ふたば系ゆっくりいじめ 681 激辛れいむと珈琲ありす 後編

激辛れいむと珈琲ありす 後編 52KB


虐待-普通 制裁 差別・格差 実験・改造 同族殺し 飼いゆ れいぱー 現代 人間なし 独自設定 ぺにまむ 間に合いませんでした

※独自設定警報発令中。
※人間による虐待は全くありません。
※削ったのに……削ったのに……何で長いの……。
※今までの話とは繋がっていません。……本当だよ?
※最初に言っておきます。……ごめんなさい。

書いた馬鹿:一言あき






4LDKの一軒家、そこのリビングルームの一番日当りの良い窓際に敷かれたムートンの座布団に陣取りながら、
赤ゆ言葉の抜け切らないありすが、誰に聞かせるでも無く不平不満を吐いている。

「ありしゅみちゃいなときゃいはに、るしゅばんなんちぇさせにゃいでよね!……ごーくごーく、ゆっ?」

愚痴っているうちに喉が渇いたのであろう、傍らのマグカップに突き立てられたストローを銜えて啜り出すが、すぐに眉を曇らせる。

「……んもぅ!とっちぇおきのいっぱいがなくなっちゃったじゃにゃいの!」

なにやら機嫌を急降下させ、床に置かれた背の低いポットにマグカップを押し出す。
そしてポットの上に飛び乗ろうとした所で、餡相を変えた成体のれいむが走り寄って来た。

「なにやってるのおちびちゃああああん!?あぶないでしょおおおおおお!?」
「……ありしゅはもうりっぱにゃときゃいはよ!ぽっとさんのつきゃいきゃたぐらいわきゃるわ!!」

抗議するありすに、その『髪』と同じ位顔を『真っ赤』にしたれいむは語気を強くして諭し始める。

「おちびちゃんはぽっとさんにせがとどかないでしょおお!?まんがいちのじこがおきたら、おちびちゃんがしんじゃうんだよ!?
そんなことになったら、おちびちゃんのおかあさんたちにもうしわけがたたないよ!!せめてぽっとさんにせがとどくまでまとうね!!」
「……ちらにゃいわよしょんにゃこと!!それより、ありしゅをこどもあつきゃいしにゃいでよね!!」
「どおしてそんなこというのぉおおおお!!おちびちゃんはまだおちびちゃんなんだよ!!りかいしてね!!」

ありすの反抗を受けて涙目になりながら、それでも根気よく言い聞かせるれいむ。
一方のありすは子供扱いに不満げな様子で、れいむのお説教を聞き流している。

実はこの二人、訳あって一緒に過ごしているものの、親子でも姉妹でもない赤の他人。
れいむは子供を作れない体質なので、幼いありすの事を自分の子供のように思っていたのだが、
当のありすは事ある毎にお節介を焼くれいむの事を余り快く思っていなかった。
……とはいえ、同じ『おうち』に住むもの同士で波風立てるのは良くない事位は幼いありすでも理解できるので、表に出す事は無いのだが。

「……わきゃったわ。でも、おきゃわりぐらいはちょうだいにぇ」
「ゆん、わかってくれてうれしいよ!じゃあ、れいむにまかせてね」

結局、ありすが折れる形で決着が付くのだ。いつもの事である。
れいむが舌で器用にポットを使いこなし、マグカップに湯気のたつ琥珀色の液体が満たされる。
それを見ながらありすは思う。

自分で言うのもなんだが、ありすは『とかいは』な美ゆっくりだ。
色鮮やかなカチューシャがアクセントをつける、一見黒と見間違う程濃い茶髪はサラサラで、ありすの美貌に良く映える。
全身からほのかに立ち上る芳醇な香りも、とても『とかいは』で結構気に入っていた。
愚痴ったもののこのお家自体は悪くない。テレビの児童番組を見るのも面白いし、積み木や滑り台で遊ぶのも楽しい。
口煩い同居人も「うざい」とは思うものの、それほど嫌ってはいなかった。
ならば何故、不満なのか?それは……

(どうちてきょきょにはちゅっきりー!できるまりちゃがいにゃいのよ!!)

……このありすが、生まれついてのレイパーである所為だった。



『激辛れいむと珈琲ありす 後編』



ありすの一番古い記憶は生まれ落ちる直前、聞こえて来る子守唄に対するこんな感想だった。

(ゆっくちできりゅおうたにぇ!ありしゅがときゃいはにあいしてあげりゅわ!)

ゆっくりは中枢餡が作られる時に混ざり合う母親の餡子と父親の精子餡、どちらの割合が多いかによって種属や特性が決まる。
ありすはレイパーの子として生を受けた。個体差はあるが、レイパーの精子餡は通常よりも多く放出されるので生まれて来る子供もレイパー寄りになってしまう。

(ありしゅのときゃいはなあいをうけとっちぇね!きっちょちあわしぇー!になりぇりゅわ!)

せめて茎が繋がっていれば親が抱くレイパーへの嫌悪感で中和できたかも知れないが、このありすはレイプ直後に生えた茎を回収されたので母親の餡子を殆ど受け継いでいない。
それ故にレイパー思考が全く矯正されないまま、ありすは生まれ落ちたのだった。

「ゆっきゅりちていっちぇね!!!」
「ゆっくりしていってね、おちびちゃん!!!」

産声代わりのご挨拶に、即座に返って来るお返事。
その声が子守唄の主であった事に気付いたありすが目を向けたその先に居たのは、目にも鮮やかな紅い髪のれいむであった。

「ゆ~!すごくゆっくりしたおちびちゃんだね!!」
「……ゆ?」

ありすの親はまりさだった。
流石にその事を知っている訳ではないが、何となく感じる違和感がれいむを母親と認識させなかった。

「……おにぇーちゃん、だりぇ?ありしゅのぴゃぴゃとみゃみゃはどきょ?」
「ゆっくりしていってね、れいむはれいむだよ!ここはれいむとおにーさんのゆっくりぷれいすなんだよ。
おちびちゃんはおびょうきだったんだよ、おちびちゃんのおかあさんからなおしてほしいっておねがいされて、おにーさんがなおしてくれたんだよ」

何がなんだか解らなかったが、とにかく目の前のれいむが親ではない事だけをありすは理解した。
途端にありすの餡子に走る劣情。体の底から突き上げてくる衝動が、ありすの幼いぺにぺにを勃起させる。

(はじめちぇはまりしゃがよきゃったけりぇど、まあいいわ!ありしゅがときゃいはにあいちてあげりゅ!!んほぉおおおおおお!!!)

レイパー特有の都合のいい状況認識に従い、紅い髪のれいむとすっきりーっ!するべく近付こうとするありす。

「だめだよ!それいじょうちかづかないでね!!」
「ゆっ!?」

その目論見は、れいむが張り上げた大声によって制止された。
突然の事に目を白黒させるありすに、れいむが自分達の身の上を神妙に語り始めた。

にんっしんっしたゆっくりが罹ると言う流行病、感染したが最後決して助からない死の病に蝕まれたれいむやありすの両親。
その病気の影響は孕んだ子供にも及び、その致死率は九十八パーセントだという。
残りの二パーセント、数少ない治療成功例こそがれいむであり、ありすなのだ。

「れいむのおねーちゃんたちも、みんなおびょうきのせいでしんじゃったんだよ……
おちびちゃんのおかーさんたちも、おちびちゃんのおびょうきをなおしてもらうために『かこうじょ』にいっちゃったんだよ……」

この家の主である『おにーさん』により治療が施されたれいむ達は一命を取り留めた。
しかしその代わりに途方も無いハンデを負う事になってしまったらしい。

「れいむのあんこさんは、からいんだよ。ほかのゆっくりを、ころしちゃうくらいに」
「ゆ゛ぅ゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!?!?!?!?」

それは『ゆっくりできないゆっくりになる』という恐ろしいハンディキャップだった。
外観も、中身も、標準的なゆっくりから掛け離れたれいむは、もう一生他のゆっくり達と交わる事は出来ない。

「だからごめんね、おちびちゃん。れいむはすーりすーりもぺーろぺーろもできないし、してもらえないんだよ」
「ゆぅ……」

ありすはれいむとは違う体質へ変化したらしいが、どんなゆっくりなのかは『おにーさん』の診断が下るまでは解らない。
れいむと相反する体質だった場合、すーりすーりで双方に深刻な被害が及ぶ可能性だってある。うかつに近寄らせるわけにはいかない。
唾液が付かない様、慎重にマグカップから引き抜かれた茎を麺棒ですり潰しつつ、れいむはありすに念を押す。

