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一周年記念SS - (2007/01/08 (月) 14:05:15) の1つ前との変更点

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<dl> <dd>・投下予告<br> <br> ※これから投下するのは99%のギャグの裏側を書く事を夢とした話です。<br>   目標ではなく夢なのは、現実の厳しさから逃げ出す為です。<br>   目標は何時だって叶いませんが、夢は優しく僕らを包んでくれます。<br> <br> ※クリスマスと素直シュールの誕生日記念の話ではありますが<br>   「何故、今更?」という質問は誰かの心をえぐるので止めましょう。<br> <br> ※「いつものシューちゃんじゃない!」と泣くのはおよしましょう。<br>   兎のぬいぐるみという名のサンドバックが出ます。結構怖いです。<br> <br> ※同様に「いつものシベリアちゃんじゃない!」も禁句です。禁則事項です。<br>   タブーです。今の内に『い』をいっぱい言っておかないといけません。<br> <br> ※深夜にこっそり投下すれば全てが許されると思っている人がいます。<br>   生暖かい目で見守って下さい。冷たい水を下さい。できたら愛して下さい。<br> <br> ※ネタが大好きです。分からない人には地獄ですが許して下さい。<br>   あいちゃんは好きですが「イッペン、死ンデミル?」はまだ聞きたくありません。<br> <br> ※全9話ぐらいだそうですが、過疎を見計らってのんびり投下してみます。<br>   スレが落ちるまでには完結するかもしれません。基本的にスルーが安定行動です。<br> <br> ※空気が読めません。申告する事が既に空気を読めてない事に気付いてません。<br>   シュールなら何でもよかった。米俵のようなものでやった。今は反省している。<br> <br> ※「何もお前だけが丑三つ時の後を狙っている訳ではないのだぞ、ふっふっふ」<br>   という気は全くありません。むしろ割り込んでごめんなさい。では一話ずつのんびりと。</dd> <dd><br> #</dd> <dd> <p>1<br> <br> 最近、男がお弁当を持ってこない日がたまにある。<br> そうなると多分彼はパンを購入している訳であり<br> お米派としては断固阻止したいところなのだが、当人は私にばれていないつもりらしい。<br> <br> しかし流石の私も怒りで有頂天なので、今日は彼のライス弁当も一緒に作ってきた。<br> これを渡せば彼も今までの行動を反省して、お米の大切さを思い出してくれるだろう。<br> <br> そして現在、お昼休み。<br> 彼は恐らく購買に行ったのだろう。姿が見えない。<br> だが、こんな事もあろうかと今日は秘密兵器を持ってきていた。<br> <br> 円形で上にボタンがあって、星のついたボールを捜すドラゴンなんとかに酷似しているが気にしてはいけない。<br> 彼にこっそり取り付けた発信機が球状でスターがついている事も口にしてはいけない。<br> <br> 「さてさて、探してみるとしましょうか。……ぽちっとな」<br> <br> 画面を見るに反応があった場所は……屋上?<br> しまった、既にパンを食べているやも知れぬ!<br> <br> クラウチングから最高のスタートを決めた私にとって階段などない様である物でしかなかった。<br> ……まだご飯を食べていないのに走ったのは失敗だったかもしれない。<br> <br> でもこれを突きつけて奴の驚いた顔をまじまじと眺めるまではっ!<br> どんな誘惑や困難が私に迫ってこようとも引く事は出来ぬのだよ。<br> それが私のジャスティス。心躍る愉悦の瞬間なのだなぁ、みつを。<br> <br> と言う訳で屋上へ辿り着いたのですが。<br> 何やら話し声がしますね、ザーボンさん。