ふたば系ゆっくりいじめ 817 南の島の風葬墓

南の島の風葬墓 35KB


観察 自業自得 群れ 希少種 自然界 現代 独自設定 うんしー 南の島の葬送行進曲続編です。独自設定多めです。


南の島のまりさシリーズ追補編

『南の島の風葬墓』



南洋に浮かぶ孤島、この島のゆっくりは内陸部での種間競争に敗れ、海岸に棲息範囲
を移動させた。戦略的撤退(事実上の敗走)である。だが、これは自然界において往
々にして見られることであり、新天地への敗走が次の時代の栄光をもたらすことも決
して珍しいことではなかった。もちろん、その逆もまた然りであるが。

ゆっくりたちは複雑な小社会を形成し、その巣は多くのゆっくりで満ち溢れたが、度
重なる不運と、捕食者の襲撃により、斜陽を迎えつつあるように見えた。

群れのりーだー、若ぱちゅりーは巣を洞窟の奥に移した。そこは防御に適した地形だ
ったが、かつてのように大量の食料を備蓄するスペースはなく、また、限定されたス
ペースでは、ゆん口の拡大が以前よりもよりシビアに食糧事情や衛生事情を悪化させ
ることが考えられた。しかも、前回の襲撃に味を占めたのか、時折、この海岸にキン
グベヒんもスが姿を現すようになった。この新しい巣の位置がばれる前に、若ぱちゅ
りーは対策を立てなければならなかった。

この海岸が干潮時に姿を現すタイドプールには、ガンガゼがいることがあった。
ガンガゼはウニの一種であり、捕食者が接近すると、それに向けて針の向きを志向さ
せることが知られている。若ぱちゅりーはこのガンガゼの動きを、たまたま他のゆっ
くりから聞き、巣を狙う捕食者に対する防御戦術を編み出した。

かつて、キングベヒんもスが巣を襲った際に、少数のまりさつむりたちが長い棒でキ
ングベヒんもスを牽制したことがあった。結局、二匹のキングベヒんもスの前には無
力だったが、若ぱちゅりーはこの長い棒の先に、よく磨かれた貝殻片などを装着させ
た。長槍である。さらに巣の警備を専門に行うまりさつむりを揃え、これに長槍を持
たせ、巣の出入り口など狭い通路内で密集して防御するよう指導した。
槍衾の完成である。これでキングベヒんもスを倒せるわけではなかったが、緊急時に
巣の中に入らせないだけ、または洞窟の奥に避難するまで時間稼ぎなら十分だった。
それに最後の手段として、つむりたちには唐辛子も支給されていた。わが身を犠牲に
してでも巣を守らなければならない、最悪の事態に備えてである。

若ぱちゅりーはこの戦術を「ふぁらんくす」と命名した。

実際、小型のキングベヒんもスが巣に侵入した際は、このふぁらんくすで徹底的に防
御に徹することで、大きな被害を出さずにキングベヒんもスを撃退することに成功し
た。若ぱちゅりーは安堵したが、このままの生活では生き延びられないと考えていた。
さらに、考えたくはないが、巣の構成ゆの栄養状態が悪くなり、げすやれいぱーが出
現することも危惧された。

どこか、キングベヒんもスが来ないゆっくりぷれいすに引っ越さなければならない。
しかし、ぱちゅりー種はこの島の天候では日中はほとんど屋外で行動できない。その
ため、別のゆっくりぷれいすに群れの分派をつくり、互いの食料やゆん口を調整し合
うことで、この巣もまた生き延びさせられるのではないかと考えていた。

画餅

発案した若ぱちゅりー自身もそう思っていた。しかし、今はまずこの可能性にかける
しかないのではないか、とも考えていた。

「最後の大隊はしっかりやっているかしら?」

早く帰って来い、そう焦りたくなる気持ちを抑えて、若ぱちゅりーは彼らの旅の安全
を祈った。



最後の大隊は森の中をさまよっていた。帰り道が分からなくならないよう、できるだ
け海岸沿いを移動してきた子まりさたちだが、途中斜面を越えることができず迂回し
たのだ。

「ゆゆ~…仕方なくゆっくり森に入ったけっかがこれだよ!!」

太陽は傾き、森は薄暗くなりつつあった。見慣れない大型シダ植物などが鬱蒼と茂る
森が暗くなっていく様子は、海岸付近でしか生活したことのないゆっくりたちに言い
様のない不気味さを与えた。大隊を率いる子まりさ(以降隊長まりさ)は森からの脱出
をあきらめ、今日はこのままゆっくりできる場所を探すことにした。

「隊長!ゆっくりできそうな草さんのベッドを見つけたんだぜ!」

別のまりさがぽよんぽよんと跳ねながら草さんのベッドとやらに隊長まりさを誘導す
る。そこは、草むらの一部が倒され、まるで誰かがゆっくりたちのためにこしらえた
ベッドのようだった。

「ゆゆ!!これはゆっくりできそうなベッドさんだよ!!!今日はここでみんなでゆ
っくりするよ!!」
「やったぜ!やっとゆっくりできるんだぜ!!」

ここのところ、岩場の陰や、ごろごろした砂利の上など、あまりゆっくりできないと
ころでばかり寝ていたこともあって、ゆっくりたちは喜んだ。しかし、

「そこまでよ!!!」

水を差したのは、あの戦死した老ありすのむすめ、ろりすだった。

「くさむらのベッドさんはゆっくりできないっておかあさまが言ってたわ!ゆっくり
別の場所を探してね!」

だが、疲れきったゆっくりたちは一刻も早く休息を取りたかった。だぜまりさとあり
すがろりすに反論する。

「そんなことどうしてわかるんだぜ!?」
「ベッドさんはいつだってゆっくりできるわ!!とかいはのじょーしきね!」

大事に育てられ過ぎたのか、ろりすは反論されただけで、既に涙目だった。

「ゆゆ゛!!でも!ベッドさんはだれがつくったの!?こわいよ!」
「何言ってるんだぜ?草さんはかってに生えて来たに決まってるんだぜ?」

完全に論点がズレている。このだぜまりさは群れにおいて決して頭が悪いわけではな
い。群れのゆっくりのほとんどが森の中なんて初めてなのだ。隊長まりさでさえも、
どちらが正しいのか分からず、ゆっくりできずに悩んでいた。

