主催 - (2011/06/02 (木) 08:50:54) の最新版との変更点
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**主催 ◆IWqsmdSyz2氏
森田には時間がない。
銀二と別れた森田は、足早にE-2エリアへと向かっていた。
第三回放送は午前6時に行われる。
それまでに、ギャンブルルームに6つの首輪を持ち込まなければならない。
森田の首輪には3つ分の価値を取り付けてあった。
現時点で所持しているのは船井の首輪、そして森田自身の首輪の計2つ
――つまり換算すれば首輪4つ分を、所持していることになる。
(最低でもあと2つ首輪を集める・・・当然なさねばならない・・・!だが・・・)
主催とのギャンブルに勝利するための道のりには、リスクと不安がひしめいている。
規定数の首輪を集めることは第一として、
ギャンブルルームにて申告を完了させなければ依頼達成は認められない。
相手が主催者という立場である以上、イレギュラーにどこまでの対応を望めるのかは未知。
そもそもすべてが、この舞台を用意した主催のさじ加減ひとつでどうにでもなる。
都合よく事が運べば、南郷と待ち合わせているG-6エリアのギャンブルルームで申告をする予定だ。
しかし、例えば待ち合わせ場所も含め近隣のギャンブルルームすべてが使用中だったらどうなる?
南郷との合流に佐原が同行している可能性があることも、森田にとって無視できない問題だった。
佐原の精神状態が、好転していれば問題ない。
その上での同行ならば、仲間として受け入れることも出来よう。
ただ、南郷を唆して森田に敵対してくる形もありえる。
敵対する二人を説得するだけの余裕は、時間的にも精神的にも無い。
解除権の譲渡――これも森田のクリアするべき要点である。
冷静に考えて、現在の時刻から第三回の放送までに首輪をあと5つ集めるのは難しい。
森田自身の首輪も計上して行動しなければ、非常に厳しい状況だといえる。
自分の首輪を主催者側に受け渡す。そう告げた後のことは想像に難くない。
取引が成立したところで、森田がその口から解除権を行使できる可能性は低いのだ。
解除権の譲渡先として一番に思い浮かぶのは当然、南郷だ。
G-6エリアで合流し、南郷に解除権を譲渡。
そのままギャンブルルームで申告できるのだから無駄がない。
だが森田は、悩んでいた。
南郷という男の信用性が問題なのではない。
その観点から言えば、森田は南郷を信じていた。
佐原のことについては、ひとまず横に置く。
それでも、森田は南郷に解除権を託せるか悩んでいるのだ。
気になるのは、解除権を的確に行使できるかどうかである。
対主催として、このゲームを覆す足がかりとしての解除権だ。
ただ単にD-4エリアの禁止指定を解除すれば終わり、というものではない。
如何にしてその後に繋げていくかが重要だった。
“解除はしたけれどどうしようもない”では死に損だ、と森田は思う。
平井銀二と行動を共にしていた原田克美という人物。
彼に解除権を受け渡せばいい、そう考えもした。
銀二と行動しているくらいなのだから、相応の頭脳を持っているに違いない。
しかし、銀二と袂を分かった以上、原田に協力を頼むのは諦めるほかないだろう。
銀二に頼むという選択肢も、無論潰えている。
(首輪を探す・・・これだけでも大仕事だがっ・・・・確実に繋げたい・・・・・!
対主催の人間たちのための・・・・光なんだ・・・!
協力者っ・・・!探すっ・・・・禁止エリア解除権を託せる人間をっ・・・!)
森田は、引き続きE-2エリアを目指して歩みを進めている。
E-5病院付近に首輪があるのは確かで、
銀二と出会う前まではそちらを回収するつもりでいた。
逆方向であるE-2へ進路を変えたのには理由がある。
その判断の発端が銀二の言葉であることは言うまでもない。
『E-2エリアのギャンブルルームに村岡という男がいる』
村岡は首輪の情報を収集しているという。
首輪自体を集めている可能性も大きい。
銀二によると村岡の所在地は2時間前時点の情報だが、
それでも、今もE-2エリア付近に村岡がいるのではないかと思われた。
村岡の目的が首輪の情報収集ならば長距離を移動することはないだろうと踏んだのだ。
E-2エリアを目指す理由は、まず村岡に会うためだった。
E-3エリアを大きく横切るルートをとれば、首輪探しも両立できる。
E-3エリアに死体があることはフロッピーからの情報で確認済みだ。
何かと人通りの多いエリアであることから、
森田が新しい情報を仕入れられなくなって以降に死体が増えているかもしれない。
村岡に会うこと、その道すがらに首輪を手に入れること。
この二点を両立出来れば、E-5エリアで首輪を回収するよりも状況は良い。
そして、森田の目的はそれだけではなかった。
対主催の志を持つ者。なおかつ、森田の思惑を理解できる者。
森田の求める“牙”との出会い――。
森田は、対主催の人間との接触を狙っているのだ。
南郷と会うまでに、禁止エリアの解除を生かせる人間と手を組んでおく。
最善はG-6エリアの待ち合わせ場所まで、その人間に同行を頼むことだ。
解除権の行使と、その後主催打倒までの一切を託せれば、この上ない。
最低限、森田が対主催の人間と接触をして禁止エリア解除について伝えさえ出来れば、
D-4エリアの解除を南郷に頼んでも、そこで流れが途切れずに済む。
となれば、譲渡候補を見つけ出し、話をつけておくのは重要事項だと言える。
E-2エリアを目指すもうひとつの理由。
有力な対主催人物と会うために、森田はこのルートを選んだのだった。
フロッピーの情報だけを元に導き出したため不安は残るものの、
E-2エリアへの道中付近には、対主催かつ実力のありそうな人物が二人いるはずだ。
周囲の様子を確認してから立ち止まり、手帳を取り出す。
離れた場所の外灯や、遠く月明かりを頼りにしても、文字は読みにくい。
それでも森田は確認するように、手帳をめくった。
程なくして、一人目の譲渡候補のページで手が止まる。
森田は、この“候補”はしばらくE-3エリアから移動しないだろうと踏んでいる。
(この男・・・ウカイゼロ・・・!まずはこいつだっ・・・!
優秀かつ誠実・・・!
