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Requiem その1

地球からもっとも離れたところにあるスペースコロニー、サイド3。
公王制が廃止され共和政が宣言されたジオンの首都ズム・シティで、ダルシア・バハロは終戦のための工作に明け暮れていた。
すでに政府からの正式命令として、ジオン公国軍には戦闘停止命令が全戦線にわたって発令されていた。

だが、それにおとなしく応じる部隊はそれほど多くはなかった。地上、宇宙を問わず各地で命令を受領した兵士たちはあくまでも「公国軍」なのであり、戦意さかんな彼らにとって、「共和国」政府からの戦闘停止命令は「後ろから撃たれた」も同然の仕打ちであった。
彼ら公国軍は共和国政府をほとんど敵とみなしているようであった。どうにかして彼らを説得しなくては、停戦交渉は困難になる。
公国軍がまだ戦意を保っている状態で終戦を認めるほど、連邦政府は甘くはないだろう。
むしろほかのサイドのスペースノイドへの見せしめとして、共和国は不当な降伏条件を付きつけられるかもしれない。
軍の解体、多額の賠償金、サイドの一部占領、卓越した技術の接収、そしてジオン独立の取り消し。
こうした条件をすこしでも緩和するために、ダルシアはなんとしても公国軍に戦いをやめさせなければならなかった。
共和国と連邦の間に結ばれたのは暫定的な休戦協定にすぎず、ア・バオア・クーなど一部の戦場では戦闘が停止されたが、しかし戦争はまだ終わってもいないのである。きちんとした終戦協定を結ばなくては、ジオンはいつまでも連邦による侵攻に怯えなくてはならない。
それを避けるためには、公国軍が確実に停戦命令を尊重しなければならない。
しかし、多くの公国軍兵士が忠誠を誓うのは国家に対してではなくザビ家に対してである。
彼らはいたるところで共和国の命令を黙殺し、戦闘を継続していた。ザビ家が国家そのものであった公国時代ならばこのような不具合は生じなかっただろう。しかし今やザビ家直系の人間は一人残らずいなくなってしまった。
ミネバ・ザビは生存していたが、まだ幼い彼女にいったい何ができようか。
途方にくれていたダルシアは、ふとあることを思いついた。ズム・シティにはまだザビ家の血をひくものがいた。

ナナリー・ランペルージ
彼女がデギン・ザビの血を引く不実の子であることは、ジオン国内ではもはや公然の秘密になっていた。
その兄、ルルーシュ・ランペルージについてもしかりである。
ダルシアはズム・シティにあるランペルージ別邸に電話を掛けた。もはや終戦の可否は彼女にかかっていると言ってよい。
彼女が公国軍の権威を代表して全軍に停戦を呼びかけ、連邦軍に恭順の意を示すのだ。
そうしなければ、せっかく停戦に持ち込んだ連邦軍が再び行動を開始し、最悪の場合にはこのズム・シティにまでなだれ込んでくる恐れがある。いやそれどころか、ズム・シティ侵攻の脅威は現実のものとしてジオンのすぐそばにあったのだ。
先刻、連邦政府側からの明確な意思表示がなされ、ダルシアは体が震えるのを止めることができなかった。連邦政府はこう言ってきたのだ。

「停戦命令がジオン公国軍の全部隊によって速やかに履行されることを切に望む。もしこれが達せられない場合、連邦政府及び連邦軍はジオン共和国に対して実力行使もいとわない。」

実力行使。この言葉が意味するところは武力の行使によるジオン本国占領に他ならない。
ダルシアは電話がつながるのを待ちながら、執務机の上に置かれたあるレポートに視線をおとした。
レポートの表題は「連邦軍がズム・シティ侵攻を強行した場合の損害予測」となっていた。
もし本国が連邦軍によって占領された場合、彼らはいかなる被害を受けるのか。軍の損害は計り知れないだろう。
しかしダルシアが本当に怖れていたのはそんなことではなかった。
彼はレポートの中のとある一文を思い返していた。市民への被害について言及された章の最後に、身の毛のよだつような端的な言葉が記されていた。いわく、「ズム・シティに処女なし」。
電話がつながった。ジオン共和国の未来のため、なんとしてもナナリーを説得しなければならない。
彼女が立たなければ、公国軍は抑えられない。ダルシアは覚悟を決めて語り始めた。

