蠱毒

 ザルツダム帝国貴族の次男として生まれたファルシオンは、幼少期から父親をどこか遠くに感じていた。
 貴族として、王家に仕える魔術師として多忙を極める父親と、まともに話す機会も少なかった。
 だがそれ以上に深い隔たりを感じていた。

ファル「ねぇじいや、絵本を読んでよ」

じいや「坊っちゃま、どの本をご所望ですか?」

ファル「いつものやつが良い!」

 ファルシオン少年は神話の時代をモチーフにした絵本をいつも読み聞かせてもらっていた。
 その本の中では、多様な人族や亜人、人外達が神々と共に平和に暮らしていた。
 ファルシオンはそんな光景をいつも夢に描いていた。

 ある日、ファルシオンは父親から休日に一緒に出掛けないかと誘われる。
 最近父親が忙しく殆ど顔も見れなかったこともあり、ファルシオン少年は一も二もなく飛びついた。

 そして向かった先で目にしたものは、想像を絶する光景だった。

ファル「ねぇねぇ、これから何が始まるの?」

父「”お祭り”だよ」

 ザルツダム首都の闘技場では、人間以外の種族を戦わせる見世物が名物となっていた。
 毎回多くの貴族がどちらが勝つかを賭け、民衆もまた日頃の鬱憤を晴らすかのように熱狂していた。
 ファルシオンは闘技場に来るのは初めてで、これから何が行われるかも知らないまま、ただ期待に胸を膨らませていた。

男「レディース・アンド・ジェントルメン!これから始まるのは未だかつてない最大級の祭、”蠱毒”にございます!ご来場の皆様、どうぞ最後までお楽しみください!!」

 その声と共にゲートが開くと、中から何人もの亜人や人外達が現れた。
 その中には、まだ年端もいかない子供も含まれていた。

 父親も含め近くで観ていた貴族達の手には一様に名前と金額が書かれた紙が握られていた。

男「さあ諸君、これは諸君らの自由を賭けた戦いだ。最後の1人になるまで、存分に戦ってくれたまえ」

 その合図と共に巻き起こったのは、純粋な殺し合いであった。
 闘技場の至る所で血飛沫が舞い、悲鳴が響く。
 そしてその度に観客達は白熱していく。

ファル「なんだよこれ…」

父「どうだ、楽しいだろう」

 父親の声はもうファルシオンには届いていなかった。
 その光景は今も忌まわしき記憶としてファルシオンの脳裏に焼き付いている。






 ——全てが終わった時、闘技場の中央では、屍肉を重ねた玉座で唯一人の”王”がその咆哮を轟かせていた。
 それによって観客達の熱狂は最高潮に達する。
 地面を揺るがすほどの歓声の中、まだ幼いファルシオンは、ひとり言い様のない非痛感に胸を締め付けられていた。

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最終更新:2018年08月18日 17:58