計略(後編) - (2008/08/29 (金) 03:26:37) の1つ前との変更点
追加された行は緑色になります。
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計略(後編) ◆xuebCgBLzA氏
銀二はギャンブルのアイテムが置いてある、別のテーブルの周りをうろつく。
「トランプがあるが…こいつくらいか…?高校生がわかるギャンブル…」
零は自然な流れを求めるため、自ら麻雀を種目として提案しなかった。
「はぁ…。トランプ…。丁半…。チンチロ…。あとは…麻雀…ですかね…」
銀二は足を止めた。
「麻雀がわかるのか…?」
零は喜悦を隠しつつ、
「えぇ…。まぁ」
とだけ答えた。
「しかしな…時間がかかりすぎる…」
「え…」
思わず、零、声を漏らす。
「いいのか…?麻雀が…」
(もちろんっ…!)
「え、えぇ。二人打ちの東風戦なら二局だけですし…そう時間はとらないかと…
ルールは銀二さんが決めていいですので…」
ふむ、と銀二は思考しているそぶりを見せる。
「よし、わかった。じゃあルールは…
マンズの2から8を抜いて、喰いタンあり、赤牌なし…。持ち点30000点。半荘戦…。親は…」
銀二が照明の下の雀卓に麻雀牌を持ってきながら説明する。
「オレからいいですか…?実は麻雀わかるといってもテレビゲームでしかやったことないんですよ…
サイコロとかもよくわからなくてっ」
零は無邪気に笑って見せた。
もちろん嘘八百…!
このことは銀二も気付いていたが、
「…?……あ、あぁ」
どこか腑に落ちない様子だった。
「じゃあ、親は零…。単純に、半荘終了時に点数の上だった者の勝ち…いいな…?」
「はい。額は…、金額は…どうしましょうか…?」
「もちろん…。全額っ……!異論はあるまい…!」
銀二は麻雀牌を卓にジャラジャラと広げ、もう一度威圧をかける。
「そうですね…!喜んで。お受けしましょう…!」
零なりに意気って見せた。
こうして勝負が始まった…。
(わざとオーラスまで負け続けるっていう策もあり…。
だけど万が一がある…。ハコテンっ…。)
零はその万が一を考慮し、早上がりで局を進めることにした。
東場はスムーズに流れる…。
―――東一局、東家、零。西家、銀二。
銀二、手が込み、たった3巡で飜牌、ドラ3。満貫を和了る。
親がかわり、東二局。
それを受けて零。タンヤオピンフをロン和了り。2000点取り返す。
東場が終わり、
銀二、36000点。零、24000点。
だが南場…揺れる…。
南一局、8巡目…。
「リーチっ…」
銀二、リーチ宣言。
次巡、零、生牌の中をツモり、迷う…。
(くっ…、ここに来て生牌を引くなんてっ…。…ここで降りるか…?)
実はこの時、零、すでにテンパっていた。タンピン、ドラ3の満貫手…。
(いやっ、この過酷な状況…字牌で待てるか…?普通っ…!よし…捨てる…!中っ!)
恐る恐る中切り…。
しかし…。
「クククッ…それだ…」
銀二、牌を倒す…。
「立直、一発、三暗刻、中、ドラ1…」
跳満っ…!12300点っ…!
点差、更に広がるっ…。
銀二、48300点。零、11700点。
絶望っ…!相手のオーラスを残し、点差36600点…!
圧倒的絶望っ…!本来の麻雀ならっ…!
(これでいよいよ使わざるを得なくなった…!針金牌…!)
実の所ためらっていた…。イカサマをすることは…。
あわよくば使わないで勝ちたかった…。
リスクが付きまとうからっ…!
「すっ、少し時間をくださいっ…」
「あぁ…?いいだろう…腹くくれよ…やるからには…」
そういうと、銀二は目を閉じ、黙った…。
(…?…どういう事だ…?『やるからには腹をくくれ』って…?
『金を払う事を』か…?それともっ…『イカサマを』って事か…!?
