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ガルマ、散る

ブラックハウスのMS格納庫は、今や祭りのような熱狂に包まれていた。
ハルヒ・スズミヤ技術中尉が自らの整備中隊とBlackCatの追加武装をともなって乗艦し、さっそく取り付け作業を開始したのである。

「とんがりコーンの取り付けは後回し!まずは鉛筆削りを立ち上げて、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲を整備するわよ!みんな、全力で働きなさい!!」

整備兵たちは手際よく作業をこなしている。
ハルヒ中尉の整備中隊、通称SOS団は凄腕の技術集団と言われており、その信頼性は連邦軍随一だ。
オレは黒猫、乃人と並んで着々と進展する作業を見守っていた。すると、自分の部下に指示を飛ばしていたMKⅡがこちらにやって来た。

「驚いたね。カタログデータからすればBlackCatは一機だけでも戦艦並の性能だよ。ただ全備重量が100t近くなる。駆動系統を補強したいところだが、あいにくそれだけのスペースが機体内部にない。もっともここの設備だけじゃそんな大規模な改造は無理だが。上層部は何考えてこんなもの作ったんだ?」
「我々は秘密戦闘部隊ってことになってますし、プロパガンダという訳ではなさそうですね。」

乃人が言った。

「どうやら上層部もコイツの扱いには頭を痛めているみたいだよ♪」

いつの間に現れたのか、Lv.57が端末を持って立っていた。

「と、言うと?」
「BlackCatの情報が欲しくて連邦軍参謀本部のコンピューターにハッキングしたんだけど、」
「無茶するなぁ。」
「うん、どうやらBlackCatの開発にはK・Y・Tっていう組織が関わっているみたい。」
「そのK・Y・Tってのはなんだ?」
「よくわからないけど、僕的には連邦軍内の実験兵器開発組織みたいなものなのかなって思ってる。参加してるのがどんな人間なのかはほとんど不明なんだけど、わかってる限りではちょっと問題のある技術者が多いみたい。マッド・サイエンシストとまではいかないけど、開発コンセプトが奇抜な人ばっかりなんだよね。」

Lv.57の説明を聞いて、MKⅡがひょっとすると…、と口を開いた。

「SOS団もその一部なんじゃないか?BlackCatの開発から携わっていたから、今こうして追加武装の整備ができるのかも。普通の整備兵にはあの複雑な機構は難しいぞ。」

オレもMKⅡと同意見だった。整備のことには詳しくないが、なぜ彼らがオークリー基地からこの舟に乗り込まなかったのか大いに疑問だった。

「いっそ連中のうちの誰かを問い詰めてみたらどうだ?同じ舟に乗る以上オレ達は一蓮托生だ。連中がミスをすれば連中もオレ達も死ぬ。オレ達がミスしても同じだ。この際腹割って話してみるべきだろう。」

オレはそう言って、SOS団の整備兵の一人に近づいていった。
オレはSOS団の整備兵のうち、さっきからオロオロとして全然作業が進んでいないひとりの女性整備兵に近づいていった。
ネームプレートには「M.Asahina」とある。

「少しいいか?オレはBlackCatのパイロットでシン・ナガモンという者だ。」
「ふぇ?パイロットの方ですか?」
「そうだ。お前らSOS団のことについてききたい。どうしてオークリー基地から搭乗しなかった?後から乗って来た理由は?お前らのボスはどんな人間だ?」
「ボスって、スズミヤさんのことですか?どんな人間といわれても・・・。」
「違う。SOS団よりもっと上の人間だ。ええい、面倒だから単刀直入にきくぞ。K・Y・Tについてどこまで知ってる?」

K・Y・Tの名前を出した瞬間、どこか抜けた印象のあるこの整備兵の表情がさっと緊張した。
しかし次にでた言葉は条件反射のように正確で、冷静だった。

「禁則事項です。」

彼女は微笑とともにそう言ったのだった。
オレはそれ以上彼女と話すのをやめた。意外にも口は堅そうだ。だが、連中がなにかを知っていることはわかった。
オレは次の整備兵を探した。ほとんどの者が作業に携わっているので話しかけられるの者は限られている。
鉛筆削りと呼ばれる機材の傍らに立っている男は暇そうだ。彼に決めた。
その細身の整備兵は顔に貼り付けたようなほほえみをたたえていた。甘いフェイスで本心を隠している。そういう男だろう。
ネームプレートの文字は「I.Koizumi」と読めた。

