ひたり。
人気のない深夜の通りを、一人の男が歩いている。
男は身体中傷だらけで、その足取りは見るからに満身創痍であった。
ひたり。ひたり。
男の隣を、一人の女が並ぶように歩き始めた。
女は左腕から先がなく、その傷口より多量の血を流していた。
ひたり。ひたり。ひたり。
その隣に立つ別の者は、片足がなかった。
その隣に立つ別の者は、首から上がなかった。
その隣に立つ別の者は、右半身がこそげ落ちていた。
ひたり。ひたり。ひたり。ひたり。
人気のない通りは瞬く間に、屍の軍団によって埋め尽くされた。
その光景を、千里離れたビルの屋上から眺める男がいる。
彼の名は、八重垣カバネといった。
千を超える死者の軍勢を手足の如く操る、恐るべき策謀家である。
今宵の忍務を終えた彼は、満足げな笑みを受かべて空を見上げる。
夜空には、満天の星が煌めいていた。
ふと、夜空に一条の光が走る。
その光は二つ、三つと重なり、いつしか雨となって夜空を彩った。
その幻想的な光景に、彼は息を呑んだ。
―――降り注いだ星の雨が、自らの軍勢を瞬く間に破壊した光景に。
「……ッ!」
八重垣カバネは一流の忍者だ。
その超人の域すら超えた死霊術は瞬く間に死肉を繋ぎ合わせ、千の軍勢を蘇らせた。
即座に、彼は敵を見咎める。
星を呼び寄せた男を即座に包囲し、その膨大な物量によって押しつぶす。
腐乱した腕が、爪が、牙が、万の死が敵に迫る。
同時。彼らの頭上に万の星が瞬き、振り注ぐ。
夜の街を彩る星の雨を受けながら、男はその雨を巧みに避け続けた。
同時に、あるいは続けて迫りくる死者の暴威を、男は巧みに避け続ける。
その足取りは寧ろ、降り注ぐ星に導かれるかのようですらある。
星の雨が止んだ頃。その男は、一切の手傷を負わずに屍の山に佇んでいた。
男が、八重垣カバネの下にゆっくりと歩を進める。
彼の頭上の星が瞬く。
まるで、男に星が引き寄せられているかのように。
それは天に瞬く星すら引き寄せる、特異なる異能をもつ。
それは制御不能の流星を操り制御する、卓越した技術を有する。
それは星に導かれるかの如く、数多の脅威を回避する。
星に翻弄されながらも、星を操り、星に導かれる。星界の申し子である。
隠忍の血統。“星見(ホロスコープ)”
万星の常時。
最終更新:2021年04月29日 09:00