遠藤の名簿とフロッピー内に入っていた簡易データだけでわかるほどに・・・!
なによりも・・・ゲームが始まって早々に銀さんとギャンブルをしている・・・!
結果銀さんの勝利・・・だがギャンブルをしたというその事実のみで十分・・・
つまりこいつは・・銀さんがギャンブルの相手に足ると思った人物なんだっ・・・・!
“ジュウヨウカイワ”として送られてきたいくつかの情報を見ても・・・
この男は間違いなく対主催として動いている・・・!)
気がかりなのは、零と行動を共にしている人物だ。
沢田、そして工藤という男は、すでに一人ずつ殺している。
森田の元に入ってきている会話内容から考えるに、
零と行動するようになって以降、いずれも対主催の一員として括れる様子だった。
しかし、腹の中で何を考えているのか、
それは実際に会わなければ推し量ることが出来ない。
森田は続けて手帳をめくる。二人目の“候補”のページ。
この“候補”はマップの縦軸『3』付近を南下している。
その足取りはC-4エリアからD-3エリアへ――そしてE-3エリアに向かう。
森田が最後に確認したとき、彼の位置は丁度E-3エリアに差し掛かるかどうかだった。
フロッピーを壊す直前までの段階で、この“候補”は休息を取ることなく移動している。
ギャンブルルームの利用も、体を休める目的ではなかったようだ。
フロッピーからわかるだけでも、足の怪我、長距離の移動、ギャンブル。
肉体的にだけではなく精神的疲労も蓄積されている状態。
この“候補”が移動を休むのならば第三回放送前の今ではないか、と森田は考えた。
そのため、E-3エリア付近で鉢合わせる可能性は十分あると思われる。
(イトウカイジ・・・!
参加者名簿でも扱いがよかった男・・・田中さんと行動を共にしていた男・・・!
女に手をかけないということは・・・・ゲームに乗っていない証拠・・・
カイジは銀さんと接触した形跡もある・・・それだけじゃない・・!
多くの人物との接触・・・!それにも関わらず・・・生存・・・!
あの有賀との対峙さえ乗り越えて生存・・・!)
しかし、カイジにも不安な点がある。
一つ目は怪我の具合だ。
フロッピーに送られてくる文字だけではわからない。
状態によっては、対主催としての足手まといになるということもある。
二つ目は田中沙織について。
田中沙織の動向は、カイジと別行動になってから大きく変容した。
森田が最後に確認した時点で、田中は極めて危険。
デリケートな扱いを要する人物となっている。
カイジは、その田中沙織との再会を切望しているようだ。
顔見知りである田中は、森田としても会っておきたかった人物だ。
それでも、それはもう叶わないものとして割り切ることが出来る。
田中を見捨てる、というのではなく
現状彼女に出会って救い出せるだけの余裕がない。
主催を倒すことが、田中沙織を救うことに繋がるだろうと割り切るしかないのだ。
だが、カイジがどういった考えを持っているかはわからない。
打倒主催よりも、田中沙織との再会を優先させるかも知れない。
(悩んでも・・・それこそ時間の無駄・・・!今はそういう状況・・・
いくら己の足で、己の目で情報を集めたいと願ったところで・・・・
現段階で有力な情報を持ち合わせていない・・・フロッピーからの情報だけが頼り・・・
主催相手のギャンブルの武器が主催からの情報しかないとは皮肉だが・・・
それさえもギャンブル・・・!
フロッピーから情報を入手した瞬間・・・・すでにオレと主催の博打は始まってたってわけだ・・・・!)
宇海零、伊藤開司。
二人のうちどちらかに会えれば、道は開けるのではないか。
いささか楽観的ではあるが、森田はそう考えていた。
最も望まれるのは、両人に会えることだ。
どちらかが信用に足らない、実力が不足していると思われた場合に
もう一方に賭けることが出来るのならばそれが一番いい。
森田がフロッピーから得た大量の情報。
重要会話や交戦記録といった項目は主催の手が加えられている恐れもある。
しかし、移動歴に限れば、信頼度は高いといえるだろう。
主催は殺し合いを望んでいるのだ。
今回持ちかけられたギャンブルのルール“生存者の首輪の価値”からもわかるとおり、
森田が誰かを殺すのならば大歓迎といった様子。
それならば、参加者の移動歴を偽る必要性があまりに薄い。
移動歴がわかるからこそ、森田は他の参加者より優位に立ち、
ターゲットと接触する確率をあげられるのだから。
手帳をしまうと、森田は再び歩き出す。
まもなくE-3エリアだろうか。
道路に寄り過ぎず、かといって森に隠れきるでもなく、
大胆かつ慎重に森田は移動した。
特に気を配るのは足元で、なぜならば死体が隠れているかもしれない。
身を隠せるような家屋を探すことも怠らなかった。
無論、自分が潜むためではなく、零やカイジを探すためである。
船井の死体をあっさりと見つけたこともあって、
森田は早くに首輪を集められるのではないかと希望を持っていた。
期待は外れ、銀二と別れてから幾らか経っても人影は見つからない。
生きた人間にも、死んだ人間にも、会うことはなかった。
(もっと・・・道路に寄ったほうがいいのか・・・?
たしかに見える・・・外灯に近づいたほうが・・・周囲の様子がわかる・・・
同時に他人から見つかってしまうかもしれないというリスクがあるが・・・・
それを冒してでも・・・・首輪を手に入れたいのは事実・・・!)
いっそのこと道路の真ん中でも歩いた方がよいのかもしれない。
森田がそう考えた瞬間、事態は一変した。
静かな夜に、ひとつ、背筋をざわつかせる音が響いたのだ。
(銃声っ・・・・!)
