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地中海、血に染めて その5

夕日が世界を血の色に染めていた。沈みゆく太陽の断末魔は、それを見る者のこころに破滅を連想させた。何人たりとも避けられぬ、生命の悲しい性―――死の影が、ようやくアフリカに上陸したキシリア親衛隊に迫っていた。
司令官であるダールトンを失った今、彼らのこころの支えは東方のスエズ運河にいる友軍の存在であった。もし彼らが危険をかえりみずアレクサンドリア周辺の敵を突破し、キシリア親衛隊との接触を試みてくれるなら、自分達が生き残る可能性は十分にある。だが、現実にはそれはかなり難しそうだった。スエズ運河守備隊はキシリア親衛隊と同様に東西から敵に挟まれているのである。まして敵の目標がスエズ運河の奪還にあることは火を見るより明らかだった。守備隊の主力が運河を留守にして親衛隊の救援に来てくれるとは考えにくい。かといって親衛隊の独力では、アレクサンドリアを抜いてスエズにたどり着くことは不可能であった。親衛隊の輸送機編隊は二海峡を電撃的に突破することに成功したが、連邦海軍はその先の地中海にも待ち構えていた。空母から発進した戦闘機部隊との激しい戦いの結果、親衛隊の輸送機はいくつかが撃墜され、多数が損傷を負った。中には飛行するのもやっとの機体もあり、彼らはアフリカの海岸が見えるやいなや不時着を余儀なくされた。一蓮托生の合言葉のもと、全員が一丸となってきた親衛隊員たちは、仲間を見捨ててゆこうとはしなかった。死ぬときは全員一緒だ。無傷だった輸送機も地上へと舞い降り、キシリア親衛隊の残余約1000名は砂漠の真ん中で環状防衛線をはった。
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06/09 09:58 W51S(e) [231]エルザス
 † † † †

U.C.0079、11月16日の朝だ。
オレが目を覚ますと、夜通し移動を続けていたブラックハウス隊は、すでにカセリーヌ峠のすぐ近くまで来ていた。上空ではタチバナのセイバーフィッシュ編隊が旋回しながら周囲を警戒している。彼の編隊は前線飛行場で補給を終えたあとすぐにとんぼ帰りして夜の間ずっとブラックハウス隊を守ってくれていたのである。オレは着替えを済ませて医務室に向かった。乃人と、新たに入院患者となったナンジのお見舞いだ。ナンジは昨日の戦闘で機銃座ごとロンメルのザクに踏み潰され、銃座の爆発に巻き込まれたが、奇跡的に一命をとりとめていた。
医務室に入ると、包帯でぐるぐる巻きになったナンジと乃人が話していた。
「それじゃ乃人さんはナガモンさんの後輩だったんですか。」
「そう。先輩はあんなふうにクールだけど、意外と面倒見いいからかわいがってもらえたよ。」
「仲良しだったんですか?」
「そりゃあもう。宇宙軍のバルハラコンビと呼ばれてたんだよ。」
「バルハラ?」
「そう。北欧神話で、戦死した英雄がいくというオーディンの庭。」
「ふ~ん」
「バルハラコンビなんてオレは初めて聞いたぞ。」
「あっ、ナガモン先輩、おはようございます。」
「もうかなり元気みたいだな。」
「はい、阿部さんも退院を早めていいだろうって言ってました。」
「そうか。ナンジはどうだ?」
「全身やけどでろくに動けません。しかし助かっただけマシです。オレの隣にいた装填手はザクに潰されてぺしゃんこ、その隣の観測手は爆発で黒焦げです。自分もどうして助かったのかわかりません。」
「そうか…」
その時オレは、ナンジの奥のベッドにカーテンが張られていることに気が付いた。
「そのベッドは?この前まで誰も寝てなかったが。」
「ナガモンさんが撃破したロンメル隊のザクのパイロットですよ。アルニムって言うらしいですが、ずっとだんまり決めこんでます。」
「ふーん。」
その時、艦内放送のスピーカーから京の声が響いた。
「副長より達する。ブラックハウス隊は間もなくカセリーヌ峠に到着する。一時的にではあるが第二戦闘配備を解除し、半舷休息とする。以上だ。」
「もう着いたんだ。早かったな。」
乃人が言った。

