ふたば系ゆっくりいじめ 377 ふらんどーるの犬

ふらんどーるの犬 22KB


『ふらんどーるの犬』







一、

「…ゆっくちしちぇいっちぇね…!!」

 バスケットボールくらいのサイズの成体ゆっくり…その“れいむ種”と“まりさ種”の一家に元気よく
挨拶をする、ピンポン玉ほどのサイズの赤ちゃんれいむ。可愛らしい瞳で幸せそうに昼の散歩をしている
一家を見上げて、赤れいむは不安そうにゆらゆらと顔を振っている。その愛くるしい仕草に、子れいむと
子まりさがぴょんぴょんと赤れいむの周りに集まってくる。

「ゆわあ!かわいいねっ!」
「どこからきたの?」

 口ぐちに質問を浴びせる二匹の子ゆっくり。このれいむ一家は五匹家族だった。挨拶をした赤れいむと
同じくらいのサイズの赤ちゃんまりさは、赤れいむに興味は惹かれているものの、母れいむの顔に頬を擦
り寄せたままだ。時折、赤れいむのほうに視線を向ける。

「「ゆっくりしていってね!!」」

 なおも不安そうな表情を崩さない、赤れいむの気持ちを少しでも和らげようとしているのか子れいむと
子まりさは明るい声と表情で挨拶を返した。それでも赤れいむは、俯いたままだ。これにはどうしたもの
かと。二匹の子ゆっくりはお互いの顔を見合わせる。母まりさは、意を決して赤れいむに質問する。

「おちびちゃんは…ひとり、なのぜ?おかあさんをさがしてるとちゅうなのぜ…?」

 赤れいむが震えだす。今度は母ゆっくり同士が視線を巡らせ、少しだけ悲しそうな表情をする。小声で

「ゆぅ…れいむ…このちびちゃんのおかあさんは…」
「うん…」

 既にこの世にはいないのだろう、ということをゆっくり理解する二匹の母ゆっくり。赤まりさも両親を
心配そうな顔で見つめている。これから越冬のための準備を始めなければいけない。幸い、この山は食糧
も豊富であり、何よりまりさが狩りの達人であることなどから冬を越すのは比較的容易に乗り切ることが
できる。去年の冬籠りも特に重大な問題は起こらず、次の春を迎えることができた。

「ゆっ!こまったときはおたがいさまなのぜ!」
「そうだね!ちびちゃん…!れいむたちといっしょにくらさない??」

 両親の突然の発言にも、家族が増えるのを喜んでいるのか二匹の子ゆっくりは歓声を上げる。妹が増え
て嬉しいのだろう。ゆっくりは数が多ければ多いほど、たくさんゆっくりすることができる。この提案に
一家は誰一人として反論することはなかった。赤れいむは震えている。覗き込むと、どうやら涙を流して
いるようだ。母れいむはそんな赤れいむに頬擦りをすると、

「だいじょうぶだよ、おちびちゃん…これからいっしょにゆっくりしようね…」

「………………………」

 赤れいむは無言のままだ。母れいむは母まりさの方に“しかたないね?”というような表情を見せる。
そのとき、ようやく赤れいむが口を開いた。

「ゆっくち…ごめんなしゃぃ…」

「ゆっ?」

 首を傾げる母れいむ。そのときだった。草むらの中に隠れていた、胴付きのゆっくり…冷酷にして残虐。
最凶の捕食種であり、ゆっくりたちにとっての人間に次ぐ最大の天敵でもある“ふらんどーる種”。通称、
“ふらん”がれいむ一家の目の前に飛び出した。

「ゆあああああああああああ!!!!!!」
「ふらんだあああああああああ!!!!!!!!!」

 この胴付きふらん。羽根は持っているものの、飛ぶことができないのかそれでも素早い動きで子れいむ
の顔を引きちぎり、一旦は捨ておく。後で食べるつもりなのだろう。あまりにも突然の出来事に、子れい
むは断末魔さえ上げることはなかった。

