民話「悪魔の剣」2




~小さな愚者~








これは、とある大陸北部の地方に伝わる話だそうです。
その大陸は北の方に位置しており、年中寒く、ずっと雪に覆われた地域もありました。

あの事件後青年の末路を嘲笑いながら街を後にした悪魔は、
大陸最北端の村に武器商人を偽って潜りこみ、次の獲物を探しておりました。

外は寒く、凍えてしまいそうなほどでしたが、
人間達より遥かに強力な力を持つ悪魔にはほんの些細なことです。



「杖~!杖はいらんかね~!魔法の杖だよ~!!」


商人に扮した悪魔は、村の人々に声をかけて回ります。
しかし、村人達は商人を気味悪がってみんな避けていってしまいました。

なんとか策はないものか。

知恵を働かせる悪魔に、誰かが声をかけました。

「あのぉ、おじさんその杖をちょうだい?」


その声の主はまだ歳の若い少年でした。
悪魔はそんな少年に目線を合わせ、こう尋ねます。


「ぼうや、お金は持っているかい?」
「うん!でもちょっぴりだけど・・・・」

悪魔に小さな手に握られた金貨を少年は見せました。

「僕・・・お母さんの病気を治す薬を採りにいくために村の西の山にいかなきゃいけないんだ」
「そうか、ならお金はいらないよ。この杖を持っておいき」


悪魔はそういうと杖を少年に手渡しました。




「この杖の力はすごく強力だよ。どんな魔物も一撃さ」




そうして、悪魔は村を去っていきました。





杖を持った少年は、悪魔が扮した商人にお礼を言うと西の山へ向かいました。
その少年の姿を見たおじいさんが、慌てて少年を引き止めます。

「あの山には入ってはいけないよ」
「どうして?」

おじいさんに少年は首をかしげながら尋ねます。

「この季節は雪崩が起きる可能性があるし、それに今日は山の方角では猛吹雪の予報がでておる。絶対に行ってはいけないよ」
「うんわかったよ」

おじいさんは村一番の狩人とも呼ばれた凄い人でした。
少年が行こうとしている山にも何度も行ったことがあって、山を知り尽くしているといってもいいほどでした。
少年はおじいさんの言葉を信じて、家に帰ろうとしました。


その時です。

「なにその杖すごい!僕に貸してよ!!」
「あっ!それはだめだよ!!」
「しらないよー!取られるほうが悪いんだよ!」

いじわるなもう一人の少年が現れ、少年の手から杖を持っていってしまいました。


「どうしよう・・・・」

杖を取られた少年は、とぼとぼと先ほどの商人の所へ向かおうとしますが、商人の姿はどこにもありませんでした。
しかたなしに、少年はお母さんの待つ家へと帰っていきました。








そして、少年がお母さんの待つ家へ戻った頃のことです。


「あの山には行ってはならんぞ!」
「大丈夫。旅の商人さんがくれたんだ。これがあればどんな魔物にも負けないよ」

先ほどの杖を持っていった少年です。
少年をおじいさんは引き止めますが、聞く耳を持ちません。


「何度言えばわかるのじゃ!今に痛い目にあうぞ」
「そんなことないもん!!僕は強いんだぞ!すごいんだ!!」


その後もおじいさんは聞き分けの悪い少年を引き止め、自分の家に連れて行って見張ることにしてしまいましたが、
少年はおじいさんが居眠りをしている隙を見計らって勝手に山に入っていってしまいました。





その後、おじいさんを初めとする村の人々の捜索もむなしく、少年は二度と村に帰ってこなかったといいます。

それからのことです。


西の山に杖を持った小さな男の子の亡霊がでるという話が広まったのは。






最終更新:2012年05月04日 01:57