第4話 夜の会話
(病院・図書館の両方を訪問後:広場にて)
どちらも回るとすっかり夜になってしまった。
「もう遅いし、宿をとって休むか」
ヘルメスが手を挙げた。
「宿なら俺がさっきとっておいたから」
「珍しく気が利くな」
「珍しくは余計だ。すぐそこの宿だ」
「すみません。部屋が残り二人部屋しか余っておりませんでして」
宿屋の店主は思いがけないことを言い出してきた。ヘルメスに確認する。
「ヘルメス、部屋はいくつとったんだ?」
「2つだったはずだが」
「じゃあなんで二人部屋になっているんだ?」
「そうだな、2人と2つを間違えたんだろ」
「そうか…わかった」
とりあえず腹を殴っておいた。
「ティアは大丈夫か?男二人と同じ部屋で」
「ヘルメスさんと同じ部屋というのが心配です」
「ふむ…。もしもヘルメスが何かしようとしたら俺が止めるよ」
「なら大丈夫だと思います」
「わかった」
店主の方を向いて、「じゃあお願いします」と言って部屋に通してもらった。
「ベッドは二つしかないですね」
「二人部屋だからな」
「誰のせいだと思っている」
「とりあえずティアはベッドで寝るとして」
「え、いいんですか?」
「ああ、女の子を床に寝かせるわけにはいかないからな」
「じゃあ俺たちはどうする?一緒に寝るか」
「お前の腹が殴りすぎで壊死してもいいならいいが」
「やめておきます」
何故か敬語になった。
「というか一人用のベッドに男二人は無理だろ」
「どうするか…」
ベッドに座ったティアをよそに二人で悶々と考える。しばらくしてヘルメスが口を開いた。
「しかたない。じゃんけんで決めるか」
「そうだな」
「宣言しよう、俺はグーを出そう」
「なら俺は…」
「わざわざ言わなくていい。俺は絶対にグーを出す」
なんだこいつやけに自身気だな。何を出すか。実際にグーを出すか。それともフェイントで俺がパーを出したらチョキを出すつもりか。もしかするとその裏をかいてパーを出すかも…。
「じゃあ行くぞー、じゃーんけーん」
「え、あ、ええと」
「ほい」
俺はグー。ヘルメスもグー。あいこだ。
「あーいこで」
えっと実際にグーを出したから今度は…
「しょ」
俺はチョキ。ヘルメスはグー。
「俺の勝ちだな」
「負けた…」
ショックだ。なんだろう。床に寝るのは仕方ないが、ヘルメスに負けたという事実の方がショックが大きい。
「じゃ、俺はベッドで、エイルは床で。いいよな」
「くやしいが、負けは負けだ。床でいい」
「大丈夫ですか、エイルさん」
「大丈夫だ。俺はどこでも寝れるから」
「そうですか…」
「さ、もう遅いし寝よう」
「はい」
ティアはなんだか釈然としないようだ。俺は布団はあるから大丈夫なのに。
「おやすみ」
「おやすみなさいです」
「おやすみ~」
夜も更けて、全てが寝静まっている。そんなとき、ふと背中に何かがやってきた感覚がして、うっすら目を開けた。
首を動かし、後ろを振り返った。すると、
「あ、起きちゃいましたか」
ティアが俺の布団に入ってきていた。ヘルメスは寝ているようなので小声で話す掛ける。
「眠れないのか?」
「ちょっと不安になって…」
「だからってなんで俺のところに」
「兄さんと同じ雰囲気がしたから…じゃダメですか?」
「いや、別に俺は構わないんだが」
「エイルさん、質問してもいいですか?」
「ん?いいよ」
「小さい頃のエイルさんってどんな子だったんですか?」
「子どものころか…」
「嫌なら答えなくてもいいですよ」 「別になんてことはないけど、俺は魔術がうまくできないだろ」
「たしかに戦闘では体術の方が多いですね」
「それも昔からだったから、それが原因でいじめとかあっててね」
「そうだったんですか…。そんなふうに見えないですけど」
「ありがとう。でも体術ができるのは魔術が使えないのを補うためだったから、ハブられるのはこの年でもあったりするよ。特に俺みたいな奴はね」
「元の世界では何をしていたんでしたっけ?」
「魔術の研究所で働いていた。それも教授が親の知り合いということと俺が無属性であることでコネを使ったから、やっぱり他の研究員には良い目では見られなかったな。でもその分勉強して、魔術の知識だけは負けまいと必死だったよ」
「苦労したんですね」
「今でも嫌な夢を見たりするし、慣れたかな。でも、ひとりで孤独を感じる時は少しつらいな」
するとティアが後ろから手をまわしてきた。体の凹凸を背中で感じる。俺の心拍数が上がった。
「私も、ひとりは嫌です。兄さんがいたから昔はさみしくなかったです。でも…」
「………」
俺は正直何を言えばいいのかわからなかった。
俺はティアの手に触れる。
「大丈夫。レピオスさんは必ず見つけよう。それまでは俺がいるから」
「………」
ティアの体温が上がったような気がした。それに合わせて俺の顔も赤くなる。
互い向かい合っていなくても顔が赤くなっているのがわかる。俺は何を言っているんだ。
「さ、さあ。寝ようか」
「そ、そうですね」
ティアは手をはなして、体の向きを変えて背中合わせになった。
顔が火照っているのが収まるまで寝ることは出来なかった。
「何があったんだ」
朝になったので目を覚ましたヘルメスは目の前に広がる光景に呟いた。
床にベッドで寝ていたはずのティアとエイルが同じ布団で眠っていた。
「はぁ…」
思わずため息が漏れた。さてと…。
「お前ら、2人で何してんだー!!??」
ヘルメスの大声で起こされた俺とティアはその後ヘルメスに昨晩のことを説明して、誤解を解いた俺たちは支度を済ます。
「レピオスさんが向かった西の方に行ってみるか」
「昨日図書館で調べたんですが、西にはイムラサという部族の村があるそうですよ」
「イムラサといえば戦闘民族で有名だ。確か紅の髪をしているらしいぞ」
「じゃあ、そこに行ってみるか」
(ラシア直前)
「イムラサってどんな部族なんですか?」
ティアが歩きながら訊いてきた。俺は知らないのでヘルメスが答える。
「イムラサは過去にエリンシアと他国との争いがあった時にエリンシア側について、エリンシアを守った部族だ。おかげで戦神の加護が与えられているとか何とか」
「どんな魔術を使うんだ?」
「たしか…」
ドサッ。
しゃべろうとしたヘルメスが不意に前に倒れた。
「なっ?」
慌てて後ろを振り返ると紅色の髪をした男たちが立っていた。
それに気づいた瞬間、俺は頭部に衝撃を感じ気を失った。
最終更新:2014年07月03日 17:06