高レベルシナリオボス作成 ~ データ編

文責:キャスタ


0. この記事のターゲットについて


前提として、この記事は高レベルセッション(あるいは、キャンペーン)のGMをしたいという奇特な人向けの記事である。また、基本的な考え方に関しては流用は可能だが、無理にボスデータを自作する必要のないようなTRPG(SW2.0とか。2.5はルールブック3の発売を待て)のGMをやりたい人に向けてもいない。ここで対象とするのは、ダブルクロス、神我狩、サイコロフィクションのような、「PCの成長が、ステータスの成長やスキルの取得等によってあらわされる」システムである。

そのようなTRPGで結構長めのキャンペーンをやったことがある人は覚えがあるだろう。自分のPCのステータスが上昇し、1ラウンドで使用するスキルの数も増え、判定値やダメージの値が気持ちいいくらいに伸びていったことを。そんなキャラクターが第一話のボスに出会ったとしても、そいつは中ボスか、あるいはボスの周りに雑に配置される雑魚のうちの一体に成り下がってしまうだろう。

ああ、そんなあなたはなんて幸せだったのだろう。君たちPCの力に合わせ、苦戦しつつもなんとか倒せるくらいの力を持ったボスをきちんと出してくれるGMと巡り会えたのだ。彼もきっと毎回毎回[シナリオと}ボスデータ作成に苦労していたに違いない。そして、それは君の番だ。そんな君を、この記事で導きたいと思う。

そして、そんな経験がない人は、悪いことは言わないから一回高レベルセッションか、高レベルで終了するキャンペーンに参加しなさい。


1. 敵を知る ―― PCたちは、どのくらい強いの?


ちょうどいい強さというのは難しい。初期作ならば、サプリが増えて強力な選択肢が増えたりしない限りは、だいたいの強さの幅が決まっているし、なにか突出した性能を持つことも少ない。バリエーションこそあれども、ボスに要求されるステータスの幅は大体決まっている。では、高レベルでは?

高レベルに限らず、器用貧乏は基本的に弱く、キャラクターはデータ的に一点特化や、得意分野を補った性能になる。例えばメインアタッカーならば、1ラウンドに出せる単体火力に特化し、その火力を無駄にしない程度に命中も上げている、といった成長をする。問題は単純だ。どのくらいの命中でどのくらいのダメージが出るのか、わからないということだ。

まあ、対処手段は簡単だ。実際にそのレギュレーションでサンプルキャラを作ればいい。それこそ、基本ルールブックのサンプルキャラクターをそのレベルにまで成長させるのも手だろう。

ただし、君がキャンペーンを通じた成長しかやっていない場合、一つの大きな違いだけは気にした方がいい。それは、「初めから成長してあるキャラクターは無駄がない」ということだ。レベル3の時に何となくとったスキルが、その時は活躍したが、レベル5にもなるともう使わなくなった、なんて経験があるかもしれない。あるいは、こまめに武器を新しくしていったせいで、使った合計金額を考えるともっと強い武器が使えていた、なんてこともある。そうやって無駄にしたリソースすら余すところなく使えるので、思ったより強くなる。

この作業は非常に楽しいため、目的を見失わない程度に妥協してデータを組もう。要はどのくらいまでダメージが出るとか、命中・回避は最大でもどのくらいを要求すべきとか、あとは高レベルでしか使えないスキルで何か致命的なものはないかなどをチェックすればいい。でも、後で使うから成長させたキャラたちは脇に置いておこう。


2. 戦闘プラン ≒ 強いボスの魅せ方


究極的には、ボスの役割は負けることである。語弊がある、正確に言おう。「適度に苦戦させたうえで華麗に散ること」である、といえる。君の作ったボスは、シナリオ的には、何かすべてを犠牲にしてでも成し遂げようとするような野望と覚悟がある。そんなボスが、PC(あるいはPL)から「あいつは強かった」と言われつつ、最後には膝をつく。それが仕事だ。(もちろん、お互いに拮抗したうえで、万が一PCが全滅したら、それはそれで楽しみ方がある)

