GMの頭の中―How to make Campaign―
文責:haratomo

初めまして、haratomoと申します。今回はGM総論ということで自分がどうやってキャンペーンシナリオを書いていくのか、ということを自分が2018年Sセメスターで立てたソードワールド2.0(以下SW)キャンペーン、「回折のラテラルアーク」を具体例に挙げながらまとめていきたいと思います。かく言う自分も自分でまわしたことがあるキャンペーンは2つ+現在進行形で1つですが、それでもGMをやるみなさんの参考になればと思います。それでは早速始めていきましょう。

1.キャンペーンでやりたいことを箇条書きにする


 まずはキャンペーンでやりたいテーマやイベントを書き出していきます。今回のキャンペーンの場合は「時間遡行」「強大な敵の打倒」、そして「パッと見のボスを倒した後の『裏ボス』の登場」という3つでした。特に「時間遡行」というテーマは、歴史が変わってしまった後はPCたちしか事件のことを知っている人がいない、過去で登場人物の知らない一面を知る、などの要素も含めてかなり自分のやりたいことだったのでキャンペーンの主軸に据えていくことにしました。


2.使えそうな物語を書きだしていく


 キャンペーンで使う要素を決めたら次はそれを基に、参考になりそうな既存の物語を探していきます。自分の場合創作の経験もあまりないため、まずは既存の物語を漁ってそれらの要素要素を取り出すことによりシナリオの流れを考えていきました。ここでは自分が触れてきた物語の引きだしから、色々なものを引っ張り出すとよいでしょう。自分はMagic; the Gathering(MTG)というカードゲームをやっているため、そのカードの背景ストーリーから物語のモチーフを取ることとしました。

MTGのストーリーでも時間遡行というテーマはいくつか扱われているのですが、その中で自分が注目したのはカーンというキャラクターです。ウルザという人物が時間遡行を行うために造った意思持つゴーレムであるカーンは、造られた本来の役目を果たした後も様々な冒険を繰り広げます。各地に汚染を広げ浸食するファイレクシアとの闘いのため多彩なクルーと飛空艇ウェザーライトで空を翔けるウェザーライトサーガ、戦いの果てにかつての敵たるファイレクシアに汚染され、彼の地の王として君臨することとなってしまう新たなるファイレクシアなど、カーンにまつわるストーリーでシナリオに使えそうな要素は多々あります。
今回のキャンペーンではこれらの中からウェザーライトサーガを中心に据えることにしました。これは打倒ファイレクシアのため各地から集められたクルーたちが、飛空艇ウェザーライトに乗り世界中に散らばったレガシーと呼ばれるアイテムを収集していくという物語です。「空駆ける艇」「散らばったパーツを集める」など、キャンペーンに使えそうな要素がいくつもあるのでこのストーリーをベースにしてキャンペーンを構築していくこととしました。またカーンの「造られた存在」という要素や新ファイレクシアのストーリーにある「かつての英雄の堕落」なども取り入れていくことにしました。


3.おおよその流れを決める


 ベースとなる物語を決めたら次はこの物語に様々な要素を足し、シナリオ全体のおおよその流れを決めていきます。自分の場合は1.で挙げた3つのテーマ、そして2.で挙げた要素を合わせた結果、「飛空艇に乗ったPCたちが、強大な敵の打倒のため各地に散らばるマジックアイテムを集めていく」というストーリーをメインとすることにしました。また、「かつての英雄の堕落」というテーマを組み込むために倒すべき敵はかつて艇を建造した者が堕落したものとし、そして「時間遡行」及び「『裏ボス』の登場」というテーマのために、クライマックスでは艇で時間を遡って過去に飛び、堕落してしまう前の建造者と協力して汚染の原因を倒すこととしました。従ってシナリオの流れとしては
ⅠPCたちが艇を見つける
Ⅱ艇のパーツを集める
Ⅲ現代において堕落した艇の建造者を倒す
Ⅳ過去に遡行し全ての元凶を倒す 
というものになりました。時系列的にはPCたちが冒険を始める前の出来事として艇の建造者が汚染の原因と戦い、敗れる を追加して物語の流れは決定です。


