ふたば系ゆっくりいじめ 788 七罪

七罪 26KB


虐待-普通 悲劇 自業自得 現代 ネタかぶりしてないことを祈りつつ



■罪源


冬の長さを示すような根深い雪を踏みしめ、私は歩く。
肩をすくめて寒さを耐え忍び、我が家への帰路を歩く。
口元に漂う白い息を見ていると、心まで冷たくなってゆくようだ。

「おにいさん、れいむをゆっくりさせてね!」

緩やかな風に流れる灰色の曇り空は、日の光も通してはくれない。
雪を落としてこないのが、せめてもの救いだろうか。

両の耳などは、恥ずかしいぐらい真っ赤になっているのだろう。
指で擦ってみると、まるで自分の身体ではないかのように冷たくなっていた。

「あと、あまあまちょうだいね!」

コンビニ袋を持っていなければ、両手ともポケットに突っ込みたいところだ。
それでも今の私には、わずかな温もりがありがたい。
片手だけを上着のポケットへねじ込み、私は身を縮ませた。

閑散とした、見慣れた住宅街が周囲に広がってくる。
人通りも少なく、聞こえてくるのは自らのコンビニ袋が擦れる音だけだ。
この先には、貧しいながらも暖かい我が家が待っているはすだ。

「ゆ? ここがおにいさんのおうち?」

足を止め、ズボンのポケットから鍵を取り出す。
このドアの向こう側は、どれだけの暖かさを与えてくれるのだろう。
想像するだけで、寒く辛かった道のりも全て癒される気がした。

「きにいったよ! ここをれいむのゆっくりぷれいすにするよ!」

私は鍵を取り出す手を止め、足元に視線を移した。


■強欲


「ゆぶげっ!」

振り下ろした足の下で、潰れたバレーボールのようなものが悲鳴を上げる。
悲鳴に合わせて、黒髪と赤いリボンがわさわさと蠢いていた。

想像以上に心地良い弾力が、足の裏から伝わってくる。
私は、力を抜いたり入れたりを何度も何度も繰り返した。

「ゆぶっ! ゆびっ! ゆぶっ!」

バレーボールが、歪な変形を繰り返す。
寒さも忘れてしまいそうなほど、私はその行為に熱中した。

「い、いたいよ! いますぐやめてね!」

私はハッとなり、コンビニ袋に目をやった。
とんでもない失敗に気が付いたのだ。
貴重な時間を使い過ぎてしまったことに。

慌てて袋から中身を取り出す。
手に取ると同時に、私はひどく安堵した。

「ゆゆっ! あんまんさんだよ!」

暖かさが保たれていたことに、心から感謝する。
かすかな湯気を放つあんまんが、輝いて見えるかのようだ。

「はやくちょうだいね! たくさんでいいよ!」

それは、とても感動的な暖かさだった。
寒さにかじかんだ指は思うように動かない事を忘却するほどに。

「ゆ!」

柔らかい、とても柔らかい音と共に、あんまんが地面に接する。
一瞬の油断が命取り、と語ったのはどこの誰だっただろう?
なんの打開策にもならないことを悩むほどに、私は激しく動揺していた。

「むーしゃむーしゃ!」

心が平静を取り戻す頃には、全てが終わっていた。
落下したあんまんは、跡形も無くなっていたのだ。

「おかわりちょうだいね! ぜんぜんたりないよ!」

私はしばし、思慮にふける。
無くなってしまったものは、もう戻ってはこない。
ならばこの状況、私が取れる最善とは一体なんなのだろうか?

答えは、思いのほか簡単に導き出された。
あんまんは、無くなったわけではなかったのだ。

「あと、あまあまちょうだいね! ゆっくりぷれいすもちょうだいね!」

あんまんは、この中にある。

「ゆゆっ! おそらをとんでるみたい!」

両の手で、頬のあたりをしっかりと掴み持ち上げる。
指の先まで強い意志を込め、決して落とさないように。

「れいむとんでる! おそらもれいむのものだよ!」

頬を紅潮させ、だらしなく涎を垂らすバレーボールと向き合う。
目を背けたくなるような光景だが、これもあんまんのためだ。
私は、ゆっくりと掴む力を強くしていく。

「ゆんゆゆ~♪ ……ゆっ? ちょっといたいよ!」

力を込めたことで、わすかでも体温が上がったのだろうか。
かじかんでいたはずの指も、自由に動かせるようになってきた。

私はゆっくりと、両の手を左右に広げてゆく。

「いたいっ! ちぎれちゃう!」

ミチ……ミチ……という音が、指のあたりから聞こえてきた。
バレーボールの頬に亀裂が入り、薄っすらと黒い餡子が見え始める。

ほんの少し前まで笑顔に満ちていたものは、もう見る影もなかった。
横幅は2、3倍に引き伸び、どんな表情なのか判別できなくなっている。
どれほど出来の良い福笑いでも、ここまで面白い顔にはならないだろう。

