少女とまりさ後編 98KB
虐待-凄惨 制裁 悲劇 虐待人間 人間が酷い目にあいます
少女とまりさ 後編
※
少女とまりさ前編の続きです。
※注意、人間が酷い目にあいます。
※書いた奴の脳みそが残念なので、致命的な設定のミスがある可能性があります。
オレンジ色の淡い光が住宅街を溶かすかの様に包み込む。
西に傾きながらも、まだ衰えないその日差しを背に受けながら少女が歩みを進めている。
少女の足取りはぎこち無く、時折足を止めては乱れた呼吸を整えている。
それは、少女が抱えている大きな荷物のせいだった。
少女が朝に家を出た時に身につけていた鞄はこの場には無く、その代わりに薄汚れた大きなゴミ袋を背負うようにして運んでいた。
ズッシリと重量感のある黒い袋を乱暴に地面に降ろして肩で呼吸をする少女。
他人が見れば、その異様な光景に怪訝な表情を浮かべたであろう。
しかし、わざわざ遠回りしてまで選んだこの人通りの少ない道には、幸いにして少女以外の人影は何処にも見当たらなかった。
少女が自宅へと帰宅した頃にはすっかり日が落ちてしまっていた。
少女は薄暗い玄関の中を手探りで灯りのスイッチへと手を伸ばす。
その時、部屋の奥から「ぽいんぽいん」と床を弾む音がこちらへ近づいてくる事に気がついて少女は眉をひそめる。
玄関の扉が閉まる音で、少女が帰宅した事を察知したのだろう。
蛍光灯の灯りが玄関を照らすと、少女の目の前にはまりさの姿があった。
「ゆっくりしていってねっ!」
臆面も無く、満面の笑みを浮かべながら少女の周囲を軽快に飛び跳ねるまりさを一瞥して、少女は目を細める。
昨日のあの出来事までは、可愛らしいとまで感じていたニヤニヤとした薄ら笑いが、今日は少女の神経を激しく逆撫でた。
少女は、まりさに対してこれといった反応をする事も無く、再び重いゴミ袋を背負うと無言で薄暗い廊下を進んで行った。
「ゆっく!・・・ゆゆんっ!?」
少女に無視されたまりさは、驚きの表情を浮かべながらも、横を通り過ぎて行った少女の後を追う。
まりさの方へは振り向かずに、後ろ手で「ぴしゃり」とリビングの引き戸を閉める少女の背中が、一瞬だけまりさの視界に入った。
「ゆっ!ゆっ!ゆっくりあけるよ!とびらさん!ゆっくりひらいてねっ!」
昨日までは、まりさがリビングへと自由に出入りができる様に、まりさの体の幅の分だけ常に開かれていた引き戸は今日は固く閉ざされている。
まりさは自分の体を擦り付けるようにして、何とか引き戸をこじ開けてリビングの中へと入り込んだ。
先にリビングの中へと入っていた少女は、運び込んだ黒いゴミ袋を乱雑にソファーの脇に投げ捨てると、
備え付けの小さな冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出して、それを一気に胃の中に流し込む。
そんな少女の様子を見て、まりさが目を輝かせながら少女の足元へと擦り寄った。
「ゆっ!まりさもごーく!ごーく!するよっ!ゆっくりちょうだいねっ!」
「・・・・・」
少女は足元で屈託のない笑みを浮かべるまりさの問いかけを再び無視すると、ペットボトルを冷蔵庫に放り込んで少々乱暴に扉を閉めた。
その音にまりさは驚いて「ゆっ?」と小さな声を漏らしながら、ビクリと体を震わせる。
まるで、まりさなど始めから存在しないかの様に振る舞う少女は、そのまままりさの元を離れて部屋中のカーテンを次々と閉めていく。
そして、リビングに設置してあるテレビやコンポの電源を入れると、そのボリュームを最大にまであげていった。
「ゆっ!うるさいよっ!まりさをゆっくりさせてねっ!」
まりさはおさげで耳を塞ぐような仕草をしながら、少女に向かって大声をあげる。
何故少女は、まりさの話を聞いてくれずに無視するのだろうか?
その理由を今日のお昼頃までは、まりさも「ゆっくりと理解」していた。
それは、毎晩こっそりと少女に対してゆっくりの生殖行為である「すっきり」を行っていた事がバレたからである。
森のゆっくりの群れを飛び出して、人間が住む「まち」へと降りてきたまりさにとって、
虫や草等を主食にして、木の根元に穴を掘って細々と暮らすなどという昔の生活には、もはや戻る事はできなかった。
人間の食べる味の濃い食料を口にしてしまったまりさは、その虜になってしまったのだ。
それに、何時またまりさをあの「息のできない箱」に閉じ込めた「恐ろしい人間」がまりさの前に現れるかわからない。
だから、まりさは少女をお嫁さんにして、この家に住み着こうと画策したのだった。
しかし、その企みは見事に失敗して、まりさは窮地に立たされた。
なので、まりさは別の方法を考える事にした。
少女が家を留守にしていた間に、家をくまなく物色してその計画の足がかりを発見し、
作戦を練っている内に、まりさの記憶の中で「少女を怒らせた理由」がバッサリと抜け落ちてしまっていたのだった。
「おねえさんっ!ゆっくりとまりさのお話をきいてねっ!あのねっ!あのねっ!・・・ゆっ?」
まりさが視線を上げると、既にリビングに少女の姿は無かった。
再び、引き戸をしっかりと閉じて足早に階段を登っていく少女。
まりさは眉毛をハの字に折り曲げて、困った様な表情で少女の後を追って床を跳ねる。
「ゆっ!まってねっ!ゆっくりまってねっ!まりさのお話をきいてねっ!」
まりさは階段のへりに齧りつきながら、尻を振ってその上体を持ち上げるという動作を繰り返して、一段一段、器用に階段を登って行く。
汗だくになりながらも、何とか二階へと登り切ると、そこも一階と同じく、耳を覆いたくなる様な騒音に包まれていた。
「ゆっくり」する事を信条としているゆっくりにとって、この騒音は生理的に我慢ならない。
まりさは、すぐにでもこの騒音を止めて貰おうと、キョロキョロと忙しない動きで辺りを見回す。
その時、自室から出てこちらへと向かってくる少女を見つけてまりさは叫び声をあげた。
「おねえざんっ!まりさはねっ!もうぜんぜん怒ってないよっ!だからゆっくりしてねっ!」
少女の行く手を遮るように立ちはだかると、飛び跳ねながら声を張り上げるまりさであったが、
それでも少女は、まりさに対して何の反応も見せずに、まりさをまたいで通り過ぎて行く。
いつまでもまりさの存在を無視し続ける少女の行為に対して、まりさのこめかみに薄っすらと餡子の筋が浮かんだ。
「ばな゛じをぎげぇぇぇ!!」
甲高い声で奇声を発するまりさ。
ぷるぷるとその身を怒りで震わせながら、歯をギリギリと鳴らして全身を使って歯がゆさをアピールする。
「・・・何?」
「ゆ゛っ!!」
ふいに帰っていた少女の返事に、まりさは「びくり」とその体を震わせる。
俯いて絶叫していたまりさが目を開いて上を見上げると、そこにはまりさを見下ろす少女の姿があった。
少女の視線は冷ややかで、その雰囲気は昨日までとはまるで違ってまりさを蔑んだものだった。
そんな少女の態度に臆する事無く、まりさが大声をあげる。
「どぼじでばりざを無視するのっ!許してあげるっていってるでしょっ!」
少女の口は噤んだままだったが、口の中でギリッと歯の軋む音が鳴る。
内に秘めた怒りを表へと出す事無く、少女がまりさに素っ気無く切り返す。
「許すって・・・何を?」
「なにって・・・まりさに「いたいいたい」をしたでしょっ?ゆっくり思い出してねっ!」
先程も述べたように、まりさの中で自分に非がある部分だけがバッサリと抜け落ちていた。
今まりさの中にある記憶は、少女がまりさを床に叩きつけたという部分だけである。
自らに落ち度がある記憶を何時までも持ち続けていれば、「ゆっくり」する事ができない。
ゆっくりの存在は、自然のヒエラルキーの中で圧倒的に下位に位置づけされている。
それが今日まで絶滅せずに生き残れてこれたのは、驚異的な繁殖能力によるものが大きい。
その身体能力の低さ故に、番や子供を失う事は日常茶飯事だった。
何時までも番や子供の死に悲観していては、その生存競争の波にすぐに飲み込まれてしまうだろう。
なので、ゆっくり達はその悲しみを「断ち切る」術を覚えた。
ゆっくりの平均寿命は驚くほどに短い。精神的に成長して悲しみを克服する時間など無かった。
悲しい事、煩わしい事はすぐに「忘れて」目先の「ゆっくり」に没頭する個体だけがその命の鎖を脈々と繋げていった。
しばしば、窮地に立たされるとすぐに番を見捨てるゆっくりや、
「子供などまた産めばいい」と開き直るゆっくりを見かけるのは、ゆっくり特有の都合のいい脳内補完の習性が原因でなのである。
まりさは空気を吸い込んで「ぷくっ!」と頬を膨らませると少女を睨みつける。
精一杯の威嚇の表情で、少女に対する怒りをアピールするまりさだったが、
少女はそんなまりさに臆すること無く、先程までと変わらない冷たい視線をまりさに浴びせ続けている。
「ゆっ!まだいたの?ばかな人間さんっ!」
その時、少女が向かおうとしていた兄の部屋の引き戸の僅かな隙間から、
不貞不貞しい笑みを浮かべたれいむの顔面がズルリと姿を現した。
「ゆゆっ!なに見てるのっ!かわいくてごめんねっ!」
