アットウィキロゴ

【まち】
ジャンル サウンドノベル
対応機種 セガサターン
発売・開発元 チュンソフト
発売日 1998年1月22日
定価 5,800円(税抜)
判定 良作
ポイント 8人の主人公の複雑に交差する運命を解き解す&br;ファミ通のTOP20に入り続けるカルト的な人気
チュンソフトサウンドノベルシリーズ

概要

本作は、チュンソフトが世に送り出した『弟切草』および『かまいたちの夜』の系譜を継ぐ、サウンドノベルカテゴリーの第3弾タイトルである。開発の指揮を執ったのは、シリーズの開拓者である長坂秀佳。
東京都・渋谷を舞台に、実写映像によって構築された世界観が最大の特徴。総勢8名の主人公が織りなす5日間(※「牛尾政美」および「馬部甚太郎」の2名については3日間)の物語を、同時並行で進行させていく。
全編にわたって実写スチルが採用され、俳優が各登場人物を演じているため、抽象的なグラフィックが主であった過去2作品とは一線を画す独自のリアリティを提示している。


システムおよび特色

8名の主役による重層的な物語構成
  • 初期状態で選択可能な主人公は8名。プレイヤーは、同一の街で同時に発生している8つの独立したエピソードを、適宜切り替えながら並行して読み進めることとなる。

  • 物語の進捗管理:シナリオを進める順番や速度はプレイヤーに委ねられているが、各主人公の物語をその日の終端まで到達させなければ、翌日のエピソードが解禁されない構造となっている。全主人公の物語を最終日のPM8:00まで完遂させることで、物語は結末へと至る。

  • 「誰かの人生における脇役」という設計:登場人物の属性は老若男女・職業を問わず多岐にわたり、描かれるジャンルも本格刑事ドラマ、ナンセンスギャグ、ロマンス、サスペンス、硬派なハードボイルド、心理的な恐怖を煽るサイコホラーなど、極めてバラエティに富んでいる。
    • 牛尾と馬部の例外的な関係を除き、主人公同士は基本的に面識のない赤の他人として描かれるが、ある物語の主人公が別の物語では名前のない通行人や重要な脇役として姿を見せるなど、密接なリンクが図られている。

選択肢による運命の変容
  • 基本形式は従来のサウンドノベルを踏襲し、画面全域に表示されるテキストを読み進め、途中で出現する選択肢を決定していく。不吉な結末(バッドエンド)を回避し、物語を完遂させることがプレイヤーの目的となる。

  • 本作を象徴する要素が、 「ある人物の行動が、他者の運命に干渉する」 というシステムである。例えば、主人公Aが選択した些細な振る舞いが原因で、全く別の場所にいる主人公Bの状況が急変し、窮地から脱したり、逆に破滅へ向かったりといった「連鎖」が発生する。

ザッピング(ZAP)機能
  • 複数の物語を橋渡しするシステム。文章中に赤色で強調されたテキストが出現し、これが「ZAP」と呼ばれるジャンプポイントとなる。

  • 特定のシナリオにおいて「つづく」という表示が出て進行が停止した場合、他の主人公のエピソード内で該当するキーワード(ZAP)を発見する必要がある。そこからジャンプすることで、停止していた物語の続きが解禁される仕組みである。

  • ZAPポイントは主に登場人物の名称や、複数のシナリオ間で共通の文脈を持つ単語に設定されている。

解説システム(TIPS)
  • テキスト内には青色や緑色で着色された「TIP」と呼ばれる語句が存在する。これを選択することで、その単語に関する詳細な注釈を確認できる。これは、オンライン百科事典の脚注機能をゲーム内に取り入れたようなシステムである。

  • 青色のTIPは一般的な熟語や慣用句の説明、緑色のTIPは本作独自の固有名詞や登場人物の背景解説に分類される。これにより、本文中に過度な説明を挟むことなく、読者の理解を深めることが可能となっている。

エピソード詳細

+ メインとなる8本のシナリオ:詳細は折りたたみ内
  • 雨宮桂馬「 オタク刑事走る!
    • 渋谷署生活安全課に勤務する刑事、雨宮桂馬。コンピュータやビデオゲームに没頭する彼は「ゲーマー刑事」を自称している。
    • ある日、渋谷のスクランブル交差点に設置された巨大ビジョンに不可解な文字列が表示される。桂馬はこれを「爆破犯からの犯行予告」と直感。大惨事を未然に防ぐため、暗号解読と捜査に渋谷中を駆け巡ることになる。
    • 渋谷全体の存亡を賭けた物語であり、日ごとに複雑化する暗号解読など、パズル的な要素も強い。
    • 失敗すれば渋谷が崩壊するという極めて重い責任を伴う内容であり、全編を通じた中核的なエピソードとして位置づけられている。

