第3話 テオ・ヴィシナ
(病院にて)
院内には患者がベッドで寝ていたり、医者と一緒にリハビリを行っている。俺たちは病院の通路の先にある寮に向かう。そこでプレートにテオ・ヴィシナとある一室のドアをノックする。
「どうぞー」
許可の返事が返ってきたので俺たちは中に入る。
「はじめまして、ヴィシナ先生。俺はエイルといいます」
「ティアです」
「ヘルメスだ」
部屋にいた男、ヴィシナはコーヒーを飲みながら回転式の椅子で座ったままこちらを向いた
「はじめまして。君たちは何か僕に用かな?」
優しそうな目をして話かけてきた。職業柄得意なのだろう。
「あなたに訪ねたいことがありまして」
「何かな?僕の答えられることだといいんだが」
「ピアスって人について知りたい。先生が会ってたということを聞いている」
「ピアス?…ああ、あの子か。あの子が何かしたのかい?」
「先生はピアスって男が…」
「本名じゃないことかい?」
「わかっていたんですか」
「いやいや、彼の方から教えてくれたよ。名前はレピオスだってね」
「やっぱりレピオスが来ていたか」
「レピオスがどうした?犯罪でもしたかい?それによく見れば、ティアさんはレピオスにどこか似ているね。親戚かい?」
「訊きたいことあるのはこっちなんだが」
「まあまあ、聞かせてよ。レピオスには興味があるんでね」
どこかこの人、ヘルメスに性格が似ているな。
「私はレピオスの妹です。行方のわからなかった兄を探してるんです」
「へぇ、レピオスの妹か。そういえば妹がいるとかいってたな」
「すみませんが、先生が兄と何を話したか教えてくれますか?」
「レピオスとの会話内容か…。確か…」
(ヴィシナ回想1)
部屋にはヴィシナとレピオスが向かい合って座っている。
「僕、本当はレピオスっていいます。ピアスってのは偽名です」
「そんなこと言ってどういう意図があるんだい?」
「僕は獣医になりたいんです。先生は動物に対しても詳しいとお聞きしました。ご教示お願いしたいのです」
「別に僕はそんなすごい人物じゃないけどなあ」
「そんなことないですよ。先生はこの半年で多くの人と動物たちを助けてきたじゃないですか」
「そうはいっても僕は流れ者の医者だからね。ただ流れ流れているうちに得た知識だから、そんなにすごいものではないんだけど」
「それでも先生は神の手をお持ちです。お願いします。僕に医者の極意を教えてください」
レピオスが椅子から立ち上がり頭を下げた。ヴィシナは困った顔をしてレピオスを見る。
「で、どうにか無理ということを認めてもらって帰した」
「そうですか…」
「なんで断ったんだ?今でもこんなに人気のあるあんたに教え子がいないのは世間体もあまり良いものにはならないだろ」
「そうはいっても僕は流れ流れて独学でここまでやってきた医者だ。僕には人に何か教えることなんて無理なんだ。だからさ」
「そうか」
「じゃあ、これで終わりでいいかい?僕にも予定があってね。これから準備しないといけない」
「あ、あの最後にいいですか?」
「どうぞ」
「最後に、兄はどこに向かったか知りませんか?」
「ふむ…。東の方に行くとか言ってたかな」
「そうですか。ありがとうございました」
「そう、じゃあね。相談とかあったらいつでもおいで。精神科もやってるから」
「はい」
部屋を出て、俺はヴィシナの言葉には何か違和感を感じた。何かわかりはしなかったが、あの雰囲気には嘘みたいなものを感じ取った。
(図書館にて)
病院を出て、少し歩いた所にアルミの言っていた通り図書館があった。見た目は博物館かと思うほどの大きさだ。
中に入ると本の匂いが鼻を刺激する。
「ここから別世界のことが書かれた本を探すわけだが…」
「ああ。無理」
明らかに無理だ。本の量が普通じゃない。国中のさまざまなジャンルの本が集まっていると聞いていたが思ったよりも本がある。おそらく百万冊以上はあると思える。
「あ、これで本を探すことができるそうですよ」
ティアが貸し出しカウンターの横にある機械を指差した。どうやらこれで読みたい本をキーワード検索できようだ。
「探すのは一人でもできるし、二人は他のところを見ていていいよ」
「お、そうか。じゃあお言葉に甘えて」
ヘルメスはそういうとどこかに行ってしまった。
「じゃあ、私も」
「おう、迷子になるなよ」
「そんな子どもみたいなことなりません」
「ハハ、何かあったら呼んでくれ」
ティアも機械で検索すると目的のところに向かった。
「さてとキーワードは…」
(選択肢)
世界・オミカ・アマラス→
科学・ホムンクルス→
雑学・文化→
特に用はない
世界・オミカ・アマラス→神話・異世界論
神話・異世界論。どうやら異世界の話は神話と同じ扱いになっている。用は信じる者も信じない者もいる、といった確証のまだ発見できていない理論なのだろう。
