悪い夢みたいだ――荒れ果てた校舎の一室で、膝を抱えて蹲る少年・野比のび太は一人そう呟いた。
のび太は何処からどう見ても普通の小学生だが、彼の辿ってきた経歴を聞いたなら、誰もが目を見張って驚くだろう。
彼はこれまで、未来の世界から来た猫型ロボットや自分の学友達と共に、何度も何度も大きな冒険をしてきた。
だから、多少の突飛な事態には慣れている。
しかし、今回のことは流石に"多少"の枠を逸していた。
「人を……人を、あんなに簡単に……」
殺すなんて、と続けてのび太は膝の間に顔を埋める。
ドンキホーテ・ドフラミンゴ。そう名乗った男は、まだ中学生くらいだろう少女を笑いながら惨殺した。
首が飛ぶ瞬間も、死体に泣き縋る人達の姿も、のび太はついさっきのことのようにはっきり覚えている。
言うまでもなく、人が殺される瞬間を見たのは初めてだ。
「うう、助けてよぉドラえもん……」
のび太は誰かを殺す気など全くない。
だからと言って、もちろん死にたいわけではない。
となると生き延びる方法はドフラミンゴを倒して実験を止めるだけだが、それを邪魔するのが今も首を戒めている鋼鉄のリングだ。
もしもこれを無視したり、破壊したりしようとすれば……最初の彼女のようになる。
機械を弄ることに慣れた人間なら望みはあるのかもしれないが、少なくとものび太にはそんな芸当は不可能である。
そこで彼の脳裏に真っ先に浮かんだ"希望"こそが、彼にとって家族同然の存在である未来のロボット――ドラえもんだった。
“機械を改造する道具なら、確か幾つかあった筈……”
二十二世紀の技術力は、二十一世紀のそれとは比べ物にならない。
空を飛ぶ、自由に何処にでも移動する、物体のサイズ変更、時間跳躍、並行世界への移動。
のび太らしい言い回しに直すなら、"何でもあり"だ。
そんな未来の道具を数え切れないほど持つドラえもんならば、こんな首輪程度、きっとどうにかしてしまうだろう。
――ドラえもんの四次元ポケットが万全な状態であれば、だが。
「でもなあ……」
のび太も流石に学習している。
いつもこういう時に限って、彼の道具は故障したり修理に出していたりするのだ。
それに何より、自分達を集めたドフラミンゴがひみつ道具の有用性を把握していないとは思えない。
そう考えると……多分、ドラえもんの道具は没収されているだろう。のび太は、そう考えていた。
こうなると、八方塞がりだ。先の見えない夜闇の中を、闇雲に歩いて行くようなもの。
今まで色々な冒険をしてきたが、今回ばかりは駄目かもしれない。
弱気に駆られ、闇の中で縮こまるのび太だったが――
“ジャイアン達も居るんだよな――みんな、大丈夫かな……”
巻き込まれたのはドラえもんだけではない。
剛田武、骨川スネ夫。
のび太の大切な友人達も、この恐るべき殺し合いに参加させられている。
何より質が悪いのが、自分達に間違いなく恨みを持っているだろう人間までもが呼ばれていることだ。
ギガゾンビ。二十三世紀の時空犯罪者。自分達の活躍が原因で、牢獄にぶち込まれた男。
“ギガゾンビの奴が、まさか憎っくき僕らに何もしてこないとは思えない。
それ以前にあいつのことだ。きっと、ドフラミンゴが言ってた"力"を欲しがって……”
殺し合いに、乗ってくる。
のび太の背筋にぶわりと、冷たいものが走った。
「ダメだ――こんなことしちゃいられない!」
野比のび太は臆病な少年だ。
しかし、腰抜けではない。
いざという時に震える足を無理矢理動かしてでも、誰かの為に戦える熱い魂を秘めている。
そんな彼だから、友達が危機に晒されていることを察した途端、彼らを助けねばという使命感が恐怖に勝利した。
デイパックを急いで背負い、震えを押し殺して立ち上がる。
“とにかく誰か、一緒に行動してくれる人を探そう――”
それはともかく、この不気味な学校からは早く抜け出したい。
何年も使っていないみたいに床には埃が積もっていて、窓ガラスなどは所々割れている。
……はっきり言うと、何か出そうでのび太としては気が気でないのだ。
殺意を持った他人もそうだが、幽霊を恐れることも忘れない辺りが実に彼らしい。
急ぎ足で教室の出口まで駆けていき、勢いよくドアを開け放つ。すると――
廊下に、誰かが立っていた。
帽子を被った、暗い顔をした女の子だった。
お化け屋敷顔負けの不気味な廃校を早く出たいと願う、のび太。
その前に突然現れた、少女。
となれば、どうなるか。
「ぎゃあああああああああああ!! お、おおおおおおお、お化け――――――っ!!!!」
……当然、こうなる。
◇
酒己達子は混乱していた。
次から次へとわけの分からないことが起こり過ぎて思考が追い付かない。
変な妖精が現れて自分を魔法少女にした。
