ゆっくりしたけりゃ余所へ行け 34KB
虐待 理不尽 幻想郷 独自設定 原作キャラ登場
・鬼意山系統は一切出てきません。
代わりに原作キャラがガンガン出てきます。嫌いな方はお気を付け下さい。
・虐待と考察のようなものが入り混じっています。
なので、独自設定が入っています。いつも通りですね。
では、ゆっくりしていってね!!!
「ゆ…ゆ?ゆっくりしていって…ね……?」
気がつくと、そこは石段の前だった。
ここは、どこなのだろうか?
れいむは確か…どこにいたんだっけ?
それどころか、今まで何をしていたのか。
他の子達はどこにいるのか、それすらもわからない。
親というものが、どういった存在なのかはわかる。
友達がどういった存在であるのかもわかる。
自分が、ゆっくりだという種族である事も知っている。
その他諸々の生きる為に必要な知識も、そうでない知識もそれなりに持っている。
むしろ自分は結構な物知りではないかと思うほどだ。
が、自分の友達、両親が誰なのかは全く思い出せない。
お母さんがれいむだったか?それともお父さんだったのか?
友達にはどんな性格の、どんな種類のゆっくりがどれだけいたのか?
そして、自分は今までどこにいて、今いるところはどこなのか?どうしてこんな所に居るのか?
れいむは、何ひとつわからなかった。
ゆっくりしたけりゃ余所へ行け
「…何、こいつ……生首?」
れいむが途方にくれていると、後ろから声がした。……人間だ!!
「ゆっ!?に、にんげんだぁぁ!!たすけてね!れいむなにもわるいことしてないよ!!」
「はぁ?れいむ!?…どういうことかしら。妖怪……に見えないこともないわね」
れいむは知っていた。人間はゆっくりをゆっくりさせない生き物だ。
人間はれいむに見覚えがない、ヒラヒラした白と赤の変わった服を着ている。
ただ、頭についてるあのおりぼんさんはどこかで見たようなことがあるような…
「ねえアンタ。一応言葉わかるんでしょ?」
「う、うん!ちゃんとれいむおしゃべりできるよ!あたりまえでしょ!」
「…チッ。まあいいわ。なら、さっさと質問に答えなさい。アンタ妖怪?」
「ようかい?なにそれ。れいむはれいむだよ!!」
「理解力か、語彙に乏しいのかしら…じゃあ、あんたはれいむっていう生き物なの?」
「ゆっ?ちがうよ!れいむはゆっくりだよ!れいむっていうおなまえなんだよ!!」
「はぁ?ゆっくり…ああ、ゆっくりって言う種族なのね。で、名前がれいむ、と。
害はなさそうだけど、ゆっくりなんて種族聞いたことないし。…って言うか何なのよ、それ……」
「おねえさんはだれ?なにしてるの?」
「んー?私は、この上の神社で巫女やってんのよ。
名前は―――やめとくわ。なんか混乱しそうだから」
それなら、きっとここがどこなのかも知っているだろう。聞いてみようか。
「ここはどこなの?れいむどこにいたのかもわかんないの」
しかし人間はまるで聞いていない。自分の思考の世界に入り込んでいる。
「……やっぱりこんな凝った悪趣味な事できる奴は限られてるわよね。
あのスキマ…結界でも緩めて、仕事増やしてやろうかしら。
とりあえず問い詰めてみるべきね。ま、暇だから良いんだけど」
「おねえさん!れいむのいってることきいてるの!」
「あーはいはい。聞いてない聞いてない。
いくら暇でも私はアンタみたいなヤツに付き合ってる程の暇はないのよ。
ったく。ここは博麗神社前。以上!わかったら目障りだから、とっとと散った!
アンタみたいなのが近隣にいると知れたら、また参拝する人間が減っちゃうじゃない。まったく…」
そう言うと人間は、空を文字通り、飛んで行った。
「まっ、まってねおねえさん!いじわるしないで……いっちゃった…
どうしてこんないじわるするのぉ……?」
状況を把握する為の唯一の手がかりを失ってしまった。
そもそも人間は空を飛べたっけ?など幾つか疑問はあったが、
今はそれよりも、孤独感による寂しさが辛かった。
「とりあえず、ここにいるとまたおねえさんにおこられちゃうよ。
かえってくるまえにゆっくりにげるよ。 おうちかえりたいよ……」
寂しげにれいむは、当てもなく雑木林の中を跳ねていった。それしかないのだ。
自分のおうちのことさえ、れいむは何も分からないのだから。
――――――――――
しばらく跳ねていると、急に拓けたところに出た。
「ゆわぁ~、すごいよ!おはなさんがいっぱいだよ!!」
そこに広がるのは、一面の花畑。名前は知らないが、とにかく色んな種類がある。
「ゆぅぅ…そういえばおなかがすいたよ…」
極度の不安と、ひたすら跳ねるのに忙しかった事ですっかり忘れていたが、
むせかえるような花の香りによって、れいむは空腹だったのを思い出した。
「…そうだ!おはなさんこんなにたくさんあるんだから、いっぱいむーしゃむーしゃするよ!!