「SOS団の整備兵だな。オレはシン・ナガモンという者だが、ききたいことがある。」
「これはこれは、パイロットの方と直々にはなせるとは、身に余る光栄です。」

やたらと下手にでるが少しもいやらしくないしゃべり方をする。手強そうだ。

「オレのこと知ってるのか。」
「知らないものはありませんよ。失礼ですがあなたは自分の立場をもう少し知ったほうがいいと思いますよ。」
「そうか?」
「それで、聞きたい事とは何でしょうか?」
「ああ、K・Y・Tという組織について知りたい。どうやらお前らとつながりがあるみたいだが。」
「つながり、というほどのものではありませんよ。僕たちはK・Y・Tの下請けのようなものです。僕たちは本来はただの整備中隊なんです。今もそうだと思っていたいのですが、軍務がからむとただ整備していれば良いというものでもない。政治というものが絡んできます。そのしがらみから逃れるためには、K・Y・Tというのは絶好の保護者だったんですよ。と、同時にK・Y・Tの奇想天外な新兵器の数々は、僕たちの団長の趣向を満足させるのに十分でした。彼女は一風変わった兵器が大好きなんです。彼女には力があります。自分の趣向を貫き通すためなら、世界そのものだって変えてしまうような方です。」

コイズミは終始笑顔でそう語った。どうやらあの技術中尉がK・Y・Tとの接触を図ったらしい。
世界そのものをかえてしまう、という言葉が弱冠気がかりだが、今必要な情報は聞き出せた気がした。あとは本人に直接聞いてみよう。

オレはコイズミと別れ、スズミヤ技術中尉を探した。しかし、見つからない。ついさっきまで大声で指示をとばしていたのだが・・。
とりあえず近くにいた整備兵に聞いてみる。

「なあ、スズミヤ中尉はどこへいった?」
「ん?ハルヒか?」

見た目の割にずいぶん老けた声だ。おっさんのような、と言えばいいのだろうか。ネームプレートはなぜか白紙だ。

「お前、名前は?」
「キョンって呼ばれてる。キョンはあだ名だが好きに呼んでくれ。キョンでもジョンでもなんだって似たようなものだ。」

投げやりな話し方が印象的な男だ。

「それで、スズミヤ中尉は今どこに?」
「さぁね。気まぐれな奴だからな。またろくでもない思いつきして帰ってくるんじゃないのか?」
「お前らの隊長はずいぶんな変わり者のようだな。」
「まあな。よく言えば一緒にいて飽きることがない。悪く言えば落ち着けない。普通の生活が懐かしいよ。もっともハルヒだけが変人なわけではないけどな。」
「ほかにも変わり者がいるのか?」
「『ほかにも』どころじゃない。みんな変わり者さ。未来人、宇宙人、超能力者のたぐいがうじゃうじゃいる。SOS団ってのはそういう奴らの集まりさ。」
「お前は?一見普通の人間に見えるけど?」
「オレは唯一の平々凡々な男さ。いつもみんなに振り回されてる。」
「そうか・・・。」

いかにも迷惑って顔をしているが、キョンは実際にはそんなSOS団が大好きなのだろう。
決して表には出さないが本人もそれを自覚しているはずだ。唯一の平凡な男。平凡だったからこそ、彼はSOS団に居場所があるのだろう。
オレはそんなことを思いつつキョンと別れた。格納庫内にスズミヤ技術中尉の姿はなさそうだ。艦橋にでも行ってみるか。

† † † † †

ブラックハウスは、広大な廃墟と化したシアトル市の郊外にさしかかっていた。
レーダーには接近するジオン軍の攻撃空母、ガウの機影があった。あずにゃん艦長はブラックハウスを廃墟の中に隠し、これをやり過ごすことに決めた。

「つい最近絨毯爆撃があったようですね。ここは以前から廃墟だったはずなのに、なぜなんでしょう?」

あずにゃん艦長が言った。

「我々以外の何者かがここに潜伏しているのかも知れません。あのガウはその追っ手と考えられます。」

副長の京が答える。

「カントー少尉、レーダーにほかの反応は?」
「ありません。建物の影は感知不能です。これだけ廃墟が多いと・・。」
「仕方ありません。ひとまずここでガウの通過を待ちましょう。」

† † † † †

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ガウの内部では今まさにかの「赤い彗星」、シャア・アズナブルが自分の専用機に乗り込もうとしていた。
彼は見送りに来たガルマ・ザビ大佐の方に向き直ると、姿勢を正して敬礼した。


ガウの前部ハッチが開放され、シャア以下3機のザクが降下する。

† † † † †

カントーはこの機影をレーダーにしっかりと捉えていた。

「ガウからザク3機、降下しました!」
「コンディションレッド発令、総員第一戦闘配備。BlackCatには出撃準備をさせてください。」
「無理です!ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲の取り付けが終わっていません!今は動かせません!」

