ふたば系ゆっくりいじめ 1145 のるま 02

 ぱちゅりーの予感は、不幸なまでに的中することになる。
「ゆっゆっ、新しい群れの仲間だよ」
 若まりさが、何匹かのゆっくりを連れて来た。
「「「ゆっくりしていってね!」」」
 それでも、まだ若まりさには一抹の不安を感じているだけで、基本的には期待している
群れのゆっくりたちは、若まりさが認めたのなら大丈夫だろうとゆっくりした歓迎の挨拶
をする。
「ゆゆーん、ゆっくりさせてもらうよ!」
「ゆっへっへ、とってもゆっくりできそうだぜ」
「んっほほほ、ありすのあいでゆっくりさせてあげるわね。とってもとかいはね」
 しかし、若まりさが連れてきたれいむとまりさとありすは、なんだか無闇にゆっくりで
きなさそうな――はっきり言ってしまえばゲスなオーラを漂わせていた。
「「「ゆゆぅぅぅ……」」」
 群れのゆっくりたちは、思い切り顔をしかめる。
「ほら、こっちなんだぜ」
 若まりさは、そんな群れの様子に気付いていないのか気付いても知らん振りしているの
か、新参者たちを案内している。
「……むきゅぅ……」
 ぱちゅりーは、呻いた。
「ゆぅ……あのれいむたちは……」
 ちぇんが言った。このちぇんは、前りーだーのまりさの側近的な地位にいた。ぱちゅり
ーが助言等を行う知恵の面での補佐役とすれば、ちぇんはその俊敏な動きと身体能力でり
ーだーまりさの手足となって働く実務面での補佐役であった。
 群れのゆっくりたちは、ぱちゅりーとちぇんにゆっくりしていない視線を向ける。あの
どう見てもゲスっぽい「新しい仲間」とやらを迎え入れようとする新りーだーに、先代の
側近だったぱちゅりーたちが何か意見してくれないものかと期待する目だ。
「……むきゅぅ……」
「わ、わからないよー」
 しかし、この二匹とて、他のゆっくりより優れているとはいっても極度に人間を恐れて
いることは変わらなかった。あの恐ろしい人間さんを後ろ盾にしている若まりさの機嫌を
損ねる可能性があるようなことを実行する勇気は持ち合わせていなかった。
 わからないと呟き続けるちぇんとは違い、ぱちゅりーはさすがに頭がいいだけあって、
自分たちの間違いを悟っていた。人間との交渉をまりさと若まりさに任せきりだったため
にまりさがいなくなってしまえば、それは若まりさの独占するところとなる。そんなこと
は少し考えればわかることだったのだ。
 怖いことから逃げて、それをりーだーまりさに全て押し付けていた。そして、それを自
ら受け継ごうとする若まりさが現れるとこれ幸いと全てを若まりさに押し付けようとした。
 しかし、それは人間の力を背景にした絶対的な権力を産むことになった。それまでそん
なことにならなかったのは、ひとえに前のりーだーまりさがゆっくりとしては相当珍しい
ほどに自己犠牲を厭わず他者をゆっくりさせようとする個体だったからに過ぎない。
「わからないよー、ぱちゅりー、どうしたらいい?」
 ちぇんは、まりさの指示通りに動くのを専らにしていたので、この時も指示が欲しかっ
た。まりさに助言していたぱちゅりーならば、なにかいい指示を与えてくれるのではない
かと期待した。
「……むきゅ……あの人間さんに言ってみるしか……でも……」
「に、にんげんさんは、こわいよー、嫌ってほどわかってるよー」
 案の定ちぇんも、他のゆっくりも怖気をふるった。
 それに、そのことを訴えたとして、あの人間が若まりさを排斥するとも限らなかった。
彼は、ノルマを達成していればいいのだ。むしろ、手段は選ばずゲスではないものでも差
し出す若まりさのことを有用であると見なす可能性もあるのだ。

「れいむはしんぐるまざーなんだよ、かわいそうなんだよ、だからごはんをちょうだいね」
「ゆん」
 新たに群れに入ったれいむは、しんぐるまざーだからと言って食料を要求し、若まりさ
はそれを受け入れた。
「前のりーだーもそうしてたんだぜ」
 と、言われれば、確かに前のまりさもしんぐるまざーなどには手厚く保護を与えていた。
しかし、それを当然と思うような傲慢なものには厳しかったし、そもそもそんな奴は群れ
には入れなかった。
 れいむは、確かに一匹の子れいむをつれていたが、ろくに面倒を見ておらず、最低限の
食べ物だけ与えて後はほったらかして、時々憂さ晴らしに暴力を振るっていた。そのれい
むに「かわいそうなしんぐるまざー」であるからと群れの備蓄食料を渡すのに皆納得して
はいなかった。
 しかし、誰も何も言わない。
 言うまでもない、若まりさの後ろには、あの怖い人間さんがついているのだ。何も言え
るはずがない。
 そして、そのような群れのものの態度を見て、若まりさも新りーだーの側近となった三
匹の新入りも、遠慮をする必要は無しと判断した。
「ゆっへっへえ、りーだーりーだー」
「ゆん、どうしたのぜ、まりさ」
 ある時、若まりさの元を新入りまりさが訪ねた。
「たいへんなんだぜ、群れにとんでもない隠れゲスがいたんだぜ」
「ゆゆっ! それは一大事なのぜ」
 と、言って、若まりさはにやっと笑った。
「れ、れいむが何をしたっていうのぉぉぉぉ!」
 一匹のれいむが、おうちから引きずり出された。その髪の毛とリボンをくわえて引っ張
っているのは、新入りのれいむとまりさだ。
「まってね! まってね! まりさのれいむをどうするの!?」
 泣きながらそれに追いすがるまりさは、このれいむと番になることを決めて、つい先日
新居を構えてそこに同棲し始めたばかりであった。
 今日明日にでもすっきりして子供を作ろうとしていたこの若夫婦を襲ったのは、れいむ
に対するゲス疑惑であった。
 根拠は新入りまりさの密告だ。なんでもれいむは隠れて群れ外の野良ゆっくりを襲撃し
てその子供を食べていたという。
「そ、そんなごとずるわげないでじょおおおおおお!」
