第2話 王都エリンシア
(到着後)
「………オエェェェェェェェェェ」
「吐くなよ」
ヘルメスが俺の肩を借りて歩く。その顔色はブルーベリーのように青い。
「どうしてもダメなんだ、浮くって感覚が」
「慣れろよ。何回か乗ってるんだろ」
「ハハハ…」
(王都前)
王都は入るのに入国手続きが必要なようだ。
「この書類の通りお願いします」
「はい」
書く内容は名前や年齢、性別といったものだ。すべて書き終え、門番に三人の書類を渡した。
「エイルさんにティアさんね。ヘルメスさんは今日は連れがいるんですか」
「ちょっと手伝いをな」
「じゃあ、またアルミさんのとこですね」
「ああ。あいつしかあてがないからな」
「それでは良い旅を」
そういうと門の中に通された。
「知り合いなのか?」
「いつの間にか顔を覚えられてな。正直俺はあいつの名前は知らない」
門を潜ると城壁の中の街が見えてきた。港町とは違いバラエティにとんだ色や模様で埋め尽くされたいる。
「さて、情報屋のところに行くか」
「どこにいるんです?」
「中心街にある。看板に『月夜に舞う蝶』と書いてある店だ」
「なんだかいかがわしい店に聞こえるんだが」
「大丈夫だ。店主は変わっているが俺の知り合いだ」
「より不安です」
「まあ、行ってしてみようか」
(情報屋に入る)
本当に『月夜に舞う蝶』と書かれた看板がある。ということはここが情報屋か。
とりあえず入る。
「すみませ…」
「ヘ~ル~メ~ス~??」
「うわっ?」
何やら女性が俺を突き飛ばして、ヘルメスに抱き着こうとする。ヘルメスはされるがままに受け入れる。
「久しぶりね、ヘルメス!」
「テンション高い、うざい。あと離れろ」
「そんなこと言わないでよ~」
「だ、大丈夫ですか、エイルさん」
ティアの手を借りて立ち上がる。
「ヘルメス、どういうことか説明してくれ」
「わかった。早く離れろ」
「え~」
「今度からここに来ないぞ」
「わかった」
女性はヘルメスに抱き着くのを止めた。
「こいつはアルミ。ここの店主で俺の幼なじみ」
「じゃあ、この人がヘルメスさんの知り合いの」
「そう、情報屋だ」
「いつもさっきみたいなテンションなのか?」
「まあな」
「そんな嫌そうな顔しなくてもいいじゃない」
「嫌というか恥ずかしいんだ。もういい大人だろ」
「いいじゃない。私たちの仲なんだから」
「お前な…」
「仲良いんだな」
「まるで恋人同士のようです」
「断じて違う?」
「えへへ~。そう見える?」
「何嬉しそうにしてんだ!冗談はやめて早く依頼に入るぞ」
「別に冗談じゃないのに~。まあ、いいわ」
アルミさんはこちらを向いた。
「それで欲しい情報はエイルくんは異世界のこと、ティアちゃんはお兄さんのことでいいかな?」
「はい、それで…え?」
「ん~?どうかした~?」
「俺たち、アルミさんに名前を名乗ったっけ?」
「アルミでいいよ~。言ってなかったかな~?」
「そういえば言ってなかったな」
「やっぱり俺たちは言ってないよな」
「ちがうちがう。アルミのこと」
「?」
「アルミは範囲内の人の情報を瞬時にわかる能力があるんだ」
「なんですかそれ」
「私の得意属性は風だからね~。私はこれを『風の知らせ(プリメネーシェン)』と呼んでるけどね」
「ようは相手の名前と年齢とか肩書きとかそういうのが全てわかるんだ。それをいかして情報屋をやってるしな」
「凄いな…」
「範囲はせいぜいこの街全体だけどね~」
「それだけでもすごいです」
「へへへ~。嬉しいな~、ヘルメスなんか思っていても口にはださないんだもの」
「いいから早く情報を寄こせ」
「ホント冷たいな~、ヘルメスは」
アルミは並べられた本棚の中からファイルを一つ取り出した。
「お兄さんの名前はレピオスであってる?」
「はい。属性は水です」
「村を出たのは3年前だから~」
「『ピアス』19歳、男、属性は水。これが一番可能性が高いかな~」
「ピアスですか…。今はどこにいるかは…」
「王都からは出ているね~。でも何かおかしいのよね」
「おかしいって何が?」
「たぶんピアスの心の中を読んだことがあると思うんだけど…」
「だから何がだ?」
「この男が王都に来たのが約2年半前。出ていったのは2年前。この間で彼の心の声が不自然なの。最初のころは人格がひとつだったのだけど、出ていくころには心の中に違う人格が体を支配しているようなのよ」
「他の人格?なんだそれ?」
「私もわからないけど、レピオスくんと思われるこの子がずっと一緒にいた人ならわかるよ」
そういうと違うファイルのページを見せてきた。
「このヴィシナという医者、3年前に王都に来た流れ者ね。今は有名な名医で王家にも」
「住んでいるのは病院の寮だな」
「そういえば、近くに図書館もあるよ~。そこには異世界についての記述がある本があるはずだから、エイルくんの答えも見つかるはずだよ~」
「俺の問題だけやけに軽いな…」
「まあ、ぶっちゃけ普通じゃないでしょ、異世界のことなんて知りたい人」
「でも、俺が他の世界から来たこととかそれが嘘じゃないこともわかるよな」
「もちろんだよ~。絶対的に信用はできないけど、もしかしたらこの街にも異世界人がいるかもだしね~」
まずはピアスという男を探しに俺たちは病院のヴィシナを訪ねることにした。
最終更新:2014年07月03日 17:05