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06/10 07:50 W51S(e) [232]エルザス
231
「意外だな、すぐに戦闘に参加するのかと思ったら逆に休息とはな。まぁいい、二人ともゆっくり躰を休めろよ。オレはもう行くから。」
オレはそう言って医務室をあとにした。本当はこの後当直でBlackCatに待機しなければならないはずだったのが、半舷休息となるとその必要もない。急に暇になってしまった。とりあえず食堂に向かっていると、ブラックハウスが停止し、着陸したのがわかった。窓から外をみると、何隻かのビッグ・トレーが停泊しているのが見えた。カセリーヌ峠に着いたのだ。
オレが食堂に入ると、あずにゃんが慌ただしく席をたつところだった。
「おはようあずにゃん。」
「ナガモンさん、おはようございます。すいませんがムスカ大佐に呼ばれたので今は失礼します!」
あずにゃんはそう言うと走りさってしまった。トレードマークのツインテールがひょこひょこと揺れる。あずにゃんも大変だ。
朝食をとってからぶらりと格納庫に行くと、ハルヒが大きな声でBlackCatの整備を指揮していた。隅のほうでは復活したキョンとコイズミが立ち話をしている。
「鉛筆削りにホッチキス、格納庫って言うより文房具入れだな。」
「そうですね。しかし、この部隊に新しい整備士が配属になるとは思いませんでした。」
「アララギ達のことか?お前も知らなかったとはな。」
「少なくとも機関は事前に知らせてきませんでした。先ほど連絡がありましたが、二人がK・Y・Tのメンバーである確証はないとのことです。」
「なら別に気にすることないだろ。ただの整備士ってわけだ。」
「そうとも限りません。実は気になる情報がありまして…」
「なんだよ、もったいぶるな。」
「ブラックハウス隊にスパイが潜入した、と。」
「本当か?」
「ナガモン中尉!?」
オレは思わず割って入っていた。キョンはかなり驚いた様子だが、コイズミは微笑を崩さない。
「聞かれてしまいましたか。」
「オレにはお前がわざと聞こえるように話していたように思えたが?それよりスパイって?」
「最近ブラックハウス隊に配属された補充兵の中に、ジオンのスパイが紛れこんでるらしいのです。未確認の情報ですが、ソースは信頼できます。」
「その話、オレとキョン以外には話したか?」
「艦長にはお伝えしてあります。しかし、できればここだけの秘密ということでお願いします。」
「わかった。だけどどうしてオレには教えたんだ?」
「不運な事故ですよ。」
コイズミはそう言って肩をすくめた。なにか意図があったのは明白だが、それがなんなのかはさっぱりわからない。オレになにか行動をとって欲しいのだろうか。
「あいにくお前と機関とやらの役には立てないぞ。オレはこの話をさっぱり忘れる。」
「それで構いません。」
どういうつもりなんだか。オレは二人と別れ、BlackCatの整備を手伝うことにした。
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06/10 07:52 W51S(e) [234]エルザス

† † † † †

あずにゃんはムスカが第4軍団司令部を移したゴリアテにやってきた。ムスカと会うときにはいつも緊張してしまうが、今回は自分の責務をまっとうした自負があったから、少し胸をはって部屋に入った。
「アズサ・ナカノ、参りました。」
「ご苦労。かけたまえ。急いで来てもらったのに申し訳ないが、第4軍団はまだしばらく攻撃を開始できないのだ。見たまえ。」
ムスカはあずにゃんと向かいあって座ると、リモコンでモニターのスイッチを入れた。映し出されたのは砂漠を行く一機のGM、その前を歩くのはボロボロのグフ、そして先頭にホバートラックだ。
「これは?」
「死神旅団の最後の仕事だよ。あのグフはイスタンブールで捕虜にした敵の将軍だ。コレマッタ中佐は彼を説得し、部下達に降伏を呼びかけるように仕向けた。今から降伏勧告が始まるところだ。あれはここから80km東方、敵の環状防衛線のすぐ近くだ。」


ダールトンは、ボロボロのグフをどうにか操って歩いていた。イスタンブールで捕虜になっていらい、彼はずっと恭順の姿勢を示してきた。コレマッタは彼にこう言った。包囲された部下を救う唯一の方法は、名誉ある降伏である、と。
「貴官は部下にこう言うのだダールトン将軍。『連邦軍は諸君らを完全に包囲し、命令が下れば24時間以内に諸君らを殲滅できる。また、スエズの公国軍は急速に弱体化し諸君の救援に来ることは不可能である』とな。だが実際には我々はスエズ運河守備隊に救援を出す動きがあることを確認している。それが本当に動き出すまえに、貴官の部下たちには降伏して欲しいのだ。もし余計なことを喋れば、捕虜であろうとすぐさま処刑する。たとえそれが、キシリア親衛隊の将軍とやらでもな。」
いけ好かない男だ、とダールトンは思った。まして灼熱の砂漠をコックピット全開で歩いているいま、前をゆくホバートラックに乗っているコレマッタは見るだけで暑苦しく、むしゃくしゃする男だった。そのホバートラックが停止し、ダールトンもグフの歩みを止めた。見ると、1kmほど先にキシリア親衛隊の防衛線が横切っていた。すでに何機かのザクが警戒して物陰からマシンガンを構えている。