おなかすいてるからきっとおいしいね!こんなにいっぱいおはなさんがたべれるなんてゆめみたい!!」
言葉の通りだ。れいむは花を食べ物としか見ていない。
別に綺麗だと思わない訳ではない。ただ、『花は食べ物』という知識しか持っていないだけなのだ。
「れいむのすーぱーむーしゃむーしゃたいむ、はじまるよ!!」
空腹が限界に来ていたれいむは、花畑に一目散に突撃する。
「いただきまー「騒がしいわね…誰か居るのしら?」…ゆ?」
気が付かなかったが、区切られるようにあった背が高い花が咲き乱れる場所に、一人の女性が立っていた。
緑色の髪をなびかせながら日傘を差して花の中に佇む姿は、れいむから見てもとても優雅に見えた。
「こういう所では静かにするのがマナーというものよ。どこの礼儀知…らず……何、これ?」
絶句する人間。
雰囲気からしてとりあえずれいむをゆっくりさせない人間ではなさそうだ。
「に、にんげんさんこんにちは!ゆっくりしていってね!!!」
「……言われなくてもゆっくりしてるわよ。あと、私は妖怪よ。人間だなんて間違えないで欲しいわね。
まああなたの物の怪具合には負けるかもしれないけど」
「おねえさんがようかいさん?にんげんさんとそんなにかわらないね!
れいむにはわかんないよ!! それでおねえさんはなにしてるの?」
「れいむ?・・・偽者というにはあまりにも懸け離れすぎてるし……まあいいわ。
それはこっちの台詞よ。私は見ての通り、ここが満開になる時期だから見に来ただけ。
で、あなたが何者なのかは知らないけど、
見たところ花を見て楽しむ趣味があるようだとも思えないし、何しに来たの?」
「ゆっ、そうだよ!れいむはおはなさんをむーしゃむーしゃしにきたんだよ!!」
「…なんですって?」
「このたくさんのおはなさんは、おねえさんのものなの?でもひとりじめはいけないよ!!」
「ふざけているの?生憎とここは私の花畑じゃないわ。
でも、だからと言ってここを食い荒らして良いということにはならないわよ」
「なんでみんなれいむにそんないじわるいうの!?
れいむはおなかがすいてるんだよ!かわいそうなんだよ!!
ひとりじめはげすのすることだよ!!げすなおねえさんのいうことなんかしらないよ!!
れいむもうおなかいっぱいむーしゃむーしゃするからね!!げすはじゃましないでね!!!」
「・・・そう。わかったわ、もう止めない。
その代わりといってはなんだけど、良い物あげましょうか」
「なに?はやくしてね!れいむはおなかがすいてるっていってるでしょ?
いってることわかんないの?ばかなの?しぬの?」
「……チッ。まあ見てなさい」
そう言うと女はどこからともなく2、3粒の種を取り出し、周りに花の無い地面に蒔いた。
すると、どうした事か。見る見るうちに根が張り、芽が出て、淡紅色の花が咲いた。
「すごーい!おはなさんがあっというまにさいちゃったよ!!
これ、たべてもいいの?」
「バカね。これは野薔薇よ?食べちゃ茎の棘で口の中がズタズタになっちゃうわ。
それはそれで面白そうだけど・・・もう少しだけ待ってなさい」
「れいむいたいのはやだよ!ゆっくりまつよ!!」
それから間もなくして花が散り、今度はそこから真っ赤な実が生って地面に次々と落ちる。
「これあげるから、食べるならこっちになさい。花よりは(私のストレスが)マシなはずよ」
「おいしそうだね!おねえさんありがとう!!む~しゃむ~しゃ、しあわせー!!」
「あら、美味しい?沢山食べなさい。余らせても困るし」
女が言うまでも無く、れいむは一心不乱に貪っている。
それなりの量があったはずだが、あっという間に全て平らげてしまった。
「げっぷ。ごちそうさま!もうおなかいっぱいだよ!!おいしかった~」
「そう、よかったわね。・・・気分はどう?体の調子は大丈夫?」
「……?だいじょうぶにきまってるよ!なにいって……うっ!?」
れいむは急に体を強張らせた。
おなかが痛い。気分も悪い。どういうことだろう?なにがおきたんだ?
「う゛…ぎぼぢわるい゛よ・・・ゆ゛っ!?ゆげぇぇぇぇ!!!」
我慢できずに餡子を吐いてしまった。そして―――
「ゆげぇぇ゛ぇ゛!!あ゛ぁ゛!!?どぼじで!?う゛んう゛ん゛でじゃだめぇぇ゛ぇ゛!!」
うんうんまで出始めた。それも自分の意思とは関係なく。
「クスクスクス・・・・・・アハハハハ!!