さて本題だ。適度に強いボスとは何か。ただ単に拮抗していることが、その条件であるとは言い難いのが高レベルの難しいところだ。そもそも、PCたちは一人一人がたくさんのパラメータを持っている。それぞれ得意なところに何も考えずに同じような強さを合わせていったって、苦戦しそうなボスはできる。まあそんな芸当はキャンペーンでなんとなくステータスが予測できる状況でしかできないと思った方がいい。
さてここで参考になるのは、先ほど作った成長させたサンプルキャラだ。命中はどのくらい、ダメージはどのくらい、範囲、シーン攻撃は、あやしいオートアクションは、等々。彼らを参考にしよう。

ただし、そこで終わったら、いわばただ単に苦戦した相手という印象しか残らないボスになってしまう。高レベルでは、一人一人の宣言するスキルが多く、かつHPなども多いため、戦闘に非常に時間がかかる。そこで、特に目立つところのないボスが出てくるというのは、印象が薄くなってしまう。

実は、特に凝った工夫はいらない。ボスらしさを出しつつ、強さを演出しつつ、強力な存在であることを強くアピールする簡単な方法がある――そう、“必殺技”だ。
“必殺技”、その名を聞いた通りの印象で構わない。ただ単にすごく強い攻撃を、印象的なロールを挟みつつ使うだけだ。何かすごく強い効果を持ったシナリオ1回のスキル(オリジナルでも構わない)を使い、もしもPCたちが何もしなければそのまま全滅するような、すごい攻撃だ。すごく頭の悪い文章になってしまったが気にしてはいけない。

そう、何もしなければ、だ。GMでありボスである君は、必殺技のロールをすることで、言外にPCたちにこう言うのだ。「この攻撃を防いで見せろ」と。
しかも、ボスがわざわざそんなすごい攻撃を使うということは、追い込まれているということだ。PCたち以外にもたくさん立ちはだかる障壁を乗り越えてきたであろう高レベルボスは、できる限り最小の力でPCたちを倒そうとする。とっておきは、連発の利くものではない。PCたちが同等以上の脅威であるとみなすからこそ、使う技なのだ。言い換えれば、そんな技すらも防がれてしまえば、もはや負けは目前だ……おそらく、諦めることこそ、しないが。

適宜補完しつつ、必殺技を使うことを意識した戦闘のフローが以下のようになる。

  • ボスは、通常時は、PCたち(の通常攻撃)と同じくらいか、それより強いくらいの火力で攻撃をする。少なくとも、PCたちが何らかのリソースを払うか、痛手を受けるくらいの攻撃力は常に必要だ。一方で、ボスのHPが削れないなんてことは避けた方がいいので、命中は高めに、回避は低めに設定しよう。

  • できれば、HPが減っていくにしたがって、段階的に強くなっていく。これは、長くなりがちな戦闘がだれないための工夫であり、残りHPの確認しにくいようなシステムにおいて、だんだんHPが減っていき、追い詰められていく様子を表している。火力が上がる、固くなる、行動回数が増えるなど、明らかに強くなることがわかるようなものならばよい。

  • ボスが最終強化段階であることの現れとして、“必殺技”を使う。ボスにとってはこの技を受けて立っていたものはいない、くらいの全力の技であり、高レベルPCが同じく“必殺技”のような何かを使うことでようやく生還できる、くらいのものである。もしもそのような防御切札的スキルがいくつあるかを何となく知ることができる場合、多くても同じ枚数まで用意しても構わない。一方で、ボス側の防御切り札は、システムにもよるがあまり枚数を積まない方がいい。人にもよるが、切り札を防ぐのは気持ちがいいが防がれるのは気持ちいいものではない。GMは我慢してほしい。

  • 必殺技を使いきったボスは、アタッカーの切り札を受け、ついにあっけなく倒れるくらいがちょうどいい。必殺技をすべて打った後に棒立ちするボスも、そんなに格好いいものではない。

上記のような戦闘になるのが理想と言える。HP減少に対応した強化回数に関しては好みの問題もあるが、2回か3回程度に抑えておいた方がよい。よくあるアクションゲームのラスボスも第3形態くらいまではあるが、第5形態まで来ると流石に面倒くささが強くなる。

また、適切な時間での戦闘にするために必要なのはHPである。多すぎても時間がかかりすぎてよくないし、少なすぎると必殺技をブッパされて形態が一個飛んでしまうかもしれない。PCたちが出せる1ラウンドのダメージなどから逆算し、多少の余裕を持たせてHPを確保するようにしよう。だいたい、毎ラウンド形態が進むくらいでちょうどいいだろう。

