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Requiem その2

広い宇宙の一角、「マハル宙域」と呼ばれる場所に、巨大な構造物が漂っていた。円筒形のその構造物の周りには多数のMSと艦船が行き来し、どうやら巨大構造物を守っているらしかった。
巨大構造物、ソーラ・レイ。
連邦軍第一連合艦隊の三割を消滅せしめた、ギレンの決戦兵器である。
いまそのソーラ・レイは、指揮官アサクラ大佐の手から黒の騎士団のゼロのもとへと引き渡されようとしていた。
戦艦ダモクレスに招かれたアサクラは、艦橋でゼロの壮大な作戦を聞かされていた。
「ソーラ・レイでグラナダを焼き払う?!」
「その通りだ。」
計画の確信を知って仰天するアサクラを前に、マスクをかぶったゼロはあくまでも冷静であった。
「終戦協定の調印は月のグラナダで行われる。連邦とジオン、双方の使節団がグラナダに入った時点でソーラ・レイを照射し、調印を不可能なものとする。」
「しかし、グラナダには多数の民間人が…」
「そんなことで今更貴官がしり込みするとは、意外だ。」
「うっ…」
ゼロのすべてを見透かすような発言に、アサクラは言葉に詰まってしまった。
開戦以来、彼はありとあらゆるジオンの暗部にかかわってきた。特に開戦当初に実行されたコロニーへの毒ガス注入、いわゆる「コロニー潰し」は、彼が司令官を務める突撃機動軍海兵上陸隊が実行してきた。
「あれは代理司令官のシーマ・ガラハウ中佐がやったことだ。私の一存ではない。」
彼は部隊の事実上の司令官、シーマ・ガラハウの名前を出した。たしかに、アサクラ自身はその部隊を直接に指揮したことなどほとんどなかった。しかし、コロニー潰しの実行命令を下したのは間違いなく彼である。むしろシーマこそ、汚れ仕事を押しつけられた被害者であると言えなくもない。
「まぁ、そんなことを追及するつもりはないがな。貴官にはこのソーラ・レイの指揮権を明け渡していただければ、それでいいのだ。」
余裕の態度を崩さず、ゼロが言った。
「指揮権の移譲はまったく問題ない。私はいろいろと処理せねばならんことがあるから、ズム・シティに戻らなくてはならないのだ。」
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12/03 13:58 URBANO BARON(e) [512]エルザス
511
証拠隠し、か。
ゼロは思った。ジオンの戦争犯罪のほとんどを見てきた彼である。戦後にその責任を追及されることは逃れられない。どれだけ責任を人に押し付けようとも、また証拠を隠ぺいしようとも、この男の罪は消えてなくなるものではない。それだけのことをしてきたのだ。
「では、このソーラ・レイは黒の騎士団があずかる。」
「その代わりと言ってはなんだが…」
アサクラは声を一段落として言った。
「戦後もし私が裁かれる立場になったら、私に有利になるような証言をしてほしい。」
「……」
醜い男だと思った。そこまで己の保身にこだわるのか。国は敗れたのに、おめおめと生き延びようというのか。
「いいだろう。しかし、戦争はまだ終わらない。私が終戦を阻止する。」
「だとしても、だ。私はズム・シティでの仕事を終えたらアクシズへ亡命するつもりだ。しかし、いずれはジオンに戻ってきたい。その時に何らかの便宜を図ってもらいたい。」
「…わかった。」
「では、交渉成立だな。すぐにでも出発しなくては。これがソーラ・レイのマスターキーだ。」
あっさりと、至極あっさりと、アサクラはそれを渡した。
「確かに。ズム・シティまでの無事を祈る。ジーク・ジオン。」
「ジーク・ジオン!」
敬礼を一つ残し、アサクラは去って行った。それと同時に艦橋の隅に控えていたジェレミアが歩み寄ってきた。
「よろしいのですか?あの男、公国への忠義を尽くしているとはとても思えませんが。」
「行かせてやれ。頑迷に自分だけを守ろうとする男は多い。奴もその一人だ。」
「そのようなものたちが公国を滅ぼしたのです…!」
苦々しげにジェレミアがうなった。ゼロも同感だったが、だからといってどうするわけでもない。そこへ、スザクとロロがやってきた。
「準備は整った。ジオン、連邦双方の軍と政府の秘密回線を占拠できる。」
「いつでもやれるよ、兄さん。」
口々にそう言うスザクとロロに強くうなずき、ゼロは宣言した。
「よし。始めるぞ。俺たちのレクイエムを。」