「うー、うー…ゆっくりしねっ!!!!!!!」

 ふらんが子まりさをつかむ。

「ゆぎゃああああああ!!!!おがーじゃん!!!おがーじゃあん!!!だぢゅげでえぇええ゛え゛!!」

「ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛…」

 気が動転しているのか、目の前でふらんに捕えられた我が子を前に上手く喋ることのできない母れいむ。
母まりさは、がたがた震えながらも頬に空気をため、

「ゆ…ゆゆゆ…ゆっぐりはなじでねっ!!!」

 必死に叫ぶ。

「ゆぎぇええぇぇえ゛ぇええ゛ぇ゛ええぇえ゛!!!!!!」

 ブチブチィとい耳触りな音とともに、子まりさの顔が左右に引き裂かれる。あふれ出した餡子を丁寧に
口に運び、悦の表情を浮かべるふらん。皮は後で食べるのか、引きちぎられた子れいむのそばに投げ捨て
た。

「うー…つぎは…おまえら…ゆっくり…しね…」

 ふらんがにじり寄る。目の前で我が子を二匹も殺された親ゆたちは、恐怖と絶望でその場を一歩も動く
ことができなかった。赤れいむはそんな、親ゆとふらんのやり取りを遠くから涙を流し見つめていた。

「うー!」

「ゆあああああああああ!!!!!」

「れいぶぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!!!」

 ふらんにより抉りだされた目玉をぺーろぺーろしながら叫ぶ母まりさ。

「ゆああああ!!!れいぶのおべべ!!!ゆっぐりじないでもどにもどっでねぇえええぇええ!!!」

「ゆぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ…」

 激痛に耐える母れいむ。ふらんは完全に戦意を失っている母れいむを落ちていた木の枝で何度も何度
も殴りつけた。

「うっうー!くらえ、れーう゛ぁていん!!!!」

「ゆぎぃ!ひぐぅ!!ゆげぇ!!ゆぶっ!!ゆべしっ!!!」

「おでがいじばずぅぅぅぅぅ!!!やべでぐだざい゛ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」

 母まりさは額を地面にがしがしとこすりつけながら…まるで土下座のような格好で捕食者に頭を下げ
る。しかし、捕食者が手を止める道理はない。母まりさが虫や花を食べるように、ふらんはこの一家を
食べるだけなのだ。そこに不自然な点は何一つとしてない。

 人間に殴打されるわけではないので、顔が弾け飛んだり皮が破れて中身が飛び出したり、といった状
態にはなかなかならない。気を失うほどのダメージとまではいかないので、嬲り殺しにされていくのだ。
母まりさは、そんな捕食者と餌の周りをぴょんぴょん跳ねてやめてもらえるよう視覚に訴えているつも
りなのだろうが、まるで意味を為さない。

 捕食者、といえばふらんの他にも“れみりゃ種”や“ゆゆこ種”などが挙げられるが、その中でもこ
のふらんは獲物を徹底的にいたぶってから食す、という最凶の習性を持ち合わせていた。ゆっくりは痛
みや恐怖、絶望といったマイナスな感情を中身の餡子に刻みつけることで、味がよくなる。ふらんはそ
れを本能で理解している。れみりゃがそれをしないのは知能がやや劣るから。ゆゆこがそれをしないの
は腹に入れば同じと考えているから、である。

「い…だい…よ゛ぉ……」

 すでに五分間近く棒きれで顔のあらゆる個所を殴られている母れいむだが、まだまだ命に別状はない。
ただ、ものすごく痛いだけだ。ある意味、気を失うぐらいの力で殴られたほうが幸せなのだろうが、ふ
らんにそれほどの腕力はない。冷や汗と涙を滝のように流しながら母れいむは震えて、終わることのな
い痛みに耐える。