<br></p> <p>よし、ここは潜入操作としよう。指示をくれ、大佐。<br> こちとら偶然にもダンボールのストックがあるから、準備は完璧だ。<br> ちなみに今日は保存用、観賞用、貸し出し用その1、その2まで持ってるさ!<br> 障害物のない屋上で使っても意味がないので使わないけれど。<br> <br> ドアを少しだけ開けて、こっそりこっそり。耳を立てましてっと。<br> 片方は男に間違いない。いわゆる一つのターゲットだ。で、もう一人は…………シベリア?<br> <br> 「今日は突然どうしたんですか? 話したい事がある。しかもシューさんには内緒だなんて」<br> 「ああ、いきなり呼び出して悪かったな。けど、大切な話なんだ」<br> <br> ――――えっ?<br> <br> 「……もしかして」<br> 「こうして面と向かって話すのは恥ずかしいんだが真面目に聞いて欲しい。実は俺……」<br> <br> 二人ともそんな所で、二人きりで、私に内緒で何を話しているのだろう。<br> 分からない。なのに体が震えるのは何でだろう。それも分からない。<br> <br> 「……あっ」<br> <br> 手にしていた秘密兵器を落としてしまった。<br> カタッ、と大きな音をたてたそれは、もうこの扉の向こうにいる男に反応してくれなかった。<br> まるでそれが何かを暗喩しているかの様に。<br> <br> 気付いたら走り出していた。<br> きっと私はあそこにいてはいけない存在だったと、直感したから。<br> この手に残った二つのお弁当箱が――何故か今はやけに重かった。<br> </p> <p>#</p> <br></dd> <dd>2<br> <br> 「さて、今日も急がないとパンが売り切れちまう」<br> 「……君は今、何と言った?」<br> <br> 「え? だからパンを……し、しまった!?」<br> 「そうかそうか、最近お弁当じゃない日はこそこそしていると思ったらそういう事か」<br> <br> 「お、お前が米を愛しているのは知っているが、たまにはパンもいいと思うぞ、うん」<br> 「ファイナルアンサー?」<br> <br> 「待て、やけにそっくりな某もんた顔は止めてくれ」<br> 「と言う訳で不正解だった君にもんた改めサンタから残念賞を」<br> <br> 「袋が風呂敷なサンタは始めてみたぞ。しかもそれ、何処から出した?」<br> 「君は子供の夢をその様な安易な一言で、時間の果てまでブーンさせる気なのか?」<br> <br> 「まあシューなら、不可能じゃないの、の一言で解決だからこれ以上は尋ねない」<br> 「(´・ω・`)にょろーん」<br> 「……言っちゃ駄目だけど聞いて欲しいという微妙な乙女心を表情一つで表せるお前を俺は尊敬する」<br> <br> 「とりあえず物資は配給したので今日はそれを食べなさい。じゃあねー」<br> 「食べ物なのか。えーっと中身は…………赤飯おにぎり?」<br> <br> 何がめでたいのか分からないが、こうしてシューにお昼ご飯を作ってもらえるのは嬉しいな。<br> <br> 「ん、何だこのシール?」<br> <br> 【保存料、着色料などは一切使用しておりません。素材そのものの風味をお召し上がり下さい】<br> <br> ……この表示、自分で作ったな。どこでこんな技術を会得したのだろう。<br> おにぎりは確かに美味しかったが、その事が昼休み中ずっと頭を離れなかった。<br> <br> #</dd> <dd><br></dd> <dd>3<br> <br> まだまだ俺はシューの事を知らない。<br> 何時も俺をからかうシューが何を考えているか分からない。<br> <br> 「今日もわざわざ来てもらって悪いな」<br> 「いえいえ、私もシューさんにはお世話になってますから」<br> <br> 「じゃあ、早速。プレゼントの事なんだが……」<br> 「26日の誕生日が近いので何か渡して喜ばせたい、との事でしたね」<br> <br> 「頼む、アイツが好きな物が米ぐらいしか<br>  すぐに思いつかないのもそうだが、何より女の子が好む物なんて俺には全く分からないんだ」<br> 「私は男さんにもお世話になってるんです。