2人きりの兄妹



ガタン!
大きな音がして、俺は物音のほうに向かう
そこには電話機の前で、受話器を取り落として座り込んでいた桐乃の姿があった
「おい、どうしたんだ?」
「あ、兄貴、どうしよ、どうしたらいいの?」
涙を流しながらそんなことを言ってきやがる、何だってんだ?
見ると電話はまだ通話中で、受話器からは声が聞こえていた
俺は、受話器をとると、用件を聞いてみることにする
「もしもし、お電話かわりました」
「はい、はい、え?、それ!本当なんですか?、何かの間違いじゃ?」
「嘘でしょ・・・、そんな。」
俺は用件を聞くと絶望の表情に変わっていくのを自覚していた
「はい、わかりました、はい、お願いします」
何とか俺はそれだけ言うと電話を切る

親父たちが死んだ

先日から旅行に行っていた親父たちが旅行先でバスに乗っていたとき
そのバスが、対向車と接触しそうになり、避けたら、その先が崖になっていて
そこから、転落したというのだ。

それからが大変だった、俺はニュースでそれを見て事故の事実を実感した
桐乃は泣きじゃくっているし、何をすればいいのかもわからなかった

数日後には、親戚たちも集まってきて、通夜、葬儀が行われた
その間も桐乃は誰かに慰められるたびに泣いてるし、塞ぎこんじまってる
俺は、なぜか涙はでなかった。桐乃前で俺まで泣けねえと強がっていたのかもな。
さすがに、葬儀のときには涙は出たけど、それだけだった。

その後は、遺産やら、保険金やら、事故の保証金やら、いろいろ俺にはよくわからない話が続いた
でも、この家は長男の俺名義で相続されて、生活に困らない程度の金は俺たちの手元に入ると親戚のおじさんが言っていた

この後揉めたのは、まだ未成年の俺たち兄妹だけでこの家で暮らすのはどうかという話が出てきたときだった
それまで塞ぎこんだまま、黙って話を聞いていた桐乃がこの時
「嫌、あたしはこの家で、兄貴と2人で暮らす。あたしの家族は兄貴だけだもん。離れ離れは絶対に嫌!」
こんなことを言いやがった
妹にここまで言わせて、俺が何も言わないわけにはいかないじゃないか
「大丈夫です、俺ももう18ですから、金はなんとかなるみたいだし俺たちだけでちゃんとやっていきます」
「お願いします!」俺は頭を下げた
親戚たちは渋々、了承してくれた。何かあったらすぐに連絡してくるんだぞと連絡先を教えて帰っていった。

「広くなっちまったな」
その日の夜。2人だけになった家の中を見回して俺はポツリとつぶやく
そこに桐乃がやってきた
「お願いがあるんだけど。」
「何だよ?」
「一緒に寝てほしい。一人で寝てると怖いんだ、目が覚めたら一人ボッチになってるんじゃないかって」
俺はそっと妹の頭をなでる。こいつ。強いやつだと思ってたけど、本当はこんなに弱いところもあるのか
「わかった。一緒に寝よう」
「ありがと」フッと妹がはにかむ
俺は照れくささを感じながらも、ベッドに一緒に入った。俺が頭をなでてやると安心したのか桐乃はすぐに眠ってしまう

俺は改めて、俺がしっかりしないと、こいつを守れるのは俺だけなんだと決意を固めていた。

葬儀が終わって数日後

わたしは今桐乃の家へ向かっています
正直いうと、今の桐乃にどう声をかけていいのか、わかりません
でも、放っておくのは親友としてやってはいけない。その気持ちが私の足を高坂家へと向けていました

「どうしよう」

玄関前まで来たのに、動けないわたしは傍からみれば結構不信者かもしれません
でもここまできても、まだどういう顔であえばいいか、どう声をかければいいかわからないのです
桐乃の泣き顔は見たくない、空元気で表面上の笑顔なんて見るのはわたしには辛過ぎる

「あれ? あやせ? こんなところで何してるんだ?」

そんな時、ふいに背後から声をかけられて、私は心臓が飛び出すかと思いました。
実際かなり、動悸がしています。

「お、驚かせないでください!」

そこには買い物帰りでしょうか?スーパーの袋を持ったお兄さんが困ったような顔で立っていました

「驚かせたつもりはないんだが。悪かった」
「今日はどうしたんだ?桐乃に会いにきたのか?」

問いかけられて、少し逡巡したあと。お兄さんに話すことにしました。

「そうか、気を使わせちまったな。まぁとりあえず上がれよ」

私はお兄さんに話して少し迷いが晴れました、お兄さんについて家に上がります

リビングへと通されると、桐乃がソファに暗い顔をして座っていました
そんな桐乃を目の当たりにして、わたしは胸が締め付けられます。
ですが、わたしはできる限りの笑顔を作って、明るく桐乃に声をかけました