悪い魔法少女をやっつける為に戦わされることになった。
この時点で、もう達子のキャパシティはいっぱいいっぱいだった。
だというのに、いつの間にか見慣れた街から景色が変わっていた。
高笑いを上げながら現れた派手な身なりの巨漢――殺し合いをしろと、そう言われて。
反抗した少女が、見せしめのように殺された。
整理の付かない内にまた意識がなくなって、目が覚めたら知らない学校に居て。
“なにが、どうなってるの……”
彼女の今の心境は、その一言に集約される。
端的に言って、理解が追い付かない。
結局あのトコとかいう妖精は何だったのか。
そもそもドフラミンゴはトコの関係者か何かなのか。
それとも、トコが言うところの"悪い魔法少女"関係なのか。
どちらにせよ、達子にしてみればとばっちりもいいところだ。
「レイン・ポゥ……香織ちゃんもいるんだ」
おかしいのが、トコの一件に関与していた人物が自分を除けばレイン・ポゥ……友人の三香織しかいないことである。
キャプテン・グレース、ファニートリック、繰々姫、ウェディン、テプセケメイ。
彼女達五人の名前は、少なくとも配布された名簿には載っていなかった。
何か意図があるのか、それともただの偶然か。
達子は、そんな事情に興味はなかった。
彼女の頭にあるのはただ一つ――香織と一緒に、早く元の日常に帰りたいということだけである。
達子は殺し合いに乗る気はなかったが、他の参加者までそうだとは限らない。
人間のままで居るよりは、変身しておいた方が格段に安全だろう。
魔法少女の精神力に頼って気分を少しでも楽にしたいという思いもあって、達子は素早く魔法少女・ポスタリィに変身した。
「はあ……」
変身することで、狙い通り少し気は楽になった。
しかしそれでも、憂鬱な気分は変わらない。
「どうしようかな……」
香織と合流したいのは言わずもがなだが、地図に記された会場の大きさは結構なものだ。
この広い島の中から目当ての人物を探し出すのは簡単ではないだろう。
そのことが、ポスタリィの憂鬱に余計拍車を掛けていた。
魔法少女に変身しているとはいえ、こんな状況の中で無暗に出歩くのは気が進まないが――そんなことを言っていては、いつまでも香織に会えないままだ。
とにかく一刻も早く、ポスタリィは親友の少女に会いたかった。
その為なら多少の怖い思いはしても仕方ないと思うくらいに、虹の魔法少女を求めていた。
なるべく物音を立てないようにしながら、荒れ果てた学校の中を進むこと数分。
とある教室の前に差し掛かった、その時だった。
バン! と勢いよく開け放たれる扉。
突然の出来事に、ポスタリィの心臓が飛び出そうなくらいに跳ね上がる。
だが驚いたのは、何もポスタリィに限った話ではない。
扉を開け、教室の中から飛び出してきた少年が、丸い目をこれでもかとばかりに見開いて、絶叫した。
「ぎゃあああああああああああ!! お、おおおおおおお、お化け――――――っ!!!!」
◇
「……成程。そういうことだったのか」
ごめんなさい、と平身低頭なのび太。
私の方こそ……と控えめに謝意を受け止めつつも、ばつが悪そうにしているポスタリィ。
そんな二人から事情を聞いたサラリーマン風の成人男性――吉良吉影は、呆れたように嘆息した。
地図上では希望ヶ峰学園、と記されているこの廃校の中を探索していた吉良もまた、突然轟いた絶叫に驚かされた。
どうするか迷った末、足音を極力殺しながら近付いていき……後は殆ど成り行きで今に至る。
「わたしが"乗っている"参加者ではなかったからいいものの……軽率に大声を出すのは控えるべきだよ、のび太君。
人間って生き物は、所詮善人より悪人の方が多いんだ。不用意な言動は、君の命を縮めることになる」
「うう……」
吉良達は既に自己紹介を終え、互いの名前を把握していた。
野比のび太と、ポスタリィ。
いきなりしょうもない騒ぎを巻き起こしてくれた緊張感のなさに苛立ちを覚えない訳はなかったが、余り心証を悪くする立ち回りは後々自分の首を絞める。
特に元凶であるのび太には出来るならこの場からさっさと消えてほしいとすら思っている吉良だったが、そこはぐっと堪えた。
“だが、切り時は早い方が良いだろうな。
わたしはこんな場所で死ぬつもりなど毛頭ない。まして、低能なガキのお守りに殉ずるなんてまっぴらだ”
吉良吉影という男は、見た目通りの平凡なサラリーマンである。少なくとも、表向きは。
規則正しい健康的な生活と、健全で最小限度の人付き合い。
成功し過ぎて恨みを買うことはせず、かといって失敗し過ぎて愚鈍の誹りを受けることもない。
周囲からの評価は決して悪くないが、これといって目立った特徴のない、影の薄い男。
