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光る宇宙 その3

今や連邦軍の前線基地となったコンペイトウに、一人の男が降り立った。彼は傍らにまだあどけなさの残る少女を引き連れ、戦艦ドックに停泊しMSの修繕を急いでいるブラックハウスのもとへと向かった。サングラスをかけ、宇宙軍大佐の軍服に身を包んだその男は、ムスカ大佐その人であった。
「ブラックハウスか。アフリカ以来だ。」
彼は傍らを歩く少女に話しかけた。少女はピンク色の髪をツインテールに結び、ぶかぶかの白衣を着てキャンディーまで加えていた。少なくとも軍人には見えなかった。
「私は初めてよ。BlackCatと対面するのも初めて。私がつくったMSなのに。」
ぶっきらぼうな口調で言う少女に、ムスカはやれやれといった調子で答えた。
「確かに計画を指揮したのは君だが、BlackCatの設計はミャンマー博士によるものではなかったかね?君が直接かかわったのはOS『斉藤オメガ』の改良くらいだろう?」
「だとしても、あれには私の魂がこもってるもん!それをあっさり損傷させるなんて、パイロットの人選に問題があったんじゃないの?」
パイロットを選んだ自分を暗に非難する少女を前に、ムスカは余裕のある態度を崩さない。
「他のパイロットならとっくに撃墜されていただろう。考えてもみたまえ、ブラックハウス隊のこれまでの戦歴を。激戦に次ぐ激戦。並のパイロットなら3回は大破していただろう。もっとも、同じニュータイプ部隊と認定されたホワイトベース隊に比べれば、ブラックハウス隊は楽をしたほうだがね。」
「ブラックハウスの人にはもっと感謝して欲しいわね。こっちはデータを回収しなきゃいけないから、彼らを最前線の中でもできるだけ安全な戦区へ配属させるのに手を焼いたわ。あれだけの戦力で後方支援とはいかないしね。」
「私の指揮下にいれるという君のアイデアは見事だったな。私の陸軍としての地位が役に立った。」
少女は肩をすくめて見せた。相手をほめつつ、自分への賛美も忘れないムスカにあきれている様子だ。
「あんなに回りくどいことしなくてもよかったのよ。宇宙軍の指揮下でK・Y・Tの特別部隊として戦わせれば何も問題なかったはずよ。」
K・Y・T。それは連邦軍内にできたある種の軍閥であり、公にはされていないがさまざまな新兵器の開発とその実証、さらには戦略指導への介入までも行っていた。そのスポンサーは数多くの軍産複合体とジオンへの復讐心に燃える政治家であるため、K・Y・Tの連邦軍内における発言力は大きかった。とくにそのイデオロギーの面ではジオンを徹底的に叩こうとしていたレビル将軍と似通ったところがあったからなおさらである。
「当時の状況を思い出してみたまえ。ようやくMSのマスプロに入った連邦軍は戦争の早期決着へと乗り出そうとしていった。そうなればK・Y・Tによる最新技術の研究は必要なくなるし、なにより我々のスポンサーが困ることになる。かといって戦争継続のために表立って動くわけにもいかなかった。だが陸軍大佐として動けば目立つことはない。私の上には最大の利敵行為をしていたエルラン中将がいたしな。」
「エルラン中将の裏切りを利用したの?」
「バカどもにはちょうど良い目くらましだ。」
ムスカは自信にあふれた声でそう言った。二人が話しているのはオデッサ作戦の時のことだ。作戦中の連邦軍第4軍団において、司令官だったエルラン中将が敵と通じていたことが発覚し、逮捕される事態が発生した。その混乱を収束し、第4軍団の指揮を引き継いだのがムスカだった。だが、少女は納得できない様子だ。
「でもでも、大佐は第4軍団に突進を命じてジオンを蹴散らしたじゃない?あれは戦争継続のためにはよくなかったんじゃないの?」
「そうとも言えない。私が突進を命じたのは敵の後方を脅かすことで敵が戦意を失い、早急に脱出するよう仕向けるためだ。そもそも第4軍団の進路には敵の重要施設、採掘施設や打ち上げ基地などがほとんどなかった。将兵を殺傷されても、資源さえ手元に残れば敵は戦いを続けるよ。それがジオンというものだ。こちらとしては与しやすい。敵の部隊における新兵の比率は高まるばかりだからな。」
二人は戦艦ドックへと近づきつつあった。ムスカがブラックハウスへ向かうのは出張ついでのあいさつなどではない。より重要な目的があるからだった。