  • 牛尾政美「''The wrong man 牛''」
    • 裏社会を離れ、堅気として再出発を図る牛尾政美。彼は長年想い続けた女性へ告白するため、彼女の職場である宝石店を訪れるが、運悪く強盗事件に遭遇してしまう。
    • 犯人がかつての知人であったことや、自身の強面が災いし、牛尾は強盗の共犯者として追われる身となる。警察や追っ手から逃走する過程で、彼は偶然にもTVドラマの撮影現場に紛れ込むことになる。

  • 馬部甚太郎「''The wrong man 馬''」
    • 万年売れない俳優である馬部甚太郎は、ある連続ドラマの「広域暴力団の組長役」という大役を射止める。外見こそ極道そのものだが、肝心の演技力は皆無。
    • 現場での失態や恋人からの叱咤に意気消沈していた彼は、偶然にも本物の宝石強盗犯から仲間だと誤認される。正体が露見すれば命はないという極限状態で、彼は「一世一代の演技」で難局を乗り切ろうとする。
    • 「牛」と「馬」の二つの物語は密接に関連しており、元極道と無名俳優が立場を入れ替えてしまうことによる喜劇的なドタバタ劇が展開される。
      • ※牛尾と馬部のエピソードのみ全3日間で構成されており、4日目以降は他の6名の物語が中心となる。

  • 篠田正志「 七曜会
    • 就職活動を控えた大学生の篠田正志は、「日曜日」と名乗る謎の女性に接触される。父の過去や自身の学生時代の活動を材料に脅迫を受けた彼は、秘密組織「七曜会」への入会を強要される。
    • 「金曜日」というコードネームを与えられた彼は、組織の命令に従って見知らぬ他者を脅迫していく任務に就くが、そのスリリングな活動に次第に魅了されていく。
    • 不条理なサスペンスの中に、個性の強いキャラクターたちが織りなす独特なユーモアが混在するエピソード。
      • 文章の密度が非常に高く、1日あたりの読み応えが際立っている。

  • 市川文靖「 シュレディンガーの手
    • 脚本家として名声を得ている市川文靖は、深刻な悩みを抱えていた。起床すると、全く記憶にない執筆済みの原稿がデスクに置かれているのである。しかもそれは、彼自身が最も軽蔑する「凡俗で低俗な内容」であった。
    • 自らの深層心理に潜む「もう一人の自分」との対峙、そして意に沿わぬ名声を捨て、自らの魂を込めた真の傑作を書き上げるための苦闘を描く。
    • 内省的かつ哲学的な語り口が特徴で、テキストも硬派な文体で統一されている。サイコサスペンスの色彩が強く、一部に衝撃的な映像表現も含まれる。

  • 飛沢陽平「 で・き・ちゃっ・た
    • 名門校の生徒会長であり、洗練された容姿を持つプレイボーイ、飛沢陽平。多数の女性と交際し、気ままな学生生活を謳歌していた彼に試練が訪れる。
    • ある日、行きずりの関係を持った少女から「懐妊」を告げられ、さらには別の元恋人が既に出産していたことまで発覚。現在の本命の彼女からは結婚を急かされ、陽平は四面楚歌の人間関係の中で右往左往することになる。
    • 物語の焦点は「多股交際の破綻」にあり、女性たちが鉢合わせるシーンなどの緊迫感ある演出が見所となっている。

  • 高峰隆士「 迷える外人部隊
    • フランス外人部隊を脱走し、日本へ帰還した高峰隆士。戦場での過酷な経験から、自身の内に潜む闘争本能と本来の優しい性格との板挟みになり、精神的な迷走を続けている。
    • 血生臭い戦地から帰った彼にとって、故郷であるはずの日本は変容し、彼自身もまた馴染めずにいた。孤独を抱えながら、彼はかつての馴染みである渋谷の街をさまよい歩く。
    • 特殊な経歴を持つ男の視点から描かれる、乾いた筆致のハードボイルド。暴力描写の頻度が高く、テキスト自体は簡潔にまとめられている。

  • 細井美子「 やせるおもい
    • 「痩せなければ別れる」という恋人からの非情な通告を受け、減量を決意した細井美子。肥満体型であった彼女に課せられたのは、「わずか5日間で17キロを落とす」という非現実的な目標だった。
    • 食欲という本能を封じ、愛する人のために過酷な減量に身を投じる美子の姿を描く。
    • 女性主人公らしい軽快な音楽や演出が特徴だが、描かれるダイエットの様子やギャグの裏には、時にシュールで狂気的なニュアンスが漂う。

~
+ 隠しエピソード:物語の核心に触れる内容
以下のシナリオは、初期の8名の全エピソードを5日目の結末まで読了することで解禁される。時間軸は他の物語と同様1日目からスタートするが、特殊な条件により出現するため、独立した扱いとなる。