「隊長はどうおもうんだぜ?まりさはもう休みたいんだぜ!」
「ゆ゛…」

だぜまりさとろりすの顔を交互に見比べる。ろりすの顔にあの老ありすの面影が浮か
ぶ。

「…あのありすが言ったんだよ!きっとなにかあるんだよ!ゆっくりしないで他の寝
床を探すよ!!」

隊長まりさの返答に対して、休みたいと主張していたまりさとありすの顔に失望が広
がった。

「その答えはゆっくりできないんだぜ!まりさはもうここで寝るんだぜ!隊長たちは
そんなにこのベッドさんがいやなら他の場所で寝るんだぜ!」

初めての長旅に余程ゆっくりできなかったのであろう、だぜまりさたちは意固地にな
っていた。説得をあきらめた隊長まりさはため息をつく。

「ゆ~、分かったよ。明日の朝になったら迎えに来るから、ゆっくり待っててね。」
「ゆ?ゆっくり理解したぜ!後でべっどさんで寝たいって言ってももうダメなのぜ!」

隊長まりさは残りのゆっくりを連れて、別の場所に跳ねていってしまった。

だぜまりさはそれを確かめると、ありすに言い寄る。

「ゆふふ、ありすとふたりっきりなのぜ!今日はべっどさんでゆっくりするのぜ!!」
「おそとでなんてまりさったらとかいはね!!」

だぜまりさはすりすりと、自分の体をありすにゆっくりとこすり合わせながら、草で
できたべっどの中央へとありすを導く。

「ゆふふ、ひさびさのすっきりなのぜ!今夜はまりさのかくさんはどうほうが火を噴く
んだぜ!!南国の夜はまりさたちのあいのほのーで、もっと暑くなるんだぜ!!」

だが、夜まで待てなかったのか、二匹の動きに熱がこもり、皮の表面にてかりが生じ
てくる。

「ゆほっゆほほっ!!まりさったらせっかちだわあああん!!」
「んほほほ!!かくさんはどうほうのじゅうてんがはじまったんだぜええ!!」

二匹の体に異変が生じたのはそのときだった。

「ゆ?ゆゆ゛?なんだか体がかゆいのぜ!!ゆぎいいいい!!がゆい゛いいいい!!」
「ありすもがゆいわあ゛!!ごんなのどがいはじゃないいい゛」

二匹は草のべっどから転げ落ちるように飛び降り、近くの木に体をこすりつけ始めた。
しかし、かゆみが収まることはなく、逆にひどくなっていく。

「ごーしごーしするよ!!かゆいよ゛もっとごーしごーしするよ!!」
「ゆぎゃぎゃぎゃぎゃ!!!かゆい゛たじゅげでえええええ!!!」

さぜまりさが発見した草のべっどはイノシシの寝床だったのだ。イノシシの寝床はた
いていダニなどの巣窟であり、人間でも踏み込んだら最後、服を脱ぎ捨て、全てを解
き放って逃げ出すか、水にダイブするしかない。逃亡生活とはいえ、幼い頃を森で生
活した老ありすは、子供たちにも森の生活のノウハウや捕食者からの身の守り方を教
育していたのだ。

「あ゛にゃる゛さんがああああ゛!ばでぃざのあ゛にゃる゛ざんがゆいいいい゛!」
「あでぃずのあじゃまがああああああ゛いやああああ゛がゆいいい゛!!」

まりさはあにゃるをダニにやられたのか、あにゃるを激しく木にこすり付ける。あっ
という間にまりさのあにゃるはボロボロになった。そして、木に頭をこすり付けるあ
りすは最早不気味なはげ饅頭となりつつあった。

「ゆぎゃああああああああ゛がゆいんだぜえええ゛!!!」
「ゆげっゆげっ…ゆげげげげげげげげ!!!」

かゆみに耐えられなかったのか、ありすは次第に壊れてきた。二人の皮は所々裂け、
中身が木にこびりついていた。そこへ、二匹があまりにうるさく騒いだためだろうか
草の寝床の持ち主、大きな体をしたキングベヒんもスが帰ってきてしまった。

「ゆぎゃあああああ゛キングベヒんもスはゆっぐぢでぎないよおおお゛うんうんずる
よおおおお゛!!!」

驚愕のあまり、かゆさに身をくねらせながら脱糞してしまっただぜまりさ。キングベ
ヒんもスから一刻も早く逃げようとするが、かゆくてかゆくて前進できなかった。キ
ングベヒんもスは奇声を上げながら不気味に痙攣するありすをぺろりと平らげてしま
う。

「ゆげっ!ゆげげげ!!!…べべべば!!!」

愛し合おうとしたゆっくりは砂糖水とクリームを散らして逝ってしまった。

「ありじゅううううううう゛!!!」

キングベヒんもスはありすの味に満足したのか、興味深そうにだぜまりさの臭いを
かぎ始める。獣くさい息があたるたびに、だぜまりさはしーしーを漏らし、なんと
か逃げようとした。しかし、かゆさのせいで跳ねる方向をうまくコントロールでき
ない。キングベヒんもスはだぜまりさをぺろぺろとなめ始めた。

「ゆぐ!?キングベヒんもスさんばでぃざをだじゅげでぐれるのお!?」

かゆいのを治そうとなめてくれている。そう思っただぜまりさは喜んだ。

「ありがとー!とっでもゆっぎぎば!!!」

そしてがぶりと噛み付いた。だぜまりさは頭がかゆくなくなった。なぜならお帽子ご
と食べられてしまったから。

「ば…ばでぃざのおぼ…じがああああ゛!!…」

致命傷だった。だぜまりさはすぐに動かなくなった。キングベヒんもスはもしゃもし
ゃとまりさだったものを食べると、地面に体を何度もこすりつけてからダニの待つ寝
床に戻り、眠った。