まさか気付いてる…?オレの計略…?いや、そんなはずはない…!そんなはずは…)
目を閉じている銀二を見て、この男の怖さを今一度思い知った…。
(それよりも、問題っ…!暗転させるためには…唯一の明かり…
この部屋の命である…この照明を消すしかない…!)
零はポケットに入れていた小石を握り締める。
(こいつをぶつけて…割る…。あの電球をっ…!)
手を伸ばせば届きそうな位置にまで垂れ下がっているのでうまく当たれば、電球を割る事は容易だろう…。
うまく…当たれば…。
電球を見上げて、イメージトレーニング…。
(よし…!当たる…当るぞっ…!)
「すみません…。では始めましょうか…オーラス…」
「ん…?あぁ。そうしようか…」
銀二は目を閉じたまま答える。
遂にこのギャンブルの…、必勝ギャンブルの…仕上げが始まる…。
お互いに山を作る…。
どこか銀二の動きが鈍い…。
まさかまだ目を閉じているのだろうか…。
そして、配牌…。
やはり銀二の手はおぼつかない様子で、やっとお互いに13牌、手元にそろう…。
―――と、同時に…
零、動き出す…!
ポケットで小石を握り、それを理牌するタイミングで卓の上へ持ってくる…。
その挙動のまま親指の上に小石を乗せ…
完成…!このイカサマというサスペンスの始まりを告げる花火っ…!
小さな小さな花火っ…!
(ここから見る限り…。銀二はまだ目をつぶっているように見える…。
不気味っ…。だが…それならば遠慮なく撃たせてもらう…!花火っ!)
親指が小石を弾く音…。
その後…、
電球が…、割れた音…!
暗転っ…!部屋は闇に包まれた。
花開いたのであるっ…!
嬉々とする暇なしに懐から、針金牌っ…。
暗闇に目が慣れないまま、仕事に取り掛かった…。
「何の音だっ!何があったっ…!」
受付の黒服がドアを荒めに開けて入ってきた。
光を失い、時間の止まっていた部屋に昼の光が差し込む…。
陽光が卓上に散乱している電球の破片に反射する…。
異変無し…。一見っ。
「なんだなんだ…。電球が割れたのか…。今カーテンを開ける…。待っていろ…」
黒服はカーテンを開けに向かう…。
黒服が入ってきてから今までの間、二人の間に会話…無しっ…。
ただ…ただっ…にらみ合う…。
いつの間にか銀二の目は見開いていた…。
(成功っ…!すりかえ成功っ…!)
零は見事成し遂げていた…。すり替え…。
(様子見っ…!銀二の出方を見るために…見っ…!)
しかし、最初に口を開いた銀二から零にとって意外な言葉が発せられた…。
「そりゃ悪手だろ…!ギャンブルに…ましてや、イカサマならなお遠慮はいらねぇっ…!」
カーテンが開き、止まっていた時間が動き出す…。
零は自分の耳を疑った。
(悪手…って…?まさかっ…!細工されたか…!?)
焦って自分の牌をみた…
…が、異変無しっ…!地和、国士無双、三倍満の手が出来ていた。
手中には東…。零の性格故、ぬかりはなかった…。
「クク…。じゃあ始めるかっ…。オーラス…」
何もなかったように銀二は切り出す…。
そして1巡目…!
嵐が巻き起こった…!
「ほう…。この手は和了りが早そうだな…」
銀二はそういって笑った…。
「カン…」
「えっ…!?」
1巡目の暗カン…その時点で、地和、消える…。
そして…そのカン…牌は…
まさかの『東』っ…!
「クククっ…。1巡目から飜牌を鳴かせてもらった…。悪いが…、勝たせてもらうぜ…」
零の視界っ…!歪曲っ…!
消えたのだ…。地和も…。国士無双も…。
水泡っ…!殺し合いが始まってから立てた計画が…すべて水泡っ…!