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10/21 01:02 Windows(PC) [411]エルザス
410

「艦長、面会したいと言っておられる大佐がお見えですが。」
ブラックハウスの艦橋で、京があずにゃんに話しかけた。
「面会の予定はなかったはずですが…?なんという方ですか?」
「ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ大佐だそうです。お連れの女性士官が一人同行しているとのこと。」
「ロムスカ…?」
「ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ大佐です。」
「まったく聞き覚えのない名前です。とにかく会ってみましょう。艦長室へお通ししてください。」
「了解しました。」
京がその大佐を迎えに行き、あずにゃんは先に艦長室へと向かう。部屋でツムギにもらった紅茶をいれていると、ノックの音が二回響いた。
「どうぞ。」
トレーにカップとケーキののったお皿をのせながら答える。
「失礼します。艦長。ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ大佐をお連れしました。」
明らかに緊張した様子の京が入ってきた。気が動転しているようにも見える。その目が何かを伝えようとしていたが、あずにゃんにはそれがなんなのかまったくわからない。と、ゆらりと大柄の人物が現れ、あずにゃんを見つめた。
「ナカノ少佐、しばらくだった。」
「あなたは…!!」
そこに立っていたのは、オデッサからアフリカまであずにゃんの直接の上官であったムスカ大佐その人であった。だが、陸軍大佐のはずのムスカがなぜここに。しかもわかりづらい偽名まで使って。
「ムスカ大佐、これはいったい…?」
まったく事情が呑み込めないままあずにゃんが言った。部屋にはムスカに続いてピンクのツインテールを提げた少女が入ってきた。ますます訳がわからない。
「失礼します。」
京が逃げるように部屋を出ようとした。だが、ムスカが彼女を呼び止める。
「待ちたまえ、京大尉。君にもここにいてほしい。話がある。」
「自分に、でありますか?」
あっけにとられた京がムスカを見つめる。
「そうだ。君にだ。ナカノ少佐と私の話を聞いてもらいたい。」
「は…りょ、了解しました。」
京は首をかしげたままあずにゃんの隣に座った。向かいのソファにはムスカと白衣の少女が座る。
「さて、君たちの前にいるこの少女だが、カタナ中佐という。ガンダムBlackCatに関する一連の作戦の指揮をとった。」
いきなり切り出したムスカの言葉の意味を、あずにゃんと京はとっさに理解できない。カタナ中佐だというこの少女は明らかに軍人ではないように見えたからだ。あずにゃんが言えたことではないが、どう見ても幼い。14歳くらいだろうか。だが、階級はあずにゃんより上なのだという。
少女は自分を見つめるあずにゃんと京にはそっぽを向いて、キャンディーをなめながら艦長室をあちこち観察していた。ムスカが話を続ける。
「陣頭指揮をとったのは彼女だが、実を言うと彼女は最高指揮官ではない。彼女が所属するのはK・Y・Tという組織で、そのリーダーはこの私だ。」
K・Y・Tという組織にまったく聞き覚えのない京は、それがいかなる活動を行っているのかまったく想像もつかなかった。だが、横に座るあずにゃんの表情は一変していた。K・Y・T、たしかそれは、ハルヒ達SOS団の庇護組織で、連邦軍内の一種の軍閥であるとナガモンから聞かされていた。ナガモンによれば、その思想と活動目的は危険であり、連邦軍内のやっかいものだということだった。それだけに自分の上官であったムスカがK・Y・Tのリーダーであるというのはショックだった。だが、あずにゃんはそこで新たな疑問にぶち当たる。それが自分となんの関係があるのか?