ア・バオア・クーのWフィールドに、連邦宇宙軍第二連合艦隊の残余が集結しつつあった。
あちこちに散らばっていた戦艦やMSなどが旗艦ブラックハウスの周囲に集まり、生き残った部隊の確認が行われる。
確認作業が進んでいくうちに、カントー・ドゲザはある友軍艦の姿が見えないことに気付いた。

「艦長、戦艦ラピュタの姿が見当たりません。」

彼女はまだラピュタが沈んだなどとは思っていなかった。ただ単に集合が遅れているだけだろうと思っていた。
だからあずにゃんにそう告げたときもさして深刻な口調ではなかった。
しかし、それを聞いたあずにゃんの表情は一変した。彼女は艦長席から立ち上がり、息苦しそうな様子でカントーのコンソールに歩み寄った。

「そんなはずはありません。ラピュタはSフィールド方面に向かったはずです。そちらにも艦影はありませんか?」
「いまのところ現れていません。集結地点がわからずさまよっているのかも…」

あまりに深刻な表情のあずにゃんを半ば不気味に感じつつ、カントーはそう答えた。

「ありえません…京さんが集結におくれるなど…ありえません…」

あずにゃんは呆然とそうつぶやくと、アークのほうを向いて言った。

「まだブラックハウスに着艦していない機体は?」
「生存を確認しているうちで残っているのはタチバナ小隊だけです。ほかは無理やり格納庫に詰め込みました。タチバナ小隊はまもなくSフィールドから戻ってきます。」
「まだマスタースパークは戻っていませんが。」
「はい。しかし艦長、残念ながら…」

アークはそこで言葉を切った。魔理沙はもう戻らない。アークはパチュリーからはっきりとそう聞いたのだ。

「……そうですか…」

あずにゃんの深刻な表情はそれでますます暗くなった。それでも彼女はアークに言った。

「タチバナ小隊に連絡して、ラピュタを見つけてここまで誘導してくるように言ってください。Sフィールド方面にいたのなら見かけているはずです。」

アークがうなずき、さっそく通回線を開こうとしたその途端、タチバナ本人が向こうから連絡を入れてきた。

「至急至急、ガルム1よりブラックハウス!」

アークはあわててインカムをひっつかみ、応答する。

「こちらブラックハウス、ガルム1どうぞ!」
「ラピュタは沈んだ!繰り返す!ラピュタは沈んだ!」
「!?」

艦橋にいた者全員が息をのんだ。そんな馬鹿な…
あずにゃんがアークのインカムをひったくり、直接タチバナとしゃべり始めた。

「タチバナさん、それは本当ですか?生存者は?」
「その声は艦長ですね?間違いありません、ラピュタは轟沈しました!自分がこの目で確認しました!」
「せ、生存者は?総員退艦の命令は出されたんでしょう?」
「自分の見た限り、船を脱出したランチは一隻も…」
「そんな…」

あずにゃんはこの日何度目かの喪失感を覚えた。目の前が真っ白になっていって、世界から音が消えていく感覚。
がっくりと膝を負ったあずにゃんを、アークが慌てて助け起こす。
アークは「大丈夫ですか?!」とあずにゃんに叫ぶが、彼女はそれを聞いてはいなかった。
あの男か。
あずにゃんの脳裏に厭味ったらしい色眼鏡の男が浮かんだ。
あの男、ムスカが、総員退艦命令を出さなかったに違いない。
自分の敗北を認められない偏狭な精神のせいで、ラピュタのクルーは犠牲になった。そして、京までもがその巻き添えとなった…
もはや溢れてくる涙を止めようとも思わなかった。この戦争は最後の最後まであずにゃんを苦しめる。どうしようもない悲しみの連鎖。
それが戦争なのだから。