そう遠くない距離。場所は数百メートルほど先だろうか。
カイジや零が関わっていないことを祈りながら
――誰が関わっていようとも本来銃声の轟く事態など喜ばしくはないはずなのだが……
森田は一層慎重に、銃声の発信源を探った。
僅かな期待が湧き出るのは確かだった。
首輪が手に入るかもしれない、という気持ち。
これでは本末転倒である。
殺し合いを止めたいから、このゲームを覆したいから首輪を集めている。
首輪が手に入ることに、喜びを感じるようでは悪いのだ。
しかし、湧き出るものを肯定も否定もしないまま、森田は耳を澄ませていた。
続けてもう一発。銃声が響き渡る。
(道路の先だな・・・)
おおよその距離感は掴めた。
道路沿いであろうことは間違いなく、このまま森田が直進すれば、
その現場にかち合うだろうことも想像された。
二発の銃声だけでは、詳細な状況は推測できない。
交戦中なのだと判断していいのかさえ、まだわからない。
本来ならば、すぐにでもこの場を離れるべきなのだろう。
しかし森田の置かれた立場は、その“本来”には当てはまらない。
銀二と別れてからここまで、
外灯に照らされた明るい道路からは、数十メートルの距離をとって歩いてきた。
それは己の保身のため。同時に首輪収集のため。
道路上及びその付近に死体があった場合に気付けるだろうギリギリで移動していたのだ。
銃声が響いた今、森田は敢えて道路まで歩み寄った。
銃声の元までは距離がある。例え見つかっても森に逃げ込めば撃たれまい。
細心の注意を払いながら、森田は最寄りの外灯の下へ移動する。
草場で体を隠しながら、明るくなった手元に手帳を取り出す。
(銃火器を支給されたのは・・・)
交戦記録、会話記録などから推測できる範囲で、
危険物を支給されたと思われる人物はマークしてある。
その中から、今E-3エリアにいる可能性のある人物を拾う。
銃声の主が、かなり絞り込めるはずだ。
(佐原・・ではないな・・・。
原田克美も拳銃を持っていたようだが・・・ここにいるはずがない・・・。
三好・・・こいつはもう死んでいて・・・
あぁっ・・・!一条と利根川・・・!
こいつらは・・・銃で他人を殺傷している・・・!)
一条と利根川は、遠藤と参加者名簿を使って話し合った際に
“危険人物”としてチェックした人物でもあった。
(すると・・・高いっ・・・!この銃声が交戦によるものだという可能性が・・・!)
森田は素早く道路を横切り、銃声の方角に注意を払いながらその場を離れる。
発砲したのが一条か利根川であるのならば、目的は間違いなく参加者の殺傷。
このまま道路沿いに歩いていけば、現場に辿りつくことになる。
そこに、誰かの亡骸があるかもしれない。
そこに、森田の求めていた“首輪”があるかもしれなかった。
しかし、今それを探しにいったところで、森田自身の生存率を下げるだけだ。
銃声の主が移動するまでは、この付近にいては危ない。
(まずは村岡に会う・・・・これを優先・・・!
そこで首輪を譲ってもらえれば上々・・・・
その後G-6で南郷と落ち合うまでの道中で・・・・探すっ・・・!首輪を・・・・!
先刻の銃声の発生場所も・・・調べる・・・・!念入りに・・・・!だが今は・・・・)
今まで極力道路に沿って歩いてきた森田だったが、この発砲で状況は変わった。
道路に沿って歩いたのは死体の捜索をしながらE-2エリア向かうため。
ここからは、最短距離でE-2エリアの目的地を目指す。
道路を渡ったことによって、E-2エリアまでは木々の中を抜ければ辿りつく形になった。
ゲームに乗っているかもしれない人物が近くにいるのならば、
死体の捜索よりも、生きているはずの村岡に会うことを優先するべきなのだ。
森田は汗ばんだ手で己の首輪に触れる。
(生きて・・・生きてこの首輪を持っていかなければならない・・・!
この首輪の死ぬ瞬間が勝利に繋がらなけりゃ・・・・オレが報われねぇ・・・・!)
* * *
E-2エリアに入ってから間もなく、森田は目的のギャンブルルームを見つけることが出来た。
目前のギャンブルルームは、異様な雰囲気を纏っている。
この地に置いて、異様ではないものなどありえないのだが、
それを差し引いても、今まで森田が見たギャンブルルームとは何かが違った。
「黒服が不在・・・?」
本来ならばそこにいるはずの、受付の黒服がいない。
ギャンブルルームの利用は30分100万円――これを成り立たせるために、
建物の出入口からは黒服の姿が確認できるはずだった。
(ギャンブル中っ・・・!黒服が受付にいないということは・・・
このギャンブルルームは使用中なんだ・・・・!)
ギャンブルルームが使用中の今、室内に参加者がいるということになる。
その人物が村岡である可能性は十分あった。
情報収集を目的としているのならば、ギャンブルは有用だ。
村岡がギャンブルによって首輪の情報(及び首輪そのもの)を収集していても不自然ではない。
(だが・・・違う・・・!この違和感の正体は・・・
黒服がいないから・・・部屋が使用中だから・・・そうではないっ・・・!)
謂わば本能に語りかけてくるような感覚。
森田の足は自然とギャンブルルームの入り口、扉へと向かっていく。
いくら近づいても、いざギャンブルルームの扉に手をかけても、
一向に黒服が現れる様子はなかった。
耳を澄ませても室内から一切の音は漏れ聞こえず、人の気配さえわからない。
いよいよ森田は扉に添えた手に力をいれる。
あくまでも確認。そういった心持ちであった。
当然、扉は鍵がかかっていて開かないはずなのだから。
しかし、目前のギャンブルルームは森田の予想を裏切る。
(ロックされていない・・・・・!)
ギャンブルルームの扉が、まさかこんなに簡単に突破できるだろうか。
使用中は扉がロックされ、外から開閉出来ない形になるはずだ。
黒服が受付を行っていないということは、ギャンブルルームが使用中である証拠。
しかし、森田がさらに力を込めれば、扉は容易く部屋への侵入を許す。
ギャンブルが行われているのなら、部外者の介入など認められるわけがないのに。
このギャンブルルームで何が起こっているのか、まったく想像がつかなくなった。
森田は強い警戒心を抱きながら、意を決して室内に足を踏み入れた。
ギャンブルルーム内での暴力沙汰は厳禁である。
突然襲われる心配はない、というルールになっている。
とはいえ、懐のナイフに手を伸ばすのは忘れない。
肩で扉を押し留めながら室内を見渡した森田の目に、あるはずのない光景が映る。
「なんだっ・・・?これは・・・・」
二つの死体。
一つは首から上が原型をとどめていない。
目を背けたくなるような肉塊の中に、金属が鈍く光る。おそらく首輪だろう。
これだけでも、死体ひとつでも、ここにあるはずのない光景。
ギャンブルルーム内でこのような惨状が許されるのか。
更なる事態の異質さは、部屋の奥に存在する。
準備室、休憩室、あるいは周辺地域を監視する部屋なのか――
所謂バックルームらしきその扉から、ぴくりとも動かない足が覗いていた。
一つ目の死体の傍から、点々と血を垂らして移動、やがて力尽きたのだろう。
狭いギャンブルルーム内に於いて二つ目の死体である。
この段になると、さすがの森田も鼓動が早まるのを感じた。
辛うじて冷静さを保ちながら、バックルームの死体へ歩み寄る。
(この死体・・・・黒服じゃねぇかっ・・・・!
