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「いや、いやいや……」
 笑顔を浮かべて、ないない、と手を顔の前で何度も左右に振る。
 これまで、思わず絶叫してしまうくらい理不尽な状況には何度も直面してきた。
 誇張抜きで死ぬと思ったことだって一度や二度じゃない。
 それでも――幾ら何でもこんなことはない。現実離れにも程がある。
「殺し合い? 願いが叶う? 反抗したら首輪がドカン? 
 いやいやいやいや……今日び売れない怪談家でもこんな質の悪いこと考えないでしょ……」
 我ながら想像力が豊かだなあと、我妻善逸は苦笑して自分の頭をコツンと叩いた。
 幾ら何でもこれはない。こんなことは、夢に決まっている。
「大体あのドフラミンゴとかいうおっさんどう見ても鬼じゃなかったし、それが夢だって証拠だよ。
 あー心配して損した。夢ならこの鬱陶しい首輪も力ずくで外して問題ないよね、あはははっ」
 笑いながら善逸はガンガンと首輪を引っ張る。
 すると甲高い音が鳴り響いて、人間のそれとは思えない無機質な声が流れ出した。
『首輪に過度の衝撃を感知しました。それ以上刺激を加えた場合、ルールに基づき首輪を起爆します』
「ア゛―――ッ待って待って!! 嘘です冗談ですやめで下さいぃぃぃ!!!!」
 お世辞にも綺麗とは言えない高音の悲鳴を上げながら打って変わってのたうち回る善逸。
 彼は見ての通りドの付く臆病者だが、しかし腐っても対鬼の精鋭、鬼殺隊の隊員だ。
 少なくとも、目の前の現実を理解することも出来ない馬鹿ではない。
 ……とはいえ、それを受け入れられるかどうかはやはり別なのだったが。
「ホントどういうことだよ俺何か悪いことした!?
 してないよねいやそりゃ少しはしたこともあったかもしれないけど此処までされるようなことは絶対にしてない!!」
 早口で捲し立てても、状況が好転するわけではない。無駄に疲れるだけだ。
 それは善逸も分かっているが、それでもやはり我慢できるものではなかった。
「大体願いを叶えるってなんだよこんなことしでかす奴がそんな親切してくれるわけないじゃん!
 ああああああもう嘘臭い不思議神通力とか要らないですから早く俺を帰して下さいお願いしますお願いします」
 殺し合いなんてする気はない。
 かと言って乗った参加者と戦うのも怖い。
 そもそもこの状況自体が、既に耐えられないくらい。
 纏めて言うと、帰りたい。
 それが今の善逸の思考の全てだった。
「うわ炭治郎も呼ばれてるのか……いや俺が呼ばれててあいつが呼ばれてなかったら怒るけど。
 ていうかむしろ何で伊之助のバカは呼ばれてないんだよ、あいつ後で絶対一発殴るからな……」
 善逸の知り合いで同じようにこの殺し合いに巻き込まれているのは、二人だった。
 一人は竈門炭治郎。時偶腹が立つことはあるが、まあ、殺し合いにはまず乗らないだろう男だ。
 もう一人はその妹、竈門禰豆子。善逸的には炭治郎よりも、彼女のことが心配だ。何故か。可愛いからである。
「でもとりあえず炭治郎と会いたいな……俺こんな状況でずっと一人だったら半日で白髪になる自信あるよ」
 幸い、使い慣れた自分の日輪刀は手元にある。
 もし参加者に鬼が混じっていても、一応自衛くらいは出来そうだ。
 もちろんそれは最悪の場合の話であって、善逸はそんな事態が起きないことを心の底から祈っている。
 ひとまず、炭治郎ないしは禰豆子を探す。
 何とか当面の方針を決め、歩き出そうとした――その時だった。
「そこの、ちと止まれェ」
「ヒィッ!?」
 重い声が掛かった。
 善逸はいきなり背に冷水を垂らされた野鼠のように飛び退いて、声のした方を見る。
 そして、震えも悲鳴も忘れて息を呑んだ。
 視線の先に佇む男が持つ余りの存在感に、時が止まった錯覚すら覚えた。