ようやく視界に入ったブラックハウスを見ながら、タチバナは一つため息をついた。今になってようやく生き残ったという実感が得られた。
母艦たるアースラは沈んだ。ラピュタの最期も看取った。それでも自分は生き残った。途方もない安堵感が彼を包み込んでいった。
これで戦争は終わりだ。
それにしても、と彼は背後を振り返る。視線の先にはボロボロになった紅のMS。
ワイヤーによってタチバナ小隊の三機のセイバーフィッシュに曳航されている。
それにしても、この機体は敵ながら恐るべき働きであった。
ラピュタのハリネズミのように装備された火器からの対空砲火をものともせず、たったの一機でそれを沈めてしまったのだから。
その直後にタチバナ小隊が編隊攻撃を仕掛けて仕留めたものの、そうでなかったら友軍に更なる被害を生み出していたかもしれない。
敵機を行動不能に陥れ、さらにとどめを刺そうとしたPJとピクシーをとめたのはほかならぬタチバナであった。
ラピュタを、京大尉を死の淵へと追いやったこの機体、いったいどんな人物が操縦していたのか。タチバナはそれを確かめたかったのだ。
京大尉の仇を取りたいとも思った。しかしこの勇敢な戦士を討ったところで、もはや京は帰らないのだ。タチバナはそれをよくわかっていた。
だから仇を討つ代わりに、この敵に京のことを聞かせてやろうと思った。敵にとってそれはなによりつらい仕打ちに違いない。
自分が殺した相手のことを延々と聞かされるなど、タチバナはまっぴらごめんだった。

† † † † †

「女?!」

ブラックハウスに収容した敵機のコックピットを開いたとき、タチバナは驚きのあまり絶叫していた。
ハッチの中にいたのは、機体と同じ紅蓮色のパイロットスーツに身を包んだ女パイロットだったのだ。
パイロットは気絶しているらしく、身動き一つしない。

「まさか、ラピュタを沈めたパイロットが女だったとはな…」

ピクシーが苦々しげに言うのを聞きながら、タチバナはその女の容姿をつぶさに観察していた。
戦場にいるには不釣り合いな美人であり、髪の色まで紅蓮色だった。胸が大きいのがパイロットスーツ越しにもはっきりとわかる。

「こんな少女が…まだ子供じゃないか…」

自分だって童顔のPJが言った。彼が言うと説得力はないが、タチバナも同感だった。

「とにかく医務室へ運ぼう。」

タチバナはそう言ってコックピットの中に手を伸ばした。その瞬間、女がばねのように飛び起き、隠していたナイフを突き出してきた。

「ッ!?」

タチバナは間一髪でナイフに気付いたが、その切っ先は彼の頬をかすめていた。
鮮血が無重力に浮かび、タチバナは突き出された女の腕をがっしりとつかんだ。女はさらに抵抗しようとしたが、無駄だった。
タチバナの手は女の腕をつかんで離さず、女はどうあがいてもそれを振りほどけなかった。

「捕まってなお敵を殺そうとするのか。」

ピクシーが言った。なぜか同情しているような口調だった。

「隊長!大丈夫ですか!」
「大丈夫だ。」

PJの言葉に冷静に答えつつ、タチバナは女をまっすぐに見た。

「無駄な抵抗はしないでください。あなたはもう連邦の軍艦の中にいるんです。自分一人を殺したところで、あなたまで無意味に死ぬだけです。」
「くっ、あっ…」

いっそう強く握りしめられた腕が痛むらしく、女は堪えきれず声を洩らした。女の腕をつかむタチバナの手はいまやギリギリと鳴っていた。

「抵抗しないと約束してください。そうすれば手を放します。」

タチバナはそう言ってますます強く握りしめた。

「あぁっ…!」

女はついに握っていたナイフを落としてしまった。タチバナは素早くそれをキャッチし、黙ったままピクシーに渡した。

「約束してくれますね?」

冷徹に放たれたタチバナの言葉に、女は二度三度とうなずいた。

「では。」

タチバナはようやく手を放し、女を解放した。女は腕の握られていた部分を抱え込むようにして歯を食いしばった。相当の痛みだったようだ。
「この女が京大尉を殺した」という事実が、タチバナを加虐的な気持ちにさせていたのかもしれない。

