2.3.2.一人の戦闘シーン(後半)
___一本。___二本。___三本。
柳生三巌の荒行は、誰にも見せることの無く、屋敷の奥座敷にて行われる。
両刃に鍛えられた大太刀の、峰で二度。刃で一度。
正中と心臓を、正十字に血線を入れる。
___一本。___二本。___三本。
刃で二度。峰で一度。
腹から背に、導かれるままに赤線を通す。
大太刀は薄く血に濡れて、傷と、刃に馴染んでいく。
これが、鞍馬神流が頭領、柳生三巌の荒行。
______
黒潮一人の奥義によって、ミッシェルが継戦不可能となった刹那。
柳生三巌が動いた。
大太刀を構え、腰を落とす。
唯仁が即座に距離を離し、石蒜は一人へと向けていた意識を三巌へと割く。
鞍馬、ハグレ、比良坂、御斎、隠忍。彼らと比して、鞍馬には明確な弱点が存在する。
遠距離攻撃の欠如。卓越した手裏剣術こそ警戒に値するが、言い換えればそれは。
両手に大太刀を構える柳生三巌にとって、投擲を行うためには数手の余分な動作が必要になるのだ。
そして、遠距離攻撃が無い、という確信は、このレベルの戦いにおいて、過大なアドバンテージになる。
そうであればこそ、絶対的神権の行使さえ叶う唯仁も、最初に距離を取ったのだ。
確実に有利になる手を取らない理由はない。
だから。
柳生三巌はそうした戦い方を選んだし、その効果は如実だった。
唯仁と石蒜が、三巌の近接を警戒したことを視認した直後。
大太刀を居合いに構えた姿から、左手をその場に残して右に引ききる。
必然。大太刀の"両刃"、その峰側が、三巌自身の左掌を赤線に裂いた。
三巌は、唯仁と石蒜を目標に《帝釈天》を使用。
判定に成功し、回避判定の直前に割り込んで、忍具:霊装を公開した。
忍具:霊装は、事前に選択しておいた攻撃忍法が回避されるときに、その回避に使用する特技を、同じく事前に選択しておいた「妖術」の特技一つに変更させる忍具である。
唯仁は回避に失敗するも、《空吹》で成功に変える。
しかし、ここまでで4回の《空吹》を使用させている。忍具の所持数上限は6個。兵糧丸を選択していなくとも、残り2回。
実際には兵糧丸を選択している可能性が高いし、そうでなくてもこの戦闘で6個全て使い切るというのは、唯仁にとっても厳しいであろう。
一方石蒜は回避に失敗。同プロットで脱落のため、まだ行動可能であるミッシェルからの遁甲符を貰うものの失敗。
そして、自分の神通丸を使用するものの、さらに失敗してしまう。
生命点が0になり、脱落。また、「忘却:唯仁への感情」を受けてしまった。
唯仁への感情を「忘却」した結果、今後唯仁が襲われたときに、そこに乱入できなくなる。
だが、不利な変調を受けてしまった一方で、メインフェイズにおける戦闘不能は石蒜にとって絶望的な結果ではない。
メインフェイズでは、シーン開始時に生命点が0のキャラクターは1点を回復する。石蒜は《忍道》の効果で、生命点が1点ちょうどのとき、「ダメージ+3、全判定+2」の超強化を受ける。以降の戦闘において、石蒜は"死に近き"の二つ名にふさわしい力を発揮することであろう。
三巌の左掌から滲む血が、大太刀の両刃を濡らすと同時。
唯仁と石蒜の正中に、鮮やかな血線が走った。
石蒜はその血線に沿って両断され、唯仁は勾玉による絶対的神権の行使を強要された。
柳生三巌が持つ両刃の大太刀は、彼の多彩な剣術選択肢を広げるためであるだけでなく、もう一つの意味がある。
峰側の刃は、三巌本人を傷つける呪術の刃でもあり、血媒呪術と親和した彼の剣は、闘いの相手を殺す絶致の手となる。
三巌は侍でも剣士でも無い。剣闘士、剣は闘いの手段に過ぎない。