「どうした…。まだ勝負はついちゃいねぇはずだっ…!」
「いや…。降りる…。オレの…負けだ……」
小さな声で呟く…。
こうして、勝負は決した。
あのままダラダラと続けて『5枚目』の牌がでてくるのが一番避けるべき事態だった。
だから、降りた…。
銀二はもうこのギャンブルルームにはいない…。
オレは残った10と何分かで、残った麻雀牌の片付けと…、
銀二の残していった手がかりを経て銀二のやってのけた事を暴こうとしていた。
手がかり…。それは、ドアの前に落ちていた。
『ギャンブルルーム 1時間無料ペアチケット』
勝負の前に見せてもらった、チケット、銀二の支給品…。そして…、
『ン。麻雀牌1セット、針金5本。毒』
と書かれた、周りにちぎられたような跡のある紙切れ…。
後者の方はすぐにピンと来た。
銀二の支給品には『支給品一覧』もあったのである…。
麻雀牌1セット、針金5本。の部分が要らなくなったから、
もしくは自分に『これ』を気付かせるためにわざとこの部分だけ捨てていったのかもしれない。
平井銀二の真意はわからないが、真実は、銀二が『支給品一覧』を持っていたという事である。
麻雀牌を片付け、ギャンブルルーム使用時間は残り10分。
零はもう一度『ギャンブルルーム 1時間無料ペアチケット』を手に取り、眺める…。
「明るい所で近くで見てわかったけど…、随分と粗末な紙で出来ているんだな…」
肌触りも良くない…。便所紙にもならないだろう…。
何気なく裏に返し、その面の下方に目をやると…。
―TEIAI―
と書かれていた。
(えっ…!?まてよ。これって…!)
慌てて自分のバックパックからあるものを取り出す。
通常支給品である、メモ帳…。
(同じだ…。紙質…。ロゴマーク…。ご丁寧に大きさもっ…)
そして、よく見ると…。黒鉛っ…!
消しゴムで表面の字をこすると…
消えた…。
(作り物かよっ…!これっ…!あいつのお手製っ…!
まてよ…じゃあなんで、入れたんだっ…!?この部屋…)
その時…電流っ…!
零に電流走るっ…!
銀二のやったこと…全てが暴かれた…。
まず、お手製のフリーパスを作っておく。
その後、外での待ち時間分の30分プラス、実際にギャンブルルームを使うための1時間…。
計300万円×2人分をあらかじめ受付に払っておき、獲物が掛かるのを待つ…。
平井銀二はいままで、色々な人間を見てきた。
銀二の経験と理論上、この殺し合いという極限の状況でこんなにも早くにギャンブルルームなどというものにに来る人間は、
『確実に勝つ方法を握っている人間』と『本物の狂人』しかいないと踏んでいたのだろう。
自分もまた相手の手の内を知っている前者だから…。
そうして掛かった零と共にギャンブルルームへ『無償』で入る…。
室内で、あらかじめ作っておいたフリーパスをちらつかせ、
相手の手の内を『無償』で知る。
零が針金を出したのを『支給品一覧』と照らし合わせ、確信…。この獲物は『握っている人間』だと…。
零が『さりげなく』提案した麻雀に『さりげなく』食いつき、『さりげなく』承諾…。麻雀での勝負…。
だが、ここで銀二でも予測不能だった事態が発生…。
零がラス親を譲ってきた事である。
銀二は当初、麻雀牌と針金と聞いて、
どこかで聞いた事のあった、『伝説の天和九蓮宝燈』を思い浮かべた…。
しかし、零はラス親で確実に役満を取ってくることを選ばなかったのである。
あの時の腑に落ちない銀二の表情はこのためであった。
金額はもしも自分の所持金がばれた時、負けた時のために『全額』と取り決めた。
勝負がはじまり、要所々々で『イカサマを知られているかも知れない』という威圧をかける。
そして、銀二側の大仕掛けは南一局終わりからはじまっていた。
あの不気味な閉眼…。
すり替え時の暗転を予測し、目を閉じる事により瞳孔を開いていたのである…。
零の休憩の申し出により十分すぎる時間が稼げた。
そして、暗転…。
何らかの方法で照明のスイッチを切るにしろ、電球自体を割るにしろ、何かの音が鳴ること想定されたので、