 今まで清くゆっくり生きてきたつもりのれいむは絶叫した。いくらなんでも着せる濡れ
衣を少しは選べという感じであったろう。よりにもよってなんという言いがかりをつける
のか。
 番のまりさも否定したし、他の群れのものも否定した。れいむがそんなことをするわけ
はない、と。
「ゆぅ、でも、しょーげんがあるんだぜ」
 しかし、新入りまりさはふてぶてしい顔で言った。
「ゆん」
 促されて新入りありすに伴われてやってきたのは、一匹の子れいむだった。ゆわゆわと
震えている。
「ゆぅ、ゆっくりしょーげんするのぜ」
 若まりさが言うと、びくりとした子れいむは口を弱々しく開閉させていたがやがて下を
向いたまま言った。
「しょ、しょのれいみゅが、れいみゅのおきゃあしゃんをころちて、いぼうとをたべまち
た」
「な、なにいっでるのぉぉぉぉ!」
 そんな子れいむは見たこともないれいむは当然声を限りに叫ぶ。
「れいむはそんなことしないよ! 見間違いに決まってるよ!」
 番のまりさも、自分が選んだ伴侶がそのような超ゲス行為をしたなどとは信じられずに
叫ぶ。
「ゆっくりしずかにするのぜ! はんけつはまりさがするのぜ!」
 若まりさに言われて、その場が静まる。既に、その一挙手一投足にびくびくする空気が
この群れにはあった。
「ゆっくりまりさがしろくろつけるのぜ……ゆぅぅぅぅ……れいむはくろだよ! れいむ
はゲスなのぜえ!」
「ど、どぼじでぞんなごというのぉぉぉ!」
「り、りーだー! なんかの間違いだよ! れいむはそんなごとじないよぉぉぉ!」
 さすがに、れいむとまりさの番は若まりさへの恐怖を振り払って食ってかかる。
「ちょーどのるまが足りないところだったし、れいむはゲス小屋へ叩き込むのぜ!」
 男がくれたゲスを閉じ込めておく檻を、この群れでは「ゲス小屋」と呼んでいた。新入
りまりさとれいむが無罪を主張するれいむの髪の毛とリボンをくわえて無理矢理に引きず
っていく。
「れ、れいむぅぅぅ!」
「んほお、まりさ、だめよぉ、これ以上あんなゲスを庇ったらまりさもゲス小屋行きよぉ
ぉぉ」
 新入りありすが、追いすがろうとするまりさを止める。一見、まりさにまで咎が及ばぬ
ようにと気遣っているようにも見えるが、ありすの口の端から垂れる涎と、この状況で恥
かしげもなくそそり立つぺにぺにがその醜悪な本心を露呈していた。
「……ゆぅ……あのまりさ……ありすに」
「ゆぅ、きっとありすが……」
「ゆっ! やめなよ、そんなこと言ったらゲス小屋行きだよ!」
 ゆっくりたちがひーそひーそと話している。
 あのありすが、まりさに言い寄っていたことは周知のことであった。しかし、既にれい
むと番になることに決めていたまりさにすげなく断られていたのだ。
 とかいはなありすのみりょくがわからないなんていなかものね! などと悪態をついて
その場は引き下がったありすだったが、このようなことになるとは誰も思っていなかった。
 れいむが冤罪であり、それらをありすが仕組んだのだということを疑うものはいなかっ
た。
 あからさまな暴挙であり、初めての群れの犠牲者である。
 群れのゆっくりたちが、若まりさの圧政に反抗するならばこの時であったろう。誰かが
立てば、我も我もと後に続き、大反抗の形勢となったはずである。群れのものへの危害は
一線だ。それを超えてしまったのだから、みんな爆発寸前であった。
 皆、ちらちらとぱちゅりーとちぇんを見た。
 そして、ちぇんはぱちゅりーを見た。
「むきゅぅ……」
 しかし、ぱちゅりーは下手に頭がよかったために、そんなことをすればあの人間さんを
敵に回すと思い動けなかったし、むしろ激昂しようとする他のものを止める有様であった。
「ゆふん」
 若まりさは勝ち誇った顔であった。
 これは若まりさにとっても賭けであった。これが一線を超える行為であることは承知し
ていた。逆に言えば、それでもなお反抗しないということは……もはや何をしてもこいつ
らは反抗しない。自分の権力が完全に確立されたということだ。
 それを見極めるための賭けに、若まりさは勝った。
 もう、これで自分は絶対権力を手に入れた。
 後は、その権力の源泉である人間との関係を維持するためにノルマを果たしていればよ
い。問題は無い。ゆっくりなどゲスか善良かを問わねばその辺にいくらでもいるのだ。

「おーす」
「ゆん、ちゃんとのるまはたっせーしてるのぜ」
「おう」
 期限の日、いつものように男がやってきた。
「たずげでえええ、まりざなんにもじでないよぉぉぉ!」
「れいむ、ゲスじゃないよぉぉぉ」
「ゆひぃぃぃぃ、ゆるじで、ゆるじでええええ」
「こいつら……ゲスか?」
 何匹かは確かに見るからにゲスなのだが、また数匹ほどに違和感を覚えて男は言う。
「ゆっへっへ、さいきんそうやって演技をするゲスがふえてるのぜ」
「ふーん」
「ゆっへっへ、のるまはちゃんとたっせーしてるのぜ」
 男の表情は淡々としており、動いていない。しかし、若まりさは人間のことをそれほど
深く知っているわけではない。表情の変化が激しいゆっくりに比べ、人間は極めて容易に
おのれの本心が表情に出るのを隠すことができるのだということを知らなかった。
「まあいい、ちょっと話そうか」
 男は、いつも前りーだーまりさと話していたベンチに座った。
「どうだ。ノルマはゆっくりできないだろう」
「ゆへへっ、そんなことないのぜ。ちょろいもんなのぜ」
「ん、そうか」
「ゆん! まりさにかかれば簡単なのぜ、任せて欲しいのぜ」
 若まりさはここぞとばかりに自分が優秀なりーだーであることをアピールした。男は少
し拍子抜けした表情でベンチから立った。
「じゃ、まあ次もがんばれよ」
「ゆへへっ、わかってるのぜ」
 余裕綽々と言った感じの若まりさの笑みに、男はすぐに背を向けて足早に歩き出す。