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06/10 08:33 W51S(e) [235]エルザス
234
「こうした形で再会しようとはな…」
ダールトンは呟いた。防衛線の向こう側で1台の装甲車が走ってきて、ザクの足元で止まった。双眼鏡で見ると、セバストポリで最後の晩餐を共にした彼の参謀達が降りてきた。皆グフがダールトンの機体と気づいて慌ててやってきたのだろう。塹壕からこちらを伺っている彼らの表情には、緊張と期待とがいりまじっていた。
コレマッタが勧告を始めるように合図し、ダールトンは開けたハッチの上に立った。直接目にささる日差しが強烈だが、彼はしっかり前を向いて部下たちを見つめていた。ダールトンがマイクを持って喋り始めると、ホバートラックに積まれたラウドスピーカーががなりたてた。
「諸君、また生きてその顔が見られて嬉しいぞ。懐かしきかな…よくこれまで親衛隊を導いてくれた。留守にしてすまなかったな。」
本当にダールトンが生きていたとわかった参謀たちは、思わず身を乗り出していた。お互い肩を叩きあい、ハイスクールの卒業式みたいに喜んだ。
「諸君はすでにジオン公国軍兵士の誇りと、キシリア様への忠義を見事に示してくれた。私も諸君らのような部下をもって鼻がたかい。だが、今から私は諸君に厳しく、辛いことを言わねばならない。」
今度はコレマッタが身を乗り出した。ここからが本題だ。
「諸君は連邦軍に包囲され、壮絶な消耗を強いられている。ここでこのような命令を下すことは、あるいは私の独善的な判断になるのかもしれん。だが、あえて言いたい。」
コレマッタがその口に意地の悪い形の笑みを浮かべた。よし、言ってしまえ…!

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06/10 11:19 W51S(e) [236]エルザス
235
ダールトンは突然マイクを投げ捨てると、大音声で叫んだ。
「最後まで戦い抜け!どんなに厳しい道であろうと、最後の栄光は必ず諸君と共にある!」
コレマッタから笑みが消えた。何を言っているのだこいつは?!
「もう少しだけここで踏ん張れ!スエズからの友軍の増援は、間もなく到着するぞ!心配はいらない!」
コレマッタはようやく状況を理解した。慌てて無線器に取りつきGMを呼び出す。
「諸君らは必ず勝利するだろう!それはジオン公国国民の嵐の意思である!」
コレマッタにどやされたGM――イスタンブールで生き残った小隊長機――がマシンガンを構える。
「キシリア親衛隊よ、立て!偉大なる御旗のもとに集いて、祖国に断固とした勝利を!オールハイルキシリア!」
「そいつを殺せッ!」
「ジィィィ――ク・ジオン!!!!」
ダールトンの拳が振り上げられた瞬間、GMのマシンガンが火を噴き、ダールトンの体はグフの機体ごと爆散した。
「ダールトン閣下!!」
参謀の一人が塹壕から飛び出した。
「俺に続け!あいつらを生かして帰すな!!」
その場にいたザク数機が砂を蹴りあげて走りだし、GMに火線が集中する。
「さっさと逃げんかぁ!」
コレマッタがドライバーを怒鳴り付け、ホバートラックが反転する。その瞬間、GMが大爆発を起こし、機体の破片があちこちに飛び散った。ホバートラックはそれをまともに浴びながらも走り抜けた。コレマッタの隣に立っていた副官は飛んできた破片で胴から上を刈り取られ、無線手は無線機ごとぐちゃぐちゃになって、機械と肉片が一緒になっていたが、コレマッタは頬を切っただけだった。GMの爆発で舞い上がった砂に隠れ、ホバートラックは命からがら逃げ出した。

司令官を目の前で殺されたキシリア親衛隊は、その怒りを東方の連邦軍にぶつけた。アレクサンドリア周辺の連邦軍は、怒濤のように荒れ狂うキシリア親衛隊と、友軍を救わんと燃えるスエズ運河守備隊の挟撃にあい大損害を被った。キシリア親衛隊は連邦軍陣地を電撃的に駆け抜け、間もなくスエズ運河守備隊に合流した。彼らはそこからHLVで宇宙へ上がることになる。ついに連邦軍はクリミアから脱出した公国軍「敗残部隊」を殲滅できなかったのである。
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06/10 11:36 W51S(e) [237]エルザス

