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<dl> <dt>708 :U7TPVmQPO</dt> </dl> <p>----</p> <dl> <dd> 穏やかな春の外洋。洋上を小型のタンカーが進む。積荷は材木。船尾の甲板に、逞しい若者が佇んでいた。さっきからずっと空を見つめている。青い空を。<br> 「!」<br> 猛禽類を思わせる姿の、金属質のボディを持つ巨大な“鳥”に似た物がこちらに向かって来る。嘴を開き、きぃ、と鳴いた。<br> 男の脳裏に、奇怪な動植物の怪人が、怪人に村ごと襲われる東南アジア風の人々が、<br> 「やめろ!」<br> と叫ぶ自分の声がフラッシュバックする。<br> 我に返り、再び空を見上げると、そこには何も飛んではいなかった。<br> 「幻か…そうさ。ここまで飛んで来られる筈がない」<br> アジア系の船員が男に近づき、コーヒーを渡しながら声をかける。<br> 「ヤマト、もうすぐ着くぞ。」(←英語)<br> 「ありがとう。」<br> 「毎日空を見ているが、何かあるのか?」(英語)<br> 男は、明神大和は、空を仰いだ。<br> 「…あぁ、OWLさ。」<br> 「ははは、気は確かか?フクロウは海にはいない。」<br> その時、船首から声がした。<br> 「おい、ヤマト!空ばかり見てないでこっちに来いよ。お前の故郷が見えるぞ」<br> 大和はその声を聞き、船首に向けて駆け出した。遠くに陸地が霞んでいる。<br> 「帰ってきたぞ!…もうすぐ日本だ!」<br> 笑顔になる明神。その姿を見て船員が囁きあった。<br> 「全く変な奴だ…ずっと空ばかり見てやがった」<br> <br></dd> <dd>----</dd> <dd> ―その頃。日本。薄暗いビルの一室。十人程の男女が、同じ白い服を着て黒い箱を取り囲んでいた。<br> 部屋には祭壇があり、箱をを天に掲げた女性の彫刻が祭られている。<br> 一人、服の上から銀のネックレスをした30歳程の男がいる。スポーツ刈りで鼻の下にヒゲを生やしている。他の、やはり若い男女に向かって言った。<br> 「もうすぐだ。この汚れた国にもオウルが降臨する。オウルを迎える為、アポストルが必要だ。勇気ある神の使徒となる者はいないか?」<br> 長髪の男が一歩前に出た。<br> 「私にその役目を」<br> 「ならば祈れ。キューブの祝福を受けるのだ」<br> 「はい」<br> 男はひざまずき、黒い箱…キューブに手を乗せた。男が手を乗せたキューブの上面が消失する。内部から光と煙が。男は光と煙に包まれる。愉悦の表情。長髪の男は叫んだ。<br> 「素晴らしい…変わる。変わる。変わる」<br> 男の顔がぐねぐねと変型していった。頭から左右に角が突き出す。内側から光を放ちながら、水牛と人間が混ざり合ったような怪人へと変貌していった。<br> ネックレスの男が目を細める。<br> 「素晴らしい…新たな使徒の誕生だ。我らNOIZの新たなる使徒の…歌え!アポストルの誕生を祝福するのだ!」<br> 両手を開き、己の力を誇示する水牛の怪人。それを囲む信者が、讃美歌に似てはいるが…どこか歪んだ曲調の歌を合唱し始めた。<br> <br> ----</dd> <dd>〔モノローグ〕<br> なあ、あんた。<br> 仮面ライダーってのを知ってるか?<br> 俺がガキの時に流行ってた都市伝説でな。<br> 正義の為に戦う、大自然の戦士……それが、仮面ライダーだ。<br> 俺が相談事務所なんていう旨味のない仕事をやってんのも、そいつに憧れてたからなんだ。<br> ……馬鹿みたいだって?<br> そうだよな、まともな大人ならこんな、なんでも屋紛いの仕事なんてやってらんねぇよな。<br> でもよ、ただ夢を否定したり、絵空事を信じなくなるだけが大人になるわけじゃないって、俺はそう思うんだ。<br> それによ、俺は見つけたんだ。<br> ――本物の、仮面ライダーを。</dd> <dd>----<br> <br> 雑居ビルの一室。ドアに架けられた「甲賀相談所」の看板。事務所の一角が応接スペースになっている。向かいあう女性と若い男。<br> 女性は眼鏡をかけている。若いが化粧っ気はあまりない。男はこの相談所の客のようだ。女性に質問をする。<br> 「で?探偵事務所とは違うんですか?」<br> 野暮ったい、ゆったりとした口調で答える女性、申川悦子。<br> 「いや、まあ~最初はね、そうだったらしいんですけどぉ、ほら、あの、競争がね、厳しいでしょ?この業界。<br> うちのね、甲賀大ってんですけどぉ、所長なんですけど、まあ方針で、他のヤバい仕事とかも、あれこれ手を出すうちにぃ、今みたいなぁ、相談所っていぅ…形になっちゃいましてね。<br> 中途半端でしょ!あは、あは、あははは」<br> 「はあ…」<br> 事務所の奥から、ノーネクタイに、くたびれたスーツの男が出てくる。所長の甲賀大である。頭はぼさぼさ。どう見てもいかがわしく、頼りなさげな男。女性が振り向く。<br> 「起きたんですかぁ~?お客さんです」<br> 「ん?ん~えっちゃん話だけ聞いといて。出かけるから」<br> 「あら?お食事ですかあ?