  • 青井則生「 青ムシ抄
    • 周囲から「青ムシ」と呼ばれ蔑まれていた高校生、青井則生。内向的な彼は、ある日偶然にも同級生・飛沢陽平の衝撃的な秘密を握ることになる。
    • それが、隠れオタクでありエロ漫画家という裏の顔を持つ青井にとって、平穏な日常が崩壊する5日間の幕開けであった。
    • 本作で唯一実写ではなく、全編がアニメーションで描写される。作風や主人公の性格が極めて個性的であり、読者によって評価が大きく分かれる異色作。

  • 高峰厚士「 花火
    • 高峰隆士の父である厚士の視点による物語。失踪していた息子が突如として姿を現したことで、停滞していた父子の時間が動き出す。
    • 本作の最後に体験すべきエピソードであり、物語全体を貫く大きな謎が氷解し、真の終局へと導かれる。
    • 内容は極めて短く、選択肢による分岐も最小限に抑えられている。

評価点

重層的な運命の連鎖
  • 「ある場所での些細な振る舞いが、遠く離れた誰かの人生に激変をもたらす」という、いわゆるバタフライ・エフェクトをシステム化した「運命の交差」が本作の核心である。プレイヤーの選択が巡り巡って他者の死生観や結末を左右する構造は、ゲームデザインとして極めて完成度が高い。

多角的なシナリオ構成
  • 物語の舞台となる「街」の多様性を象徴するように、収録された8本のシナリオはコメディ、シリアス、恋愛、ホラーなどジャンルが多岐にわたる。
    • 特定のジャンルに特化しがちな従来のノベルゲームに対し、本作は一つの作品で多彩な人間模様を味わえる稀有な群像劇となっている。

  • 情緒的な終局演出
+ ラストシーンの演出について ※ネタバレを含みます
  • 全編を通じた舞台設定として、物語最終日の20時には渋谷の夜空に「季節外れの花火」が打ち上がる。
  • 各主人公がそれぞれの苦難を乗り越えた瞬間、全編共通のシチュエーションとして現れるこの花火は、個別の物語を一つの「街の出来事」として統合し、プレイヤーに深い一体感と感動を与える。
  • なぜ花火が上がったのかという伏線についても、全シナリオを読了することで真実が明らかになる重厚な構成となっている。

  • 異色の表現手法「青ムシ抄」
    • 全編実写の本作において、隠し要素である「青ムシ抄」のみがアニメーションで描かれる。映像のギャップに賛否はあるものの、実写の演者に極限まで寄せた作画や、端役に至るまでの描き込みには多大な労力が注がれている。
+ 「青ムシ抄」の物語構成について ※ネタバレを含みます
  • 他シナリオで未解決だった事件の真相が判明する側面を持つ。突飛な展開ながらも、犯行の動機や凶器に関する伏線がギャグ調の物語の裏に巧妙に配置されており、その構成力の高さは評価の対象となっている。

娯楽としてのバッドエンド
  • 膨大な数の失敗(バッドエンド)が用意されているが、これらは単なるペナルティではなく、一つの読み物として確立されている。
    • 不条理なギャグや超展開、SF的な結末など、失敗すること自体が楽しみとなるような工夫が凝らされており、探索の意欲を削がない。
    • 隠しシナリオを含め、思いも寄らない地点から他の物語へ干渉するバッドエンドの仕組みも秀逸である。

機能的なTIPSシステム
  • 作中の用語や背景を補足する「TIPS」は、説明的な台詞を排除し、物語のテンポを維持する役割を果たしている。
    • 単なる用語辞典に留まらず、執筆陣の個性が光るユーモラスな解説や、詩的な文章、本編では語られないサブキャラクターの裏設定などが凝縮されており、極めて高い密度を誇る。

実写表現の成功例
  • 当時のゲーム業界では敬遠されがちだった実写演出を、巧みな演出とキャスティングで成功させている。
    • 過度な有名俳優に頼らず、表現力豊かな実力派や個性派を起用したことで、プレイヤーが先入観なくキャラクターに没入できる環境を作り上げた。
    • 出演陣は竜雷太、団時朗、ダンカン、久保田篤といったベテランから、若き日の窪塚洋介(ヨースケ名義)、伊藤さおり、さらには声優として知られるゆきのさつき(雪乃五月)が女優として出演するなど、多彩な顔ぶれが揃う。
    • 舞台俳優やVシネマのベテラン、個性的な脇役たちが、独特のセリフ回しを劇中の人物として完全に消化している点も特筆に値する。