「はなぜえええええええ!!!!」

 母まりさが死を覚悟してふらんに体当たりをする。一瞬よろめくふらん。癇に障ったのか、ふらんは
母まりさの顔面に持っていた木の枝を深々と挿し込むと、激しく中身を掻きまわし始めた。目を見開き
口から多量の餡子を吐き出す母まりさ。体内を蹂躙される痛みは想像に難くない。中身を壊されていく
感覚に母まりさはただただ叫び声を上げるのみだった。

「「ゆ゛っゆ゛っゆ゛っ…」」

 短い悲鳴を繰り返す、二匹の親ゆ。赤まりさはとうの昔に失神していた。ひと思いに食べられるので
はないかと、涙を流す親ゆをよそに気絶していた赤まりさは、子ゆ二匹の死体の上に投げ捨てられた。
赤まりさがまだ息があるのを確認した、親ゆに安堵の表情が宿る。それもつかの間。母れいむの左頬に
激痛が走った。見ると、ふらんの右手には母れいむの顔の一部が握られている。そのときになって初め
て自分の顔が目の前の捕食者によってひきちぎられたことを悟った。

「ゆ゛ぎゃあああああああああ!!!!」

「やべでえ゛え゛え゛!!!れいぶのおがお…だべないでえ゛え゛え゛え゛ぇぇぇ!!!!!!」

 動けない二匹をいいことに、ふらんはちょっとずつ、ちょっとずつ二匹の顔をむしりながらその口へ
と納めていった。体の三分の二が失われて、ようやく二匹はこの地獄同然の苦しみから解放されること
となる。

「うー…かえる…」

 ふらんはバラバラになった子れいむと子まりさ、それから赤まりさを両手に抱えると、赤れいむを先
頭にし、巣穴へと帰っていった。赤れいむは逃げることはしない。逃げようものなら、一瞬で捕まって
殺されることがわかっているからだ。





二、

 赤れいむとこの胴付きふらんが出会ったのはわずかに一週間前のことだ。特殊な思考を持つHENTAIな
お兄さんたちの群れによる、“一斉胴付き狩り”によって、山の胴付きれみりゃと胴付きふらんが想像
を遥かに超える乱獲をされた。元々、数の多い個体ではないが胴付きゆっくりが縄で手を縛られ、一列
に歩いていく様は、古代ヨーロッパの奴隷たちの姿を連想させた。逆に増長したのは力のない、捕食対
象のゆっくりたちである。なぜなら、ゆっくりたちの三大危険因子である“人間、天災、捕食種”のう
ちの一つが、人間によってほぼ根絶やしにされたからである。

 ふらんは、その乱獲の際の数少ない生き残りである。このふらんでさえ、両親に助けられ命からがら
人間たちの手から逃れてきた。羽根はそのときに人間から傷を負わされ、治る見込みが薄いことを本人
も自覚している。

 それでも、野生のゆっくりは無駄に多いのでふらんが食糧に困ることはなかったのだが、やはり人間
からつけられた傷が体に障るのか、たまに獲物を逃がしてしまうことがあった。

 そんなある日、別の捕食種によって一家を全滅させられた赤ちゃんゆっくり…すなわち、赤れいむと
出会う。そのとき満腹だったというだけで、ふらんは赤れいむに手を出さなかった。

 次の日、赤れいむは同じ場所で雑草を食べて懸命に生きていた。そこへ別のゆっくり一家が現れ、赤
れいむとゆっくりし始めた。それを見たふらんは、“赤れいむを囮にしてゆっくりをゆっくりさせた所
で一網打尽にする”という計画を思いついたのだ。

 草むらから飛び出し、赤れいむ以外のゆっくり一家を一瞬で殲滅させるふらん。赤れいむは二度目の
捕食種との対峙に、しーしーをぶち撒けていた。ふらんは赤れいむの髪を乱暴にひっつかむと巣穴の中
に連れ帰った。帰るまでの間、赤れいむは泣き叫びながら許しを請うていたが、聞き入れられることは
なかった。“巣に連れて帰ってから食べるつもりなのだろう”という未来は、生まれおちて日の浅い、
赤れいむにも予測ができたのだろう。