「これだけ元気なら医務室に連れて行くことはなさそうだ。このまま独房に連行しよう。」

ピクシーとPJにそう告げ、タチバナは女をコックピットから引っ張り出した。後ろ手にロープで縛り、先頭に立たせて歩かせる。
もちろん、彼女の背中には銃を突きつけて。

「行こう。そっちだ。」

† † † † †

「なんとしてもあなたの協力が必要なのよ!あれはいいものよ!直さないなんてもったいない、狂気の沙汰よ!」

フェイトとともに歩きながら、ハルヒは熱弁をふるっていた。
二人はいまフェイトの機体であるプロトタイプケンプファー「バルディッシュ」が保管されている格納庫へと向かっていた。
並んで歩く二人の数歩後ろにクロノとキョンが続いていた。捕虜の身であるフェイトを念のため監視する役目だ。

「相変わらず君の団長の行動力には驚かされる。」

クロノがキョンに言った。

「敵の機体を直そうなんて、普通なら考えつきもしないよ。ましてそれを実行しようだなんて夢にも思わない。」
「わがままなだけなんだよ、うちの団長様は。子供と一緒さ、欲しいものがあるとそれを手に入れるまで駄々をこね続ける。あんまり甘やかすのもよくないんだが、なにしろ一度決めたら聞かない性格だからな…。」
「研究者には向いている性格だと思うが?やりたいことをとことんまで追及してこそ、人類はここまで科学を発達させてきた。たとえそれが、戦争の道具に利用されただけだったとしても。」
「軍人の言葉とは思えないな。クロノ副長はまるで平和主義者みたいだ。」
「そんなことはない。所詮は血にまみれた軍人さ。命令があれば実行しなければならない…おっと。」

前を歩くフェイトが急に立ち止ったので、クロノもつられて急停止した。何事かと前方を見ると、見知らぬ女パイロットがそこに立っていた。

「フェイト…」
「カレンさん…」

そのパイロットとフェイトが同時につぶやき、二人は駆け寄った。

「フェイト!」
「カレンさん!」

フェイトがカレンに抱き着き、二人は再会を喜んで涙を流し始めた。

「クロノ副長、これは?」

セイバーフィッシュ小隊のタチバナが近づいてきた。廊下の曲がり角で鉢合わせになったようだ。彼の背後にはピクシーとPJもいる。

「捕虜を移送していたところだ。このパイロットは?」
「彼女も捕虜です。ラピュタを沈めた…」
「ラピュタを?!」

まずい、とクロノは直感した。捕虜同士が接触してしまっては、不測の事態が起こる可能性がある。
恭順していたかに見える捕虜に再び反抗心が戻ってくるかもしれない。

「君は彼女を独房へ連れて行け。こっちはフェイトを格納庫へ連れて行く。いまここでこれ以上接触させるのはまずい。」
「ハッ。」

タチバナはクロノに応じて女パイロット――カレン・コウヅキの肩をつかんだ。

「行くぞ。」
「あっ、待って!」

フェイトを無理やり引きはがし、タチバナはカレンを連れ去った。

「カレンさん!」

涙を流しながら、フェイトはカレンを呼んだ。彼女はフェイトを振り返ると、優しげに微笑んで見せた。
自分は大丈夫だ、とでもいうように。カレンはあっという間に姿を消した。フェイトは彼女のことが気になった。
どうしてブラックハウスにいるのか。彼女の待遇はこれからどうなるのか。