その頃、隊長まりさたちは手頃な洞を大きな木の根元に見つけ、そこで一夜を明かす
ことにした。ろりすとちぇんが洞の中を掃除し、中にシダの葉を積み重ねていく。隊
長まりさはまりさつむりと共にエサを捜しに出かけていた。
隊長まりさとつむりは海岸でいつもやっていたように、石の下や、植物の根本にいる
虫などを集めていく。

隊長まりさがつむりと協力して大きな石を転がすと、その下には様々な昆虫が隠れて
いた。

「ゆゆ?これはエビさんのあんよさんが伸びたみたいだよ。きっとゆっくりできるね。」

そう言ってつむりが捕まえたのはカマドウマであった。エビの仲間は素早いため、滅多
に捕まえられないが、ゆっくりの中にはご馳走として好んで捕食するものもいた。彼ら
にとっては珍味のようなものなのだ。ただし、これはカマドウマだが。

「ゆ~、つむりはゆっくり狩りが上手だね。まりさはこのカニさんみたいなやつを捕ま
えるよ。」

隊長まりさはそう言うと逃げようとした虫を舌で器用に捕獲する。まりさがカニさんみ
たいと言ったのはその虫がハサミを持っていたからだった。
隊長まりさが捕まえたエサを帽子に仕舞おうとしたその時、ちくりという小さな痛みが
舌に走った。

「ゆっぺえええええええ!!」

隊長まりさがカニさんみたいと表現した虫は、ヤエヤマサソリであった。森林性のサソ
リで枯れ木や樹木の皮の下に生息する小型のサソリである。雄を必要とせず、雌だけで
単為生殖を行うことで有名である。

「ゆああああ゛いじゃいよおおおお゛!!」
「ゆゆ!!まりさだいじょうぶ?ゆっくりしてね!」

だが、毒はたいしたことがない。エサとなる小さな昆虫を麻痺させるための毒針を持っ
ているものの、それ以外の動物に対しては、せいぜい「蜂に刺された」程度の痛みを与え
るのが関の山であった。だが、痛みに弱いとされるゆっくりに対して、それも敏感な舌
を刺されては話は別であった。隊長まりさは涙を流しながら、少し腫れた舌をれろれろ
と動かして転げまわる。

「いじゃいいいいいいい゛!!!つむり、ぺーろぺーろしてよおおおお゛!」
「!!!」

つむりの顔が真っ赤になる。どこかで見た光景である。

「や、やだよまりさ、そういうのはもっとこう…お互いをよく知ってから…」
「ゆぴぴぴぴぴ!」

まりさはつむりが何を言っているかなど聞いていなかった。

「で…でも、まりさがだいじにしてくれるって…言うなら考えなくもないよ…」
「いじゃいいいいいい゛いじゃいよおおおお゛!!」

時間は既に逢魔が時、そろそろ巣に戻らないと夜行性の捕食者たちが動き出す時間帯な
のだが、まりさは泣き、つむりはもじもじしていた。

「隊長~!何しているの~心配で見に来たんだよ。わかるね~?」

そこへ現れたのはちぇんである。このちぇん、あんまりにものほほんとした顔をしてい
ることから「パン屋の二代目」などと呼ばれていたが、物覚えが良く、活発であったため、
「最後の大隊」のメンバーに選ばれたのだ。

「ん~?隊長がなにやら痛がってるよ~。分からないよ~!」

隊長まりさの様子にちぇんが驚く。とりあえず、ちぇんはつむりにどうしたのか尋ねよ
うとしたが、つむりの意識はどこかに行ってしまっていた。

「…子供は三人くらいいると、きっと楽しいよね…」

結局、隊長まりさはちぇんに慰められながら、妄想フルドライブのつむりはろりすにお
さげを引っ張られながらずりずりと今夜の宿に引きずり込まれた。


「コホーッ…コホーッ」
夜の帳が降りる頃には、森の中は木々のざわめきと虫の声に包まれ、時折、コノハズク
の鳴き声が遠くから聞こえてくる。
コノハズクは主に昆虫や両生類、爬虫類を捕食する、この島における中型捕食者である。
赤ゆなどには強力な捕食者となり得るが、かつての森での生活では夜間活動が厳禁であっ
たため、あまりゆっくりたちには意識されていない鳥である。

「ゆゆ…夜?」

隊長まりさは尿意を覚えて夜に目覚めた。舌はまだ少し腫れているものの、もう既に痛
みは引いていた。

「んほおおおおっ…まりさぁ…んほおおお…」
「ゆがーん!!!つ、つむりは何を言ってるの!?」

寝言だった。隊長まりさは寝言であったことに安堵したと同時に、思い出したくない思
い出を思い出し、冷たい汗をかいた。

「ま…まりさはしーしーするよ…」

そういって洞の外へと跳ねていく。途中何度か、後ろからつむりがついてきていないこ
とを確認すると、安堵の表情とともに溜まっていた砂糖水を勢い良く放った。

「しーしーするよぉ…ゆほほほほほ…ふう、いいしーしーだったよ」

ぶるると体を震わせ、洞に戻ろうとする。すると、目の前には、大きな耳を持った黒い
影がいた。

「ゆ?だれ?ゆっくりしていってね?」

影は何も答えない。ただ、髭のようなものがぴくぴく動いていることがかすかな星明り
から見て取れた。隊長まりさは恐怖に駆られた。これは絶対ゆっくりできないものだ。
本能がそう告げていた。

隊長まりさは少しずつ後ずさりするように影との距離をとる。その間、影は時折、耳と
髭をぴくぴく動かせる以外じっと隊長まりさを凝視していた。

「こ…こにゃいでね…ま、ま、ま、まりさはおいしくないよ…」

涙目で後退する隊長まりさ。隊長まりさの恐怖が臨界点に近づき、全力で逃げようとし
たその時だった。生い茂った木々の葉の隙間から静かに淡い月光が差し込んできた。そ
してその月光に導かれるようになにかが、翼の生えた何かが空から、赤く輝く瞳のなに
かが、