れいむの外見は昨日とは少し違っていた。その頭からは青々とした茎が生えている。
茎には、小さなまりさとれいむが三匹ずつ、目を閉じてすやすやと眠っているかの様な穏やかな表情を浮かべている
まりさはれいむの存在に気がつくと、驚きの表情を浮かべて溜め込んでいた空気を「ぶひゅるる」と吐き出してれいむの側へと向かった。
「ゆ゛っ!れいむっ!まりさが「いいよっ」って言うまで出てきちゃだめでしょっ!」
「ゆっ?うるさいよっ!れいむにはかわいいおちびちゃんがいるんだよっ!ゆっくりいたわってねっ!」
れいむの態度は昨日よりも輪をかけて不貞不貞しい
ニヤニヤと癇に障るその表情は、まるでこちらを挑発している様にも感じられる。
そんなれいむの悪びれない態度に、少し困った様な表情を浮かべたまりさだったが、
クルリと少女の方へ振り向くと、眉毛をキリッ!とさせて再び大声を張り上げる。
「ゆゆっ!ゆっくりきいてねっ!おねえさんっ!」
そういうとまりさは自分の帽子の中をおさげでごそごそと探り、一枚の紙片を取り出した。
それは昨日、少女が兄の部屋で見つけた日記に挟まっていた写真だった。
「この部屋はゆっくりできない」等と言っておきながら、少女が不在の間に兄の部屋に勝手に入り込んで持ち出した様だ。
「おねえさんっ!このゆっくりプレイスはね・・・っ!じつはまりさのものなんだよっ!」
写真を少女に見えるように床に置くと、芝居がかった動きで辺りを見回すまりさは、得意気にその理由を語り始めた。
まりさは元々、このゆっくりプレイスに「飼いゆっくり」として住んでいた。
この写真に写っているのが、このプレイスの元々の持ち主達で、この二人の人間は「じゅみょう」で死んでしまったのだ。
持ち主不在となったのであれば、ここは少女よりも先にこのプレイスに住んでいたまりさの物という事になる。
今までは、少女の自由にこのゆっくりプレイスを使わせてやっていたが、まりさに盾つくのであれば出て行ってもらうしかない。
それを証明するのがこの写真である。それがまりさの言い分だった。
「ゆっくり理解してねっ!この「しゃしん」さんが「ゆるぎないしょうこ」だよっ!」
「そうだよっ!後からここに来た人間さんはゆっくりでていってねっ!」
「どうだ!」と言わんばかりの表情で、眉毛をキリッとさせながらふんぞり返るまりさ。
その後ろでれいむが舌を出しながら少女を挑発して、薄ら笑いを浮かべる。
「まりさはねっ!本当はおねえさんをお嫁さんにしてあげようと思ったんだよっ!」
「ゆ゛っ!?なにいってるの!?「およめさん」はれいむでしょぉぉぉ!?」
まりさの意外な一言に、れいむが舌を出したまま驚きの表情を浮かべる。
そんなれいむを気にかける事無く、まりさはふるふると身を震わせながら、少女を睨みつけた。
お姉さんがまりさの番になれば、今まで通りこのゆっくりプレイスで暮らせる事ができたのだ。
そんなまりさの心遣いをお姉さんは踏みにじった。今更後悔してももう遅い。
「それなのに、おねえさんはまりさにひどいことをして、それからむししたよねっ!絶対にゆるさないよっ!ぷんぷんっ!」
まりさは昨日少女に行った行為を謝罪するどころか、開き直ってこの家を奪い取ろうと画策している様だ。
家から追い出されない為に、毎晩少女に対してこっそりと行ったゆっくりの生殖行為である「すっきり」を
恩義せがましくも、少女が家から出て行かなくても良い様に行った行為、善行だと主張しはじめたのだった。
それを聞いた少女の頬が時折引きつる様に波打っている。
粗だらけのどうしようもない嘘だ。
「では何故、そんな飼いゆっくりが水槽の中で溺れていたのか?」と問いただせばそれで終わりである。
ふいに目の前で世迷い言をのたまう饅頭を踏みつぶしたい衝動にかられた少女だったが、
一度目を閉じて、大きく深呼吸をして心を落ち着かせると、まりさに問いかける。
「まりさ、じゃあまりさが寿命で死んだらこの「ゆっくりぷれいす」は誰のものになるの?」
少女の問い掛けにまりさが「待ってました」とばかりに口を尖らせる。
「ゆゆっ!だめだよっ!まりさが永遠にゆっくりしたら、その後はこのおちびちゃん達がこのゆっくりプレイスを「そうぞく」するんだよっ!」
れいむの頭の上で揺れる赤ゆっくり達の生った茎をおさげで指差しながら、
あてが外れて動揺している筈の少女の表情を伺おうと仕切りに顔を覗き込んでくる。
「じゃあまりさ、持ち主が死んだらその「ゆっくりぷれいす」は子供の物になるっていう事?」
「ゆっ!そうだよっ!だからここにおねえさんの居場所はないんだよっ!わかるっ?ゆっくり理解してねっ!」
今更後悔してももう遅い。
そう簡単にお姉さんを許すわけにはいかない。
だが、お姉さんはこのゆっくりプレイスの何処に食料があるのかを知っているし「りょうり」も上手い。
お姉さんがまりさの気が済むまで謝罪すると言うのならば、召使いとしてこの家に置いてやるのもいいだろう。
いや、お姉さんとの「すっきり」はとてもゆっくりできた。「あいじん」として飼ってやるのも悪くない。
昨日までの可愛らしい面影は微塵も無い薄汚い笑みを浮かべるまりさが、
勝ち誇った顔でふんぞり返りながら、少女の謝罪の言葉を今か今かと待つ。
しかし、当然少女の口から出た言葉は謝罪の言葉では無かった。
少女は膝を折り曲げてその場に屈むと、床に置かれた写真に映った笑顔を浮かべる母を指差して静かに答えた。
「私はね・・・この人の「おちびちゃん」なの」
「ん゛ゆ゛っ!?」
少女の言葉にまりさの勝ち誇った表情が見る見る歪む。
「持ち主が死んだらその「ゆっくりぷれいす」は子供の物になるんでしょ?」
「ゆ゛っ!!・・・ゆ゛う゛う゛っ!?」
少女の告白に信じられないと言ったような表情を浮かべて、口をパクパクとさせて取り乱すまりさ。
たった今、まりさ自身が述べた理屈では、この家は少女の物という事になってしまう。
何とか反論しようと、必死に餡子脳をフル回転させて考えを巡らせるまりさであったが、出てくる言葉は単語の形を成さない。
「う゛っ!うぞだぁぁぁ!嘘だよぉぉ!ゆっくりうそつきだよぉぉぉ!」
「何故そう思うの?」
「ゆっ!それはっ!ゆゆゆっ!とにかくうそだよっ!「しょうこ」も無いのに変な事いわないでねっ!まりさ本当におこるよっ!」
まりさは自分の怒りを全身で表現しようと、限界まで空気を体内に取り込むと先程よりも更に大きく体を膨らませる。
目に涙を一杯溜め込み、醜く歪んだふくれっ面を維持して必死に少女を威嚇する。
こちらは「しゃしん」という揺ぎ無い証拠を用意して説明しているのだ。
だと言うのに、お姉さんはただ口で写真に映った人間の子供だと主張しているだけである。
そんな物が通るか、通るわけがない、嘘つきだ!お姉さんは嘘をついているのだ!このゆっくりプレイスはまりさの物だと言うのに!
逆上したまりさにとって、もはや嘘で継ぎ接ぎされた虚構が真実になってしまっていた。
まりさのゆっくりプレイスを奪おうとする悪の少女に対して、それを許さんとする正義のまりさの図式が脳内で出来上がってしまっている。
「証拠ならあるよ」
「ぶひゅるるるるるぅ!?」
少女の素っ気ない返事に、思わずまりさの体内に溜め込んだ空気が一気に抜けた。
少女は「とたとた」とまりさの方へ歩みを進めると、
まりさの隣でヘラヘラと薄ら笑いを浮かべているれいむの体を襟首をつかむように、皮を握りしめて掴み上げる。
その突然の行為に、れいむがクワッ!と歯茎をむき出して少女を威嚇した。
「なにじでるの!?れいむは偉いんだよっ!おちびちゃんがいるんだよっ!ゆっくりしたにおろしてねっ!」
少女に向かって唾を飛ばしながら妄言を垂れ流す饅頭を、少女は無造作に階段に向かって放り投げた。
「ゆっ!まるでおそらをとん・・・ゆ゛ん゛っ!」
突如宙を舞ったれいむは、その浮遊感に目をパァァ!と輝かせて一瞬の「ゆっくり」を満喫したが、
すぐに階段の角に頭を打ちつけて、醜い苦悶の表情を浮かべた。
「い゛っ!・・・い゛ぎっ!?・・・ひべっ!・・・ほだらっ!?」
そして、固い階段に何度も全身を叩きつけられながら、大きな音を立てて一階へと転がり落ちていった。
少女の突然の行動に驚いたまりさが金切り声をあげて叫ぶ。
「なっ!!なにじでっ!なにじでええええええ!?」
狂ったように奇声をあげるまりさだったが、
次の瞬間、まりさの頭上に重たいものがのしかかってきて、床に体を押さえつけられる。
「ゆ゛ん゛や゛!!」
それは少女の足だった。少女によって踏みつけられたまりさは、全身を平たく変形させて小さく呻き声を漏らしている。
苦しそうに「じたじた」と体を動かすが、少女の足の重圧からは逃れられずに「ゆひゅーゆひゅー」と苦しそうに息をする。
少女の大きく見開かれた濁った両目がまりさを覗き込む。
「こうやって母さんを突き落としたんだろ?」
「ゆ゛ん゛や゛ぁぁぁぁぁ!!」
少女の口から飛び出した言葉にまりさは思わず絶叫する。
まりさが無理やり「無かった事」にした記憶がムクムクと音を立てて蘇った。
何故だ?何故知っている?