† † † † †

日付は変わって11月17日。
わたしはブラックサンで砂漠に出ていた。キシリア親衛隊は昨日スエズ運河守備隊に合流し、第4軍団が攻撃目標としていた地点に敵はいなくなった。わたしはその確認のために阿部さんとともに派遣されたのだ。まだ夜明けまで二時間近くあるから空には星がいっぱいだ。
「阿部さん、見て見て。きれいな星だねー。」
「いいのかフォイフォイ無線使って。」
「大丈夫だよ。どうせここには敵は一人も残ってないから。」
「本当か?」
「敵の戦い方からして、あいつらは仲間を置いていったりはしない連中だよ。ただのジオンとは違うもん。熱意がある。」
「なんでわかるんだ?」
「この辺り一帯にまだその熱が残ってるんだもん。感じない?」
「熱?サーモグラフには何も反応ないぞ。」
「そういうのとは違う。精神的なものだよ。」
「そういえば、なんとなく気合いに満ちた空気みたいなのは感じるな。だがヤラナイカに乗るのはこれでまだ二回目だ。俺が緊張するのも当たり前だろ。」
「うん。油断しないことは大切だけど、時に張り詰めた気持ちは幻想なんかを見せちゃうから気を付けてね。とくに夜にはありもしない陰が見えたりするから。」
「そんなもんか。」
「しっ!」
わたしはレーダー上に新たな反応があるのに気づいた。やっぱり無線を使ったのはうかつだったか。しかし、わたしはすぐにほっとした。反応は味方の信号を出していたのだ。どうやらホバートラックらしい。
「ひょっとして、死神旅団の?」
シンが言った。恐らくそうだろう。ホバートラックはこちらに気づいていないのか、わたし達の前方遠くを西に向かって走ってゆく。と、レーダーに新しい反応が現れた。
「ドラゴンフライ?ゴリアテ所属の機体ですね。」
「わざわざコレマッタのお迎えかな。ちょっと行ってみようか。通信は全回線オープンで、ただしお喋りはダメね。」
「了解。」
わたしのブラックサンと阿部さんのヤラナイカは砂漠をゆっくりと歩いて行く。すると、ホバートラックとドラゴンフライとの通信をキャッチしてしまった。

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06/11 22:40 W51S(e) [238]エルザス
237
「あやうく本当に死ぬところだったぞ!敵も降伏しないし、私の手元に残った最後のGMもやられてしまったじゃないか!」
これはコレマッタの声だ。
「降伏勧告のポーズは完璧に示せた。先方も文句はあるまい。」
そしてこっちはなんとムスカの声だ。ドラゴンフライに乗っているのか。ドラゴンフライは空中にとどまったまま通信を続けている。
「そういう問題じゃない!私にもプライドがある!敵に背を見せて逃げるなどまるで臆病者ではないか!どうしてくれる。」
「しかしこれで君の昇進と勲章の受章は確実ほぼ確実だぞ。」
「本当か?!」
「安心したまえ。我々の取引相手は君にこれからジャブロー勤務についてもらうと約束した。将来は安泰だよ。」
「ジャブローか…了解した。私はこの後、どうすればいいのだ?」
「ブラックハウスに乗ってジャブローに行きたまえ。ジャブローへいけばあとは…そこにいるのは誰か!?」
ドラゴンフライのライトが点灯し、ブラックサンとヤラナイカが照らし出された。一拍置いて、ムスカのトーンを落とした声が聞こえた。
「ブラックハウスのMSか。警戒任務の最中か?」
「その通りですが、なにか?」
弱みを握った気になったので少し挑戦的な口調で言ってやった。だいたい私はこいつの持つ雰囲気が嫌いなんだ。
「いや、任務を中断して、コレマッタ中佐のホバートラックをブラックハウスまで護衛してくれたまえ。中佐は激戦をくぐり抜けたばかりでお疲れだ。丁重におもてなしするように。」
「…了解。」
予定と違うが、ブラックハウスに帰れるのなら願ってもないことだし、わたしはムスカの命令に従った。ドラゴンフライは踵を返して夜の空に消えて行った。軍団長みずからこんな最前線にくるなんて、連邦軍士官としては異色の行動だろう。かなり怪しい。

ホバートラックを連れてブラックハウスの停泊地に戻ると、夜なのに辺りがやけに騒がしかった。軍団が移動を開始するらしい。わたしはあずにゃんに呼ばれてコレマッタと艦橋に向かった。
「コレマッタさんの部隊は、どうして死神旅団なんて呼ばれてるの?」
「コレマッタ中佐と呼べ!私は上官だぞ?」
「あぁ、ごめんねコレマッタ中佐。それで、なんでなの?コレマッタさん。」

