少し緑が増した低木に、咲き乱れる花々。
 大地に伸びる街道の先には町があるはずだが、それよりはるか遠くの山の方がよく見えた。
 それはどこにでもある、春を謳歌する平原だった。

 かつてここで起った戦闘の跡は影も形もなく、マウロは暖かい日差しの中街道に沿って歩いていた。

 自分がしつらえた墓地を目指して。


 拠点にしようと決めながら、木霊強硬派と関わっている間ずっと放置してしまっていた。
 花は咲いているだろうが、雑草も伸び放題だろう。
 魔法で半ば強引に栽培していた植物なんかは、もしかしたら枯れてしまっているかもしれない。
 それも、テロに加担してしまった罰としては軽い方だろう。

 なにより、マウロにはまたあそこを拠点とする理由ができてしまった。

 ナタ、ペヨトル、神樹。
 そしてあの騒動のために死んでしまった多くの者達。
 彼らの墓を建て、弔おう。

 それで彼らの無念が晴れるとも思えないし、木霊を取り巻く事態が変わることもないだろう。
 ただの自己満足でしかなくとも、それが自分にできることだと思うしかなかった。



「……?」

 街道の先に現れた景色を見て、はたっと足が止まる。
 小さくて粗末だが、整然と並べられた小さな墓が、ようやく見えてきた時だった。
 その周りを、この辺りにしてはあり得ないほどの豊富な草花の彩りが飾っている。

「……!?」

 自然と、歩みが再開する。それはすぐに早足から駆け足になった。
 彼が墓地に近づくにつれ、彩りはさらに鮮やかに彼の目に映った。
 そして再び、墓地の入り口で立ち止まる。

「…………なぜ?」

 息を切らせながら、そう呟かずにはいられなかった。

 心配したほど、どころではない。 
 まるで誰かが丁寧に管理していたかのように、マウロが植えてきた草や花や木は枯れることなく生育していた。
 それでいて、その生育を邪魔する雑草の類はない。
 菜園の方のフェアリードロップなどは食べごろを迎えていた。

 頭の上にいくつもハテナマークを浮かべながら、マウロは墓地の中を歩く。
 その中央まで来た時だ。

「…………まさか」

 中央の墓碑は、小さな植木鉢をひっくり返して置いただけのお粗末なものだ。
 この墓地に立った最初の墓。
 それが、元あった場所から倒れたのかコロンと転がっていた。
 まあ転がったのはわからないでもない。
 その、元あった場所には……、ふっさりと草が生えていた。

 マウロの髪とよく似たような、その草を見て、マウロのこれまでの疑問がようやく解決しそうだった。
 腰をかがめ、おそるおそるとそれに手を伸ばす。

「……ミニ」

「ばぁっ!」

「!?」

 ずぼぁっと勢いよく土をまき散らして、『そいつ』が顔を出した。
 不意を突かれたのとその勢いに負け、マウロが尻もちをつく。
 その様子に満足したのか、『そいつ』は土からさらに伸びあがってドヤ顔をした。

 見間違うはずもない。『そいつ』は、この地で燃えて死んだはずの、マウロの相棒だ。
 しかし、その大きさは……。

「……太った?」

 思わずそのままの感想を口にしたマウロが、蔦にべちっとしばかれる。
 そう思ってしまったのも無理はないのだ。
 新しく生えてきたそいつは、墓碑に使った鉢植えが帽子にできそうなほどに大きくなっていたのだから。

「もー!」

「ごめん……!」

 謝るマウロを、蔦がさらにべちべちと叩く。

「おそーい!」

「だから、ごめん……ミニマ

 気が済んだのか、ミニマは蔦をひっこめてふんっと腕を組むように自分の体に絡めた。
 大きく成長した分、以前よりも言葉や植物を使えるようになったらしい。

「まーろぅっ!」

 まるで自分がこの墓地の主だといわん限りに、尊大な態度でミニマはマウロを呼ぶ。

「め! し!」

 当然、マウロは食料を買い溜めして持ってきていた。
 しかし、新しい墓を建てる方が先だ。

「ダ、メ」

「…………!!」

「はははっ」

 目を丸くし、顎が外れそうなほど愕然とするミニマの顔を見て、マウロは小さく笑った。
最終更新:2014年04月13日 02:24