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10/21 01:03 Windows(PC) [412]エルザス
411
「君の知っている私は連邦陸軍のムスカ大佐であるが、それは本来の身分ではない。私の本名はロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ。宇宙軍大佐だ。私は今回、K・Y・Tを率いて、星一号作戦に直接参加することとなった。無論、その指揮官としてだ。」
ムスカがそう言った瞬間、あずにゃんの背筋に悪寒がはしった。まさかこの男の指揮下に再び自分が入るのであろうか。アフリカでの経験から、あずにゃんはそれだけはなんとしてもいやだった。
「そこで、君に一つ頼みがある。」
ムスカがずいと身を乗り出し、あずにゃんは思わず後ずさる。あずにゃんは最悪の場合を覚悟した。再びこの男の指揮下で戦うのか。もう一度リンディ提督のもとで戦いたかった。
だが、ムスカの言葉は予想外のものだった。
「京大尉を借りたい。」
「は?」
あずにゃんと京の声がぴたりと重なった。
「私はここへ来るのに専用の戦艦に乗ってきた。その戦艦、ラピュタは、K・Y・Tが新たに開発した高出力の新型砲を搭載している。私の今時作戦における目的はこの新型砲を実戦で使用し、その実証試験を行うことにある。そこで、ゴリアテの艦長を京大尉に任せたい。」
ムスカはそこで言葉を切り、京をじっと見つめた。何のことかわからない会話から、急に話題の中心にされてしまった京は戸惑っていた。どう返事して良いのかわからない。助けを求めるように、京はあずにゃんを見た。
「その人事異動は、正式な手順を追って認められたものなのでしょうか?」
「君はK・Y・Tをオカルト集団かなにかと勘違いしていないかねナカノ少佐。K・Y・Tは極秘の存在だが連邦軍の立派な一部門だ。当然正式な許可は下りている。リンディ提督の承認もある。時期に異動の命令書が大尉のもとに届くだろう。」
あずにゃんは自分を見つめる京を見返した。京のおびえるような瞳の色が胸を締め付けた。だが、正式の命令である以上あずにゃんは逆らえない。内心で「ごめんなさい」と謝りつつ、あずにゃんは京から視線をそらし、ムスカに向き直った。
「わかりました。京大尉は優秀な士官ですから、艦長職でもりっぱにやってくれると思います。」
「艦長!?」
京が悲鳴のような声をあげた。ムスカは満足そうに頷き、さっと立ち上がった。
「けっこうだ。これで私にも満足のいく作戦にできるだろう。この作戦が成功した暁には戦争は終わりだ。それまで、お互いに頑張ろうではないか。」
ムスカはあずにゃんに右手を差し出し、握手を求める。おっかなびっくり差し出したあずにゃんの右手をムスカは乱暴につかまえ、ぶんぶんと上下させてから離した。
「では、京大尉は異動の準備が終わったらG-13ブロックに来てくれ。ラピュタはそこに停泊している。私はさきに戻るが、カタナ中佐にはこの船の格納庫をみせてやって欲しい。」
それだけ言うとムスカはさっさと部屋を出て行ってしまった。あとにはぶっきらぼうな視線をあずにゃんにぶつけるカタナ、顔面蒼白になった京、そして周章狼狽するあずにゃんが残された。
「……」
京がまっすぐあずにゃんを見据えている。自分の運命さえまだ不確かなことに怯える、いたいけな瞳。未だに助けを求めている。
「京さん…」
「ちょっと。」
京に声をかけようとしたあずにゃんを、カタナが遮った。
「格納庫を見たいっていってるでしょ?はやく連れていきなさいよ。」
イライラした様子でカタナが言った。上官であるだけに、カタナを放っておくわけにはいかない。
「あっ、はい!」
あずにゃんは慌ててそれに応じ、カタナを部屋の外へ導く。
「すぐ戻ってきます。副長は自分の部屋で待っていてください。」
あずにゃんはそれだけ言い残し、艦長自らカタナを案内していく。部屋に残された京の頬に、大粒の涙が伝った。