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06/12 16:52 W51S(e) [239]エルザス
238
「バカにしてるかの貴様…まぁいい…死神旅団というのは他の部隊が勝手にそう呼んでいるだけだ。配属された兵士や戦車、MSが次々に全滅してしまうからだそうだが、私は軍人の責務を果たしているだけだ。命令を忠実に実行し、最後には勝利を勝ち取っている。その為に犠牲がでるのは当たり前だぁ。」
「ふーん。あずにゃんとは違うね。」
「ナカノ艦長か?」
「そう。命令が来るといつも申し訳なさそうにそれを伝えるんだ。」
「なぜだ?」
「さぁね。コレマッタさんにはわからないと思うな。」
「何が言いたいのだ貴様?」
「別に…CICに着いたよ。」
わたしはコレマッタを置いて一人先に走り出した。ブラックハウスも移動するのかどうか、はやく知りたい。
「あ~ずにゃ~ん!」
「黒猫さを、お帰りなさい。ムスカ大佐から、コレマッタ中佐を預かるように言われたんですけど…」
「連れて来たよ。ジャブローまで行くんだって。第4軍団は皆ジャブローに行くの?」
「いえ、ブラックハウス隊だけです。他の部隊はスエズ運河奪還作戦に参加することになりました。」
「この上まだ戦うつもりなの?!」
「ムスカ大佐が総司令部にかけあったらしいです。ただ、ブラックハウスはレビル将軍の命令で今度は宇宙に行くことになりました。」
「宇宙か!すごいね!」
そこへ、コレマッタが入ってきた。
「コレマッタ中佐である。ジャブローまで世話になる。」
コレマッタが敬礼し、あずにゃんも答礼を返す。
「ブラックハウス隊へ歓迎します。間もなくジャブローへ向かって出発します。乗艦の間はゆっくり休んでくださいね。」
「そうさせてもらおう。ところで、私の部屋は?」
「今部下がご案内します。アークさん、お願いします。」
「了解しました。こちらです。」
アークに連れられてコレマッタが出ていく。それを見届けてから、わたしはあずにゃんを振り返って声を落として言った。
「さっき、コレマッタさんと合流した時、ムスカ大佐がその場にいたんだ。」
「まさか?!どこに敵が潜んでいるかもわからない、最前線ですよ?!」
「しーっ!本当にいたんだよ。なんか、取引の話をしてた。」
「取引?コレマッタ中佐とムスカ大佐がですか?」
「ううん、ムスカの取引相手は他にいるみたいだった。多分ムスカは自分の仕事をコレマッタに手伝わせたんだと思う。」

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06/12 16:54 W51S(e) [240]エルザス
239
「厄介な問題を見つけちゃいましたね…わかりました。この話は他言無用です。いいですね?」
「了解だよ。」
わたしはあずにゃんと別れて自分の部屋に向かった。はやくシャワーを浴びたい。
部屋に飛び込むと、わたしはすぐに服を脱ぎ捨てた。
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06/12 17:01 W51S(e) [241]エルザス

† † † † †

数分後、ブラックハウスのとある部屋のシャワー室から、一糸まとわぬ姿で現れた人影があった。シャワーを浴びてさっぱりした表情で現れたのは…





コレマッタであった。
彼は連邦軍の制服に身を包むと、ビールを手にして椅子に座った。疲れたはいたが、思考はクリアーだった。彼の脳裏に、先日のムスカとの会話が思い起こされる。

「攻撃を誘発させろ?降伏はさせないというのか?」
「その通りだコレマッタ中佐。キシリア親衛隊を捕虜として捕らえるわけにはいかない。かといって殲滅させるにはこちらにもかなりの被害がでる。大人しくスエズから宇宙に上がってもらうのが一番なのだ。」
「バカな!今が敵を殲滅する最大のチャンスだ!この機を逃せば敵は宇宙で補給を受け、力を取り戻して逆襲してくる!」
「だがそれで君の昇進と勲章授与を約束すると言ったら?」
「今なんと?」
「昇進と勲章だよ、コレマッタ中佐。陸軍の我々にとって、宇宙戦が主になるこれからの時期に、昇進を狙うことは難しい。いわんや勲章をや、だ。戦争の終結は案外近くまで迫っているぞ中佐。これは絶好のチャンスだ。」
「…だが、なぜそんなことをさせる?」
「世の中には戦争継続を望む者もいる、とだけ言っておこう。弾を消費せねば困る人間がいるのだよ。」
「よくわからないが…まぁいい。それで?私はどうすればいい?敵の目の前で捕らえた将軍でも殺すか?」
「ただ殺すのでは足りない。できればその将軍が部下たちに戦い続けるよう命令してもらいたい。」
「どうやって?」
「敵に希望を与えてやるのだ。友軍の増援が来る、とな。そうすれば敵の敢闘精神は蘇る。」
「しかし、その情報を奴はどうやって知ったということにするので」
「何、スパイから聞いたことにでもすればいい、死人に口無し。どう転んでもわかりはせんよ。それに丁度軍内のあず…ゴキブリ退治をしようと思っていたところだ、いい大義名分になる、特に我が第四軍団からエルラン派だった奴らを追い出すな。仮に降伏されても我々は少なくとも損はしない、表向きはな。出資者が色々五月蝿く言うだろうが…なに君には関係のない話だ。」