そうだ、まりさはこのゆっくりプレイスの前の持ち主の「飼いゆっくり」では無かった。
そして、前の持ち主達は「じゅみょう」で死んだのでは無い。
本当はこの家を人間達から奪い取ろうとして、弱そうな人間をあの尖った坂(階段)へと突き落としたのだ。
そして「恐ろしい人間」にこのゆっくりプレイスを奪われたのでは無い。
弱そうな人間を尖った坂に突き落とした所を見ていたもう一人に「せいさい」されたのだった。
それがあの「恐ろしい人間」だったのだ。
逆だった。人間にゆっくりプレイスを奪われたのでは無い。まりさがこのゆっくりプレイスを奪おうとしたのだ。
何故だ。何故この人間はまりさも忘れていたような事を知っているのだ?
やはり本当に前に住んでいた人間達の「おちびちゃん」だからか?
もし本当ならこのゆっくりプレイスを奪われてしまう。
いやだ。ここはまりさのゆっくりプレイスなのだ。認めたくない。認めるわけには行かない。
認めたら「ゆっくり」できなくなってしまう。
◆
−10数年前の同じ場所−
「ゆっ!ゆっ!ゆっくりすすむよっ!かわいくてごめんねっ!ぷんぷんっ!」
まりさはこの状況に苛立っていた。
群れを離れて山を降りてきたまりさが、やっとの思いで見つけたこのゆっくりプレイスを、
後から来た人間が我が物顔でのさばっている現状が我慢ならなかった。
番のありすにその憤りを訴えても「召使いと思えばいい」等と呑気な事を言う。
人間がこんなにすぐ傍に居ると言うのに「ゆっくり」できるありすは、ゆっくりできない奴だ。
この出来事から、日に日にありすとの会話は減っていた。
「さっきから呼んでるでしょっ!はやくごはんにしてねっ!まりさおこるよっ!」
何時ものように、登りづらい尖った坂を何とか登りきったまりさは、ベランダで洗濯物を干している人間に怒鳴り声をあげる。
まりさの存在に気がついた人間はまりさの方へと振り返ると、くすくすと小さな笑い声をあげた。
「まりさちゃん、ご飯ならさっき食べたでしょ?おばあちゃん見たいな事言わないでね」
「あれっぽちじゃ全然足りないよっ!ばかにしないでねっ!」
頬を膨らませて人間の足にぐりぐりと自らの体を押し付けるまりさ。
まりさにとっては、威嚇を超えた攻撃の域にまで入った行動であったが、人間にとってはゆっくりがじゃれついている様にしか感じていない。
「あらあら、今はお洗濯してるから後で遊びましょうね」
「ゆぎぃぃぃっ!」
(ゆっ?あんなの”召使い”だと思えばいいわ・・・ゆっくりしてね、まりさ)
ありすの言葉を思い出したまりさが、苛立たしそうに何度も飛び跳ねて地団駄を踏む。
何が「召使いだ」まりさの言うことなどちっとも聞きやしない。
「せいさいするよっ!」
まりさはそう叫ぶと、息を大きく吸い込んで地面を蹴り、人間の腹部の辺りに体当たりをした。
その衝撃に人間は小さな呻き声をあげると、膝をついてその場にしゃがみ込む。
両手を床について、苦しそうに深い呼吸を繰り返す人間を見て、まりさがほくそ笑んだ。
まりさの一撃で、もはや立つこともできないらしい。
いい機会だ。そろそろ自分の「たちば」という物をわからせてやろう。
「いたかったっ?まりさは怒ってるんだよっ?ゆっくりはんせいしてねっ!」
まりさが勝ち誇った表情で人間にそう吐き捨てた次の瞬間だった。
「・・・ゆ゛っ?」
まりさの目の前が突然真っ白になって、視界がグルグルと回転していく。
突然体が動かなくなり、為す術も無く流れて行く景色を呆然と眺めるまりさ。
何が起こったのかわからない。まりさは吸い込まれる様にベランダから廊下へと転がり落ちて行った。
そして、冷たく固い床に全身が叩きつけられる。
信じられない程に重く感じる自らの体が、ひしゃげるように押し拡がる。
「いだいぃぃぃいだいよおおおおっ!!」
重くなった体がようやく元に戻り、何とか起き上がったまりさだったが、目の前はキラキラ輝いて地面が揺れる。
立っていられない。そして右の頬にじんじんと熱い痛みが走る。
まりさは「ゆっ?ゆっ?」と力の無い声を漏らしながら、何とか今の現状を理解しようと辺りを見回す。
まりさの視界には、まりさを睨みつける人間の姿が映った。
今のは、あの人間がやったのだろうか?まりさが何を言ってもヘラヘラして言い返してこないあの人間がやったのだろうか?
まりさは認めたくなかったが、じんじんと悲鳴をあげる頬の痛みがそれを許さない。
「前にも言ったでしょ?ここには私の「おちびちゃん」がいるの」
腹部をかばう様にして立ち上がった人間の語調は何時になく荒い。
そんな人間の様子と頬の痛みで、まりさはようやく自分の「立場」を理解した。
キュッと全身を硬直させてその身を一回り程縮めたまりさが、目に涙を浮かべながら弱々しい声で人間に語りかける。
「ごっ・・・ごべんなざいっ、ばでぃざははんせいじばじだっ」
「ううん、許さないわ。聞きなさい、まりさちゃん」
人間はまりさの言葉を遮って話を続ける。
約束、覚えている?私の赤ちゃんが生まれるまではここに居てもいいけど、早く元居た場所に戻りなさい。
人間の居る所にゆっくりの住む場所なんて無いの。
ここの暮らしに慣れすぎてしまって、森に帰れなくなったゆっくりはいずれ人間に連れて行かれて殺されてしまうよ。
街では人間と一緒に暮らす為に教育されたゆっくり以外は、人間は見向きもしないの。
野生のゆっくりだった貴方達を飼ってくれる人なんて何処にも居ないわ。
私も子どもが生まれたら、貴方達の面倒を見る事なんてできなくなる。そんな資格も無いしね。
人間の手を借りないで、二人で暮らすって言っても「ゆっくりプレイス」なんて何処を探しても無いの。
何故なら、この街全体が遠い昔から人間の「ゆっくりプレイス」なんだから。
だから、早く貴方達の本当のゆっくりプレイスに帰ってね。そこで好きなだけ「ゆっくり」しなさい。
「帰り道が怖いのなら、あの子に付き添って貰えばいいわ」
そう言うと、人間の表情は先程までの優しいものに戻っていた。
しかし、そんな人間の言葉はまりさの頭の中には入っていなかった。
何故、まりさのゆっくりプレイスで人間が偉そうにしている?
それ以外の思考はまりさの中で麻痺していた。
どんな情報もまりさの頭の中を素通りして外へ出て行ってしまった。
先程の頬の痛みも、これ以上の被害を受けることが無いと理解した途端忘却していた。
それほど、新たに手に入れたこのゆっくりプレイスの魅力は大きかったのだ。
この街全体が人間のゆっくりプレイスという事ならば、このプレイスに侵入したのはまりさという事になる。
しかし、自分が被害者ではなく、加害者と認識していてもそれを認める事ができなかった。
人間はカラになった洗濯籠を持ち上げると、腹部に気を使いながら慎重にベランダから廊下へと静かに降りる。
そしてまりさの方へ振り返るとにこりと優しい笑みを浮かべた。
「じゃあ、ご飯はまだ駄目だけど、おやつにしましょうね」
そう言うと踵を返して「とたとた」と廊下を進んで行った。
何故人間が、まりさのご飯を食べる時間を勝手に決めるのだ?