私で良かったら喜んで協力しますよ」<br> <br> 本当にいい子だ。<br> 礼儀正しいし、何時もあんなに振り回されてるのにシューに付き合ってくれているし。<br> 校則もしっかり守ってるし、行動も模範的で…………うん、ウォッカの話は止めようか、そこ。<br> <br> 「でも、二人ってまだ付き合ってなかったんですね。驚きました」<br> 「さりげなく凄い事を言うな。何処をどう見たら、シューと俺が付き合ってる様に見えるんだ?」<br> <br> 「……あれだけ息がぴったりなのに気付いてないんですね」<br> 「ん?」<br> <br> 「でも確かにシューさんが相手なら……それも当然と言えば…………」<br> 「……おーい?」<br> <br> 「いえ、こっちの話です。とりあえず色々と考えてみましょうか」<br> 「ああ、そうしよう」<br></dd> <dd><br> 知らない事が山ほどあった。<br> 知りたいと思った事も山ほどあった。<br> けれど、踏み込んで今の関係が崩れるのが怖かった。<br> <br> ――それでも。<br> それ以上に、知りたいと思ってしまったんだ。<br> <br> 結局はそういう事なんだろう。<br> 相手をもっと深く知りたいと思う感情。<br> それが人間だけが持つ、特有のモノ。<br> <br> しかし誕生日がクリスマスの一日後なんて面白い。<br> 世の中の色んな人たちがソレに溺れてく日の翌日。<br> その事が何だかアイツらしいのが、行動に移そうと思った俺の背中を押してくれたのかも知れない。<br> <br> ……遠まわしな言い方なのは別に気取ってる訳じゃないぞ?<br> 乙女の恥じらいなんていうが、乙男の恥じらいだってあっていいじゃないか。<br> <br> 簡単に言えば、シューは好意に値するという事だ。<br> つまり――――好きってことさ。</dd> <dd> <p>#</p> <br></dd> <dd>4<br> <br> ついに。ついに入手したっ!<br> 知る人ぞ知る、米好きの、米好きによる、米好きのための店。<br> テレビや雑誌じゃ紹介された事のないほどの隠れっぷりなのに店内は何時も混雑しているというこの米聖地。<br> <br> もちろん、クリスマスともなれば大変な事になるであろう事が予測される訳だが。<br> ふっふっふ。今、私が手に持っている物を何だと思う諸君。<br> さあ、某紋所の様な異常なまでの効力がある訳じゃないが、これを見てひれ伏せい。<br> <br> ――ねんがんの クリスマスチケットをてにいれたぞ!――<br> <br> これさえあればばっちり。<br> 目の疲れ、充血や肩こり、腰痛、かぜの諸症状などに絶大な効果がっ!!<br> ……ある筈はないけど、当日はこれさえあれば店に手ぶらで行ってもOKという優れものだ。<br> ちなみに一枚で四人まで大丈夫という安心の構造。欠陥などありません。<br> 万が一、そんな事があったら、私は懲役五年を命ずるね。罰金は180万円で。<br> <br> ああっ、この喜びを今すぐ誰かに伝えたいっ!<br> 有り余る若さのパワーを存分に使い、駆け抜けろ、この長き道のりを!<br> <br> ……しまった、つい屋上まで来てしまった。<br> あまりの嬉しさに興奮し過ぎてしまったな。ここは姉を見習い、クールにいかねば。<br> <br> 「君が好きだ。付き合ってくれないか?」<br></dd> <dd>まずは形からと見習ってみたが駄目だった。<br> こういうのは私には向いていない台詞だ。むず痒い。<br> それに私が好きなのは黄身ではなく米だ。アイライクライス。<br> <br> ただ、大好きなお米を一緒に食べたい人はいる。<br> 私が大好きな時間を、共に、同じように感じて欲しいと思う人が。<br> だから私はこのチケットでその夢を叶えたいと思う。