「やめてね! やめてね!」

この状態でも言葉を発っせられることに、ほんの少しだけ感心する。
私は敬意を表して、左右へ引く力を更に強くした。

「ゆ、ゆんやあぁ~っ!」

頬だけではなく、身体のあちこちに亀裂が入り始める。
最初は滲む程度だった餡子も、亀裂から漏れ落ちて床に染みを作っていた。
大変見苦しいので、足の裏で丹念に踏みにじる。

「れいむのあんこさん、ふまないでね!」

他人の所有物、誰の所有物でもないもの、何もかも全て。
どれだけの物を欲すれば、気が済むのだろう。
あんまんも自分のもの、家も自分のもの、大空も自分のもの。

「もっと、ゆっくり……したかったぶぎゅ!」

自問自答をしているうちに、目前では餡子の花が咲き乱れていた。
床に飛び散る、餡子に混じった何か。

それはあんまんではなく、ただの生ゴミだった。


■色欲


「ただいまー」

帰宅を告げながら、横着して手を使わずにつま先で靴を脱ぐ。
玄関を上がったあたりで、廊下の向こうからポヨンポヨンと間抜けな効果音が聞こえてきた。

「おにいさん、ゆっくりおかえり!」

金色の髪に黒い帽子を被った球体が、不敵な笑顔で飛び跳ねてくる。
あまりに激しく跳ねるものだから、帽子が徐々にずれてきているようだ。

「おい、そんなに跳ねると……」
「ゆゆっ!?」

案の定、帽子が床にずり落ちてしまった。
慌てて振り向き行方を追うが、ゆっくりは急に止まれない。

「まりさのすてきなおぼうしがぁー!」
「前見ろ、前」

ポヨヨン!

「ゆぴっ!」

見事、私の足元へ正面衝突だ。
大きな目に涙を一杯に溜め込み、仰向けに転がってしまう。

「ゆっぐ……えっぐ……」

コンビニ袋を床に置き、両手を使って元の体勢に直してやる。
瞬く間に、不敵な笑顔が戻ってくる。

「ゆっくりもどったよ!」
「ああ、よかったな」
「……ゆ!? まりさのすてきなおぼうしがないよ!?」

キョロキョロと、せわしなく左右を見回す。
落ちた帽子は遥か後方なので、いくら前方を探しても見つかるわけがない。
私は仕方なく帽子を取りに移動し、持ち主の元へ返してやる。

「ゆ! おぼうしさん、ゆっくりおかえり!」

よほど嬉しかったのか、鏡も無いのに身体をクネクネさせてモデル気取りだ。
満足げな顔を見届け、私は廊下の奥へ歩き出す。

玄関先の餡子の染みを思い出すと、少し気分が憂鬱になる。
しかし、放置しておいて虫でも集まられたらたまらない。
私は物置部屋に入り、掃除用具……箒に塵取りを取り出した。

「んほおおぉぉぉ!」

嬌声が響き渡ったのは、その瞬間だった。

「ゆんやああぁぁぁ!?」

掃除用具を手にしたまま、慌てて玄関へ戻る。
そこには、とても言い知れない光景が広がっていた。

「とっても、とかいはなまりさだわ! んほ! んほ!」
「やめてね、やめてね!」

嬌声の主は、金髪にカチューシャをつけた丸い球体だった。
何かの液体で濡れているのか、表面は妙な光沢を発している。

先程までクネクネしていたのは、モデル気取りの帽子の主だった。
しかし、今クネクネしているのは金髪カチューシャの方だ。
モデル気取りに押しかかり、腰のあたりを激しく動かしている。

生理的な嫌悪が、身体をかけずる。
反射的に、手にしていた箒を金髪カチューシャに振り下ろした。

「ゆぎぃ!?」

濁ったうめき声を上げて、金髪カチューシャは動きを止めた。
ほんの、一瞬だけ。

「……ゆふ、ゆふんほほおぉ!」
「ゆんやぁー!?」

金髪カチューシャが、再び腰を動かし始める。
箒で叩いた部分が歪に凹んでいるのも、おかまいなしだ。

「くそっ! このっ!」

私は何度も何度も、箒を振り下ろす。
叩いた箇所から金髪カチューシャの皮が裂け、クリームが漏れてくる。
それでも、腰の動きを完全に止めることは出来なかった。

「きんもちいいぃぃぃ! まりさのまむまむ、さいこうだわああぁぁぁ!」
「す、すっきりしちゃう~!?」

気が付けば、涙と謎の液体で両者ともヌルヌルテカテカだ。
猶予が無さそうな状況に、私は覚悟を決めた。

「ゆぎゅっ!」

モデル気取りを足で踏みつけ、金髪カチューシャに両手を添える。

「いくわよまりさ、いく、いくうぅぅぅ!」

スポーン!