徹底したサブキャラクターの造形
  • 当初は20人の主人公を想定していたという背景もあり、脇役一人ひとりに至るまで詳細な背景設定が存在する。
    • ある人物の家族が別の場所で重要な役割を果たすなど、至る所に人間関係の網の目が張り巡らされており、街全体の解像度を高めている。

演出を彩る音楽
  • 各シーンやシナリオの雰囲気に完全に合致したBGMが制作されている。
    • 楽曲数は膨大であり、主要人物のみならず多くの脇役に専用テーマが与えられているなど、使い回しを最小限に抑えた贅沢な音楽演出となっている。

記憶に残るエンディング
  • 多くのプレイヤーから「屈指の終幕」と称されるエンディングの評価は非常に高い。
+ エンディング演出について ※ネタバレを含みます
  • 鈴木結女が歌う主題歌『One and Only』は、ゲーム中最も耳にするメインテーマのボーカル版であり、その旋律が流れる瞬間は達成感と感動を呼び起こす。
  • スタッフロールでは撮影時のメイキング映像が流れ、静止画だった登場人物たちが生き生きと動く姿は、プレイヤーへの最高のファンサービスとして機能している。

緻密な小ネタと遊び心
  • 選択肢の隅々にまで遊び心が仕込まれており、探索するほどに新たな発見がある。
    • 前作『かまいたちの夜』のキャラクター(香山など)を彷彿とさせるセルフパロディ的なファンサービスも、物語のアクセントとなっている。
```

論争点

実写表現の導入に伴う受容の差異
  • 本作で採用された実写映像は、高い評価を得る一方で、『かまいたちの夜』などのシルエット表現に親しんできた従来のサウンドノベルファンからは、当初強い心理的抵抗感を持って迎えられた側面がある。
    • また、生身の俳優がキャラクターを演じることで物語のリアリティが増した反面、プレイヤーがテキストから各登場人物の造形を自由に想像するという、読書的な能動的楽しみが制限されてしまったとする意見も存在する。


課題点

シナリオの整合性と展開
  • 個々のエピソードを独立した物語として俯瞰した場合、その完成度については課題が残る。伏線の未回収、強引な設定変更、唐突な物語の飛躍など、論理的整合性を欠く描写が散見される。
    • 多岐にわたるジャンル(日常、恋愛コメディ、刑事、サイコホラー、ハードボイルド等)を横断しているため、個人の嗜好によっては「特定のシナリオに没入できない」「独特のノリや世界観に馴染めない」といった拒絶反応を示すケースもある。

  • 実写化に伴うイメージの固定化
    • 本作は実在の「渋谷」を舞台とし、生身の人間が演じるという極めて現実的な枠組みを採用している。そのため、フィクション特有の誇張表現が、実写映像として出力された際に現実との整合性を欠き、違和感として表出しやすい側面がある。
    • 特に「絶世の美形」といった、漫画やアニメであれば成立する記号的な記辞が、実写の俳優という確定したビジュアルを通すことで、プレイヤー個人の感性や理想像との間にギャップを生じさせてしまう結果となった。

  • ミスキャストに関する指摘とテキストの不一致
    • 一部の登場人物に対しては、キャスティングがキャラクター像に合致していないのではないかという厳しい意見も存在する。
    • 具体的には、劇中で青井則生や篠田正志らから「絶世の美少女」として称賛される「水曜日」などのキャラクターにおいて、プレイヤーの嗜好や主観によってはその評価に疑問符がつくケースが見られる。これは、テキストによる過剰なまでの「美の強調」が、実際の映像と対比された際に、必要以上の期待値や違和感を煽ってしまう構造的な問題が原因と言える。

  • 脇役の不自然な挙動
    • 脇役の中には、説明が不足したまま不可解な行動を取る者も散見され、物語への没入を阻害するという不満を抱くプレイヤーも少なくない。
    • これは「ある物語の主役も、他者の視点から見れば不可解な脇役に過ぎない」という群像劇としての意図的な演出、あるいは後述する「続編への布石」といった側面もあるのだが、独立したシナリオの完成度を求める立場からは、不親切な設計として捉えられる要因となっている。

+ シナリオ上の構造的な欠陥 ※物語の結末に関する重大なネタバレを含みます
  • 「篠田正志(七曜会)」編における収束の不透明さ
    • 物語の終盤、組織の正体を暴き理念を否定した正志が、想い人である「水曜日」と再会する場面で、事前の告知通り「罰ゲーム」が唐突に執行される。花火が夜空に輝く中で正志が渋谷の路上で磔にされるという、シュールかつ唐突な幕引きとなっており、物語の因果関係が不明瞭である。
    • 組織「七曜会」のその後や、正志自身の進路といった重要な課題が未解決のまま放置されている。