冗談のつもりだったのにホントに効果があるなんて、どういう構造してるのかしら!!」
「ひゅー、ひゅー…ど、どぼいうごどぉ……?ゆぐっ!?うべぇぇぇ!!」
「これ、餡子?まるで饅頭ね。 鈴蘭畑の子と同じ様なものかしら……」
本人が聞いたら怒り狂いそうなものだが、そんなことはれいむには関係ない。
気分が落ち着くまでひたすら口から、あにゃるから、餡子を出し続けた。
やっと餡子を吐かなくなったれいむは、随分とやつれていた。体積も3分の2ぐらいになっている。
「ゆひゅー、ゆひゅー。ぎぼぢわるい…どぼじでぇ……?」
れいむ、おいしいはなのみさんをたべてただけなのにぃ…」
ぐったりとしているれいむを嘲笑うかの様に、女が覗き込んだ。
「汚らしいわねぇ…せっかくの壮観な景色が台無しだわ」
「おねぇさん・・・でいぶどうしちゃったのぉ…?」
「あぁ。野薔薇はね、実に嘔吐や下痢作用なんかがある毒花なのよ。
薬としても使われるみたいだけど、あんなに沢山食べちゃ毒になるに決まってるわ。
まあその効果は主に人間に対するものだから、まさかここまで効くとは思ってなかったけど」
「ぞんなぁ……どおしてこんなひどいことするのぉ?でいぶおなかがすいてただけなのにぃ……」
「だからよ。 一応教えておいてあげるわ。私が嫌いなのはね、
花を愛でる心が無い者。そして、あなたみたいに弱いくせに身の程を知らずに吠えたてるバカよ」
ゴミを見る様な目でれいむを見下す女。口元は三日月形に歪んでいる。
「よかったわね。食べる物出来たじゃない。ちゃんとその汚い餡子、片付けてから消えて頂戴ね。
あなたみたいな饅頭じゃ肥料にもならないし、そのために生かしておいてあげる。
ま、あなたみたいな弱いのをネチネチ虐める趣味も無いし」
「いだいよぉ…きぼぢわるいよぉ…ゆっぐりできなぃぃ……」
「醜いわねえ・・・とりあえず視界から消えなさい、よっ!」 「ゆべぇ!!」
蹴り飛ばされた。女にとっては本当に軽くだったのだが、弱ったれいむにとっては強烈だ。
端に居た事もあったが、あっという間に花畑の外に飛ばされて木に激突する。
「ぶぎゅ!!で…でいぶ、じんじゃ…う…」
そのまま意識を失った。言葉とは裏腹に死んではいないようだ。
「さて…わけの解からない邪魔者もいなくなったし、
後は生やしちゃったこの子を相応しい場所に移してあげないとね」
枯れた野薔薇を手ごろな大きさに戻し、苗のようにしてから、女はそれを持って何処かへ飛んでいった。
「それにしてもれいむ、ねぇ……あの巫女があれを見たらどういう反応するかしら。
ちょっと面白そうじゃない・・・やっぱり蹴っ飛ばさずに持って行ってあげればよかったかしらね」
じつはもう既に会っている事も知らずに、彼女の嫌がる顔を想像して心底楽しそうに笑った。
それからしばらくして、ようやくれいむは目が覚めた。体調は悪くない。
「ゆ、ゆん…ここどこ?たしかれいむ……うわぁぁぁ!!!」
目の前に広がるのは壮大な花畑。それを見てれいむは、何があったのかを思い出した。
「おはなざんごわいよぉぉ!ようかいざんごわいよぉぉ!!
もうおはなざんたべたりじまぜんがら、ゆるじでぐだざい!!
ゆ゛んやぁぁ!!もうおうちがえるぅぅぅ!!!」
病み上がりの上に餡子を失って体力に余裕が無いにもかかわらず、れいむは全力で跳ねて行った。
どこへ?などとは考えない。とにかく遠くへ。花やあの妖怪のいないところへ。それを考えるだけで精一杯だった。
――――――――――
何も考えずにひたすら跳ねていると、前方に川が見えた。
「ゆぅ……あっ、かわさんだ!そういえばのどもかわいたよ。
・・・かわさんならおこられないよね?れいむおみずさんごーくごーくするよ!!」
邪魔する者が誰もいないことを確認すると、れいむは川へと跳ね寄った。
「ちゃぽん!ごーくごーく、さっぱりー!!
おなかはすいたけど、これでもうすこしがんばれるよ!」
今度は軽い足取りで川を下り始めたれいむ。
しばらく行くと、木陰に何かの姿を確認した。影は二つある。
「ゆ!?あれは・・・にんげんさん?それともようかいさんかな?」
片方はフリフリの服を着た銀色の髪をした女性。
もう片方はピンクの服と帽子に真っ赤なリボンをつけた、赤い目をした少女。
背中には真っ黒な翼が生えている。
少女は木の下に座り込んでおり、大きい方の女性は日傘を差している。
「いたたた…まったく、油断したわ…」
「お嬢様。手当ての方は・・・」
「いらないわよ。この程度のかすり傷なら少しすれば治るんだし。
それにしてもあの紅白巫女、急にケンカなんて吹っ掛けてきて何のつもりかしら。
不意討ちみたいに来て、やるだけやってさっさと何処かへ行っちゃうし」
「まるでストレス発散みたいな感じでしたね。何か嫌な事でもあったんでしょうか?」
「そんな事はどうだっていいわよ。問題は何故のんびり散歩してただけの、しかも私だけを襲うのかってこと!
不覚を取ったわ。もし昼じゃなかったら、こんな無様にやられはしないのに…」
仲が良さそうに話している。どうやら悪い者ではなさそうだ。
しかし、あの小さい方のお帽子、何処かで見たような…
「にんげんかようかいさん、ゆっくりしてい…って…うわぁぁ!れみりゃだぁぁぁ!!!」
思い出した、れみりゃだ!何てものに話しかけてしまったんだ、ゆっくりできなくなる!
「え、ゆっく…り…なに、こいつ…?」
「見た所・・・饅頭にしか見えませんね。喋る饅頭は見た事ありませんが。
お嬢様の御名前を知っているようですが、お知り合いで?」
「こんな珍奇な知り合い居ないわよ。それに今、なにか発音おかしくなかった?」
「えっと。あなた?お嬢様の事を知っているの?」
「ゆっ!?にんげんさん?…じゃあこのれみりゃはおねえさんがかってるの?」
「私が、飼われる……咲夜に?・・・なかなか面白い事を言うのねぇ」
「ちょ、ちょっと!あなた、変なこと言わないで頂戴!!
とりあえず…どうやら何かと間違っているようですね」
「まちがい…?そういえば、れみりゃのおぼうしとにてるけどすこしちがうよ。
もう!まぎらわしいよ!れいむおこるよ!!ぷんぷん!!」
「あんたが勝手に間違えたんでしょうに。 って、れいむ?」
「そうだよ!れいむはれいむだよ!れいむはいまとってもこまってるよ!