金髪カチューシャがモデル気取りから外れ、腰の突起物が露になった。
そのまま、玄関外へ放り投げる。
手のひらには、ねっとりとした最悪の感触が残っていた。

「すっきりいぃぃぃ!」

金髪カチューシャが嬌声を上げながら、放物線を描く。
腰の突起物からは、謎の液体を放出しながら。

「ゆぶっ!」

モデル気取りから足を離し、玄関外へ飛び出す。
金髪カチューシャは既に体勢を整え、起き上がろうとしていた。

「ぶっかけもよいけど、なかにもださせてねええぇぇぇ!?」

ご近所さんにとんでもない誤解を招きそうな絶叫に、私は顔をしかめる。
狭い玄関では躊躇していた分を取り返すべく、思い切り箒を振り上げた。

「こんやは、ねかさないわよおおぉぉ!」

渾身の力で、箒を叩きつける。
あまりの勢いに箒が折れてしまうのではないか、といわんばかりに。

「んほぶっ!」

盛大に謎の液体を撒き散らしながら、金髪カチューシャはやっと動かなくなった。
性欲の塊が、クリームの塊に変化したのだ。

私は目をつぶり、とても深い溜息を漏らす。
処理が終わった安堵感と、掃除対象が増えた無念感からくるものだった。


■嫉妬


「ゆっぐ……えっぐ……」

モデル気取りも今は昔。
こんなに腹をぷっくりと膨らませては、引退も止む無しだろう。

「まりさ……にんっしんっ! しちゃった……」

いくらおさげで目元を抑えても、溢れる涙は止まらない。
膣外射精は避妊法じゃないから……などと説明した所で、慰めにもならないだろう。

掃除があるからと横着して、玄関ドアを開け放しにすべきではなかった。
私だって、通りすがりに絶世の美女がクネクネとポーズを取っていたら……。

……いや、それでも突然レイプはしない。
そもそも、こいつは美女なのだろうか?

「ゆわぁ~あ。よく寝たよ!」

間延びした声に顔を向けると、廊下の奥からズリズリと球体が這いずってきた。
元モデルも気が付いたらしく、這いずる球体の方を見つめている。

球体の黒髪は寝癖だらけで、赤リボンも変な角度に曲がっているようだ。
三六〇度どこから見ても、完璧な寝起きである。
その腹のあたりは、元モデルに負けず劣らずぷっくりと膨れている。

「れ、れいむ……」
「ゆゆっ!? まりさ、なんなのそのおなか!」

寝癖リボンが、元モデルへ向かって物凄い勢いで跳ねてくる。
身篭っているとは思えないぐらいの跳ねっぷりだ。

鬼のようにつり上がった眉毛に、血走った目、歯茎むき出しの口元。
その表情は、とてもじゃないがゆっくりしたものとは程遠かった。

「これはね、れいぱ……」
「うわきしたんだね、まりさ!」

さすが耳が無いだけあって、聞く耳も持たない。

「ちがうよ! だからこれは、れいぱーに……」
「れいむというものがありながら!」

一方的に責め立てる寝癖リボン。
元モデルがあまりに忍びないので、私は助け船を出してやることにした。

「おい、これは事故で……」
「おにいさんはだまっててね!」

ドムン!

会心のトゥーキックが、寝癖リボンに鋭く決まった。
寝癖リボンが壁で反射しながら、廊下の奥へ飛んでゆく。
もしかしたら、風圧で寝癖も直るかもしれない。

「ど、どぼじでこんなことするの……」
「急にボールが来たんで、つい……」

前歯が何本が無くなっているようだが、大きな問題は無いだろう。
この程度は日常茶飯事なので、気にする必要はない。

「まぁ、こいつの話も聞いてやれよ」
「ゆ! いいわけなんてきかないよ!」

寝癖リボンの目前で、もう一度トゥーキックの体勢を取る。

「まりさ、ゆっくりせつめいしてね!」

平和的に示談が始まったようなので、あとは当人達に任せることする。

「れいぱーに、すっきりされたんだよ!」
「れいぱーなんて、どこにもいないよ!?」
「おにいさんが、せいっさいっしたんだよ!」
「てきとうなこといわないでね!」
「ほんとうだよ! ゆっくりしんじてね!」
「……でも、すっきりしたんでしょ!」
「すっきりしたよ!」
「きもちよかったんでしょ!?」
「そんなことないよ!」
「まりさのうわきもの! れいむのばーじんかえしてね!」