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10/21 01:03 Windows(PC) [413]エルザス
412

「カタナ中佐が来るぅ?」
ブラックハウスの格納庫では、ハルヒを囲んだSOS団緊急会議が行われようとしていた。たった今ハルヒに事態を伝えたのはキョンであった。コイズミとともにたまたまムスカの来訪を目撃したキョンは、コイズミのすすめでさっそくハルヒに報告を入れたのだ。
SOS 団のメンバーにとって、K・Y・Tはパトロンであると同時に厄介ごとの種でもあった。連邦軍ないの政治に深く関係しないSOS団と異なり、K・Y・Tは常に軍閥としての権力闘争の渦中にあり、SOS団がその余波を受けて他の派閥から妨害工作を受けることもあったからだ。そういったことの原因はすべてK・Y・Tの過激なイデオロギーにあるのだが、そんなものとは関係ないハルヒたちにとってはK・Y・Tの政治活動はいい迷惑だった。もっともK・Y・Tが SOS団を養えるだけの権力を持つようになったのは、そういった手段を選ばぬ政治活動の結果であることも否めない。
「それにしても、K・Y・Tのリーダーがあのムスカ大佐だったとはね。」
ハルヒが腕を組んでむむむと唸る。ムスカの正体を彼女も今初めて知ったのである。
「ムスカ大佐のイデオロギーは明白です。ジオンへの復讐、その一念で彼は動いています。戦争を継続させようと動いているのはそれがスポンサーの意向であるのはもちろんですが、連邦の優位が確定したいま一人でも多くのジオン兵を虐殺したいという彼自信の目的とも一致していると言えます。」
コイズミが珍しく真剣な表情で語った。いつもの微笑みは影も見られない。そこにはまるで諜報部員であるかのような緊張感がみなぎっていた。事実、彼はK・Y・Tに対する諜報活動を行っていた。「機関」と呼ばれるコイズミの所属組織は、長年に渡りK・Y・Tの不正な活動を調査してきた。それが一年戦争の会戦以来急激に活発化したため、コイズミはK・Y・Tと関係があるSOS団に派遣されたのである。以来彼は地道な調査を進め、告発まであと一歩のところまで来ていた。ムスカがあの手この手を尽くして行った越権行為は文字通り枚挙に暇がない。陸軍と宇宙軍双方に籍を置いているのも何かの不正に寄る者であろう。さらに彼はK・Y・Tの地位向上のために連邦の技術者を数人殺めていた。本来は技術集団であるK・Y・Tのライバルをひとりでも減らす狙いがあったと思われる。
その秘蔵っ子と呼ばれるカタナ中佐が、いままさにこの格納庫を訪れようとしてた。彼女がK・Y・Tの悪事にどの程度かかわっているかはわからないが、油断はできない。
「とにかくまずいのはバルディッシュね。敵のMSを勝手に直してるのがしれたら一大事よ。もう動かす暇はないからカバーを掛けましょう。その他にもやばいものがあったらまとめて隠しちゃいなさい。『さわるな危険』とでも書いておけば大丈夫でしょ。」
ハルヒが団員に指示を与えるが、その内容は極めておおざっぱである。キョンはそんな指示でいいのかと不安になってしまう。というより、あきれてしまう。いつものことではあるのだが。
とにかく団員が作業を開始した。あっというまにバルディッシュに覆いが掛けられ、他にもキョンがユーノと運び込んだバルディッシュ修理用のパーツなどが隠される。さすがに手際が良い。あっというまに作業が終わった。あたりに散らばっているのは見つかっても何の問題ない工具や機材ばかりだ。