かわいいれいむにやさしくしてね!!」
「なんか一々癇に障るわね……そういえばあのふてぶてしい仏頂面に似てるような気がするわ」
「そ、そうでしょうか?・・・ところで困ってるって言うけど、何が困ってるの?」
「ちょっと、咲夜。あんまり関わらない方がいいわよ」
「いえ。そうなんですが、ここで見捨てるとなにやら祟られそうな気がしまして…」
視線の先には、例の巫女に似たリボンを着けたふてぶてしい顔の饅頭。
確かに何か曰くがついてそうではある。
「なにかよう?…あっ、そうか!れいむがかわいいからみとれてるんだね!!
それならそうといってくれれば、もっとみてていいのに。かわいくてごめんね!!!」
「…チッ。まあいいわ。どうせもう少し完治には時間が掛かるし、好きになさい」
「はい、ありがとうございます。で、れいむと言ったかしら。何が困っているの?」
「れいむ、ここがどこかわかんないんだよ。
にんげんさんとようかいさんにもあったけど、いじわるされただけでだれもおしえてくれなかったよ」
「誰に会ったのかは知らないけど、よく今まで無事で居られたわね…
それはともかく、ここは博麗神社と人里の大体中間地点にあたる部分よ」
「はくれいじんじゃはしってるよ!!そうじゃなくてここがどこなのかしりたいんだよ!!」
「あら、そこは知ってるのね?」
「うん。あかくてしろい、みこさんってひとにおしえてもらったの!!」
「赤くて白い巫女って、会ったの!?」「うん、あったよ!!」
「機嫌悪かった理由、多分間違い無いですね……」
そりゃこんなふてぶてしい奴が自分とそっくりな格好で出てくれば、誰だってプッツンくるだろう。
「じゃあ私がこうなったの、あんたのせいじゃない!」
「な、なんのこと!?ゆっくりしていってよー!!」
「あんたのせいでゆっくりできてないのよ!!」
「お、落ち着き下さい、お嬢様!!別にこれが何かしたというわけではないんですから!!」
「はあ…はあ……。大体何なのよ、さっきからゆっくりゆっくりって。意味わかんないんだけど」
「ゆっくりはゆっくりだよ!れいむはだれよりもゆっくりしてるんだよ!
ゆっくりしてるゆっくりはすごいんだよ!おねえさんはぜんぜんゆっくりしてないね。ゆぷぷっ!」
「はぁ!?ケンカ売ってんの、アンタ!!」
「落ち着き下さいお嬢様!!お気持ちは分かりますが、先程からカリスマが大暴落です!」
「離しなさい、咲夜!がおー!!!」
――――――――――
「……ふぅ。まあゆっくりしてるしてないはこの際どうでもいいわ。
って言うか、結局何なのよこいつ。もういいでしょ、咲夜?」
「はぁ…。まあ、確かにどうでもいいような気がしてきました。害も無さそうですし」
「どうでもよくないよ!!おねえさんたちはまったくゆっくりしてないね!
ゆふふ、なんなられいむがゆっくりさせてあげてもいいよ?」
「あんたが…?今まさにあんたのせいでゆっくりできてないんだけど」
「だからだよ!れいむをゆっくりさせてくれれば、ゆっくりさせてあげるよ!」
「ゆっくりさせるって……こちらは具体的に何をすれば良いのかしら」
「れいむはおなかがすいたよ!あまあまさんちょうだいね!
あとゆっくりできるおうちもほしいよ!よういしてね!!」
丁度良い。これなら今足りないもの全部満たされるだろう。なんて良い考えなのか。
たったこれだけでゆっくりできるのだ。この人間達も喜んで首を縦に振るだろう。
「・・・それはまるで紅魔館に、我等の住処に招けと言っているように聞こえるのだけど」
「ゆっ、それはいいかんがえだね!しかたないからおせわになってあげるよ!!」
「何を言うかと思えば…あなたそんな「駄目よ」・・・お嬢様?」
少女の眼つきが、突然鋭いものへと変わる。
「それは断じて許されないわ。話にもならないわね」
帰ってきたのは、れいむの予想と違った答えだった。
「ど…どおじでそんなこというのぉぉぉ!!?
またいじわるするのぉぉ!!ゆっくりできないぃぃぃ!!」
「意地悪?違うわね。これは、紅魔館の主としての真っ当な評価よ。
何もできない役立たずが生きていけるほど、紅魔館は生易しいところじゃないの」
「だからゆっくりさせてあげるっていってるでしょ!?
きいてなかったの?ばかなの?しぬの?」
「生憎とあなたみたいな馬鹿のまま、何百年も生きていられる様な温い環境にはいないわ。
それに、あなたが言うゆっくりがなんなのか大体の想像はついたけど、
その上で聞くわ。“あなたは、どうやって私をゆっくりさせてくれるの?”」
「だからゆっくりはゆっくりだよ!ゆっくりに、どうやってもなにもないよ!!」
「やれやれね。なら質問を変えるわ。あなた、どういう時がゆっくりできるの?」
「おいしいごはんさんをむーしゃむーしゃしたり、きれいなおうちですーやすーやするとゆっくりできるよ!」
「そう。なら、やっぱりいらないわ。あなたは、我が紅魔館には必要ない」
「なんでぇぇぇ!?ゆっくりしてないにんげんをゆっくりさせてあげるっていってるのにぃぃぃ!!」
「・・・なら、あなたはどうやって私をゆっくりさせるつもりなの?