さて、探し人はいずこに。<br> <br> 「すまん、屋上を選んだのは失敗だった。今日は結構寒いな」<br> 「冬ですからね。でも私は慣れてるので大丈夫ですよ」<br> <br> あれ、これは男とシベリアの声?<br> <br> 「そうか、ロシアから来たんだものな」<br> 「ただ、この季節になると……何となく故郷が恋しいな、とは思ってしまいます」<br> <br> 二人が、また屋上で、二人きりでここにいる?<br> <br> 「ホームシック?」<br> 「あ、別にここでの生活が楽しくない訳じゃないんですよ。皆さん、いい人たちですからね」<br> 「……」<br> 「それでも、たまに思い出してしまって……ほんの少しだけ心が寒いです」<br> 「……俺に出来る事があったら何でも言ってくれ。力になりたい」<br> 「大丈夫ですよ。こうして聞いてくれただけで、気持ちが凄く楽になりました」<br> <br> そうか。この前、男が……。<br> <br> 「無理だけはしない様にな」<br> 「ふふっ、ありがとうございます」<br> <br> 幸せそうな二人の会話。<br> それは明らかに友達同士の会話じゃない。<br> <br> ああ、二人とも水臭いなぁ。<br> そういう事なら、わざわざ内緒にしなくても言ってくれればいいのに。<br> それとも私は信頼されてないのかな。こういう時はからかったりしないよ。<br> <br> 結局、また私は走り出していた。<br> 二人が黙っていたいと思うなら、私が何かを言っちゃいけない。<br> 三人で過ごすクリスマスという私の夢を乗せたチケットは……目から零れ落ちた何かで濡れていた。</dd> <dd> <p>#</p> <br></dd> <dd>5<br> <br> 「それにしても難しいですね」<br> 「考えてみたら、シューが『女の子が好む物』を好きかどうかが物凄く疑問だしな」<br> <br> 「素直に炊飯器とかはどうなんでしょう?」<br> 「こだわりがあるだろうから、自分の持ってそうだし……釜とか使ってそうなイメージもあるからなぁ」<br> <br> 「プランクトンとか」<br> 「好きそうなのは分かるが、何と言うかそれは、分かりづらいし渡しづらい」<br> <br> 「ワッシャーはどう思います?」<br> 「いい線だと思うが駄目だな。いや、ロックワッシャーなら……」<br> 「それ以前に問題だらけな気がしますけどね」<br> 「……そうだよな。プレゼントってレベルじゃないな」<br> <br> 真剣に考えるほど、逆に本来の目的から遠ざかってる気がするのは何故でしょう。<br> それを感じているのか、男さんもガックリと肩を落としてます。<br> <br> 「ああっ、分からん。プレゼントらしくてアイツが喜ぶ物が分からんっ!」<br> 「……何をあげても喜ぶと思うんだけどなぁ」<br></dd> <dd>男さんからのプレゼント。<br> その一点だけで、シューさんは喜ぶと思う。<br> 二人に出会ってから、まだ半年ぐらいしか経っていないけど私には分かる。<br> <br> ――シューさんは男さんが好きだ。<br> <br> 例え半年でも。<br> 二人の友達として今日までずっと二人を見てきた私だから分かる。<br> 相思相愛でありながら、二人はそれを全く分かってないだけです。<br> <br> 恐らく今までは現状に満足していたのでしょう。<br> 男さんの反応を見るのが楽しくて仕方ないシューさんと。<br> そして、そんなシューさんとの会話を心地良いと感じる男さん。<br> <br> クールでもない。ヒートでもない。<br> 恋の形は様々だからこそ、こんな形も存在した。<br> 二人の間に流れる穏やかで温かな雰囲気こそが愛の印。<br> <br> それが誕生日というきっかけを得て、少し形を変えようとしているだけ。<br> もし二人が結婚したとしても、それが変わる事はないんだろう。<br> それはきっとシューさんがシューさんだから。