敗北への『収束』
絶対的絶望。
地球人類が団結し、抗い続けたその結果は、完膚なきまでの敗北であった。
恒河の砂を全て浚って数えても足りぬ、満天の漆黒を埋め尽くす虚ろな光。
那由多の時を全て歩みに尽くしても届かぬ、細く永く続く希望への途。
無量大数の力を全て振り絞っても覆せぬ、世界を統べる則に背く理。
人類は、ついに屈した。
神の力に抗うという大いなる業の報いであると、諦めてしまった。
神達は大挙して地球へと渡り、次々と全てを飲み込んでいった。
しかし、未だに抗いを捨てない者達は、半ば死に体である『
悪魔』を移動拠点として、次元の狭間と地球を彷徨っていた。
幾度も迎撃を受け、傷ついていく艦。そして同志達。
身も心も擦り減らし切った
賢者は、それでも意思を揺らがせることは無かった。
そんな中、彼女は発見した。
艦の中枢、ブラックボックスの収められた領域に封印された理論と、その体現たる『方舟』。
遥かに過ぎ去った時の彼方から運ばれてきた、もう一人の『友』の願い。
そして、その友が為に、賢者と同じように時を超えた反逆者の語った、『世界の定めた絶対の収束現象』。
それを回避し得る、唯一の可能性。
使ったとて、何かが変わるとは限らない。
しかし、使わずにいられなかった。
少しでも、可能性があるならば。
少しでも、この星が、彼女達が助かる確率があるのなら。
そして、方舟は海へと、その源流へと漕ぎだした。
本来なら抗いようのない荒ぶ川を遡り、その流れを変える為に。
世界を、騙す為に。
対Creqrat Viorl戦の経過
この間、撃破した《虚》をはじめとする兵器群の残骸等を研究・分析した結果、
それが
魔法素や熱に弱い性質の物質で構成されているということは判明していたものの、
ルシファーをはじめとする
次元兵器による攻撃でも十分に敵兵器に対処できたことや、
主戦場が地球圏から(より具体的には
マナの発生源たる
オールグリーンから)遠く離れた次元空間であったこと、
魔法素の積み込みや制御に
魔術師の手が必要なことなどから、次元空間における魔導兵器の運用は
"非効率的"であるとの判断を下され、前線に展開する戦闘艦隊の兵装からははずされる事となった。
同時に、熱線・光学兵器の開発も検討されたものの、
動力源となり得る熱力学を応用した強力な発電機がなかったため、
こちらは最後まで実用化できなかった。
その後、戦闘艦隊側では次元圧縮炉から直接弾体を生成できる『次元砲』をはじめとする
次元兵器の強化に力が注がれ、
戦艦から降ろされた魔導兵器は、各地で群発する《虚》や敵兵器群に対する防衛兵器として運用されることとなった。
レドールをはじめ、幾人かはこの
ルシファーと
次元兵器に依存する戦略方針に異議と警告を発したものの、
Creqrat Viorlに対する反転攻勢、さらにはその本拠地の殲滅を急ぐ《同盟》が方針を転換することはなく、
可能な限りの魔法素を封入した『魔導弾』が万一の際の切り札として改修した
ダイダロスなど
一部の戦艦に搭載されたのを最後に、前線部隊における魔導兵器の研究・開発は打ち切られた。
なおこの戦略方針は、未だくすぶっていた《人類同盟》内部の軋轢や、各文明圏の思惑を反映したものでもあった。
次元兵器の開発・製造はもちろん、魔導兵器の改修や次元空間での戦闘に関しては、
不完全ながら
次元科学を復元していた
科学文明圏側が主導権を握っており、
その特性上、次元空間では十全の能力を発揮できず、"整備要員"として扱われることを嫌った
エルフや魔術兵といった
魔法文明圏側の兵士たちは、地上での防衛戦力として、
そして、地上人類との共闘に戸惑っていた天人たちは
ウラノス群を迎撃拠点とする空戦部隊としてというように、
戦力・人員の振り分けが進められていった結果、前線部隊は
次元兵器偏重ともいえる構成となっていったのである。
そして、この戦略方針と最後まで埋まらなかった不調和が、人類そのものを不可避の敗北へと導く事となった。
こうして
次元兵器対策が施された兵器群が投入されるようになると、
《人類同盟》側はなす術を失い、敗北を重ねていく事となった。
この段に至って、魔導兵器の再装備や熱線・光学兵器の研究・開発が進められたものの、
時すでに遅く、人類は
Creqrat Viorlの大侵攻という、抗うことの出来ない絶望の前に屈したのだった……。
最終更新:2022年08月28日 22:43