「フェイト、今はまだ会わせられない。捕虜同士の接触は禁止されているから。」

クロノがフェイトの肩に手を置き、言った。

「だけどもうすぐ戦争も終わりだ。すぐ会えるように取り計らう。悪いようにはしない。信用してくれ。」
「…はい。」

弱弱しくはあったが、フェイトははっきりとうなずいた。素直でいい子だ。

「よし。とにかく今は、バルディッシュを直す手伝いを頼みたい。スズミヤ技術大尉に協力してやってくれ。それじゃ。」
「クロノ、どこへ行くんだ?」

立ち去りかけたクロノをキョンが引き留めた。

「あの捕虜の処遇について決めてくる。大丈夫、穏便に済ませる。」

そう言い残し、クロノはカレンとタチバナたちを追っていった。

「さ、私たちもいきましょ?」

ハルヒがそう言って、フェイトは涙を拭いて彼女に従った。

† † † † †

「整備スペースが足りないよ!とてもこんなの置いておく余裕ないよぅ!」

ハルヒとフェイトとキョンが格納庫についた途端、Lv.57がMkⅡと言い争っているのが目に入った。

「バルディッシュの修復はクロノ副長の正式命令なんだから仕方ないだろう?」
「だからってなんでまた新しい敵機を収容してるんですか?!今すぐ捨てちゃいましょうよ!」
「その紅い機体はまだ処分が決まってないし、だいいち動かせる人間がいないんだよ?」
「ほかの機体で抱きかかえてカタパルトから射出しちゃえばいいじゃないですか!」
「カタパルトはいま艦橋からの操作で使用不能になってるんだよ。停戦命令が出てるし、勝手に使えないの!」
「非常用の操作盤が格納庫にもあるじゃないですか!」
「あれは非常時しか使っちゃいけないの!」
「今が非常時です!」

延々と言い争いを続ける二人にあきれつつ、キョンが仲裁に入った。

「お二人さん、なにもそんなにやけにならんでも。ぎりぎり収容できただけでもいいじゃないですか。」

Lv.57がキョンのことをキッとにらみ、叫んだ。

「収容しただけじゃ整備はできないんです!部品を広げるスペースもないんです!これじゃバルディッシュの修理だってできないんですよ?!」
「そりゃあそうだが…」
「でしょう?!だからこの紅いやつだけでも廃棄しないと!二兎を追うものは一兎をもなんたらってやつです!」

キョンは自分の軽率な行動を後悔した。どうやら底なしの論争に首を突っ込んでしまったらしい。

† † † † †

オレと黒猫はデッキに二人並んで星を眺めていた。地上から見るのとは全く違う、遮るもののない本物の星空。

「戦争が終わるんだね。」

いつになく素朴な口調で、黒猫が言った。

「…あぁ。」

オレの返事もいつになくそっけない。

「本当に終わるんだね。」
「…あぁ。」
「いろいろあったよね。」
「…あったな。」
「悲しいことばかりだったね…」
「…そうだな。」
「仕方ないよね、戦争だもん。」
「…あぁ。」
「ナガモンは、戦争が終わってうれしい?」
「なんでそんなこと訊くんだ?」
「んー?いや、戦争が終わることをどう思ってるのかなーって。」
「…そうだな…オレは大して喜んじゃいない。戦争がもっと続くほうがいいと思ってる。」
「どうして?」
「オレは戦いしか知らない。戦っているからみんなが支えてくれるけど、戦争が終われば、誰もオレを愛してくれない。」
「そう…なのかな?」
「そうだよ。平和な時代になれば、戦うしか能のないオレみたいな人間はみんなから嫌われる。」
「……」
「オレは戦争に慣れすぎたよ。今更平和な世界に戻っても、元のようには過ごせない。この戦争で失ったものがあまりにも多すぎる。」
「それはみんな一緒だよ?みんな大切なものを失った。それでも、いやだからこそ、みんな必死で元の姿に戻ろうとするんじゃないかなぁ。大切なものを失ってなお、人は人のままだから。それでも生きているのが人間だから。それこそが、人の生きる力だと思うから。」
「ずいぶん抽象的だな。なにを言ってるのかさっぱりわからん。」
「えへへ、実は自分でもよくわかってないんだ。」
「哲学かぶれのつもりか?はっきり言ってそういうの嫌われるぞ。」
「そんなつもりないけど…つまり、こんな戦争からも人はなにかを得られるんじゃないかって思うんだよね。」
「なにかをって、なにをだ?」
「それは人によるけど。例えばそうだなぁ、わたしならナガモンという最良のパートナーを得たことかな。」
黒猫はそう言って、とびっきりの笑顔でオレを見たのだった。
最高にうれしかった。黒猫のその笑顔がオレは大好きで、そしてオレとまったく同じことを黒猫も考えていたんだとわかって、オレはものすごく幸せだった。