 あそこのベンチでノルマについて愚痴を言い合う奴がいなくなってしまったのを男は残
念に思い、そしてのるまなんてちょろいもんだという若まりさに苛立ちを感じていた。
 そして、疑惑は強くなっていた。
 優れていたりーだーであったまりさでもノルマ達成に苦労していたのに、自分の後ろ盾
が得られたとはいえ若まりさがこんなにすぐに余裕でこなせるようになるとは思えない。

「ぱ、ぱ、ぱ、ぱちゅりー」
「むきゅ」
 ぱちゅりーのおうちに、ちぇんが駆け込んできた。
「ちぇん、あんまり来ないでって言ったでしょ」
 前りーだーの側近だった二匹のことを、若まりさが機会あれば排除してしまおうとして
いるのではないかと思ったぱちゅりーは、ちぇんにあまりうちに来るなと言ってあったの
だ。
「で、で、で、でも、わが、わがらないよー、どぼじで」
「いったいなんなの」
 既に述べた通り、このちぇんは考えることはりーだーまりさとその死後はぱちゅりーに
投げているところがあるので、自分の頭で処理できないことを持ち込んできたのであろう。
「ゲ、ゲス小屋のゲスをりーだーが逃がしてるんだよー、わからないよー」
「むきゅっ! な、なにそれ」
 ぱちゅりーはちぇんに連れられてゲス小屋の方へと行ってみた。
「ゆゆっ、そのまりさはゲスだよ! れいむたち見たんだよ!」
 そこでは、一匹のれいむがおそらくなけなしの勇気を振り絞ったのであろう、震えなが
ら若まりさに詰め寄っていた。
 その若まりさの後ろに、一匹のまりさがいて、ゆへらっと笑っている。その隣にはあり
すがいた。
 ありすは初めて見るが、まりさの方は昨日あのれいむが長を勤めるゲス狩りチームが捕
まえてきてゲス小屋に放り込んでおいた奴だ。
 ちぇんの言う小屋から逃がされているというゲスはあのまりさのことだろう。
「むきゅぅ、どうしたの?」
「あ、ぱちゅりー、きいてよ! りーだーが、れいむたちが捕まえてきたゲスを逃がすっ
て言うんだよ!」
「むきゅ、りーだー……」
「ゆふん、このまりさは反省しているし、奥さんのありすがしっかり見張るって言うから、
更生させるのぜ」
 どうやら、あのありすはまりさの番らしい。なんでも、番がゲス狩りにとっ捕まったの
を聞いたありすがやってきて、釈放を願ったらしい。
 そして、まりさは反省し、ありすも二度とゲスなことはさせないと誓っているので、釈
放してやるのだと。
「ゆっくりはんせいしたんだぜ」
「もうゲスなことはさせないわ。とかいはの名にかけて」
 と、まりさとありすは言うのだが、はっきり言ってゲス特有のニヤニヤ笑いを浮かべて
おり、さっぱり信用できそうにない。
「ゆゆっ、信じられないよ!」
 と、まりさを捕まえたれいむは言ったのだが、
「りーだーが決めたことなのぜ」
 と、若まりさに言われると黙り込んでしまった。
 他のものも、誰も文句を言うものはいない。
 それに満足そうな顔をすると、若まりさは、もう捕まるようなことするんじゃないのぜ、
とまりさとありすに言って、逃がしてやった。
「ゆっく、ゆぐぅぅぅ」
 れいむは、自分たちが捕まえたゲスを逃がされてしまって悔しそうだ。
「おかしいよ! こんなのおかしいよ! 前のりーだーの時はこんなことはなかったよ!」
「……」
 若まりさは、そんなれいむを一瞥して去っていった。

「わがっ、わがらぁぁぁ!」
「おちつきなさい」
 またちぇんがぱちゅりーのおうちにやってきた。
 どうせまたろくでもないことが起きたのだろう。
「れ、れ、れいぶが、れいぶがぁ」
 ちぇんの話によると、れいむ――あの捕まえたゲスまりさを逃がされてしまい、おかし
いと叫んでいたれいむ――が、今朝死体で発見されたという。
「まさか……」
 怖くて、誰がそれをやったか、或いはやらせたかは想像はできても口には出せなかった。
「き、き、きっと、りーだーがやらせたんだよ、わ、わ、わがるよー」
「もっと声小さくしなさい!」
 はっきりと口に出してしまうちぇんを、いつにない大声を出してぱちゅりーが制止する。
「ち、ちぇんは、おかしいと思って探らせたんだよー、だから、わかってるんだよー」
「……な、何がよ」
 あまり頭がよいとは言えぬちぇんが、独自に行動を起こしていたことに恐怖を感じつつ、
ぱちゅりーは尋ねた。
「り、りーだーは、あのありすにあまあまを貰って、ゲスのまりさを逃がしてやったんだ
よー、わ、わいろって言うんだよねこれ、わか、わかってるよー」
「むきゅぅぅぅ……」
 明らかに、若まりさのやることに遠慮が無くなっているのをぱちゅりーは確信していた。
もう、若まりさはゆっくりなど一切恐れていない。なにしろ人間の後ろ盾があるのだ。
「ち、ちぇんは、あ、あのおにいざんに言ってみようと思うよぉ、じ、じきそって言うん
だよねこれ、わが、わがっでるよぉぉぉ」
「むきゅ……」
 ぱちゅりーは思わず止めようとして、口ごもった。もうこうなったら本当にそうするし
か方法はないのではないか、一見お兄さんは若まりさの味方だが、さすがに若まりさがこ
こまで酷いことをしていることは知らないだろう。それを訴えた上で、もうこんな酷いり
ーだーには従うことはできないと群れのみんなが宣言すれば、お兄さんは若まりさをりー
だーの座から引き摺り下ろすかもしれない。
 しかし、これまで若まりさはのるまを達成し続けている。いいから言われた通りにこい
つの言うこと聞いて働けクソ饅頭どもが、と言われる可能性もある。
 それらのことを考えると、どうしてもぱちゅりーにはそれをする勇気が持てない。しか
し、ちぇんがそれをやるというのならやらせればいい。
「むきゅ、わかったわ」
「ち、ちぇんは、あたまがあんまりよくないから、どう話せばいいのかわからないよー、
ぱちゅりーに教えてほしいよー」
「むきゅ」