「……おにーさんがかえってくるのはよなかになるから、そのときにおちびちゃんをしらべてもらうよ。それまで、れいむにはちかづかないでね」
「……ゆっきゅりわかっちゃわ」

仄かに香ばしい芳香を放つ茎をむーしゃむーしゃしながら、ありすはれいむの説明にとりあえずの了解を示した。
元来ありす種は非常に聡明な種属だ。独自の価値観である『とかいは』に拘る悪癖こそあるものの、知性はぱちゅりーに次ぐ。
すっきりーっ!したら自分が死ぬと言われてなお、行為を強行したりしない程度の自制は出来るのだ。

とはいえ、一度発情したのなら何が何でもすっきりーっ!しなければゆっくりできないのがレイパーだ。
ゆん生初の食事を終えたありすが、今度はまだ見ぬ『はにー』を探しにそのままお外へ出ようとするのを、再びれいむが止める。

「……どこいくの?おちびちゃん?」
「おしょとにいきゅのよ!ありしゅはときゃいはだきゃら、しょくごのおしゃんぽにいきゅの!」

馬鹿正直に『レイプしに行きます』等と宣言する訳にいかず、ありすはそう誤摩化す。それを聞いたれいむの餡相が変わった。

「だめ!ぜったいにだめだよ!!おそとにいっちゃだめだからね!!!ぷくぅううううううっ!!!!」
「ゆびぃいいいいいい!?!?!?」

生まれて初めて目の当たりにする『ぷくーっ!』、余りの迫力にありすの情欲が霧散する。
恐怖に震えるありすの姿に我を取り戻したれいむが慌ててフォローを入れなければ、ありすのゆん生はここで終わっていたかも知れない。

「……ごめんねおちびちゃん。でも、おちびちゃんだけでおそとにいっちゃだめなんだよ。
おそとはとってもゆっくりできないから、れいむとおにーさんがいっしょでないとあぶないんだよ。ゆっくりりかいしてね」
「ゆっく………うぇっ……ゆっくちりきゃいしちゃわ………」

具体的に何が危険で、どうゆっくり出来ないのかをぼかしたれいむの説得を、ありすがしゃくり上げつつ受け入れる。
そんなありすを、れいむは複雑な思いを込めた目で見ていた。
れいむが敢えて詳しく説明しなかった事、即ち『自分達は通常のゆっくりにとって異物であり、排除の対象である』事実を受け入れるにはありすは幼すぎる。
だが異物に対するゆっくりの拒絶反応は想像を絶する。のこのこと出歩いて野良ゆっくりにでも出会ったが最後、異相のありすは殺されてしまうだろう。
いや、ゆっくり殺しは大罪だから生かさず殺さずの生き地獄に堕とされるかも知れない。何れにせよ、ゆっくり出来ないのは間違いない。
しかし、幼いありすにそれを伝えるのは危険だった。一生ゆっくり出来ない事を知れば、その場でショック死する可能性もある。
知ればゆっくり出来ないが、知らなくてもゆっくり出来ない。どちらを取っても地獄の二律背反。
……れいむが選んだのは『事実を知らせずにお家から出させない』という問題の先送りであった。

(ゆぅ……せめて、おちびちゃんがあかちゃんじゃなくなるまで、おうちでかくまうよ……)

かつて異相のれいむを排斥しようとしたあの親子、あれが標準的なゆっくりならありすは格好の標的に違いない。
れいむの心にトラウマを残したあの出来事が、今度はありすの身に降り掛かるのだけは容認できなかった。
生まれて初めてのぷくーっ!を使ってまでありすを止めたのはその為だ。

「ごめんね、おちびちゃん……せめて、れいむのおうたでゆっくりしてね。
ゆ~♪ゆんゆんゆ~♪ゆっくりしていってね~♪」

先程、無邪気にすーりすーりを求めて来たありすに応えられなかった分も込めて、れいむは歌い出す。
最初は乗り気じゃなさそうなありすだったが、お歌が進むに連れて段々体を揺らすようになり、最後には一緒に歌い出した。

「ゆ~♪ゆ~♪ゆんゆんゆ~♪ゆっくりしていってね~♪」「しちぇいっちぇにぇ~♪」

れいむは涙を堪えながら、万感の思いを込めて歌い上げる。夢にまで見た家族の団欒が、そこにあったのだから。



『おにーさん』の帰宅はいつも通り午前様であった。早速れいむはありすの誕生を報告する。

「ゆっくりおかえりなさい!あかちゃん、うまれたよ!」
「おぉ、ようやく生まれたか。どれ、見せてみろ」

その言葉を受け、初めて見る人間の姿に尻込みしてれいむの後ろに隠れていたありすが押し出される。

「ゆ……ゆっくちしちぇいっちぇね!」
「おう、ゆっくりしていけ、ちび。……早速で悪いが、お前の中身を調べさせてもらうぞ」
「ゆ゛!?」

いきなりの宣告に目を白黒させているありすを尻目に、『おにーさん』は仕舞っておいた昆虫採集セットの注射器を取り出した。
きらりと鋭い針が反射した光を浴びて、硬直していたありすの思考が再起動を果たす。と同時に、ありすは暴れ出した。

「いやぁああああ゛あ゛あ゛!!ありしゅちにたくにゃいぃいい゛い゛い゛い゛!!」
「だいじょうぶだよおちびちゃん!!ちょっといたいだけだよ!!」
「い゛じゃ゛い゛の゛も゛い゛や゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ!!!!」
「五月蝿い!おいれいむ、そっち押さえとけ!!今のうちに済ます!!」

れいむの説得に更なる恐慌に陥って逃げ出そうとするありすを押さえつけ、『おにーさん』は注射器をありすに突き立てる。
一層泣き喚くありすを「だいじょうぶだよ!すぐおわるよ!」とあやしながら、れいむも押さえつける力を緩めない。
注射器に極少量黒い何かが吸い上げられ、即座に針が抜かれる。
傷口に小麦粉を溶いたものを塗り付け、包帯代わりのタオルを巻いた頃にはありすはぐったりとしていた。

「おにーさん、おちびちゃんが……」
「大丈夫だろ。ありゃあ泣き疲れただけだ。……多分」

憔悴したありすを気遣うれいむに見えないよう、注射器の中身を一嘗めする『おにーさん』。
黒く見えるが実際には濃い焦茶色をした透明感のあるそれは、全く甘みを含まない苦味を舌に伝えてくる。

(これは、コーヒークリーム?……いや、ゼリーか?)

ぷるぷるした食感から判断するに、かなり粘度の高いゼリーの様なものらしい。温かいゼリーなぞ聞いた事も無いが。
しかも全くの無糖。まあ、それは想定の範囲内であるので今更なのだが。

「ふむ……おい、れいむ。ちびは茎を喰えたのか?」
「たべたよ!おにーさんにいわれたとおり、めんぼうさんでやわらかくしてあげたよ!」

そう言って取っておいた茎を見せるれいむ。その端を切り取って鼻に近づけると、広がるコーヒーの香りが鼻腔をくすぐる。
再びれいむに見えないように口に含む。想像していた通り、ブラックコーヒーの味だった。

「……よし、大体解った。やっぱり、れいむとは違う体質みたいだな」
「……やっぱり、れいむとはすーりすーりできないの?」

恐る恐ると言った風情で問いかけて来るれいむに、『おにーさん』は苦笑いで答えた。

「……まあな、でもそれはお前も危険になるみたいだ。お前、苦いものが喰えなかったよな?」
「……にがにがさんはゆっくりできないよ………」
「ちびの中身はどうやら苦いらしい。多分、苦いものしか喰えないんじゃないかな」
「ゆ!?」

ゆっくりにとっての劇物は辛味だけではない。渋味や苦味、酸味など刺激物全般が毒になる。
れいむが辛味で構成されているように、ありすの中身は苦味で構成されているらしい。
それは即ち、ありすもまた生きているだけでゆっくりを殺しうる危険生物であるという事に他ならない。

「ま、そう言う訳だ。お互い気を付けろよ」
「ゆっくりわかったよ……」

その日、れいむは眠れなかった。
並べて敷かれたムートンの座布団で、タオルケットに包まって眠るありすの寝顔を眺めながら、これからの事に思いを馳せる。
ゆっくり出来ないゆん生が確定した事を伝える事の難しさ、それでも理解させねばならない事実。問題は山積みだ。

(……それでも、おちびちゃんにはゆっくりしてほしいよ)

それが困難な道程である事を承知であっても、れいむはそう願わずにはいられない。
覚悟は決めた。両親や姉妹から貰ったゆっくりを少しでも返す為に、ありすの為に頑張ろう。
そう決意はしても、やはりこれからの事を考えれば憂鬱になってしまう。
弱気になる度に己を奮い立たせる事を繰り返す。そうしてれいむとありすの初めての夜は更けていった。