 しかし、赤れいむは食べられることはなかった。ふらんは、巣穴の中に赤れいむがジャンプして飛び
出せない程度の深さの穴を掘り、そこに放り込んだ。絶望に打ち震えていた赤れいむの上から、芋虫が
二、三匹落とされる。ふらんの姿は見えないが、

「くえ」

 という短い言葉だけが耳に届いた。まだ狩りが上手くできない赤れいむにとって、芋虫は御馳走だっ
た。初めて両親が採ってきてくれたご飯が芋虫だったこともあり、赤れいむは嬉しくてなのか恐ろしく
てなのかわからないが、声も出さずに泣いた。

 かくして、捕食種と被食種の奇妙な共同生活が始まった。いつ食い殺されるともわからない赤れいむ
は絶対にふらんの機嫌を損ねるようなこともしなかったし、このふらんは賢い個体だった。どうすれば
日々を生き抜くことができるのかを冷静に考えることができていた。仲間が大勢連れて行かれたのは悲
しいことだが、その分餌の競争率は低くなる。食物連鎖のバランスを壊されたとはいえ、このふらんに
とっては悪い話ではなかった。この赤れいむの一家の件を思うに、自分と同じ捕食種の生き残りもいる
ようなので何もかもが終わったというわけではなかったのである。

 赤れいむを囮にした狩りは、これまでただ闇雲に獲物を追いかけまわすだけであった捕食種にとって
の革命とも言うことができたのだが、いかんせんこの狩りの方法が広まるには捕食種の数が減りすぎた。
そもそも、ふらんはあの日以来、一度も別の捕食種を見てはいない。本当に自分以外の生き残りがいる
のだろうかと心配にはなったが、もうすぐ冬がくる。生き残った捕食種を探すのは、越冬に成功してか
らだ。





 今回、新たに赤まりさを連れてきたのには理由があった。ゆっくりは比較的同種間のコミュニケーシ
ョン能力に優れている。群れの中でのネットワークは意外にもしっかりしたものなのだ。それを活かす
能力が皆無なのがここまで貧弱な存在たらしめる理由なのであろうが…。それでも本当に頭のいい森の
けんじゃの“ぱちゅりー種”や、圧倒的な力でゆっくりを束ねる“ドスまりさ”などがいる群れは、長
きに渡って群れの存続を成功させている。

 しかし、ふらんには関係のないことだ。ふらんが狙うのはあくまで家族単位で行動しているゆっくり
である。群れを壊滅させることは容易だが、それをすることに意味を見出すことはできなかった。むし
ろ、獲物が減るだけである。

 …つまり、赤れいむが囮になって狩りをする捕食種がいる、というのはいずれゆっくり同士の間に広
まる可能性があるということをふらんは理解していたのだ。それを見据えての赤まりさ捕獲。赤れいむ
と赤まりさを単体で囮に出すパターン。二匹一緒に囮に出すパターン。三以上数えられないゆっくりが
仮にパターンの存在に気づいても“ぱたーんさんがたくさんあってゆっくりできないよ!”となるのが
オチである。つまり、これで十分だったのだ。

「ゆぎゅっ…!」

 穴の中に放り込まれた衝撃で赤まりさが目を覚ます。赤まりさはきょろきょろと辺りを見回すが、視
界には土の壁しか入らない。自身が穴の中に落ちたことに気づき、必死に出ようと飛び跳ねるが、脱出
するには叶わない。

「おかーしゃん…おにぇーしゃん…ゆっくちぃ…ゆっくちしちゃいよぅ…」

 涙を浮かべ、唇を噛み締める赤まりさ。ぷるぷると震える姿が愛らしい。穴の上から、ふらんと赤れ
いむが覗き込む。恐ろしい捕食種の姿を目の当たりにした赤まりさは

「ぎぴゃっ!!!」

 叫び、しーしーを噴射する。その反動で小さな体が少しだけ宙に浮く。むちむちした腕。冷酷な瞳。
口から覗く鋭いキバ。目の前で一家を惨殺された赤まりさにとって、それは既にトラウマだったのだ。