4.ストーリーに合わせてNPCを肉付けしていく


 シナリオの流れができたら次はNPC周りです。ここまでの流れの中で必須となるNPCとしては艇の建造者と黒幕たる汚染の原因となった人物の2名ですが両者共に過去の人物です。その過去の年代ですが、せっかく時間遡行を行うのならば思いっきり過去に跳んで欲しいということもありPCたちの時代から数えて200年ほど前(SWの知識がある方なら《大破局》直後くらいだと思っていただければ)を想定していました。SWの世界にはそれだけの長さを生きる長命種も存在しますが、いずれにしろ建造者・黒幕共にPCたちの生きる時間軸では敵対する人物たちです。PC陣営に友好的なNPCがある程度いないとPCたちとNPCの絡みがうまれにくいため、PC陣営となるNPCを考えていきます。

余談になりますがこの「陣営とそれに付随するNPC」という考え方は個人的には有効だと思っています。TRPGのシナリオにおいては得てして複数の勢力が出てきて対立・協力など様々な関係性を持ち合います。当然それぞれの陣営はPCたちとも何らかの関わりを持ちながらシナリオを形成していくことになりますが、それぞれの陣営を代表するようなNPCがいないとPCたちからしたその陣営の認知度も低くなってしまうと自分は考えています。従ってPCたちに依頼をしてくる国であれば国王や窓口になる役人、悪の組織であればPCたちの前によく立ちふさがってくる下っ端、などというように「この陣営といえばこの人」といったNPCを用意しておくことが必要です。
また、ここで注意しておくべきこととして、PCたちと多くシーンを共にするNPCはPLたちに思い入れを持たれることが多いということがあげられます。自分の卓のマスタリングの特徴かもしれませんが、多くのシーンに登場するNPCはふとした拍子にPL内であだ名をつけられたりなどPLたちから親しみを持たれるタイミングも多いのです。そしてそんなキャラをいざシリアスな敵として出すにしてもそのイメージが邪魔をしてシリアスになりづらくなってしまうこともあり得ます。従って裏切りなどの演出を狙わなければ、よくPCたちがよく接触するNPCを巨悪に仕立て上げることは避けた方がよいかもしれません。

話を戻しましょう。今回のシナリオではストーリーラインから出てくるNPCはみな敵対勢力側であり、PCたちに味方をするNPCがいないという話でした。シナリオを進めるにあたってはPCに協力し物語を共に進めていくNPCの存在は不可欠なので、PC陣営のキャラクターを設定していきます。今回のシナリオではPCたちが乗る飛空艇が、戦いのあった過去とPCたちの現在を繋ぎかつPCたちをその過去へと送り届けるキーアイテムとなるのでこれに関係するNPCを用意したいところです。ここで参考にしたのが2.でも触れた元ネタであるウェザーライトサーガです。この物語においてウェザーライト号の艦長をつとめたキャラクターは、艇を操るためのいわば「部品」の一部として生み出された一族の出身でした。ここから、飛空艇の開発にあたりその一部としてデザインされた一族出身のヒロイン、というNPCを用意することにしました。幸いSW世界にはルーンフォークという人造種族が存在しているためこのような設定を形にすることが可能です。
更にこれだけでなく艇そのものを象徴するようなキャラクターも欲しいところです。先にも触れましたがこのシナリオは飛空艇をその中心に据える以上、PLたちにはこれへの愛着を持って欲しいためです。また現在と過去の両方を舞台にするため、PC陣営からもそれらを直接的につなぐキャラクターがいると時間遡行の実感が湧きやすくなります。よって艇に搭載された、艇の建造者の思考を模したAIをNPCとして考えました。このキャラクターの存在により飛空艇自体に愛着を持ってもらうと共に飛空艇周りの設定をPCたちに教えてパーツ集めの旅へと誘う案内役、そして過去に存在する艇の建造者や彼が堕落した後の姿とPCたちを繋ぐ存在ができたわけです。

こうしてボスとなるNPC及びPC陣営のキャラクターが出来上がりました。しかしこれだけでは不十分です。ボスがいるのはよいのですが、それとは別にPCたちの前に毎回立ちはだかる「かたき役」が足りないのです。今回のストーリーだと艇のパーツ集めが同じようなシナリオ構造の繰り返しになってしまい、ダレてしまうことも考えられます。よってPLたちから愛着を持ってもらえるようなかたき役のNPCを置いて競わせることでダレを改善しようと考えました。これらの需要(及びGMの性癖)から、ヒロインをライバル視しているトレジャーハンターの元気っ子がかたき役として生まれました。