翌日から、れいむはありすに『この家でのルール』を教え始めた。
このお家は『おにーさん』のもので、自分達は居候である事。お家の中のものは基本自由に使っていいが、汚したり壊したりしない事。
れいむのご飯とお水は決して口にしない事。一人でお外に行ってはいけない事。
『ぴこぴこさん』の使い方と、文字や数字の読み方。新聞や郵便物の受け取りなど、れいむの教育は多岐に渡った。
幼いありすには理解し切れないものも多かったが、れいむは根気よく教え続ける。
だからといってありがちな教育ママのように子供を束縛する事も無く、ありすはかなり自由に振る舞う事が出来た。
外出だけは決して許さなかったものの、概ね理想の母親像と言って良かったかも知れない。たった一つ、レイパーの矯正だけがされていない事を除けば。

(ゆふぅ………たみゃるわ……はやくちゅっきりしちゃいわ……)

れいむはありすがレイパーである事を知らない。いや、レイパーの存在自体を知らない。
生まれてすぐ外界から隔離されたれいむにはレイパーの事を知る機会が無かった為だ。
一方のありすも、内心はともかく表面ではレイパーの欠片も見せなかったので、れいむはおろか『おにーさん』さえありすがレイパーである事に気付けなかった。
だからといってレイパー気質が矯正された訳ではない。むしろ悪化していた。

(みんなまっていちぇねぇええ!!ありしゅがときゃいはなあいをあげりゅわぁああああ!!)

自分程の『とかいは』なら、どんなゆっくりでも惚れずにはいられないだろう。そんな自信がありすにはある。
そして自分が『とかいは』に愛する事で、全てのゆっくりが幸せになれる。ありすはそう確信していた。

(ありしゅがおとなになっちゃら、おしょとにでらりぇりゅわ!しょりぇまでがまんしちぇちぇにぇ!!)

とにかく、早く大人になる事だ。大人になりさえすれば、お外に出られるのだから。
自分と同じ芳香を放つお気に入りの飲み物を啜りながら、ありすはひたすら大人になる日を待ち続けた。







『レイパーを発症した、あるいは兆候が見られる場合は即座に去勢してください。
レイバーはあらゆる事柄を自分の都合に合わせて解釈します。その為、教育での矯正は事実上不可能です。
去勢を行う事で発情による狂乱状態から回復させ、去勢されたのは自分が悪いのだと思考誘導する事で矯正しましょう。
去勢でも狂乱から回復しない、あるいは去勢の事実を受け入れずに罵倒してくる個体は完全なレイパー体質です。処分してください。
また、レイプによって生まれた子供は高確率でレイパーを発症する事が確認されていますので、注意が必要です。
ただし、レイパーの子供の中にはレイパーを否定し、通常のすっきりーっ!すら受け入れない潔癖性の事例も報告されています。
詳細は巻末の『特殊事例一覧:レイパー』の項目を参照してください。去勢の手順は次項にて詳しく解説しておりますので、そちらをご覧下さい。
レイパーの発症は突然に起こりますので、飼い主とゆっくり双方がパニックに陥り易くなります。
正確な知識と情報を持って、冷静な対処を心がけましょう』

~新ゆっくりバッジ認定協会監修『ゆっくりの躾け方 バッジ取得マニュアル』より抜粋~







ありすが生まれてから一月が経った。
すっかり赤ゆ言葉も抜けて子ゆっくりへ成長したありすだが、相変わらずお外へは出してもらえずにいた。
『おにーさん』は毎日出掛けてしまうし、れいむでは話にならない。
ありすのフラストレーションは限界に近づいていた。

「ねぇ、おちびちゃんはそんなにおそとにいきたいの?」

ある日、そんなれいむの問い掛けにありすは即座に同意した。
それを見たれいむは暫く逡巡していたが、やがて何かを吹っ切った表情でありすに告げる。

「……わかったよ。こんどのにちようび、おにーさんにおねがいしておそとにつれてってもらうね」

それはありすが最も心待ちにしていた言葉であった。
これでようやくすっきりーっ!出来る、沢山のゆっくりに『とかいは』な愛を与えられると狂喜乱舞する内心を押さえ、れいむに感謝の言葉を返す。

「ゆわぁい!ありがとう、おねーちゃん!」
「ただし!れいむとおにーさんのみえないところにいっちゃだめだよ!」
「ゆっくりりかいしたわ!」

何と言われようが、お外に出てしまえばこちらのもの。
ありすはお外に出してもらえる日を一日千秋の思いで待ち続けた。







「おにーさん、おねがいがあるんだよ……」

いつもの如く午前様帰宅を果たした俺に、やたら神妙な様子でれいむが相談を持ちかける。
何でも、ありすが外出したいと言っているらしい。今までは何とか押さえていたが、もう押さえ切れないようだ。

「ん?でも、外に出さないってのはお前が言い出した事だろ?」
「わかってるよ。でも、おはなしするより、ほんとうにけいけんするほうがりかいできるよ」

要するに、実際に自分達が他のゆっくりにどう思われているのかを体験させようという事だ。
こいつらしくない、ずいぶんな荒療治だが効果は充分だろう。

「……あぶないのはわかってるけど、このままじゃありすのためによくないよ。だったら……」
「……まあ、いいけどな。今度の日曜日で良いのか?」

疲れていた事もあってさっさと話を打ち切るべく俺はれいむの頼みを了承する。
俺の言葉にれいむが済まなさそうにしていた。正直、いたたまれない。

「……ごめんね、おにーさん」
「謝る事じゃないだろ。ほら、もういいか?そろそろ寝ないと明日が辛いんだが」
「ゆん、おやすみなさい」
「おう、おやすみ」

変な影を背負って寝床に向かうれいむの後ろ姿を見送り、俺は布団に潜り込む。
明日も忙しいんだ。さっさと寝よう……







『……日、日曜日。朝のニュースです。本日未明、○○町付近にてドスを含む大規模なゆっくりの群れが全滅しているのが発見されました。
ゆっくり加工所の調べによれば、被害にあったゆっくりは皆茎を生やして黒ずんでおり……」

テレビから流れるニュースを聞き流しながら、ありすは身支度に余念がなかった。
自慢の焦茶色の髪はさらさらで、『おにーさん』のブラシもよく通る。カチューシャに付けられた小さなバッジも、ありすの美貌を引き立てた。
何度も鏡を見ながらおかしな所は無いかチェックする。たっぷり30分程も掛け、準備完了。

「じゅんびできたわ、おにーさん!」
「おう、じゃあ行くぞ。ほら、ここに入れ」

この日の為に『おにーさん』が注文していたキャリーに入る。れいむのキャリーは赤、ありすはクリーム色。
「流石に黒や焦茶色は無かったんでな」とは『おにーさん』の弁。だがありすにはどうでも良かった。
肝心なのは『お外に出れる』その一点に尽きる。たとえそれが近所の公園止まりだとしても、ありすには充分だった。

「ゆ~♪おそらをとんでるみたい~♪」
「おちびちゃん、しずかにしようね!」

キャリーで運ばれる浮遊感にはしゃぎ、れいむに嗜められる事約十分。目的の公園に一行はたどり着いた。

「ほら、着いたぞ」

キャリーの扉がゆっくりと開けられる。差し込んでくる日の光に眩んだ目が徐々に回復するにつれ、ありすの瞳は輝きを増した。

吹き抜ける風は空調の風なぞ比べ物にならない程爽やかで、とても心地よい。
島のような植生を覆う芝生はふかふかで、カーペットとはまた違う柔らかさがあるだろう。
あちこちに設置された遊具はどれも見た事が無い。お家の滑り台や積み木しか知らないありすには一寸したカルチャーショックだ。
そして公園にたむろする沢山の人間と、沢山のゆっくりの姿。
見ればれいむも言葉を無くして見入っている。れいむも外出は初めてだと言うから、当然かもしれない。

「ここは飼いゆっくりの散歩コースなんだ。休日にはこうやって飼い主に連れられたゆっくりが集まってくる。
お前達の公園デビューには丁度良いだろう?」
「ありがとう、おにーさん!!れいむ、うれしいよ!!!」

そう言いながら中々出てこない二人を引っ張り出し、芝生に引いたレジャーシートの上に乗せる『おにーさん」。
さらっと髪を撫でるそよ風で我に返ったれいむが大声で述べる感謝の言葉につられ、ありすもまた感謝を口にする。