「桐乃、久しぶり」
「・・・あやせ」

それから私は、桐乃が休んでた間の学校のことなどを話しました
しばらく話していた間、お兄さんはなにかキッチンのほうでなにかしているようでした
ふと気になったので、わたしは、キッチンにいたお兄さんに声をかけます

「お兄さん、何をしているんですか?」
「あやせ、ああ料理の練習だな。これからは俺が料理しようかと思ってな」
「ほら、料理のできる男ってかっこいいと思うだろ?お前をほれさせるくらい上手くなってやるよ」
「セ、セクハラですよ!」
「ええええ」
私は、そんなことは本心では全く思っていなかった。お兄さんはやっぱりやさしい。
桐乃のためにがんばろうとしてるのが、わたしには凄く伝わってくる。

この2人を放っておくことができないと思い。私は携帯を取り出して、家に電話をかけます
「あっ、お母さん。今日友達の家に泊まりたいんだけど。」
「うん、わかってる、それじゃ」
携帯を切ると、お兄さんが問いかけてきました
「あやせ、今の電話」
「はい。私今日泊まらせてもらいます」

お兄さんの手つきを見てると、もう見ていられなかったです。

「もう見てられません、わたしにかしてください。」
「わたしも一緒につくります、料理も教えてあげます」
「え?あやせ」
そうこれは、桐乃ため、決してお兄さんのためなんかじゃないんですから

そして2人で料理をつくっていきます
「あやせ、料理上手いんだなすげえよ」
「こ、これくらい少し練習すれば誰だって・・・」

「俺も、早くこれくらいできるようにならないとな」
お兄さんが小さな声でつぶやきましたが、私は聞き逃しませんでした。
その言葉とそのときのお兄さんの表情をみて胸が締め付けられます

「さて、できたぞ、次はなにすればいいんだ?」
「あ、つぎはですね」

「なんかさ、こういうのって、2人の共同作業って感じでいいな」
「ま!またセクハラですか!」

そんなこんなで、料理もできて、桐乃も交えて3人で食べます
「おいしいじゃん」
「だろ、あやせに教えてもらって作ったんだぜ」
「あんた、あやせに変なことしてないでしょうね」
桐乃がジト目でお兄さんを見ています、少しは元気出してくれたかな。私は少しホッとしていました。

「な、んなことしねーよ!」
「ほんとにぃ」
「あ、当たり前だろ」
なんだろ、お兄さんが必死で否定してるのを聞いてたら胸がチクッとした。

「あやせ、風呂沸いたから入ってきていいぞ」
「はい、ではお言葉に甘えて、絶対に覗いたりしないでくださいね!」
「俺どんだけ信用ないんだよ!」

私はお風呂に入りながらさっきのことを考えます。
2人でお料理してたらすごく楽しかった。それに、さっきのお兄さんの話を聞いてたら胸がチクチクしたな、
わたしもしかしてお兄さんのこと
「ない!ない!そんなことあるはずないですよね」

お風呂から上がると、桐乃に声をかけられました。
「あやせ、あたしの部屋に布団敷いて置いたから。」
「うん、わかった」
「それじゃ、あたしもお風呂入ってくるから」
よかった、桐乃の表情少しやわらかくなってきたかな。

「あやせ、お茶でも飲むか?」
「はい、いただきます」
私がお茶を飲んで一息ついてると、対面の椅子にお兄さんが座ってきました
「あやせ、今日は来てくれてありがとうな。」
「え、なんですか?突然」
「桐乃の表情ずいぶん明るさが戻ってきたよ」
「正直、俺だけだったら桐乃をあそこまで戻してやるのにどれくらいかかったか分からない」
「本当に、ありがとう」
「・・・お兄さん」
私は涙が出そうになりました。お兄さんだってつらいはずなのに。桐乃のことをこんなに思って
自分のことは省みないで、桐乃の心配ばかりして、ずっと見守ってる。
桐乃、桐乃は幸せだよ、今は辛いと思うけど、こんなにお兄さんがそばにいてくれるんだから。
私、お兄さんのこと好きになってるな。私はこのときお兄さんへの恋を自覚しました。