 ぱちゅりーは、ちぇんに、どういう順序で話をすればいいのか等を言って聞かせた。
「わ、わが、わがったよぉぉぉぉ!」
 ちぇんは言った。本当にわかっているかは非常に疑わしかったが。
「ぱ、ぱ、ぱちゅりぃぃぃぃ!」
 群れのれいむがやってきた。
「むきゅ! お、おどかさないで」
「おどろいたよー」
 なにしろ若まりさに知られたらタダでは済まぬ密談中だったので、二匹とも驚愕した。
「に、に、に、にんげん、さんが、来てる」
「むきゅ!」
「に、に、に、にんげん、さんが、来てるのー?」
「り、り、りーだーはいない、っていったら、ぱちゅりーと話したい、って」
「む、むきゃあ!」
「ちぇ、ちぇ、ちぇええええんが話すよぉぉぉ! わがってねええええ!」
「ゆ、ゆっぐりりがいじたよぉぉぉ!」
「む、むきゅぅぅぅぅ」

「ここまで怖がってたのか」
 男は、先ほどのれいむのことを思い出しつつ、呟いた。
 前りーだーまりさから、群れのみんなは人間さんをとても怖がっているとは聞いていた
のだが、まさか声をかけた瞬間に涙としーしー垂れ流して痙攣するほどだとは思わなかっ
た。
「り、り、り、りーだはいまぜん、ほ、ほんどでずぅ。に、に、にんげんざんと話すのは
りーだーだから、れいむは駄目でずぅ。だから話しかけないでぐだざい。そうじないど、
れいぶは死にまずぅぅぅ」
「あー、いや、あのな」
 と言いながら、男は若まりさがいないのは好都合であると思った。というか、そもそも
いつもならば「おい、りーだーいるかー」とまずりーだーを呼び出すのだ。
 それを、れいむに声をかけたのは、前りーだーの側近だったぱちゅりーと話したいので
呼び出してもらおうと思ってのことだ。それが、このような状態ではどうにもならない。
 とにかくぱちゅりー呼んでこい、と言うと、れいむは飛ぶように跳ねていった。とにか
く、それで男から離れられるからであろう。
「おう」
「む、むっぎゅうぅぅぅ」
 側近のぱちゅりーはかなり頭がいいと前りーだーに聞いていたので、それだけ頭がいい
ならそう無闇に人間を恐れまいと思っていたのが大間違いであった。
「え、えれえれえれ」
「あ、こら、吐くな、死ぬぞ」
「むきゅ、し、し、しつれいしたわ」
 本当に失礼だないきなり吐きやがって、とは思ったものの、それを言ったらまた吐きそ
うなので男は黙っていた。
「実はな、今のりーだーのまりさ、前のあいつと比べてどうなんよ。ちゃんとやってんの
か? とかその辺のとこを聞きに来たわけよ」
「む、むきゅっ!」
 ぱちゅりーは、ちぇんを見た。まさしく、こちらの目的にぴったり当てはまることだ。
「ち、ちぇぇぇんが話ずよぉぉぉ!」
「ん、ああ、お前もそういや側近だっけか」
 あんまり賢くはないが行動力があってよく働くちぇんのことも、前りーだーから男は聞
いていた。
「わっ、わが、わがっでね、わが、わが、わがぁぁぁぁ!」
「……いや、あのな」
「ぱ、ぱ、ぱちゅりーが話ずよぉぉぉ、わがっでねええええ!」
「むっぎゅぅぅぅぅ!」
「飴やるから落ち着こうな、ほら、甘いぞー」
 情報を聞き出すための餌として持ってきた飴を男は与えた。まさか話す前の段階で使う
ことになるとは思っていなかったが。
「「ぺーろぺーろ、しあわせぇぇぇ!」」
「それはよかったね」
 甘いもん食ってようやく少し落ち着いたぱちゅりーは諸々のことを話し始めた。先ほど
ちぇんに言わせるつもりで色々と整理していたためにスムーズに行った。
「ふむふむ」
 男は頷きながら、どうやら頭がいいというのは嘘ではないらしいと思った。
「ふーむ」
 一通りの話を聞き終わり、男は腕組みして唸った。
 ぱちゅりーとちぇんと、そして遠くから見ているれいむはそれを注視している。男の言
葉一つでこの地獄が終わるか、続くか、決まる。
「ゲスゆっくりを捕まえろ、とは言ってるが、ノルマのためならゲスでないのが多少混じ
るのは構わん。俺もやってたことだしな。でも、ものには限度がある」
 男が怒っているようなので、ぱちゅりーたちは、それが自分に向いているものではない
のがわかっていてもそれを恐れて震えていた。
「……ふむ」
 それを見て、男は笑った。人間をここまで恐れているのならば、人間に嘘をつくなど恐
ろしくてできないだろう。
「聞いてると、どうも、あいつ、最初からそのつもりで来たっぽいな」
「むきゅ? それは」
「あそこの群れのりーだーは人間に言われてゲス狩りをしているってのを聞いて、それな
らその人間の力を利用すればゆっくりできる、とでも思ったんじゃないのか」
「むきゅ、そんな……」
「わからないよー」
 人間を極度に恐れるこの群れのゆっくりには、そもそも人間の力を利用する、という発
想がなかった。
「そうなると……あいつがゲスみょんに殺されたってのも怪しいな」
「むきゅ!?」
「わからないか、あいつがいつまでも人間の力を利用してもっとゆっくりしろ、っていう
自分の進言を聞き入れないから、いっそ自分がりーだーに取って代わろうと……」
「そ、そんな、そんな……」
「ひ、ひどいよー、わがらないよー」
「まあ、証拠はない。けど、あいつに白状させるさ」
 その時、何やらざわざわとゆっくりの声が聞こえてきた。
「ん? なんだ」
「れいむ、どうしたのかちょっと見てきて」
 遠くから見ていたれいむにぱちゅりーが頼むと、れいむはぽよんぽよんと跳ねて行き、
すぐに戻ってきた。
「りーだーが、帰ってきたよ! にんげんさんはどこだ、って」
 その後ろから、新入りのれいむ、まりさ、ありすを引き連れた若まりさが現れた。
「人間さん! 話ならまりさが聞くのぜ!」
 若まりさたちは、野良ゆっくりからあまあまを奪ったり、美ゆっくりをナンパ(と称す
るただのレイプ)したりして楽しんで帰ってきたところ、群れのゆっくりの様子がおかし
