので気さく。Sansは彼女の罪も後悔もすべて知っている。


【マスター】
 ムリアン@Fate/Grand Order

【マスターとしての願い】
 ……さあ?

【能力・技能】
 妖精としての高い能力。並の魔術師では太刀打ちできない。
 特定の空間に独自のルールを敷く『妖精領域』を持つが、妖精國を出てしまったことで著しく弱体化している。
 かつては都市ひとつを支配できた彼女の領域も、今では拠点の洋館の敷地内に展開するのがせいぜい。
 とはいえ逆に言えば敷地内であれば、擬似的にグロスターの君主だった頃と同じだけの力を発揮することが可能。
 ムリアンの居城を攻め落とすことは、正攻法ではサーヴァントだろうと容易ではない。

【人物背景】

 妖精國はグロスターの君主だった妖精。
 今、もはや彼女の故郷はない。

【方針】
 同じ過ちを繰り返すつもりはない。
 かと言って無駄に命を擲つ気にもなれない。
 当面は賢明に、それでもってなるべく聡明に。

【サーヴァントへの態度】
 呆れが強め。彼の本当の力は知らないので、聖杯戦争は自分がやらなければいけないだろうと半ば諦めている。


【運用法・戦術】
 サンズは基本的に役に立たない。なので妖精領域を展開した洋館へ籠城しつつ、他の主従とコンタクトを取って戦況を管理するのが肝要となる。
 ムリアンの力は全盛期に比べてかなり衰えているが、それでも洋館の内側であればサーヴァント数騎がかりでも攻略困難な"妖精君主"としての厄介さを発揮することが可能。
 逆に攻略しようと思えば、まずなんとかして彼女の陣地を破壊することが重要になってくる。
 領域から引っ剥がしてしまえば、ムリアンはただのサーヴァントに恵まれなかった妖精に過ぎない。

 あとはサイアクなめに遭わされないことを祈ろう。

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最終更新:2024年04月10日 21:31