初めてのことを気にしているとは、思わなかった。
年中盛っているイメージがあったので、意外だったのだ。

「まりさだって、ばーじんだったんだよ!」
「ばーじんをれいぱーにあげるなんて、どういうことなの!?」
「あげたくてあげたんじゃないよ! ゆっくりりかいしてね!」
「ほんとうなの!? まりさからさそったんじゃないの!?」
「ひどいこといわないでね!」
「まりさは、いんらんだよ! めすぶたってよんであげるよ!」
「どぼじでそんなこというのー!?」
「れいむのいうことがきけないの!?」
「まりさのいうこともきいてよ!」

元モデルの顔は涙でグシャグシャになり、確かに豚顔のようにも見える。
しかし、あまりにあまりなやり取りである。

「あのな……」

思わず口を挟むと、寝癖リボンが般若のような顔で見上げてきた。
目は血走り、口元からは涎が吹き出している。

「じじぃはだまっててね!」
「おい、話を聞けよ」

寝癖リボンは鼻も無いのに鼻息荒く、元モデルに向き直る。

「もう、はなしてもむだだね!」
「ゆんやぁー!」
「ゲスなまりさは、せいっさいっしてやるよ!」

寝癖リボンが飛び上がり、空中に浮かぶ。

「ゆっくりしね!」

ドムン!

会心のボレーキックが、寝癖リボンに鋭く決まった。
廊下の一番奥まで吹っ飛び、壁に激突してずり落ちる。

気絶してしまったのか、ピクリとも動かない。
餡子を少し吐いているようだが、あの程度なら命に別状はない。
後でオレンジジュースでもかけてやれば、寝癖も一緒に直るだろう。

元モデルの方を見ると、いつもの不敵な笑顔に戻っていた。
膨らんだ腹のせいかもしれないが、踏ん反り返っているようにも見える。

「ゆふふ、いいきみだよ」
「……チッ」

元モデルの呟きに、眉をしかめて舌打ちする。
会心のキックが決まったというのに、不満げな気持ちが込み上がる。
掃除するものが増えたから……それだけが理由ではないような気がした。


■怠惰


部屋の真ん中には、腹を大きく膨らませた饅頭が二つ鎮座していた。

「すーやすーや……すーやすーや……」

寝癖の直らない赤リボンの方は、熟睡を示す寝言を喋りながら夢の中だ。
ついさっきまで修羅場だったとは、とても思えない。

幸せそうな笑顔で、膨らんだ腹に両のもみあげを置いている。
生まれてくる赤ん坊の夢でも見ているのだろうか。

「まりさのかわいいおちびちゃん、ゆっくりうまれてね!」

元モデルの方も、すっかり母性に目覚めたようだ。
こちらも膨らんだ腹をおさげで擦り、満足げに微笑んでいる。

「というか、産むのか?」

元モデルの目前に座り込み、私は問いかけた。
強姦されて出来た子……多少でも葛藤はないのだろうか。

「かわいいまりさのおちびちゃんだから、きっとかわいいよ!」
「ああ、そう……」

問題は、もう一つあった。
寝癖リボンが身篭った時に、元モデルと約束を交わしていたのだ。

「しかし、そんな身体でコイツの面倒見られるのか?」

問いかけながら、寝癖リボンを指差す。
身篭ってからというもの、寝るか食ってるか二択の生活だ。
最近では、まともに動こうともしない。

だからこそ、元モデルが世話をする約束が必要だったのだ。

「まりさはにんっしんっしたんだよ!」
「知ってるよ」
「だから、おにいさんがれいむのめんどうをみてね!」
「断る」
「どぼじでそんなこというの!?」

子を産むことに反対こそしなかったが、これ以上手間をかける気もなかった。
当人達の望みなのだから、当人達で責任を取れと約束したはずだ。

「じゃあ、れいむはどうでもいいよ!」
「そうなのか」
「かわりに、まりさのめんどうをみてね!」
「断る」
「どぼじでそんなこというの!? まりさはだぶるまざーなんだよ!」