美味しい食事が作れるの?快適な睡眠を約束してくれるの?生憎全部間に合ってるけど」
「ゆっ!?それは……かわいいれいむをみればゆっくりできるでしょ!」
「なら一生鏡でも見てなさい。それでゆっくりできるんだから私の庇護は必要ないわね」
「そんなわけないでしょぉぉ!?おなかすいてちゃゆっくりできないぃぃぃ!!」
「第一、さっきから聞いてれば、ゆっくりしていないのがそんなにいけない事なのかしら」
「あたりまえでしょぉぉぉ!!いそがしそうにしてるにんげんさんに、
ゆっくりがどうとかなんて、いわれたくないよ!!」
「そう。なら、一生懸命毎日働くことはゆっくりしていないことなのかしら?」
「そうだよ!!そんなことしてるからにんげんさんはゆっくりしてないんだよ!!」
「じゃああなたがうちに来たとして、その食事や寝床は誰が用意するの?」
「ゆっ!?それは・・・」
「我が紅魔館で働くメイドよ。そうなればあなたが来た分、誰かがゆっくりできなくなるわね」
「で、でもれいむは!」
「生きる者は、妖怪、人間、妖精、全て等しく何らかの責務を負うものよ。
この咲夜は、メイド長として他のメイドを束ね、尚且つ私の従者として身の回りの世話をする。
門番は・・・まあ少しザルな所もあるけど、本当に一部を除いた不埒な侵入者はきっちり排除するわ。
私の友人は、広大な図書館の管理をしてくれている。どれも、他の誰にもできないことだわ」
「れ、れいむは、れいむは・・・」
「他の者達も必死になって屋敷を維持するために働いている。
そして私はそういった者たちを正当に評価し、居るべき場所を作ってやれる。
つまり紅魔館には、あなたが言う“ゆっくりしてない者”しかいないのよ。
誰かをゆっくりさせたいなら、誰かがゆっくりできなくならなければならない。
それがこの世界に生きるものにとって当然の事なの。…私も気付くのが随分と遅れたけどね。
そしてだからこそ、みんなそれと同時に誰かのおかげでゆっくりできるのよ。
だから何もできない、口先だけのやつは要らないの。私の紅魔館にはね」
「そんなこと・・・」
「無いと言えるのかしら?その根拠は何処にあるの?
・・・まあいいわ。今の話をした上でもう一度だけ聞くわね。
“あなたは、どうやって私をゆっくりさせてくれるの?あなたは何ができるの?”」
「そんな…れいむは…ゆっくり……」
「わかったわ、もう結構よ。存分にゆっくりしていなさいな。 独りでね。
まったく、こんな奴に本気になるなんて……無為な時間を過ごしたわ。
傷も完治したし、行くわよ咲夜。・・・咲夜?」
「お、お嬢様……」
「ちょ、咲夜!?なんであなたが泣きそうになってるのよ!」
「まさかそんな風に想っていただけているとは、私思いもしませんでした。
その上、こんなに御立派な考えをお持ちだったとは……
最近うーうー仰っている御姿しか見ておりませんでしたので」
「う、うるさいわね!それは忘れなさい!!・・・行くわよ!!」
「はい! でも、いいのですか?あんな物でも、妹様の遊び道具くらいにはなるかもしれませんよ?」
「それこそまさか、よ。あんな変なの与えてあの子が悪影響受けて、これ以上おかしくなったらどうするの。
第一生きている物にあの子が、キュッとしてドカーン!したときの惨状を忘れたの?
色々飛び散った部屋を片付けるの、誰だか忘れたわけじゃないでしょうね」
「・・・行きましょうか、お嬢様」 「それが懸命だわ」
(ま、結局一番の理由は私が単に、あいつがすっごく気に入らなかったってだけなんだけど。)
そして、人間と妖怪は興味をなくしたように、れいむに一瞥もくれず歩いていった。
「れいむは…ゆっくりしてるゆっくりなんだよ。
れいむだって、おともだちがいれば…おかあさんたちがいれば…おうちさえあれば……」
れいむは言い返すこともできず、追いかける気にもなれずに、ただ立ちつくすだけだった。
――――――――――
「むーしゃむーしゃ、ふしあわせー…」
あれから一時間。れいむは何もする気が起きずボーっとしていたものの、
とうとう空腹が我慢できずに、そこら辺に生えていた葉っぱを仕方なく口にした。
「う゛う゛…まずいよ……おはなさんでもいいからおいしいものたべたいよぉ……」
「―――こんな所にいたのね。随分と探したわ」
「だ、だれ!?こんどはなんなの!!?」
どこからともなく聞こえた声に、身を強張らせるれいむ。
すると、急に何も無いところに裂け目が走り、そこから人間の女性が出てきた。
いや、妖怪かもしれない。こんな不思議な事ができるのは、きっと人間ではないだろうから。
「おねえさんだれ?もしかしてようかいさん?」
「あら、よく解ったわね。私はしがない、ただの一妖怪。
それでも、あなたの疑問には答えられるかもしれませんわよ?」
「じゃあ、ききたいことがいっぱいあるよ!こたえてね!!
ここはどこ?なんでれいむこんなところにいるの?
れいむなにもおぼえてないんだよ?かわいそうなんだよ?
なのになんでみんなれいむにいじわるするの?」
ここぞとばかりに、これまでの疑問を全て浴びせるれいむ。
対する女性は涼しげな顔で聞いている。
「少し待って頂戴な。ちゃんと一つずつ答えるから」
「ゆっくりこたえていってね!!!」
「まず、ここはどこか?という事だけど。
ここは幻想郷。世から忘れ去られたものたちや妖怪の住まう、最後の楽園ですわ」
「げんそうきょう?」
「ええ。そして私はこの幻想郷を見守り、心から愛する妖怪よ。『妖怪の賢者』だなんて呼ばれた事もあるわね。
まあそれはともかく、改めまして。―――ようこそ、幻想郷へ。忘れ去られた来訪者さん」
「れいむこんなところにきたゆもりはないよ?」
「勿論、それはそうですわ。正確に言えば、あなたはさっき生まれたばかりなんですもの」
「ど、どういうこと!?れいむもうりっぱなゆっくりだよ!おちびちゃんじゃないよ!」
「それもちゃんと説明するわ。
…これは私の推論になりますけど、よろしいかしら?