<br></dd> <dd>だから、何も心配しなくていいんです。<br> 普段は分かりづらいかもしれないけど。<br> ギャグだと笑い飛ばしてしまうかもしれないけど。<br> <br> シューさんは確かに――――男さんの事が大好きなんですよ。<br> <br> 「米か、やはり最後に究極的に行き着く先は米なのか、ラーイスっ!!」<br> <br> だから、問題なのはプレゼントの内容よりも<br> むしろ、それに気付いてない事なんですが……難しいものです。<br> <br> 結局、直接言いたい気持ちを抑えて、私は再び一緒にプレゼントを考える事にした。<br> これは私が口を出す事ではないですからね。例え二人の友達であったとしても。<br> <br> だって愛し合う二人の未来は、二人が築き上げていくものなんですから。<br> <br> #</dd> <dd>6<br> <br> プレゼントをどうするかという問題は解決した。<br> 答えは、分からなければ聞けばいい、というもの。<br> 単純だがこれこそ一番確実なはず。しかし問題はもう一つあった。<br> <br> 俺は、誕生日にプレゼントを渡した後、シューに告白しようと思っている。<br> だが、これがなかなか難しい事で未だに決意が揺らいでいた。<br> <br> 『実は俺、シューに告白しようと思っている』<br> <br> シベリアにそう話したのもそれが原因だった。<br> ウジウジする様な柄じゃないのだが、やはり断られるのが怖いんだ。<br> <br> 「覚悟は出来ましたか?」<br> <br> けれど、仕方がないだろう?<br> だってそれは好きだって証拠なんだから。<br> だから覚悟は――――決めなくてはいけない。<br> <br> 「……ありがとう。お陰でもう大丈夫だ」<br> <br> 最後の迷いは恋の力で断ち切った。<br> <br> ……ちなみに震えているのは怖いからじゃなくて、寒いからだからな?<br> 情けないですねと言いたそうなシベリアの目が、何故かとても痛かった。<br> </dd> <dd> <p>#</p> <br></dd> <dd>7<br> <br> 「シュー、あのさ」<br> 「おお、ちょうどいい所で会ったな、マイフレンズ」<br> 「同じクラスでたった今、授業が終わって昼休み、の場面でよくその言葉が出るな」<br> 「君は中々酷い事を言うね。……お客サンにだけ特別でいいモンを持て来たと言うアルのに」<br> <br> エセ中国人め。アルの付け方に底知れぬ違和感を悔しいけど感じちゃうぞ。ビクビクと。<br> だが特別などと言うお買い得に見せかけた、高額商品など買わんぞ。<br> で、でも貴方がそこまで言うなら買ってあげてもいいわよ?<br> ……と、こんな風に壺とか買わされる様なツンデレじゃないぜ、俺は!<br> ちなみにシューへのプレゼント代を稼ぐのに必死でお金がないだけとか、そういう裏事情は秘密だぜ。<br> <br> 「で、あれか。つまりはそっちも用事があるというのかね?」<br> 「と言う事は、ユーもミーに用があるというのYO!」<br> <br> エセ米国人め。そこはかとないお米アピールとかしやがって。<br> 語尾をアルファベットにすればいいという程度の考えないんだろう。<br> これだから、困るよ、最近の若い素直シュールは。<br> でもそこがいわゆる一つの萌え要素なんだよな、ちくしょう、大好き。<br> <br> 「して、何のようだね。おじさんに話してみなさい」<br> 「いやいや、そっちから話して下さって構わなくってよ?」<br> <br> 「レディーファーストという言葉があってだね」<br> 「なるほど、そして君はピッチャーでシベリアがキャッチャーか」<br> 「そうそう、黄金バッテリーとして有名な二人は甲子園に…………って待て」<br> </dd> <dd> シベリアもレディーです。勝手にキャッチャーにしない様に。<br> 確かに女房役という意味では女性的なポジションだけどな。