「うぉぉおおおおおおおおおん!!!」
葉擦れの音をかき消して、雄叫びが轟き響く。
天地を貫く餓狼の咆哮。
涎をまき散らし、腹の底から絞り出したとしか思えぬ叫びに、それ以外の形容詞が存在し得るだろうか。
否。
それはまさしく、人を食い足りぬ狼の叫びであった。
怒りを孕んだ声を耳にすれば、涎をまき散らす獣を想像しない者などいない。
誰もが我先にと逃げ出すだろう。
不幸な少年、七瀬隆也のように、間近で聞いて腰を抜かしてしまわなければ。
隆也の眼が声の主を捉える。
己は無傷ながら、赤い液体を周囲に点々と零し。
牙を紅に染めてなお、憎々しげに空を仰ぎ。
食い足りぬという怒り以上に、何者かへの恨みを瞳に込めて。
喰いしばった歯の隙間から涎をこぼし、耳と髪と尾の毛を逆立てたソレは、少女の姿をしていた。
――さて、少しばかり時を巻き戻そう。
かみこは人狼である。
彼女の一族は人の頭脳と狼の本性を併せ持ち、夜毎に人を喰らって命を繋ぐ。
時には『いっつづっきまあああああす』と牙を剥きだし肉を食み血を啜りながら、
時には『ぷるぷる、わたしは悪い狼じゃありません! ただの素村ですよ!』と無害な存在を装う。
仮面と本性を使い分け、ひたすら生き延びるのが、彼女の属する種族の生き方であり、存在理由であり、定義だ。
だから、舞台となるゲームが絶対的人狼からバトルロワイアルに代わったとしても、彼女のやる事は変わらない。
『要は人を喰べていいってことですよね、はいはいわおんわおん』とチェルシーの説明を聞き流し、
そのくせ見せしめとなったなおきを食べていいか尋ね、怒った魔女に会場へと蹴り出されて、尚。
彼女のやる事は、普段となんら変わらない。
故に、森の中に放り出された彼女が最初にしたことは、現在地を確かめる地図を見る事――ではなく。
邪魔なデイバックを放り出し、獲物を探す事だった。
「さて、誰を最初に噛みましょうかねぇ」
人狼に武器はいらない。爪と牙で引き裂き喰らうからだ。
人狼に食料はいらない。人間の血肉でなければ飢えを癒せないからだ。
人狼に機械はいらない。単純に使い方がわからないからだ。
さよならデイ・バッグ。おまえの事は忘れないよ、三秒ぐらいは。
そう心に刻んで、宣告通り三秒で支給品の存在を脳内から消したかみこは、鼻をピスピスと鳴らし獲物の臭いを探った。
けれども――臭いが哀れな犠牲者を捉える前に、二つの眼が映したのだ。
生い茂る木々の間から煌めく金髪を覗かせた、愛らしい少女の姿を。
「わぉん! 初日犠牲者――君に決めた!」
かみこは尻尾を激しく振りながら、木立を駆け抜けた。
野性を隠さぬ人外の足は、瞬く間に少女との距離を詰める。
ざわめきに気づいた少女が振り向いた時には、もう遅い。
●*〇*〇*
七瀬隆也は不幸である。
十数人の級友をバス事故で失い、望まぬ再会を果たした父と兄弟を同日に失い、その一週間後に拉致された。
そして、笑顔を浮かべる金髪の女性に、共に惨劇の夜を生き延びた友人を目前で殺された後、殺し合いを命じられた。
「どうして俺達なんだ」と食い掛ってみたところで、逃れられるはずもなく。
「せっかくのプロジェクト・Battle-royaleですから、『G』や『F』がいた方が話も盛り上がるでしょう?」
――そんな、用語説明という概念が頭から抜け落ちているとしか思えない答えだけを返されて、彼はこの会場に放り出された。
七瀬隆也は不幸である。
スタート地点は見通しの悪い森の中で、デイバックに入っていた支給品は5枚の花弁を持つ白いバラ。
付属のメモには『全ての花弁が散る時、貴方の命もまた散る』と不気味な文言が記されているだけだった。
(こんなバラで誰をどう倒せっていうんだ?!
おまけに森の中だなんて、いきなり不意打ちされたら……!)