産まれた後のことも、頭が痛い。
倍の数を面倒見るつもりは毛頭無いが、わざわざ間引くのも面倒くさい。

「全部殺すか」
「こわいこといわないでね!」

情けない涙顔で見上げる元モデルの頭を、帽子越しに撫でてやる。

「ははは、半分冗談だ」
「ゆふー! びっくりしたよ!」

元モデルが嬉しそうに、餡子が一杯に詰まっているであろう腹をプルプルさせる。
ふと玄関にあんまんが置きっぱなしだったことを思い出し、立ち上がった。

「……ゆ? はんぶん?」

元モデルの呟きが背中越しに聞こえた気がしたが、私は無視して玄関へ向かった。


■暴食


今度こそ玄関の戸締りを確認し、床のコンビニ袋に手を伸ばす。
部屋に戻ってみると、鎮座した二つの饅頭は仲良く寝息を立てていた。
元モデルも、寝るか食うかの二択生活になってしまったようだ。

私は目前に座り込み、コンビニ袋を床に置く。
あんまんを一つ取り出した所で、飲み物が無い事に気がついた。
台所へ向かおうと、立ち上がった瞬間……。

「……ゆゆっ!?」

熟睡していた筈の饅頭達が、カッを目を見開いた。

「あまあまだ!」
「はやくちょうだいね!」

一目散に、饅頭達がコンビニ袋へ向かう。
慌てて私も手を伸ばすが、一度立ち上がろうとしたために反応が遅れてしまった。

「がーさがーさ! がーさがーさ!」
「ゆゆゆっ! あまあまがあったよ!」
「むーしゃむーしゃ! むーしゃむーしゃ!」
「うめっ、これめっちゃうめっ!」
「しあわせーっ!」

透明度の低い袋なので、中の様子は良く見えない。
しかし、何が行われているのかは明確に予測できた。

思えば、寝癖リボンはともかく元モデルは身篭ったばかりだ。
懐妊祝いというわけではないが、今回は自由に食わせてやろう。
私はそんなことを考えながら、あらためてあんまんを頬張ろうとした。

「ゆびぃっ!?」

突然、コンビニ袋の中から悲鳴が聞こえてきた。
声だけでは、どちらの饅頭が発したものなのかはわからない。

「むーしゃむーしゃ、それなりー?」
「いたいよ! すぐにやめてね!」

コンビニ袋に手を差し込む。
しかし、どれがあんまんでどれがそれ以外なのか、感触だけでは分からなかった。

「このあんまんは、あまりおいしくないよ!」
「ひどいこといわないでね!」
「でもまりさはたべてあげるよ! ゆっくりかんしゃしてね!」
「ゆんやぁー! れいむのたまのはだがー!」

引っ張り出すのをあきらめて、コンビニ袋を逆さになるよう引っ張り上げる。
何かが引っかかっているのか、なかなか中身は出てこない。

「がーつがーつ! がーつがーつ!」

やがて、ポテポテッ! という音と共に、二つの球体が床に落ちる。
元モデルは無傷のようだが、寝癖リボンは重傷だった。
身体のあちらこちらが食いちぎられ、穴だらけになっている。