いので問い詰めた。すると、なんと人間さんがやってきてぱちゅりーと話をしているとい
うので慌てて来たのである。
「ぱちゅりー、勝手にお兄さんと話すんじゃないのぜ!」
「むきゅぅ……」
 若まりさに言われてぱちゅりーは下を向く。
 若まりさにとっては、唯一のお兄さんとの交渉役であるというのは権力の源だ。ここで
頭がよく、群れのゆっくりにも評価されているぱちゅりーなどが人間と話せるようになっ
たりしたら困るのだ。
「あー、いいんだ。俺がぱちゅりーと話したいって言ったんだから」
「ゆ、そ、そうなのかぜ? こ、こんなのと話す必要はないんだぜ、用だったらまりさが
聞くんだぜ」
「てめえ、おれに指図すんのか?」
「ゆびっ! そ、そ、そんなつもりじゃ、ないのぜ?」
「まあいい、お前にも話があったんだ」
「な、なんなのぜ?」
「お前、ちゃんとゲス狩りしてねえだろ、ノルマが最優先とはいえ、ものには限度がある
んだよ」
「そ、そんなことは……」
「ああ? 人間様ナメんじゃねえぞ、んなこたとっくにお見通しなんだよっ!」
「ゆ、ゆひ、で、でも、のるまはちゃんと……」
「だから、その上でだよ。てめえ、捕まえたゲスを賄賂貰って逃がしたりしてるらしいじ
ゃねえか、そんなおいしいこと俺みたいな小役人はできやしねえんだぞ」
 少し私怨混じりに、男は若まりさを難詰する。
「てめえがそんなでゲスが野放しになってみろ。そいつらが問題起こしてとっ捕まって、
この群れのことゲロしたら、芋づるで俺んとこまで来るかもしれねえじゃねえか」
 男が何より心配していたのはそれであった。
 持ち回りのゲスゆっくり狩りだが、男はこの群れによるゲス狩りシステムを確立してか
らというものの、他の同僚の番の時にノルマ分のゆっくりを提供していた。そのことによ
り、他のことで色々と貸しを返してもらったりもしている。
 そこで、人間の力をバックにした新りーだーが好き放題にしてそれに取り入ったゲスが
大手を振って闊歩し、それが例えば飼いゆっくりに危害を加えたりの問題を起こしたりし
ていたということがバレたら、これはタダでは済まない。上司からの叱責となんらかの処
分の上に、同僚に対して全く面目が無いというものだ。
 若まりさは、人間に対する理解が足りなかった。いや、そんな理解をゆっくりに求める
のは酷な話だ。それでも、前りーだーのように公園のベンチで愚痴でも聞かされていれば、
どうもこのお兄さんは人間の集まりいわば群れの中で絶対的な権力を持っているわけでは
なく、彼自身もまた上からノルマを課せられてそれをこなすのに四苦八苦している存在な
のだということを自然と理解しただろう。
 とにかく形だけでものるまを果たして、お兄さんの機嫌を損ねぬようにすればよいと思
っていた。それは正しくはあるのだが、その機嫌を損ねない方法について致命的な誤りが
あった。
「まあ、俺もとにかくノルマ果たせばいいんだ、とかちょっと言葉足らずだったな。つい
つい前のあいつと同じレベルに扱っちまった。あいつが特例だったのにな」
 その辺り、男も反省していた。基本的にゆっくりはアホなのだということをわかってい
るつもりで失念していた。
「ゆ、ゆ、ま、まりさ、ゆっくりはんせいしたよ、これからはちゃんとするよ」
 若まりさは男が何やら自嘲的なことを言ったのに力を得て、ここぞとばかりにゆへらっ
と媚びた笑みを浮かべて言った。
「ああ、お前は、決して頭悪くはねえ。悪知恵も知恵のうちだ。もっと違う形で関わって
いたら、俺らけっこういいパートナーになれたかもしれないのにな」
 この若まりさがりーだーになった時に、きつく躾けていれば、前りーだーが持っていた
甘さの無い大層使える手駒になったかもしれない。
「ゆ、ゆっくりはんせいしてるよ! これからちゃんとやるよ! だからこれからもまり
さをりーだーに……」
「二つの理由で駄目だな」
 男は、冷たく言い放った。
「まず一つ、てめえ、前のりーだーのあいつを殺ったろ」
「ゆひっ! あ、あれはゲスみょんが……」
「人間様ナメんなよ、って言っただろうが、んなこたとっくにお見通しなんだよっ!」
 男が強く言うと、所詮ゆっくりである。ガクガクと震えて頷いた。
「ゆ、ゆ、まりさが……やりまじだ」
「それが一つ目だ。あいつの仇のてめえには死んでも従いそうにねえぜ、こいつら」
 男が後ろを見ると、思っていた通りの光景があった。
 若まりさの自白を聞いて、怒りに震える群れのゆっくりたちだ。ぼそりぼそりと、ゆっ
くりしね、ゆっくりやっちゃおう、ゆっくりころしてやる、と言った物騒な声が上がって
いる。
「二つ目、お前よりもいいりーだーが見つかった……これがなけりゃあ考えたとこなんだ
けどな」
「ゆっ! だ、誰なのぜ! まりさよりもりーだーにふさわしい奴なんていないのぜ!」
「ぱちゅりー!」
 男に呼ばれて、ぱちゅりーはむきゅと呻いた。男の言わんとすることを理解して吐きそ
うになる。嫌だ嫌だ、りーだーなんて、あんな辛い仕事はやりたくない。若まりさのよう
にすれば楽だろうが、それは人間さんが許さないだろうし、そもそもぱちゅりーの性格と
してできるものではない。
「そ、そのぱちゅりーは、まりさが来る前から次のりーだーにってみんなに頼まれても、
りーだーはゆっくりできないから嫌だって言ってたのぜ! そんな奴にりーだーの資格は
無いのぜ!」
 若まりさの言葉がざっくりとぱちゅりーの心をえぐる。そうだ。そうやってぱちゅりー
が逃げていたために、この度の若まりさの横暴を許すことになったのだ。
「む、むきゅぅぅぅぅ!」
「おい、ぱちゅりー、どうだ。お前がどうしてもやる気ねえなら……しょうがねえ、あい
つに引き続き……」
「ぱちゅがやるわ。りーだーを、やるわ!」
 ぱちゅりーが叫んだ。叫んだ次の瞬間にクリームを吐きそうになった。