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10/21 01:04 Windows(PC) [414]エルザス
413
「こちらが格納庫になります。BlackCatはあそこに。」
ちょうどそこへあずにゃんとカタナが入ってきた。カタナは格納庫内を一瞥するや、足音高くBlackCatに近づき、その足下から機体を見上げた。
「あぁ、BlackCat。こんなに傷だらけになっちゃって…かわいそうに…」
そういってカタナは、BlackCatの大きな足に頬をすりつける。それを見たハルヒが声を荒げて怒った。
「ちょっとあんた!私のBlackCatになにしてるのよ!!」
カタナはハルヒを振り返ると意地の悪い笑みを浮かべた。
「あら、誰かと思えばハルヒじゃない。しばらくね。」
「しばらくじゃないわ!はやく離れなさい!」
ハルヒはカタナの腕を乱暴に掴むと、彼女の躰をBlackCatから引き離した。
「なにすんのよ!」
「こっちのセリフよ!BlackCatが汚れるでしょ?!」
「私がつくったMSに愛情を表現してなにが悪いのよ!」
「表現の仕方が気持ち悪いっていってんの!」
ハルヒとカタナは誰が見ても明らかな犬猿の仲であった。二人に熾烈な言い争いにあっけにとられる団員とあずにゃんを横目に、キョンはふたたびあきれかえっていた。自分の額に手をあて、ひとつため息をつく。のちのちのために今のうちに艦長に釈明しておいた砲がよい。キョンはそう判断し、ぽかんとしているあずにゃんに話しかけた。
「わるいな艦長。あいつはカタナ中佐とは昔から仲が悪くてな。会うたびにああなんだ。ひとつ処分は軽めにしてやってほしい。」
キョンはあきれかえった口調のままそう言った。途端に、今まで心ここにあらずといった感じだったあずにゃんがはっと我にかえった。
「あ、いえ、かまいません。あの、私は副長と打ち合わせがあるので、カタナ中佐のことをお願いします。ここを見たら帰るとのことですので。」
「そうか、わかった。」
「それじゃ、失礼します。」
あずにゃんはそう言い残して格納庫をあとにした。あずにゃんはなぜキョンがカタナ中佐を知っているのか気になったが、今は京のことが優先だった。
残されたキョンは、妹の友達であるカタナと自分の友達であるハルヒとの言い争いを遠巻きに眺めていた。下手に首をつっこんで巻き込まれるのはごめんだ。
SOS 団のさらなる発展を目論んで、ハルヒがK・Y・Tに接触を図ったのはキョンを通じてであった。キョンはハルヒにカタナを紹介し、二つの組織の関係はそこから始まった。同じ技術者同士、ハルヒとカタナはよきライバルであった。ともに奇想天外な発想で時代をリードし、ほかの技術将校や整備兵から圧倒的な支持を持っていた二人は、次第に互いを必要以上に敵視するようになっていった。二人が協力すれば最高の新兵器が開発できそうなものだったが、そういった機会は一度たりとも巡ってこなかった。
キョンは漫然と「協力すればいいものを」とおもっていた。彼は気づいていなかった。二人が争う本当の焦点は、キョンという男にあるということを。もっとも気づいていながら素知らぬふりをしている可能性もある。すくなくともキョンの仲介でK・Y・TからSOS団への援助は続いてきたのだ。
二人の罵り合いは激しさを増しつつあった。キョンはそろそろ仲介にはいるかと一歩踏み出す。結果自分がの罵られることになるだろうが、そんなのはもう慣れっこだった。

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10/21 01:04 Windows(PC) [415]エルザス
414