「ゆぐっ……れいむの……おちびちゃんが……」

寝癖リボンの腹が裂けて、漏れた餡子に混じって何かが見えた。
小さな目と口がついた、ピンポン玉のような塊だ。

寝癖リボンを掴み上げ、台所へ向かう。
流し台にそっと置いて、オレンジジュースをたっぷりと振り掛けた。

「ゆゆっ!? まりさのあまあまはどこ?」

声に背後を振り返る。
そこには、帽子を被った食欲の塊が、頬を紅潮させ満面の笑みを浮かべていた。

食欲の塊が、キョロキョロと周囲を見渡す。
よく見ると口元には餡子だけでなく、癖のついた黒髪が纏わり付いていた。

「お前、何してんだ……」

私の心に怒りや恐怖はなく、ただひたすらに呆れていた。
この食欲の塊は、自分と甘味以外の存在をこの世から打ち消していたのだ。

「ゆっ! あまあまだ!」

食欲の塊が、私が手にしていたオレンジジュースに顔を向ける。
そのつぶらで大きな瞳には、もう私の存在も映っていないのだろうか。

全くゆっくりしていない反応で、食欲の塊が手元向かって飛び跳ねてきた。
しかし私は手を避けることはせず、逆に振り下ろす。

「ゆびっ!?」

空中衝突した食欲の塊が勢いを失い、床に落下する。

「ゆうぅ……まりさはしんぐるまざーなんだよ!」

……食欲の塊は、先刻確かに『ダブルマザー』と言ったはずだ。

強姦魔は、既に亡き者となっている。
ならば『シングルマザー』の方が正しいといえば正しいのだが……。
それを言い直したということは、つまり。

私の中の呆れが、嫌悪に変わってゆく。
最初はどうだか分からないが、少なくとも現時点では確信しての行動だったのだ。

「だから、えいようとらなきゃだめなんだよ!」

再び、食欲の塊が私へ向かって飛び込んできた。

「あと、あまあまちょうだいね!」

私は、オレンジジュースを持っていなかった方の腕を振り下ろした。
思いきり振りかぶり、渾身の力を込めて。

「ゆぶぎゅっ!?」

食欲の塊が床に叩きつけられ、歪に変形する。
私は行く末を見届けるまもなく、繰り返し拳を叩き込む。

「ぎゅぶっ!? やべちぇぶっ!?」

食欲の塊からは、既に意味不明の言葉しか聞こえなくなっていた。
もちもちだった肌は亀裂だらけになり、衝撃の度に餡子がばら撒かれる。

つぶらで大きな瞳があった場所も、不敵な笑みを浮かべる口元も。
もはや、何処にあったのか判別できない。

凄惨な光景とは裏腹に、不思議なほど私の心は落ち着いていた。
何度も拳を振り下ろしながら、他のことまで考える余裕さえあった。
後の掃除のこと、マンガの単行本を買い忘れたこと……。


■憤怒


「どぼじで、いうことがきけないの!?」

寝癖リボンの怒声が響き渡る。
その目前では、ピンポン玉ほどの塊が目に涙を一杯に溜めこんでいた。

黒い帽子を目深に被り、小さな身体をプルプル震わせ俯いている。
まるで、今にも消えてなくなってしまいそうだ。

「まだ赤ん坊なんだから、仕方ないだろ」

私が横から声をかけると、寝癖リボンの眉毛がキリリ! とつり上がった。
小麦粉の補強跡を気にする素振りもなく、身体を大きく踏ん反りかえさせる。

「まったく、できのわるいおちびちゃんだよ!」
「だって……まりしゃ……まりしゃ……」
「くちごたえしないでね!」

寝癖リボンが身体を捻って、もみあげを振り回す。
ピンポン玉は弾き飛ばされ、テン、テン、と転がっていった。

「ゆぴぃ~! ゆっくちできない~っ!」

滝のような涙を流して、ピンポン玉が泣き叫ぶ。
それを見て寝癖リボンは、例によって鼻もないのに鼻息を荒くした。

「これは、あいのむちなんだよ! ゆっくりりかいしてね!」
「もうやじゃ~! ぴゃぴゃ、たしゅけちぇ~!」

父親を呼ぶ言葉を聞いて、寝癖リボンの身体が朱に染まってゆく。
ピンポン玉の目前まで跳ねてゆくと、大きく息を吸い込んだ。

「あんなゲス、ぱぱじゃないよ! ぷくーっ!」
「ゆんやぁ~っ!?」

人差し指を伸ばし、寝癖リボンの頬を突く。

「ぷしゅるるるる!」

口から空気が抜けたことが、万人に分かるよう宣言される。
私は寝癖リボンの頭に手を置き、顔をこちらに向かせた。

「それぐらいにしろよ」
「お、おにいさん……」

オレンジジュースの効果は絶大だったらしく、親子饅頭は見事息を吹き返した。
減っていた餡子は食欲の塊だったものから拝借したが、特に問題もないようだ。

一刻も経たないうちに、こうして言い合うほどに元気になるとは思わなかったが。
今さらだが、つくづく不思議なナマモノだ。

しかし、余程に元モデルとの出来事が腹に据えかねたらしい。
寝癖リボンはピンポン玉の一挙一動に難癖を付け、説教と体罰を繰り返していた。
金髪に黒帽子で産まれてきたことも、気に食わないのだろう。

「あんなゲスにならないよう、れいむがきょういくしないとだめなんだよ!」
「まりしゃゲスじゃないよ!」
「だいたい、そのぼうしがきにくわないよ!」
「まりしゃのすてきなおぼうちさんは、ゆっくちできるよ!」
「かみのいろも、ゆっくりしてないよ!」
「しゃらしゃらのきんぱつしゃんは、ゆっくちできるよ!」
「そもそも、れいむにぜんぜんにてないよ!」
「まりしゃはまりしゃだよ! ゆっくちりかいしちぇね!」

しかし、聞けば聞くほど、どうしようもない理由ばかりだ。

「なまいきいうんじゃないよ!」

寝癖リボンの体当たりで、ピンポン玉が弾き飛ばされた。
再びテン、テン、と転がってゆく。

「い、いじゃい~! ゆっくちさせちぇよ~!」
「ゆん! やっぱりゲスのこはゲスだね!」
「どぼじでそんなこちょいうにょ~!?」
「またくちごたえしたね! もうゆるさないよ!」