      • 物語の崩壊は予感させているものの、明言は避けている。また、組織への加入動機となった「家族や自身の過去に関する脅迫材料」も解消されておらず、主人公が抱える根本的な問題は解決を見ないまま終了する。

  • 「市川文靖」編における無慈悲な結末
    • 自身の精神的葛藤に決着をつけようと試みた市川だが、その内省的な努力とは無関係に、脈絡のない悲劇的展開によって物語が遮断される。報われない終わり方は、プレイヤーの虚無感を誘う要因となっている。

  • 「高峰隆士」編における非業の死
    • 己に刻まれた軍人としての闘争本能を克服しきれず、平和な日本社会との断絶を確信した隆士は出国を決意する。
    • しかし、その旅立ちの直前に何者かの狙撃を受け、渋谷の空に上がる花火を眺めながら落命する。主要な主人公の中で唯一、正規ルートで死を迎える結末は極めて悲劇的であり、その是非を巡って議論が絶えない。

  • 他キャラクターにおけるエンディングの不達成
    • 細井美子編では「提示された条件を達成することに価値がなかった」という事実が判明し、飛沢陽平編に至っては「事態がさらに泥沼化して終わる」など、爽快感のある結末は桂馬・牛尾・馬部の3名に限られる。
    • 一般的なゲームデザインにおいては、提示された目標(勝利条件)を達成することがプレイヤーの目的となるが、本作は主役の半数が目標を完遂できないまま終幕を迎える。これは小説や映画的な技法としては成立するが、ゲームとしての達成感を重視する層には違和感を与えやすい。
      • 本作はサウンドノベルの中でも極めて高いゲーム性を有しているがゆえに、この「勝利なき終局」というアンチクライマックスな手法が、システムの密度と相反してしまっている側面がある。
      • 例として、美子編の「5日間で17キロ減量」という無茶な設定は、現実的な視点では最初から破綻しており、女性プレイヤーからは不誠実な要求と受け取られる可能性もある。あくまで誇張されたフィクションとしての整合性に依存している。
      • 陽平編に至っては、更なる女性関係の拡大を示唆する展開で幕を閉じるなど、教訓的な解決を意図的に放棄している。

  • 「青ムシ抄」における特異性と議論
  • 本作の隠し要素である「青ムシ抄」は、内容面においても極めて個性が強く、プレイヤーを選ぶ傾向がある。
  • 主人公「青井則生(青ムシ)」の人物像:彼は飛沢陽平の同級生であり、篠田正志の脅迫対象としても登場する既存の脇役だが、その造形はステレオタイプなオタク像をさらに極端にしたものである。成人向け漫画の執筆を生業とし、趣味は盗撮、性格も内向的かつ陰湿に設定されているため、生理的な拒絶反応を示すプレイヤーも少なくない。
    • 一方で、彼がそのような人格を形成するに至った背景や、教育現場での孤立無援な状態など、同情の余地がある描写も含まれている。
    • 一般的に、外見や性格に難があっても魅力的に映るキャラクターは存在するが、青ムシに関しては愛着を持てる要素が極めて乏しいという指摘が多い。「このシナリオだけは完遂できなかった」という脱落者の声が散見されるのも、本作の特徴的な現象である。
    • 精神的な不快感を増幅させる物語構造ではあるが、設定を詳細に追うと「過去のいじめ被害により教員や周囲から忌避されている」「創作活動に対しては真摯である」「歪な形であっても他者との繋がりを渇望し、擬似的な友情に純粋な喜びを見せる」といった人間味も描かれている。また、反社会的行為への関与も当初は否定的であり、ライバルとの競争という切実な事情から追い詰められた末の選択であるなど、純然たる悪意に塗りつぶされた人物ではないという解釈も成立する。
  • もう一方の隠しシナリオが簡潔にまとめられているのに対し、本編は5日間分に相当する膨大なテキストボリュームを誇る。そのため、内容に抵抗を感じるプレイヤーにとっては、読み進めること自体が苦行となりやすい。
  • 物語の中盤から後半にかけては「ホームレス襲撃」という、道徳的・倫理的に極めて不快度の高い犯罪行為が主題となるため、心理的ハードルはさらに高まることとなる。

+ 「青ムシ抄」の結末と物語全体への影響 ※重大なネタバレを含みます
  • 高峰隆士殺害の実行犯としての正体
    • 編集者に阿るために参加していたホームレス襲撃において、青ムシたちのグループはその容姿や振る舞いが元軍人である高峰隆士の逆鱗に触れ、凄惨な返り討ちに遭う。
    • 復讐を企てるも失敗に終わり、隆士の抵抗によって利き手を粉砕されたことで、青ムシの状況は絶望的なものへと変貌する。
    • 負傷に加え、一連の不祥事が露見したことで漫画業界からの追放が決定。自暴自棄に陥った青ムシは、偶然入手した拳銃を手に路上で隆士と遭遇し、発砲に至る((ただし、彼はその銃をモデルガンと誤認しており、確実な殺意を抱いて引いた引き金ではなかった))。