京の部屋に飛び込んだあずにゃんは、ベットに座り込んでうつむく京の姿に衝撃を受けた。いつものキビキビした京の面影はそこにはない。目深に被った制帽の下で、京は泣いているらしかった。あずにゃんはどう声をかけて良いものか迷った。とにかく京の隣に座り、その肩にそっと手をのせる。京の方がビクッと震えた。拒否されたかと思ったが、単なる嗚咽だったのかも知れない。とにかくあずにゃんは京を落ち着かせようかと思い、ひと思いに彼女を抱き寄せた。
「ふっ…うぇぇ…ひぐっ…うぅぅ…」
弱々しい京の鳴き声が耳元に聞こえる。京は躰をあずにゃんに預けて泣き続ける。
「京さん…ごめんなさい…」
あずにゃんの声はほとんど独り言のようだった。京にその言葉が届いているのかわからない。それでもあずにゃんは話し続けた。
「私は、ほんとは京さんとお別れしたくないです…でも、命令だから…言い訳にしかならないけど…ほんとは命令に背いてでも、京さんを渡したくないんです。ほんとです…」
京の嗚咽が激しさを増した気がした。その意味がわからなくて、あずにゃんは不安になる。
「ごめんなさい…ごめんなさい…私が、弱いんですよね…命令だからって言い訳して、それに従うしかなくて…私が弱いから、京さんに嫌な思いばかりさせて…ごめんなさい…」
京が首を左右に振った。そうではない、と言いたいらしい。だが、あずにゃんは謝るのをやめない。
「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…」
言っているうちにあずにゃんの瞳にも涙が浮かぶ。泣き虫になった。自分は艦長なのに。今は副長を助けなければいけないのに。
「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」
もう耐えられなかった。涙がこぼれる。京を抱きしめる腕に無意識に力が入る。京は必死に何かを言おうとしているようだった。だけど、激しい嗚咽でほとんど過呼吸になっている京は声を発することができない。それでも絞り出すように言葉を紡ぐ。
「じ、自分は、はっはっはっはっはっはっは、か、はぁっ、かん、艦長の、はっ、あっ、そばに、そばにいられて、ふぅはっ、あっ、はぁっ、し、幸せ、でした…っ!」
ぎゅっと閉じた瞳からどんどん涙を流しながら、京はやっとそれだけを言った。もっと伝えたいことはある。艦長のせいだなんてまったく思っていないこと、そんなに謝らないでもいいこと、そしてなにより、もっとあずにゃんのそばにいたかったこと。そういった思いがすべて言葉にならずに、涙に押し流されるように消えていってしまう。言葉にできない。呼吸が言うことを聞かない。自分の意志とは関係なく、どんどん空気を吸おうとする。うまく息を吐き出せないのだ。落ち着いて息を吐こうとしても、横隔膜が痙攣したように跳ね上がり、息を吸ってしまう。だから全然喋れない。もっと思いを伝えたいのに…
ニュータイプであったら、こんな時でも相手に重いが伝わるのだろうか。言葉にせずとも、自分の中に募る思いを相手に聞かせることができるのだろうか。
不意に京は考えていた。それがニュータイプなのだとしたら、なんとうらやむべき存在なのだろうか。
人は、変わってゆく。黒猫中尉のように。あるいは、ナガモン中尉のように。
もし皆がニュータイプになれたら、人はいつか時間さえも支配することができる…!
「…艦長…時が見えます…」
急に平静な口調になって、京がつぶやいた。あずにゃんはその言葉の意味が理解できなくて、京の顔を見つめた。涙に濡れてはいたが、京は微笑んでいた。あずにゃんの顔にも笑顔が戻る。わかりあえた。今度こそ自分は京とわかりあえた。あずにゃんの心の中に不思議な確信がわき上がってきた。
「…自分に、戦艦の指揮ができるでしょうか…?」
「できますよ、京さんなら…ブラックハウスの副長なら、それくらいやってのけます!」
「…ありがとう、ございます…」
京が今度はうれし涙を浮かべて、二人はもう一度強く抱きしめ合った。別れの時が近づいていた。


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10/21 01:05 Windows(PC) [416]エルザス
415