5.他人にアウトプットして相談してみる


 シナリオの大雑把な流れ、そしてどんなNPCを出すかを決めたら今度はそれを他人に対して説明してみて、意見を募ってみましょう。他人にも分かるように説明するということはストーリーを自分の中で整理することに繋がりますし、何より自分とは違った他人の意見を聞くことはいい刺激になります。自分は当時ヒロインがPCたちと最も絡むであろうNPCでありながら少し個性が薄いことに悩んでいました。そこで相談をしてみたのですが「彼女を、時間を何度もループしながら堕落した建造者を倒そうとしている人物にすればよいのではないか」というアイデアを貰いました。このキャンペーンは最終的にPCたちに時間遡行をしてもらうものなのでループに必要な道具は揃っていますし、キャラ付けとしても十分です。そして何より自分自身こういうネタは好きなのでこのアイデアを使わせてもらうことにしました。

 このような場合に限らず、シナリオ制作の際には同じくTRPGをやっている人間に適宜相談をするとよいです。アイデアを貰うほどではなくとも先ほど述べたように自分の思考の整理にもつながりますし、他人からの反応を見れるだけでもそれから後の力を入れるべき場所がかなり分かってきます。一人だけ、一回だけ、シナリオ構築段階だけに限らずできる限り多くの人に、複数回、キャンペーン運用中も相談するようにしましょう。オススメです。


6.更に細かい設定を詰めていく


 いよいよ各種設定を更に細かく詰めていくと共に、各セッション単位で何をしていくかまである程度目星をつけてシナリオの解像度を上げていきます。今回のキャンペーンは日程から全6話構成の予定だったため3.で決めた流れのうち ⅠPCたちが艇を見つける に1話、 Ⅲ現代において堕落した艇の建造者を倒す に1話、 Ⅳ過去に遡行し全ての元凶を倒す に1話使うことを考え、調整の効く Ⅱ艇のパーツを集める に使える話数は3話となっていました。そしてⅡにおいて1話あたり1つのパーツを見つけるとなれば全部で3種類のアイテムが必要になります。またそれがどんなものであるかについては、SW世界らしく魔剣ということにしました。魔剣は1本につき1種類の要素を担当させ、その要素については時間が関係する3要素ということで「時間・空間・精神」の3本柱を考えました。これら3本の魔剣を集めさせるのがシナリオのメインストーリーとなります。更に第一話から魔剣を強く意識してもらう&ヒロインの「造られた存在」性を強調するため、これら3本の魔剣を束ねるヒロイン(の一族)にしか扱えない「増幅」の魔剣を4本目として彼女が持っていることとします。

 またヒロインが時間をループしている目的としては3本の魔剣を集めるため、そしてこれまでのループの中で2本までは既に場所を見つけており、その2本の限定的な力を使って時間をループしているものとしました。こうすることによりシナリオ前半3話のテンポがよくなると同時に、場所を見つけてくる描写を簡素にすることで勘のいいPLに「いくらなんでも簡単に見つけすぎでは?」とのちょっとした疑問を持ってもらえるようにとの狙いです。更にループ機能のPCたちによる乱用を避けるためとして、魔剣の使用にあたっての代償を設けておきます。しかし単にMPを消費するだけでは何度も使われるかもしれないため、使い手の記憶(データ的には持っている技能)を魔剣発動の代償としました。このように、PCたちに乱用されては困るシナリオギミックがある際はただ単にPLたちの良心に任せるだけではなく代償を設ける、タイミングや使用者を限定するなどとPLたちを納得できるだけの理由をつけておくとよいでしょう。理由をつけて断るべき事項を決めておくということは逆を言えばそれ以外であればPLたちの意見を尊重していくことにもつながります。