「…おまえも、くえ」

 言ってふらんは、あの時と同じように芋虫を三匹ほど赤まりさの目の前に投げ込んだ。

「…んゆっ…?」

 状況処理が追いついていないのだろう。赤まりさは、ふらんと赤れいむを涙目で交互に見ながら、ず
りずりといまだ蠢く芋虫の元へとやってきた。適度に痛めつけられて弱ってはいるが、生きたままの芋
虫を食べることができるなんて思っていなかった。しかも、ふらんの…捕食種の採ってきた芋虫を。

 口に運ぶ。弾力のある芋虫の食感が赤まりさの口の中に広がる。込み上げてくる感情を抑えることが
できなかった。

「むーちゃ、むーちゃ…ちちちちち…ちあわちぇえええええええええ!!!!!!」

 目にいっぱいの涙を湛えているのは、安堵の念も込められているのだろう。そのときだった。ふらん
の口元が一瞬ほころんだように見えたのを、赤れいむは見逃さなかった。もちろん、それを口にするの
は恐ろしいので何も言えなかったが。

 美味しいものを食べさせてもらったとはいえ、赤まりさにとっては家族の仇。一時のしあわせー!に
警戒心が薄れてはきているものの、やはりふらんと赤れいむを完全に信用してはいないようだ。…当た
り前だが。





 結果から言うと、赤れいむと赤まりさを使った狩りは成功であった。一向にゆっくりたちの間に警戒
体制が敷かれることはなく、目の前に迫った冬を越すのに十分な食料が集まっていた。二匹の赤れいむ
もバレーボールくらいの大きさに成長しており、成体ゆっくりの一歩手前というところまで来ている。
便宜上、子ゆっくりとさせていただくが。

 日々、目の前で同種が殺される姿を見るのはどうしても慣れることができなかったが、捕食種に捕ま
って生きていられるだけでも幸せだ。ふらんに飼われることで、生命の危険の心配はなかったし本人た
ちは気づいていないが、利害関係だけから見たらそんなに悪い状況ではなかったのである。

 春になったら、二匹の子ゆをつがいにさせるのが、ふらんの次の計画だった。そろそろ、みなしごゆ
っくりを演じさせるにはいささか無理があるように思える。別に、ゆっくり同士がゆっくりするために
寄って来たところを狙えばいいだけの話ではあったが、一家で同情を引くためには赤ちゃんゆっくりの
ほうが圧倒的に都合がいい。

 賢いふらんでも、気づいていなかった。囮に使うのに赤ゆのほうが都合がいいならば、今の二匹を殺
して、新しい赤ゆを連れてきたほうが効率がいいということに。

 それでも、ふらんは越冬の準備を始めていた。…捕食種はそれほど冬の影響を受けない。その気にな
れば冬籠り中の一家の巣穴に侵入し、獲物を得ることができるからだ。

 …ふらんの越冬の準備。…芋虫や鈴虫と言った昆虫…柔らかな葉っぱや茎…どんぐりに木の実…場合
によっては果物なども含まれている。

 つまり、二匹の子ゆっくりのためのものであった。

 ふらん本人には、“春にすっきりー!してもらわねば困る”という思惑があった。



 “自分は二匹を飼っている飼い主である”


 最近、何度も心の中でつぶやくのは、本音を押し隠すためであろうか…?真意はわからないまま、冬
を迎えた。

 …三匹にとって、永遠ともいえる、冬が。





三、

 ふらんは身を切るような風が吹きすさぶ中、ゆっくりたちの巣穴の入り口を破壊し、中で冬籠りして
いた一家を食い散らかしていた。容赦のない行動は、ふらんが恐ろしい捕食種であることを確かに物語
っていた。