ぶちゃっ

次の瞬間まりさが目にしたのは、のたうちまわるケナガネズミののどに深々と牙を差し
込み、絶命させる赤い捕食種の姿だった。ケナガネズミはものの数秒で動かなくなった。
そして、隊長まりさもまた、牙ではなく、恐怖のせいで動けなくなっていた。じんわり
と地面に生暖かいしーしーが広がっていくのが感じられた。

ばさっ

次の瞬間、月は雲に隠れてしまったのか、地面にまで届いていた月光は静かに消えてい
った。そして、わずかな翼の音とともに捕食種もいなくなっていた。本当に一瞬の出来
事だった。ただ、地面に先程のネズミのものであろう血の痕がかすかに残っていた。
隊長まりさは先程の捕食種が本能的にすかーれっとと呼ばれるものであることを認識し
た。しかし、れみりゃだったのか、ふらんだったのか分からなかった。かすかに見たは
ずの翼の形でさえ思い出すことはできなかった。


隊長まりさは、もし、あの時、自分が動いていたら、もっと大きな声で騒いでいたら、
狙われたのは自分だったのだろうかと自問した。そして、死神の鎌が目の前で振るわれ
たことを恐怖した。いつ、自分に向かって鎌は振り下ろされるのか?

その日、隊長まりさは寝られなかった。



翌朝、寝不足と恐怖で無口になってしまった隊長まりさ、どこかもじもじしているつむ
り、相変わらず元気な「パン屋の二代目」とろりすは、だぜまりさたちのが待っているは
ずの寝床へと向かった。

「な、なんなのこれ!?」
「誰もいないよ~!分からないよ~!!!」

草のべっどには誰もいなかった。ただ、その少し手前に見慣れた黒い帽子の破片と、引
きちぎられて繊維がぼろぼろになったかちゅーしゃが落ちていた。

「ゆひっ!!二人とも食べられたんだよ!!ゆっくりしないで逃げるよ!!!」

昨夜の恐怖を思い出した隊長まりさは、脱兎の如く逃げ出し、恐怖が伝染したほかのゆ
っくりたちも後に続いた。何が二匹を食べたのかはどうでもよかった。隊長まりさは必
死に跳ねた。一刻も早く、この怖い森から脱出したかった。優秀とは言え、巣を中心に
幸せな環境で生きてきたこの隊長まりさには、昨夜の経験は刺激が強すぎたのだ。

「待って~!お願いだから待ってよ~!!いっしょにゆ゛っぐりじでよおおお!!」

聞きなれないゆっくりの声が聞こえてきたのはそのときだった。

「待っでよおおお゛どぼじでいなぐなっじゃうのおおお゛ぞんなのやだよおおお゛!!」
「うるさいわね!!もう行くって言ったら行くの!!!さよならって言ったでしょ!!」

なにやら白い帽子を被ったゆっくりが足早にこっちに跳ねてくる。そして、黄色っぽい
ゆっくりが号泣しながら白い帽子のゆっくりを追いかけていた。

「待っで!!お願いだがら待っで!いがないで!!なんでもずるがらいがないでえええ!
いなぐなっじゃうなんで、ぞんなの義じゃないよおおおお!!」
「しつこい!!!」

白い帽子の方のゆっくりが隊長まりさたちに気がついた。最初に挨拶をしたのはろりす
だった。

「ゆっくりしていってね!」
「ゆっくりしていってね!」

白い帽子のゆっくりも挨拶を返してきた。
白い帽子に紫色リボン、
それはるいずだった。

るいず
目撃例の少ないゆっくりだが、決して個体数は少ないないとも言われている。一部のゆ
っくりは「まかい」と呼ばれる地域で生まれ、各地に分散していったと考えられている。
ろりすもそのように言われているゆっくりの一種だ。
るいずは白い帽子に紫色の帽子を特徴とするゆっくりで、長距離を移動する非定住性の
ゆっくりとして知られている。たいてい、長距離を移動する動物は、繁殖や成長、冬の
厳しい環境を避けるためなどの理由により仲間と共に移動、または、特定の場所で集合
することが多い。だが、るいずの場合は移動の目的は不明であり、複数の同種、または
異種とともに一定地域に長期に渡って滞在している姿は未だ確認されていなかった。
もっとも、目撃数自体が少ないのであるが。

なお、ツンデレかどうかは不明である。

「待っで…はあはあ…おいでがないで…」

るいすの後ろからもう一匹のゆっくりが現れ、後ろからるいずにすがるかのように、へ
にょりと倒れこんだ。余程、必死に跳ねてきたのであろう。息はすっかりあがっていた。

「おねが…ひっく…い…おいでが…ない…で…ひっく…」

しゃくりあげて泣きながら、必死にるいずにすがりつくそれ、
金色と黒のタイガースカラーの髪、そして頭の上の真っ赤な花。
それはしょう(とらまる)だった。

行かないで、置いてかないでと泣きじゃくるしょう、それを困ったような、あきれたよ
うな目でみるるいず、そして、変なのに出会ってしまったという顔で周囲を包囲してい
る「最後の大隊」…膠着はしょうが落ち着くまで続いた。昼ドラが好きなろりすだけが
期待に胸を膨らませ、目を爛々と輝かせていた。

「はじめまして、海のそばにすんでるまりさだよ!」

最初に膠着状態の打破に取り掛かったのは隊長まりさだった。それを皮切りに、大隊の
他のメンバーも定番に毛が生えた程度の挨拶をする。

「るいずよ!ゆっくりしていってね!」
「えぐっ…ひっく…しょうです…みなさんはじめまして…」

無論、隊長まりさたちの群れ、海岸に群れにはるいずもしょうもいない。初めての他の
群れゆっくりとの接近遭遇である。隊長まりさたちの胸は高鳴るはずだった。こんな良
く分からない状況でさえなければ…

るいずはこうしている間にもぐいぐいと、しょうを引き離そうとしている。涙目でるい
ずを見上げながら、放すまいと必死にすがりつくしょう。
このままではらちが開かなそうなので、隊長まりさは思い切って、自分たちの事情―群
れがとてもゆっくりできないことになっていて新しいゆっくりぷれいすを探しているこ
と、他の群れのゆっくりに会うのは初めてであること、不慣れな森で道に迷っているこ
とをるいずに(しょうはそれどころではない様子だった)話した。