U.C.0079、 12月29日、レビル大将率いる地球連邦軍第一連合艦隊が、コンペイトウを発進した。「星一号作戦」の開始である。コンペイトウ近辺を襲った「見えない敵」は、アムロ・レイのガンダムによって倒されていた。三つの大隊に別れた第一連合艦隊は、一路サイド3へ向けて進撃してゆく。レビル将軍はマゼラン級の第一連合艦隊旗艦フェーベにて全軍の指揮をとる。連邦宇宙軍の総力出撃、威風堂々たる陣容を整えて、第一連合艦隊の大小様々な艦艇が宇宙を埋め尽くすように広がり、進んでいく。だが、連邦軍の戦力はもちろんそれだけではない。一定以上の大きさの戦闘艦と輸送艦にはMSが複数配備され、それらが解き放たれたとき初めて艦隊は全力の攻撃を仕掛けられることになる。だが、見渡す限りの艦船の群れを見ていると、MSが飛び出る空間がないではないか、と怪訝に思う将校をいるほどだった。それだけの数の船が展開しているのだ。勝利を確信する第一連合艦隊は全速力で進んでいった。
それに遅れること数刻、第二連合艦がコンペイトウを発進した。指揮官は臨時だったはずのリンディ提督のままだ。連邦軍上層部は今度の作戦の主力はあくまで第一連合艦隊だとしており、第二連合艦隊は副次的な役割しか与えられていなかったため、リンディ提督に引き続き指揮をとらせたのだ。実際、チェンバロ作戦で臨時の指揮を任されたリンディは卓越した指揮手腕を発揮し、見事ソロモンを陥落させている。今回の継続指揮はそれが評価された結果とも言えた。だがその一方で、「第二に優秀な指揮官を渡したくない」というレビル将軍の意図があったこともまた事実である。第二連合艦隊のもとで戦う戦艦ラピュタの艦長に、ブラックハウスから引き抜かれた京が就任したのもそのような事情があったからなのである。
もちろん、ムスカは京が艦長職に充分見合うだけの実力を備えていると見ていた。押しが弱い面があるあずにゃんより、命令に忠実でしかも名門出身ならではの手堅い指揮をとる京のほうが艦長としては適しているとさえ考えていた。
京が艦長を務める戦艦ラピュタは、マゼラン級を改造したものである。基本的な部分は同じだが、艦首は釜の底のような形状になっておりそこから不格好な突起が7つ飛び出している。これがラピュタに搭載されたK・Y・Tの新兵器、「ラピュタの雷」であった。
それがいかほどの威力を持つのか、まだ京は詳しく知らされていない。しかし、メガ粒子砲の比ではないとだけ教えられていた。実戦で使われるのは初めてなので、その性能にどれほどの信頼が置けるのかはなはだ疑問であった。疑問といえば、ラピュタの乗組員もそうであった。クルーの大半は黒めがねの男達がしめていた。彼らはオデッサでもムスカを取り巻いていた連中である。情報部らしかったが、なぜか戦艦に乗り込んで操艦にあたっている。今のところ京の命令に忠実であるが、ムスカへの忠誠を誓っていることは容易に想像がついた。京は船を進めながら訓練を念入りに行うことに決めた。ブラックハウスのクルーのようにとまでは行かずとも、ある程度の練度がなくては戦艦は生き残れないのだ。決戦の時はすぐそこまで近づいてきていた。
翌、12月30日、午後8時20分。進み続ける第一連合艦隊旗艦フェーベは、奇妙な通信をキャッチした。通信の相手は艦名を「グレート・デギン」と名乗り、和平交渉のために投降を申し出てきたのである。直ちに事実関係が確認され、その上でレビル将軍に状況が知らされた。
「デギン公王がか?」
報告を受けたレビルは、さほど驚いた様子も見せずに副官に聞き返した。将軍は落ち着き払っている。
「そうか…つらいのだな…ジオンも。」
将軍はぽつりとつぶやいた。その時将軍は、今までの戦闘で死んでいった数知れぬ将兵のことを思っていたに違いない。自らの命令で命を散らしていった多くの若者達への悔恨の思いは、敵も同じだったということだ。
午後9時、デギン・ザビの座乗するグレート・デギンは、フェーベの真横にまでやってきた。レビルはその艦橋に、デギン・ザビの姿をはっきりと認めていた。ようやく戦争が終わる。彼はそう確信していた。
しかしそのころ、公王デギン・ザビの意志とはまったく関わりなく、総帥ギレン・ザビがあらたな大罪を犯そうとしていた。宇宙要塞ア・バオア・クーで指揮をとるギレンは、新兵器ソーラ・レイの攻撃目標を宣言していた。
「ア・バオア・クーのギレンである。ソーラ・システム最終目標を伝える。敵のレビル艦隊の主力は三つの隊に分かれてはいるものの、ソーラ・レイ、ゲルドルバ照準に合わせれば敵主力の三分の一は仕留められるはずである。ソーラ・レイシステム、スタンバイ。」
サイド3近海に展開されたソーラ・レイで指揮をとるアサクラ大佐がそれに応じる。
「了解であります。ソーラ・レイシステム、スタンバイ!」
「発電システム異常なし。マイクロウェーブ送電良好。出力8500ギルガワットパーアワー。」
オペレーターが一斉に作業にかかり、その空前の兵器を立ち上げてゆく。それはあたかも厳かな儀式のように執り行われた。
「発射角調整、ダウン012、ライト0032。」
アサクラ自らが照準を確認し、作業はいっさいの遅れなく進んでいった。
「基本ターゲット、ゲルドルバ。」
ソーラ・レイの巨体がブースターによって制御され、必殺の発射角度が調整される。
「825発電システムのムサイ、下がれ。影を落とすと出力が下がる!」
すでにソーラ・レイの内部は輝き、白熱している。
「ソーラ・レイ稼働、5秒前、4…3…2…」
オペレーターの一人がカウントダウンを開始し、アサクラ大佐は強力な光から目を守るために真っ黒なサングラスをかける。他の者もそれにならう。
「1…」
刹那、信じられない光量の灯りが周囲を包みこみ、その光は真空の海を真一文字に横切ってレビル艦隊へ飛来した。

