理由と寒さ

冬。
寒さによって、肌がひりひりとして、息をすれば視界は白く霞んだ。
そんな寒い日の夜…路地裏に影が一つ。

「…寒い…」

両腕を摩り、膝を抱え、丸くなる。
こんな寒いの夜にこんな薄暗い路地裏を誰が通るものか、助けなどありはしないと幼いながらにわかっていたそれは、酷く疲れた目をして、街灯の淡くゆらりゆらりと不安定に揺れる灯を見つめていた。

もし、自分に家族がいたなら、自分も今頃、暖かい場所で寝ていたのだろうか…。
そんなことを頭に思い浮かべれば、もしだとか、だったらだと言う話に意味は無いと目を閉じた。

それから何度冬を超えただろう。
街の隅っこを駆けずり回り、必死に命を繋いできたそれはふと足を止めた。

なぜ、俺はここに居るのだろう。
別に生きたいわけじゃなかった。
ただ、死ぬ理由もなかったのだ。
無意味な者が生きていてもいいのだろうか。

「…嗚呼…真夏だって言うのに…寒いよ。」

ここに存在する理由が見つからないそれは、独り真夏に震えていた。

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最終更新:2018年08月18日 16:03