    • 全主人公が救済される「花火」の後にこの真実が明かされる構成は、後述の移植版でも同様だが、物語全体の後味を著しく損なうとして、青ムシというキャラクターに対する強い憎悪をプレイヤーに抱かせる要因となっている。

  • 因果応報と救済の是非
    • 殺人の罪を犯した以上、彼の将来に幸福な展望を描くことは極めて困難である。
    • 一介の小悪党に過ぎず、社会的基盤を失った青ムシに対して、ここまでの過酷な報いを与えるのは残酷すぎるとする同情論も存在する。
    • 補足として、後に拘置所内で創作意欲を再燃させる姿が描かれ、ナレーションによってその執念深さを揶揄されるという、僅かながらも救いとも取れるフォローがなされている。
    • 結論として、隆士と青ムシの双方が道徳的な一線を越えた存在であることを踏まえ、この結末を避けられぬ因果応報と捉える向きも強い。
      • 殺意の有無に関わらず、至近距離で発砲する行為は法的に極めて重い罪であり、その結果として招いた悲劇は物語の整合性として成立していると言える。

主役間のボリューム格差
  • 牛尾および馬部のエピソードにおける短縮日程:
    • 登場人物が複雑に絡み合う「取り違え」を主題とした牛尾・馬部両名のシナリオは、娯楽性が高く人気も集中しているが、物語の構造上の理由からか3日間という短期間で完結してしまう。
    • この短さは、他の主人公たちと比較して内面の掘り下げやエピソードの厚みに欠けるという難点にも繋がっている。
    • ゲーム内の「TIP」や当時の攻略本では、この空白の2日間を埋めるプロットを一般公募していた形跡があるが、最終的にゲーム内での実装は叶わなかった(※募集された内容は公式ウェブサイトへの一部掲載に留まり、構想されていた続編や専用書籍への採用は見送られている)。
      • 補足として、両名は桂馬編や陽平編の終盤に顔を見せるものの、物語に深く関与しないゲスト出演的な扱いに留まっている。

システム上の課題
  • 演出面に乏しいザッピング:
    • 頻繁に使用することになるザッピングシステムだが、画面が単に暗転して切り替わるのみで、視覚的な演出効果は希薄である。
    • 同一時間帯の他視点へ移動するだけの仕様であるため、プレイヤーの推理力やテクニックを試すようなゲーム性は乏しい。

  • クリアキャンペーンによる弊害:
    • チュンソフト恒例の「早解きキャンペーン」が本作でも実施された。しかし、本作のゲーム性は謎解きよりもザッピングによる進行に重きを置いているため、上位入賞を狙うには「テキストを一切読まずにボタンを連打してスキップする」ことが最善の攻略法となってしまった。これは、物語を楽しむというノベルゲームの本質的な趣旨と著しく矛盾する事態を招いた。
    • なお、エンディング後に表示される数列はキャンペーン応募用の符号であり、ゲーム内の物語的な意味は持たない。

未回収の伏線と設定の不透明さ
  • 各所に現れる未回収の要素:
    • 物語の随所に登場するパチンコ店に通う男やコンビニの店員、宝くじを購入する男などは、続編の構想を前提とした布石であったと考えられる。
    • セガサターン版の人物解説(TIPS)には続編を想起させる一文が存在したが、後の移植版ではこれらの記述はすべて抹消されている。
    • また、牛尾・馬部編の空白期間の詳細や、特定のタクシー内に拳銃が放置されていた経緯など、物語の根幹に関わる重要事項が不明瞭なまま残されている。

  • 状況の不整合(雨宮桂馬編):
    • 桂馬のエピソードには、爆弾解体失敗による「渋谷爆発」というバッドエンドが多数存在する。しかし、街が壊滅したはずの状態でも他の主人公たちの物語には一切影響が及ばないという、群像劇としての設定矛盾が生じている。
    • 全シナリオに爆破の影響を反映させるとゲームのテンポが著しく損なわれるため、メタ的な配慮とも取れるが、ファンの間では「これらの爆発エンドは桂馬の極限状態における妄想ではないか」という仮説が語られることもある。

  • 解説文(TIPS)のトーン:
    • シリアスな局面で場にそぐわないギャグ調の解説が挿入されることがあり、物語の没入感を削ぐという批判的な意見も少なくない。

  • インターフェースの操作性:
    • 特定の時間へ戻るための時計機能は備わっているものの、視認性や操作の利便性が十分とは言えず、特定のバッドエンド条件を特定・特定し直す際の障壁となっている。

演出上の留意点
  • 光の点滅(パカパカ)に関する注意:
    • 特定の緊迫したシーン(桂馬編の爆破直前や牛尾編の終盤など)において、画面が激しくフラッシュする演出が多用されている。これは当時の映像基準によるものだが、プレイの際は十分な距離を保つ必要がある。※後年の移植版では修正済み。

  • 隠し要素の出現難易度:
    • 最終エピソード「花火」の出現条件は、隠しコマンドに近い特殊な手順を要する。具体的には、8名のクリア後に選択画面の左端に位置する高峰隆士にカーソルを合わせ、約5秒間静止した後に左方向を入力するというもので、事前知識なしに発見するのは極めて困難である。

  • 視覚効果の違和感:
    • 特定の雨のシーンにおいて、実写背景の上にアニメーションの雨を重ねる手法が採られているが、これが浮いて見えてしまう「合成感」が否めない。
    • 同社の『かまいたちの夜』では雪の演出が自然に溶け込んでいたが、本作が実写ベースであったがゆえに露呈した、特有の技術的課題と言える。

対応機種 プレイステーション
発売・開発元 チュンソフト
発売日 1999年1月28日
定価 5,800円(税別)
廉価版 PS one Books&br;2002年4月4日/2,800円(税別)
判定 良作

概要(PS版)

セガサターン版として発売された『街』の再構築版。
チュンソフトが過去のサウンドノベル名作群を現代風にアップデートする「サウンドノベル・エボリューション」プロジェクトの一環として製作された。
なお、ナンバリングは「3」とされているが、シリーズ展開の順序としては2番目にリリースされており、プロジェクト内での発売順と数字が前後する形となった。
前2作(『弟切草』『かまいたちの夜』)のような劇的なハード性能の向上を背景とした変更というよりは、利便性の向上に主眼を置いた「強化移植」に近い内容となっており、ユーザーフレンドリーな新機能が多数導入されている。


主な変更点および追加要素

視覚化されたシナリオ管理
  • 移動マップ(チャート機能)の実装:各主人公のタイムラインが系統立てて図式化され、物語の分岐点やザッピング(ZAP)の発生箇所が直感的に把握可能となった。

  • バッドエンドリストの完備:
    • 遭遇したバッドエンドが記録されるようになり、コンプリートを目指す楽しみが強化された。
    • 全121種に及ぶ多種多様な結末を網羅しやすくなった点は、システムの妙を味わう上で極めて好評である。
      • エンディングの回収状況が隠し要素の解禁条件にも紐付いており、やり込みに対する配慮がなされている。

表現および演出の選択肢
  • シルエットモードの搭載:
    • 登場人物を塗りつぶしの影絵状に表示する設定が追加された。このモードでは一部の動画演出が簡略化される。
    • 『かまいたちの夜』で定評のあった演出だが、本作においては「役者の繊細な演技が見えなくなる」という理由から、否定的な意見も少なくない。
      • これは、実写映像自体のクオリティが当初の懸念を覆すほど高かったことの証左でもあり、サターン版発売時からのユーザー評価の変遷を物語っている。
    • また、全編アニメで描かれる「青ムシ抄」のみはシルエット設定が無効化されるため、実写モード以上に視覚的なギャップが強調される結果となっている。

難易度設定の導入
  • 三段階の難易度(EASY / NORMAL / HARD)の選択:
    • 難易度によって分岐フラグの初期状態が異なり、EASYでは正解のルートへ導かれやすく、HARDでは意図的にバッドエンドへ向かう確率が高まる設計となっている。
    • すべてのバッドエンドを網羅するにはHARDでのプレイが必須となるが、 一度決定した難易度は後から変更できない ため、慎重な選択が求められる。
    • ただし、全シナリオの読了自体はNORMALでも可能であり、必ずしも最高難易度を要求されるわけではない。
      • 「青ムシ抄」の解禁にHARDが必須という説も流布しているが、NORMALでも条件(バッドエンド100種回収)は達成可能である。ただし、バッドエンド数が制限されているEASYでは条件を満たせない。
    • 低難易度設定では、バッドエンド時に具体的な回避ヒントが表示される。特にEASYのヒントは「どの主人公の、どの時間の選択肢を修正すべきか」を名指しで指示する非常に親切な内容となっている。

その他の変更および調整
  • 販促関連要素の整理:サターン版で実施されたキャンペーンに関連する付随要素は、時代背景に合わせすべて割愛された。

  • 隠しエピソードの解禁プロセスの変更:
    • 「花火」編:サターン版では難解な隠しコマンドが必要であったが、今作では初期8名のクリア後に直接選択画面に表示されるようになった。
    • 「青ムシ抄」編:クリア状況に関わらず、バッドエンドの累計収集数によって解禁される方式へ移行した。
      • この変更により、NORMAL以上で意図的にバッドエンドを網羅するプレイが求められるようになり、結果として物語の最後に「青ムシ抄」を体験するプレイヤーが増加。これがラストシーンの衝撃度や後味の議論をさらに加速させる一因となった。