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12/03 13:59 URBANO BARON(e) [513]エルザス
512

「艦長!機密回線に!」
はちゅねが突然叫び、あずにゃんは何事かとモニターを見た。そこには不気味なマスクをかぶった人物が映っていた。
「これはいったい?」
あずにゃんははちゅねに問うたが、その答えは曖昧なものだった。
「わかりません。軍だけでなく、連邦政府の回線にまで割り込んでいる模様です。しかも発信源はジオンの通信回線です。」
「ジオンがいったい何を…」
あずにゃんがそう言いかけたところで、画面の人物がゆっくりと語り始めた。
「地球連邦、そしてジオンの諸君に告げる。私は黒の騎士団の指導者、ゼロである。」
「ゼロって、まさか…!」
デッキにいたナガモンと黒猫も、この放送を聞いていた。二人はお互いに目を合わせて一度うなずき合うと、艦橋に向かって駆け出した。
ジオン公国軍の名誉ある将軍として諸君らに宣言したい。我々は、決して戦いを諦めはしないと。」
「フェイトをすぐに艦橋に呼んでくれ!こっちもすぐに艦橋に向かう!」
捕虜を収容した独房の外で、クロノは艦内電話に向かって叫んでいた。ゼロとは確かフェイトの上官であったはずだ。彼女ならばなにかわかるに違いない。自分の直感が「これは非常事態だ」と告げている。急がなくては。
「悪いが、君の尋問は一度打ち切る。状況が変わったようだ。」
クロノは独房の中の捕虜、カレン・コウヅキに向かってそう言った。返事はなかった。彼女は名前を言ったきり、何も供述していない。
「では、タチバナ少尉、監視を頼んだぞ。」
「ハッ。」
クロノはそう言い残し、やはり艦橋へと向かった。
「欺瞞に満ちた共和国政府がたとえ連邦政府と終戦協定を結んでも、我々は戦いを続ける覚悟である。ジオン公国の軍人として、我々は屈辱的な平和を受け入れるよりはむしろ、栄誉ある戦死を望むのである。」
呼ばれるまでもなく、フェイトは艦橋へと急いでいた。後ろにはナノハとユーノがついてきていた。
「フェイトちゃん、どこ行くの!?」
走りながらナノハが訊いてきた。しかしフェイトはそれどころではなかった。ゼロが、ゼロが生きていた。彼は地獄の戦場ア・バオア・クーを戦い抜き、最後まで生き残っていたのだ。その事実がまず、フェイトの心を捉えていた。生きていた。それだけ希望が生まれる。また会えるかもしれないと。しかし、ゼロはいったい何を言っているのだろうか。
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12/03 14:05 URBANO BARON(e) [514]エルザス
513
「その為に私は、終戦協定の調印を断固阻止することをここに宣言する。わが手中には連邦艦隊の半数を葬り去った究極の決戦兵器、ソーラ・レイがある。共和国政府がどうしても連邦との戦争を終えるというのなら、私は協定の調印が行われるグラナダをこのソーラ・レイによって殲滅する。」
ナガモン、黒猫、クロノがほぼ同時に艦橋に飛び込んだ。ほとんど間を置くことなく、フェイトとナノハ、そしてユーノが入ってくる。艦橋にいる者たちは全員が息をのみ、ゼロが語るモニターを凝視していた。
「共和国政府は直ちに終戦交渉を停止し、国家の全権をわが手中に譲り渡せ。私は共和政を廃し、即座に公王制を復活させる。新しい公王は…」
ゼロは突然立ち上がり、頭部を覆っていたマスクを取った。
「この私、デギン・ザビの血を引くルルーシュ・ランペルージが務める!」
「馬鹿な!そんな勝手が許されるか!」
ナガモンが絶叫した。見るからに猛り狂っていた。こんな凄惨な結果に終わった戦争をなおも続ける?公王制の復活?冗談ではない!
「ジオンの国民だって、もう戦いはこりごりだと思ってるはずだ。独りよがりの独裁者気取りが叫んだところで、国民の支持は得られないさ!」
そうだろうか?と黒猫は思った。政府がゼロの要求に屈するとは思えないが、仮にそうなった場合、国民はそれをどう受け止めるのだろう。彼らには常人には理解できない熱い闘争意欲がある。敗北を知ってなお戦い続けようとする気質、それは公国軍の兵士に限ったことではないのかもしれない。国民全体がそのような性格を持っていたとしたら、もしかしたら…
そこまで考えて、黒猫ははちゅねに質問した。
「この放送はジオンの国民にも流されてるの?」
はちゅねの答えは意外なものだった。
「いえ、連邦とジオン、双方の政府、軍の機密回線だけです。民間回線にはまったく流されていません。」
「国民のことは端っから無視か…」
クロノが苦々しさを隠そうともせずに言った。
「あるいはあとから支持を取り付けられると思っているのかも。それだけのカリスマ性を持ってる人間なら。」
黒猫はそう言って、今度はフェイトを見た。
「フェイト、あの人は君の上官だったんでしょ?どんな人なの?」