電球が割れた音と同時に開眼…。
開かれた瞳孔により、零のイカサマの一部始終は筒抜け…。一部間違いを犯していたことも。
零は針金牌の表を向けながら、つまり牌の中身を晒しながらすり替えを行ったのである。
この時に、銀二、把握…。
地和、国士の三倍満狙いを。
遠慮。二重の遠慮…。
ギャンブルにて遠慮、すなわちスキを見せる事がどれだけ命取りかを零に思い知らせたっ…。
東の暗カン…。たったの1鳴きで…。
これが、天才平井銀二のした所業である。
東はちゃんと4枚揃っていた。局の始まりに集めておいたのだろう…。
まさに、人の心のスキをつく天才…。
零はあの天才…、いやむしろ悪魔のような笑顔を思い出しながらギャンブルルームを後にした…。
そういえば、標は…。板垣は、末崎はどうしているであろうか…。
『伊藤カイジ』という男でもいい…。
とにかく今は、
温もりを…。
『人間』の温もりを感じたかった…。
(森田よ…。今、お前は何をしている…。)
零という少年では、あまりに若すぎた…。
自分が死ぬかも知れぬ状況で相手を気遣い、遠慮する…。
今の子供にしては、出来すぎている、綺麗な子供だった。
それが、よくないっ…。
強運…。度胸…。図太さ…。
(やはり、オレにはお前しかいないようだ…)
零の中に逆説的に森田鉄雄を見出した銀二は、
『生き死にのギャンブル』にはまだ早いと思い、
森田鉄雄を捜すように歩き出した…。
【E-3/道路沿い/午後】
【宇海零】
[状態]:健康
[道具]:麻雀牌1セット 針金5本 不明支給品 0~1 支給品一式
[所持金]:無し
[思考]:生還 知り合いまたは伊藤カイジに会う
【平井銀二】
[状態]:健康
[道具]:支給品一覧 不明支給品0~2 支給品一式
[所持金]:1400万円
[思考]:生還 森田と合流
|008:[[天才]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[投下順>本編投下順]]|010:[[邂逅]]|
|022:[[華]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[時系列順>本編時間順]]|014:[[装備]]|
|初登場|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:宇海零|-|
|初登場|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:平井銀二|-|
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計略(後編) ◆xuebCgBLzA氏
銀二はギャンブルのアイテムが置いてある、別のテーブルの周りをうろつく。
「トランプがあるが…こいつくらいか…?高校生がわかるギャンブル…」
零は自然な流れを求めるため、自ら麻雀を種目として提案しなかった。
「はぁ…。トランプ…。丁半…。チンチロ…。あとは…麻雀…ですかね…」
銀二は足を止めた。
「麻雀がわかるのか…?」
零は喜悦を隠しつつ、
「えぇ…。まぁ」
とだけ答えた。
「しかしな…時間がかかりすぎる…」
「え…」
思わず、零、声を漏らす。
「いいのか…?麻雀が…」
(もちろんっ…!)
「え、えぇ。二人打ちの東風戦なら二局だけですし…そう時間はとらないかと…
ルールは銀二さんが決めていいですので…」
ふむ、と銀二は思考しているそぶりを見せる。
「よし、わかった。じゃあルールは…
マンズの2から8を抜いて、喰いタンあり、赤牌なし…。持ち点30000点。半荘戦…。親は…」
銀二が照明の下の雀卓に麻雀牌を持ってきながら説明する。
「オレからいいですか…?実は麻雀わかるといってもテレビゲームでしかやったことないんですよ…
サイコロとかもよくわからなくてっ」
零は無邪気に笑って見せた。
もちろん嘘八百…!