「ふーん、海に住んでるってすごいわ!見たことはあるんだけど、るいずの巣からは遠
くて…一度行ってみたいと思っていたの!」

るいずは思っていたよりも、隊長まりさたちの話に食いつきが良かった。るいずの長距
離移動は必要に応じて行っているわけでなく、本能的なもの、という説もある。未知の
場所には無条件に憧れを抱くのかもしれない。

「ゆう、ゆっくりお話したいけど、まりさたちはゆっくりできなくて困ってるんだよ!
お願いだから助けてほしいよ!!」

隊長まりさはそう言って、帽子の中から小さな貝殻を取り出した。ほとんど壊れずに海
岸に打ちあがっていた、小さなアワビの貝殻だった。貝殻の裏側には真珠層があり、青
い輝きを放っている。

「これはまりさの宝物だよ!しんあいのしるしに、るいずにこれをあげるよ!!だから、
まりさたちを助けてほしいよ!!るいずたちの群れに案内してほしいよ!!」

るいずはアワビの貝殻に目を見張った。貝殻を知らないわけではなかったが、友達のゆ
っくりが見せてくれた貝殻はもっと汚くて地味だった。新しい場所、まだ見ぬ世界、そ
ういったものに異常なまでの憧れを持つるいずには、それはそれは素晴らしい宝物に見
えたのだ。

「こんなとてもゆっくりしたきれいなもの、ほんとにもらってりいいの?この貝殻はと
ってもゆっくりできるわ!」
「まりさに二言はないよ!喜んでもらえてうれしいよ!」
「分かったわ。今日のところは出発は中止して、まりさたちを群れに案内するわ!その
代わりまりさたちの住んでいた群れのこと、お話してほしいわ!!」
「ありがとうるいず!るいずはとってもゆっくりしているよ!」

そんなやり取りをしょうはまた泣きそうな表情になって眺めていた。

るいずはまりさたち、「最後の大隊」の面々を質問攻めにしながら、元来た道を跳ねて
いく。しょうはぽつんと後方に取り残されていた。

「どうしたのしょう?そんなところでゆっくりするの?巣に戻るのよ?嬉しくないの?」
「そ!そんなことないです!嬉しいですよ!!」

しょうはどこかいじけたような表情をしながら、大隊やるいずたちのやや後方を跳ねて
いった。



るいずたちの群れは、海に突き出した崖に住んでいた。崖から海に向けて、まるでトン
ネルのように水平に洞窟が伸びている。そしてその洞窟は崖の小さな穴から始まり、海
に面した断崖絶壁に開いている大きな開口部でもって終わっていた。ゆっくりたちは知
らなかったが、ここは古代に海人族が風葬を行った洞窟だった。海からの朝日が差し込
み、海風が吹くと、その強さや方向によって、洞窟は大地の笛のように多彩な音色を奏
でた。この場所で、古代の海人族たちは遺体を風葬し、儀式を執り行い、太陽に祈りを
捧げてきたのだった。洞窟の中には至る所に、入れ墨をした海人族の姿、レントゲンに
よる透視図のように描かれた魚、クジラ、イノシシ、シカ、鳥、そしてなんだか分から
ない名状し難きもの、様々な壁画が赤茶けた絵具で描かれていた。ゆっくりたちはその
後無人になったこの島における、この風葬墓への久々の侵入者だった。

「ここがるいずたちのゆっくりぷれいすよ!ゆっくりしていってね!」

隊長まりさたちは初めてみる他のゆっくりぷれいすを前に、ただ感嘆の声をあげていた。
入り口はやや狭くなっているが、中は広々としており、奥行きもあった。そして、その
先には空が、静かな海からの反射光が差し込んでいた。

「すごいよ!るいず!ここはすごくゆっくりできそうだよ!!!」
「こんなすてきなところはじめて見るよ~!感動したよ~!分かるよ~!」

口々に感動を口にする「最後の大隊」のメンバーたち、ろりすはただ黙って、洞窟の両
側に描かれた数々の壁画に見入っていた。

「すごいでしょ?…風が吹くとちょっと寒いけど、奥の方に行かなければ雨さんも入っ
て来ません。まさに義のこころをもつゆっくりにふさわしいぷれいすなんです。」

初めてまともなセリフを発したしょう。しかし、ゆっくりたちは初めてみる他の群れの
巣に目を奪われていて、しょうの話をまるで聞いていなかった。

「同志るいずじゃないか!帰ってきたんだね!」

一匹の耳の大きなゆっくりがこの群れのゆっくりたちの先頭に立って、こちらに跳ねて
くる。

「また今度ゆっくり出発することにしたの。りーだー、お客さんよ。海岸の群れから来
たんですって。」

るいずはりーだーに「最後の大隊」の面々を紹介した。

「初めまして、同志まりさ、同志つむり、同志ろりす、同志ちぇん、わたしはなずーり
ん、この群れのしょきちょうなんだ。」

なずーりんと名乗ったゆっくりはそう言って隊長まりさたちに微笑んだ。隊長まりさは
その大きな耳から、森で出会った大ネズミを思い出したが、それを別にすればかなりの
美ゆっくりであった。

「ゆゆ?しょきちょうはゆっくりできるの?」

初めて聞く単語につむりが反応する。

「もちろん、とてもゆっくりできるんだ。なにせ、みんなをゆっくりさせるのが仕事だ
からね!」
「しょきちょうはりーだーなの?ドスか何かなの?」
「りーだーみたいなものだけど、僕はただの群れの代表なんだ。みんなと同じ一ゆっく
りに過ぎないんだよ。」


そもそも、ここの群れはかつてキングベヒんもスによって壊滅させられたてんこの群れ
だった。ごく一部のてんこが襲撃時に巣の外でつる植物に絡まり、集団放置ぷれいごっ
こをしていたために生き延びたのだった。てんこたちは巣に帰ると、みながいなくなっ
ていることに驚き、