私は溜息をつき、寝癖リボンの眼前に手を開く。
寝癖リボンは視界を塞がれ、動きを止めた。

「あんまん、もう一度買ってくるよ。マンガも買い忘れてたしな」
「あんみゃん?」
「おちびちゃんは、だまっててね!」
「ああ、とっても甘くて美味しいぞ」
「あみゃあみゃ! あみゃあみゃ!」
「ゆぐっ……」
「だから、おとなしく待ってるんだぞ」

私はできるだけ静かな口調で、語りかけた。
寝癖リボンには手のひらで、ピンポン玉には指先で、頭を撫でてやる。

「わ、わかったよおにいさん……」
「はやくあみゃあみゃちょうだいにぇ!」

嬉しそうにピョンピョン跳ねるピンポン玉を見て、寝癖リボンの眉間にしわが寄る。

あの食欲の塊への怒りが消えないのはわかるが、子供には罪は無い。
今日は一段と寝癖リボンのヒステリーが酷いが、根はのんびりした性格だ。
もう少し時間が経てば、きっと怒りも静まるだろう。

再び外に出るのは億劫だが、暖かいあんまんのため……いや、親子団欒のためだ。
そう信じて、私は家を後にした。


■傲慢


「ただいまー」

私が帰宅を告げると、いつも最初に跳ねてきたのは黒帽子の元モデルだった。
今にして思えば、帰宅時は何かしら食い物を買ってきていた。
目的はそこだったのかと思うと、悲しくはないが情けない気持ちになる。

玄関を上がって廊下を歩く。
あんなに騒がしかった親子の喧噪も、全く聞こえなくなっていた。
疲れて、昼寝でも始めたのだろうか?
饅頭達が居るはずの部屋に入るべく、私はゆっくりとドアを開ける。

「おまた……せ……」

手にしていたコンビニ袋を、床に落としてしまう。
すぐに我に返り拾い直すが、何とも不思議な感覚だ。

こんなリアクションなんて、ドラマやマンガの中だけだと思っていたのに。
身体の力がスッと抜け、自分でも気付かぬうちに指を離していたのだ。

しかし、ショックを受けて……というのとは、少し違うようにも思えた。
心のどこかでは、この光景を予想できていたのかもしれない。
やはりこうなってしまったか、思ったとおりだ、という脱力感。

「むーちゃむーちゃ!」

寝癖リボンの姿は、どこにも見当たらなかった。
代わりに、赤いリボンと癖のついた黒髪が、餡子の海に広がっている。

その中心に佇む、なすび型に膨らんだ醜い何か。
一心不乱に咀嚼を繰り返すその姿は、新種のエイリアンか何かのようだ。

私に気づく様子もないエイリアンに、近づきしゃがみ込む。

「美味いか?」
「ゆゆっ?」

私を見ても逃げる様子もなく、悪びれた様子も無い。

「おいしくにゃいよ!」

エイリアンが、つぶらな瞳をキラキラさせる。
その顔には、親そっくりの不敵な笑みを浮かべていた。

「でもまりしゃはたべてあげるよ! ゆっくちかんしゃしちぇね!」

少しだけ周囲を見渡してから、あらためてエイリアンに向き直る。

「何をしたんだ?」
「ねてるすきに、りぼんをぼっしゅうっ! したんだよ!」

確かにあれは、ゆっくりにとってはかなり大事なものだ。
洗濯する度に暴れて大変だったことを思い出す。
赤ん坊の身体でよく外せたものだが、寝相の悪さで取れかかっていたのだろうか。

「そしちゃら、ごらんのありしゃまだよ!」

圧倒的に説明不足だが、周囲に散らばっている掃除用具や家具を見れば想像はついた。
リボンを探して暴れたあげく、掃除に使っていた箒やその他に追突したのだろう。
二次災害で更に色々と倒れ込み、見事潰れてしまったわけだ。

今日はすっかり、掃除三昧になってしまったな……。
そんなことを考えていると、エイリアンがじりじりと移動を開始した。
すぐ横にあった、一際大きく盛り上がった餡子の塊に向かっている。