「おにーさん、ゆっくりありがとう!」
「別に良いって、そんな事。それより、他の飼い主さんに挨拶しに行くから一寸待ってろ。一人でどこかに行くんじゃないぞ?」
「ゆっくりりかいしたわ!」

ありすの返事を聞き、『おにーさん』が少し離れて固まっていた人間さんの一団に向かう。
途切れ途切れに「……ええ、生まれつきで……」「そう、かわいそうに……」等とありす達について話し合っているのが聞こえてくる。
だが、ありすにとって『おにーさん』の監視の目が離れた好機である。れいむも生まれて初めての光景に目を奪われており、ありすの行動には気付いていない。
なおも「……朝のニュースで……」「……レイパーの大群が……」と話し込む『おにーさん』達の目を盗み、ありすは初めてのお外を満喫するべく飛び出した。



「ゆふふ……まっててね、みんな!もうすぐ、ありすのあいをみんなにあげるわ!!」

芝生をぽいんぽいんと飛び跳ねながら、ありすは獲物を物色する。そしてすぐに、ありすはある成体のまりさに目をつけた。
皺一つなくピンと立ったお帽子に、理想的な下膨れのライン。中々の美まりさであった。
一ヶ月溜めに溜めまくった情欲が滾る。ありすはそれを押さえ、ゆっくりと近付いて行く。ご挨拶をする為だ。
『ごあいさつのできないゆっくりは、とかいはじゃない』という謎の信念がありすにはある。
それはれいむが教えた礼儀の概念をありす流に解釈したものだ。レイパーにさえ礼儀をわきまえさせるれいむの教育は、かなり実を結んでいたと言えるだろう。

「まりさ、ゆっくりしていってね!」
「ゆっ!?ゆっくりしていっ……………ゆっくりしねぇ!!!」

衝撃、激痛、回る視界。ありすは一瞬、何が起こったのか解らなかった。
『ご挨拶をしたまりさに突き飛ばされた』ことを理解した頃、ありすの体はようやく転がるのを止めた。

「い……いたいぃいいいい!!なんてことするのよ、このいなかものぉおお!!」
「うるさいよ!!ゆっくりできないありすはゆっくりしないでしんでね!!」
「ゆ゛っ゛!?!?」

起き上がると同時に放った怒声は、それを上回る罵声に遮られた。
目の前のまりさがぷくーっ!しながら叩き付けて来た『死ね』という言葉に、ありすの思考が凍り付く。

「ありすのかみのけはきんいろなんだよ!そんなくろかみさんじゃないよ!へんなかみのけのありすはゆっくりできないんだよ!!」
「う……うるさぁああああいい!!ありすのとかいはなかみのけさんをばかにするなぁあああああ!!」
「それにありすからはへんなにおいがするよ!そんなにおいのするゆっくりなんていないよ!!やっぱりありすはゆっくりできないよ!!」
「だ、だまれぇええええええ!!」
「ゆびぃっ!?!?!?」

まりさが並べた悪口雑言の数々に、ありすの我慢がはち切れる。激昂したありすが体当たりを仕掛けるものの、二周りは大きなまりさには大したダメージにはならない。
それでもまりさにとっては充分な衝撃だったのだろう。堰を切ったように泣き出した。

「なにするのぉおおお!!ゆんやぁああああああ!!」
「とかいはなありすをばかにしたからよ!!それにさいしょにぶつかってきたのはまりさのほうでしょ!?」
「しらないよぉおおおおお!!おねぇええさぁああああんん!!ありすがいじめるぅうううう!!」

号泣しながら何処かへ跳ねて行くまりさ。一瞬だけその後ろ姿に軽蔑を込めた視線を送り、ありすは次の獲物を物色し始めた。

「あんなげすに、ありすのとかいはなあいはもったいないわ!もっととかいはなびゆっくりをさがしましょう!!」



「あれだよ!あのへんなありすだよ!」
「ゆ!?」

その後、公園内を右往左往したもののありすに近付くゆっくりは居なかった。
ありすの方から近付いても怯えるように逃げ出すので、結局ありすはすっきりーっ!どころか最初のまりさ以降ご挨拶すら出来ずにいた。
所在無さげに佇むありすの元に、人間さんを連れた最初のまりさが現れたのはそんな時だった。

「うちのまりさを虐めたのは貴女ね?なんて悪いありすなの!」
「ゆっ!?ちがうわよ、まりさのほうがありすをいじめたのよ!?」
「嘘おっしゃい!うちのまりさがそんな事する筈ないでしょう!?」
「そーだよ!まりさをいじめたのはありすだよ!!」

ありすは訳が解らなかった。確かに突き飛ばしたのはありすだが、最初にご挨拶しようとしたありすを突き飛ばしたのはまりさの方だ。
なのに何で自分が悪い事になるのか?悪い事をしたら怒られるのは当然だが、ならば怒られるのはまりさの方だろうに。

「ありすはわるくないわ!ありすをばかにしたまりさがわるいんじゃないの!!」

ありすは人間さんとまりさに抗議する。自分は何も悪くない、悪いのは自分を虐めたまりさの方だと。
しかし、それは典型的なゲス思考と同じだった。見る見るうちに人間さんの眉間に皺が寄る。

「まあ!自分が悪いのを他人の所為にするなんて、なんてゲスなのかしら!!所詮銅バッジね!!
もうすぐ金バッジになる家のまりさとは大違いだわ!!それにそんな髪の色に染めるだなんて、飼い主の程度が知れるわ!!」
「それになんかへんなにおいもするし、きっとゆっくりできないおうちのこなんだよ!!」
「ゆ゛っ゛!?!?」

再びありすの思考が凍り付く。
ありすが『とかいは』だと信じていた黒に見まがう焦茶色の髪に、仄かに漂う芳醇な香り。それを根底から否定されたのだ。
いや、それ以前にこいつらは何と言った?
「飼い主の程度が知れる」?「ゆっくりできないおうちのこ」?
死病に罹ったありす達を治してくれた『おにーさん』が、あの4LDKのゆっくりできるお家が、ゆっくり出来ないだと?
脳裏を真っ白に染め上げる怒りが、ありすの言葉を奪い取る。何かを言い返したくても、余りの激怒に言葉にならない。

「なんなの、そのめは?ばかなの?しぬの?」
「もういいでしょ、まりさ。銅バッジなんかに構ってると金バッジが貰えなくなるわよ?」
「ゆっ!?それはいやだよ。まりさ、きんばっじさんになるんだよ!?」

ありすが無言なのを良い事に、好き放題貶してくるまりさと人間さんを睨みつける事しか出来ない。
と、ありすの耳に幽かに聞こえてくる呼び声。

「おちびちゃぁああああん!?どこなのぉおおおおお!?おへんじしてぇえええええ!?」
「おーい、ちびー!?どこいったー!?」

間違いない。れいむと『おにーさん』の声だ。逸れてしまった自分を捜しに来てくれたのだ。
怒りの涙が一転、うれし泣きに変わる。言いつけを守らず、勝手に出歩いた自分をあんなに心配してくれる二人に対して。

「ありすはここよぉおおおお!!ここにいるわぁあああ!!!」

気付けばありすは大声を張り上げていた。唐突に叫び出したありすに目前の一人と一匹が驚愕する。

「おお、ここに居たか。全く、勝手に出歩くなって言っただろ?」
「ぶじだったんだね、おちびちゃん!しんぱいしたんだよ!?」
「ごめんなさい……ありすがわるかったわ」

時間にすればほんの一時間程。だが、あからさまな拒絶を浴びた事で、ありすは自分達がどういう風に見られてるのかを理解した。
『ゆっくりできないゆっくり』。れいむや『おにーさん』が懸命に隠そうとしていたのはその事だったのだ。
お外に出ればどうなるのか、その事を知っていたからこそありすを匿うように外出を禁じていたにも拘らず、ありすはそれを理解しなかった。
公園へのお散歩とて苦渋の決断だったに違いない。だからあんなに『勝手に出歩いてはいけない』と繰り返していたのだ。

「ごめんなさい……ごめ……うわぁあああああん!!!」

ありすは泣いた。自分の不甲斐無さに、二人の思いやりに。
この瞬間、初めてありす達は『家族』になれたのだった。

「ちょっと、貴方がこのありすの飼い主!?」

そんなありすの感動に水を差す人物が居た。先程のまりさとその飼い主である。

「え?ええ、一応」
「だったらちゃんと躾けておきなさいよ!!うちのまりさを虐めたのよ、このありす!!」
「……へ?」
「まったくとんだげすだよ、ありすは!あんなげすをかってるじじぃもやっぱりげすなんだね!!」
「……ゆ!?」
「何とぼけてるのよ、謝りなさい!」
「げすはせいっさいっするよ!それからあまあまをもってきてね、たくさんでいいよ!」