このことは銀二も気付いていたが、
「…?……あ、あぁ」
どこか腑に落ちない様子だった。
「じゃあ、親は零…。単純に、半荘終了時に点数の上だった者の勝ち…いいな…?」
「はい。額は…、金額は…どうしましょうか…?」
「もちろん…。全額っ……!異論はあるまい…!」
銀二は麻雀牌を卓にジャラジャラと広げ、もう一度威圧をかける。
「そうですね…!喜んで。お受けしましょう…!」
零なりに意気って見せた。
こうして勝負が始まった…。
(わざとオーラスまで負け続けるっていう策もあり…。
だけど万が一がある…。ハコテンっ…。)
零はその万が一を考慮し、早上がりで局を進めることにした。
東場はスムーズに流れる…。
―――東一局、東家、零。西家、銀二。
銀二、手が込み、たった3巡で飜牌、ドラ3。満貫を和了る。
親がかわり、東二局。
それを受けて零。タンヤオピンフをロン和了り。2000点取り返す。
東場が終わり、
銀二、36000点。零、24000点。
だが南場…揺れる…。
南一局、8巡目…。
「リーチっ…」
銀二、リーチ宣言。
次巡、零、生牌の中をツモり、迷う…。
(くっ…、ここに来て生牌を引くなんてっ…。…ここで降りるか…?)
実はこの時、零、すでにテンパっていた。タンピン、ドラ3の満貫手…。
(いやっ、この過酷な状況…字牌で待てるか…?普通っ…!よし…捨てる…!中っ!)
恐る恐る中切り…。
しかし…。
「クククッ…それだ…」
銀二、牌を倒す…。
「立直、一発、三暗刻、中、ドラ1…」
跳満っ…!12300点っ…!
点差、更に広がるっ…。
銀二、48300点。零、11700点。
絶望っ…!相手のオーラスを残し、点差36600点…!
圧倒的絶望っ…!本来の麻雀ならっ…!
(これでいよいよ使わざるを得なくなった…!針金牌…!)
実の所ためらっていた…。イカサマをすることは…。
あわよくば使わないで勝ちたかった…。
リスクが付きまとうからっ…!
「すっ、少し時間をくださいっ…」
「あぁ…?いいだろう…腹くくれよ…やるからには…」
そういうと、銀二は目を閉じ、黙った…。
(…?…どういう事だ…?『やるからには腹をくくれ』って…?
『金を払う事を』か…?それともっ…『イカサマを』って事か…!?
まさか気付いてる…?オレの計略…?いや、そんなはずはない…!そんなはずは…)
目を閉じている銀二を見て、この男の怖さを今一度思い知った…。
(それよりも、問題っ…!暗転させるためには…唯一の明かり…
この部屋の命である…この照明を消すしかない…!)
零はポケットに入れていた小石を握り締める。
(こいつをぶつけて…割る…。あの電球をっ…!)
手を伸ばせば届きそうな位置にまで垂れ下がっているのでうまく当たれば、電球を割る事は容易だろう…。
うまく…当たれば…。
電球を見上げて、イメージトレーニング…。
(よし…!当たる…当るぞっ…!)
「すみません…。では始めましょうか…オーラス…」
「ん…?あぁ。そうしようか…」
銀二は目を閉じたまま答える。
遂にこのギャンブルの…、必勝ギャンブルの…仕上げが始まる…。
お互いに山を作る…。
どこか銀二の動きが鈍い…。
まさかまだ目を閉じているのだろうか…。
そして、配牌…。
やはり銀二の手はおぼつかない様子で、やっとお互いに13牌、手元にそろう…。
―――と、同時に…
零、動き出す…!
ポケットで小石を握り、それを理牌するタイミングで卓の上へ持ってくる…。
その挙動のまま親指の上に小石を乗せ…
完成…!このイカサマというサスペンスの始まりを告げる花火っ…!
小さな小さな花火っ…!
(ここから見る限り…。銀二はまだ目をつぶっているように見える…。
不気味っ…。だが…それならば遠慮なく撃たせてもらう…!花火っ!)
親指が小石を弾く音…。
その後…、
電球が…、割れた音…!
暗転っ…!部屋は闇に包まれた。
花開いたのであるっ…!