参加者じゃなく・・・・主催側の人間っ・・・・・・!)
参加者の首輪が爆発し、近くにいた黒服が巻き込まれた――。
状況からシナリオの大筋は、想像できる。
それにしても理解しがたい点が多すぎて、森田はただ黒服の死体を見下ろすほかない。
(どうしてギャンブルルーム内で首輪が爆発する・・・・?
許されていない・・・!参加者には・・・ギャンブルルーム内での暴力沙汰は・・・・!
即ち・・・・ギャンブルで生き死にを賭けたとしても・・・・
首輪が爆破されるのは室外・・・・ギャンブルルームから出たあとだと・・・・そう思っていた・・・)
バックルームには、電話とモニター、事務机に灰皿。
電話は本部にでも繋がっているのだろう。
主催と接触する機会を持つ今の森田には意味のないものだ。
モニターには、どこかで見たような画面が映し出されていた。
(俺に支給されたフロッピー・・・あれに送られてくるデータとよく似ている・・・・!)
モニターの映像、その形式はたしかに、フロッピーの情報と瓜二つであった。
ただし、森田のフロッピーに比べて、より詳細な情報が表示されている。
そのかわり映される範囲は極めて狭まっており
このギャンブルルームを中心に、精精隣り合わせているエリアまでだ。
一時間毎という制約はなく、リアルタイムで状況が反映されているのだろう。
“モリタテツオ”と“ムラオカタカシ”の文字が、モニター上のギャンブルルームで光っている。
“ムラオカタカシ”は赤字で表示されていることから、
首輪がある方の死体は村岡隆その人なのだろうとわかる。
(村岡・・・誰かとギャンブルでもしたのか・・・・・?
負けて首輪が爆破されたのだとしても・・・・黒服が巻き込まれているのは何故だ・・・
ギャンブルルーム内での暴力行為の禁止は、黒服の安全確保の意もあると思っていたが・・・
自由に首輪の爆破をコントロール出来るはずの主催がどうして・・・・
いったい何を考えて・・・黒服を巻き込む形で首輪を爆破したんだ・・・?)
あまりに不気味な得体の知れぬ何か。
その存在を感じたような気がして、森田は背筋を凍らせながらバックルームを後にする。
そもそもが、扉のロックは本部からの遠隔操作も可能だろう。
こんな異様な室内をこのままに、まるで誰かに見て欲しいと言わんばかりに放置しているのはおかしい。
余計な詮索をして、森田自身の首輪まで爆破されるようでは困る。
(首輪の回収・・・・させてもらうぜ・・・!)
森田は村岡の死体の前で手を合わせると、
首輪と言われても一目ではわからないような鉄の塊を、血の海から掬い出した。
その足取りで、ギャンブルルームを退出する。
考えることは山のようにあるが、如何せん森田には時間がないのだ。
【E-2/小道沿いのギャンブルルーム前/黎明】
【森田鉄雄】
[状態]:左腕に切り傷 わき腹に打撲
[道具]:フロッピーディスク(壊れた為読み取り不可) 折り畳み式の小型ナイフ(素材は絶縁体) 不明支給品0~2(武器ではない) 支給品一式 船井の首輪・村岡の首輪(いずれも爆発済み)
[所持金]:1000万円
[思考]:遠藤を信用しない 人を殺さない 首輪を集める 銀さんに頼らない E-3銃声の場所を調べる(利根川の死体) 宇海零か伊藤開司と接触をはかりたい
※フロッピーで得られる情報の信憑性を疑っています。今までの情報にはおそらく嘘はないと思っています。
※遠藤がフロッピーのバックアップを取っていたことを知りません。
※森田が主催と交わした契約を知りました。南郷と第3放送の一時間前にG-6のギャンブルルーム前で合流すると約束しました。
※以下の依頼を受けました。契約書を1部所持しています。
※黒崎から支給された、折り畳み式の小型ナイフを懐に隠し持っています。
※黒幕が帝愛、在全、蔵前であること、銀二がバトルロワイアルの首脳会議に参加し、今回の企画立案をし、病院がらみのスキャンダルで主催者を潰すこと、D-4ホテルで脱出の申請を行うことができる可能性について聞きました。
――――――――――――――――――――――――――
【依頼内容】
制限時間内に首輪を6個集めること。
期間は依頼受託時から、第4回放送終了まで。
死体から集めた首輪は1個、生存者の首から奪った首輪は2個とカウントする。
森田鉄雄、平井銀二の首輪は3個とカウントする。
第4回放送を過ぎても集められなかった場合は依頼未達成とみなし、森田鉄雄の首輪を爆破する。
森田鉄雄がギャンブルルームに規定数の首輪を持参し、申告した時点で依頼達成とする。
資金の受渡は申告と同時に、ギャンブルルームにて行う。
【報酬一覧】
第2回放送終了までに集めた場合
ゲームを棄権する資金1億円+ボーナス2億円
第3回放送終了までに集めた場合
進入禁止エリアの解除権(60分間)>※
他者に譲渡可能。ただし、渡す側、受け取る側、双方の意思確認が必要。
確認がとれない場合、権利そのものが消失する。
第4回放送終了までに集めた場合
報酬、ボーナスともになし
※補足>進入禁止エリア一箇所の永久解除権(権利が発生してから60分間以内に使わないと無効)
|145:[[同窓]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[投下順>本編投下順]]|147:[[分別]]|
|145:[[同窓]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[時系列順>本編時間順]]||
|140:[[正義]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:森田鉄雄||
**主催 ◆IWqsmdSyz2氏
森田には時間がない。
銀二と別れた森田は、足早にE-2エリアへと向かっていた。
第三回放送は午前6時に行われる。
それまでに、ギャンブルルームに6つの首輪を持ち込まなければならない。
森田の首輪には3つ分の価値を取り付けてあった。
現時点で所持しているのは船井の首輪、そして森田自身の首輪の計2つ
――つまり換算すれば首輪4つ分を、所持していることになる。
(最低でもあと2つ首輪を集める・・・当然なさねばならない・・・!だが・・・)
主催とのギャンブルに勝利するための道のりには、リスクと不安がひしめいている。
規定数の首輪を集めることは第一として、
ギャンブルルームにて申告を完了させなければ依頼達成は認められない。
相手が主催者という立場である以上、イレギュラーにどこまでの対応を望めるのかは未知。
そもそもすべてが、この舞台を用意した主催のさじ加減ひとつでどうにでもなる。
都合よく事が運べば、南郷と待ち合わせているG-6エリアのギャンブルルームで申告をする予定だ。
しかし、例えば待ち合わせ場所も含め近隣のギャンブルルームすべてが使用中だったらどうなる?