「この本は…」
『ハミドゥヒ教の神』。この世界の神話といったところだな。
ページをめくってみる。
『ローゼン 命の神
その手で人を生んだ。
世界の生まれる前、トゥーランの暴走を止めるために周りの神の力をまとめトゥーランを封印した(詳しくは××ページ)。』
人間を作った神か。それにしても魔術の種類を神に当てはめているとは。
いくらかページを飛ばす。
『神話の研究
メルニアのとある学者の研究の結果ではハミドゥヒ教の関する場所は確かに魔術の漏れが観測されている。神より魔術が与えられたとされる考えはおそらくここより来ているのだろう。
特にハミドゥヒ教の聖地とされるタカマラは過去にいくつかの奇跡的出来事が起こっている………』
聖なる地が聖なる地と呼ばれる所以は魔術の流出が起きているからか。
一旦本を閉じて他の本に手を伸ばす。
「あ」「あ」
伸ばした手がもう一人の手と当たってしまった。
「すみません」
「すみません」
「いや、こちらも悪い」
黒いローブを纏っており、その顔はフードに隠れて見えない。声から察するにおそらく男だろう。
「お先にどうぞ」
「いや、いいよ。わざわざ今読みたいわけじゃないから」
「ですが…」
「いいんだよ。君は神話に興味があるのかい?」
「え、ええと。ちょっと異世界論の方を調べてまして」
「なるほど。他に世界があるかなんて未だ人間はわかってないから、神話のようにフィクションとされている」
変わった人だな。表現がなんだか自分は人でもないかのようだ。
「あなたは何を調べてここに?」
「ちょっと神話を…でも自分のことを読むのはあまり良くは思わない」
「え?」
男はローブをひるがえすと、どこかに行ってしまった。
「なんだったんだ、あの人?本の筆者かな」
本を取り、開く。
どの本も内容は最初に読んだものとそう変わらないものが多く、他の世界に関しての本は少なかった。
「結局、何もわからないか…」
(俺の世界が本当に存在していたのかさえも不安になってきたな)
本を閉じて、元の棚に戻した。
「さて、戻るか」
→選択肢
科学・ホムンクルス→歴史・伝説
ここは分厚い本が多く棚に刺さっている。
しばらく歩くとヘルメスが真面目そうに本を読んでいる。
「ん、どうした、エイル」
こちらに気付いて顔を上げた。
「何を読んでんだ?」
「ホムンクルスがいたっていう伝説とかを調べててな」
「へえ。伝説とかあるのか?」
「ホムンクルス自体は人間を創るという概念で今の錬金術師たちは作っているから、昔とは大分力とかが違うんだ」
「昔のってどんなんなんだ?」
「一番有名なのはメルニアって錬金術師が造った作品たちなんだが…、今は動かない奴とか、どこかに隠れている奴もいる。どんなに力を持っていたかは知らないが残っている資料とかには今のホムンクルスの何倍もの力があったらしい。まあ、当時は神を創ろうと必死だったらしいからな」
「神?なんだか大きな話だな」
「昔は馬鹿やっても知識が乏しかったから普通のことだったんだ」
「ふーん」
「そういえば、メルニアは異世界論を唱えていたって説もある」
「本当か?」
「だが、資料がここにはないぞ。おそらくは研究の街メルニアにある」
「ふむ」
たぶんその街に行けば、何かわかるのかもしれない。機会があれば行くとしよう。
「じゃあ、俺は読書に戻る何かあったら呼んでくれ。ここにいるから」
「わかった」
俺はメルニアのことを頭に刻んで、その場を立ち去った。
→選択肢
雑学・文化→地理・観光
別に何か用があるわけではないが、この世界の文化や地図を調べてみたくなった。
「あれ?エイルさんもこっちに?」
ティアが本を読んでいた。どうやら世界地図を見ているようだ。
「この世界のことを少しでも知るためにな」
「そうなんですか。私も村以外のことを知るために」
「へえ。なんだかんだティアも俺と同じで知らないこと多いよな」
「私も村から出たことないですから。お恥ずかしい限りです」
「別にそんなかしこまった話し方しなくていいのに」
「すみません」
「謝る必要はないよ。俺なんか昔から年上にだってタメ口使ってた」
「エイルさんらしいですね」
「嫌いな奴とかに敬語を使いたくなかったんだよ」
「ふふっ」
「なんだよ」
「いえ、なんだか可笑しくて」
「そうか」
ついこっちも笑みがこぼれてしまう。深刻な顔をしているよりも笑っている方が可愛いよな。
「そういえば、レピオスさんってどこに行くとか言ってなかったのか?」
「うーん…、特に何も」
「そうか…」
レピオスさんの足取りがつかめない。どこに行ったのだろう。
→選択肢
特に用はない→(図書館を出る)
最終更新:2014年07月03日 17:06