「ふぅ、さっぱりしたぁ」
「兄貴~次入っていいよ」
桐乃がお風呂から上がってきました
わたしとお兄さんは一瞬ビクッとして、ぎこちなく話を打ち切りました
あれ?わたしはともかく、何でお兄さんまで驚くんだろ? そんな疑問をふと感じましたが
桐乃が話しかけてきたので霧散します。

「あやせ、兄貴となんか話してたの?」
「あ、う、うん。今日料理手伝ってくれてありがとうって」
「へぇ、そなんだ」
「き、桐乃そろそろ部屋にいこうか」

私は桐乃を急かして桐乃の部屋へ向かいます。わたし、無意識に追求を避けようとしたのかな。

そして、わたしたちは桐乃の部屋でしばらくおしゃべりします
ファッションのこととか話していました。でも桐乃はどこか上の空です。
わたしは適当なところで、もう寝よっかと話を打ち切りました

電気を消して、布団に入ると、妙に桐乃のほうが気になりました
ごそごそっとずっと衣擦れのような音がしているからです
体を起こし、桐乃のほうに近づいてみると。桐乃は嗚咽を漏らしていました。
桐乃はさっきから、泣きそうになるのを堪えて、でもとうとう堪え切れなくて泣いていたのです。
わたしはもう見ていられなくて、桐乃の布団の中に入りました
「桐乃、大丈夫、大丈夫だから。桐乃は一人じゃないから」
そういって、わたしは桐乃を抱きしめ、頭をなでて上げます。
口には出しませんでしたが、今こうしている、わたしだけでなく。お兄さんもいるんだよ
そういう意思もこめて、声をかけ抱きしめ続けます。
桐乃はきっと察してくれているでしょう。「うん、うん」といってわたしにしがみついてきます
桐乃はまるで子供のようにわたしの胸の中で涙を流し続けていました。

京介Side
風呂からでて自分の部屋に戻り、目を閉じたころ。ふと桐乃が心配になった。
「あいつ最近ずっと、一人で寝たくないっていって俺と寝てるけど。大丈夫だろうか?」
「まぁ、今日あやせがきてずいぶん明るくなってたし、そろそろ大丈夫かな」
「寝るか」
そして眠りにつきかけたとき
壁の向こう側から嗚咽のような声が聞こえてきて、ついであやせの話し声が聞こえてくる
それを耳をすませて聞いていると、俺はさっきの楽観的な考えをした自分を激しく呪ったさ。
くそ、バカが、なに考えてんだ俺は、桐乃がもう大丈夫なわけないだろ
あやせの前では強がって見せることくらい、わかってただろ!
すまない、あやせ、今は桐乃のこと頼む
俺は桐乃の泣き声が聞こえなくなるまで、ずっと唇をかみしめていた

翌朝、ほとんど寝付けなかったわたしは、隣で眠っている桐乃を起こさないようにそっと布団からでました
リビングへと降りると、まだかなり早い時間なのにお兄さんがソファにひとりで座っていました。

「お兄さん?」
「ん、ああ、あやせか。まだこんな時間だぞどうした?」
「お兄さんこそ」
「俺は目が覚めちまってな」
お兄さんが嘘をついてるのは直ぐに分かりました。
全然寝てないのは顔を見れば一目瞭然です
「お兄さん、こんなことしてたら倒れちゃいますよ」
「お兄さんも無理、しないでください」
「あやせ、ぅぅう」
お兄さんはその場で顔に手を当てて泣き始めてしまいます
やっぱりかなり無理してたみたいですね
私はそっと、お兄さんの頭を抱き寄せます

お兄さんは驚いていましたが
わたしが力をいれるとおとなしくなり、わたしの腕の中で泣き始めました
桐乃とお兄さんのこの様子を見る限り、2人は最近ずっと2人一緒に寝ていたんだろうと
推測できます。きっとお兄さんは桐乃の様子が気になって眠れなかったんでしょう。
あの桐乃を見たあとでは、それは当然だとわたしも思います。

でも「お兄さんが倒れてしまったら、桐乃はどうなるんですか?」
「桐乃はお兄さんが守ってあげないとだめなんですよ」
「だから、もっと自分のことも大切にしてください」
この時、2人の様子を見た私は、決意を固めていました