「本格的な放置ぷれいってやつね!!なにこれ!たまんないわ!!!」

と三日三晩放置される快楽を満喫した。真実に気づいたのはその後のことである。てん
こたちはそれまでの巣を捨て、新しい巣を探した。そうして見つけたのが、この崖の洞
窟だったのだ。

しかし、てんこたちは良からぬ遊びに興ずるばかりで、群れを統率しようとはしなかっ
た。そのとき、ここから少し離れた海岸に漂着したのが、なずーりんとしょうだった。
彼らは元はとある別の島で飼いゆっくりとして生活していたのだが、ある日、飼い主に
捨てられたのだ。狭い島の中では、例えバッジを外していても、すぐにかつて誰の飼い
ゆっくりであったかがばれてしまう。悩んだ飼い主は彼らを眠らせ、昔夏休みの工作で
作ったペットボトルのイカダに乗せて海に放ったのだった。飼いゆっくりを殺すことは
できない。その飼い主の温情が選んだのは、結果次第では最も残酷な方法とも言えた。
彼らは島流しのされたのだ。どこか、飼い主の知らない世界で元気に生きることを期待
されて。

穏やかな天候が続いたこと、飼い主が最後の情けとして、食料と水を積んでおいてくれ
たこと、うまく海流に乗ったこと、睡眠薬のおかげで眠ったまま数日を過ごせたこと…
そして、一緒に捨てられたむらさがイカダをコントロールしてくれたこと…

たくさんの幸運が作用して、彼らはこの島に漂着した。しかし、ずっと船を操作しよう
と悪戦苦闘を重ね、最後は自ら泳いで船を押して陸揚げしてくれたむらさは、過労によ
り、永遠にゆっくりしてしまった。

なずーりんは飼いゆっくりになる前、野生として生活していたことがあり、その経験が
彼らを生き延びらせた。彼らはてんこの群れに受け入れられた後、瞬く間に周囲からの
信頼を得ることに成功した。なずーりんはそもそも穴居性の活発な小型ゆっくりであり、
また、空間認識能力にも優れていた。そのため、まりさやれいむでは気づかないような
餌場、地面や木の中に潜んでいる昆虫などを次々と発見することができた。また、穴居
性のため、穴掘りは得意であり、巣の改修も積極的に手伝った。

そして、なずーりんは苦労して集めたご馳走の数々を、群れのゆっくりたちに気前良く
ふるまい、彼らに語りかけた。

「ゆっくりはみんな本来じゆーでびょーどーなんだよ!!」
「じゆーでびょーどーって何?食べられるの?おいしいの?あまあまさん?あまあまさ
んなられいむにちょうだいね!!たくさんでいいよ!かわいっくてごめんね☆」
「チッ……じゆーでびょーどーって言うのはね、みんな誰でも好きなだけゆっくり、す
っきりできるってことなんだ!」
「ゆゆ~!!!それはとてもゆっくりできるよ!!」
「好きなだけすっきりできるなんてとかいはね!!」
「でも、そんなの難しいよ~。狩りに子育ては大変だよ~、分かるね~!」

なずーりんは飛びっきりの笑顔を作り、みんなに語りかけた。しょうはそんななずーり
んの様子を黙って見ているだけだった。

「でもさ、みんながじゆーでびょーどーにゆっくりできるようにする、それがりーだー
の役目なんじゃないかな?」
「ゆゆ?りーだーてんこはとてもゆっくりしているよ!!!」
「りーだーはとてもゆっくりしているね。でも、みんなはどうかな?」

てんこはいつも嬌声をあげながら何かしら楽しそうにしていた。しかし、群れの食料事
情はぎりぎりであり、この間などたくさんの食料を求めて森の奥深くに入っていったゆ
っくりが一匹も帰ってこなかった。

「だから、自分では狩りもせず、自分だけゆっくりしているのはりーだーにふさわしい
とは言えないんだ。自分だけじゃなくて、みんなもゆっくりできないとね!!」
「ゆ~ん、確かにてんこは遊んでばっかりなんだぜ!てんこはみんなのためにもっと働
かなきゃダメなんだぜ!!」
「りーだーはもっとれいむをだいじにするべきでしょおおおお゛!!!誰のおかげで群
れがせーかつできてるとおもってるのおおおお゛思い上がらないでよねええ゛!!!」
「あれは変態さんね!とかいはじゃないわ!」
「みんながゆっくりできないのは、てんこのせいなんだね~分かるよ~!!!」

なずーりんの話に意気投合し、皆はりーだーのてんこへの不満を漏らし始めた。なずー
りんはここぞとばかりに畳み掛ける。

「本当にりーだーにふさわしいゆっくりが群れを率いれば、きっとみんなゆっくりでき
るよ!僕はみんなにゆっくりしてもらいたいんだ!僕とみんなで、この群れをもっとゆ
っくりできる群れにしたいんだ!…ゆっくり手伝ってくれないかな?こんなこと、君た
ちにしか頼めないよ…」

翌朝、崖の洞窟の群れでくーでたーが起きた。りーだーだったてんこは逮捕され、崖の
先から海に突き落とされた。さすがのてんこも最期は「じにだぐない!」と泣き喚いた
という。崖の下には桃餡が飛び散ったが、すぐに波に洗われて消えた。なずーりんは新
しいりーだーに選ばれたが、

「僕はたまたまりーだーの仕事をしているだけであって、みんなと同じただの一ゆっく
りです。」

と言って、りーだーの代わりにしょきちょうと名乗った。
なずーりんはかつての群れの幹部や、げす化の兆候を見せたゆっくりを次々とせーさい
し、なずーりんによるきれいな群れを作り上げようとした。

「じょっどおおおおお゛!!!おがじいいでじょおおおお゛!!!なんででいぶがごん
な目にあっでんのおおおお゛!!!じぬの?ばがなの!?」

でいぶがつるでぐるぐる巻きにされて崖の先端に連れてこられる。その周りには既に前
にりーだーの親族であったてんこや、げすとして嫌われていたまりさやでいぶの死体が
散乱していた。