 鬼気――
 我妻善逸が、その男から感じたのはそれだった。
 白い帽子を被り、外套に身を包んだ初老の偉丈夫。
 その体格は、最早人間の規格を超えている。
 少なくとも、身長は二メートル半を優に超しているだろう。
 強面の人相は、しかし彼が放つ底知れない気迫の前では気にもならない。
 この世のどんな人間が見ても、きっと一目で解る。
 この人は今、激怒しているのだと。
「安心せェ。ドフラミンゴ如きの道楽に乗る程わしは腐っちゃおらん。ただちぃとばかり、お前に訊きたいことがあるだけじゃ」
 その物言いは、あのドフラミンゴを知っているかのよう。
 だが善逸には、とてもじゃないがそれを訊くことなど出来なかった。
 下手なことを口にしたら死ぬと、本能的な直感があったからだ。
「"麦わら"……モンキー・D・ルフィ、ヴィンスモーク・サンジ」
 覚えはあるかと問う巨漢に、善逸はぶんぶんと勢いよく何度も首を横に振るしかなかった。
 もちろん嘘ではない。嘘をつく理由もなかったが、下手な嘘を言おうものなら一発でバレると善逸は確信していた。
 答えを訊くと、真偽を確かめるように上方から男は彼の両眼を見下ろし――軈て瞑目し、口を開く。
「そうか――手間ァ取らせて悪かったのォ」
 謝意を示す男の表情は、微塵も晴れていない。
 明らかな"怒"の色彩を貼り付けた、巌のような顔貌。
 正直な話、下手な鬼の百倍は怖い。善逸は、そう思った。
「此奴らは"海賊"じゃ。自由だ何だと謳いながら奪い、殺し、弱者を嘲り笑う……そんな、生きる価値もない"悪"よ」
「か……海賊?」
 大正時代の人間である善逸にはイマイチピンと来ない。
 だが、私欲の為に他人から奪い、自由に殺す……そんな連中が少なくとも"善"ではないことくらいは善逸にも分かる。
 それでは、鬼と何ら変わらないだろう。
 理解したくもないし、一生涯お近付きになりたくないもんだと思う。
「……尤も、屑は奴らだけじゃあなし。
 天夜叉風情の口車に乗って己の生の為だけに暴れ回る連中も、揃って其奴らと同じゴミじゃ」
 善逸はテンパる余り、愛想笑いを浮かべながら金魚のように口をぱくつかせていたが、彼の主張は大いに共感出来た。
 あんな胡散臭さが服を着たような男の言うことを信じた馬鹿のせいで人生終了なんて、本当に堪ったものではない。
「お前に戦う"力"があるんなら、そういうゴミ共を駆逐することじゃ」
「はい?」
「人間、正しくなけりゃあ生きる価値なし。ドフラミンゴの傀儡に堕ちた軟弱者なんぞ、息を吸うことも認めん」
 善逸は、浮かべていた愛想笑いをあからさまに引き攣らせる。
 そして、彼は思うのだった。失禁しそうなくらいの恐怖の中、心の中で膝から崩れ落ちながら。
“そ――そういう系かぁ……”
 ほんの一瞬、見た目はアレだけどいい人だな! 良かった良かった!とか思った自分を思い切り殴ってやりたい。
 確かに志自体は正しいのだろうし、殺し合いに乗っていないのも確かなのだろう。
 しかし思想が幾ら何でも極端過ぎる。要はこの男、殺し合いに乗った人間を片っ端から殺し尽くそうとしているのだ。
 ふん縛っておくなり何なりやり方はあるだろうに、対話の余地すら無しに皆殺しにするつもりでいるのだ。
 どう考えても、ヤバい奴である。善逸は己の不運を呪うと共に、一刻も早くこの過激思想の擬人化から逃れたいと思った。
「今わしが言ったことを肝に銘じて生きることじゃ。
 そうでなければ――悪辣な夜叉小僧の仕組んだこの殺し合い、生き抜くことは出来んぞ」
 善逸のそんな願いが天に通じたのかもしれない。
 巨人のようなその男は善逸から視線を外すと、彼の隣を通り過ぎ、闇の中へと向かっていった。
 ――だがその足が、突然止まる。早く行って欲しい一心で後ろ姿を見送っていた善逸の心臓も止まりそうになった。
「もしも、お前が"悪"に堕ちるつもり言うんなら、そん時は覚悟しておけェ」
 首から上だけが、振り返る。
 ギロリ、と善逸を睥睨する瞳は、人間のものとはとても思えなかった。
「そん時は――わしが、お前を裁くけェの」
 善逸は走った。
 脱兎の如く、走った。
 ギャアアアアアと、盛大な悲鳴を上げながらの大爆走だった。
 誰かに見つかるかもとか、そんなことを考えている余裕さえなかった。
 そして、胸に誓う。
 たとえこの先どんなことがあって、どんな怖い思いをしようと。
 "実験"に乗ることだけは、絶対にやめよう。あのおっさんとはもう二度と会いたくない。


