第1話 飛行船

 なんだかんだあって錬金術師が仲間になった。それから俺たちは村の外でヘ ルメスの話を聞くことにした。

「それでどこに行けば情報を集められるんだ?」
「それよりも先にお前の正体を教えてくれ」
「な、なんのことだ?」
「隠さなくていい。異世界のことを知りたい奴なんてそうそういないからな。 何か事情があるんだろ?」
「あ、ああ。笑ったりしないか?」
「真剣な奴を笑う気はない。これ、俺のモットーのひとつ」
「わかった。俺はこの世界の住人じゃない。別の世界から来た」

 ヘルメスは驚いた表情をして頷く。

「そうか…なるほど」
「可笑しいと思うか?」
「ん?まあ、変わっているとは思うが真実なんだろ」
「あっさりしてんな」
「異世界のことが伝わっているこの世界だ。だったらどこかにそんな幻想の存 在がいても不思議じゃない」
「………」
「どうした?そんな鳩がスナイパーに撃たれたような顔をして」
「それは死んでます」
「ハハハ。冗談も通じないのかい」
「いや、そういうわけではないんだが…、ほんとに信じるのか?」
「ああ。とはいっても箱入り娘のティアちゃんもそう変わらないから。簡単に いってしまえば…」
「つまり俺たちは世間知らずだと」
「まあそういうことで」
「なんだかイラッとしますね。その言い方だと」
「まあまあ、実際にティアちゃんは物事をあまり知らないでしょ?」
「そうですけど…」
「良かったら今度男女の夜の運動でも」
「ヘルメス、ちょっとこっちに来い」

 俺はヘルメスを掴んでティアの見えないところまで連れていく。

「ちょ、エイル、待…」

 ヘルメスが痛がっているが俺もティアも気にしない。

「…痛たた。さ、さて行こうか」
「行こうかってどこにだ?」
「調べものなら良い場所がある。この世界のというか、この国のことが全て集まるところ」
「王都ですね」
「そう、王都エリンシアだ。あそこには俺の知り合いの情報屋がある」
「へえ、お前に仲の良い奴なんていたのか」
「俺が嫌われているのは村の奴らだけだ」
「でもあそこに行くには飛空船に乗らないといけないんじゃ」
「飛空船?なんだそれ?」
「ん?エイルは知らないのか?」
「俺の居た世界に飛空船なんてものはなかった。どんなものなんだ?」
「私も本とかでしか知らないんですよね」
「う~ん。口で言うより実物を見たほうが早いな。さっさと行くか」

 今度の目的地は王都エリンシアに決まった。飛空船とはどんなものなんだ?



   (港町ルズランにて)


 港町とだけあって多くの人で賑わっている。

「ここは交易が主な仕事なんだ。俺も何回もここで錬金の材料を買っている」
「海の近くなんだな」
「まあな」
「飛空船て空を飛ぶんだろ?」
「『飛空』船だから当たり前だ。それがどうした?」
「海が近くにあるのになんで空を行くんだ?」
「えっと…それはだな…」
「確か、海の魔物に襲われないようにですよ」
「ティア、知ってるのか?」
「一応本で読んだ程度ですけど」
「そっか。でもさ、空にも魔物は居るだろ?」
「そうですね。でも、比較的に海に居る魔物より空の魔物のほうが戦いやすい そうです。海だと船から落とされたら行き場がないですし。だけどもしもの時 のため、民間用の飛空船では操縦士が風属性の魔術でどうにかしてくれるそう です。」
「へえ。ティアは物知りなんだな」
「そんなことないですよ。本で得た知識ですし」
「謙遜しなくてもいいよ、ティアちゃん。本当によく知ってるよ」
「ヘルメスさんは知らなかったんですか?」
「え、いや、ちょっとど忘れしててな…」
「とはいっても私も実物は見たことないから楽しみです」



   (飛空船搭乗前)


 飛空船はなんと言えばいいだろうか。大きな金属の塊だ。到底この塊が空を 飛ぶなんて想像がつかない。

「すげぇ…。これが飛ぶのか…」
「絵で見たのよりも大きいです…」
「何を驚いているんだ二人とも。これからこれに乗るってのに」
「ほんとにこんなのが飛ぶのか?」
「そうだよ。この国じゃ普通のことだ」
「俺の世界じゃ、魔術で浮かすのも部屋一つ分が限界だぞ」
「この世界では科学という魔術とは別の技術が発達してるんだ。ホムンクルス とかだって科学が必要となるモノだ。こっちじゃ科学と魔術をうまく複合して 色々なものを作っているんだ」
「科学とかいうのはこっちにもあったが、科学と魔術を組み合わせるなんても のはなかったな」
「エイルさんの世界は科学技術が発達してないんですね」
「魔術に関してはそれなりに進歩しているんだけどな…」
「とりあえずエイル」
「なんだ?」
「これからはできる限り人がいるところで別世界の話はするな」
「どうしてですか?別に可笑しなことでは」
「俺みたいに理解があって世界の研究をしていないならいいんだが、一部の研 究者は無理やりにでも人を攫ってやる奴とかいるから危ないんだ。そうじゃな くても、変な目で見られるからな」
「わかった。気をつける」
「よし、じゃあ王都に行くとするか。まずはそこのカウンターで手続きをする んだ」

 俺たちはヘルメスが指さした方に向かった。いよいよ、俺は空の旅とやらを 体験することになる。

最終更新:2014年07月03日 17:05