  • ビジュアルパッケージの刷新:従来の控えめなデザインから、店頭で目を引く訴求力の高いデザインへと変更された。

問題点

  • テキストの倫理的調整と修正
    • 時代性や倫理基準に合わせ、一部の過激な表現が緩和されている。
    • 例として、青井則生の行動指針が「ホームレス襲撃」から、劇中用語で言うところの「カップル狩り」へと呼称変更された点や、性的・猟奇的表現の抑制が挙げられる。ただし、実質的な行動内容との間に矛盾が生じている箇所も散見される。

街 ~運命の交差点~ 特別篇(PSP版)

【まち うんめいのこうさてん とくべつへん】
対応機種 プレイステーション・ポータブル
発売元 セガ(※DL版はスパイク・チュンソフト)
開発元 チュンソフト
発売日 2006年4月27日
定価 4,800円(税抜)
廉価版 SEGA THE BEST&br;2007年8月30日 / 2,500円(税抜)
レーティング CERO:Z(18歳以上対象)&br;※廉価版はCERO:D(17歳以上対象)
配信開始 2012年3月27日 / 1,980円(税込)
判定 良作


作品概要(PSP版)

プレイステーション版をベースとして、携帯機向けの最適化と新規要素を盛り込んだ移植作。
基本的にはPS版の仕様を忠実に引き継いだ上で追加要素を統合する形を採っているため、起動時のチュンソフトのロゴが旧ロゴのままであるなど、随所にオリジナル版の名残が保持されている。


主な変更点および追加・修正要素

表示およびビジュアルの調整
  • 画面アスペクト比の選択機能:スタンダードな「4:3」に加え、実写背景の上下をカットすることで横長画面に適合させた「16:9」の2モードから選択が可能となった。
    • ただし、全編アニメーションで構成される「青ムシ抄」については、この画面比率の変更は適用されない。

  • シルエットモードの廃止:
    • PS版において導入されていた人物のシルエット化機能は、実写映像の質感を損なうという評価からか、今作では削除されている。

サウンドプレイヤー機能の搭載
  • 100曲を超えるBGMを自由に鑑賞できるモードが新設された。音楽評価の高い本作において、ファン待望の機能と言える。
    • 選曲画面は主人公ごとにカテゴリー分けされており、セガサターン版のUIを彷彿とさせるデザインとなっている点も好評。
    • 一方で技術的な課題も散見される。全体的に音圧がSS版より低下している、象徴的なテーマソング「One and Only」が未収録である、一部楽曲がループ完了前にフェードアウトする等の不備が指摘されている。
    • また、本編中の「のんきなのりぴー」が特定のフレーズで不自然にループするプログラム上の瑕疵(サウンドプレイヤー内では正常に再生される)や、既存の著作物(『フランダースの犬』等)を彷彿とさせるパロディ楽曲が収録対象から除外されているといった点も存在する。

新規収録「秘蔵シナリオ」
  • 本編の脇役であった「サギ山」と「パトリック・ダンディ」の5日間を描いた新規エピソードが追加された。
    • 解禁条件:PS版の「花火」と同様、初期主人公8名全員の物語を完遂させることで閲覧可能となる。
    • 仕様上の制限:これら2編には選択肢、TIPS、ZAPといった従来のシステムは搭載されておらず、純粋な読み物形式となっている。背景も本編からの流用が主であり、音響やフォントによる特殊な演出も簡略化されている。
      • 製作時期の隔たりから実写の新規撮影が不可能であったことや、あくまで特典要素であることを踏まえれば妥当な仕様とも言える。
      • パトリック・ダンディ編については、過去に製作されたドラマCDの内容をベースにしたノベライズとなっている。

システムおよびテキストの調整
  • 解禁条件の緩和:隠しシナリオの出現プロセスが簡素化され、より到達しやすくなった。
    • ただし、すべてのバッドエンドを網羅して達成感を味わうには、依然として5日目開始までに「HARD」を選択しておく必要があるなど、システム上の制約は残る。

  • 表現の修正と倫理規定への対応:
    • レーティング基準に適合させるため、薬物を想起させる語句(ハシシ等)の書き換えや、特定の露出シーン(青ムシ抄における描写など)の削除といった調整が行われた。
    • 加えて、長らく残されていた「続編」を予感させるテキストについても、本作において削除または改変されている。

  • 操作性に関する課題:2度目の移植ではあるが、文章を読み進める際のシステム周りの不便さは劇的に改善されたとは言い難く、ファンからは改善の余地を指摘する声もある。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2026年05月04日 21:51