まあ、あながち当てずっぽうと言う訳でもないのだけど」
「ゆっくりしないでおしえてね!!」
「あら忙しないわね。もう少しのんびり構えてはいかが?
まあいいでしょう。あなたがさっき生まれたばかりだという根拠。
あなた、自分がここに来たときより以前の記憶はあるかしら?」
「ゆっ! な、ないよ…れいむ、おかーさんのおかおも、おともだちのおかおもしらないよ…」
「でしょう?その割には、一般的な知識や常識にだけは長けている。
それが表すことの内の一つは、今あなたが“そういう存在”だとして生まれたのだということ」
「ゆー。むずかしいよ!れいむわかんないよ!!もうすこしわかりやすくせつめいしてね!!」
「あら、ごめんなさい。あなたは今までとは違う、特別なケースだから少し説明しづらいのよ」
「とくべつ?れいむとくべつなの?」
「ええ。今までも色んな、物や人や妖怪、果ては神まで幻想郷に入ってきたわ。
でも、あなたはそのどれにも当てはまらない。
あなたは“概念”が形を成したものとして、ここに来たのよ。
いえ、願いといったほうが正しいかしらね」
「がいねん…?どういうこと?れいむなんにもおねがいしてないよ?」
「願ったのはあなたではないわ。あなたを“れいむ”という概念として形作った誰か。
いえ、概念を形にするくらいの強いものだから、きっと誰か達、複数ね」
「ちゃんとれいむにおしえてね!!」
「つまり、あなたは元から外の世界にいた生命体ではないの。
沢山の外の世界の人間たちの、
“こういうものが存在して欲しい。こんな形であって欲しい。こうあるべきだ。”
と言った、強い願いから生まれた存在なのよ。どういった願いかはともかくね。」
「そんなぁ…じゃあれいむのおかーさんは?おとーさんは?」
「実際には居ないわ。あなたはそういう独自の知識を持った、作った者にとって都合の良い存在として生まれただけ。
あなたの知る繁殖方法が何なのかは知らないけど、きっとそれと比べても真っ当な生まれ方ではないでしょう」
「じゃあれいむはどうしてうまれちゃったの!?なんのためにうまれたの!?」
「あら哲学的。 確かに不思議な話ではあるわね。
いくら強いといっても、元々形のない物がこの世に現れるなんてことは無い。
と、思うでしょう?普通はね。
でもここは幻想郷よ。あなたがそれなりの知識を有していても、
それも結局は外の世界を基準としたのものでしょう?
向こうの常識はこちらの非常識。そしてその逆も然りよ。ここでは常識に囚われてはいけないわ。
それにあなたの姿……こちらに居る人物によく似てるの。本人が聞いたら怒り狂うでしょうけど。
それが何故かは知らないけど、そのせいであなたとこちらの結びつきが強くなったのかもしれないわね。
いずれにせよ確かなことは何も言えないわ。
あなたに会うまでに結界に異常を感じて、随分色々と調べ回ったのに結局解ったのはこれだけ。
本当に頭が痛いわ。大したものよ、あなた。私をここまで悩ませる存在なんて、そうは居ないもの」
れいむは途中からほとんど話を聞いていなかった。
自分の存在が、自分の記憶が、全部作り物?
それも母親でなく、人間に作られた都合の良い…
「じゃあ、れいむこれからどうすればいいの?なんでここにきたの?」
「残念ながら、そこまでは私にはわからないけど…そうね。
ここに来てから今までにあなたは誰か、
人間でも妖怪でもいいから出会った筈よ。
その者たちにあなたはどんな風に扱われたかしら?
それであなたがどういった願いを持って形作られたのか、
どう生きていかなければならないのかが大体分かる筈よ。どうだった?」
れいむが今まで会ってきた者達。されたことといえば・・・
「いじわるしかされなかったよ…」
「そう。ならそういう風に作られたのよ、あなた。
誰にも優しくされる事なく生きていくしかないわね」
「そ、そんなぁ!れいむいやだよ!!」
「嫌と言われてもどうしようもないわ。あなたは“そういうもの”なんだもの。
安心なさい。例えそうであっても幻想郷は全てを受け入れますわ」
だが、そんな言葉はれいむにとって何の気休めにもならない。
「おねえさんたすけてよ!れいむかわいそうでしょ!?
かわいいれいむをたすけてね!!」
「あら、駄目よ。確かに哀れだとも思うし、何とかする方法もあるけど、駄目。」
「どぼじでぞんないじわるずるのぉぉぉ!!?」
「あなたの存在意義の境界をいじれば、何とかなるかもしれない。
でもね、それはこの幻想郷を維持する境界のバランスを崩す事にもなりかねないの。
ただでさえあなたの存在は、今までに前例がない不確かなものなのよ。
だというのにその危険を冒してまであなたの境界を更にいじるなんて、私がすると思う?