まりさは食べたいときに食べて、眠りたい時に寝る。それが「ゆっくり」だと言うのに。
ここはまりさのゆっくりプレイスなのに。まりさは何も悪いことしていないのに。
人間さえ居なければここはまりさのゆっくりプレイスになるのに・・・人間なんてゆっくりしないで即座に居なくなればいいのに・・・
「ゆっくりしねっ!!」
まりさはそう叫んで人間の背中に向かって懇親の力を込めて体当たりした。
「あっ・・・!」
人間は小さく漏らすとまりさからどんどん遠ざかっていく。
人間の倒れた先には床は無かった。
◆
「い゛だい゛!!い゛だい゛よ゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!」
「ゆ゛ゆ゛っ!?」
家中に響き渡るれいむの沈痛な叫び声でまりさは我に返った。
少女の踏みつける力が先程よりも少し緩んでいる事に気がついたまりさは、
素早く体を捻らせて少女の足の重圧から逃れると、悶え苦しむれいむの居る一階ヘと向かって階段を駆け下りて行った。
「でいぶぅぅぅ!ゆっぐりじでねっ!ゆっぐりだよぉぉっ!」
「ん゛ぎい゛い゛い゛い゛っ!!」
ギュッと目を閉じて醜く歯茎を剥きだしながら歯を食いしばって何とかその激痛に耐えるれいむと、
その頭に生えた六匹の赤ゆっくりに必死に声をかけるまりさ。
まりさは、れいむが階段から突き落とされる光景を見て、過去の出来事を思い出した。
(ここには私の「おちびちゃん」がいるの)
あの人間の大きくなった腹部を思い浮かべてまりさは、苛立たしそうに舌打ちした。
お姉さんが言った通り、お姉さんがあの人間のおちびちゃんという事はどうやら事実である。
もはや「わじゅつ」でお姉さんをこのゆっくりプレイスから追い出すことはできないだろう。
ならば今は、仲間の数が重要なのだ。言葉で駄目ならば、あの時の様に暴力でこのゆっくりプレイスを手に入れるしかない。
特に自分の餡子を色濃く受け継いでいるであろう優秀なまりさ種だけでも無事で無くてはならない。
まりさは赤ゆっくりの安否を確かめようと、れいむの頭のある方へ跳ねて回り込む。
「ゆ゛っ!な゛に゛ごれ゛っ!?」
しかし、れいむの頭から生えた茎は不自然な方向へと折れ曲がり、
赤ゆっくり達は先程までの穏やかな表情から一転して、目を大きく見開き、大口を開けて時折苦しそうに呻き声をあげている。
茎が折れかかってれいむからの餡子の供給が滞っているのだ。
水中で突然、酸素ボンベを奪われた様なものである。
このまま放置しておけば赤ゆっくり達は生まれる事無く、その生涯を終える事になるかもしれない。
「おぢびちゃん!ゆっぐり!ゆっぐりじでぇぇえ!べーろっ!べーろっ!」
苦悶の表情を浮かべて小刻みに痙攣する赤ゆっくり達をまりさはぺろぺろと舐め回す。
気の合った仲間同士、お互いを舐めあう事で「ゆっくり」を感じ合う行為であるそれは、今の赤ゆっくり達にとっては何の効果も無い。
それ所か赤ゆっくりと茎との結合部を破損させてしまう恐れすらあった。
この状況をどうする事もできないまりさは、涙をボロボロとこぼしながら鳴き声をあげた。
ぎしり、ぎしり
そんな中、静かで重い足音がこちらへと向かってくる事に気がつくと、
まりさはピタリと泣くことを止めて、咄嗟に音が聞こえる階段の方を見上げる。
そこに居た”モノ”を見てまりさは醜く歯茎をむき出して「ゆ゛っ!」と野太い声を響かせた。
恐ろしい人間。
そこには、まりさを何度も何度も殴りつけて、群れの仲間を焼き殺した「恐ろしい人間」の姿があった。
それが静かに階段を一歩一歩降りてまりさとの距離を少しずつ縮めている。
「う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!ごっ!ごっぢごないでねぇぇぇ!!」
「ゆべぇ!?」
まりさはれいむを突き飛ばすと、少しでも恐ろしい人間から距離を取ろうと逃げる様に飛び跳ねた。
しかし、錯乱状態で周りの見えていないまりさは、目の前の下駄箱に全身を叩きつけてべちゃりと床に倒れこむ。
背後から聞こえて来る足跡に向かってまりさは必死に声を張り上げる。
「あっちへいっでねっ!ゆっくりどこかへいってねっ!」
何とか起き上がったまりさは、下駄箱に自分の体を押し付けてふるふるとその身を震わせる。
ダラダラと全身からこぼれ落ちる汗が床に水たまりを作った。
殴られる。ゆっくりできなくなる。
またあの息のできない箱に入れられる。いやだ。あそこはゆっくりできない。あそこだけはいやだ。
「助けてあげるよ」
「ゆ゛っ!?」
まりさは、その声で目の前に居たのはあの恐ろしい人間で無い事に気がつく。
そこには、まりさを助けてくれて、美味しいものを食べさせてくれた優しい少女の姿があった。
何故少女の姿があの恐ろしい人間に見えていたのか、まりさにはわからなかった。
ゆっくりには、現在の心理状態によって目に見える物を脚色して見たり、感じたりする習性があるという。
自分の体から出た餡子を臭いと感じたり、死んだ仲間の飾りに酷い恐怖心を覚えたり、
絶対に勝てる筈の無い外敵が、弱々しく見えたりするのもその習性の特性であり。
その習性が少女を「恐ろしい人間」である少女の兄に見せたのかもしれない。
目の前に居るのが恐ろしい人間では無く、少女だった事にまりさの餡子脳は更なる変調をきたした。
まりさは何を思ったか、少女の足にすがり付くようにして全身を擦りつけると、れいむの救助を懇願し始めたのだった。
「おねぇざぁぁん!だずげてねっ!はやぐでいぶをだずげであげでねぇぇっ!」
れいむがこうなったのは少女の仕業だという事も忘れてしまったのだろうか?
まりさは、渡りに船とばかりに少女にすがり付く。
「恐ろしい人間」には何を言っても無駄だが、少女にならばまりさの願いは通じるかもしれない。
まりさの浅はかな打算がそこにはあった。
少女はまとわりついて来るまりさに露骨に嫌悪の表情を浮かべながらも、淡々と語りかける。
「れいむか赤ちゃん、どちらかなら助けてあげられるよ」
「どぼじで!?」
「体はひとつしかないから」
もはや少女には、ゆっくりにもわかるように説明する気などさらさら無かった。
わからなければ、わからなくても一向に構わない。そんな態度だった。
説明の意味がまるで理解できないまりさであったが、少女の様子に半ば諦める様に踵を返すと
れいむとその頭に生った赤ゆっくり達を交互に見る。
助かるのはどちらか片方だけ・・・どちらを助けるかまりさが選ばなければならない。
「おぢびはどうなっでもいいがらっ!れいむをずぐにだずげでねっ!」
今にも折れてしまいそうな茎に気を使う事も無く、丘に打ち上げられた魚の様に、
自らの体をぶるんぶるんと揺さぶりながら、涙をまき散らしてれいむが叫んだ。
もう少しで生まれ落ちようとしている生命に一切の母性を感じる事無く、
れいむは我が子である赤ゆっくり達を切り捨てる事をまりさに懇願しだした。
「なにじでるのっ!ばやぐでい・・・ぷぎっ!?」
そんなれいむの奇声がピタリと止まった。
れいむの右目に少女の足の指が深々と突き刺さったからである。
突然の少女の行為に、れいむは残された片方の目を丸く見開きながらポカンと口を半開きにして放心している。
「私はまりさに聞いてるの」
低く落ち着いた声でそう言うと、少女はれいむの右目から足を無造作に引き抜く。
それと同時に、ひしゃげた窪みになってしまった右目からドロリと餡子の糸を引きながら眼球が床へとこぼれ落ちた。
少女はそのまま餡子で汚れた足の先をれいむの頬に擦りつけて拭い取る。
れいむは頬に足を押し付けられるという屈辱的な行為に対して何ら反論の意思を示す事も無く、
床を転がる変わり果てた自分の右目を見て声にならない声を力無くあげている。
「まりさ、早く選んでね。別に両方死んじゃっても私は構わないけど」
完全に戦意を喪失して抜け殻の様になってしまったれいむの頭の上に腰を降ろして、少女が微笑む。
少女の行動に身を震わせてじりじりと後ずさりしていたまりさだったが、少女に声をかけられてビクリと驚いた表情を浮かべる。
そして、少女の下でえぐえぐと嗚咽を繰り返すれいむを暫し凝視していたが、こう切り出した。
「ばっ・・・ばやぐっ!おぢびちゃんをだずげでねっ!れいむなんかもういらないよっ!」
「な゛っ!!な゛に゛い゛っで!!・・・・・・い゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛・・・」
まりさの心ない言葉に対して、れいむが怒りの声を張り上げた瞬間、少女の手によってれいむの頭髪がごっそりと引き抜かれた。
その激痛にれいむは再び口をつぐんで小さなうめき声を漏らしながら、無言でボロボロと涙をこぼす。
先程までの不貞不貞しい薄ら笑いの面影は微塵も無く、力無くすすり泣く事しかできない。
人間を舐めきって生きてきた結果がこれである。まさにごらんの有様であった。
「どぼじでぇぇ・・・どぼじでがわいいれいむがごんな目にぃぃぃ・・・」
「おねえざん!ばやぐじでねっ!れいむなんかどうでもいいからねっ!はやぐおちびちゃんをゆっくりさせてねっ!」
まりさはれいむの事など、もはや微塵も気に留めては居なかった。
飼いゆっくりの「きんばっち」だから番になっただけの事で、傷物になってしまっては何の価値も無い。
れいむなど、可愛い赤ゆっくり達の「土台」とでも言わんばかりの態度でれいむを無視するまりさ。
そんなまりさの腐りきった態度を横目で見ながら、
少女は神妙な面持ちでれいむの頭から生える茎に手を添えるとそれをジッと見つめている。
しかし次の瞬間、無造作に茎を握り締めるとポキリとれいむの頭から茎をむしり取る。
「失敗した」
「な゛っ!・・・な゛な゛な゛な゛!!な゛に゛じでる゛う゛う゛う゛ぅぅ!!」
少女の行動にまりさが激昂した。
赤ゆっくり達は茎が折れてしまった事により、母体からの餡子の供給が完全に遮断されてしまい、
ぐったりとうな垂れて舌を力無く「だらり」と垂れ流してる。
まりさは少女の手に握られている茎を凝視しながら、頭から煙が吹き出さんばかりに大声で喚き散らす。
少女はそんなまりさの怒りを受け流す様に、涼しい表情を浮かべながら、悪びれずにこう切り出した。
「まだ助けられるよ」
「ばやぐじろおおお!!」
少女はれいむの上から立ち上がって明後日の方向へ視線を泳がせるとこう呟いた。
「”まりさ”か”赤ちゃん”どちらかなら助けてあげられるよ」
「どぼじでそこでまりさの名前がでてくるのぉぉぉ!?」
その時、まりさは思い出した。
少女の母親を自分が殺して、それがバレてしまっていた事を。
むしろ、何で忘れていたのだろうか?
