「大儀式魔術アイドレス/提出アイドレス/同乗猫」の編集履歴(バックアップ)一覧に戻る
高位西国人+マシンマイスター+同乗猫+名整備士
3:SS2(仮)
4:オチ(仮)
5:要点
6:STAFF
同乗猫。パイロット達にとっての、頼れる相棒である。
同乗猫と言うからには、その全ては同乗するもの(コパイ担当)であり、その磨きぬかれた技量と卓越した知識は、過酷な戦場において、メインパイロットの強い助けとなった。
機体の特徴だけでなく、個体差としての癖までも知り尽くし、パイロットと阿吽の呼吸を以って操縦をサポートする。
その実力から、エースパイロットの連携によって最大の結果を生み出したが、新米パイロットに対する下士官としての役割をになう事も多く、
不慣れなパイロットを一人前になるまで守り、育てぬく人材として、非常に重宝されている。
無名騎士藩国といえば、それはもう言うまでもない、歴史のあるI=D国家であり、
そしてその運用してきた兵器種別はといえば、陸戦I=Dから航空機、人型戦車、大型I=D、シールドシップにRBと、
ありとあらゆる機種と言って差し支えない程の幅広さを誇る。
これらの背景に、長く続いた戦乱があった事は悲しい事実ではあるが、その戦いの日々の中で、
無名騎士藩国の戦士達が着実に成長していった事もまた、ゆるぎない事実と言えるだろう。
積み重ねられた経験が、戦士を強くする。
鍛え抜かれたパイロット達が多大な戦果を挙げるのと同じように、
歴戦のコパイ達は、機体とパイロットの潜在能力を最大限に引き出すのだ。
それは、相棒の事を他の誰よりもよく知る存在であるからこそ、出来る芸当である。
経験とは、何も戦場に出た回数の事を指すのではない。
経験とは、戦場で得られたデータを持ち帰り、それをどれだけ以後に活かしたかを示す。
過去に成功した運用論をいつまでも繰り返すだけの行いをして、歴戦とは呼べないし、
そんな経験だけで、ずっと生きていけるほど、戦場は甘くあってくれない。
これまでの戦績から得られたデータは、より的確にコパイの仕事を果たすための指針になる。
指針があるから、目標を持って自らを高める事が出来る。
パイロットとの関係についても同じだ。
全てのパイロットには違いがある。訓練課程で身に着いた癖、反応速度、そして性格。
誰もが皆違う中で、コパイはその違いにアジャストしなければならない。
勿論、癖があるのはコパイの方も同じ事なので、同調のための歩み寄りは相互に行なうべきものではあるのだが、機体操縦における主役はパイロット側である。
コパイ側が合わせる役回りを担当する部分は、少なくない。
経験が長いという事は、それだけ多くのパイロットを見てきたという事でもある。
多くの人に触れ合ってきた経験は、同乗猫が、さらに多くの人と触れ合うための、助けとなってくれるのだ。
ところで、無名騎士藩国のコパイ職は、その大部分が猫であり、そしてそのほぼ全てが、整備士あがりである。
そして、その中でも特に優れた者の事を、近年はマシンマイスターと呼んでいる。
マイスターの名は伊達ではない。平時の機体管理は言わずもがな、作戦行動中の機体状況にだって当然詳しい。
中でも特筆するべきなのは、乗機の個体差、つまり機体ごとの微妙な癖に至るまでを把握する事ができる点である。
同機種同型機といえど、生産時期やパーツごとの精度違いは、マシンの性能を誤差レベルで歪ませる。
この”癖”は、(設計段階でも当然計算しているので)本来無視してもよい物ではあるのだが、
真に熟達した操縦者は、機体を限界まで酷使する。そしてこの時、普段は気にならなかったはずの、
ほんの誤差レベルの性能の違いが、結果を左右する事もあり、優れたパイロットほど、自機の癖を掴む事には気を使うのだ。
ここにマシンを知り尽くしたマイスターがサポートに入るという事は、