南郷との合流に佐原が同行している可能性があることも、森田にとって無視できない問題だった。
佐原の精神状態が、好転していれば問題ない。
その上での同行ならば、仲間として受け入れることも出来よう。
ただ、南郷を唆して森田に敵対してくる形もありえる。
敵対する二人を説得するだけの余裕は、時間的にも精神的にも無い。
解除権の譲渡――これも森田のクリアするべき要点である。
冷静に考えて、現在の時刻から第三回の放送までに首輪をあと5つ集めるのは難しい。
森田自身の首輪も計上して行動しなければ、非常に厳しい状況だといえる。
自分の首輪を主催者側に受け渡す。そう告げた後のことは想像に難くない。
取引が成立したところで、森田がその口から解除権を行使できる可能性は低いのだ。
解除権の譲渡先として一番に思い浮かぶのは当然、南郷だ。
G-6エリアで合流し、南郷に解除権を譲渡。
そのままギャンブルルームで申告できるのだから無駄がない。
だが森田は、悩んでいた。
南郷という男の信用性が問題なのではない。
その観点から言えば、森田は南郷を信じていた。
佐原のことについては、ひとまず横に置く。
それでも、森田は南郷に解除権を託せるか悩んでいるのだ。
気になるのは、解除権を的確に行使できるかどうかである。
対主催として、このゲームを覆す足がかりとしての解除権だ。
ただ単にD-4エリアの禁止指定を解除すれば終わり、というものではない。
如何にしてその後に繋げていくかが重要だった。
“解除はしたけれどどうしようもない”では死に損だ、と森田は思う。
平井銀二と行動を共にしていた原田克美という人物。
彼に解除権を受け渡せばいい、そう考えもした。
銀二と行動しているくらいなのだから、相応の頭脳を持っているに違いない。
しかし、銀二と袂を分かった以上、原田に協力を頼むのは諦めるほかないだろう。
銀二に頼むという選択肢も、無論潰えている。
(首輪を探す・・・これだけでも大仕事だがっ・・・・確実に繋げたい・・・・・!
対主催の人間たちのための・・・・光なんだ・・・!
協力者っ・・・!探すっ・・・・禁止エリア解除権を託せる人間をっ・・・!)
森田は、引き続きE-2エリアを目指して歩みを進めている。
E-5病院付近に首輪があるのは確かで、
銀二と出会う前まではそちらを回収するつもりでいた。
逆方向であるE-2へ進路を変えたのには理由がある。
その判断の発端が銀二の言葉であることは言うまでもない。
『E-2エリアのギャンブルルームに村岡という男がいる』
村岡は首輪の情報を収集しているという。
首輪自体を集めている可能性も大きい。
銀二によると村岡の所在地は2時間前時点の情報だが、
それでも、今もE-2エリア付近に村岡がいるのではないかと思われた。
村岡の目的が首輪の情報収集ならば長距離を移動することはないだろうと踏んだのだ。
E-2エリアを目指す理由は、まず村岡に会うためだった。
E-3エリアを大きく横切るルートをとれば、首輪探しも両立できる。
E-3エリアに死体があることはフロッピーからの情報で確認済みだ。
何かと人通りの多いエリアであることから、
森田が新しい情報を仕入れられなくなって以降に死体が増えているかもしれない。
村岡に会うこと、その道すがらに首輪を手に入れること。
この二点を両立出来れば、E-5エリアで首輪を回収するよりも状況は良い。
そして、森田の目的はそれだけではなかった。
対主催の志を持つ者。なおかつ、森田の思惑を理解できる者。
森田の求める“牙”との出会い――。
森田は、対主催の人間との接触を狙っているのだ。
南郷と会うまでに、禁止エリアの解除を生かせる人間と手を組んでおく。
最善はG-6エリアの待ち合わせ場所まで、その人間に同行を頼むことだ。
解除権の行使と、その後主催打倒までの一切を託せれば、この上ない。
最低限、森田が対主催の人間と接触をして禁止エリア解除について伝えさえ出来れば、
D-4エリアの解除を南郷に頼んでも、そこで流れが途切れずに済む。
となれば、譲渡候補を見つけ出し、話をつけておくのは重要事項だと言える。
E-2エリアを目指すもうひとつの理由。
有力な対主催人物と会うために、森田はこのルートを選んだのだった。
フロッピーの情報だけを元に導き出したため不安は残るものの、
E-2エリアへの道中付近には、対主催かつ実力のありそうな人物が二人いるはずだ。
周囲の様子を確認してから立ち止まり、手帳を取り出す。
離れた場所の外灯や、遠く月明かりを頼りにしても、文字は読みにくい。
それでも森田は確認するように、手帳をめくった。
程なくして、一人目の譲渡候補のページで手が止まる。
森田は、この“候補”はしばらくE-3エリアから移動しないだろうと踏んでいる。
(この男・・・ウカイゼロ・・・!まずはこいつだっ・・・!
優秀かつ誠実・・・!
遠藤の名簿とフロッピー内に入っていた簡易データだけでわかるほどに・・・!
なによりも・・・ゲームが始まって早々に銀さんとギャンブルをしている・・・!