突然謝罪と賠償を要求された二人が目を白黒させる。
余りに厚かましい一人と一匹の要求に、再びありすの怒りに火が着く。
怒りに任せ、怒声を張り上げようとするが、その直前その何倍もの怒りが込められた怒声が上がった。

「いいかげんにしてね!!おちびちゃんはげすなんかじゃないよ!!!」
「ゅっ!?」

怒声の主はれいむであった。髪と同じ位顔を真っ赤に染め、はち切れんばかりに膨れ上がったぷくーっ!で威嚇している。
そして『おにーさん』も、まりさの飼い主を諭すように語り始めた。

「先程、あちらの方が飼ってるちぇんが教えてくれたんですがね、変わった髪のありすを虐めていたまりさが反撃喰らって逃げ出したって。
第一、家のありすはそんな事しませんよ。れいむの教育もいいし、何より今日初めて外出するのを楽しみにしていたんですから」
「何でそんな事解るのよ!!そもそも、ゆっくりの髪の毛を染めるような飼い主の癖に!!」

それを聞いたありすが再び意気消沈する。『染めた』と決め付けるからには、やはり自分達の髪はゆっくり出来ないものなのか、と。
だが、それに異議を挟んだのはれいむだった。

「れいむもありすも、このかみのけさんはうまれつきだよ!!おびょうきのせいでこうなったんだから、しかたないんだよ!!」
「何言ってるのよ、そんな病気がある筈な「ありますよ」……え?」

れいむの異議に反論する飼い主の台詞を遮るように『おにーさん』が弁護する。

「こいつらは正真正銘、生まれつきこの色です。何でしたら記録をお見せしましょうか?」
「ぐっ………!!」
「なにいってるの!!そんなゆっくりできないゆっくりはいないよ!!えりーとのまりさがいうんだから、まちがいないよ!!」

言葉に詰まる飼い主、その足下に控えるまりさが大声で『おにーさん』の言葉を否定する。

「エリート?……お前が?」
「そうだよ!まりさはもうすぐきんばっじさんになるんだよ!!」
「そうよ、うちのまりさとそんな銅バッジを一緒にしないでちょうだい!価値が違うのよ、価値が!!」

再び盛り返す一匹と一人。しかし『おにーさん』は冷静にその台詞の内容を訂正する。

「こいつらが銅なのは、今日ここに来る為に飼いゆっくり登録をしたばかりだからです。
エリートかどうかはともかく、そんなもので価値を判断する方がおかしくないですか?」
「まりさはにけたのたしざんができるんだよ!!そんなくずとはちがうんだよ!!」
「……れいむはさんけたのかけざんができるよ。ありすもにけたまでならできるんだよ」
「ゆぐっ……!!」

今度はまりさが言葉に詰まる。
テレビの教育番組のおかげで、れいむ達は一般的なゆっくりより計算能力に長けていたのだ。知性の面で勝てる筈が無い。

「ぐっ……と、とにかく、今後まりさに近付かないでちょうだい!いくわよ、まりさ!!」
「ゆっ!?なんで?まだあまあまもらってないよ!?」

苦々しげに捨て台詞を残し踵を返す飼い主と、未だ被害者面を決めるまりさ。
その足を止めたのは、公園の端から聞こえて来た悲鳴だった。

「や゛べでぇ゛え゛え゛え゛え゛え゛!!も゛う゛ずっ゛ぎり゛じだぐな゛い゛ぃ゛い゛い゛い゛い゛い゛!!」
「でい゛ぶの゛ばーじん゛がぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!ばり゛ざごべん゛ね゛ぇ゛え゛え゛え゛え゛え゛!!」
「お゛ぎゃ゛あ゛じゃ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛!!だじゅ゛げでぇ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!」
「お゛ぢびぢゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛!!お゛ぢびぢゃ゛ん゛がじん゛じゃ゛う゛ぅ゛う゛う゛!!」

雑多なゆっくりの悲痛な叫び声。段々近付いてくるそれに怯えたのか、まりさが飼い主の懐に飛び込もうとする。
だが一瞬早く、飛び出して来た影に押さえつけられてしまった。

「ゆふ~、ゆふ~、とってもとかいはなまりさだわぁああああ!!」
「ゆわぁああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!れいぱーだぁああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

そう、まりさを取り押さえたのは目をギラギラと光らせ、ぺにぺにをギンギンに勃たせたレイパーありすだった。

「いやぁああ゛あ゛あ゛あ゛!!だぢゅ゛げでぇ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!」
「ひっ!?まりさ!?こいつ、まりさを放しなさい!!放せぇええええ!!!!」
「んほぉおおおお!!つんでれねぇえええええ!!」

必死に抵抗するまりさ、レイパーを引きはがそうとする飼い主、一向に気にせず続けようとするレイパー。
目の前で起こっている事に着いて行けず、呆然となるありす。それを傍観する『おにーさん』。
止めるものは誰もいなかった。

「や゛ぢゃ゛ぁ゛あ゛あ゛!!い゛や゛ぢゃ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
「嫌ぁああああ!!まりさぁああああ!!誰か助けてぇええええ!!」
「いくわよぉおおおお!!んほぉお「やめてね!」ゆべっ!?!?!?」

だが、レイパーがいざ行為に及ぼうとするのを止めるものが居た。
レイパーに体当たりする紅い影。れいむが飛び込んだのである。

「やめてね!まりさいやがってるよ!!」
「なにするのぉおお!!ありすのとかいはなあいをじゃましないでねぇえええ!!」
「ゆ゛っ゛!?」

ありすの体に走る衝撃。今、こいつは『とかいは』と言ったのか?こんな醜い行為を『とかいは』と呼んだのか?
確かにありすも『とかいは』な愛を皆に配ろうとしていた。だが、自分が配ろうとしていたのは断じてこんな醜い行為ではない!
そうこうしている内にもれいむとレイパーの口論は白熱していく。

「いやがってるあいてをむりやりすっきりーっ!するのはわるいことなんだよ!!わかってね!!」
「ゆふぅううううっ!ありすのあいじょうがわからないなんて、なんていなかものなのかしら!!」
「すっきりーっ!はすきなゆっくりどうしがするものなんだよ!ありすだけすきでもだめだよ!!」
「……よくみたら、あかいかみがとってもとかいはなれいむね!ありすがあいしてあげるわ!!んほぉおおおおぶびゃっ!!」

突然標的をれいむに替えて襲い掛かるレイパー。咄嗟の事に反応できなかったれいむに魔手が届く寸前、上から降って来た足がレイパーを踏み潰した。

「ゆっ!?ありがとうおにーさん!!」
「大丈夫か、れいむ?さっさと逃げるぞ、あいつらも逃げたようだしな」

『おにーさん』の台詞に目をやれば、助けられたにも拘らず礼も言わずに逃げていく後ろ姿がある。
だが、そんなものよりもっと恐ろしいものを見てしまったありすは震え上がった。

公園のあちこちで繰り広げられる地獄絵図。
まりさが、れいむが、ありすが、ちぇんが、みょんが。
先程までとてもゆっくりしていたゆっくり達が、無数のレイパーありすに組み敷かれて泣き叫びながら黒ずんでいく姿が、それを救おうとする飼い主達の悲嘆が、公園中に満ちていた。

「お……おにーさん……なんなの、これ……?」
「俺も見るのは初めてだがな、レイパーって奴だ!近くに来ているってのは聞いていたが、こんなに早くここまで来るとは思わなかったぞ!」

そう言って二人のキャリーを開ける『おにーさん』。素早くキャリーに潜り込むありすだが、れいむは阿鼻叫喚の公園を見たまま微動だにしない。

「おい、れいむ!早く入れ、さっさと逃げるぞ!」「れいむおねーちゃん、はやく!」

急かす二人にゆっくりと振り向くれいむ。その表情を見たありすは思わず息を呑む。
れいむは微笑んでいた。とてもゆっくりとしたお顔で、儚ささえ感じさせる程に穏やかに微笑んでいたのだ。

「……おにーさんとおちびちゃんはさきにかえっていてね。れいむはあのこたちをたすけるよ」
「馬鹿言うな!お前で何とかなる訳無いだろう!?」
「……れいむのあんこさんは、とってもからいんだよ。ゆっくりを、ころしちゃうくらいに」
「!、死ぬ気かお前!!いくらお前の体がゆっくりにとっての猛毒で出来てるったって、それは中身の話だろうが!!」
「れいむのこだねさんだってからいよ。ぺーろぺーろやすーりすーりだってあぶないんだよ。なんとかなるよ」
「何言ってるんだ!!大体、あいつらは今日初めて会ったんだろう!?縁も所縁も無いゆっくりの為に何でお前がそんな事をしなきゃならないんだ!?」
「……それをいうなら、おにーさんやおちびちゃんとだってあんこさんはつながってないんだよ」
「なっ!?」「ゆっ!?」