 一家の集めていた越冬用の食糧もひっつかみ、巣穴へと戻るふらん。二匹の子ゆを養うにはこれを繰
り返すだけで十分だった。

 巣穴に帰ると、初めてここに来た時よりも倍以上深く、広くなっている子ゆの住処に餌を投げ入れる。

「ゆっくりありがとう!!!」
「ゆっくりむーしゃむーしゃするね!!!」

 今では、この最凶の捕食種にお礼を言うまでの関係が出来上がっていた。

「…すっきりー!は…まだ…」

「ゆっくりりかいしてるよっ!!!」
「はるさんがきたら、れいむとまりさのかわいいあかちゃん、ふらんにみせてあげるねっ!!」

 二匹は幸せそうに笑っていた。子まりさにとっては実の家族を全滅させた張本人であるはずのふらん
だが、そこは餡子脳。そんなことは幸せな日々によって、掻き消されていたのだ。

 三者三様の食事を終えた三匹は、暗い巣穴の中で寝息を立て始めた。

 そんな幸せの崩壊を告げる足音が、すぐそこまで迫っていることも知らずに。



 突如として、冷たい風が巣穴の中に入り込んでくる。ふらんが、子れいむが、子まりさが目を覚ます。
破壊された巣穴の入り口には、三匹の成体胴付きれみりゃが並んで立っている。

「うっ…うー…ゆっくりのすかとおもったらふらんがいるどー…」
「ふらんのうしろからゆっくりのにおいがするどー!!!」
「どくんだどぉ!れみりゃ、おなかぺこぺこなんだどー」

 震え上がる子れいむと子まりさ。ふらんは、目をつりあげ三匹のれみりゃを睨みつける。キバが光り、
両手の爪を見せつけるようにれみりゃと対峙する。

「なっ…なんだどぅ…」

 先手必勝。ふらんは、巣穴の床を蹴ると一瞬でれみりゃの顔面に鋭い爪ごと腕を突き立てた。

「うごぼおぉっ!!!」

 中から肉汁と少量の肉を吹きだし、悶絶するれみりゃ。ふらんは胴付きとはいえ、まだ子ふらんの範
疇にある。顔にふらんの腕が突き刺さっているにも関わらず、れみりゃはふらんの脇腹に自分の爪を突
立てる。

「う゛ー!!う゛ーーー!!」

 お互いに今まで味わったことのない捕食種の爪にたじろぐ。

「うがああああああああ!!!!!」

 ふらんが雄叫びを上げる。巣穴の中の空気がびりびりと振動する。子れいむと子まりさは初めて見る
捕食種同士の争いの凄まじさに穴の隅でがたがた震えていた。

 二匹のれみりゃがふらんに襲いかかる。どうやら敵と判断したようだ。腕力は成体である分、れみり
ゃに軍配が上がるが、スピードならふらんのほうが上だ。もっとも、古傷のせいで本来の力を出すこと
はできなかったが。

 前から後ろから、れみりゃの爪が、キバがふらんを襲う。致命傷には至らないものの、ふらんの体の
数か所からは肉汁が流れ出していた。歯を食いしばるふらん。

「ゆあああああああああ!!!!」
「やべでぇえええ!!!はなじでぇぇええ!!だずげでぇ!!!ふらん゛~~~!!!」

 ふらんに助けを求めるゆっくりがいようとは。驚きを隠せないれみりゃたちだったが、二匹の子ゆは
一匹のれみりゃの両脇に片手で捕えられていた。顔をぐしゃぐしゃにして滝のような涙を流す。

「はな…せぇえええええ!!!!」

 子ゆを捕獲しているれみりゃに腕を振り上げるが、れみりゃの一匹にそれを制される。

「う゛っ!!う゛っーーー!!!」

「ゆゆゆゆゆゆゆゆ…」

 カチカチと歯を鳴らし、れみりゃによって切り刻まれていくふらんの姿を見る子れいむ。

「ゆっくり…じね゛ぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」

 ふらんはれみりゃをふりほどくと、滅茶苦茶にそのれみりゃを切り裂いた。キバが深くめり込み爪
が肉を引き裂き、れみりゃの四肢の半分は失われていた。ふらんのほうも、傷ついた体でこれほどの
攻撃を繰り出したせいもあってか、呼吸が荒い。