最後のアドバイスとして、ある程度ボスのデータは事前にわかるようにしておいた方がよい。事前情報なしで、強そうだけど実はそこまででもないような攻撃に使った結果、防御系必殺技のない状態でボスの必殺技を受けたら壊滅は免れない。魔物知識傾倒だけではなく、これから挑むボスの情報収集の一環として一部は教えておくのは優れた方法だ。

繰り返しになるが、究極的にはボスは倒されるためにある。どのように倒されるかを演出することが、ボスデータの作成と同義である、と言っても過言ではない。


3. 正解を知らないからこその、トライ&エラー

さて、とりあえずボスデータはできた。さああとはセッションだ、あるいはシナリオ本編を詰めるぞ……と言いたいところだが、人間だれしも間違いはあるし、君が本番で正しくボスデータの運用ができるとは限らない。完璧だという人は……そもそもこんなものを読まないし高レベルセッション是非立ててください。

今、君の手元にあるのはなにか。手間暇かけて作った大事な君のボスだ。ボスデータを組むのに使ったたくさんのルルブだ。……それだけではない。ちょっと視線を動かすと、君が「敵を知る」ために作ったサンプルキャラたちがいる。

では、模擬戦を、しようじゃあないか。

模擬戦には、3つの意味がある。1つ目は、君の大事なボスの試運転だ。各種パラメータは狙った通りの数値になっているだろうか。ボスは強すぎたり弱すぎたりしないか。戦闘の展開は期待した通りだろうか。本番で失敗しても誰も責めないだろうが、失敗しないに越したことはない。

2つ目は、そもそも君がそのボスをうまく運用できているか?ということだ。狙った通りの展開になるかならないかに依らず、自分で両方やっていた際に疑問に思った点はないか、なんとなく積んだスキルが全く使えていないなんてことはないか、ちゃんと戦闘の展開のスムーズな描写やボスの強化の解決をできているか。特に疑問点は、先に確認しておくことでPLが同じ質問をした場合にスムーズな返答ができる(可能なら、ルールブックの参照ページをメモっておくとよい)。なんにせよ、一回やらないとわからないことは多い。練習は大切だ。

3つ目は、そもそも君の作ったサンプルが、ちゃんと強いのだろうか?という点である。強かったならいいが、戦闘を実際にすることでわかることもある。先ほどのボスと同じように全く使わないスキルも出てくるだろう。ミドルフェイズ用の特技のための枠もあったりするので、必ずしも最適解である必要はないが、念のため見当違いなキャラを作ってないかの確認はやっておいた方がいいし、ほとんどの場合、実際にPLが作るPCは、君がそのシステムの専門家ではない限り、今君が作ったサンプルキャラよりも強い。

この模擬戦で不満点が出るかもしれないが、戦闘の動きに大した影響がないならば、無理して変える必要もない、ということも付け加えておこう。案外、なんとなくでもなんとかなる。


4. 作成の楽しみ、セッションの楽しみ

さて、君の作ったボスは、無事に強大で、格好よく、しかし最後には一歩及ばず倒されてしまう。そんなボスになってくれただろうか。安心してほしい、だいたいなっているはずだ。

もし不安ならば、こう自問しよう。このボスを作るのは、楽しかったか?と。君ならば即答できるだろう。

あとはシナリオに参加し、このボスと戦ってくれることをPL達が楽しんでくれればいい。きっと楽しいだろう。そして、内心君は驚くだろう、こんな強いキャラが組めるなんて、と。

その驚きはおそらく、PL達が最終的に味わうものだ。ぜひ渾身の“必殺技”を、ノリノリのロールの上で宣言してほしい。

本当のゴールは、ボスが倒されることではなく、全員が楽しむことなのだから。


5. 書いた人

HN:キャスタ
大都会7回生(OB)。駒場に近いためよく出没する。
ボドゲもTRPGもTCGもたしなむが、TRPGは特にFEAR系のゲームを嗜好する。
早い行動値からバフ・デバフを撒きつつ攻撃するようなキャラをよく組む。特に行動値に関しては一見無意味に特化させる場合もある。それなりに和マンチ。
ダブルクロス、ナイトウィザード、グランクレスト辺りを好むが、神我狩、ログホライゾン、アリアンロッド、カオスフレア、シノビガミ、マギカロギア辺りもよくプレイする。
種族:人間を選ばなくていい場合は選ばないことが多い。
最終更新:2018年11月23日 14:07