「しょくごのうんどうをしゅるよ!」

エイリアンは、私の目の前で腰を降り始めた。

「んほおおぉぉぉぉ!」

強姦魔に犯された餡子を、治療に使ったためなのだろうか?
エイリアンは何かに取り憑かれたかのように、餡子に腰を叩きつけている。

「にゃ、にゃんだか、きもちよくなってきちゃったよ!」

私は、それを尻目に掃除用具や家具を片付け始める。

「しゅっきり~っ!」

行為が終わったようだ。
片付けを中断し、あらためてエイリアンと向き合う。

「ゆゆっ! まりしゃにみとれてりゅの?」
「ゆっくりできたか?」
「もっと、ゆっくちさせちぇね!」
「まだ足りないのか」
「まりしゃは、せかいでいちばんゆっくちするんだよ!」
「親が死んだんだぞ?」
「まりしゃはゆっくちしてるよ!」
「部屋も、こんなに散らかってしまった」
「まりしゃがゆっくちできれば、それでいいよ! ゆっくちりかいしちぇね!」

私は、拳を握り締める。

「理解出来ねぇよ」

床に叩きつけた拳を中心に、餡子その他が激しく飛び散る。

「ゆぴぃっ! いちゃい、いちゃいよ!」

エイリアンは半身を失いながら、悲鳴を上げ続けていた。
裂けた所に皮が張り付き、餡子の流出は最小限に留まっている。
餡子が潤滑材となったのか、叩きつけられたエイリアンの身体が滑ったのだ。

「おいじじぃ! どりぇいにしてやるから、まりしゃをたしゅけちぇね!」

半身を奪った張本人に対して、救助の申し込みだ。
返事の代わりに、手のひらでエイリアンを持ち上げる。

「ゆゆっ! おそらをとんでるみちゃい!」

エイリアンは、あっという間に上機嫌になった。
痛みも忘れたのか、手の上でキョロキョロとせわしない。
自分の不幸に何の疑問も持たない、純粋無垢の笑顔が輝いている。

「やっぱりまりしゃは、とくべちゅなんだにぇ!」

空いた方の手を構える。

「かわいくっちぇ、ごめんにぇ!」

パン! と手を合わせる甲高い音が、餡子まみれの部屋に鳴り響いた。
隙間から流れ落ちる餡子も気にせず、私はそのまま合掌した。

何を拝むわけでも、なく。


■贖罪


掃除が一通り終わった時に、私はやっとあんまんのことを思い出した。
コンビニ袋をテーブルに載せ、買い物してきたものを取り出してゆく。

あんまん、ジュース、マンガの単行本……。

そこで目が留まり、単行本の表紙を見つめる。
それは『七つの大罪』がストーリに絡んでいるマンガだった。
なぜか今日の出来事全てが、私の頭の中に蘇ってくる。

――あらためて思えば、いつもそうだった。

ゆっくりの言動は単純だ。
ほぼ、どれかに当てはまる。

強欲・色欲・嫉妬・怠惰・暴食・憤怒・傲慢。

『ゆっくり』が示したもの。
『人間』を罪に導くと言われるもの。

それが、何を意味しているのか。
『ゆっくり』が『人間』に示しているものは、何なのか。

「………………」

答えを口にすることが出来なかった。
答えがあるかどうかさえも、分からなかった。
代わりに私は、あんまんを口にした。

あんまんは、すっかり冷え切っていた。







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感想

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  • ↓×5 希少種が持てはやされるのは、
    ・高い知能(人間との力量の差を理解している)
    ・ゲス化しにくい餡統
    ・物珍しさ(希少性)
    が由来だからだね。
    動物でも「言う事を聞かない・部屋を散らかす・大声で鳴く・躾を守らない」のは嫌だろ?
    まぁそこで更に「自分>赤ちゃん>ルール>人間」であるゆっくりはペットには向かないな。 -- 2018-01-17 06:02:29
  • ↓間違えた。もう1つ下です -- 2016-02-21 11:41:12
  • ↓2うるさい -- 2016-02-21 11:40:27
  • ハガレンかなぁ。 -- 2012-03-19 17:24:47
  • クズがつぶれてすっきりー!
    合掌なんてまるで神への祈りじゃないか 饅頭に神はいないが -- 2011-06-08 14:58:52
  • どいつもこいつも希少種希少種と… -- 2011-01-18 15:59:29
  • もうちょっと餡の良い奴等を買うべきだったねー
    お兄さん勉強するべきだよー -- 2010-11-04 14:19:22
  • 通常種の中でもありすほど善悪で可愛差の出る種類はない -- 2010-09-14 21:35:02
  • 基本種は絶対ダメだな。とくにででいぶとまりさ 虫唾が走る -- 2010-06-29 02:04:16
  • ゆっくり飼うなら、高くついても賢い希少種だな。 -- 2010-06-23 09:06:57
最終更新:2010年02月05日 19:59
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