第9話

(村長の部屋前~)



 鍵を使ってドアを開ける。

 中ではローブを着た男が村長らしき男性に剣を向けている。ヘスティの言っていたおばは口に手を当て、壁にもたれかかり、それを見ていた。こちらに気付くと声を上げた。

「ヘスティ!?」

「おばさま!おじさま!」

 ローブの男がこちらを向くと、

「……………チッ」

 舌打ちをして、村長に剣を振り上げた。

「危ない!」

 ティアが魔術を使って水の塊を男にぶつける。男はのけぞった後、こちらを睨みつけてきた。

「大丈夫!?」

ヘスティが村長に駆け寄る。

「あ、ああ」

 村長が返事をするのを確認すると、ヘスティは壁に飾ってあった大剣を持ち上げた。

「これ、使うね」

 ヘスティはそういうと、大剣を構え男に向ける。俺たちはそれに続いて村長の前に立ち、各々臨戦態勢に入った。

(謎の男と戦闘~戦闘後)



 男が体を押さえて、肩で息をする。

「お前、何者だ?」

「……………」

 俺が訊ねると男は背中を向けて、窓に向かって走り出した。

「待て!?」

「……………鬼さんこちら、手の鳴る方へ……」

 男は窓を壊して、外に飛び出した。俺たちはそれを追って窓際から下を見下ろす。男は地面に着地すると、裏の林に駆けていった。

「な、なんだったんだ?」

 村長が息を吐きながら訊いた。俺が答えようとする。

「たぶん、人殺しの……」

「ヘスティ!なんでこいつらがここに居るの!?」

 ヘスティのおばが金切り声を上げた。

「まさかこいつらはあの男とグルなんじゃないでしょうね!?」

「おい、お前そんなこと」

 村長が妻を止めようとする。しかしおばは止まらない。

「あなたは怪しいとは思わないの!?さっきまであんなに私たちを殺そうとしてきたのにいとも簡単に逃げ去ったのよ!?」

「だからってこの人たちが」

「信じられるとは限らないわよ。それもヘスティが逃げ出すのに手を貸したのよ」

 おばはどうしても俺たちを悪人にしたいようだ。それもヘスティにその責任を被せたいのだ。

「私はね……」

「その人たちは悪い人達じゃない」

 レーテが口を開いた。

「レーテ、まさかあなたまで」

「エイルさんたちは違う目的でここに来たんだ。それにさっき逃げていった男、明らかにエイルさんたちを見て驚いてたし。ヘスティも彼らは何も知らなかったんだよね?」

「え、う、うん。みんな事件のことすら知ってなかったよ」

「でも……」

「そこらへんにしなさい。彼らは命の恩人だよ」

「……………」

 おばは黙り込んでしまった。

「ありがとう。何かお礼をさせてくれないか。金がいいか?それともうちの職人たちが造った最高の剣でも」

 俺はヘスティを見て、ほら、と背中を押す。

「ならヘスティのお願いを聞いてくれ」

「ヘスティのお願いなんて……」

 おばが何か言いかけたのを夫が制した。

「いいだろう。ヘスティ、何が欲しいんだ?」

「あたしは……」

 ヘスティが言葉に詰まる。俺たちは何も言わずに大丈夫と伝える。そして、決心してヘスティが言った。

「あたしを旅に出させてください」

 頭を下げて、お願いする。村長は、

「ハァ……、そんなことか。いいぞ。行って来い」

息を吐くと笑った。ヘスティも顔をほころばせる。

「いいの!?本当に!?」

「ああ。エイルさんと言ったか。彼らについていきたいんだろ?」

「うん」

「彼らに了承をえているならいい」

「もちろんだ。一緒に行こうぜ」

「ええ。歓迎します」

 ティアもヘルメスも嬉しそうに笑い返した。

「それじゃ、姪っ子は俺たちで預かるぞ」

「ああ、よろしく頼むよ。そうだヘスティ。選別としてそこの剣を持って行け」

「うん。ありがとう」

「ああ、時々は顔を見せてくれよ」

「わかった。じゃあ行ってきます」

 別れの挨拶を行って俺たちは部屋を出た。

(裏口、窓の下)

最終更新:2014年07月03日 17:08