「死ぬのもばかもきみのことだよ。ゆっくりりかいしてね。」
「はなじぇえええ゛!!はなじぇええええ゛!!でいぶがいないどぎでいなおうだざん
がぎげないんだぞおおおお゛!!!みんなゆっぐりできないでじょおおおお!!!」
「へー、ここではうんうんが空飛んでるみたいな音をおうたっていうんだ。」
「ゆぎいいいいい゛!!!でいぶのおぶだはうんうんじゃないいいいい゛!!!」
「じゃあ、みんなに聞かせなよ!そのおうたとやらをさ!!」

なずーりんは先端を鋭利に尖らせた棒をれいむの腹に差し込んだ。

「ゆぎゃああああああああああああああああ゛!!!でいぶのびばだがああああ゛」
「おなかすいたからって、自分の子を食べたのは誰だっけ?」

さらに次の一本でれいむのあにゃるに差し込む。

「ゆぴぅっ!!!でいぶのふぁんだずでぃっぐなあじゃるぎゃああああ!!!」
「どうしたの歌わないの?」

次の一本はぴこぴこ動いていたもみあげもろとも横から差し込まれた。

「あぎゃぎゃぎゃぎゃああああ゛でい…ぎれいな…」
「何本目に死ぬかなぁ?」

背中から腹に棒が貫通する。既にれいむは変な泡を吹きながら、痙攣するだけの饅頭に
なっていた。なずーりんは面倒くさそうに、最後の一本をれいむの後頭部から差し込ん
だ。れいむは中枢餡を破壊されて事切れた。

「次のげすは!?」

なずーりんのせーさい、しゅくせーによって群れの二割が永遠にゆっくりした。群れの
ゆっくりたちはなずーりんに恐怖したが、なずーりんが次々と新しい餌場を見つけてる
と、なずーりんに対して、不満を抱くものはいなくなった。ただし、なずーりんの盟友
たるしょうはそんな、なずーりんを不安げな表情で見ていることが多かった。


「なずーりん!いくらなんでもせーさいしすぎです!一体どれだけのゆっくりが永遠に
ゆっくりしたと思ってるんですか?」

しょうはせーさいを繰り返すなずーりんを戒めた。しょうにとっては、この島に来てか
らのなずーりんの行動は、まるで餡が変わってしまったかのようで、とてもゆっくりで
きなかったのだ。

「同志しょう、僕はしょうが永遠にゆっくりしたら悲しいよ。しょうは僕が永遠にゆっ
くりしたら悲しいかい?」

しょうは疑問形に疑問形で返され戸惑った。

「あ、当たり前です!今までむらさと三人でずっとゆっくりしてきたじゃないですか!」

なずーりんの餡裏に、二匹を助けるために永遠にゆっくりしてしまった盟友のゆっくり
した顔が浮かぶ。

「そうだね、一人のゆっくりが永遠にゆっくりするのは悲しいね。でもせーさいは群れ
を守るためさ!永遠にゆっくりしたゆっくりの数なんてただの算数さ!」
「なんていこと言うんです!!」

しょうは顔を真っ赤にしてなずーりんを叱りつけた。

「そんなことではびゃくれん様もゆっくりできませんよ!!」

びゃくれん様とは、なずーりん、しょう、むらさなど一部のゆっくりに信仰されている、
ゆっくりの神様のような存在であり、精神的支柱だった。実際にそのようなゆっくりがい
て、それがどこかで、彼らの大元となった群れを見守っているとも言われている。
なずーりんはそんなしょうに笑いながら語りかけた。

「びゃくれん様だって?びゃくれん様は一体何匹のゆっくりを率いているんだい?」


ある日、しょうは番になると言って、るいずを群れに連れてきた。島の中を定住せずにゆ
っくり旅していたるいずに一目惚れしたらしかった。なずーりんは、るいずを新しい仲間
に加え、他のゆっくりに対するのと同じように朗らかに挨拶した。しかし、るいずだけは
決してなずーりんのことをしょきちょうとは呼ばなかった。



その日の夜、なずーりんが音頭を取って、「最後の大隊」のための宴が催された。アコウ
の実や、岩の割れ目や山林内で捕れたヒメユリサワガニ、オオサワガニ、洞窟内に無数に
棲息するカマドウマ、小川でとれたミナミテナガエビ、軟らかいシダ植物の葉…
この群れのエサは、海岸の群れに比べて、林や小川の植物・小動物に依存していた。

「最後の大隊」の面々は、馴染みの薄い山の幸、川の幸に驚喜した。特にテナガエビは身
がぷりぷりしていて美味しく、あっという間になくなってしまった。

「うめっ!!!めっちゃうっめっ!!!」
「むーしゃむーしゃ…ちあわせ~~~~~~!!!」
「カマドウマさんはエビさんみたいだよ~!!!」
「まるで味のにゅーくりあふゅーじょんや~!!」

「ここのエビさんはとってもゆっくりしているよぉ!!!」

隊長まりさは隣で赤しょうとむーしゃむーしゃしていた、しょうに話かけた。

「エビさんはしょうも大好物なんですよ!!ゆっくりできます。」
「ぴゃぴゃあ!!しょうもエビさんむーちゃむーちゃちゅるよ!」

赤しょうがテナガエビを求めるが、それは既になくなってしまっていた。

「へにょり~、エビさんはもうみんなで食べちゃったみたいですね。あまあまさんでがま
んしましょうね?」

そう言って、しょうは赤しょうにアコウの実を取り、食べやすく舌で潰してから与える。
そんな赤しょうをさらに隣で見守っていたのはるいずだ。二匹は番だったのである。るい
ずは非定住性であるため、同じ巣に長期間留まるとゆっくりできない傾向がある。そのた
め、巣を出て移動しようとし、定住性のしょうは必死に止めようとした、というのが昼間
の騒ぎの真相のようだ。実のところ、二匹の間には、るいずを母として四匹の赤るいずと
一匹の赤しょうが生まれたのだが、赤るいずの姿はどこにもなかった。ゆっくりと親の保
育を受けなければならないれりむやまりさなど大半のゆっくりとは異なり、サイズを別に
すればるいずは生まれた時点で既に親と同じように単独で生活できる能力が備わっている。
そのため、誕生後すぐに外の世界へ旅立ってしまうのである。当然ながら、赤ゆの死亡率
は極めて高いが、それを多産によって補うのが、るいず種の繁殖戦略なのであろう。ちな
みに、四匹の赤るいずが旅立ったとき、しょうは

