――且は、歴史の影に潜む者也。
常は静謐と威厳に満ちた空間。
だが、その日は血と火薬の臭いに満ちていた。
怒号と、爆音の響く板間を、一つの影が進む。
――且は、裏舞台から日ノ本を守りし家也。
「貴様、そのような形で神域を穢すなど、許してはおけぬぞ」
影が一歩進むごとに追手が立ちふさがる。
紅白の袴、黒装束、背広、白衣。
まるで纏まりのない衣装でありながら、一部の隙のない連携で女を追い詰める。
――且は、日ノ本の危機に立ちふさがる族也。
ただ一つ、爆音があった。
それだけで、物言わぬ骸が横たわり、女は新たに歩みを進める。
切り飛ばされた、ねじ切られた、つぶされた女の体は、爆発し、
瞬きの間に、女は元の姿を取り戻す。
――且は、日を翳らすものへの粛清の剣也。
「最高峰の警備といっても、この程度かしら~」
そう言い、目的の扉を開け放つ。
人の気配はなく、されど汚れ一つない広大な空間。
中央には、一目で見てわかる霊気を放つ祭具が置かれていた。
――――鏡。
――――勾玉。
――――剣。
人はそれを、”三種の神器”と呼ぶ。
女……命知らずのバニーは、満足そうにうなずくと、一歩を踏み出す。
刹那、二度の爆発。
硝煙が晴れた後、そこに骸はなく。
バニーは、踏み出す”前”の状態であった。
「…………?」
バニーは、再び一歩を踏み出し――。
塵一つ残さず、消え去った。
――且は、日ノ本を守る最後の砦也。
それ故に、誰よりも強くあらねばならぬ。
平和を脅かす国賊を、手ずから摘み取るために。
且が敗れしときは、日ノ本の最期と心得よ。
賊により開け放たれた扉が、音もなく閉まる。
気づけば、板敷の焦げ跡も、飛び散った血漿も、倒れ伏す骸も、
まるで何事もなかったかのように、消え去っていた。
祭壇の前に立つは、背広を着た一人の男。
”どこにでもいるサラリーマン”そのもののその姿を、誰も頭領とは思わぬだろう。
静謐な暗闇の中、祭壇へと静かに一礼したその男は、瞬きする間もなく消えた。
幾百年もの間、帝に仕えた一族。
ある時は、陰陽師。
ある時は、武士。
ある時は、忍。
しかし、その志と、技は変わらず。
日ノ本の危機迫りし時、日ノ本を守る。
必要とあらば、表舞台に立つことも厭わない。
都が畿内であったころから、帝に仕える一族にして、時代時代に数多の顔を使い分けた家。
その技は、日ノ本三千年の歴史であり、日ノ本の民1億人の命を肩に背負うもの。
稀代の陰陽師、安倍晴明の子孫にして、元内閣総理大臣、安倍晋三の隠し子。
比良坂機関。”最後の砦”
国体護持、阿部信明。
最終更新:2021年04月27日 23:34