現状の危険性をいち早く理解した彼は、まず、森を抜けることを目標とした。
だが、彼はどこまでも不幸であった。
行く手に二つの人影を見つけ、その片割れが走り去ったと気付いた時にはもう遅い。
木々と言う木々を揺るがすかのような獣の咆哮が上がり――
――そして、冒頭に戻る。
「そういうこと、なんですね?」
隆也の視線の先で、人狼の少女は、ゆらりと振り向き、
「でもねえ、初日犠牲者を食べてないのに」
凍てつくような憎悪と燃えさかる激怒に顔を歪め、
「狩人が、村人を、守るなんてぇぇえええええ」
牙を向きだし、涎と舌を垂らし、
「ルール違反じゃあああぁああああ、ないですか」
研ぎ澄まされた爪をかざし、
「ねぇええええええええええええ!!?」
隆也へと、迫る――!!
「うわああああああああああああああああああ!!!」
〇*●*〇*
金色の髪をなびかせて、少女は走る。
噛まれた腕からとろりと流れる赤い液体は、特徴的な臭いを発していた。
絵画に精通している者ならば、それが油絵具の臭いだと気付いただろう。
彼女の名はメアリー。
天才画家ゲルテナが遺した絵の一つ。
他の参加者同様に殺し合いを命じられた彼女は、しかし、現状を理解する事などない。
命を持たない絵が、どうして『殺す』という概念を、『命を奪う』という行動を理解できるだろうか。
確かに他人に向けてパレットナイフを振りかざしたことはある。――だがそれは、相手の動きを止めて自分の傍に居てもらう為だ。
命の化身である薔薇をちぎったこともある。――だがそれは、ただの花占いだ。
可憐な絵には、命の価値も、命の在り処もわからない。
幾ら殺し合いを強いられた所で、空想から生まれた少女が抱く願望は二つだけ。
一つは既に叶った。メアリーの前には憧れていた『外』の光景が広がっている。
残るは一つ。自分を見てくれた少女に、人として愛してもらう事。
「外の世界には怖い怪物がいるのね、気を付けなくちゃ」
隆也の悲鳴を聞きながら、少女は困ったように独り言をこぼす。
助けに行こうとは思わない。
命の重みをわからない彼女にとって、大事なのは一人だけ。
重要なのは、一刻も早く大切な彼女を探し出すという事。
「イブ、イブ、早く会いたいなあ」
身勝手な愛情と独占欲を胸に、木立の中を少女は駆ける。
その姿は文字通り、絵画のように美しかった。
【一日目/朝/B-3・森】
【かみこ@絶対的人狼】
[状態]かみこは激怒した。かみこは村の(ry
[装備]なし
[所持品]なし
[思考・行動]
基本:人間を喰えるなら人狼でもバトロワでもばっちこい
1:来いよ狩人(=隆也)! 村人(=メアリー)なんか捨ててかかってこい!
2:勝つると思ったら相手を襲って喰います
3:勝ち目がない時は村人COして切り抜けよう(キリッ
※見せしめはなおき@絶対的人狼でした。食べることはできませんでした。
【七瀬隆也@Gu-L】
[状態]健康
[装備]白いバラ(最大5枚/残り5枚)
[所持品]基本支給品一式
[思考・行動]
基本:生き延びる、殺し合いには否定的
1:狩人ってなんだよ!?
2:かみこの襲撃を切り抜けて逃げる
3:森を出て自衛用の武器を探したい
[備考]
※全員生存エンド後からの参戦です
※見せしめは参加者でないGu-Lの仲間キャラの誰かです
【メアリー@Ib】
[状態]健康
[装備]なし
[所持品]基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考・行動]
基本:イブと一緒にいたい。
殺し合いやイブ以外の人間には興味ないが、邪魔なら排除する。
1:森を出てイブを探す。
[備考]
※ED分岐前(イブが絵空事の世界を脱出する前)からの参戦です。
※見せしめは覚えていません。イブ以外の人間はどうでもいいので。
※森の中にかみこのデイバッグ(基本支給品一式、ランダム支給品1~3)が落ちています
支給品説明
【白いバラ(最大5枚)@Ib原典のオリジナル】
隆也に支給。
隆也の身体的損傷を全て引き受けるが、一度の損傷につき一枚、花弁が散って萎れていく。
また、バラ自体の耐久力は本物の薔薇となんら変わらず、物理的に花弁をむしることも可能。
花弁が減ると対象者=隆也の体調が悪化し、0になると死亡する。
花弁が1枚でも残っていれば、特別な花瓶に挿すことで初期状態に戻るが、
会場内にその花瓶があるかどうかは不明。
| START |
かみこ |
[[]] |
| START |
七瀬隆也 |
[[]] |
| START |
メアリー |
[[]] |
最終更新:2013年01月17日 21:05