「総員、持ち場につけ。己が為すべきことを為せ」
手元の無線に対して一言告げると、黒いスーツに身を包んだ女は眼鏡を正した。
すっと立ち上がり、後ろで一つに結んだ艶やかな黒髪を棚引かせる。
その自信に溢れた表情は、彼女の経歴に裏打ちされたものだった。
厳格な父より幼少の頃より防人たれと言い聞かされ、その期待に応え続けて育ってきた。

初めの使命は要人警護。
蟻の一匹も通さぬ的確な人員配置は、不埒な暗殺者に手を出すことすら許さなかった。
それより十、百、千と忍務を積み重ねた。
防人とは、常に危険と隣り合わせに人民を護る者。
心身を砕く激務に耐えられたのは、彼女が抱く理想と崇高な精神の為せる業だった。
曰く、「人を護る事こそが私の生き甲斐であり、生きる道なのだ」と。

――彼女が手に抱えたノートPCに映るのは、多数の監視カメラからの映像だった。
連携の取れた上忍が複数、目標と思しき抜け忍を葬り去っていた。
事前の綿密な調査を踏まえ、敵を知り、己を知ればこそ為せる業。
蓋を開けてみれば、彼女自身は一歩も動くことなく終わっていた。

此度の作戦は、九九九九回目の忍務。
彼女にとっての、九九九九回目の成功。
全戦全勝。
上忍頭に上り詰めた彼女からすれば、当然の結果であった。

それは敵の情報を確実に掴み、権謀術数を張り巡らせる。
それは多数の部下を従え、適材適所に配置し最大の効率を発揮する。
それは心折れる事無く、悪に決して屈しない正義を抱く。
道揆法守、堅甲利兵。正しく安寧を保つ防人である。

公安隠密局。”不可侵”(イージス)。
護国の楯。
最終更新:2021年04月28日 20:06