「わたしも、できる限りお手伝いしますから。わたしのこと頼ってください」

泣き続けている間に疲れが出てきたのでしょう、お兄さんは眠ってしまいました
わたしはおにいさんを膝枕して、しばらく頭をなでていました

わたしもいつの間にか眠ってしまい、目覚めたのはそれから2時間後くらいです
お兄さんは先に起きていたようで、朝食の準備をしていました
「あやせ、おはよう」
「おはようございます、わたしいつの間にか寝ちゃってたんですね」
お兄さんは少し照れくさそうな顔で
「ありがとう、あやせ。少し気持ちが軽くなった気がするよ」

「あのとき言ったことは本当ですからね、これからはわたしを頼ってください」
わたし本当にお兄さんに恋しちゃったみたいです
女の子って男の子に弱いところ見せられると、なんか守ってあげたくなるんですよね
母性本能をくすぐられるというか

わたし、本気になっちゃいますからね

それから、わたしは何度も泊まりにいったり、お兄さんにお料理教えにいったりして
2人はだんだん立ち直ってきてくれたのが見ていてわかりました。
月日がたち1年が過ぎました

お兄さんは大学2年の、わたしと桐乃は高校2年の終わりを迎えようとしています
桐乃が陸上の合宿でいないときに、わたしはタイミングを合わせ。この日お兄さんに告白することに決めました。

「こんにちは」
「あれ、あやせ今日は桐乃いないぞ」
玄関に入るとお兄さんが出迎えてくれます
「知ってます、今日はお兄さんに会いにきました」
「え?そっそれって」
「変な勘違いをしないでください!」
お兄さんは少し残念そうな顔をしています。ごめんなさい、でもそういうのはもう少し待ってください

夕食を終えたあと、わたしは行動を起こしました
「お兄さん、お願いがあります。」
「なんだよ、あらたまって」
「わたしを抱いてほしいんです」
お兄さんはかなり神妙な顔をして
「本気で言ってるのか?」
「あたりまえです、この状況で冗談でこんなことは言いません」
「わたしお兄さんのことが好きです、恋人になりたいんです」
お兄さんはかなり困ったような顔をしています。
「あやせの、気持ちはすごくうれしい、でも俺は」
お兄さんのこの様子、どうやらわたしの予感はあたっていたみたいです。
「桐乃ですね。」
わたしは核心をつく
「やっぱり、あやせには気づかれてたか、こうなってしまったからには、きちんと話すよ」
俺と桐乃は男と女の関係を持ってる、こんな俺があやせの告白を受けるわけには・・」
わかっていました。あの桐乃が今の状況でお兄さんと関係を持たないわけがないってことくらい。
「関係ありません、そのことはわたしも知った上で告白しているんですから」
「本当にいいのか?お前には嫌われて当然なことをしているんだ」
「それ以上はいわなくていいです。」
わたしはお兄さんの言葉を切ると、唇をふさぐ

そのあとは、朝まで何回も、お互いを求め続けました
「お兄さん、このこと桐乃にはまだ言わないでください」
わたしは、桐乃とは自分で話し合わないといけないと思っていたから。
「わたしから、桐乃に話します。」
「お兄さんは、罪悪感は感じなくていいです。これまでと変わりなく桐乃のことも愛してあげてください」
「今の桐乃にはお兄さんがまだ必要なんです。わたしのために桐乃を突き放すようなことは決してしないでください」

わたしはお兄さんに決意を告げた。

京介Side

数日後、俺は大学から帰宅すると、玄関に靴が2人分あるのに気がついた
あやせが来てるのか?
俺は軽い感じで考えたが、ふと先日のやり取りを思い出して、額と背中から冷や汗が流れるのを感じる。

嫌な予感がする、まさかあの時の話をしてるのか?