れいむの言葉に動きが止まる二人。だが、続くれいむの言葉に更なる驚愕を受ける。

「……でも、おにーさんもおちびちゃんもれいむのかぞくなんだよ。あんこさんのつながりなんかなくても、かぞくになれるんだよ。
あそこでくるしんでるこたちとはたしかにしょたいめんだけど、もしかしたらおちびちゃんやおにーさんとかぞくになってくれるかもしれないんだよ。
……だから、たすけるんだよ。れいむのおとーさんとおかーさんのように、おねーちゃんたちがれいむのためにぎせいになったように」

絶句する『おにーさん」とありす。そんな二人に向かい、器用に頭を下げてみせるれいむ。

「ゆっくりさせてあげられなくてごめんなさい、おにーさん。このごおんは、ぜったいわすれないよ。
おちびちゃん、みじかいあいだだったけれど、ほんとうにれいむのおちびちゃんみたいで、うれしかったよ。
……ばいばい」

そう言い残し、猛然と公園内に突進していくれいむ。『おにーさん』が引き止めようとする手が届くよりも早く、その姿は公園に消えていった。

「くっ、馬鹿野郎が!!おいちび!!お前はここで待っていろ!!」
「ゆっ!?」

キャリーをその場に置き、れいむの後を追う『おにーさん』。後に残されたありすは暫く呆然としていた。

(……れいむおねーちゃん、なんであんなことを……あんな……あんな、いなかもののために……どうして………)

ありすは混乱していた。れいむの行動に、れいむの言葉に、そしてあのレイパーの言動に。
ありすが分け与えようとしていたのは本当に『とかいは』な愛だったのか?そんなものの為にこの地獄へ二人を連れて来てしまったのか?

(ちがう……ありすは……ありすのあいは………あんなものじゃない………ありすのあいは、もっとたいせつなものなのよ!!)

常にありすの事を考えてくれたれいむ、見知らぬありすを養ってくれた『おにーさん』。
あの二人の行動こそが、本当の『とかいは』な愛なのではないのか?それがありすの求めた愛の姿ではないのか?
ならば、ここで躊躇っている自分の姿は『とかいは』とは言えない、言える筈が無い!!
そう思った次の瞬間には、ありすはキャリーを飛び出して二人の後を追っていた。
怖くない訳じゃない。だけれども、あの二人を、ありすの『家族』を見捨てる方が何倍も怖かった。
ありすは歯を食いしばって、阿鼻叫喚の公園へ飛び込んでいった。



「ゆびぃいいいいいい!!もうやべてぇええええ!!」
「離れろ!!離れてよぉ!!」
「んほぉおおおおおお!!すっき「やめなさい!」りぃいいいいいい!?!?!?」

見知らぬれいむにのしかかっていたレイパーに体当たりして、無理矢理引きはがす。
ぺにぺにから精子餡を吹き出しながら転がっていくレイパーを尻目に、ありすはのしかかられていたれいむと飼い主に叫ぶ。

「はやくにげなさい!!おうちにかえってとじまりすれば、あいつらははいってこれないわ!」
「あ……ありがとう!!」「ありがとう、ありす!!」

そういってれいむを抱きかかえ、公園から逃げ出していく後ろ姿を見送ってからありすはレイパーに相対する。

「どおしてじゃまをするのぉおおお!!このいなかものぉおおおお!!」
「……いなかものは、ありすのほうよ。すっきりーっ!がとかいはだなんて、わらわせるわ!!」
「うるさぁああいいいい!!かわりにありすですっきりーっ!するわぁあああああ!!!」

言うなり襲い掛かってくるレイパーを紙一重で避ける。レイパーは大抵最短コースを取って来るので、軌道が読み易いからこそではあるが。
地面に突っ伏したレイパーの背後を取り、ありすはぺにぺにを突き入れる。

「むほぉおおおおお!!だいたんねぇええ゛え゛え゛!?いだっ゛!?い゛だい゛ぃ゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!!!!」
「……あたりまえよ。ありすのあいは、とうぶんぜろぱーせんとなのよ?びたーなあいをうけとってね!!」

そのままピストン運動を続けるありす。余りの痛みに暴れ回るレイパーだが、ゆっくりの習性が絶頂の言葉を言わせてしまう。

「ん゛ほ゛ぉ゛お゛お゛お゛お゛お゛っ゛!!ずっ゛ぎり゛ぃ゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!?!?!?!?」
「……すっきりーっ!れいぱーがしんでもっとすっきりーっ!」

レイパーが一際高く吠え、そのまま茎も生やさず黒ずんでいく。
たった一回のすっきりーっ!で、歴戦のレイパーが死ぬ。通常なら有り得ない光景だが、ありすの場合はこれが正解なのだ。
そもそもゆっくりがレイパーに襲われて死ぬ最大の理由は、多重にんっしんっによる餡子の減少だ。
ゆっくりの内容物である餡子と精子餡が混ざり合い、赤ゆの元になる中枢餡が作られる。それは即ち、親の餡子を削り取ると言う事だ。
レイパーが次々と注ぎ込む精子餡によって母体の餡子が生命維持不可能な量まで削り取られ、襲われたゆっくりは死んでしまうのだ。
だが、ありすの中身は完全無糖のブラックコーヒーゼリー。当然、その精子餡も完全無糖どころか、非常に苦い。
そして度を超した苦味はゆっくりにとって猛毒だ。そんなものをレイパーのカスタードクリームに注ぎ込めばどうなるかは一目瞭然。
奇しくもありすはレイパーを迎撃するレイパー、カウンターレイパーとして最高の資質を持っていたのだ。

「これでええと、じゅういっぴきね。……けっこうやっつけたとおもうんだけど、ぜんぜんへってないわね」

公園を見回してみる。先程からこうしてレイパーを倒して居るのだが、一向に数が減っていない。
……れいむや『おにーさん』は無事だろうか?探しては居るがこちらも一向に見つからないままだ。

「このままじゃ、みんなしんじゃうわ。はやくなんとかしないと……」

レイパーにのしかかられているゆっくりはまだ沢山居る。飼い主さんに潰されたレイパーも居るのだが、すぐに別のレイパーが襲い掛かるので終わらないのだ。
そこまで考えて、ありすは気付いた。

(おかしいわ、ここはにんげんさんのまちよ?どうして、れいぱーがこんなにはいってこれるの?)

いくら何でもこの町にこれだけのレイパーが居る訳が無い。何より、先程『おにーさん』はレイパーの集団が近付いている、と言っていなかったか?
人間の町に余所者が近付く事自体命取りだ。レイパーともなれば、最優先で駆除される対象の筈。
なのに、この公園には警察も消防も、加工所さえ来る気配がない。と、言う事は……?

(れいぱーのむれをひきいるやつがいる……?そいつが、にんげんさんをおさえている……?)

そこまで推理が進んだ時、ありすの耳に聞き慣れた声が幽かに聞こえて来た。

「!、これは、れいむおねーちゃん!?」

途端に駆け出すありす。声が聞こえて来た方向へ向かって全速力で向かう。
公園に隣接した林を抜けた先、そこに居たのは、

「お゛……お゛に゛ーざん゛……ごべんね゛ぇ゛……」

ボロボロの姿で横たわるれいむと、

「喋るな!これ位すぐ治る!!ちびも待ってるんだ、すぐ連れてくぞ!!」

れいむを抱え上げようとする『おにーさん』、そして……

「ゆふぅ~、ゆふぅ~、……なかなかしげきてきなれいむだったわぁ……」

途轍も無く大きなレイパーありすであった。
よく見ればレイパーありすのぺにぺには赤いもので汚れており、目のは充餡している上、吐き出したものを無理矢理飲み込んだのか口の端からカスタードを零している。
だが、そんな事は一先ず置き、ありすはれいむの元へ駆けつける。

「なっ!?おいちび!待ってろって言っただろう!?」
「ありすのおかーさんのききに、だまってられるわけないわ!!」

『おにーさん』の怒声に、ありすは大声で返す。
その声に気が付いたのか、瀕死のれいむが震える声でありすを呼んだ。

「ゆ……おちびちゃん……?」
「しっかり、しっかりしてね、おかーさん!!ありすをひとりにしないでね!!」
「ゆ……おちびちゃんが……れいむを…………おかーさんって………よんでくれたよ………ゆわぁい…………」
「!、おい、れいむ!?しっかりしろ、目を開けろ!!」
「お、おかーさん!?しんじゃいやよ!おめめをあけてぇええええ!!」