<br> <br> 「……はぁ、話が進まないからこっちの用件を言うとだな」<br> 「実は今回持って来た物と言うのはこれなんだ」<br> <br> 俺の話は見事に無視された様です。<br> 本当にありがとうございました。<br> <br> 「……で、何でチケット?」<br> 「ノンノン、ただのチケットではない。クリスマスチケットだ」<br> <br> 解説を要求する。<br> <br> 「これ一枚で隠れおこ名店のフルコースが食べれる優れものなのです」<br> 「ほうほう」<br> 「しかも混雑するクリスマスにも関わらず、静かな個室で堪能できます」<br> 「おおーっ!」<br> 「そして……何と今なら、一枚で四名様までご案内可能!」<br> <br> 今日のエセ中国人は凄いな。<br> でも、何でその話を俺に?<br> <br> 「だからこれでシベリアを誘ってクリスマスに食べてきなさい、はい」<br> 「……シューは?」<br> 「ん?」<br> 「四名様まで何だろう? 誘ってくれるのは物凄く嬉しいけど、シューは?」<br> </dd> <dd>渡されたチケットにも確かに四名様の文字がある。<br> しかも、お米の名店でフルコース。<br> そんな豪華なチケットがまさか無料で配布されてる訳ないし<br> 手に入れる為にはかなりの苦労があったんだろう。それなのに何故?<br> <br> 「残念ながら外せない仕事がありまして」<br> 「……いきなりの話だからな。俺は真面目に気になっている」<br> <br> こんな話を突然するのだから、それなりの訳を聞かないとな。<br> <br> 「あ、えと……ちょっと用事が出来ちゃって諦めようかなって」<br> <br> ちょっと用事が? ……何かがおかしい。<br> 俺の頭の中にそんな言葉が過ぎった。<br> だって、今の発言をシューがすると言う事が意味するのは。<br> <br> 「……何かあったのか?」<br> 「えっ、どうしてそう思うの?」<br> <br> 俺は知らない。シューの事をまだまだ知らない。<br> でも知ってる事だって沢山あるさ。ずっと一緒だったんだからな。<br> <br> だから、お米が大好きなシューがこんなにすんなりと受け入れているのはおかしい。<br> 何よりも米を愛しているというのに、諦めるなどという選択肢をこうも簡単に取る訳がない。<br> <br> つまり、これだけのチャンスを逃してまでもしなければいけない事が今のシューにはある。<br> 愛しているものを捨ててまで、選ぶ重要で重大な事とは一体なんだろうか。それが知りたい。<br> </dd> <dd> 「だってさ、俺がずっとこの一年間、一緒に過ごしたシューという女性は……」<br> 「……」<br> 「俺が大好きなシューは、そう簡単にそんな事は言わない」<br> <br> たかが米の事で何を、と思われてもいい。<br> 何があっても米に対しては真摯であり続けたシューがそう言ったから。<br> だからこそ俺は何かあったのではないかと、心配なんだ。<br> <br> 「……男さん。今、大好きなシューって言いましたよね?」<br> 「シベリア、悪いけど邪魔しないでくれ。これは真剣な…………え、何だって?」<br> 「大好きなシュー、と言いましたよね。いえ、確実に言ってました」<br> 「……へ?」<br> <br> ちょっと待て、何を言ってるんだ、俺。<br> そして教室の盛り上がりようは何だ。<br> あっちこっちで騒いで、俺とシューの事を見てるぞ!?<br> <br> 「い、今のって本当……?」<br> 「それはつまり『大好きな、の部分は本当か』という問いでしょうか?」<br> 「い、イエス」<br> <br> こんな状況で新たに知ってしまった。<br> 慌てるシューの表情と……それがとても可愛いという事実を。<br> <br> ええい、もうこうなったらどうにでもなれだ。<br> 順序など知るものか。断られる恐怖など米粒以下に圧縮してやる。