だったら私も連れてってくださいよぉ」<br> 「いや。大事な友達が帰って来たんだ。迎えに行く」<br> 「行ってらっしゃ~い」<br> 出ていく甲賀。悦子が振り向くと、客はもじもじしながら言った。<br> 「あの…いいです。僕帰ります」<br> 立ち上がる男を引き留めようとする。<br> 「ま、ま、今、お茶入れますから…」<br> <br> ----</dd> <dd> 電柱に寄りかかり、ぼんやりと空を見上げている甲賀。<br> くたびれたロングコートと深い皺を眉間に刻んだ顔立ちからか、TVドラマに登場する風刺化された探偵のように見えた。<br> もっとも、男が暇つぶしにと口に含んでいるのは煙草ではない。<br> 禁煙用のガムだ。<br> 煙草を燻らせる渋い探偵の姿を夢想していた幼少期と、助手の喫煙禁止令に従ってガムを噛む今の自分。<br> ずいぶんとまあ、差がついちっまたなぁ……と男が陰鬱な気分に沈んでいる時――<br> 「待たせたな……甲賀」<br> 更に物憂げな、しかし懐かしい声が聞こえた。<br> 「おお…大和、久しぶりだな、おい。随分変わったなあ」<br> 半年ぶりの再開。<br> 「そうか?そうかもな。」<br> 目線を下に落とし、シニカルな笑みを浮かべる大和。再び記憶がフラッシュバックする。襲わる村人。猛り狂う怪人。そして、怪人の首を、一瞬で斬り飛ばしてのけた、青い仮面の…<br> 「な、大和ちゃん、久しぶりなんだ。ゆっくり飯でも食いながら話を聞こうじゃないか…」<br> 「あ、ああ。」<br> 「で、すげえネタってやつもな…」<br> <br> ----</dd> <dd> 土手原。草の上に直に腰掛ける大和と甲賀。コンビニ袋に大量のおにぎり。包装を外し、海苔を巻きながらぼやく甲賀。<br> 「豪華なランチだなあ…」<br> 「済まんな。ずっと食いたいと思ってたんだ。生きて帰れたらな」<br> 「まあ…今日び、ゲリラに誘拐されても自己責任で済まされちまうご時世だ。良く帰って来たぜ。なあ…もう無茶は止めてだな、俺と一緒に…」<br> 「ゲリラか。ゲリラは人間だからな」<br> 「どういうこった?」<br> 「いや、うん……安心した」<br> 河原を散歩する主婦らを眺める大和。<br> 「安心……? そりゃ、なんでまた」<br> 「変わってないからさ。この国も、まったく変わっていない。平和なままだ……」<br> 「…………」<br> 心から安堵するかのように、微笑み、晴れた空を見上げる。<br> それは戦場の現実に毒された日本人が、安穏とした故国を皮肉っているようには見えなかった。<br> まるで、そう、まるで長い間、遠い異国に囚われていた者が、何一つ変わっていない故郷を見て、<br> 感慨に浸るような――そんな風に、甲賀には見えたのだ。<br> 「なあ大和、お前」<br> 「これを見てくれ」<br> 差し出される何枚かの写真。<br> 「へ? なんだこりゃ?」<br> 等身大のモンスター“怪人”の写真だった。それに襲われるアジアの現地人。怪人と戦う刀を持った仮面の人物…<br> 「なんだこりゃ?ハリウッドの新作か?お前のネタってこれかよ?」<br> <br> ----</dd> <dd>大和は、なおも行き交う人々を眺めながら言った。<br> 「映画じゃない」<br> 「じゃ、ドラマか?」<br> 「実際に、あったことなんだよ…」<br> 「おいおい…」<br> そんな二人のやりとりを遠くから監視する男女の姿があった。男が携帯電話をかける。<br> <br> 同時刻。高層ビルのワンフロア。電子機器やモニター、コンピューターが置かれた広い一室。数人の男女が機器をいじっている。大音量で流れるアップテンポの音楽。部屋の中央で、レオタードを着た男が音楽に乗って、ダンスともエアロビクスともとれる動きをしている。<br> 「ほっ!ほっ!ほっ!」それを呆れた表情で見つめる女性。20代後半程か。白人とのハーフの様な、はっきりした顔立ちだ。<br> 机の上の電話が鳴る。機器を操作する手を止めて、スーツの男が受話器を取った。僅かな受け答えの後に、受話器をレオタードの男に渡した。<br> 「うむ。俺だ。真名だ。聞こえんな…おい!ミュージックストップ!」<br> 音楽が止む。電話を続ける真名命。<br> 「ふむ。上出来だ。そのまま明神大和の監視を続けたまえ。その、接触した男の身元も洗え。必要なら、こちらのデータバンクへのアクセスを許可する」<br> 受話器を置き、笑いだす真名。<br> 「ふっふっふっ。やっと、エグゼキュト日本支部も熱くなってきた。OWLに明神大和、か。なあ、マリア、君の出番も、もう少しだ」<br> 嬉し気な様子の真名に、壁際の女性、マリアが感情を押さえた口調で言った。<br> 「嬉しそうね?OWLが現れたら、この国も地獄になるよ。それでもお前は嬉しいか?」<br> 「ふふ…嬉しくは無い。嬉しくは無いが、胸が高鳴るよ。男なら、自分がどこまで鍛えられたか、他人よりどれだけ力があるのか試したくなるものさ。マリア」</dd> <dd>----<br> <br></dd> </dl>
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