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12/03 14:06 URBANO BARON(e) [515]エルザス
514
画面のゼロを、いやルルーシュをじっと見つめていたフェイトは、驚いたように黒猫のほうを見た。
「あ…あの人は…あの人はそんなことをする人じゃありません。民間人もいるグラナダを討とうだなんて…そんなこと、絶対にしません!…あの人は、優しい人なんです…」
「フェイトちゃん…」
思いつめた風なフェイトを気遣い、ナノハがその手を握る。
「あの人は優しくて、ただただみんなが笑って暮らせればそれでいいって、そう考えて戦争に参加したんです…なのに、なのにこんなことを…」
フェイトはそれっきり黙ってしまった。
「私と志を同じくする公国軍の戦士たちよ!万が一共和政を主張する軟弱者たちが、連邦と終戦協定を結んでしまえば、諸君らはジオン公国軍の栄誉ある伝統の最期を看取ることになるだろう!
立ち上がれ!諸君らは今、改めてその身を祖国のために捧げなければならない!愛する祖国と公国軍の栄誉はひとえに、諸君らの献身によって守られるのだ!
振り向くな!我々の明日の未来を取り戻すため、いまこそ立ち上がれ!
おそれるな!すべての不義に裁きの鉄槌を下し、再び祖国の栄光を世界に示すために!
スペースノイドの未来を、その運命を、諸君らは最後の最後まで諦めてはならない!」