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06/12 22:33 W51S(e) [242]エルザス
241

結局コレマッタは昇進と勲章という餌に釣られてムスカの言うことをそのまま実行したのだった。もちろん最初は驚きもしたが、上手く行っても行かなくても、コレマッタにとって悪い話ではなかった。まさか本当に死にかけるとは思っていなかったが、コレマッタは持ち前の強運で修羅場をかいくぐった。そして、ムスカは約束通り昇進と勲章を与えてくれる予定だ。ブラックハウスの個室は決して居心地よくはなかったが、ジャブローまでの航海は素晴らしい旅になりそうだった。コレマッタはビールの蓋を開けると、一気に飲み始めた。よく冷えたビールは、とびきり美味しかった。
ブラックハウス隊の航海は順調そのものだった。ブラックハウス、ヒップギグ、ギータ、ノドカのミデア、タチバナの戦闘機小隊からなるブラックハウス隊は、第4軍団のもとから離れるとジャブロー目指して西へと向かった。途中ジブラルタル海峡を抜けたあたりで公国軍の潜水艦が海面に浮上しているのと遭遇したが、敵は行動不能に陥っていたらしく、すぐに降伏した。こうして潜水艦一隻を丸々捕虜としたブラックハウス隊は、ヒップギグとギータに潜水艦を洩行させて大西洋を駆け抜けて行った。隊は11月22日にはアマゾン川の河口付近に到達し、ブラックハウスはヒップギグとギータと別れた。地上を行く両戦艦の任務はここまでだった。ブラックハウスを無事に護衛し終わり、両艦は再びユーラシアへと舞い戻ってゆく。潜水艦は現地の部隊に引き渡し、その乗組員はブラックハウスに移してジャブローへ運ぶことになった。