 だが、耐えた。
「むっきゅう」
 ごくりと口までせりあがって来たクリームを飲み込んだ。涙が、じわっと眼球を濡らし
ていた。
「ぱちゅりーがりーだーになるなら、ちぇんは喜んで従うよぉ、わかるよぉー!」
 ちぇんが言うと、それに賛同する声が上がった。
 若まりさの顔色を窺うものなど一匹もいない。人間さんの後ろ盾を失ったまりさのこと
など、恐れるものは誰もいなかった。
「ゆ、ゆっくり逃げるのぜっ!」
 若まりさが、後ろを向いて跳ねた。従っていたれいむ、まりさ、ありすもこれに続く。
「むきゅ! 逃がしちゃ駄目よ! ゲスを捕まえるのよ!」
「わかったよぉぉぉぉ!」
「ゆっくりまってね!」
「ゆっくり捕まえるよ!」
 新りーだーのぱちゅりーの命令一下、群れのゆっくりたちは逃げる若まりさたちを追っ
た。
「んー」
 男は、歩き出した。
 ゲスは逃げ足のスタートダッシュが早いものが多く、若まりさもその例に漏れぬようで
これでは逃がしてしまいそうである。あいつらが生き延びてこの群れに復讐と称してちょ
っかい出して来たら面倒だ。
 だから、男は若まりさたちの逃げる先に回りこんでその行く手を阻んでやろうとしたの
だが、ぽよんぽよんと思わぬ速さで跳ねて行き、若まりさの前に立ちはだかったものがい
た。
「逃がさないんだよー、わかってねー!」
 前りーだーの側近だったちぇんだ。
 驚きの速さである。身体能力はあるとは聞いていたものの、必ず「ゆぅ、でもちぇんは
あまり頭が……ゆゆぅ」と言われていたので、どうしてもまず何よりもちぇんの個性はア
ホであることだという認識があり、ここまで速いとは思わなかった。
「ゆっくりどけえ!」
「当たらないよー」
 若まりさが体当たりをしようとするが、ちぇんはひらりとかわす。そして、そうしてい
る間に他のゆっくりたちが追いついてきた。
「ゆゆーっ、やっちゃえー!」
「ゆっくりしねえー!」
「二度とゆっくりさせないよ!」
「ゆっくりしね!」
「ゆっくり吊るせ!」
 瞬く間に、若まりさ一党はゆっくりたちの波に揉まれてめちゃくちゃにされてしまう。
「そのありすはまりさにやらせてね!」
 一際憤怒の形相も恐ろしいまりさが、押さえつけられたありすに向かって口にくわえた
先を尖らせた棒を突きつけた。
「ま、ま、まりざぁ、あ、あんなにあいじあっだながじゃないのぉぉぉ!」
「……ゆっぐりじねえ!」
 まりさは、遠慮なくありすの右目に棒を突き刺した。
 このまりさ、策謀により番のれいむにゲスの濡れ衣を着せられて殺されてしまったあの
まりさであった。
 あれから、ありすにたっぷりと犯されていた。姉妹や親の身の安全をちらつかされては
悔しくても逆らいようがなかった。
「ありす……あの時、まりさのれいむをゲスだってしょーげんしたおちびのれいむは今ど
こにいるの?」
「ゆ、ゆひぃぃぃ、あ、あれなら……」
 ちらりとありすが残っている左目でまりさを見上げる。
「……殺したね。どうせお前らのことだから、嘘のしょーげんをしたってことを喋らせな
いために口封じしたんでしょ!」
「その嘘のしょーげんだって、おどかしてむりやりさせたんでしょ! このゲス!」
「まりさ、残ったおめめもやっちゃえ! あの子の敵討ちだよ!」
 周りのゆっくりが煽る。
「ゆん、そのつもりだよ」
 まりさは、もう一本の棒をくわえてありすの前に立った。
「や、やべでえ、あ、ありずは、あいに、あいに生きただけなのにぃぃぃぃ!」
「ゆっくりしね!」
「ゆっがあああああああ!」
 ありすが光を失った頃、他のものたちも等しく制裁を受けていた。恐怖支配の大元締め
であった若まりさへのそれは特に激しく、既に若まりさは息も絶え絶えだ。
「おい、殺すな」
 男が言うと、ゆっくりたちはぴたりと止まった。その人間を恐れて絶対服従の姿勢に男
は満足そうに頷いた。
「話聞く限りだと、今も檻にはゲスじゃないのが何匹かぶち込まれてるんだろう。そいつ
らと交換だ」
「むきゅ! そ、そうだわ。助けてあげないと!」
 若まりさたちはゲス小屋へと引っ立てられた。
「まりさを出すんだぜえええ、ゆっぐりざせろぉぉぉ!」
「れいむはかわいそうなんだよ! おちびちゃんを殺したのも、あれはあのクズどもが悪
いんだよ!」
 と、いかにもなゲスの中に、
「おねがいじます、ゆるじでぐださい。れいぶ、ゲスなんかじゃありまぜん、ほんどでず
ぅ」
「ま、まりさはなんにもしてないよ! ゆっくり出してね! ゆっくりできないよぉ」
 何匹か、ゲスには見えぬものがいた。
 ぱちゅりーが指示して、そのゆっくりたちを檻から出す。当然ゲスどもがそんな奴らよ
りしんぐるまざーのれいむを出してあまあまちょうだいね、あとどれいにしてあげてもい
いよ、とか言ってるがみんな無視である。
「ほら、ゲスはゲス小屋へ入ってね!」
「や、やべろぉぉぉ」
「れいぶはじんぐるまざーなんだよぉぉ!」
「ん、んほぉ、んほぉぉぉ……」
「ゆ? ゆ? ゆゆぅ?」
 自分たちと入れ替えに、この群れのりーだーのまりさとその取り巻きが檻に入れられる
のを見て、出されたゆっくりたちは不思議そうにしている。
「むきゅ、ごめんなさい。ぱちゅたちが不甲斐ないばかりに……もう大丈夫よ」
 ぱちゅりーが、一連の経緯を説明すると、檻から出されたゆっくりたちはゆんゆんと嬉
し涙に頬を濡らした。
「よ、よかっだよぉ、これでゆっぐりできるよぉぉぉ」
「ゆっくりしていってね!」
「ゆっくりしていってね!」
「「「ゆっくりしていってね!」」」
 いつしか、群れのゆっくりたちも加わってゆっくりしていってねの大合唱になる。
 それをどーでもよさそうに眺めていた男は、ふとゲス小屋の住人となった若まりさを見
た。
「ま、まりざは、りーだー、なのぜ。えらいのぜ。まりさに、さからうやつは、みぃーん