「じね…じね…」

 ふらんの鬼のような形相に気圧されたのか、二匹になったれみりゃは子れいむと子まりさを連れた
まま巣穴の外に飛び出した。

「ゆぎぃぃぃぃぃぃ!!!」
「ざむい゛よぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 遠のきかける意識の中、二匹の子ゆの悲痛な叫びが聞こえてくる。

「ふらんの…ふらんの…がぞぐにでをだずな゛ーーーーーー!!!!!!」

 追って巣穴の外に飛び出すふらん。叫んだ言葉には気づいていなかった。

 外には雪が積もっている。一面の銀世界の中、ふらんはれみりゃと格闘を続けていた。子れいむと
子まりさはあまりの寒さにガチガチと歯を鳴らし、凍えている。時間をかけることはできない。

 れみりゃの拳が深々とふらんの腹部にめり込む。嗚咽を上げるふらん。それでもふらんは攻撃をや
めなかった。だんだん、れみりゃサイドにも恐怖の色さえ見え始める。

「に…にげるどぉ!!!!」
「ざぐやーーー!!!!!!!」

 ついに捕まえた子れいむと子まりさを放り出して逃げだすれみりゃ。雪の中で凍死寸前の子れいむ
と子まりさのもとに、体中に傷を負ったふらんが這い寄る。

「ざ…ざざざ…ざぶい゛…よぅ…」

 涙さえも凍りつこうとするほどの寒さの中、ふらんもまた意識を保つのに必死だった。子まりさは
息はあるものの話す気力はないようだ。二匹を抱き寄せ、降り積もる雪の下、ふらんはうずくまる。
もう動くことはできない。今のふらんにできることは二匹を寒さから守ってやることだけだった。

 ふらんの体温で暖められた子れいむがふらんに訴えかける。

「ぶら゛んぅ…ふらんだけでも…おうぢにがえっでねぇ…!!!」

「……い゛…や゛…」

 そんな体力など残っていない。巣穴はすぐそこだが。ふらんの足はれみりゃとの戦いで使い物にな
らなくなっている。這っていくには無理があった。子れいむと意識を取り戻した子まりさは、ふらん
の頬にすーりすーりしたり、ぺーろぺーろしたりしている。

「…………」
「…………ゅ」

 二匹が視線を巡らせ、何かを決意したかのようにふらんの瞳を見つめる。その瞳は澄んだものだっ
た。そこには目をギラつかせ、常に獲物をいたぶり殺す残虐なふらんのものではなかったようにさえ
思える。

「「おたべなさい!!!」」

 叫ぶ、二匹の子ゆ。二匹はぷるぷると体を震わせている。

 …ゆっくりは、自分をゆっくりさせてくれた“飼い主”…あるいは大切な人物に自分を食べてほし
いという願いを持っている。もっとも、今ではそこまで自分たちに優しくしてくれるような種族が存
在しないことから、ゆっくりの本能からさえも消えかけていたものであったが。

 二匹の子ゆはその“おたべなさい”をふらんにした。根幹は同じゆっくりである、ふらんにもその
意味は理解できる。これから何が起ころうとしているのかも。震えているのは自分の顔を半分に割ろ
うとしているためだ。二匹をさらに強く抱きよせ、それを制するふらん。

「ゆっ!!やめてね!!!これじゃゆっくり“おたべなさい”できないよっ!!!」
「まりさたちをたべてすあなにかえってねっ!!!ふらんは…ふらんは…まりさたちのぶんまでゆっ
 くりしていってねっ!!!!!」

 覚悟を決めた二匹のゆっくりの悲痛な訴えに、ふらんが涙を流す。

「…おまえら………ふらんの……だいじな、かぞく」

 予想だにしなかった言葉に思わず息を呑む、子れいむと子まりさ。焦点の定まらない瞳をなんとか
二匹の子ゆに向け、無理矢理微笑むふらん。



 三匹は同じだったのだ。

人間によって家族を失い、一人ぼっちになったふらん。
捕食種によって家族を失い、一人ぼっちになった子れいむ。
ふらんによって家族を失い、一人ぼっちになった子まりさ。