「先輩!お元気で!」
ブラックハウスの艦橋では、あずにゃんが小さくなっていく二隻の戦艦に手を振っていた。
「お~!しっかりやれよ艦長殿!」
「気を付けてな、アズサ。」
「あずにゃんまたね~!!」
「頑張ってねアズサちゃん。」
懐かしい面々の同窓会はこれにて終わりとなった。残ったノドカから通信が入る。
「寂しくなるわね。」
しかしあずにゃんの顔は覇気に満ちていた。
「でも、またどこかで会えると思います!今回もこうして会えた訳ですし…それにまだノドカ先輩が一緒ですし。」
「嬉しいこと言ってくれるわね。」
ノドカが笑顔を見せた。あずにゃんも笑って答える。前途に悪い予感はなかった。オデッサという大作戦を経験し、ブラックハウスは強くなった。それはアフリカで証明された。あずにゃんは艦橋のクルーたちを見渡す。ナガモンや黒猫の姿もあった。シンのコアファイターがヒップギグから戻ってくるのも見える。この仲間がいれば、どんな苦難も乗り越えられる。あずにゃんはそう信じていた。
そして、その苦難の時はすぐそこまで迫っていた。
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06/14 08:19 W51S(e) [244]エルザス
243
U.C.0079、 11月23日。ブラックハウスとミデア輸送機、セイバーフィッシュ小隊は、ジャブローへと入港した。戦艦ドックに着岸したブラックハウスのもとに、艦長の召喚命令が届いた。命令の差出人はゴップ将軍だ。あずにゃんは艦内の仕事を京にまかせ、ゴップ将軍のオフィスへと向かった。
ドアをノックすると落ち着いた雰囲気の女性の声が聞こえた。
「どうぞ~。」
「ナカノ小佐、入ります。」
ドアを開けると、そこには予想外の人物が立っていた。
「ムギ先輩!」
そこに立っていたのは、リツやミオと同じく、あずにゃんの先輩であるツムギ・コトブキ中佐であった。
「久しぶりね、アズサちゃん。」
「本当に!まさかジャブローで会えるとは思ってませんでした。つい先日まで他の先輩方と、ウイちゃんと一緒だったんですよ!今度はムギ先輩に会えるなんて。」
「ゴホン、ゴホン。」
わざとらしい咳が聞こえて、あずにゃんがそちらを見ると、執務机の横に恰幅のいい初老の将軍が立っていた。
「ゴップ将軍!し、失礼しました。」
あずにゃんは慌てて敬礼する。ゴップはそのねちっこい目をあずにゃんに向けたまま敬礼を返した。
「まぁ、馴染みの先輩に会えて嬉しいのはわかるがね。座ってくれたまえ。コトブキ中佐、お茶を頼む。」
「はい。」
ツムギが一礼し、隣の部屋に入って行った。簡単なキッチンになっているようだ。ゴップはあずにゃんが座るのを待たずに応対用のソファに座った。あずにゃんはその向かいにちょこんと腰かける。
「本来ならもっと正式な形で君を呼ばねばならないのだが、コトブキ中佐が言うのでこうしてここに来てもらった。くつろいでくれて構わんよ。」
「は、はい。」
くつろぐどころかあずにゃんは緊張しはじめていた。正直言ってこれほどの高官と一対一で向かいあうのには不慣れだった。ゴップはそんなあずにゃんの様子には構わず、ゆっくりとした喋り方で言った。
「あまり堅苦しいのは嫌いでね。コトブキ中佐が用意してくれるお茶とケーキを味わってくれたまえ。私も大好物でね。中佐には秘書のような役割をやってもらって申し訳ないんだが。」
「構いませんよ将軍。私も好きでやってますし。」
ツムギが部屋に戻って来た。手にはケーキと紅茶とカップが乗った銀のお盆。いい香りが部屋にただよってきた。

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06/14 18:58 W51S(e) [245]エルザス
244
「あ、ありがとうございます。」
ゴップに言うのでもなくツムギに言うのでもなく、あずにゃんはとりあえずそう言っていた。ゴップは黙って紅茶を一口飲むと、カップを見つめたまま言った。
「君たちブラックハウス隊には宇宙に上がってもらう。行き先や出発日時はまだ言えないが、間違いなく行ってもらう。覚悟はあるか?」
あずにゃんはちょっと考えてから答えた。
「覚悟はあります。今のクルーはみんな良くやってくれてます。ただ、みんな疲れているので、少し休ませてあげたいです。」
「それに関しては楽観していい。ジオンがここに直接現れでもしない限り、ジャブローでの戦闘はありえんよ。しばらくは休めるはずだ。君も羽を伸ばしたまえ。
そうだ、婿探しでもしたらどうだね?なんなら私が何人か紹介してもいいぞ。」
「む、婿?…考えたこともありません。」
「まぁ、君はまだ若いからな。しかし、いずれは身を固めなくてはな。この戦争もじきに終わる。」
「はい…」
その後はツムギも交えて世間話が続いた。彼女は本来戦艦建造の重要なポストについているのだが、無類の甘いもの好きであるゴップ将軍の目にとまり、こうして秘書まがいのことをやっているのだという。ゴップは何度となくすまないと言っていたが、本人はこの仕事も気に入っているようだった。聞けばティーセットは自宅から持ち込んだのだという。
ティータイムはあっと言う間にすぎさり、あずにゃんはブラックハウスに戻ることにした。ゴップが彼女を送っていくようツムギに言い、少女二人は連れだって歩き出した。
「惜しかったなぁもう少しでみんな集まるところだったのに。」
あずにゃんが言った。ヒップギグとギータが欧州に戻ってしまったことを言っているのだ。
「そうね~。でもノドカちゃんは来てるんでしょう?」
「来るときは一緒だったんですけど、ノドカ先輩はブラックハウスに新しく配属になる機体とパイロットを迎えにどこかに行っちゃいました。でもジャブローにいることは確かです。」
「そう。会えるのが楽しみね。」
「はい。」
二人は戦艦ドックの中に入って行った。
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06/15 08:06 W51S(e) [246]エルザス
245