結果銀さんの勝利・・・だがギャンブルをしたというその事実のみで十分・・・
つまりこいつは・・銀さんがギャンブルの相手に足ると思った人物なんだっ・・・・!
“ジュウヨウカイワ”として送られてきたいくつかの情報を見ても・・・
この男は間違いなく対主催として動いている・・・!)
気がかりなのは、零と行動を共にしている人物だ。
沢田、そして工藤という男は、すでに一人ずつ殺している。
森田の元に入ってきている会話内容から考えるに、
零と行動するようになって以降、いずれも対主催の一員として括れる様子だった。
しかし、腹の中で何を考えているのか、
それは実際に会わなければ推し量ることが出来ない。
森田は続けて手帳をめくる。二人目の“候補”のページ。
この“候補”はマップの縦軸『3』付近を南下している。
その足取りはC-4エリアからD-3エリアへ――そしてE-3エリアに向かう。
森田が最後に確認したとき、彼の位置は丁度E-3エリアに差し掛かるかどうかだった。
フロッピーを壊す直前までの段階で、この“候補”は休息を取ることなく移動している。
ギャンブルルームの利用も、体を休める目的ではなかったようだ。
フロッピーからわかるだけでも、足の怪我、長距離の移動、ギャンブル。
肉体的にだけではなく精神的疲労も蓄積されている状態。
この“候補”が移動を休むのならば第三回放送前の今ではないか、と森田は考えた。
そのため、E-3エリア付近で鉢合わせる可能性は十分あると思われる。
(イトウカイジ・・・!
参加者名簿でも扱いがよかった男・・・田中さんと行動を共にしていた男・・・!
女に手をかけないということは・・・・ゲームに乗っていない証拠・・・
カイジは銀さんと接触した形跡もある・・・それだけじゃない・・!
多くの人物との接触・・・!それにも関わらず・・・生存・・・!
あの有賀との対峙さえ乗り越えて生存・・・!)
しかし、カイジにも不安な点がある。
一つ目は怪我の具合だ。
フロッピーに送られてくる文字だけではわからない。
状態によっては、対主催としての足手まといになるということもある。
二つ目は田中沙織について。
田中沙織の動向は、カイジと別行動になってから大きく変容した。
森田が最後に確認した時点で、田中は極めて危険。
デリケートな扱いを要する人物となっている。
カイジは、その田中沙織との再会を切望しているようだ。
顔見知りである田中は、森田としても会っておきたかった人物だ。
それでも、それはもう叶わないものとして割り切ることが出来る。
田中を見捨てる、というのではなく
現状彼女に出会って救い出せるだけの余裕がない。
主催を倒すことが、田中沙織を救うことに繋がるだろうと割り切るしかないのだ。
だが、カイジがどういった考えを持っているかはわからない。
打倒主催よりも、田中沙織との再会を優先させるかも知れない。
(悩んでも・・・それこそ時間の無駄・・・!今はそういう状況・・・
いくら己の足で、己の目で情報を集めたいと願ったところで・・・・
現段階で有力な情報を持ち合わせていない・・・フロッピーからの情報だけが頼り・・・
主催相手のギャンブルの武器が主催からの情報しかないとは皮肉だが・・・
それさえもギャンブル・・・!
フロッピーから情報を入手した瞬間・・・・すでにオレと主催の博打は始まってたってわけだ・・・・!)
宇海零、伊藤開司。
二人のうちどちらかに会えれば、道は開けるのではないか。
いささか楽観的ではあるが、森田はそう考えていた。
最も望まれるのは、両人に会えることだ。
どちらかが信用に足らない、実力が不足していると思われた場合に
もう一方に賭けることが出来るのならばそれが一番いい。
森田がフロッピーから得た大量の情報。
重要会話や交戦記録といった項目は主催の手が加えられている恐れもある。
しかし、移動歴に限れば、信頼度は高いといえるだろう。
主催は殺し合いを望んでいるのだ。
今回持ちかけられたギャンブルのルール“生存者の首輪の価値”からもわかるとおり、
森田が誰かを殺すのならば大歓迎といった様子。
それならば、参加者の移動歴を偽る必要性があまりに薄い。
移動歴がわかるからこそ、森田は他の参加者より優位に立ち、
ターゲットと接触する確率をあげられるのだから。
手帳をしまうと、森田は再び歩き出す。
まもなくE-3エリアだろうか。
道路に寄り過ぎず、かといって森に隠れきるでもなく、
大胆かつ慎重に森田は移動した。
特に気を配るのは足元で、なぜならば死体が隠れているかもしれない。
身を隠せるような家屋を探すことも怠らなかった。
無論、自分が潜むためではなく、零やカイジを探すためである。
船井の死体をあっさりと見つけたこともあって、
森田は早くに首輪を集められるのではないかと希望を持っていた。
期待は外れ、銀二と別れてから幾らか経っても人影は見つからない。
生きた人間にも、死んだ人間にも、会うことはなかった。
(もっと・・・道路に寄ったほうがいいのか・・・?
たしかに見える・・・外灯に近づいたほうが・・・周囲の様子がわかる・・・
同時に他人から見つかってしまうかもしれないというリスクがあるが・・・・
それを冒してでも・・・・首輪を手に入れたいのは事実・・・!)
いっそのこと道路の真ん中でも歩いた方がよいのかもしれない。
森田がそう考えた瞬間、事態は一変した。
静かな夜に、ひとつ、背筋をざわつかせる音が響いたのだ。
(銃声っ・・・・!)