俺はそっと靴を脱ぎ、忍び足でリビングへ近づき、聞き耳を立ててみる。

声が聞こえる、リビングで話をしているみたいだ。だが、楽しそうな声が聞こえるぞ?
俺の杞憂だったか。俺はホッと胸をなでおろし、リビングのドアを開いた。

「ただいまぁ」
「あ、お帰りなさいお兄さん」
「お帰り、兄貴」
二人にそろって迎えられる、なんかいいなこういうのって。
ただ、二人が頬を冷やしていなければだが。

わたしは今、桐乃と一緒に学校から帰って、高坂家のリビングにいます
わたしから、今日行っていいと聞いて、きたのですが。
先日、わたしとお兄さんが結ばれたときのことを話すためです

「桐乃、大事な話があるの」
「え?なにあやせ?」
桐乃がキッチンでお茶を入れながら聞いてきます

桐乃がソファに座るのを待ち、入れてもらったお茶を一口飲んでからきりだしました
「わたし、お兄さんと恋人になったの、エッチもした」
「え?ちょっと待って、どういうこと?恋人?兄貴とあやせが?」
「そう、わたしとお兄さんが。」
桐乃が青白い顔をして、震えている
「大丈夫、桐乃とお兄さんの関係を壊すつもりはないから」
「桐乃とお兄さんの関係はわたしも知ってる、それは続けていていいから安心して」
わたしがそこまで言い切ると、桐乃は目を見開き、唇をかみ締めて、思い切りわたしにビンタしてきた
「同情はやめて!」
桐乃は涙を流しながら、頬を押さえて倒れているわたしを見ている
「あやせもホントはあたしのこと気持ち悪いとか思ってるんでしょ!」
「邪魔な女だって!でも、かわいそうな妹に兄貴を貸してあげるとか思ってんでしょ!」
そこまで聞いて、わたしは我慢できなくなった。私は跳ね起きると、桐乃の頬にビンタを返した
今度は桐乃が頬を押さえてしゃがみこむ。
「そんなこと、考えてるわけないでしょ!わたしは桐乃のことも大切なの!」
「桐乃を傷つけて、お兄さんを奪い取ろうなんて考えるわけないでしょ!」
「今桐乃にはお兄さんが必要なの!、桐乃は自覚ないかも知れないけど、今お兄さんが桐乃から離れたら桐乃大変なことになるよ」
「桐乃のことを放り出してわたしを優先しようとしたらわたしはお兄さんと別れるから」
それだけ一気に言うとわたしは、呼吸を整える。桐乃は呆気にとられたような表情でわたしを見ていた。

わたしは桐乃をそっと抱き寄せる
「桐乃、わかってくれるよね」「うん、うん、ごめん、ごめんあやせ」

2人で頬を冷やし、談笑しているとお兄さんが帰ってくる
なんだか、お兄さんの表情がこわばっているようにみえる

わたしはそっと近づくとお兄さんに耳打ちします
「お兄さん、桐乃に上手く話すことできましたから安心してください」
「あ、ああ。ありがとな。悪いな、まかせちまって」
「構いませんよ、わたしから言い出したことですから。」

「兄貴ー、あやせと付き合うことになったんだって?よかったじゃん、兄貴には持ったないよホント」
うん、うん、と言って桐乃は満足そうに微笑んでました。

それからしばらくたってから
わたしは、両親にお兄さんを紹介しました
お兄さんの現在の身の上とかも、話しました。
どんな反応がくるか、わたしはとにかくお兄さんをかばい続けないといけないと思い覚悟を決めていたのですが
予想していたのとは違い、両親は喜んでくれて、お父さんは少し複雑そうな顔をしながらも
「わたしたちでは、本当のご両親には及ばないが、君の親のように思ってもらっていい」
地元の国立大学で優秀な成績を収めていることなどを話したときなどは
「そうか、将来君にわたしの後を継いで議員になってもらうのもいいかもしれんな」
などと凄く気にいってもらえたようで。わたしもお兄さんもホッとしていました。

後から聞いた話ですが、よほど問題ありそうな人でなければ、わたしの選んだ人を反対するつもりはなかったそうで、
思っていた以上に、いい人を連れてきたと喜んでいたそうです。

京介Side

20年後

「お母さん遅いなぁ、わたし呼びにいってくる」
肩のあたりでそろえられたセミロングの黒髪に可愛らしい白い花のついた髪留めをつけている
髪型以外はあやせのこのくらいの年齢のころにそっくりだ。
「ああ」
車の前に立って、あやせを待っていた俺と娘だったが、娘が痺れをきらせて、あやせを呼びに行く
今日は娘の高校入学祝いの集まりだ。
俺たち親子3人、新垣のお父さんとお母さん、桐乃とその息子の7人で
都内のホテルのレストランに集まることになっている
「お父さん、お母さん準備できたって」
娘が出てくると、後から少し遅れてあやせがでてくる
「ごめんなさい準備に手間取って」
「いや、まだ時間には余裕あるし構わないよ」

