理学部と工学部の違いはFAQでありがちな例だ。特に理学部化学科と工学部応用化学科あたりがよく迷う。理学部は自然の理解、工学部はものづくりと印象で説明されるけど、理学部出身の工学部の教員も多いから研究においてはそうともいえない。カリキュラムの違いは、工学部では全学科共通の数学と物理が必修科目として設けられている点だ。これは応用化学科といえども化学プラントを設計・管理する化学工学という分野があるためである。化学工学は化学機械ともいわれ機械工学と類似の学問である。また、機械工学は歯車設計の印象しかないだろうが学際的でなんでもやる。

工学基礎科目(全学科共通)
数学(物理数学) 線形代数 微分積分 微分方程式 ベクトル解析 複素解析 フーリエ変換 確率統計
物理 力学(剛体)電磁気学

工学基礎科目は共通教育部門所属の教員が学科に出向して教えている(工学部の中にさらに教養部があるイメージ)。さらに専門科目になっても学科ごとの着色はあるものの共通点は多い。

工学部専門科目(学科間で関連する科目)
熱力学     機械、化学
流体力学    機械、化学工学、土木(水理学として)
材料力学    機械 化学(高分子物性として)
量子力学    電気電子、化学(量子化学として)
制御工学    機械、電気電子、化学工学
振動・波動   機械、電気電子ともに関連
プログラミング 機械、電気電子、化学工学

技術者教育において履修すべき科目は体系化されていて、多くの工学部が日本技術者教育認定機構から審査されていることもあって実際のところ履修内容に大学間の差はほとんどないはずである。最近は学科の大括り化で1学科からなる工学部まで誕生しているから科目の共通化はさらに進んでいるだろう。ちなみに1科目は90分x15回だから相当に端折って説明していくし、大学教員は大体授業はうまくない。シラバスを見る限りでは物理系は難関大が高尚な教科書を使う傾向にあるが化学・生物系の教科書はほぼ一緒である。

卒業要件
大学の卒業要件は4年間で123単位以上取得することである。1年間を前期と後期にわけ半期は15週で構成されるから、大学に通うのは30週間。1年間は54週だから卒研生以外は1年間のうち45%は休みとなる。1年間あたりに取得する単位数は約40単位(4年生はほぼ卒研のみなので3年間で授業の単位をとる)。実習や実験がないと想定すると10科目の授業を半期に取得することになる。1日に換算すると2科目の授業にでるだけなので大学の授業はスカスカである(理系の場合は実習や実験があるのでそういうわけにはいかない)。実際には実習・卒業研究25単位、教養科目30単位、専門基礎科目20単位、専門科目50単位くらいの配分であろうか。ほぼ1年間は教養科目にあてられるので、専門科目の講義にかけている時間は2年間の割に学費はたかいのである。

学生の現状
高校生の物理履修率は2割弱。微積や物理を履修しなかった高校生が理工系に入学するケースが増加。高校生までの内容が理解できていないと当然落ちこぼれる。現状でも理工系は落ちこぼれ率が高い。どこの大学も1-3割は留年や退学で脱落している。留年しなかった人が授業を理解しているかというとそれも疑わしい。実際は、小テスト、出席点、過去問等によって大部分が救済されているにすぎない。エントロピー、シュレーディンガー、マックスウェル、テンソル、ポインタ、などこれらのキーワードで事実上脱落した学生はごまんといる。ただし、留年を大量に出すと教室確保が難しいなどの大学側の事情もあるのだ。結局、定員管理のためにテストで入り口を厳しくし、ところてん式に卒業させるのは程度の差はあれ理工系も文系と変わらない(それでも留年がでてしまうのが理工系の特徴といえる)。
高校生までは予備校をはじめ各種ツールが活用できる。大学以降はそういうのはない(大学は独学が基本って教授も言うから)。しかも学習内容がより高度で進度がはやい(1科目は90分x15回で終了)。しかも、一度落ちこぼれるとその後に開講される科目は理解できない。大学の授業についていけない学生が理工系に多いのはこのあたりに要因があるだろう。難関大では学生の学習意欲が高いのでお互い教えあうグループがあったりするが、中堅以下はぼっちになる。

G大学とL大学
冨山和彦氏がグローバル(G) の世界とローカル(L)の世界に大学を分けるという提案。Gの世界では高度なプロフェッショナル人材が必要とされるが、人材は少数精鋭化され雇用は減少する傾向にある。一方、Lの世界では少子化もあいまって労働力不足が深刻化。「Lの世界の生産性」を上げることが課題。いわんとすることは理解できるが、「工学部は機械力学、流体力学ではなく、TOYOTAで使われている最新鋭の工作機械の使い方を学ぶ」のたとえはいただけなかった。そうではなく「最先端の学問研究や要素開発ではなくオーソドックスな分野の理解に重点を置き、いわゆる枯れた技術の横展開および集約・システム化を目指した人材育成」とすれば良かった。
最終更新:2016年05月07日 05:03