第6話 ヘスティとの出会い
(牢屋内)
「やめてくれ!」
「っ?」
ティアが後ずさる。俺は体を起こして周りを見る。灰色の壁に鉄格子がはめ込まれている無機質な部屋だ。
「大丈夫ですか?ずいぶんとうなされてましたけど」
ティアが心配して近寄ってきた。
「大丈夫だ。ここは?」
「たぶん、牢だ。どこのかはわからないけどな」
ヘルメスが壁にもたれかかっている。
「誰かに頭を殴られて気絶させられて運ばれたんだろ」
「あの紅い髪の連中か」
「もしかするとイムラサか?だとしたらここはラシアか」
鉄格子の向こうにあるドアが開いた。すると少女というには幼いくらいの女の子が入ってきた。手には食事の盛られた皿がいくつか乗ったお盆があった。ヘルメスが鉄格子につかまって女の子に声を掛ける。
「ねえ、そこのお嬢ちゃん。助けてくれない?」
「………」
女の子は無言でこちらに近づいてきた。目の前で来ると鉄格子の下の方にある小さな扉を開けてそこから皿を置いていった。
「食事になる」
それだけ言うと女の子は出ていこう向きを変えた。俺は女の子に声をとっさにかけた。
「ちょっと待って」
女の子は少し戸惑って振り向いた。
「…何?」
「俺たちはいろんな所を回っている者なんだけど、ここはどこかな?」
「ここはラシア。あたしたち、イムラサの村」
すると今度はヘルメスが口を開く。
「やっぱりラシアなのか。でもなんで俺たちは牢屋に」
「今村は不安定だから」
「不安定って何があったんだ?」
「馴れ合うなって言われてるから」
女の子はそれだけ言うとまたドアのほうを向いた。
このままじゃここから出られない。そう思っているとティアが話しかけた。
「私の名前はティア。あなたの名前は?」
「ヘスティ」
それだけ言い残すとヘスティは部屋から出ていった。
一日たった。(体内時計で)
「どうやったらここから出られるかなー?」
「武器とかは全部牢の外だし、魔術で壊すことは…」
「俺もエイルもティアちゃんも皆、滅属性は使えないしな」
「どうにか事情を聞いてもらえればいいのですが…」
「あのヘスティって幼女に聞いてもらえるとは思えないけどな」
「幼女いうな」
ドアの方から足音が聞こえた。
「お、来たか」
ヘルメスがいうとすぐにドアが開いた。そして予想通りヘスティがやってきた。
「ねえ、ヘスティちゃん。いつになったら俺たちここから出られるんだ?」
「あたしはあんたたちの世話を任されただけだから」
「でも飯はさっきもらったばっかだぞ?」
「いいの。今おばさまがいないから」
今まで暗い表情だったのに少しだけ声と目に明るみがこもったように思える。
「そういえば俺とヘルメスは名乗ってなかったね。俺はエイル。で、こいつは」
「ヘルメスだ。よろしくな」
「よろしく」
「私の名前は昨日いいましたね」
「うん。ティアだよね」
「はい」
「そういえばさっき『おばさま』って言ってたけど、その人に命令されて俺たちの世話を?」
「うん。おばさまは私のお父さんの弟の奥さんで、あたしは村長のおじさまの家に住まわせてもらっているの」
「ヘスティのお父さんとお母さんは?」
「死んだよ。一年くらい前に」
「………そうか。嫌なこと訊いたな」
「別にいいよ。もう慣れたし。そんなことよりも、みんなはどこから来たの?」
「私はミツハというところから」
「俺はニギって村から来た」
「へえ、どんなとこなの?」
「薬草がとれて水がきれいな場所ですよ」
「そうだな、畑や田んぼが多くて野菜とかがたくさん取れるところだ。俺はそこでホムンクルスの研究とかしてた」
「ホムンクルスって何?」
「そこの机の上にあるガラスの筒を取ってくれないか」
「わかった」
ヘスティは牢から離れると机に置いてある俺たちの荷物の中からヘルメスの試験管を持ってきた。ヘルメスはそれを受け取ると、
「よーし。見てろ~」
蓋をあけて、中にいたホムンクルスを取り出した。それは俺とティアが初めて見たスプライトと呼ばれるホムンクルスだ。
「すごい!なにこれ?」
「これだけじゃないぞ。スプライト!」
するとスプライトが光りだすと同時に風が吹き始め、次第に強風になっていく。
「すごーい!」
「どうだ、そうだろ?」
「うん!他にはないの?」
「そうだなー…ここから出してくれたらいいけど」
チラッと机の上を見る。ヘルメスはホムンクルスを見せる代わりに牢から出ることを要求している。ヘスティは悩む。
「うーん…」
すると、ドアの方から女性の声が聞こえてきた。
「ヘスティー?どこにいるのー?」
「あ。おばさまが帰ってきた」
ヘスティはドアの方までいくと扉を開けて「今行きまーす」といってこちらを向いた。
「じゃ、また」
そう言って行ってしまった。
「失敗だな」
「まあ、コンタクトが取れただけでも儲けものだろ」
「そういえば村が不安定とか言ってたのが気になりますね」
「明日あたりに聞いてみるか」
そういうとその日は特に何もなく牢で一日を過ごした。
翌日、やはりヘスティは現れた。
「よう、ヘスティ。今日の飯はなんだ?」
「肉」
「アバウトな答えだな」
「野菜もある」
「それは栄養的に助かります」
「うん」
なんだろう。昨日と様子が違う。というか一昨日の初対面のようだ。
「どうしたヘスティ?何かあったか?」
「別に」
ヘスティはそれだけ言うと食事を置いていっただけで帰っていった。
「どうしたんでしょうか?」
「『おばさま』に何か言われたんじゃないか?俺たちと話していたことで」
「かもな。………ん?」
食事の中に皿の下に何かある。取り出してみると紙のようだ。
「これは?」
紙には『べっどのした』と書かれている。
「ベッドの下に何かあるのか?」
ヘルメスが書いてあるとおりベッドの下を調べると、
「おっ。何かある」
ヘルメスが声を上げた。
「何がありました?」
「ちょっと待ってな」
ヘルメスが少しごそごそと動いた。そして何かを掴んできた。
「鍵だ、たぶんこの牢の」
「なんでこんなところに…」
「ともあれ、そいつでここから出られるな」
俺はヘルメスから鍵を受け取り、牢のドアのカギを開ける。
「よし、開いた」
「でもなんでヘスティちゃんは鍵のことを?」
「今度会った時に聞いてみよう。今はここから出よう」
俺たちは荷物を持つとドアを開けて、階段を上る。
「成程な。俺たちがいたのは地下だってのか」
「裏口から出るぞ」
(裏口から出る)
裏口から出ると俺たちはさっきまでいた家を見た。家の構造は二階建てのようだ。地下室もあったし、ヘスティの叔父、この村の村長の家だろう。
「さて、どうする?」
「村の人の話を聞きましょう。私たちが捕まったのも、たぶん村で何かあったんだと思いますし」
「そういえば、ヘスティが村が不安定とか言ってたな」
「調べてみるは価値あるな」
後ろの家を離れて人のいる方へ向かっていった。
最終更新:2014年07月03日 17:07