あずにゃん艦長の指示にアークがすかさず報告をはさむ。

「まずいですね、もしザクがそれぞれ別方向から攻めてきたら、対抗する術がありません。副長、最悪の場合は全速で離脱します。準備しておいてください。」
「了解。」

あずにゃんは京にそう言うと受話器を取り上げ、砲術長のトレイン・ハートネット曹長を呼び出した。

「最悪の場合は艦砲だけでザクと戦うことになるかも知れません。その時はお願いします。」
「了解。派手な花火を撃ち上げてやるぜ!」
「レーダーに新たな機影!連邦のMSです!」
「まさか、ガンダムがここに?となると、潜伏しているのはホワイトベースということですね。」

カントーの報告をうけて、あずにゃんが言った。京も同意する。

「まず間違いないでしょう。ホワイトベースならば絨毯爆撃を生き延びている可能性は十分にあります。わざわざザクを降下させたのはそれを確認するために違いありません。艦長、どうします。ホワイトベースと合流すれば、火力は二倍になりますし、互いの背中を守ることもできます。ブラックハウスを動かしますか?」

あずにゃんはしかし、京の提案を否定した。

「いいえ、今動いて、私たちがホワイトベースと合流する前にザクがこちらに来れば厄介です。ホワイトベースにはMSがありますが私たちのは動かせません。ここはホワイトベース隊に任せましょう。カントー少尉は戦況を逐次報告してください。」

ガンダムとザクはすでに砲火を交わしていた。双方がバズーカを撃ち合い、すでに廃墟と化していた建物が更地に戻される。
ガンダムはビルの窓越しに1機のザクの頭部を撃ち抜いた。シャアのザクは即座にそのビルに砲撃を加えた。
ガンダムはきわどいところで爆風を避け、さらに撃ち返す。と、今度は高いビルの上からもう1機のザクがヒート・ホークで攻撃してきた。
これをシールドで防いだガンダムは、大きくジャンプしてザクを引きつける。この様を見ていたシャアはガンダムの真意を悟っていた。

「やるな、MSめ。我々をおびき出すつもりか。と言うことは、木馬は後ろというわけか。」

シャアはそう言うとガンダムを追わず、ビルを飛び越えて後方を見渡した。
そして野球場の中に隠れている木馬、すなわちホワイトベースを発見した。

「なるほど、良い作戦だ。」

シャアはそう言って、ガウとの通信を開いた。ガルマ・ザビの姿がモニターに映し出される。
シャアの報告を受けたガルマは、ガンダムを追うため自らの戦隊をただちに回頭させた。

「ビーム砲開け!全機攻撃スタンバイ!」

ガルマはこの時を心待ちにしていた。恋人であるイセリナとの交際を認めさせるため、彼には軍功が必要だった。
このチャンスを逃す訳にはいかない。
だが、彼の熱意は彼が親友だと思っていた男、シャア・アズナブルの陰謀によって、無惨にも踏みにじられようとしていた。
シャアはわざとホワイトベースの策略に乗った振りをし、ガルマ戦隊をホワイトベースの強力な火線の前におびき寄せた。

時に、U.C.0079、10月4日21時50分、ガルマ・ザビの命運は決した。

彼が眼下にガンダムを確認し、まさに攻撃を命じようとしたその瞬間、ホワイトベース、ガンタンク、ガンキャノンの砲門が一斉に火を噴いた。猛烈な砲撃がガルマ戦隊に襲いかかる。ドップが、ガウが、次々に火を噴いて爆散し、乗組員の命を散らしてゆく。
一瞬にして窮地に陥ったガルマは、それでも最後まで戦う決意をしていた。

「シャア、謀ったな、シャア!!」

もはやガルマの乗るガウは正常に飛ぶことすらできなかった。ガルマは自ら操縦席につくと、操縦桿を握りしめた。
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「・・私とて、ザビ家の男だ。無駄死にはしないッ!!」

砲弾の直撃でガウの右翼は半分にへし折れたが、ガルマは諦めなかった。ホワイトベースに一矢報いなければ、死んでも死にきれぬ。
彼が特攻するつもりであることに、ホワイトベースもすぐに気がついた。ホワイトベースは慌てて上昇を開始する。
その間にも、無慈悲な砲火はガウの船体に巨大な穴を穿ってゆく。それでもガウはホワイトベースめがけて突っ込んでくる。
ついに激突かと思われたその瞬間、今度はガウの左翼に砲弾が直撃した。

「ジオン公国に、栄光あれェェェェェ!!」

その瞬間、ガルマの脳裏に走り寄ってくるイセリナの姿がよぎった。
どこまでも愛しい人よ、さらば。
刹那、ガウは大爆発をまき起こし、ジオン地球方面軍司令官ガルマ・ザビは、シアトルの空にその命を散華させた。

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最終更新:2010年06月01日 18:58
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