使用する言語がお互い異なるはずの、機械とパイロット間の対話の時、認識の齟齬を埋める通訳が入るという事に他ならない。
真なる人機一体の境地を助けるそれが、パイロットにとってどれほど心強いかは、言うまでもない。
同乗猫。パイロット達、そしてマシン達にとっての、最高の相棒である。
機械油の匂いが漂い、機材の動作音が響く。
幾つものI=Dが分解され、クレーンに吊るされ、整備を受けた後組み上げられていく。それが工房の日常風景である。
整備士たちに紛れて、一匹の猫が厳しい目付きで機体の整備を行っている。
「ここにいたんですか!探してたんですよー!」
パイロット服の女が、涼しそうな長袖の作業着とその上にエプロン、
おまけにわざわざヘッドセットをつけた整備士スタイルの猫を見つけ、声をかけた。
猫は睨みつける様な目で声のする方向を見ると、
「なんだ、お前か。何のようだ」
と、一瞬姿を見ただけで作業に戻った。
「お前か。じゃないですよー!シュミレーター演習が近いから相談しに来たのに、
なんでそんな格好までして、整備なんてしてるんですか!」
女は駆け寄りながら、上官に文句をいう。
上官である猫は、物言いに関してはあえてスルーすることに決め、
めんどくさそうにヘッドセットを外し、
「整備くらいできないで、パイロットと言えるか。お前もパイロットの端くれなら、
機体の整備の一つくらいできるだろう。手伝え」
と言いながら、部下である新人パイロット、レティに整備道具を渡した。
「え、わかりましたけど、えー」
手渡された道具と猫の顔を交互に見つつ顔に困惑の色を浮かべるレティ。
「お前はパイロットだろう。戦闘中に不意の事態が起きて機体が故障したときの練習だ。
やるのか、やらないのか」
「はぁ……。やりますよー」
レティは猫のとなりでどこか納得の行かない表情で整備を始める。
しかし、それでも整備をはじめると先程までの態度が嘘のような集中力で作業に取り組む。
それを見て、一瞬だけ笑みを浮かべながら作業を再開する猫。
時折、レティのミスを注意するのもどこか優しげであった。
ある程度整備が一段落付いてきた頃、レティは尋ねた。
「というか上官。そもそも整備なんてなんでやってたんですか?
わざわざ服を着がえてまで」
猫は作業の手を緩めることなく答えた。
「ん、ただ腕を錆びさせないようにと思ってな。
整備ができたからこそ生き残れた戦場は今まで幾つもあった。
今後もそんな戦場がないとは限らないからな」
「そんな戦場もあったんですか……」
レティはこの猫の経歴を思い出した。
この猫は歴戦の兵であった。
様々な戦場でパイロットのサポートをし、多くの命を救った。
それは同乗していたパイロットも例外ではない。
機体が行動不能になった時も、彼の整備能力により急場をしのぎ、
命を落とすことなく戦場から帰ってきたパイロットが何人いただろうか。
その腕を以て彼は同乗猫として多くの機体のコパイロットとして、
機体特性を理解した上での操縦を行ない、その技術を多くのパイロットに伝えてきた。
彼女もまたその一人である。
今は新人と言われる彼女であるが、後に藩国の、いやNWの防衛の大きな礎となるだろう。
猫とレティの腕時計がなる。
演習の時間が近い。
「そろそろ区切りもいい。演習に向かうぞ」
猫は整備道具を片し、演習に向かう準備を進めた。
「わかりました!とりあえず、片付けはやっておくので着替えてきてください!」
猫は自分の格好を見て、すこしだけ苦い顔をした。
「む、そうだな。演習についての相談は向かいながら行う。いいな?」
「はい!了解です!」
猫は残りのほんの少しの作業を任せ、着替えに向かった。
てくてくと歩いていく猫を見て、レティは思わず
「上官、やっぱりなんだかかわいいなぁ……。絶対、整備に夢中になって自分の格好のこと忘れてたよ……」
とつぶやいてしまった。