な、ゲス小屋、行き、なのぜ。……なんで? どぼじて? どぼじてまりざがゲス小屋に
いるの? ま、まりざはりーだーなのぜ! りーだーなのぜええええ!」
「まりさ」
 名を呼ばれて上を見れば、あの人間が、あの若まりさの短い栄光を彩った権力の源泉た
る人間が立っていた。
「お、お、お兄ざん、まりざ、まりざ、のるまをちゃんとやるのぜ。お兄ざんの言う通り
にちゃんとやるのぜ。だがら、まりざを、もう一度、りーだーに……」
「今更俺がお前をりーだーに戻すと言っても、さすがにあいつらが承知しないさ」
「……り、りーだーじゃなくで、いいがら、たずげで、遠いところに行っで、もう二度と
ここには来ないがら」
「駄目だ」
「ど、どぼじで、まりざ、のるまをちゃんとやったのぜ? お兄ざんをゆっぐりさぜたの
ぜ? い、いのちだげはだずげでぐれでもいいのぜええええええ!」
「さっきは二つって言ったけど、三つ目の理由があったわ」
「ゆ゛?」
「おれは、あいつ……前のりーだーのまりさな、あいつとあそこのベンチで愚痴を言い合
ってる時間が、嫌いじゃな……いや、かなり好きだったらしい」
「ゆ、ゆぅ?」
「お前とも、あそこで愚痴を言い合っていたら、もしかしたら命だけはと思ったかもしれ
ないな。……でも、お前、ノルマなんかちょろいんだもんな」
 言ってから、男は、自分のいかにも狭量な怒りを自覚して恥かしくなってそっぽを向い
た。自分やあのまりさが苦労していたノルマをちょろいもんだと嘲笑うように言った若ま
りさに、自分は相当にむかついていたらしい。
「ゆ、ゆ、ゆぎぃぃぃぃぃ……」
 若まりさは、決して頭が悪くはないので悟ってしまった。
 この人間は、もう絶対に若まりさを助けてくれないのだということを――。

「おーす」
「むきゅぅ、いらっしゃい、お兄さん」
 新りーだーのぱちゅりーもようやく慣れてきて男をやたらめったらと恐れることはなく
なった。
「どうだ。ノルマは」
「むきゅ、大丈夫よ……大丈夫なんだけど」
「ゆゆぅ……」
 なんだか、群れの連中が浮かぬ顔だ。
「どうした? 大丈夫なんじゃねえのか?」
「あいつを出すことになるかも……」
「ん、あー、はいはい」
 男とぱちゅりーはゲス小屋へとやってきた。
「ふむふむ、あー、あいつを入れてノルマ達成なのか」
「ええ……」
 あいつ、と呼ばれたのは、かつてこの群れで権勢を誇った若まりさ……もうボロボロの
体はとても若くは見えない、あのまりさであった。
 あれから、すぐに取り巻きのれいむ、まりさ、ありすはのるまとして男に供出された。
「どぼじでまりざだけぇぇぇ!」
「おかじいよぉ、れいむもだずげでね! れいむはしんぐるまざーなんだよ!」
「んほぉ、んほぉ」
 とかなんとか喚きながら連れて行かれた三匹と違い、若まりさはそのまま檻に残された。
 ちなみに、しんぐるまざーれいむの子供の子れいむは、育児放棄の上に虐待はしっかり
する母親に完全に愛想を尽かし、子供が産まれなくて困っていたれいむとまりさの番にこ
っそり食べ物を貰ったりしているうちにお互い情が通い、若まりさの失脚と同時に、この
番の養子になっていた。
「お、おちびぢゃあああああん、りょうさいけんぼのれいぶをだずげでねえええ!」
 袋に入れられるために持ち上げられた時、れいむとまりさの夫婦に寄り添っている子れ
いむを見つけたれいむは最後の望みとばかりに懇願した。
「うるちゃいよ! おとうしゃんは、おまえがこきつかったからかろーししちゃったんだ
よ! れいみゅにだっちぇ、おきゃあしゃんらしいことちてくれたこちょにゃいでちょぉ
ぉぉぉ!」
 その懇願は、子れいむの激昂にあっさりと跳ねつけられた。逆ギレして親不孝でゆっく
りしてないと罵倒されると、子れいむはれいむとまりさにぴったりとくっついて、
「この二人がれいみゅのおとうしゃんとおきゃあしゃんだよ、おまえにゃんか親じゃにゃ
いよ!」
 と、れいむの罵倒などもはや痛くも痒くもないことを示した。
 さすがにがっくりとしたれいむは、そのまま袋に入れられてしまった。
 だが、この三匹も、残った若まりさが決して助けられたのではないということを知った
ら、果たしてあの時、自分たちも残りたいと思ったであろうか。
 若まりさは、さらなる制裁を受けるために残されたのである。
 皆に慕われていた前々りーだーのまりさを殺し、自らがりーだーだった時には恐怖政治
を布いて群れを支配した若まりさを、群れのゆっくりたちはどんな酷いことをしてもいい
存在だと認識しており、いつしか若まりさは群れのストレス解消の道具になってしまって
いた。
 ぱちゅりーは、それにすすんで加わったりはしなかったが、そのストレス解消が群れに
いい影響を与えているのを感じており、できれば若まりさを供出したくなかったのである。
 しかし、その代わりに群れのものや、ゲスではないゆっくりを差し出すのも本末転倒と
いうか、ゆっくりしていない話だ。
「ゆぅ……ゆ゛ぅ……、お、おにい、ざん、ようやく、まりざの、ばん、なの、ぜ? ま
りざ、ようやぐづれていっで、もらえるの、ぜ?」
 常に死ぬ寸前と言った状況がずっと続いている若まりさの心は、とっくのとうにぼっき
り折れて、今では男に連れて行かれるのを心待ちにしている有様だった。
「ああ、そういうことだ」
「ゆ゛ぅ、やっど、ゆ゛っぐり……」
「りぃだぁぁぁー!」
 そこへ、ちぇんが駆け込んできた。
「まってね! 今、ゲスを一匹捕まえたよ」
「ゆ゛っっっ!」
 さすがに哀れさを催すほどに、若まりさの表情が凍りつく。
「んっほおおお! あいを与えて何がわるいのよぉぉぉ! このいなかもの! ありずの
ぺにぺには宝よ! もっと大事に扱いなさい!」
 地面にぺにぺにをずりずりさせつつ引きずられてきたのは、もうどっから見てもクソレ