嬉々とする暇なしに懐から、針金牌っ…。
暗闇に目が慣れないまま、仕事に取り掛かった…。
「何の音だっ!何があったっ…!」
受付の黒服がドアを荒めに開けて入ってきた。
光を失い、時間の止まっていた部屋に昼の光が差し込む…。
陽光が卓上に散乱している電球の破片に反射する…。
異変無し…。一見っ。
「なんだなんだ…。電球が割れたのか…。今カーテンを開ける…。待っていろ…」
黒服はカーテンを開けに向かう…。
黒服が入ってきてから今までの間、二人の間に会話…無しっ…。
ただ…ただっ…にらみ合う…。
いつの間にか銀二の目は見開いていた…。
(成功っ…!すりかえ成功っ…!)
零は見事成し遂げていた…。すり替え…。
(様子見っ…!銀二の出方を見るために…見っ…!)
しかし、最初に口を開いた銀二から零にとって意外な言葉が発せられた…。
「そりゃ悪手だろ…!ギャンブルに…ましてや、イカサマならなお遠慮はいらねぇっ…!」
カーテンが開き、止まっていた時間が動き出す…。
零は自分の耳を疑った。
(悪手…って…?まさかっ…!細工されたか…!?)
焦って自分の牌をみた…
…が、異変無しっ…!地和、国士無双、三倍満の手が出来ていた。
手中には東…。零の性格故、ぬかりはなかった…。
「クク…。じゃあ始めるかっ…。オーラス…」
何もなかったように銀二は切り出す…。
そして1巡目…!
嵐が巻き起こった…!
「ほう…。この手は和了りが早そうだな…」
銀二はそういって笑った…。
「カン…」
「えっ…!?」
1巡目の暗カン…その時点で、地和、消える…。
そして…そのカン…牌は…
まさかの『東』っ…!
「クククっ…。1巡目から飜牌を鳴かせてもらった…。悪いが…、勝たせてもらうぜ…」
零の視界っ…!歪曲っ…!
消えたのだ…。地和も…。国士無双も…。
水泡っ…!殺し合いが始まってから立てた計画が…すべて水泡っ…!
「どうした…。まだ勝負はついちゃいねぇはずだっ…!」
「いや…。降りる…。オレの…負けだ……」
小さな声で呟く…。
こうして、勝負は決した。
あのままダラダラと続けて『5枚目』の牌がでてくるのが一番避けるべき事態だった。
だから、降りた…。
銀二はもうこのギャンブルルームにはいない…。
オレは残った10と何分かで、残った麻雀牌の片付けと…、
銀二の残していった手がかりを経て銀二のやってのけた事を暴こうとしていた。
手がかり…。それは、ドアの前に落ちていた。
『ギャンブルルーム 1時間無料ペアチケット』
勝負の前に見せてもらった、チケット、銀二の支給品…。そして…、
『ン。麻雀牌1セット、針金5本。毒』
と書かれた、周りにちぎられたような跡のある紙切れ…。
後者の方はすぐにピンと来た。
銀二の支給品には『支給品一覧』もあったのである…。
麻雀牌1セット、針金5本。の部分が要らなくなったから、
もしくは自分に『これ』を気付かせるためにわざとこの部分だけ捨てていったのかもしれない。
平井銀二の真意はわからないが、真実は、銀二が『支給品一覧』を持っていたという事である。
麻雀牌を片付け、ギャンブルルーム使用時間は残り10分。
零はもう一度『ギャンブルルーム 1時間無料ペアチケット』を手に取り、眺める…。
「明るい所で近くで見てわかったけど…、随分と粗末な紙で出来ているんだな…」
肌触りも良くない…。便所紙にもならないだろう…。
何気なく裏に返し、その面の下方に目をやると…。
―TEIAI―
と書かれていた。
(えっ…!?まてよ。これって…!)
慌てて自分のバックパックからあるものを取り出す。
通常支給品である、メモ帳…。
(同じだ…。紙質…。ロゴマーク…。ご丁寧に大きさもっ…)
そして、よく見ると…。黒鉛っ…!
消しゴムで表面の字をこすると…
消えた…。
(作り物かよっ…!これっ…!あいつのお手製っ…!
まてよ…じゃあなんで、入れたんだっ…!?この部屋…)
その時…電流っ…!
零に電流走るっ…!