まあ早い話が、私はあなた個人よりも幻想郷の方が大事なのよ」
「や、やだ…でいぶがわいぞうなんだよ…やざじぐじでよぉ……」
「これからもあなたのような存在が、どんどんこちらに入ってくるかもしれません。
その者と徒党を組んで暮らすもよし。孤独に過ごすもよし。好きなようになさい。
やりすぎなければ、私は目を瞑りましょう。他の者はどうかは知りませんけど。では―――」
「ま、まって!れいむをたすけてよ!やさしくされないのはやだよ!!」
「ごめんなさい。正直言うとね、私も可哀相だとは思うけど、
あなたを助けたいという気持ちが一切湧かないのよ。
一応この後も勝手に、あなた達の事は色々と調べてはおくけど。
ここまで来ると大したものね…私にまで影響を与えられるなんて、
あなた相当願いを込めた者達に嫌われてたのね。もう願いというより呪いだわ。
では、今度こそ御機嫌よう。哀れな来訪者さん」
そう言うと、女性は現れたときと同じように空間に切れ目を入れて、
そこに入って去っていった。切れ目が閉じれば、そこにはもう何もない。
「まって!ま゛っでね゛!!おねぇざん!!
でいぶゆっぐりじだいんでず!!もういじわるざれるのはいやなんでず!!」
ただただ何もない所に向かって懇願を続けるれいむ。
今の話を聞いたれいむには明るい未来など少しも見えなかった。
あの妖怪さんは言った。仲間が来るかもしれない、と。
もしかしたら、他のゆっくりも来てくれるかもしれない。
だが、もしそのゆっくりが、ゲスだったら。レイパーだったら。
自分はきっとゆっくりできない。食い物にされるだけだろう。
善いゆっくりが来たとしても、仲良くできるかは解らない。
なにせ、自分は嫌われる為に生まれてきたようなものだと知ってしまったのだ。
ゆっくりにまで嫌われるのかは分からないが、れいむは不安でしかたがなかった。
「ゆっくりしたいよ…おいしいごはんさんもいらないから、おうちなくてもいいから…
だれかとゆっくりしたいよぉ…だれかいっしょにゆっくりしてよぉ…ひとりぼっちはやだよぉ……」
こうして、幻想郷にゆっくりという種族が新たに増え、
やがて留まる事を知らずにその数を増やし、そのほとんどが悲惨な運命を辿ることとなる。
このれいむも、これからどうなるのかは誰も知らない。
同じようにこちらに来た仲間を見つけて、共に暮らすことができたのかもしれない。
もしくは呆気なく誰かに潰されたり、食われたりしてしまったのかもしれない。
が、きっと真実を知ったれいむは、一生不安なまま、ゆっくりできる事はないのだろう―――
――――――――――
ゆっくりとは。
とあるゲームのキャラクターたちを模した、創作キャラクターである。
様々な場所に顔を出すようになり、様々な想いを人々はゆっくりに抱いた。
ある虐待好きの者は
“こいつらをゆっくりさせたくない。もっと酷い目に遭う姿が見たい”
という心で、ゆっくりが酷い目に遭う絵を書き上げた。
あるゆっくり愛護派の者は
“もっと可愛いゆっくりが見たい。幸せな姿が見たい”
と言って、可愛いゆっくりが出る物語を考えた。
他にも、数多くのジャンルで“自分達にとって都合が良い存在”
として考えられたゆっくりが、生まれては次々と消えていった。
ある者は、ふてぶてしくも、何故か憎めないゆっくりを。
またある者は、疎まれ、蔑まれるだけに生まれてきたようなゆっくりを。
そしてある者は、新しく思いついた、新種のゆっくりを。
性格、出自、持っている知識、記憶。そのゆっくり自体がどういう目的で登場するのか。
練りこまれ、考え込まれたそれらの設定の違いの数だけ、ゆっくりは生まれる。
Aのれいむと、Bのれいむでは外見以外が。
いや、設定によってはそれさえもがまったく違うのだ。
今日もゆっくりを想い、創る人の数だけ、
またはそれらが世に出て人目に触れた数だけ、
何らかの強い想いによって様々なゆっくりが生まれ、そして忘れ去られて消えていく。
その果てが、どこに行き着くのかも知らずに―――
――――――――――
一方幻想郷ではそんな理由で送られてきたり、一部のゆっくり自身の繁殖力もあって
潰しても潰しても姿を消さず、何処からともなく増えるゆっくりに対して、
腹を立てる者や、うまくやっている者、道具として利用する者と、とりあえず棲み分けができていた。
紅魔館にて。
「ぶぎっ!やべでぇ!!でびぃのかもしかのようなあんよちぎら、いぎぃぃ!!」
「あはははは!!こいつすっごーい!どれだけ千切ってもすぐ生えてくる!!
よーし、キュッとしてドカーン!!「か、かわいいでびぃ…ぶぎゃん!!」『ボンッ!!』…壊れちゃった。
なーんだ、もう終わっちゃったの?つまんない。さくやー、新しいやつ持ってきてー」
「もう壊したのですか!? ああ、またこんなに散らばって…肉汁って取れにくいのに……」
見えぬように密かに肩を落とすメイド長。
どこか別の部屋では『それ見たことか』と幼き紅い月が呆れながらも微笑んでいた。
妖怪の山の神社にて。
「あーうー。…あう? あ、あーうー!あーうー!!」
「あっはっは、本当に面白いねこいつ!この帽子なんかそっくりじゃないか!