 生きるためだった。生きるためにふらんは子まりさの一家を殺した。そして、ここにきてようやく
気づいた。子まりさを一人ぼっちにしてしまったのがふらん自身であり、心のどこかでそれを申し訳
なく思っており、冬を迎える前に殺すという選択肢を選ぶことができなかったことに。

 子れいむを一人ぼっちにさせてしまったのも、ふらんと同じ捕食種。理解はできている。それが弱
肉強食の世界だということに。捕食種に…ふらんに捕えられることで二匹の子ゆもそれを理解してい
た。自分たちが芋虫を食べなければ生きていけないように、ふらんたち捕食種もまた、自分たちを食
べなければ生きていけないということに。

 だから、二匹の子ゆはふらんに自身を食べてもらおうとしたのだ。

 しかし、ふらんはそれを拒否した。

 子まりさにとっても…ふらんは大切な存在になっていたのだ。家族を殺されたのを忘れてしまった
のもあるかも知れない。それでも…一緒に過ごした日々はかけがえのないものになっていた。

 三匹はもう喋らなかった。

 ふらんの体も少しずつ冷たくなっていく。



「ゆぅ…ふらん…れいむ…なんだかねむくなってきたよ…」


「まりさも…だよ…」


「うー…ねんね…する…ぞ…」


「いっしょに…すーやすーや…しようね…」


「ゆっくり…しようね…」







 夜が、明けた。

 三匹は寄り添い、幸せそうな寝顔のまま、とてもとてもゆっくりしていた…。









終わり




過去5作


日常起こりうるゆっくりたちの悲劇をこよなく愛する余白あきでした。



トップページに戻る
このSSへの感想 ※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね!
感想

すべてのコメントを見る
  • ↓何が悪い、いい話だろうが
    これが嫌なら他の作品でゆっくりしてってね!! -- 2022-12-23 17:44:38
  • 何普通のいい話で終わってんだよ -- 2017-11-24 15:17:21
  • あれ…なんでだろうただ捕食種と通常種が戯れているだけなのに目から汁が止まらない… -- 2017-10-30 20:05:06
  • うおっと目から
    肉まんの汁が -- 2016-08-01 12:21:01
  • ん!?目があああああああ!目がああああああああ!目から塩水があああああああ! -- 2016-05-02 23:13:39
  • 面白かった

    -- 2015-10-10 19:43:54
  • マスパ打てそう -- 2014-04-09 16:10:01
  • うう…ゆぐっひぐっふえぇ -- 2013-11-13 21:35:18
  • うう…目から海水が…あれ?…止まらないなぁ… -- 2013-07-29 12:33:38
  • 餡子共が死んだらふらん無駄死にやん… -- 2013-07-06 03:32:03
  • 食べる者、食べられる者、妙な関係ながらもいい話でした -- 2013-06-04 02:16:45
  • 目からきょんきょんが・・・ -- 2013-01-25 11:55:08
  • 良い話じゃないか、それ以外に何も無いぜ・・・ -- 2013-01-21 07:10:50
  • めっさいい話だなぁ~
    -- 2012-04-30 17:22:59
  • 「うおー!!感動したぜ!!」     byフランキー -- 2012-04-28 19:58:26
  • あれ?目からポーションが・・・ -- 2012-03-15 21:16:20
  • イイハナシダナー(;▽;) -- 2012-02-21 11:10:50
  • 「うー」ってれみりゃじゃないの?ふらんも「うー」とか言うの?
    にわかだからよく分からんのだが… -- 2011-10-12 10:43:26
  • イイハナシダナー… -- 2011-07-14 19:33:03
  • (´;ω;`)ブワッ -- 2011-05-30 04:13:04
最終更新:2009年10月25日 21:24
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。