俺たち3人は車に乗り込み一路東京へと向かった

都内のホテルに着くと、桐乃たちはもう到着していた
結構な高級ホテルで雰囲気もしゃれてるし、調度品も高そうだ
「よお、桐乃。早いな」
「ごめん桐乃、またせたね」
「いいって、あたしたちが早く着きすぎただけだし」
ふと横を見ると、子供たちも再会を喜んでいた
「合格おめでとう綾乃、これで4月から同じ高校だな」
「祐介くんが勉強見てくれたおかげだよ、さすが学年主席だね」
「・・あれくらい、たいしたことないよ。」
「ええぇ、十分凄いよ去年の入試も1番の成績で、入学してからもずっと学年1位でしょ」
「わたしにはとてもむりだもん」

そんな会話を聞いて、俺は改めて桐乃に礼をいうことにした
「ホント、ありがとな桐乃、あいつが県内1の進学校に合格できたのも祐介を家庭教師につけてくれたおかげだ」
「うん、感謝してるよ桐乃」
「ま、まぁ、祐介は優秀だからね。さすが、あたしの息子ってかんじかな」
そういって、桐乃のやつは頬を少し朱に染め俺をちらりと見上げてくる。そうだなお前はスゲエよ色々とな。
ホテルの自動ドアが開いて俺がそっちに目を向けると
「やあ、私たちが最後か。待たせてしまったね。」「ごめんなさいね」
新垣のお父さんとお母さんが最後にホテルのロビーへとやってくる
「いえ、まだ予定の時間より早いですし俺たちが早く着いただけですので」
「すこし、早いけどレストランのほうへいきましょ」
俺たちはあやせに倣って、レストランへと歩を進める

俺たちが向かったのは
落ち着いた雰囲気の、ホテル内にある高級レストランだ
席について、料理が運ばれてくる度に綾乃は歓声をあげている
「こら、もう少し落ち着いて上品にしなさい。祐介君をみならいなさい」
「はーい」
あやせがたしなめると不満気に返事をする、それまで堂々と落ち着き払っていた祐介も
自分の名前がでて、苦笑していた
そんな楽しい時間はあっという間に過ぎて、俺たちは次はいつ集まろうかなどと相談し
子供たちも「次に会うのは入学式の日かな、俺も生徒会役員として出席するから当日迎えに行くよ」
「え、ほんとに!わぁうれしいな」
それぞれが、帰り際に談笑して、家路についた。

自宅に帰ってきてから、俺は一人庭にでてワインをあける
さっきは帰りの運転があるから飲めなかったからな

しばらく星を眺めながら一人飲んでいると、あやせがやってきた
「こんなところで飲んでいたんですか?」
「ああ、星がきれいだったからな」
「あやせもどうだ、一杯」
「はい、いただきます」俺は一旦家に入りあやせの分のワイングラスを出してくる
「乾杯」俺たち2人の声がハモりどちらからともなく笑いがこぼれる
「あやせ、本当にありがとな」
俺はこれまでの年月を思い出しながら、万感の思いをこめてあやせに礼を言う
あやせは不思議そうな顔を俺に向けるが、そのまま俺は話をつづける
「うちの親父たちが亡くなって、どん底にいた俺たちを引き上げてくれたのはあやせだ」
「あの時、あやせが来てくれたから、俺たちにやさしさを与え続けてくれたから、今こうしていられるんだ」
一言一言、思いをこめながら俺は話し続ける
「俺がここまで世間から見ても裕福な暮らしを送ることができるようになったのも、綾乃や祐介を交えて
昔の俺では想像もつかなかったような場所で食事して、楽しく笑いあえるのはお前のおかげだよ」
「きっと桐乃のやつも俺と同じ気持ちだろう。本当に感謝している。 ありがとう」

俺の言葉を聴き終えたあやせは涙を流していた、「そんなことはない、わたしのしたことなんて、あなたががんばったから」
あやせの言葉を聴きながら、俺はそっと手をのばしハンカチで涙を拭いてやる。

「あやせ、本当にありがとな、俺があと何年生きれるかは分からないけど、できれば最後はお前に笑顔で見送ってもらえたら
俺の人生、悪くないものだったと思えるからさ」

俺は目の前のあやせに伝えたかったことを、話し終え椅子から立ち上がって、星空を見上げた。

END






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最終更新:2010年11月23日 20:52
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