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12/03 14:07 URBANO BARON(e) [516]エルザス
515
今や放送を見ている全ての者がルルーシュの演説に引き込まれていた。ますます熱狂していく口調。語られる扇情的な言葉。
世界中あちこちの戦場で、傷つき、力尽きようとしていたジオン兵たちが魂を取り戻しつつあった。まだ終わっていない。誇りを捨てるな。まだ俺たちは戦えるのだ、と。
「ジオン兵よ、われに十時間を与えよ!然る後に祖国の趨勢を判断せよ!
祖国の栄華と、諸君の崇高な精神を永久(とわ)のものへ!永久へ、永久へと、ともに進もうではないか!
そして私は、父デギンのもとに召されるであろう!!
ジィィィーク・ジオン!!」
「ジーク・ジオン!!」
ダモクレスの艦橋にいた者たちが絶叫した。その言葉は放送を聞いた世界中のジオン軍兵士によって叫ばれていたに違いない。絶望的状況に立ってもまだ戦いを諦めていなかった男たちにとって、この演説放送は劇薬となった。この瞬間、アフリカの奥地に潜伏していたとあるジオン軍部隊が攻撃を再開した。敵中に孤立していた部隊が突破を試みた。降伏しようとしていた者たちがそれを思いとどまった。この演説がその後の歴史にどれだけの影響を与えたか、はっきりとはわからない。しかし、すでに戦う意味をなくしかけていた男たちが、この演説をきっかけにしてそれを再発見したのはほぼ間違いない。
スザクは振り上げたこぶしをそのままに泣いていた。自分の戦いはまだ終わっていない。これまでの戦いが無意味に終わったわけではない。そう思えるだけの理由が生まれた。
彼は演説を終えたルルーシュを見た。覚悟を決めた男の眼だった。なにがあっても意志を貫き通す。そんな決意が見て取れた。ルルーシュの言葉のどこまでが彼の本心なのか、スザクにはわからない。しかし、戦い抜くつもりであることは分かった。たとえその理由に嘘があっても、彼は戦う。
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12/03 14:14 URBANO BARON(e) [517]エルザス
516
ルルーシュが不意にスザクのほうを見た。親友を見る彼の視線はどこか悲しげだった。気のせいかもしれないが、もう後戻りはできないことを嘆いている、そんなふうにも見えた。
「これで我々の運命は決した。ゼロ・レクイエム。この作戦を完遂して初めて、俺たちはこの戦争に終止符を打てる。俺たちの行動の評価は歴史が下してくれるだろう。俺は自分の信じることをやるだけだが、果たしてこの世界はそれをどう見るのだろうか。」
思った通り、ルルーシュは少しだけ感傷的になっているようだった。スザクは一歩前に歩み出ると、親友の瞳を見据えて言った。
「世の中のすべてが君を裏切っても…世界が君を認めなかったとしても…僕という剣が君を守り、君の忠実な騎士たちが、君を永遠に讃えるだろう。
もう振り向かない。君はそう言ったじゃないか。ここにいるのは、退くことを知らない鋼の勇者たちだけだ。僕たちを導いてくれ、ルルーシュ。君にしかそれはできない。それが君のさだめだ。」
「さだめ、か。」
ルルーシュはそうつぶやき、さりげなく視線を移した。艦橋の窓から、果てしない宇宙ときらめく星々が見えていた。

† † † † †

「まだ状況がはっきりせんのだ。仕方あるまい?」
ティーカップを取り上げ、ゴップは気持ちを落ち着かせようと試みた。せっかくツムギが入れてくれたこの紅茶も、電話の相手の機嫌がこうも悪ければ台無しである。
「状況ははっきりしている!敵はまだ戦争をやめるつもりがないのだ!今すぐサイド3進駐の命令がほしい!命令が出なければ私が独断で動くぞ!」
電話の相手は連邦宇宙軍第六艦隊司令官ダグラス・ベーダ―卿である。ゴップはジャブローの自室で彼からの直通電話を受けたのだった。
「もちろんゼロとやらの演説放送は聞いた。だがまだ共和国政府はなんとも言ってこないのだ。あれが公国軍の総意とは思えん。今動くのは時期尚早だろう。」
「先手を打たなければ意味がない!敵はまだソーラ・レイを使うつもりでいるのだぞ!」
「目標はグラナダだろう?君の艦隊には関係のない話だ。」
「馬鹿な!敵の言葉など信用できるか!敵はこのア・バオア・クーをも射程に収めているに違いない!」
「だとしても、今動くことはできん。休戦協定をまるっきり台無しにしてしまう。」
「先に休戦を破ったのはむこうだぞ!」
「共和国政府にはすでに連絡がいっているはずだ。これは極度に政治的な問題なのだ。間違っても独断専行はするな。君の意見は最高司令部と参謀本部に伝えておく。決定を待ちたまえ。」
「…わかった。」
ガチャン、と乱暴に電話が切られ、ゴップは受話器を置いた。
「やれやれ、すっかり紅茶が冷めてしまった。」
ゴップは部屋の隅で心配そうに自分を見ているツムギを呼んだ。
「すまんがお茶のお代わりを頼む。」
「はい。」
「ゼロの演説、君はどう見るね?」
「私にはわかりませんが…たしかゼロというのは、あず…ナカノ少佐と何度も渡り合っている敵将です。ブラックハウスが確保した捕虜の供述にそうありました。黒の騎士団という特殊部隊を率いていると。」
「君の後輩か…このまま戦争が終わってしまえばいいのだが…」
「はい…」
「おっと、引き留めてすまんね。お代わりを頼む。」
「かしこまりました。」
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12/03 14:19 URBANO BARON(e) [519]エルザス
518
ツムギが退室したところで、執務机の電話が鳴った。今度はジャブロー内の参謀本部からだった。
「私だ…うむご苦労……あぁ、討伐が決まったか。共和国側もそれで同意したのだな?……うむ、わかった。」
受話器を戻し、ゴップはため息をついた。
「まだ戦争は終わらんか…」
ナカノ少佐が駆り出されるかもしれない。ゴップは漫然とそう思った。しかしそれはツムギには伏せておこう。自分をよく支えてくれるツムギにあまり余計な心配をかけたくはない。ナカノ少佐もそれは同じだろう。