『おかーさん』。れいむはありすを『おちびちゃん』と呼んだが、ありすはれいむを『おねーちゃん』と呼び続けた。
だが、ありすにとって、れいむは最早『おかーさん』以外の何物でもなかったのだ。ただ、気恥ずかしさでそう呼べなかっただけの事。
れいむとの家族の絆を自覚した今、そんな気恥ずかしさは吹き飛んだ。これで大手を振って母と呼べる。そう安心していた。
なのに、なのに!母と呼べたのが今際の際だなんて!!
『おにーさん』の腕の中で永遠にゆっくりしてしまった『おかーさん』。
そのまむまむがまるで丸太でも尽き入れられたかのように広がり切っていた事に気付いたありすの怒りが燃え上がる。

「ゆふぅ~、くぃーんのぺにぺにをあじわえたのよ、こうえいにおもってね!」

れいむの豆板醤で弱まっておきながら、そんな事をほざく自称クィーンありすの目前に、ありすは立ちはだかった。

「ゆふぅうううっ、こんどはおちびちゃんがあいてなの?くぃーんがとかいはにあいしてあげるわぁああああ!!」
「だまれ!!この、かっぺがぁああああああああ!!!!」

絶叫と共にクィーンに踊り掛かるありす。カウンターレイプは相手の後ろを取り、まむまむにぺにぺにを突き立てる事で成立する。
十一回もの実戦により、カウンターレイプのセオリーを自然に会得したありすが素早く背後に回るが、そこにはあるべきものが無かった。
このクィーンはぺにまむ兼用型、つまりぺにぺにを引っ込めてまむまむにするタイプだったのだ。

「ゆ!?」
「なかなかせっきょくてきなおちびちゃんねぇええええ!!!くぃーんのてくにっくをよおくあじわってねぇえええ!!」

クィーンが激しく体を捩る。ありすは必死でクィーンの髪に噛み付くが、あろう事かクィーンは髪の毛ごとありすを振り落とした。
ありすに迫るクィーンの巨体。だが、その動きが不意に止まる。
クィーンの背後から近付いた『おにーさん』が何処からか調達して来たシャベルで殴り付けたのだ。

「くっ、効いてないのか!?図体がでかいと感覚も鈍いってのは本当だな!!」
「おにーさん!?」「なにするのぉおおお!!じじぃはしんでねぇえええええ!!」

思わぬ援護に驚くありすと、突然殴られた事で激昂するクィーン。直径一メートルを超える巨体に見合わぬ寸敏さで『おにーさん』に体当たりを仕掛ける。

「ぐわっ!?」
「くぃーんにいじわるするじじぃはせいっさいっするわぁあああああ!!」

体当たりをもろに受け、『おにーさん』が地面に転がる。それを見たクィーンが潰れたように平たくなる。
力を込めて高く跳び、『おにーさん』を踏み潰すつもりなのだ。クィーンの意図に気付いたありすの顔が青くなる。

(おかーさんだけじゃなく、おにーさんまで!ありすのかぞくを、みんなうばうつもり!?)

嫌だった。これ以上家族を失うのは、絶対に嫌だった。
だが、カウンターレイプは通用しない。クィーンのぺにぺにはずっと膨張しっ放しで、引っ込む気配すらない。
体つきは一回りどころかサッカーボールと大玉転がしの玉程に違う。ありすの体当たり程度でどうにかなるとは思えなかった。

(どうする、どうすれば……ゆ!?)

必死に打開策を模索するありすの目に、クィーンの背中にあるものが映る。
先程突き立てられたシャベルが開けた、大きな傷口が。

(……そうよ!あそこからありすのこだねさんをながしこめば……!!)

しかしあの激辛れいむでさえ殺し切れなかったクィーンの巨体に、ありすの微々たる精子餡程度では効果は薄いだろう。
そしてこの戦法に気付かれれば、流石にクィーンも警戒する筈だ。チャンスは実質一回きり。
やるならば一撃必殺のダメージを与えなければ………!
そこまで考えたとき、ありすの脳裏に閃きが走った。
出来る。この方法なら、きっとクィーンを殺し切れる筈だ!
でも、その方法を取ればありすの命は無い。永遠にゆっくりする代わりに相手も道連れにする、これはそう言う方法だ。
だけど………!!

『れいむのおとーさんとおかーさんのように、おねーちゃんたちがれいむのためにぎせいになったように』

そうだ、『おかーさん』が命がけで貫いた愛を、娘の自分が躊躇ってどうする!?

(……かくごをきめたよ!!ありすのいのち、おにーさんにあげる!!)

ありすはクィーンの傷口に向かって思いっきり跳び着く。
力を溜める為に扁平になっていたクィーンの体勢も手伝って、どうにかありすが潜り込める程度の大きさに広がっていた傷口に。

「ゆぎぃいいいいいいいいい!!くぃーんのからだのなかにはいってこないでぇえええええ!!」
「何だいきなり?………そうか、ちびが潜り込んだのか!!」

クィーンが突然苦しみ出したのを疑問に思った『おにーさん』だが、ありすの姿が見えない事から事態を把握する。
と同時に、ある事を思い出して顔面蒼白になった。

「おい!やめろ、ちび!お前は甘いものが喰えないんだぞ!?」

れいむと同じく、ありすもまた甘味に対して強烈なアレルギー反応を起こす性質を持っている。
そんなありすが、カスタードと言う甘味を、それも散々痛めつけた所為で甘みを増しているであろうそれを食べてしまったら……!?
結果は火を見るよりも明らかだった。

「やめろ!すぐ出てこい!ちび!出て来るんだ!!」



『やめろ!すぐ出てこい!ちび!出て来るんだ!!』
「……ごめんなさい、おにーさん。でも、ありすはもういいの。とってもゆっくりできたから、おもいのこすことはないもの」

クィーンの分厚い皮と高い糖度の所為でべた付くカスタードクリームを通して響く『おにーさん』の声に、届かないと知りつつもありすは返事をする。
もう、決めた事だ。既に覚悟は決まっている。後は実行するだけだ。
ほんの少しだけ逡巡してから、ありすはクィーンのカスタードを口内に流し込む。
最初に感じたのは違和感。舌先が痺れるような、芳醇な香りもコクのある苦味も全く無い感覚。
一瞬遅れて襲って来たのは、全身を打ち抜く途轍も無い衝撃であった。

「ゆ゛げぇ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛っ゛!!!!!!!!!!!!」

ありすの餡子が吐き出される。明らかに致死量の、糖分を全く含まない芳醇な香りとコクのある苦味を持ったコーヒーゼリーが、クィーンの体の中に打ち撒けられる。
それは一瞬にしてクィーンの体内を犯し尽くし、中枢餡を汚染した。

「ゆ゛ぎぎぎゃ゛げごう゛ぎぐぶぶぶべべら゛ぎゃ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!!!」

クィーンが一際甲高い悲鳴を上げる。名状し難きそれは、欲望のままに生きたクィーンのゆん生を締めくくる断末魔の叫びであった。
体の内側から穢されるという生き地獄を一頻り堪能したクィーンは、そのまま末期の言葉すら残さず黒ずんでいく。
クィーンの断末魔を聞いたレイパー達が一斉に引き始める。いっそ鮮やかと言って良いだろう光景を目の当たりにしながらも、『おにーさん』はただ呆然と佇んでいた。







『レイパーには複数の原因がありますが、第一の原因は理性による自制が効かなくなることです。
その理由については諸説有り、未だに特定できておりませんが、最も有効な説として『すっきりーっ!以外の生き甲斐を持たない』、
『ゆん生の目標を持たない』ゆっくりがレイパーになる、と言うのが定説になっています。
以降の事例に置いて、潔癖性を発症したレイパーの子供(いー3)や、レイパーから生まれたのにレイパーにならない子供(ろー2)はその傾向が強く出ています。
ただし、レイパーから生まれた所為で迫害を受けてトラウマになった事例(はー1)や、レイパーの現実を見て幻滅した事例(はー2)も報告されてますので、
全てのレイパーが相当するとは限りません。この付録では可能な限り細かく事例を区別しておりますので、事例に当て嵌める事が容易になるかと思います。
レイパー矯正に必要なのは正しい知識です。是非、ご活用ください』

