民話「悪魔の剣」3




~決闘場の悲劇~







これは、とある大陸にかつて存在した大国で実際にあった悲劇だそうです。



大国の騎士団に、好敵手同士の二人の騎士がいました。
彼らは常に競い合い、戦いあい、そしてお互いを高めて日夜訓練に励んでおりました。

「そろそろあの時期か」
「ああ。楽しみだな」

彼らはライバル同士でしたが、非常に仲が良く、
訓練の後はこうして談笑を楽しみ、お互いに夢を語り合うのでした。



この大国では、年に一度国をあげて勇猛な騎士達の決闘が行われることで有名でした。
勿論この二人も既に何度も決闘に参加し、その度にお互いの技や力をぶつけあったといいます。


しかし、


一人の騎士は言いました。



「なんとかしてあいつを出し抜いてやる方法はないものか」






そんな彼の元に、一人の給士が現れました。
しかし、彼女はほんの少し前に騎士の家に給士として雇われたばかりのまだ歳の若い女性でした。

彼女の過去は謎が多く、不思議な所も多かったのですが、
おおらかな気質の騎士はあまり気にせず、彼女を疑うことはしませんでした。


「ご主人さま。私、いい方法を知っていますよ」
「む?それはなんだ?」

彼女はこういうと、すっと二振りの剣を取り出しました。
騎士はその剣をまじまじと眺め、手に取ります。

「これは腕利きの鍛冶師が作り出したという業物の双剣でございます」
「ほう・・・」

それは騎士の目から見ても給士の言うとおり、腕利きの鍛冶師が打ったとしか思えないほどの見事なできばえのもので、
美しさもさながら、武器としてもとても値打ちの高いものだったそうです。

「この剣を使われれば、きっと決闘に勝つことが出来ますよ」
「ふむ」

給士から剣を受け取り、騎士は決闘当日まで更なる訓練に励みました。
その様子にほくそ笑む給士。


そう、この給士は若い女性に化けた悪魔だったのです。






そして、決闘の日を迎えた騎士は剣を手に決闘場に上がります。
観客席は国民で溢れ、騎士達に歓声を送り続けます。
熱気で溢れた会場の中、騎士は剣を掲げ、観客達の声援に答えました。


「ついにこの日か」
「ああ、待ちわびたな。今年こそは勝たせてもらおう」
「こちらこそ」

対峙する二人の騎士。

お互いに握手を交わすと、武器を構えて審判の合図を待ちます。


「始め!!!!」


審判の合図と共に駆け出す二人の騎士。
二人の戦いは、どちらも一歩も退かない激戦となると思われました。

ですが、


「な、なんだこれは!?」


双剣を持った騎士の体が光に包まれると、
騎士の体はまるで何かに操られるように対峙しているもう一人の騎士へ向かいます。

「あいつ、ここまで腕をあげてきたか」

もう一人の騎士はそうつぶやくと、槍を振りかぶりますが、
鋭い音と共に、槍は弾き飛ばされてしまいました。

「むっ!!?」
「そ、そこまで!」

得物を払われた騎士はその場で負けを認めなくてはならない。
この決闘のルールのひとつでもあります。

審判の声と共に、試合は双剣を持った騎士の勝利で終わると思われていました。

「おい、何をする!!?」

しかし、双剣を手にした騎士の体は止まることを知りません。

「なんだ!?このっ!とまれ!!」

騎士の声もむなしく、体は剣を振るい続けるばかりです。
そして、いつもの騎士とは思えない凄まじい力で武器を失ったもう一人の騎士を切り刻んでいくのです。




「とまれ!!!とまるのだ!!!!!」


どよめく会場。
審判は何度も騎士を止め、ほかの騎士達も彼をとめようとしますが、
騎士の体は止まるはおろか、ほかの騎士や審判達をもその手にかけていきました。



ようやく騎士の体が止まったのは、
もう一人の騎士が生き絶え、無残にも切り刻まれた後でした。
ほかにも決闘場には彼を止めようとした騎士達の無残な姿が晒されています。

あれだけたくさんいた観客達も、みないなくなってしまいました。


「はぁっ、はぁ・・・!こんな、こんなことは・・・・」


地獄のような光景と化した決闘場の上に呆然と立ち尽くす騎士は一度手放した双剣を握りなおします。



「みんな、○○・・・・すまない。私の命なんぞでこの罪が軽くなるとは思えないが」


そして、剣先を首に押し当てると


「すまない・・・・・」


大粒の涙を流しながら首をすっと突き刺し、切り落としたのです。






その後、この決闘場で決闘が行われることはなくなり、この大国は戦争で滅んでしまいましたが、
この痛ましい逸話はこの決闘場跡に残され、今日も悲劇として語り継がれているのです。






最終更新:2012年05月04日 03:07