お姉さんは怒っているのだ。あの「恐ろしい人間」と同じ様に。
お姉さんははじめから、れいむもおちびも助ける気など無かったのだ。
危ない所だった。もう少し気がつくのが遅ければ、まりさもれいむと同じ様な目に会っていたかもしれない。
「まっ!まりさだけはたすけてねっ!・・・おちびはもういらないよっ!」
まりさが噛み付くような勢いで少女の足にしがみついたその瞬間だった。
まりさの目の前が突然真っ白になって、視界がグルグルと回転していく。
突然体が動かなくなり、為す術も無く流れて行く景色を呆然と眺めるまりさ。
何が起こったのかわからない。まりさは吸い込まれる様に廊下から玄関へと転がり落ちる。
そして、冷たく固い石造りの床に全身が叩きつけられる。
信じられない程に重く感じる自らの体が、ひしゃげるように押し拡がる。
「いだいぃぃぃいだいよおおおおっ!!」
何とか起き上がったまりさだったが、目の前はキラキラと輝いてグラグラと地面が揺れる。
立っていられない。そして右の頬にじんじんと熱い痛みが走る。
まりさは「ゆっ?ゆっ?」と力の無い声を漏らしながら、何とか今の現状を理解しようと辺りを見回す。
まりさの視線の先には、まりさを睨みつける少女の姿。
まりさには、少女の姿が今度はまりさを殴ったあの弱い人間に見えていた。
「私はれいむに聞いているの」
少女の言葉にまりさの視界がぐにゃりと歪む。
れいむを見捨てたまりさにとっては、少女の言葉は死刑宣告も同じだった。
少女の言葉に暫し呆然としていたれいむだったが、すぐに状況を理解すると、
ニタリと汚い笑みを浮かべてまりさを睨みつける。
その視線にまりさは汗を垂れ流しつつも「にこり」と引きつった笑い顔を浮かべた。
「ゆっ!ゆゆんっ!れ、れいむゆっくりしていってねっ・・・!」
「うるさいよっ!お前みたいなゲスは人間さんにゆっくりと「せいさい」されてねっ!」
「ゆっくりしていってねっ!ゆっくりしていってねっ!」
まりさは眉毛をハの字に曲げて、少し困った様な表情を浮かべると体を左右に伸ばしながら愛想を振りまく。
「ゆゆーんっ!まってねっ!きいてねっ!ゆっくりきいて・・・ねっ!!」
媚びへつらった声でそう囁きながらも、まりさは地面を力強く蹴った。
この窮地と脱するには、あの時の様に人間を殺すしかない。
あの時みたいに人間をゆっくりできなくさせてやる。
そして、今はあの「恐ろしい人間」の姿はここには無い。
まりさは全身に力を込めて少女の背中に体当たりした。
「んっ・・・!」
まりさの体は少女の背中に突き刺さり、少女はその意外な重さの衝撃に小さく声を漏らす。
そして壁に強く体を打ち付けると、ずるずると床に倒れこむように座り込んでしまった。
「じねっ!ゆっぐりじねっ!」
まりさは投げ出された少女の足に食いつくと、一心不乱にその体を揺り動かす。
肉食獣の様にそのまま足を食い千切る・・・とまではいかなかったが、少女の足に食い込んだまりさの歯からうっすらと血が滲んだ。
「やっ・・・痛・・・っ!」
「はふぃふぁのふよさにふぉふぉれふぉののふぃふぃえふぇっ!!」
少女の足に食らいつきながら、まりさが勝ち誇ったような叫び声をあげる。
少女は、何とかまりさの髪の毛を鷲掴みにして引っ張ろうと力を込めるが、
それをさせまいと、まりさの噛み付く力が更に増して、その痛みに少女は手を離してしまう。
「いっ・・・!ま、まりさぁ・・・!」
その痛みに少女の瞳に涙が浮かんだ。
噛み付かれている足を両手で押さえ込んで固定して、首を狂ったように振り回すまりさの動きを何とか止める。
自分は何でこんな事をしているんだろうか?ふとそんな考えが脳裏を過ぎった。
しかし、そんな考えも少女の足に食らいつくまりさの憎らしい顔を見た途端に吹き飛んだ。
「ぷぎっ!?」
ドシン!と鈍い音がした途端、まりさが間の抜けた叫び声をあげた。
少女はまりさに食いつかれたその足を、懇親の力を込めて壁へと叩きつけたのだった。
少女の足と壁との圧迫によって、真平らにひしゃげたまりさがグルリと白目をむいた。
まりさの口が「パカリ」と開かれて釣られた魚の様に、少女の足にひっかかって「だらり」とぶら下がった。
少女はまりさの口から足を引き抜くと、まりさの頭を握りしめて立ち上がり、床へ向かって思い切り叩きつけた。
「い゛びゃいっ!!」
パン!と渇いた音が鳴り響いて、まりさの目玉が飛び出さんばかりに大きく見開かれる。
少女はそんなまりさに覆いかぶさる様にして両脚で挟み込んで固定すると、握った拳をまりさの顔面に向かって振り下ろした。
腕はまりさの顔面に深々と突き刺さったが、それと同時に少女のか弱い右手が悲鳴をあげる。
更に、ズキズキと脈を打つように痛むその右手をまりさから引き抜くと、大きく振り上げて、再び振り下ろす。
「何様のつもりだ!」
再びまりさの顔面に少女の右手が突き刺さる。
まりさの歯がポキポキと砕ける感触が右腕から伝わってくる。
まりさが低い呻き声を漏らしてぶるんっ!とその体を苦しそうに震わせた。
少女は何度も何度も、その右手の感覚が無くなるまでまりさの顔面に拳を振り下ろし続けた。
「や゛・・・べで・・・も゛っ・・・やべ・・・」
完全に戦意を喪失したまりさを少女が赤く腫らした目で見下ろしていた。
まりさは元の顔がどうであったかわからない程に顔面を腫れ上がらせて、少女に弱々しい声で何度も許しを請う。
少女は悲鳴をあげる自らの右手の痛みを無視してまりさの髪の毛を掴むと、それを引っ張り上げる。
「ん゛ぎゅっ!・・・ううぅぅぅぅ」
まりさの体が不自然に縦に伸び上がって、髪の毛がブチブチと音を立てて千切れ始める。
次の瞬間、まりさの髪の毛が根元からごっそりと抜けると、少女の手を離れてその後頭部を床に激しく打ち付ける。
少女の手によって、綺麗に洗われてキラキラと光沢を放つまりさの髪は、今は見る影も無くボサボサに乱れて右側頭部は醜く皮膚を露出させていた。
「ばっ・・・ばでぃざの・・・ぎれいな・・・がみのげざんがぁぁぁ・・・!」
まりさは頭上の少女の手から雨の様にパラパラと降り注ぐ自分の髪の毛を見て、パンパンに腫れ上がった顔から涙を垂れ流す。
そんなまりさの声を聞いた少女は小さく舌打ちすると、無言で矢継ぎ早にまりさの髪の毛を次々とむしり取る。
「やべっ!やべっ!・・・やべでぇぇぇぇぇ・・・」
まりさは何度も後頭部を床に打ちつけながら、悲痛な呻き声を漏らす。
そんなまりさの様子を見て少女の体に体を擦りつけながら、れいむがゲラゲラと汚い笑い声をあげた。
「人間さんっ!もっとまりさをいたみつけてねっ!まだまだれいむの気はおさまらないよっ!」
少女の傍らで勝ち誇った様な笑みを浮かべるれいむ。
少女は無言でゆっくりと立ち上がると、そんなれいむの脳天に懇親の力を込めて足を振り下ろした。
「ひゃぶる!?」
ズムッ!と鈍い音がしてれいむの脳天が陥没する。
少し間を置いて、れいむが「えれえれっ」と大量の餡子を口から垂れ流した。
少女はぴくぴくと無言で痙攣するれいむを足で廊下の隅に寄せると、まりさのおさげを掴んで廊下を歩いていく。
「ま゛っ・・・ま゛っで・・・ね」
何とか声を絞り出したれいむだったが、少女の歩みが止まる事は無く「ピシャリ」とリビングの引き戸が閉められた。
肌寒い玄関には青い顔で痙攣する赤ゆっくり達の生った茎と、如何ともし難い傷を負ったれいむだけが寂しく取り残された。
「ゆ゛っ・・・ぐり・・・じだ・・・げっが・・・が・・・ごれ・・・だよっ・・・!」
そう呟くとれいむは、支えを失ったかの様に「くしゃり」と平たくなって動かなくなった。
◆
まりさはおさげを少女に掴まれて、ゆらゆらとその身を揺らしている。
「だずげでね・・・がわいい・・・ばでぃさを・・・だずげてね・・・」
「・・・・・・」
少女は世迷い事を垂れ流す饅頭を、無言でテーブルに向かって投げつけた。
「ん゛びゃん!!」
情けない表情を浮かべていたまりさの顔面が、テーブルの角に突き刺さる。
体をテーブルにめり込ませたまま、ジタバタと苦しそうに体を動かしていたまりさがべしゃりと床に転がり落ちた。
まりさの頬はテーブルの角にぶつかった為にパックリと大きく裂けて、そこからダラダラと餡子が滴り落ちる。