「おいおい、愉しいな?かみさまよ。だが、そろそろ、その威光も底を尽いてきたんじゃねえか?」
「で、お前は。と。」
「・・・・・・これは驚いた。」
「うん、この場はここまでみたいだね。」
石蒜は、腹部に空いた大きな裂け目を見下ろしながら、ゆっくりとこぼす。
「まあ、死んだわな。」
「そんで、そこからが『お前』だ。だろ?」
「よくお分かりで。」
流れ出る血流と、裂ける肉腑。それにも関わらず、石蒜はにやりと笑い、地へと臥していった。
続いて動くのは、唯仁。
「さて。焼きましょうか。」
そうして、構えるは、もう一つの三種の神器。
「★八咫鏡」
それは、絶対的神権の顕現。知覚した者全ての精神と認知を焼く、範囲殲滅の奥義である。
三巌、そしてその遥か後方に坐す信明に対して向けられた鏡は、即座にその周囲全てを鏡膜に覆われる。
鏡の展開とその扱いは、黒潮一人が既に山あいで暗殺者に見せた通りである。
反射と発光、そのいずれをもカバーする全能の鏡膜。そして、その全能が、絶対的神権の前に崩れ去った。
唯仁は「奥義:範囲攻撃/撃ち/人数限定」を使用。目標は、三巌と信明。
初見の奥義ながら、斜歯忍軍の頭領、黒潮一人だけは、それを破ることが出来る。
《一見》。
シノビガミというシステム、その華たる奥義のルールを破壊する最強の装備忍法は、目標値11というハードルを越え、その奥義を破ってみせた。
これに対し、唯仁は遁甲符を使用し、結果として一人の奥義破りは失敗となる。しかし、《空吹》のコストである遁甲符を使用させたという事実は、大きく"天上組"を有利へと引き寄せたのだった。
顕現した神の熱は、鏡の膜を熱し、そしてその包囲を破る。
一人によって精密に制御された鏡膜は、信明へと向かう光線の軌道だけでも逸らそうとし、しかし勢いを殺すに留まる。
続けて、三巌が。その光に意識を焼かれながらも、大太刀を光線へ伸ばす。
僅かに逸れ、勢いの落ちた八咫の光線は、信明のレプリカにより、その直撃を防ぐに至る。
黒潮一人の「奥義:絶対防御/くらまし/防御低下」により、信明へのダメージは無効化が図られた。
"天下組"3人の奥義破りは、2名が成功する。そこに、三巌、信明両者から1つずつ遁甲符が使用され、奥義破りは成らず。三巌が3点の生命点を失って脱落し、信明が戦場に残った。
また、プロット6の同時行動で、石蒜が一人に《飛龍》を使用。回避能わず、一人は脱落する。
「これで良い。俺も道具よ。勝つために必要なら、それで良い。」
三巌は倒れ落ち、しかし、見据えるはその先。絶対なる勝利である。
遅れて一人が石蒜の死体から立ち昇る屍気により膝をつく。
森中と市中。遠い距離を挟み、最後に立つは、唯仁と信明。
そして、十分な時間を費やした信明の呪が、唯仁の絶対的神権を破る。
ついに、唯仁は地に臥せられた。
信明は《外縛陣》を使用、《羅盤》により回避ペナとダメージ追加を乗せた攻撃を、唯仁は回避できない。
唯仁の忍具は残り一つ。《空吹》は使用されず、脱落となった。
変調は、「忘却:石蒜への感情」。
勝者は、信明、"天上組"。
『天下の巻』が戦果として奪われ、"天上組"に2点の評価点が入ったのだった。
それは凖光速の精密機動の内にあって、なお数瞬前の不可能を可能へと変える俊さをもつ。
それは自在の剣戟を選択肢に持ち、逆説的に単一剣術への深到を可能にする。
それは正統な日本剣術への叛逆にして、【伝統的な血媒呪術との親和を秘する。】
絶殺の剣にして、絶致の手。深みに至る絶対の戦闘者である。
鞍馬神流。剣闘士“ブレードバトラー”。
深剣、柳生三巌。
最終更新:2021年05月03日 04:42