イパーのありすであった。
「じゃ、こいつでノルマ達成だな」
「むきゅ」
「わかるよー」
「……ゆ、ゆぐっ、ゆぐぅぅぅぅ……」
 若まりさの苦しみは、まだ当分続きそうであった。なにしろ、若まりさを差し出すこと
にならぬように、みんな以前よりも一層ゲス狩りに励んでいるのだから。
「んー」
 男は、さすがにそろそろ若まりさを解放してやってもいいのではないか、と思っていた。
 でも、思っただけである。
 若まりさがああやって皆にぶっ叩かれている方が、ゲス狩りに力が入り、ノルマ達成に
は有効である以上、男からは何も言うべきではなかった。
「こっちは、ノルマ達成してもらえりゃいいんだ」
「むきゅぅ、のるまはゆっくりできないわね」
「ああ、でも……達成しないともっとゆっくりできなくなるからなあ」
「そうねえ、のるまのるま、むきゅぅ」
「ああ、ノルマはゆっくりできねえなあ」

                                  終わり

挿絵 byおっぱい無しあき



 なんか、ようわからん話になったがぜよ。
 wikiを見たらおれ、つむりあき(仮)という名前になっとるのね。うーん、別にお
れがつむりを作ったわけでもないのにおこがましい感じがするのぅ。
 ここは一つ、名前考えるか、別んとこで使ってた名前そのまんま名乗ってもいいのだが、
うーん、それも含めてちと考えておく。




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このSSへの感想 ※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね!
感想

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  • ↓×10分かってくれて良かった -- 2023-04-23 06:55:53
  • ワカ魔理沙ザマァwwwwwwwwwつーか、前々リーダー殺すとか、とんでもないゲスやんなぁ、ゆっくり以下のゆっくりだわ。そう思わへん?後、パチュリーかわいすぎわロタ -- 2014-05-27 22:27:39
  • これは、若魔理沙が、悪い。 -- 2014-04-07 18:22:14
  • ゆっくりするためにゆっくりできないから人間の辛さがある程度わかるんだな -- 2013-11-30 17:16:20
  • ゆんやあああああああ!!
    のるまさんはゆっくりできないいいいい!!
    だからにーとしゃんになるじぇ! -- 2013-06-22 17:18:07
  • 吐き気を懸命にこらえるぱちゅりーが可愛すぎてつらい
    それにしても、シングルマザーでいぶの子がまともってのは珍しいなぁ
    子もでいぶ化してるテンプレ親子になってないのは新鮮
    養子になれてよかった -- 2013-02-04 19:00:36
  • ↓↓同意。このお兄さんはかなり好きだ。
    愛護派でなくても、りーだーまりさを好きになってしまうのがいい。愛護派と違って、ある意味ゆっくりと対等な目線で付き合えてる。
    ノルマの苦しみも含めて、一番人間味がある。 -- 2012-09-19 22:47:32
  • ゆっくりに必要以上に肩入れせず
    効率よくノルマを達成することに真剣なお兄さんがカッコいい -- 2012-07-18 13:36:56
  • ゲス虐待が1番快感を感じるよ -- 2012-06-21 02:07:45
  • これぞ制裁、良い話だった。
    愚痴言える相手ができてよかったねお兄さん! -- 2011-11-07 14:53:08
  • わかった、俺は虐待が好きなんじゃなくて制裁が好きなんだ。
    裁かれるものは裁かれ許されるものは許され愛でられる。
    虐待と制裁の区別もつかないような作品もあるけどな
    -- 2011-10-20 03:09:06
  • のるまさんはゆっくりできないよー!


    うん、ゆっくりできないんだよノルマは・・・ -- 2011-05-27 01:37:01
  • 今までで一番面白いよ -- 2011-03-26 05:46:16
  • 良い話だなー::
    ぱちゅりーが勇気を持って前リーダーの意志を継いだ所がゆっくりできたよ!
    げす制裁物はゆっくりできるね -- 2010-12-24 17:48:01
  • よしっ!! -- 2010-12-22 01:21:46
  • ゆっくりできるイイ話だった。
    未熟ゆのくだりは切なくて特に良かったなぁ。 -- 2010-10-30 11:52:31
  • 見事な制裁劇でゆっくりできた
    しかしノルマがどれくらいなのかわからんけど、この群れの周り一帯からゲスは居なくならないんだなw
    この世界の野良ゆ事情は世紀末並にゲスが横行してそうだ -- 2010-09-20 18:30:38
  • のるま のるま むきゅう
    可愛いな、おい、やっぱゆっくり善良通常種の中ではぱちゅりーが良い
    この群れに幸あれ、そして初めて子ゆっくりがムカつかなかったなぁ、養子になれて良かった良かった -- 2010-07-25 03:34:28
  • 最初のリーダーまりさがいい奴すぎて辛い。
    ゲスは苦しみぬいて死ね -- 2010-07-25 02:45:19
  • とてもゆっくりできる話でした!のるま のるま むきゅう! -- 2010-07-10 00:13:01
最終更新:2010年04月19日 16:46
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