第8話

「キャーーーーーーー!!!!!!」



悲鳴が聞こえた。

「今のは、母さんの?」

 レーテが叫ぶ。俺たちは窓の向こうの家を見る。

「ということは家の方か」

「行きましょう。レーテくんも」

「え、はい!?」

 ドアを開けて家を飛び出す。

 しかし、見つめる方向にはさっきまで俺たちが逃げていた村人たちがいる。そのうちの一人がこちらに気付いた。

「あ!いたぞ!」

「こっちにもいたのか!捕まえろ!」

 こちらに向かってきている。

「どうする?話し合って誤解を解く暇はなさそうだぞ」

「しかたない。できるだけ傷つけないように突破しよう」

 俺は戦闘を覚悟した。するとティアもヘルメスも武器を取り出して走り出した。



 何人かを気絶させて、村長宅に着いた。ドアの前には人が集まっている。

「大丈夫ですか!?村長!?」

「誰か早く開けろ!」

「ダメだ。鍵がかかっている」

 みんなドアを開けようと必死で誰も俺たちには気付いていない。ヘルメスが提案する。

「裏口から入ろう」

 俺たちは頷いて裏に回る。



 裏口から入ると俺たちは声のする方に向かった。二階の部屋の裏口の方に窓がある部屋だ。外から見たときは中は見えなかった。

 急いでレーテがドアを叩いて叫ぶ。

「母さん!?父さん!?」

「レーテ!?早く逃げて!!」

「ぐあぁぁぁぁぁ!!!!!!」

「父さん!?」

 音からして二人以外にも何かいるようだ。おそらく人殺しの事件の犯人だろう。しかしドアが開かない。

「ここも鍵がかかってる」

「どうすれば……」

 ぶち壊すにも俺もティアもヘルメスの力には自信がない。レーテも首を横に振る。しかしすぐにレーテが声を上げた。

「鍵ならヘスティが」

「じゃあヘスティを連れてくれば」

 レーテが今度は首を縦に振った。そして、

「こっちです。たぶんあそこですから」

といって俺たちを連れて一階のドアを開けていく。



(牢にて)



 またここに来るとは、と思いながらも急いで地下牢につながる階段を駆け下る。

「居た」

ドアを開けるとへステイが牢に入っていた。

「どうしたの、レーテ。それにあなたたちも」

「ヘスティ、助けてくれ!母さんたちが!」

「おばさまたちに何かあったの?」

「今部屋で何者かが二人を襲っているんだ。ドアを開けるのに力を貸してくれ」

「でも、あたしができるかな?」

「何言っているんだよ、ヘスティ!君は」

「でもあたしがここにいるのはあたしがティアたちを逃がしたからだし」

「そうだ。それがなんだというんだ?」

「あたしはおばさまにあなたたちを捕まえておくように言われてわざと逃がした。そんなあたしにおばさまはここに居るように言ったんだよ。今度おばさまの言う事を守らなかったら、あたしはどこに居ればいいの」

「ヘスティ?何を」

「あたしは『いらない子』なんだよ?」

 ………………。

「とうさまたちがいなくなって、あたしは行くところがなかったのをおじさまが拾ってくれたんだよ?でも本当はあたしに生きてる意味なんてないんだよ?だからおばさまは言ってたよ。あたしは『いらない子』だって」

「母さんがそんなことを……」

「ね?だからレーテ、あたしは」

「『いらない子』だから助けても意味はないのか?」

「エイル!」

 勝手に口が動いた。

「『いらない』って言われたからお前は生きるのを止めるのか?ヘスティ」

「だってあたしは……」

「俺は他の奴らと違って劣っているだから『いらない』なんていくらでも言われてきた。今でも夢にみるくらいだ。だけど俺はなんだってしてきた。元の世界で俺はある研究をしていた。その理由は簡単だ」

「それって?」

「何かすることに意味が必要か探しているんだよ」

「そのこたえは出たの?」

「いや、まだ研究は途中だからわからない。でもこれだけは言える。俺は何もない、『いらない』自分をいつか『いる』と言われるまで生き続けるさ」

「…………」

 ヘスティが俯いた。

「いいかヘスティ。お前は牢に自ら入ってるんだ。そこから出るにはお前自身の決意が必要だ。お前は何がしたい?」

「あたしは……」

「ヘスティ……」

 レーテがヘスティを心配そうに見つめる。俺たちも黙って答えを待つ。

「あたしは……ここから出たい。『いらない』なんて言われたくない!」

「……わかった」

 俺は牢の扉に近づいてナイフと魔術の複合技で鍵を破壊した。

「じゃあ俺たちと旅をしよう。俺たちは絶対にヘスティを『いらない』だなんて言わない」

「連れて行ってくれるの?」

「ついてくるかどうかはお前次第だ。自分を変えるには自分で選択しないと意味がない」

「わかった。あたし、エイルたちについていく。いいよね」

「もちろんだ。なら、まずはおばさんたちを救おう。それがお前の証明だ」

「うん」

 ヘスティが立ち上がって牢から出る。その顔には真剣な面もちだが、どこか嬉しそうな感じだった。

 俺たちはヘスティの鍵を持って、地下室を出た。

最終更新:2014年07月03日 17:08