 魔剣の代償をヒロインの記憶(技能)としておくことで副次的な効果も生まれます。トレハン娘はヒロインのライバルとしてPCたちと対立してもらう必要があるためPCたちと同程度の実力を持っていることが要求されますが、ヒロイン本人にそこまでの実力があると戦力が増えることになりシナリオ進行が面倒なことになります。もちろんNPCとして戦闘に参加できませんと言うことは簡単ですが、せっかくなのでそれなりの理由が欲しいところです。この理由として魔剣の代償は丁度良く、トレハン娘の記憶ではヒロインは彼女自身と並ぶほどの実力を持つ冒険者だが魔剣の代償によりPCたちの認識では一般人と大して変わらない、という構造にすることができました。
 しかし同時に問題も出てきました。キャンペーン終盤PCたちは揃った3本(+1本)の魔剣の力により遥か過去へ跳びます。この際ほぼ一般人であるヒロインの払う代償とそれに伴う問題についてです。クライマックス周辺の劇的な演出のため代償をヒロイン自身の命とするまではよかったのですが、そうした場合魔剣の使い手がいなくなってしまいます。過去においても、黒幕と戦う際に魔剣を使う必要があったのですが、使い手たるヒロインがいないと話が進まなくなってしまうのです。シナリオに登場する人物のうち船の建造者は本人が魔剣を扱えたらヒロインの一族を作る必要が無いため却下、艇のAIは同じく建造者により造られた存在であるため却下、過去のヒロインの一族を出すのは直前にあった別れの感傷を損なう可能性があるため却下、PCたちの中に資格持つ者を入れるのはクライマックス前に魔剣の乱用を招く可能性があるため却下、ということでトレハン娘しか選択肢がありませんでした。そこでトレハン娘の種族もルーンフォークにし、過去において建造者による手術を受けることで魔剣の使い手となることとしました。こうすることでヒロインとトレハン娘の関係の掘り下げにつながりますし、黒幕を倒した後PCたちが改変後の歴史に戻る際にNPCである彼女を一緒に連れていけない理由にもなります。改変された後のエンディングにはPCたち以外前の記憶を持ってて欲しくなかったのもあって丁度いい理由ができました。


7.実際にキャンペーンを回しながら対応


 NPC及びキャンペーンのおおよその流れが決まったら後は卓を実際に回してPCやPLを見ながら適宜シナリオを調整していきましょう。TRPGはGMとPLの相互作用によって物語が作られていくゲームですから、PLから投げられたボールにうまくシナリオを合わせていくことも大事です。今回の場合、PCの一人に「過去に魔術の師匠がいた」という設定の持ち主がいたため、ヒロインをその師匠にしました。勿論過去に面識があるならお互い最初に出会った時に一発で分かってしまうためお互い分からないようにうまいこと設定を作りながらですが、お陰でヒロインとの別れのシーンはいい演出ができたと思います。

 また、PLたちの反応のよさからNPCが増えたこともありました。魔剣の2本目はとある魔剣収集家の領主の元にあり、PCたちにはそこで開かれる武闘会に挑んでもらうシナリオだったのですが、そこでの領主に対するPLたちの反応が思いのほかよかったため彼にはそれから後の2話にも出てもらうことになりました。その場限りのつもりでも、そこでのキャラ立ちによりPCたちと絡みができるということはGMを実際にやってみないと分からないことでした。

 そしてエンディング周辺では特にPLたちの意見を重視するのがよいでしょう。エンディングとはPCたちの冒険の一旦の終わりであり、その終わりはPLたちのものであるからです。今回の卓の場合もPCのうちの一人がトレハン娘と一緒に過去に残りたいという提案をしてきたため、元いた時代に戻るのはそのPCを除いたPCたちだけになりました。自分の想定だと過去に残るのはトレハン娘一人だけだったため、卓の途中であげられたこの提案には驚きましたし、結果としてはいいエンディングとなりました。この演出を通じてエンディングは特にGMとPLたちの相互作用的側面が強く出る部分だという思いが自分の中で更に強まりました。


8.終わりに


 以上で自分のキャンペーン解説は終了です。最後に今回のキャンペーンの反省点を少しだけ言うとすれば、ボスの掘り下げが足りてなかったことがあげられます。PCサイドの各キャラクターは彼らと絡む機会も多く、PLたちの認知度も高かったのですが黒幕はシナリオ構造上その存在が隠匿されている上過去にしか存在していないため最終戦闘がどうしてもパッと出のボスになってしまいました。ボスの威厳が落ちないようにPC たちとの絡みを少なくしようとしていたのが逆に仇になってしまった形になります。PCたちの前に時たま意味深に現れるなど、もう少し顔出しをしておけば最終戦闘ももう少し違った雰囲気になったのだろうかという思いです。

 長文ですが、読んでくださりありがとうございました。この記事が、あなたのGMライフに少しでも役立ってもらえたなら幸いです。
最終更新:2018年11月23日 13:54