その頃、地球の衛星軌道上では、何隻かの戦闘艦が集まって眼下の大陸を睨んでいた。その中に、ザンジバル級巡洋艦ダモクレスの姿があった。艦橋では、仮面を被ったゼロが友軍からの報告を今や遅しと待っていた。その友軍とは、シャア大佐率いるマッドアングラー隊のことであった。ベルファスト基地にいる木馬を発見したマッドアングラーは、スパイを通じてその目的地がジャブローであると断定していた。もし彼らが作戦に使用可能なジャブローへの入口を発見できれば、黒の騎士団は直ちにジャブローへ突入し敵の心臓部を徹底的に破壊する手はずになっていた。だがそのためにはまずキャリフォルニアベースに降りる必要がある。彼らがまだここにいるのは、遅れているツィマッド社特務隊の母艦、オンドゥルを待っているからだった。オデッサ作戦までに二機のKMFを撃破された黒の騎士団は、単独でジャブローに突入できるほどの戦力を持ってはいなかった。そこで、オデッサにてたまたま共闘したツィマッド社特務隊を呼び寄せたのである。今、ダモクレスのレーダーが、後方から接近してくる友軍艦の姿を捉えた。ヨーツンヘイム級のオンドゥルがやって来たのである。ゼロはザンジバルと数機のコムサイに大気圏突入準備を命じた。
「オンドゥルのMSが準備を終え次第、直ちに大気圏突入を図る!いつ連邦の戦艦が現れてもおかしくない。」
オンドゥルからコムサイにMSが移っている間に、宇宙にのこる母艦、ザンジバル以外の戦艦は反転して離脱の準備を始めた。
「扇、こっちの指揮は任せたぞ。連邦軍の追撃は十分ありうる。必ず無事にグラナダに戻れ!」
「了解した!」
「こちらグラハム・エーカーだ。ツィマッド特務隊はコムサイに搭乗完了!」
「よし!大気圏突入開始!」
ゼロが命令し、ダモクレスと数機の大型コムサイが体勢を整え、一気に加速を始める。
「再び重力のるつぼへ舞い降りるか…恋焦がれるな、ガンダム。」
グラハムが独り言を呟き、隣にいる機体に目をやる。追加配備されたフラッグには、うら若き乙女が乗っていた。その名はフェイト・テスタロッサ。ツィマッド社の技術主任、プレシア・テスタロッサの実の娘である。彼女はプレシアにガンダムの捕獲を命じられてこの部隊にやってきた。
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06/15 22:42 W51S(e) [247]エルザス
246
グラハムは人一倍ガンダムに熱心な隊長だったから、母の直命を受けているフェイトを気にかけていた。美しい顔立ちであるにも関わらず、彼女の顔色はいつもすぐれなかった。当初はプレシアからの命令が重荷になっているからだろうと思っていたが、それにしては思い詰めすぎであるようにも見えた。
「フェイト、気分はどうだ?」
グラハムはフェイト機と通信してみた。だが、フェイトは返事をしない。
「フェイト?どうした?」
「あっ、すいません。大丈夫です。」
「…地球に降りるのは初めてか?」
「はい。」
「そうか。あまり気を張りつめすぎないほうがいい。君の実力があればガンダムは必ず捕獲できる。」
「…はい。」
モニターの中のフェイトはようやくこちらを向いたがその表情はやはり晴れない。フェイトと一緒にやってきたアルフが心配そうに通信に入ってきた。
「フェイト、無理はしないほうがいいよ…」
「うん。でも、大丈夫だから…」
この少女をかくも悩ませるものとはいったいなんなのだ…?
グラハムは内心に呟いたが、答えがわかるはずもない。コムサイの推進装置が本格的に動き出し、黒の騎士団とツィマッド社特務隊の混成任務部隊は、地球への降下を開始した。

ジャブローの戦艦ドックには、今かのホワイトベースが入港せんとしていた。ブラックハウスとは離れたエリアだが、姉妹艦の到着はクルー達の心を踊らせた。連邦軍はいよいよ宇宙での反攻を開始しようとしているのだ。それを見越してか、ブラックハウスに新たなMSとパイロットが配属されてきた。
「え~と、ここでいいのかな?よいしょ。」
いま、一人の少女がブラックハウスの目の前までやってきて、重そうな荷物を地面に置いた。
少女の名前はナノハ・タカマチ。極東戦線のエースオブエースと呼ばれるパイロットだ。
「ほんとに黒いんだ。ブラックハウス。」
船体を見上げて、ナノハはそう呟いた。その後ろから、やや緊張した声が聞こえてきた。
「ナノハ・タカマチさんですね。お待ちしてました。」
ナノハが振り返ると、黒髪のツインテールがかわいらしい少女が立っていた。
「艦長のアズサ・ナカノです。ブラックハウスに歓迎します。」
「ナノハ・タカマチ、只今ブラックハウス隊に着任いたしました!」
役者は揃いつつあった。

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最終更新:2010年11月02日 22:03
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