「どぼじであがじゃんゆっぐりじでぐれないのおおおお゛!なずーりんおねがいです!し
ょうのかわいいあかじゃんをさがじでくださいいいい゛!!」

と半日騒ぎ続けた。

「ゆっくりしているろりすね!あたしはてんこ!りあるではもんくたいぷ!!」

ろりすに話しかけてきたのはてんこ―実はせーさいされた前りーだーの一族―である。

「ろりすだよ!ゆっくりしていってね!!!」
「!!!」

てんこはろりすの笑顔に鼻血を噴出―ぶらっでぃすぱーく―するとぶっ倒れてしまった。

「…ようじょのえがおは…はかいりょくばつ牛ん…」

このてんことの出会いがろりすの運命に大きく関わってくるのだが、それはもう少し後の
話である。

「同志まりさ、気に入ってくれたかい?…エビさんは気に入ってもらえたようだね!!」

なずーりんが話しかけてきた。

「僕たちだけが知っている秘密の場所があるんだ!そこだとエビさんがたくさん食べられ
る。今度一緒に行かないかい?」

そこは、なずーりんとその側近たちだけが知っている餌場で、他の場所とは桁違いにテナ
ガエビを捕ることができる秘密の場所だった。じゆーとびょーどーを謳ってしょきちょう
となったなずーりん、だが主張する理念と現実の施策の乖離に気づいているゆっくりはご
く僅かであった。

「ゆ?それはとてもゆっくりできそうだよ!!エビさんを捕るところを見てみたいよ!」

なずーりんはさわやかな笑顔で答えると、群れのゆっくりに向けて呼びかけた。

「親愛なる同志諸君!このあたらしい友のために歌おう!!」

「最後の大隊」ために群れの歌「バック・トゥー・ザ・ゆーSSR」が斉唱される。


その日は暖かい夜だった。穏やかな海面に太陽が残光を残して静かに沈んでいく。崖のゆ
っくりたちは久しぶりのご馳走に湧き、多くのゆっくりがすっきりをして眠った。

逢魔が時を迎えた空を二匹の異なる翼を持った悪魔が羽ばたいていた。



私はこの島における上位捕食者たちの胃内容物、糞などを調査した。ゆっくりたちが
この島の閉鎖的な生態系の中でどのような位置にいるかを明らかにするためである。
さすがに新記載(亜種レベルか、地方個体群レベルかはまだ不明である)のヤマネコは
腹を切り開くわけにはいかなかったため、糞とわずかな映像記録による報告しかでき
なかった。それを補うために、後日、安定同位体から摂餌生態の解明を試みることに
した。

現時点では、もっとも多くゆっくりを捕食しているのはイノシシのようだ。ヤマネコ
やヤシガニは以外なほどに少ない。ヤシガニは体内に毒が蓄積するのを避けるため、
同じエサを連続して食べないとの報告がある。おそらくがそれが理由であろう。だが、
ゆっくりは飾り以外の部分が捕食者の胃の中で残りにくいため、甲殻類のようにエサ
を丸飲みにせず、細かく咀嚼する捕食者では、胃内容物からは正確な情報が得られな
いのかもしれない。ヤマネコについては、現状では、ヤマネコの棲息エリアにはゆっ
くりがなかなか出現しないためであろう。今後は海岸の動物からもサンプルを取って、
最終的にはこの島の食物網、エネルギーの流れを構築し、モデル化したいと考えてい
る。そこまで、この仕事が続けられればいいのだが。

私は休憩するために旅先で求めたさとうきび茶を入れた。

気になることがある。
ゆっくりたちが棲息している海岸とは、島の反対側、そこの海岸沿いの小高い丘の上
に捕食種すかーれっとがいるようなのだ。物音に反応して撮影するカメラに写った写
真からはそれがれみりゃなのかふらんなのかは判別できなかった。一度、直に丘を観
察してみた方がいいだろう。

外は既に暗く、水平線から顔を出したばかりの月は狂おしいほど真っ赤だった。


優雅に続け、書きかけの話



神奈子さまの一信徒です。

南の島シリーズ本編ではたくさんの感想をいただきありがとうございました。
なんとか仕事の合間に書いていたら、長くなってしまいました。少し地味な話になっ
てしまいましたが、楽しんでいただけたなら嬉しいです。お読みいただき、ありがと
うございました。

挿絵 byM1


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このSSへの感想 ※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね!
感想

すべてのコメントを見る
  • スターリンやん -- 2021-05-08 09:35:49
  • 共産主義の群れか(スターリンみたいに粛正対象を粛正したやつの家族になりそう) -- 2019-07-07 03:42:40
  • 面白い!でも天子のセリフ
    ようじょのえがおはばつ牛になったてけどいいの?
    -- 2017-01-09 01:06:52
  • 後半は前回と雰囲気が違ったけど、面白かった。
    ナーズリンがもろにスターリンだな。所々にパロディもあるし‥‥。
    その内疑心暗鬼でしょうも制裁とかにならないと良いけど。 -- 2012-01-28 23:44:25
  • 前作までの南の島のゆっくり生態記の方が好き -- 2011-08-20 15:54:16
  • ナーズリンはあまり良いキャラではないなぁ…
    結局自分のことばっか考えてるじゃないかと。 -- 2011-06-06 03:43:43
  • てんこはやはりロリコンだった! -- 2010-12-10 22:56:34
  • しょきちょうこわいです;;
    これからどうなっていくのか楽しみだなw -- 2010-11-09 23:52:29
  • ナズーリンとスターリンをかけたのか…? -- 2010-10-16 18:05:59
  • このシリーズ面白いんだけど、つむりがあまりにもキショ過ぎるんだよなぁ…… -- 2010-09-15 19:18:58
最終更新:2010年02月13日 19:07
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