銀二のやったこと…全てが暴かれた…。
まず、お手製のフリーパスを作っておく。
その後、外での待ち時間分の30分プラス、実際にギャンブルルームを使うための1時間…。
計300万円×2人分をあらかじめ受付に払っておき、獲物が掛かるのを待つ…。
平井銀二はいままで、色々な人間を見てきた。
銀二の経験と理論上、この殺し合いという極限の状況でこんなにも早くにギャンブルルームなどというものにに来る人間は、
『確実に勝つ方法を握っている人間』と『本物の狂人』しかいないと踏んでいたのだろう。
自分もまた相手の手の内を知っている前者だから…。
そうして掛かった零と共にギャンブルルームへ『無償』で入る…。
室内で、あらかじめ作っておいたフリーパスをちらつかせ、
相手の手の内を『無償』で知る。
零が針金を出したのを『支給品一覧』と照らし合わせ、確信…。この獲物は『握っている人間』だと…。
零が『さりげなく』提案した麻雀に『さりげなく』食いつき、『さりげなく』承諾…。麻雀での勝負…。
だが、ここで銀二でも予測不能だった事態が発生…。
零がラス親を譲ってきた事である。
銀二は当初、麻雀牌と針金と聞いて、
どこかで聞いた事のあった、『伝説の天和九蓮宝燈』を思い浮かべた…。
しかし、零はラス親で確実に役満を取ってくることを選ばなかったのである。
あの時の腑に落ちない銀二の表情はこのためであった。
金額はもしも自分の所持金がばれた時、負けた時のために『全額』と取り決めた。
勝負がはじまり、要所々々で『イカサマを知られているかも知れない』という威圧をかける。
そして、銀二側の大仕掛けは南一局終わりからはじまっていた。
あの不気味な閉眼…。
すり替え時の暗転を予測し、目を閉じる事により瞳孔を開いていたのである…。
零の休憩の申し出により十分すぎる時間が稼げた。
そして、暗転…。
何らかの方法で照明のスイッチを切るにしろ、電球自体を割るにしろ、何かの音が鳴ること想定されたので、
電球が割れた音と同時に開眼…。
開かれた瞳孔により、零のイカサマの一部始終は筒抜け…。一部間違いを犯していたことも。
零は針金牌の表を向けながら、つまり牌の中身を晒しながらすり替えを行ったのである。
この時に、銀二、把握…。
地和、国士の三倍満狙いを。
遠慮。二重の遠慮…。
ギャンブルにて遠慮、すなわちスキを見せる事がどれだけ命取りかを零に思い知らせたっ…。
東の暗カン…。たったの1鳴きで…。
これが、天才平井銀二のした所業である。
東はちゃんと4枚揃っていた。局の始まりに集めておいたのだろう…。
まさに、人の心のスキをつく天才…。
零はあの天才…、いやむしろ悪魔のような笑顔を思い出しながらギャンブルルームを後にした…。
そういえば、標は…。板垣は、末崎はどうしているであろうか…。
『伊藤カイジ』という男でもいい…。
とにかく今は、
温もりを…。
『人間』の温もりを感じたかった…。
(森田よ…。今、お前は何をしている…。)
零という少年では、あまりに若すぎた…。
自分が死ぬかも知れぬ状況で相手を気遣い、遠慮する…。
今の子供にしては、出来すぎている、綺麗な子供だった。
それが、よくないっ…。
強運…。度胸…。図太さ…。
(やはり、オレにはお前しかいないようだ…)
零の中に逆説的に森田鉄雄を見出した銀二は、
『生き死にのギャンブル』にはまだ早いと思い、
森田鉄雄を捜すように歩き出した…。
【E-3/道路沿い/午後】
【宇海零】
[状態]:健康
[道具]:麻雀牌1セット 針金5本 不明支給品 0~1 支給品一式
[所持金]:無し
[思考]:生還 知り合いまたは伊藤カイジに会う
【平井銀二】
[状態]:健康
[道具]:支給品一覧 不明支給品0~2 支給品一式
[所持金]:1400万円
[思考]:生還 森田と合流
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|初登場|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:平井銀二|029:[[布石]]|
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