ほーれほーれ、取ってみな。でないと遠くに投げちゃうぞー」
「あーう!あうー!あ~う~……ぐすっ」
「もう。神奈子様!すわちゃんを虐めるのはやめてあげてください!ほら早くお帽子も返して!!」
「え~、泣き顔見るのが楽しい「お夕飯無しでいいんですね?」・・・わかったよ、悪かった。ほれ」
「う~?…あうー!あ~う~♪」 「よかったですね、すわちゃん」
そんな様子を少し離れたところで見ている、特徴的な帽子をかぶった小柄な少女が一人。
「私ってこんな風に見られてるのかな……」
天界の片隅にて。
「だ、だずげで…ばでぃざをだべないで…ゆぎぃ!?」 「「おちょーしゃーん!!」」
「で、こんな所でそんなもの食べないで欲しいんだけど」
「何で?良いじゃん。ここはあたしがあんたから勝ち取った場所だよ!何しようがあたしの勝手さ。
硬いこと言いっこなしだよ。不良天人の癖にー」
「まあそうなんだけど…何もわざわざこんな物食べなくたって、ここには桃が沢山あるじゃない」
「な゛にが…わるいごどじだなら…あやばりばずから……」
「ゆんやぁぁぁぁ!!まりしゃたちをたしゅけてちぇにぇ!!」
「ちゅいでにおいちいあみゃあみゃなももしゃんもちょーらいにぇ!」
「流石にそればっかじゃ飽きるでしょ。第一、何時までも桃で酒飲むってのもねぇ。
それにこいつら結構美味いんだよ?特に小さい奴。何なら一匹食ってみる?」
「そ、そう?…こんなに悪趣味なのが本当に美味しいのかしら。まあいいわ、いただきまーす」
「どうちたにょ!?いうこちょきかにゃいばばあは『プチッ!』ゆぴぇ!!」
「あら、結構美味しい」 「だろ?」
「ゆ、ゆ゛んやぁぁ゛ぁ゛!!おねえぢゃぁぁん!!」
「ば、ばでぃざの…おぢび……ぢゃ…ん……」
「ありゃ、死んだ。ショックでかな? あーあ、味落ちちゃうよ。まあいっか。まだチビがいるし」
「大した神経してるわ。まるで鬼の所業ね…」
「その通り!そんでもってあたしは鬼そのものなんだから、何の問題も無いさね。
さ、せっかくだからあんたも飲んでいきなよ!
たまには甘い饅頭で飲むのもオツなもんだよ?こいつら、探せばいくらでも居るしね」
「なんか煙に撒かれた気分だわ…いいわよ、頂こうじゃない。結構美味しかったのも事実だし」
「そうこなくっちゃ!! では、新しく幻想郷にやってきた酒の肴に」
「「乾杯!!」」
「やぢゃぁぁぁ!!まりちゃちにちゃくにゃいよぉ!!
だれきゃたしゅけちぇにぇ!!きゃわいいまりちゃ『プチッ!!』ゆぴゅん!!」
―――そして、博霊神社にて。
「「「「「ゆっくりしていってね!!!」」」」」
「また湧いてきたの?いいかげんにしなさいよね・・・!!」
そこには腕を組んでゆっくりれいむたちの前に仁王立ちをする巫女と、
縁側で我関せずといった様子で茶をすする、紫色の服を着た金髪の女性が居た。
「で、アンタもいい加減なんとかしなさいよ、これ!」
「あら、どうして?特に何もしていない者を懲らしめるのは流儀ではないわ」
「山の資源とか減ったりしてるじゃない!駆除しても駆除してもいつの間にか増えてるし!」
「修正できる範囲内よ。今までの異変に比べれば単純明快。可愛いものでしょ。
定期的に狩れば調整できるんだし、仕事も増えるじゃない。
よかったわね。人々のために働いて信仰を集める良い機会ではなくて?
あなたも楽園の巫女なら、もう少しどっしりと構えてなさいな。品が無くてよ。」
「「「「「どっしりかまえるよ!!!」」」」」
「やかましい!!同じ格好して同じ事ばっかり言って、ケンカ売ってんの!?
あ~、もういいわ。全員封印(潰)してやる!!」
「い゛やぁぁ゛ぁ゛!!やべでぇぇぇ!!!」
「どぼじでごんなびどいぎゅべぇ!!!」
「がわいいでいぶだげはだずげでねぇぇ!!」
「だ、だずげでおねえざん!!」
「ごんなのゆっぐりでぎないよぉぉぉ!!!」
「あらあら」
逃げ惑い、こちらに助けを求めながらも、陰陽玉に潰されるゆっくりれいむたちを見ながら、
一番最初に会った、あのゆっくりれいむのことを思い出してクスリと笑う女性。
持った知識や常識、果ては生態まで違うというのは、きっと予想以上の混乱を招く事だろう。
あらゆる認識の違いが生み出すのはきっと、恐れによる区別、差別、そして争い。
案外この饅頭たちは自分達の手によって滅びるのかもしれない。
が、こちらに飛び火さえしなければ、そんなことは自分には関係ない。
滅ぶも栄えるも好きにするがいい。私はただそれを見守ろう。
それこそが、この世界の在り方なのだから。
―――幻想郷は全てを受け入れるのよ。それはそれは残酷な話ですわ―――
・あとがき
逆輸入でもいいじゃない。そんな感じです。
どこからゆっくりが湧いてくるのかを考えていたらこんな事になりました。
ゆっくりが微妙な立ち位置にいるのは気にしないで下さい。仕様です。
では、ありがとうございました!!
小五ロリあき
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このSSへの感想
※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね!
- あっこれおれのせいやわ
いまいそがしいし
幻想郷のみんな駆除たのみます -- 2015-08-14 05:11:27
- 幽香が優しい・・・だと・・・?
-- 2011-05-28 18:10:08
- めちゃくちゃ面白かったですw -- 2011-05-04 20:15:07
- レミリアも幽香も優しいというかこれがカリスマか・・・ -- 2011-02-06 12:42:11
- 幻想郷・・・・
いきたいなぁ〜
ゆっくりも虐殺したいし -- 2011-01-14 19:42:56
- れみぃかわゆすなぁ -- 2010-09-28 19:47:11
- 幽香とレミリアの可愛さにQNQNしてゆ虐どころじゃなかったぜ! -- 2010-07-24 20:40:08
最終更新:2009年12月16日 17:08