<br> <br> 「ここ数日、シベリアに協力してもらって誕生日プレゼントの準備をしていた」<br> 「……そ、そうなの!?」<br></dd> <dd> 「そしてプレゼントを渡した後に、告白しようと思っていたが、つい先ほど口を滑らしてしまいました」<br> 「……うん」<br> 「だから、というのも変だが今、告白しようと思う」<br> <br> 周りの目線はもう気になっていなかった。<br> 見つめる先にあるものは、俺を見つめ返すきれいな瞳だけ。<br> つぶらで、真っ直ぐで、それが俺だけを見ている。<br> <br> さっきから心臓の音がうるさくてたまらない。<br> 少し黙れ。酷かもしれないが俺が今から大切な事を言うから。<br> <br> ――――強い想いは勇気に変えて。<br> <br> <br> 「俺はシューが大好きだ」<br> <br> <br> 一片の曇りもない、俺の本当の気持ちを伝えた。<br> <br> <br> <br> <br> 「…………っ!!」<br> <br> な、泣かせてしまったのか?<br> この胸に飛び込んできたシューを抱きながら思う。<br> ああ、そうかこれは当たり前なんだ。シューが泣いているのを見て、急に冷静になれた。<br> シューからすればみんなが見てるこんな所で突然そんな事を言われて、辛い訳がない。<br> <br> 「私も……私も大好きです」<br></dd> <dd><br> そうだ、俺は馬鹿だ。<br> シューだって俺の事を…………待った。今、何と言った?<br> <br> 「私も君の事が大好きです」<br> 「……な、何ぃ!?」<br> <br> これはこの場を和ますシューなりのジョークか何かなのだろうか。<br> <br> 「相思相愛ですね、お二人さん!」<br> <br> 他の人に混じって、笑顔でこちらに野次を飛ばしてきたのはシベリアだった。<br> 多分、純粋に喜んでくれているのだろう。それだけに何も言い返せない。<br> <br> 「……君のせいで、ずっと君とシベリアが付き合ってるんじゃないかと思ったじゃないか」<br> <br> 俺とシベリアが!?<br> その言葉でハッと気付いた。あの赤飯のおにぎりの意味に。<br> <br> 「だったら、応援するしかないじゃないか。シベリアが相手なら……諦めるしかないじゃないか」<br> <br> そして、クリスマスチケットを俺に渡した訳にも今なら分かる。<br> シューは勘違いで行きたくて堪らない筈のお店を諦め<br> 俺とシベリアの為を思って、このチケットを渡そうとしていたのか。<br> <br> あれほどまでに大好きだと言っていたお米の店だというのにも関わらずそうしようとした。<br> という事は、もしかするとそれはつまり、シューにとっては俺とシベリアはお米よりも――――。</dd> <dd><br> 「だから、この抱きつきは今までの分の仕返し」<br> 「……こんな嬉しい仕返しなら何時でも歓迎だ」<br> 「仕事と米、どっちが大事なの、って言われても私は米を取るからね?」<br> 「……米か俺かなんて質問はしないから安心してくれ」<br> <br> 俺だって米は大好きだからな。<br> だって、俺とシューとの関係は米から始まったのだから。<br> 米がなければ、俺はシューに出会えなかった。<br> <br> 初めて交わした言葉は今でも覚えてる。「突然なんだが、米」だぜ?<br> いきなりそう言われて俺は何と言えばいい。<br> 結局、その時はシューに何も返事出来なかったさ。<br> <br> けれど、きっとその日から、その瞬間から惹かれていたんだと思う。<br> ただ純粋な意味での興味だと思っていたけれど<br> 日に日に彼女の事をもっと知りたいという想いは膨らんで。<br> <br> そして、ついに俺は辿り着いたんだ。<br> 俺の事を好きだという彼女の気持ちに――――。<br> <br></dd> </dl>

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