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12/02 11:29 URBANO BARON(e) [509]エルザス
508
「オレも…」
ごくりと唾をのんだ。なにを緊張することがあるのか、自分が可笑しくなってくる。
「オレもお前に出会えたことが、この戦争で最大の収穫だな。」
「ほんとー?えへへ、両思いだね!」
屈託なく微笑む黒猫。本人は冗談のつもりだろうが、オレにとっては冗談では済まされない問題だ。
「黒猫。」
真剣な眼差しで彼女を真正面から見る。ピクピクと動く猫耳がかわいらしい。
「ちょっと聞いてほしいことがある。」
「?…あらたまってどうしたの…?」
ドクン、と脈打つ音がいやに大きく聞こえる。これが自分の鼓動だと思うと、なんだか怖くて震えてしまう。黒猫にも聞こえているんじゃないだろうか?
「実はオレは…」
なんと言っていいかわからない。どう表現すればいいのか。自分の気持ちに整理がついていないのに、なんで話を切りだしてしまったのだろう。自分を呪いたくなる。
でも、いまさら引き下がるわけにはいかない。柄にもないことをしている自覚はある。だけどもう引き下がれない。この気持ちは伝えたい。
「実はオレは、お前のことが大好きなんだ。」
「ふぅん?」
ふぅんってお前…もう少し何かないのか?
「うまく言えないけど…お前の中に自分というもののすべてがあるのを感じていた。」
こんな言い方しかできない自分を恨めしく思う。いや、思っている気持ちそのままを伝えたわけなのだが、結局なにが言いたいのかはっきりしていない。オレも何を伝えたいのかわからないのだ。
「お前はオレの憧れで、お前はオレにはないものを持ってて、オレはお前みたいな人間になりたかった。だからオレはお前が好きだ。オレの理想だから。それを言ってどうなるってわけじゃないけど、ただ知っていてほしかったんだ。
自己満足な会話ですまないと思うよ?だけど伝えたかったから…今しか言えないと思ったから…なにが言いたいのかわからないと思うけど…黒猫、オレはお前を守っていきたい。お前のそばに寄り添って、お前を守り続けたい。この戦争が終わった後もずっとずっとお前のそばで。
だから黒猫、そばにいてもいいか?オレは戦いしかできない化け物だけど、お前みたいに人と共感できることもない、冷たい人間だけど、だけどお前を見てると胸が痛むんだ。お前の隣にいたい。こんなオレでも、お前の隣にいたいんだ。だから、黒猫。隣にいてもいいかな?」

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12/02 11:32 URBANO BARON(e) [510]エルザス
509
黒猫は面喰った表情でオレを見ていた。オレの告白の内容に驚いたというより、俺がそんな告白をしたという事実に驚いているようだった。
「もちろん、ナガモンがそばにいてくれるなら、わたしはすごくうれしいよ。」
混乱する思考をまとめているらしく、黒猫はとりあえずそう言って星を見上げた。
「うん、すごくうれしい。誰かに好きと思ってもらえることって、世界で一番幸せなことだよね。それだけで生きている意味があったなって思える。」
オレは星空を見上げている黒猫の顔を見つめる。彼女の瞳にもいっぱいの星々。
「ええと、つまり、わたしもナガモンが大好きだよってこと。ずっと一緒にいたい。わたしのほうこそ、こんなわたしだけど、そばにいさせてもらえるとうれしいな。」
そこで黒猫は、再びオレと向かい合った。さっきとはちょっと違う、すこし儚げな笑顔。
「あぁ…やっと言えた。」
黒猫はそういって、オレに抱きついてきたのだった。

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最終更新:2010年12月23日 20:05
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