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10/21 01:06 Windows(PC) [418]エルザス

† † † † †

わたしはベッドから飛び起きた。とんでもない寒気がして、呼吸がはやく汗をかいている。悪夢を見ていたのだろうか。いや、ちがう。
「これは…」
下着姿のまま部屋を飛び出し、艦橋へ走った。

† † † † †

その日何度目かの、しかも最大の吐き気に襲われたとき、オレはちょうど艦橋にいた。今日はそういう日だから仕方ないのだが、こういう時自分が女であることを嫌でも実感させられて、自分を恨めしく思う。
「子供なんていらないのに…」
ボソッとつぶやいた瞬間、下着姿の黒猫が血相を変えて飛び込んできた。奴も顔色が悪い。
「前へ進んじゃダメだ!」
黒猫の形相は必死そのものだった。いつもの奴とは様子が違う。
「何事ですかいったい?」
艦長席のあずにゃんが黒猫を振り返った。
「光と人の渦がと、溶けていく。あ、あれは憎しみの光だ!!」
「光?」
皆が一斉に首をかしげる。光など何も見えていない。
「お前どうしたんだ?」
オレがそう声をかけたそのとき、オレの頭が割れた。
「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
目の前が真っ白になり、真っ黒になり、また真っ白になる。痛みと苦しみと絶望と死が入り込んでくる。いったいなにがおこっているのか。オレは大声で叫んでいるはずなのに、それがわからない。それどころではない。無数の人間の断末魔が聞こえる。それらすべてが目もくらむような光の中へ解けていく。
自我を保てない。そう思った。何人もの人間の怨嗟の声がオレのなかに渦巻き、消えてゆく。一緒に持って行かれそうだ。耐えられない。
だが、そんな地獄のような時間はそう長く続かなかった。急に視界が戻ってきて、オレは膝をついて頭を抱えている自分をようやく認識した。アークが背中をさすってくれている。
黒猫を見ると、彼女は完全に気を失ったらしかった。無重力に力なく漂う躰をあずにゃんが抱き留めた。
「今のはいったいなんだったんですか…?」
あずにゃんが呆然として言った。その時、カントーが大きく息を呑んだ。
「だ、第一連合艦隊の反応が…消えてます…」
そこまで聞いて、オレは意識を失った。

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最終更新:2010年11月03日 18:17
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