“本当に腹立たしいことだが、わたしの心の平穏を脅かす奴が最近よく現れる。
……その中でも、貴様は"最悪"だ。貴様こそ間違いなく最低最悪のゴミクズ野郎だよ、ドンキホーテ・ドフラミンゴ”
二人に背を向け、吉良は一人強く己の爪を噛む。
波風の立たない平穏な人生を何よりも愛する彼にとって、今の状況は耐え難いものがあった。
自分の本性を他人に、しかも同じ"スタンド能力"を持つ能力者に知られるという窮地を脱した矢先に、これだ。
新しい顔と身分で今度こそ平穏に暮らそうと思っていたのに、あのドフラミンゴはそれを嘲笑い、土足で踏み躙ってくれた。
殺してやりたいと――吉良は思う。
ただ消し飛ばすだけでは飽き足らない、全身を寸刻みにして、ガソリンをぶっ掛けた上で焼き払ってやりたい。
それほどまでに、吉良はドフラミンゴを憎悪していた。
やっとの思いで取り戻した平穏を台無しにしてくれた下衆外道に、身が焼けるような怒りを覚えていた。
“とはいえ、極論生き残れればそれでいい……このクソッタレな実験を壊す結末でも、わたしが実験の勝者となる結末でも、どちらでも構わない。
わたしの杜王町に帰ることが出来るのならば、贅沢は言わないさ”
しかし吉良は、怒りで我を忘れるような真似はしない。
あくまで目指すのは生存と帰還……その過程は何でも構わないというのが、彼の考えだった。
殺し合いに背くにしろ、反主催派に潜り込みつつ何処かで掌を返すにしろ、生きてこの会場を出られるのなら文句はない。
“問題は仗助や承太郎の存在……川尻の名を使えばいきなりバレはしないだろうが、名簿に載ってすらいない名を名乗る時点で疑われるのは避けられないだろうな。
のび太達は特に苦もなく騙せたからいいが……その辺りも追々、考えていく必要があるか”
そして出来ることなら、"吉良吉影"の本性を知っている杜王町のスタンド使い達は早い内に消し去っておきたい。
自分と関わりのないところであっさり死んでくれていれば一番良いのだが、忌まわしいことに彼らは揃って腕が立つ。
いつかは、顔を合わせる時も来るだろう。その時自分は、失敗なく立ち回って彼らを欺かねばならない。
考えるだけでも胸がキリキリする。つくづくこの殺し合いは、吉良を苦しめるストレス案件で満ちていた。
“それにしても――”
吉良はその視線を、手近な二人の片方、ポスタリィへと向ける。
顔も其処らのアイドルが裸足で逃げ出すくらいに可憐だが、吉良が注目したのはその"手"だった。
美しい。白くてシミの一つもない、絹で仕上げたみたいな手。
あれが欲しいと、吉良は心の底からそう思う。
この激しいストレスを少しでも癒すために、あの可愛らしい手を"恋人"にしたい。
彼女の手を手に入れられたなら、このドロ付いた気分も少しはスッキリする気がする。
“ポスタリィさんか……フフ、悪くない……いや、"良い"ぞ。彼女の手は、とてもいいッ!!”
――吉良吉影という男は、見た目通りの平凡なサラリーマンである。
――少なくとも、表向きは。
杜王町の殺人鬼――"キラークイーン"のスタンド使いは、郵便屋の魔法少女を標的に定めた。
【一日目 深夜】
【I-8 希望ヶ峰学園】
【吉良吉影@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]健康、ストレス(大)
[装備]なし
[支給品]基本支給品一式、ランダム支給品1~3(確認済、武器あり)
[思考・行動]
基本:生存最優先。
0.反主催派の中に潜り込み、無害な一般人を装う。
1.のび太、ポスタリィと行動。だが機を見て切り捨てる。
2.取り敢えずは『川尻浩作』を名乗って行動する。
3.ポスタリィの"手"が欲しい。
4.仗助を始めとした杜王町のスタンド使い達は全員排除する。
[備考]
※『川尻浩作』としての生活を始めた直後からの参戦です。
【ポスタリィ@魔法少女育成計画シリーズ】
[状態]健康
[装備]なし
[支給品]基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考・行動]
基本:帰りたい。
0.川尻さん、のび太君と行動。
1.香織ちゃん(レイン・ポゥ)に会いたい。
【野比のび太@ドラえもん】
[状態]健康
[装備]なし
[支給品]基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考・行動]
基本:ドフラミンゴを倒して、皆で元の世界に帰る
0.川尻さん、ポスタリィさんと行動。
1.ドラえもんやジャイアン達と合流したい。
2.川尻さんをこれ以上怒らせないようにしないと……。
最終更新:2017年03月04日 18:36