それを見たまりさが、ギュッと目を閉じて歯を食いしばった。
「んぎっ!・・・い゛ぃぃっ!・・・ゆっぐりっ・・・!ゆっぐりぃぃぃ・・・っ!」
そんなまりさを他所に、少女はポケットの中からデジタルカメラを取り出してSDXCカードを外すと、
大音量でニュースを垂れ流しているテレビのスロットに挿入する。
「まりさ、一緒にテレビをみようね」
そう言うと、ソファーに座って掴み上げたまりさを膝の上に置いた。
まりさは全身を硬直させて歯を食いしばり、ギリギリと音を鳴らして微動だにしない。
少女はリモコンを手に取ると、先程挿入したカードに記録されている動画を再生する為の操作を行う。
「ゆ゛っ・・・!ゆ゛っ・・・!ゆ゛っ!ゆ゛っ!ゆ゛っ!」
突然、早いテンポで痙攣を始めたまりさを見下ろして少女は憎々しげに舌打ちする。
少女は体をのけぞらせて、ソファーの裏側にある小さな冷蔵庫を開けると、ペットポトルを取り出して蓋をあける。
そして中に入っているオレンジジュースを自分の服が濡れるのも気にせずに無造作にまりさの頭の上から浴びせた。
早々に生きることを諦めてゆっくりできる方へ逃避を始めたまりさを強引に現実へと引き戻す。
「ゆ゛っ!ゆ゛っ!ゆ゛っ!・・・・・・ゆっ?・・・ゆゆっ!ゆっくりし・・・」
「うるさい」
すぐに意識を回復させたまりさが、ゆっくり特有の挨拶をしようと伸び上がった瞬間、
少女はまりさの下膨れに爪を突き立てると、真上に向かって思いっきりひっかいた。
「ていっ・・・だぁぁぁい!!」
一時、記憶が飛んでこの場に似つかわしくない呑気な声をあげたまりさだったが、
少女の手によってすぐに現在の過酷な現状へと引き戻されてクワッ!と歯茎を醜く剥き出す。
そんな中、暫く青い画面を表示していたモニタだったが、一瞬ノイズが走ると画面には鬱蒼と木の生い茂る森が映し出された。
「ゆ゛っ・・・ゆぐっ・・・!」
まりさはこの光景に見覚えがあった。そこはまりさが元々住んでいた巣からすぐ側の場所だったからである。
その時、ぐるりと景色が回転してカメラを持っている少女の顔が大写しになった。
「ここがまりさのお友達が住んでいる新しいゆっくりプレイスの今の様子だよ」
画面の中の少女がまりさに向かって声をかけてくる。
まりさは画面に映る少女と、自分を膝の上に乗せている少女とを交互に見て「ゆっ?ゆっ?」と驚いた様な声を小刻みにあげている。
画面が再び激しく揺れて、少女の姿が見えなくなるとその代わりに森のゆっくり達の姿が映し出された。
「ゆ゛っ!?な゛に゛ごれ゛!?な゛に゛ごでぇぇぇ!?」
まりさが森のゆっくり達の姿を見て大声を張り上げた。
◆
少女は木の枝にデジタルカメラをぶら下げながら、小さな液晶モニタを覗き込んで、
きちんとこの光景が撮影できているのかを確認すると、ありすの元へと向かってゆっくりと足を進める。
少女の足元にはぐったりと力無く地面に横たわり、苦悶の表情を浮かべるありすの姿があった。
ありすだけでは無い。群れのゆっくり達全員が、ありすと同じ様に苦しそうに呻き声を漏らしながら地面に這いつくばっていた。
「ゆ゛っ!?ゆ゛っ!?うごげないよっ!ゆっぐりうごげないよっ!」
「ゆんぎっ!これ・・・毒はいっちぇるよぉぉぉ!!」
「どぼじで!どぼじで!だれかゆっくり「せつめい」してねっ!」
「わからないよーっ!わからないよーっ!」
再び森のゆっくりの群れに姿を現した少女は、まりさからの「贈り物」と称して群れのゆっくり達にお菓子を振舞った。
お菓子と言っても、ここへ来る途中にスーパーで買った安物の甘味料を水に解いただけのものであったが、
普段は草や虫などを主食にしている野生のゆっくり達にとってその甘味料は、今まで口にしたどんな食べ物よりも美味しく感じただろう。
群れのゆっくり達は、奪い合う様にしてその甘味料を貪った。その結果が今のこの状況であった。
甘味料の中には、大量の「下痢止め」が入っていた。
ゆっくりに対して市販されている人間用の下痢止めを投与すると、体内の餡子が硬化してしまうという作用がある。
少量ならば動く事が困難になり、多量に与えれば、固くなった餡子が内側の皮を傷つけて全身から汗を垂れ流して苦痛を訴える。
どういった仕組みで、下痢止めが餡子に作用するのかは少女にはわからなかった。
兄の残したゆっくりの虐待方法を記したファイルの記述通りに実行したまでの事である。
「実は私は「恐ろしい人間さん」の妹なの」
「「「ゆ゛ゆ゛っ!?」」」
「お兄ちゃんは皆を長い時間をかけて苦しめてきたけど、私はすぐに殺してあげる事にしたよ」
「「「ゆ゛っ!!!」」」
ゆっくり達はそんな少女の言葉に身を震わせながらも、時折チラチラと明後日の方向へ視線を逸らす。
ゆっくり達の視線の先には、携帯ガスコンロの上でもうもうと煙をあげている壺があった。
その壺は、長い間ゆっくり達がありすを虐待し、その傷を癒す為に使われていたオレンジジュースが入っていた壺である。
その中身は、先程少女の手によって捨てられていて、今は中に新しいオレンジジュースが沸騰してぐつぐつと音を立てている。
少女は足元で舌を出しながら「ぜひぜひ」と苦しそうに荒い呼吸を繰り返して体中から汗を垂れ流している野生のまりさを掴み上げると、
その帽子を奪いとって、目の前の煮えたぎる壺の中へと放り込んだ。
「ゆゆっ!まりさのすてきなお帽子さんがっ!」
壺の中へと落ちたまりさの帽子は一瞬にして、ぐにゃぐにゃにふやけると、溶け込む様に壺の底へと沈んでいった。
それを目の当たりにした野生のまりさが、大口をあけて涙を垂れ流しながら叫んだ。
「なにじでるのっ!がえじでっ!ばでぃざのお帽子さんをゆっぐりがえずんだぜぇぇ!」
「うるさいよ」
少女は腕の中で喚き散らしている野生のまりさを、熱せられた壺の側面へと押し付ける。
「ジュッ!」という小気味の良い音が辺りに鳴り響いて、まりさの頬から甘い香りのする煙が立ち上った。
「ん゛っ!!の゛ぜえ゛ぇぇぇぇ!?」
身動きができないまりさは、少女の行為に抵抗する事ができずに、
徐々に黒く焼け爛れて行く自らの姿を見て声にならない声をあげる。
「やべでっ!あづいっ!ゆっぐりあづいっ!やべでっ!やべでっ!」
「黙ったらやめてあげるよ」
「い゛っ!?い゛っ!?い゛っ!?」
全身を駆け巡る耐え難い激痛に、まりさは反射的にその体を跳ね上げようとするが、それは叶わない。
硬化した餡子のせいで、その動きは僅かにビクリと痙攣するだけであった。
まりさが叫び声をあげている内は、この責め苦が終わる事はない。
まりさは声を押し殺そうと必死に全身に力を入れるが、やはりどんなに我慢しても声が漏れてしまう。
まりさは歯を食いしばって、自分の口から無意識に漏れる声を無理やり押さえ込む。
そうしている間にもまりさの体はどんどん焦げ付いて、嫌な臭いを辺りに充満させた。
暫くして、ようやく焼けた壺の側面から開放されたまりさ。
おさげを少女によって掴まれて、ゆらゆらと宙でその身を揺らしている。
「あ゛じゅい゛っ・・・あ゛じゅいよ゛ぉぉぉ・・・ゆ゛っぐでぃざぜでぇぇぇ・・・」
先程までの威勢の良かった「だぜ」言葉はすっかり鳴りを潜めて、弱々しい没個性なゆっくりへと成り下がっていた。
まりさは、顔をぐしゃぐしゃに歪ませながら、ぽろぽろと大粒の涙を零している。
そんなまりさの下腹部が僅かに盛り上がると、そこから申し訳なさそうにしーしーが地面へとこぼれ落ちた。
「みっ・・・見ないでね・・・ばでぃざのしーしーみないでね・・・」
群れのゆっくり達に向かって、自分の醜態を見ないで欲しいと訴えるまりさ。
足に振りかかるその液体を見て眉間にシワをよせた少女が、まりさを煮えたぎったジュースの中にゴミを捨てる様に放り込んだ。
「ゆ゛い゛ぎっ!!」
体の半分程が液体に浸かったその瞬間、まりさの髪の毛が「ブワッ」と逆立つ。
その熱に歯茎を剥き出して、苦悶の表情を浮かべたまりさの顔がボコボコと泡立つ様に醜く変形した。
その激痛を言葉で表現する事はできずに、ズルリと無言で液体の中へと飲み込まれていった。
群れのゆっくり達は、その地獄の様な光景を声も出さずに固まったように見ている。
「まりさとありすには、全員こうなってもらうよ」