† † † † †

「兄様…なんてことを…」
ズム・シティから月のグラナダへと向かう途中、ジオン共和国の使節団の一員であるナナリーは兄ルルーシュの演説放送を聞いてしまった。
最愛の兄が、誰よりを優しかった兄が、いま世界を再び戦乱の渦中へ引き摺りこもうとしている。全盲であるナナリーは兄の姿を見ることはできない。だがその声を聴く限り、兄は大きく変わってしまったらしかった。かつての兄は、いかなる犠牲を払っても自分を守ろうとしてくれた。その、勇敢なのにどこか頼りない背中を感じて、ナナリーは生きてきた。兄ががんばっているから。みんなが笑ってすごせる毎日を実現するため奮闘する兄を、ナナリーは誇りに思ってきた。
だけど、これは違う。兄が今や軍人であることを差し引いても、これは間違っている。ソーラ・レイ。あれは憎しみの光だ。その光の連鎖は人類を混沌の闇へといざなう。兄は一線を越えてしまった。超えてはならない一線を。
「ナナリー様、グラナダは危険です。ナナリー様だけでも、ズム・シティへお戻りください。」
ともに演説を聞いていたダルシアがナナリーに言った。もしルルーシュが本当にソーラ・レイを使用した場合、彼は使節団もろとも最愛の妹までも消滅させてしまうことになる。この期に及んで家族までも手にかけるようなマネを、ダルシアはルルーシュにさせたくなかった。彼は幼少期の無邪気なルルーシュを知っていた。まだ目が見えたころのナナリーとルルーシュは、この上ないほど仲のいい兄妹だった。自分には死ぬ覚悟があるが、ナナリーまで巻き込むわけにはいかない。ダルシアはそう思ったのだ。
だが、ナナリーの返答は決然としていた。
「私は引き返しません。必ずグラナダに行きます。兄様を止めます。」
「しかしナナリー様…」
「私がいるとわかれば、兄様はソーラ・レイ発射を躊躇するかもしれない。もしそうでなくとも、終戦交渉には私の存在が必要になるはずです。行かせてください。」
「ナナリー様…」
頑なな姿勢を崩さないナナリーだったが、今度は急にしおらしくうつむいた。
「兄様は鬼子です…この期に及んでまだ戦いにとりつかれている…」
しばらくそのまま黙りこみ、そして再び張りのある声で宣言する。
「私は行きます。この戦争を終わらせます。これ以上、兄様のような人間を生み出さないようにするために。」

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最終更新:2010年12月24日 02:44
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