そう遠くない距離。場所は数百メートルほど先だろうか。
カイジや零が関わっていないことを祈りながら
――誰が関わっていようとも本来銃声の轟く事態など喜ばしくはないはずなのだが……
森田は一層慎重に、銃声の発信源を探った。
僅かな期待が湧き出るのは確かだった。
首輪が手に入るかもしれない、という気持ち。
これでは本末転倒である。
殺し合いを止めたいから、このゲームを覆したいから首輪を集めている。
首輪が手に入ることに、喜びを感じるようでは悪いのだ。
しかし、湧き出るものを肯定も否定もしないまま、森田は耳を澄ませていた。
続けてもう一発。銃声が響き渡る。
(道路の先だな・・・)
おおよその距離感は掴めた。
道路沿いであろうことは間違いなく、このまま森田が直進すれば、
その現場にかち合うだろうことも想像された。
二発の銃声だけでは、詳細な状況は推測できない。
交戦中なのだと判断していいのかさえ、まだわからない。
本来ならば、すぐにでもこの場を離れるべきなのだろう。
しかし森田の置かれた立場は、その“本来”には当てはまらない。
銀二と別れてからここまで、
外灯に照らされた明るい道路からは、数十メートルの距離をとって歩いてきた。
それは己の保身のため。同時に首輪収集のため。
道路上及びその付近に死体があった場合に気付けるだろうギリギリで移動していたのだ。
銃声が響いた今、森田は敢えて道路まで歩み寄った。
銃声の元までは距離がある。例え見つかっても森に逃げ込めば撃たれまい。
細心の注意を払いながら、森田は最寄りの外灯の下へ移動する。
草場で体を隠しながら、明るくなった手元に手帳を取り出す。
(銃火器を支給されたのは・・・)
交戦記録、会話記録などから推測できる範囲で、
危険物を支給されたと思われる人物はマークしてある。
その中から、今E-3エリアにいる可能性のある人物を拾う。
銃声の主が、かなり絞り込めるはずだ。
(佐原・・ではないな・・・。
原田克美も拳銃を持っていたようだが・・・ここにいるはずがない・・・。
三好・・・こいつはもう死んでいて・・・
あぁっ・・・!一条と利根川・・・!
こいつらは・・・銃で他人を殺傷している・・・!)
一条と利根川は、遠藤と参加者名簿を使って話し合った際に
“危険人物”としてチェックした人物でもあった。
(すると・・・高いっ・・・!この銃声が交戦によるものだという可能性が・・・!)
森田は素早く道路を横切り、銃声の方角に注意を払いながらその場を離れる。
発砲したのが一条か利根川であるのならば、目的は間違いなく参加者の殺傷。
このまま道路沿いに歩いていけば、現場に辿りつくことになる。
そこに、誰かの亡骸があるかもしれない。
そこに、森田の求めていた“首輪”があるかもしれなかった。
しかし、今それを探しにいったところで、森田自身の生存率を下げるだけだ。
銃声の主が移動するまでは、この付近にいては危ない。
(まずは村岡に会う・・・・これを優先・・・!
そこで首輪を譲ってもらえれば上々・・・・
その後G-6で南郷と落ち合うまでの道中で・・・・探すっ・・・!首輪を・・・・!
先刻の銃声の発生場所も・・・調べる・・・・!念入りに・・・・!だが今は・・・・)
今まで極力道路に沿って歩いてきた森田だったが、この発砲で状況は変わった。
道路に沿って歩いたのは死体の捜索をしながらE-2エリア向かうため。
ここからは、最短距離でE-2エリアの目的地を目指す。
道路を渡ったことによって、E-2エリアまでは木々の中を抜ければ辿りつく形になった。
ゲームに乗っているかもしれない人物が近くにいるのならば、
死体の捜索よりも、生きているはずの村岡に会うことを優先するべきなのだ。
森田は汗ばんだ手で己の首輪に触れる。
(生きて・・・生きてこの首輪を持っていかなければならない・・・!
この首輪の死ぬ瞬間が勝利に繋がらなけりゃ・・・・オレが報われねぇ・・・・!)
* * *
E-2エリアに入ってから間もなく、森田は目的のギャンブルルームを見つけることが出来た。
目前のギャンブルルームは、異様な雰囲気を纏っている。
この地に置いて、異様ではないものなどありえないのだが、
それを差し引いても、今まで森田が見たギャンブルルームとは何かが違った。
「黒服が不在・・・?」
本来ならばそこにいるはずの、受付の黒服がいない。
ギャンブルルームの利用は30分100万円――これを成り立たせるために、
建物の出入口からは黒服の姿が確認できるはずだった。
(ギャンブル中っ・・・!黒服が受付にいないということは・・・
このギャンブルルームは使用中なんだ・・・・!)
ギャンブルルームが使用中の今、室内に参加者がいるということになる。
その人物が村岡である可能性は十分あった。
情報収集を目的としているのならば、ギャンブルは有用だ。
村岡がギャンブルによって首輪の情報(及び首輪そのもの)を収集していても不自然ではない。
(だが・・・違う・・・!この違和感の正体は・・・
黒服がいないから・・・部屋が使用中だから・・・そうではないっ・・・!)
謂わば本能に語りかけてくるような感覚。
森田の足は自然とギャンブルルームの入り口、扉へと向かっていく。
いくら近づいても、いざギャンブルルームの扉に手をかけても、
一向に黒服が現れる様子はなかった。
耳を澄ませても室内から一切の音は漏れ聞こえず、人の気配さえわからない。
いよいよ森田は扉に添えた手に力をいれる。
あくまでも確認。そういった心持ちであった。
当然、扉は鍵がかかっていて開かないはずなのだから。
しかし、目前のギャンブルルームは森田の予想を裏切る。
(ロックされていない・・・・・!)
ギャンブルルームの扉が、まさかこんなに簡単に突破できるだろうか。
使用中は扉がロックされ、外から開閉出来ない形になるはずだ。
黒服が受付を行っていないということは、ギャンブルルームが使用中である証拠。
しかし、森田がさらに力を込めれば、扉は容易く部屋への侵入を許す。
ギャンブルが行われているのなら、部外者の介入など認められるわけがないのに。
このギャンブルルームで何が起こっているのか、まったく想像がつかなくなった。
森田は強い警戒心を抱きながら、意を決して室内に足を踏み入れた。
ギャンブルルーム内での暴力沙汰は厳禁である。
突然襲われる心配はない、というルールになっている。
とはいえ、懐のナイフに手を伸ばすのは忘れない。
肩で扉を押し留めながら室内を見渡した森田の目に、あるはずのない光景が映る。
「なんだっ・・・?これは・・・・」
二つの死体。
一つは首から上が原型をとどめていない。
目を背けたくなるような肉塊の中に、金属が鈍く光る。おそらく首輪だろう。
これだけでも、死体ひとつでも、ここにあるはずのない光景。
ギャンブルルーム内でこのような惨状が許されるのか。
更なる事態の異質さは、部屋の奥に存在する。
準備室、休憩室、あるいは周辺地域を監視する部屋なのか――
所謂バックルームらしきその扉から、ぴくりとも動かない足が覗いていた。
一つ目の死体の傍から、点々と血を垂らして移動、やがて力尽きたのだろう。
狭いギャンブルルーム内に於いて二つ目の死体である。
この段になると、さすがの森田も鼓動が早まるのを感じた。
辛うじて冷静さを保ちながら、バックルームの死体へ歩み寄る。
(この死体・・・・黒服じゃねぇかっ・・・・!