「「「「「い゛や゛だあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」」」」」
まりさの無残な最期を目の当たりにしたゆっくり達は、一斉に鳴き声とも怒鳴り声ともつかない声を張り上げた。
母を殺したまりさとその番だったありすと同じ顔をしているゆっくりには、無条件に死んでもらう。それが少女の考えだった。
少女は何とかしてこの場を離れようと、必死に「びたんびたん」と丘に打ち上げられた魚の様に、
その場で飛び跳ねるまりさ種とありす種を掴み上げると、それを次々に煮えたぎる壺の中へと放り込んで行く。
「いやだ!いやだ!やべで!ばでぃざをゆっぐりざぜでよおおお!」
「どぼじで!?どぼじで!?」
「ごんなのっ!どがいばじゃないばぁぁぁ!!」
「おでえざん!ゆっぐりじで!!ゆっぐりじでいっでっ!やべでっ!」
「ゆっぐりできない!ゆっぐりざぜで!!」
ゆっくりを飲み込む液体は、オレンジ色から徐々に黒く濁った小豆色へと変わっていく。
「やべでぇぇぇ!やべであげでぇぇぇ!まりさとありす達は痛がってるよぉぉぉ!」
残されたれいむ種、ぱちゅりー種、ちぇん種達がどうする事も出来ずに、悲痛な声をあげる。
そんな「お目こぼし」されたゆっくり達を見回して少女が僅かに笑みを浮かべた。
「それとれいむ、れいむは昨日お母さんが死んだことを「大したことじゃない」って言ったよね」
「「「ゆ゛っ!?」」」
群れのれいむ種達が一斉に歯茎を向いた。
「悪いけど、見分けがつかないから全員死んでもらうよ」
「「「ゆ゛げぇ!!う゛ぞでしょぉぉぉ!?」」」
「嘘じゃないよ」
理不尽なその提案にれいむ達が声を張り上げる。
しかし、”見分けがつかない”と言ったのは嘘であった。
少女の提案を聞いた途端、他のれいむ達よりも更に大量の汗を噴出させているれいむが2匹。
互いに顔を見合わせて、何やら言葉にならない奇声を発している。
恐らくこいつらが、一昨日森で出会った二匹のれいむ達で間違い無いだろう。
少女はそのれいむ達の傍に近寄ると、泣き叫ぶれいむ達を見渡してわざとらしく、こう話を切り出した。
「名乗り出てくれれば、他のれいむ達は助けてあげられるんだけど」
「「「・・・・!?・・・・!?」」」
それを聞いたれいむ達は怒声を鳴り響かせた。
さっさと名乗りでろ。死にたくない。お前だけ死ねばいいのに。早くしてね。早くしろ。
半ば錯乱状態のれいむ達、とても名乗りを挙げられる様な状況では無かった。
例え名乗りを挙げたとしても、そこで浴びせられるのは賞賛では無く、この上無い罵倒の嵐であろう。
人間ならば、そんな汚名を被ってでも名乗り出る者も居るに違いない。
しかし、「ゆっくり」する事を信条として、それが生きる目的であると言っても差し支えないゆっくりにとって、それは到底不可能だった。
決して自己犠牲の精神が無いという訳では無い。
捕食者から群れを守る為に自らの身を囮にするゆっくりは存在する。
それは、その行動によって自らが死んだ後も「ゆっくりしている」と賞賛されるからである。
自らの身を犠牲にしてでも「ゆっくり」という荒唐無稽な物を渇望するゆっくりは、それを実行する事もあるだろう。
しかし、「ゆっくりできない」事にわざわざ頭をつっこむゆっくりなど存在しない。皆無であると言っていい。
少女の足元に転がる二匹のれいむも顔を引きつらせて、歯をガチガチと震わせながら、ただただ沈黙を守り続けるだけだった。
そんな二匹のれいむを睨みつけながら、少女が声を上げる。
「残念だけど、名乗り出る気は無いみたいだね」
少女の最終通告を聞いて、足元のれいむ達がびくりと大きく震える。
れいむ達と少女の目が合う。れいむは声を出そうと体に力を入れるが、そこから漏れるのは荒い吐息だけであった。
そんなれいむに少女は冷ややかな視線を投げかけると、他のれいむ達を次々と壺の中に放り込んでいった。
「なにじでる!れいむは選ばれたゆっぐでぃ・・・あづい!」
「じね!れいむをゆっぐりざぜない人間はゆっぐりじでぇぇえ!」
「れいむ!ばやぐじろ!ばやぐ!はやぐででごいいいい!」
「ぶざけるな!ゆっぐりじね!れいむはゆっぐりじね!」
そして、壺の中のゆっくり。
彼女らは暫く熱湯の中で苦痛を味わってから死んでいる訳では無い。
恐らく、中に入っているゆっくり全員が苦痛に身を踊らせながらもまだ「生きている」のだ。
あまり大きくない壺の中でその形状を維持できない程にグズグズに体を溶解させながらも”ゆっくり”と生きている。
いや、生かされていた。その理由は言うまでもなくオレンジジュースの効果によるものである。
沸騰したオレンジジュースの熱によって苦痛を味わいながら肉体を崩壊させつつも、
オレンジジュース特有のゆっくりへの回復機能によって、その肉体は簡単に死ぬことができないでいた。
それでも熱による肉体の破壊の方が回復するスピードより若干早い為に徐々にその肉体を維持できなって行く。
髪やお飾りは瞬時に欠損し、その皮も徐々に崩壊していって中身の餡子がむき出しになる。
やがて、生命を維持するのに必要な少量の餡子と中枢餡を残して溶けてなくなる。
親から受け継いだ生きるために必要な記憶も無くなり、最後に残るのは原始的な本能だけとなる。
すなわちこの場合は「熱い」「痛い」という感情を抱えた餡子が最後に残ることになった。
それが、無数に混ざり合ってひとつの意思を形成する。
拙い表現になるが、「痛くて熱いと訴え続ける餡子」が完成するわけである。
それに触れた「皮を失って餡子が剥きだしのゆっくり」は、従来の熱に加えて、
他のゆっくり達から蓄積された苦痛までもフィードバックして感じる事になる。
つまり、後になれば、なるほど苦しみも増す事となった。
意図的に少女によって壺の中に入れられるのが後回しにされたれいむが二匹。
おさげを掴まれて、もうもうと煙をあげる壺の上でゆらゆらと揺れている。
少女はまだ「熱くて痛い餡子」になる前の死にかけのゆっくり達に聞こえるように話す。
「実はこの二匹が犯人だよ」
「「「あづっ!あばばっ!おばっ!おばえがああああ!!」」」
ボコボコと泡立つ皮膚に剥き出しになった眼球が幾つも浮かんできて、二匹のれいむを睨みつける。
つい先程まで、一緒に助けあって生きてきたプレイスの仲間とは思えないその形相にれいむが悲鳴をあげた。
「「こっちみないでねぇぇぇ」」
れいむがもみあげをブンブンと振り回しながら、鳴き声をあげる。
少女が左手に握ったれいむを煮えたぎる液体の中に放り投げる。
「んぎぃ!!んぎぎっ!あばばばっばっ!!」
嘔吐を我慢する肥満児の様な表情を浮かべて、熱湯の中でのた打ち回るれいむ。
そんなれいむをもう「まりさ」なのか「ありす」なのか「れいむ」なのか分からない溶けかかった黒い塊達が
わらわらと寄ってきて、無言で液体の底へと引きずり込んでいった。
「れいむぅぅぅ!れいむぅぅぅぅ!ゆっくり戻ってきてねぇぇぇ!」
少女の右手に握られたれいむが「もるんもるん」と少女の腕の中で体を揺り動かなしながら絶叫する。
そんなれいむのもみあげを掴んだまま、半分ほど液体に浸けてやると
「ぴきぃ!」とゆっくりとは思えない甲高い奇声をあげた。
「「「やめてあげてねっ!やめえあげてねええっ!」」」
恐ろしい光景を見て身を震わせつつも、残されたゆっくり達はひたすら少女に助けを求め続けた。
そんなゆっくり達を横目で見ながら、少女は沸騰した液体に浸かっているれいむを引きずり出す。
「ゆ゛っ!ゆぐっ!ゆ゛ぐり゛り゛っ!」
れいむの半分は皮が泡立つ様にボコボコになり、所々中身を露出させていた。
もう半分が先程までと同じゆっくりの原型を留めた状態である為にその悲壮さが際立つ。
少女は気の狂いそうな激痛に襲われて、狂った様にもみあげを振り回しながら白目を剥くれいむに語りかける。
「どう思う?」
ぱちゅりーは助ける。
れいむはこれから、苦しんで恨まれてゆっくりできなくて惨めに死んで行くけど
助かったぱちゅりー達は、れいむと違って優秀なゆっくりした子だから、きっとこの群れを立て直して立派にゆっくりしていくだろうね。
むしろ、れいむみたいな”能無し”が居なくなって内心喜んでいるかも知れない。