【一日目 深夜】
【E-7 海周辺】

【我妻善逸@鬼滅の刃】
[状態]恐怖(超極大)
[装備]善逸の日輪刀@鬼滅の刃
[支給品]基本支給品一式、ランダム支給品1~2
[思考・行動]
基本:帰りたい(切実)
 0.この場から離れる。早急に。でないと死ぬ。
 1.炭治郎と禰豆子ちゃんを探す。
 2.殺し合いとかふざけんなよほんとお前やっていいことと悪いことがあるだろせめて俺を呼ぶなよなんで俺を呼んだんだよお前聞いてんのかお前
[備考]
※少なくとも、蜘蛛鬼戦前からの参戦です。

  ◇

 叫びを上げながら走り去っていった少年を、海軍大将――サカズキは追いはしない。
 サカズキは、悪を裁き善を護る正義の海兵としての仕事を既に何十年と続けている身だ。
 その人物が善玉かどうか、悪に堕ちる可能性があるかどうかは、少し言葉を交わすだけでもある程度分かるのだ。
 その点先の少年――我妻善逸は、サカズキの目から見ても危険には見えなかった。
 臆病者ではあるのだろうが、だからと言って他人を踏み台にして生き残ろうとするタイプではない。
 最後に忠告はしたものの、それが無くとも、彼は反主催を貫いていただろうとサカズキは思う。
「"天夜叉"ァ……これだけのことをわしの目の前でしでかしたんじゃ、死ぬ覚悟は出来ちょるんじゃろうなァ」
 善逸の第一印象は、正しい。
 サカズキは今、かつてないほどに激昂している。
 海軍の中でも最も苛烈な正義を掲げる彼の目の前で、あのドフラミンゴは殺し合えと宣った。
 そして今己は、そんな度し難い邪悪に首輪を填められ、奴の遊戯の駒にされている。
 海兵として生きてきて、色々なことを経験した。
 怒りに腸が煮えくり返り、咆哮したことも数え切れない程ある。
 それでも――これほどの屈辱を味わった試しはなかった。
 ドフラミンゴはサカズキに、最悪の形で喧嘩を売ってきたのだ。
「"やり過ぎ"じゃ……お前は一線を超えた。
 七武海じゃろうが最早関係無し。このわしを侮ったことが、お前の破滅する理由よ」
 無論、サカズキが倒すべき敵はドフラミンゴ一人ではない。
 彼の口車に乗って殺し合いを始めた者達も、彼の"正義"を執行する対象だ。
 悪を許さない燃え盛る正義の前に、一切の免罪符は存在しない。
 更に、これはサカズキとしては非常に癪だったが――彼にとって都合のいいこともあった。
「運が無かったのォ、"麦わら"」
 麦わらのルフィと、その船員(クルー)である黒足のサンジ。
 どちらも、高額な懸賞金の掛けられた賞金首だ。
 たとえ反主催の立場を掲げていたとしても、サカズキが彼らの存在を許すかと言えば、それは断じて否。
 海賊であるという時点で、サカズキは彼らを決して許容しない。
「兄の次は弟じゃ。"火拳"を殺した時のように、お前の腹にもわしのマグマを見舞っちゃる」
 ポートガス・D・エース。通称"火拳のエース"と呼ばれていた大海賊は、"麦わら"ことモンキー・D・ルフィの兄である。
 しかしながら、もう彼はこの世の何処にもいない。サカズキがその手で処刑したからだ。
 小癪にも生き延びた火拳の弟、次代の脅威をこの場で処断出来るとなれば、まさしく僥倖。
 ――ドフラミンゴを仕留めるまでの手慰みとしては丁度いい。
 彼はマグマを操る能力者。灼熱で悪を焼き尽くす、"赤犬"。
 信じた正義を微塵も疑うことなく、猛犬は進む。


【サカズキ@ONE PIECE】
[状態]健康、憤怒
[装備]なし
[支給品]基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考・行動]
基本:"正義"を執行する
 0."麦わらのルフィ""黒足のサンジ"を探しながら、殺し合いに乗った参加者を屠る。
[備考]
※マリンフォード頂上戦争終了直後からの参戦です。
※制限により、自然系の特性(攻撃透過など)は失われています。

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最終更新:2017年02月28日 20:16