※編駐:本文内の( )は該当事例の番号を示す。

~新ゆっくりバッジ認定協会監修『ゆっくりの躾け方 バッジ取得マニュアル』巻末付録より抜粋~







会社に辞表を出した翌日。
俺はガランとしたリビングを見渡す。
幼い頃から住んでいる、勝手知ったる自分の家だ。リフォームで昔日の姿を失ったとはいえ、見慣れた自分の城の、筈だった。
寂寥とした我が家を、幻の風が吹き抜ける。背筋に奔った寒気を振り払い、俺は携帯を取り出した。
数回のコール、今や懐かしの黒電話を愛用する相手の姿が目に浮かぶ。

「……あ、母さん?オレオレ。……いや、本物だって」

電話の相手は田舎に隠居した両親だった。
数ヶ月前、突然尋ねてきた俺の素頓狂な頼み事に承諾をくれた父と母に、その後の事を報告するのだ。

「……うん、買い手が付いたよ。これでそこそこの畑と機材位は揃えられると思う。
……まあね、そりゃ寂しいけれども、誰も住まないんじゃ勿体無いし、何より家がかわいそうだしね」

『あの家を売って、ここで農家になりたい』
久しぶりに顔を突き合わせた息子から唐突に繰り出された申し出に、面食らっていたものの両親があっさり同意してくれたおかげで売値も高く付いてくれた。
何しろオール電化の4LDK、小さいとはいえ庭付きともなれば如何に不況とはいえ欲しがる人は結構居る。
思い出の詰まった家を売る事には抵抗もあったが、それ以上にここで起きた悲劇の思い出が重かった。

「……急な話なのは仕方ないよ。急に思い付いたんだしさ。
……でも、俺は本気だよ。本気でやってみたいんだ、百姓を」

来週から暫くはある学者の元で農業の基本を学ぶ事になる。
何分初めてだらけで解らない事ばかりなのだ。基本を疎かにしては何事も立ち行かない。
俺は今後の人生設計を電話の向こうに語り始めた。

「……あ、夕日……」

話し込んでいる内に、いつの間にか辺りはすっかり夕暮れに染まっていた。
通話を打ち切ろうとする俺の機先を制するように、母が『ちょっといいかい?』と話を遮って来た。

「……え?俺がいきなり家を売りたがった理由?」

……それを聞かずに賛成してくれたのか、この人達は。そう言えば誰にも話してなかったな。
俺は庭の片隅に目をやり、そこにあるものを見ながら応えた。

「……そうだな。一人で住むには、この家は広すぎるから、かな……」

一人暮らしの頃には思いもよらなかった事。
短いながらも、あいつらと一緒に過ごした日々がどんなに楽しかった事か、無くした今になってよく解る。
……理解するのが遅かった。遅過ぎたんだ。

「……うん、俺は大丈夫だよ。それじゃ、また連絡するから」

携帯を切り、俺はリビングの中からそれを眺める。
寄り添うように突き立てられた二つの棒切れ、名前すら書かれていない簡素な墓標を。
あの日、この町を襲ったレイパーの群れは姑息な事に幾つもの囮を使い、警察や消防、加工所を混乱させていたらしい。
どうやらそれを指揮していたのがあのクィーンありすだったようだ。
捕獲されたレイパーによると、群れの運営は全てクィーンが決めており、クィーンがやられた為にどうして良いか解らなくなったので退却したのだそうだ。
……何人かの飼い主と、飼いゆからは「危ない所を救われた」とお礼を言われたが、結局あのまりさと飼い主は顔すら見せなかった。
別に礼を強制する訳ではないが、あのまりさにあの飼い主では金バッジなんか無理だろうな……。

庭の片隅で夕日に照らされる墓標を見ながら、俺は思う。
俺の思い付きでゆん生を散々歪められたあいつらは、最後に俺をどう思ったんだろう。
恨んでいたのだろうか?憎んでいたのだろうか?俺にはそれを知る手段はない。

それでも、出来る事なら、あいつらにはこう思っていて欲しかった。

『俺たちは、家族だった』と。






※まず最初に一言。……すいませんでしたぁああああ!!!!

今までの流れ:
十月に書き始める

十二月になっても書き終わらない

とりあえず書き上がった所までうp

後編が滞る

会社が年末進行で徹夜連続

三十日にようやく仕事納め

三十一日中に全部書く

無理でした←いまここ

……言い訳になりませんね。
一応テーマは3.改造「失敗作のリハビリ」です。
何か書いてるうちに違うテーマっぽくなっていますが、前後編一貫してこのテーマで書いています。
……本当だよ?
この作品はコンペ作品ではなく、通常の投稿とさせていただきます。
楽しみにしておられた方には大変申し訳ない事になってしまいました。
せめて、お楽しみいただけたのなら幸いです。
それでは、お読みいただき有り難うございました。

※前作『激辛れいむと珈琲ありす 前編』に、嘆きあき様とキリライターあき様が挿絵を描いてくださいました。
私の拙い作品にこんな大御所が挿絵を……!と狂喜乱舞していたのですが、どちらもリアルタイムで遭遇できず、お礼の機会を逃してしまいました。
ですので、この場を借りてお二人にお礼をさせていただきます。

嘆きあき様、キリライターあき様、本当に有り難うございました!

※前作で実体験と書きましたが、流石に4LDK独占はフィクションです。
…………勤務時間もフィクションだったなら…………!!




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このSSへの感想 ※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね!
感想

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  • 悲しい結末だったなあ -- 2023-08-25 21:09:12
  • 次はれもねーど魔理沙か? -- 2023-02-20 17:54:51
  • なんであんこのまりさとカスタードのありすからコーヒーのありすができるんだ -- 2016-05-28 20:45:25
  • ゆっくりできないパチュリーは、とっととしんでね!今すぐでいいよ! -- 2016-01-23 10:09:50
  • クイーンとはいえゆっくりごときを殺しきれないお兄さん
    無能すぎるわ -- 2015-12-18 09:24:25
  • 感動したけど幸せに生きて欲しかっただ…! -- 2015-12-15 14:08:18
  • いい話やあ... -- 2015-03-15 22:45:52
  • ありすのレイパーがこんなところで役立つとは...れいむ、いい子だったなぁ
    くそう、目から水が...
    感動した -- 2014-05-10 17:55:36
  • ブラボー888888888888 -- 2014-03-08 11:09:48
  • これはすごい! -- 2013-09-28 21:01:12
  • いい話だ! -- 2013-09-28 20:56:22
  • 作者さんにとかいはな愛をあげるわぁぁあぁぁ! -- 2013-08-08 14:39:54
  • ん??目から汗が、、、、、冷房の温度低くしないとなー -- 2013-07-25 11:42:02
  • イイハナシダナ- -- 2013-06-28 20:40:47
  • このあとのゆっくり絡みの続編出してほしいな~ -- 2013-04-22 20:33:23
  • いい話だった
    またこんな感動ものを作って欲しい
    もちろんゆっくりでね
    更新なんて遅くて構わんよ -- 2013-04-22 20:27:20
  • 名作だった!けど後半粗が目立ったのがちょっとな・・
    ・生まれてから一度も外に出てないれいむの体当たりごときで吹っ飛ばせるなら、そもそも飼い主がレイパーを引きはがせてる。
    ・同様に、まだ成体にもなってないありすの体当たりごときで吹っ飛ばせるなら(ry
    ・いくら数が多く身体能力が上がってるとはいえ所詮ゆっくり。飼い主が胸の高さぐらいでかかえてればレイパーには何もできんだろ。
    ・れいむが飼いゆを助けるために特攻した時、何故お兄さんは速攻でれいむを連れ戻せなかったのか。全速力でも、ゆっくりの中でも特に身体能力の低いれいむなら、追いついて抱き上げるまです数秒で終わる。
    突然のことに茫然としてたんだとしても、10秒あれば十分だろ。その後ありすを回収して、二匹をかかえて公園から逃げる。これぐらいは余裕で可能だろ。
    ありすがキャリーから出てたとしても、れいむ同様ゆっくりの足で遠くまで行けるわけないから、すぐに回収できる。 -- 2012-09-23 04:18:34
  • ここで目から汁が出てくるとは思わんかった・・・
    。・゜゜ '゜(*/□\*) '゜゜゜・。 ウワァァァァァァァァァァーーーーーーーン!! -- 2012-02-15 19:03:43
  • 激辛れいむと珈琲ありすううううううううううううううううううううううううう
    ううううううううううううううううううううううううううううう -- 2012-02-11 13:19:20
  • 何これ目から塩水が溢れてくるんだけど -- 2011-10-22 22:14:22
最終更新:2010年01月27日 16:52
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