そんな事を少女はれいむに淡々と告げる。
「れいむに選ばせてあげるよ、ぱちゅりーはどうしたらいいと思う?」
れいむは、グズグズになった自らの半身が、音を立てて壺の中へとこぼれ落ちて行く様子を呆然と眺めていたが、
見開いた目を四方八方にグルグルと動かしながら消え入りそうな声で呟いた。
「ばっ・・・!ばばばっ!ばちゅりーもっ!ゆっぐりこのつぼさんにいれてねっ!!」
「むぎゅううう!?」
れいむの言葉にぱちゅりーは目を見開いて絶叫した。
この日まで群れの為に全てを捧げてきたこのぱちゅりーが、馬鹿なれいむのせいで巻き添えを被ることになった。
効率の良い餌の探し方、夏の暑さのしのぎ方、快適な巣の作り方、越冬の知識。
全てこのぱちゅりーのお陰でこの群れは快適な暮らしを行えて来たというのに。
ありえない。断じてあってならないことだ。冗談じゃない。ふざけるな。
「むぎゅううう!!むぎゅうううう!けふっ!けっふっ!」
「ぱちゅりーにも選ばせてあげるよ」
「むぎっ!?」
怒り狂った拍子に、大きく咳き込んでクリームを撒き散らすぱちゅりーに側にいつの間にか少女は居た。
その手には、もうれいむは握られていなかった。
少女はにこりと涼し気な笑みを浮かべるとぱちゅりーを優しく掴み上げて語りかける。
「ちぇんは・・・どうしたらいいと思う?」
「むぎぃぃぃ!?」
ぱちゅりは歯をギリギリと鳴らしながら、暫く唸っていたが
やがて押し黙って頬をひきつらせながらも、こう呟いた。
「ちぇんも壺さんの中にいれてちょうだいね」
「「「わがらっ!!!」」」
◆
こうして”まりさ”の番だった”ありす”以外の群れのゆっくり達は全員その命を落とした。
火を止めても未だにもうもうと湯気を噴出し続ける壺の中からは、
時折「あつい」「しね」と呪詛の様なか細い呻き声が漏れるだけで、辺りは先程とは打って変わって静寂に包まれている。
「どぼじでごんっ・・・・!!」
「どうしてこんな事するの?」と絶叫しようとしたありすだったが、
その叫びは少女の足がありすの口の中に突き刺さった為に最後まで発せられる事は無かった。
少女の靴はありすの歯を砕きながら、喉の奥まで突き刺さり、すぐに引き抜かれた。
「わかりきったこと言わないで」
「いじゃいぃぃ!いじぁぁい!!」
砕け散った歯の欠片をボロボロとまき散らしながら、ありすが悲鳴をあげる。
しかし、それでも少女に対しての戦意を喪失させる事無く、目を血走らせて少女を睨みつけると狂ったように喚きだした。
「ばでぃざがっ!ばでぃざが勝手にやっだのよっ!」
「あでぃすはなにもっ!なにもしてないのにっ!」
「ぞれなのにっ!群れのゆっくりをだぐざんごろじでっ!」
「そっちは「ひとつ」だけどこっちは「たくさん」じんだのよおおおお!!」
「ごのいながものっ!いながものっ!」
ありす達にとってみれば、あまりにも理不尽な少女の行いに、ありすが怒りを露にする。
だが、再び少女のつま先がありすの画面に突き刺さると、ありすはくぐもった声を漏らしたきり静かになった。
そんな中、少女はありすの目の前に一匹の芋虫を投げ込んだ。
「ゆ゛っ!いもむしさん!むーしゃ!むーしゃ!」
こんな状況であるのにも関わらず、ありすは目の前の芋虫に舌を伸ばすとそれを一気に口へと運び込んだ。
どうやら、相当お腹が減っているらしい。
開放されたとはいえ、長年の仲間からの虐待によってその体は未だに自由に動かせないでいた。
いや、永遠に昔の様に自由自在に動き回れる事は無いだろう。オレンジジュースを使っても回復しなかったのならばそういう事なのだ。
そして自らの体と動揺に、仲間との確執も修復できなかった様だ。
自由に身動きができずに狩りを行うことができないありすが空腹に苛まれていると言うことは
仲間が誰もありすを助けてくれなかったという事だ。
少女が何もしなくても、ありすは時間をかけて寂しく死んでいく運命だったのだ。
そんなありすの目の前に再び芋虫が投げ込まれる。
今度は一匹ではなく、数匹。
「その芋虫は今食べた芋虫の子供だよ、ありすを許さないって言ってるよ」
「ゆっ?何を行っているのかわからないわっ!そんなの関係・・・ゆゆっ!?」
ハッ!と何かに気がついた表情を浮かべてありすがキョトンとした顔で少女を見上げる。
何を言っているのかわからない。
そう、それが答えだった。
少女、いや、人間にとってはゆっくりの存在は目の前に転がる芋虫の様なものなのである。
ありすにとっては芋虫など、取るに足りない存在に過ぎない。
芋虫が何匹死のうと、ありすには何の関係も無かった。
そんな芋虫に自分の親や仲間を殺されたとしたら・・・それは許されない事だ。
人間がゆっくりをどう思っているかを理解したありすはガクガクとその身を震わせる。
「ありすは賢いね」
少女はそれが逆に許せなかった。
そこまで考えがまわるのならば、まりさを止めることも、家から立ち退くこともできた筈であろう。
聞くまでも無い、一時のゆっくりの為にわかっていてまりさを放置したのだ。そしてその恩恵に浸った
少女は木の脇に立てかけておいた筒状の器具を手に取る。
それはポリタンクに入った灯油をヒーターのタンクに移す時に使う「自動給油ポンプ」だった。
しかし、その形状は通常のそれとは若干異なっていた。
本来ならば、ヒーターのタンクの給油口に装着されるべきその管に、斜めにカットされた金属の筒が装着されている。
その槍の様な形状をした金属が装着された管をありすの脳天へと突き刺す。
「ゆんぎっ!!」
ありすは自分の体内へと突き刺さった異物の冷たい感触と激痛にその身を震わせた。
そして金属の筒の反対側、本来ならば灯油の入ったポリタンクに入れられる側の棒状の装置をまだ湯気をあげる煮えたぎった壺の中へと放り込む。
「なにずるのっ・・・!まっでっ!!まっでええええ!?あやばりばず!あやばりまずがらああああ!!」
賢いありすにはこれから何がはじまるか、ゆっくりと理解できた様だった。
オレンジジュースで煮詰めた大量のゆっくり達は、その形状を粉々に崩壊させながらも死ぬ事は無く、
原始的な「感情」を持ったまま互いに混ざり合ってひとつの「意思」を形成している。
その夥しいまでの「苦痛」抱え込んだ生きた意思である餡子を、生きているゆっくりに注入するとどうなるか?
兄の残したファイルにはこう記されている。
見た目の外傷は全く無いが、全身が焼けただれる苦痛を何時までも味わう事になる。
煮詰められたゆっくり達の記憶を何度も追体験する事になり、死にたくても体は無傷である以上、死ぬことは無い。
かと言って、発狂する事もできない。ゆっくりの体の制御を司る「中枢餡」はこの「熱くて痛い餡子」を無害な栄養分と認識するからである。
「やべでええええやべでえええええええ」
少女はポンプのスイッチを入れた。低い駆動音と共に壺の中の液体がありすの体内に侵入していく。
その瞬間、全身が強張った様に硬直し、歯は砕けんばかりにギリギリと鳴り響き、目はまぶたが破れる程に見開かれた。
煮詰められたゆっくり達の全身を駆け巡る熱さと、その苦悶の声をフィードバックしているのだろう。
しかもそれは一匹分ではない、数十匹分の苦痛である。
経験した事の無いその痛みに、ありすは叫び声を上げることも無く、全身を携帯のバイブの様に痙攣させている。
ありすの体は見る見る膨れ上がっていき、その下膨れは醜いまでに丸々と肥えている。
「ん゛え゛れ゛っ!お゛ろ゛ろ゛ろ゛ろ゛ろ゛お゛っ!!」
ボコン!とありすの中で音がして、ありすの頬が大きく膨らむ。
それを見た少女がありすの口にガムテープを貼りつけて蓋をした。
「ひゃぶっ!!ひひゃぶっ!」
許容量の限界を超えたオレンジ色の液体が、ありすの口から流れ出ようと押し寄せるが、それは叶わない。
頬をはち切れんばかりに膨らませてグルリと白目を剥くありす。
少量の液体が水鉄砲の様にありすの下まぶたの涙腺がら放出されるだけだった。
少女はそんなありすに黒いゴミ袋を被せた。
ゴミ袋は苦しそうにぶるんぶるんとその身を踊らせる。
そんなゴミ袋を少女が蹴り飛ばすと、中から小さくうめき声が聞こえてゴミ袋は動くことを諦めた。
最終更新:2010年04月10日 20:08