参加者じゃなく・・・・主催側の人間っ・・・・・・!)
参加者の首輪が爆発し、近くにいた黒服が巻き込まれた――。
状況からシナリオの大筋は、想像できる。
それにしても理解しがたい点が多すぎて、森田はただ黒服の死体を見下ろすほかない。
(どうしてギャンブルルーム内で首輪が爆発する・・・・?
許されていない・・・!参加者には・・・ギャンブルルーム内での暴力沙汰は・・・・!
即ち・・・・ギャンブルで生き死にを賭けたとしても・・・・
首輪が爆破されるのは室外・・・・ギャンブルルームから出たあとだと・・・・そう思っていた・・・)
バックルームには、電話とモニター、事務机に灰皿。
電話は本部にでも繋がっているのだろう。
主催と接触する機会を持つ今の森田には意味のないものだ。
モニターには、どこかで見たような画面が映し出されていた。
(俺に支給されたフロッピー・・・あれに送られてくるデータとよく似ている・・・・!)
モニターの映像、その形式はたしかに、フロッピーの情報と瓜二つであった。
ただし、森田のフロッピーに比べて、より詳細な情報が表示されている。
そのかわり映される範囲は極めて狭まっており
このギャンブルルームを中心に、精精隣り合わせているエリアまでだ。
一時間毎という制約はなく、リアルタイムで状況が反映されているのだろう。
“モリタテツオ”と“ムラオカタカシ”の文字が、モニター上のギャンブルルームで光っている。
“ムラオカタカシ”は赤字で表示されていることから、
首輪がある方の死体は村岡隆その人なのだろうとわかる。
(村岡・・・誰かとギャンブルでもしたのか・・・・・?
負けて首輪が爆破されたのだとしても・・・・黒服が巻き込まれているのは何故だ・・・
ギャンブルルーム内での暴力行為の禁止は、黒服の安全確保の意もあると思っていたが・・・
自由に首輪の爆破をコントロール出来るはずの主催がどうして・・・・
いったい何を考えて・・・黒服を巻き込む形で首輪を爆破したんだ・・・?)
あまりに不気味な得体の知れぬ何か。
その存在を感じたような気がして、森田は背筋を凍らせながらバックルームを後にする。
そもそもが、扉のロックは本部からの遠隔操作も可能だろう。
こんな異様な室内をこのままに、まるで誰かに見て欲しいと言わんばかりに放置しているのはおかしい。
余計な詮索をして、森田自身の首輪まで爆破されるようでは困る。
(首輪の回収・・・・させてもらうぜ・・・!)
森田は村岡の死体の前で手を合わせると、
首輪と言われても一目ではわからないような鉄の塊を、血の海から掬い出した。
その足取りで、ギャンブルルームを退出する。
考えることは山のようにあるが、如何せん森田には時間がないのだ。
【E-2/小道沿いのギャンブルルーム前/黎明】
【森田鉄雄】
[状態]:左腕に切り傷 わき腹に打撲
[道具]:フロッピーディスク(壊れた為読み取り不可) 折り畳み式の小型ナイフ(素材は絶縁体) 不明支給品0~2(武器ではない) 支給品一式 船井の首輪・村岡の首輪(いずれも爆発済み)
[所持金]:1000万円
[思考]:遠藤を信用しない 人を殺さない 首輪を集める 銀さんに頼らない E-3銃声の場所を調べる(利根川の死体) 宇海零か伊藤開司と接触をはかりたい
※フロッピーで得られる情報の信憑性を疑っています。今までの情報にはおそらく嘘はないと思っています。
※遠藤がフロッピーのバックアップを取っていたことを知りません。
※森田が主催と交わした契約を知りました。南郷と第3放送の一時間前にG-6のギャンブルルーム前で合流すると約束しました。
※以下の依頼を受けました。契約書を1部所持しています。
※黒崎から支給された、折り畳み式の小型ナイフを懐に隠し持っています。
※黒幕が帝愛、在全、蔵前であること、銀二がバトルロワイアルの首脳会議に参加し、今回の企画立案をし、病院がらみのスキャンダルで主催者を潰すこと、D-4ホテルで脱出の申請を行うことができる可能性について聞きました。
――――――――――――――――――――――――――
【依頼内容】
制限時間内に首輪を6個集めること。
期間は依頼受託時から、第4回放送終了まで。
死体から集めた首輪は1個、生存者の首から奪った首輪は2個とカウントする。
森田鉄雄、平井銀二の首輪は3個とカウントする。
第4回放送を過ぎても集められなかった場合は依頼未達成とみなし、森田鉄雄の首輪を爆破する。
森田鉄雄がギャンブルルームに規定数の首輪を持参し、申告した時点で依頼達成とする。
資金の受渡は申告と同時に、ギャンブルルームにて行う。
【報酬一覧】
第2回放送終了までに集めた場合
ゲームを棄権する資金1億円+ボーナス2億円
第3回放送終了までに集めた場合
進入禁止エリアの解除権(60分間)>※
他者に譲渡可能。ただし、渡す側、受け取る側、双方の意思確認が必要。
確認がとれない場合、権利そのものが消失する。
第4回放送終了までに集めた場合
報酬、ボーナスともになし
※補足>進入禁止エリア一箇所の永久解除権(権利が発生してから60分間以内に使わないと無効)
|145:[[同窓]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[投下順>本編投下順]]|147:[[分別]]|
|145:[[同窓]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[時系列順>本編時間順]]|142:[[逆境の闘牌(前編)]] [[(中編)>逆境の闘牌(中編)]] [[(後編)>逆境の闘牌(後編)]]|
|140:[[正義]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:森田鉄雄|155:[[第三回定時放送 ~契約~]]|
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