「敵空母までの距離は!?」
戦艦フッドの艦橋で、バスク少佐はしびれを切らして叫んでいた。ここまで突進に次ぐ突進を続けてきたバスク艦隊は、いまや
黒の騎士団MS部隊による包囲攻撃を受けて壊滅の危機に瀕していた。
「敵空母まで7900!」
オペレーターがバスクを振り向いて叫ぶが、その声には焦燥と恐怖がはっきりと表われている。
「バーラムが沈みます!!」
別のオペレーターが絶叫し、フッドの右舷前方を指差した。艦橋の窓から見えている友軍の戦艦バーラムが艦橋から火を噴き、徐々に艦首を下へ向けながら落伍しようとしていた。そして次の瞬間、バーラムは機関部から大爆発を起こし、格納庫内のジムを発進させることもなく宇宙の藻屑となった。爆発の閃光がフッドの艦橋にも突き刺さり、クルーたちはそろって目を細める。バーラムを沈めたのは奇妙な形の白いMSだった。ほかのジオンMSとは一線を画したデザインのそれは
ランスロットと呼ばれる機体であり、操縦者はもちろんスザク・クルルギであった。
「リック・ドム4機、もう一度敵艦隊に突入をかける。僕についてこい!ザクは援護射撃だ!!つづけぇ!」
スザクが部下に素早く支持を飛ばし、MS部隊は再度バスク艦隊に襲い掛かった。艦隊からの対空砲火が目の前を埋め尽くすが、それに構わず突っ込む。
「ぐあっ!!」
短い悲鳴が聞こえて、一機のリック・ドムがコントロールを失った。敵だがコックピットを直撃したらしい。被弾したリック・ドムはあらぬ方向へと飛び去ってゆくが、スザクはそれをどうすることもできない。今は敵艦をまっすぐ見据え、自分の幸運を信じるだけだ。
息詰まる数瞬が過ぎ、対空砲火を潜り抜けたスザクは敵艦の真下で機体を停止させた。
「停止!各個に撃て!」
短く命じ、自分は一隻のサラミスに目標を絞って接近してゆく。リック・ドムはジャイアント・バズを乱射して艦隊を下から突き上げる。スザクは獲物に選んだサラミスの機関部に剣を突き立てた。一瞬おいてから引き抜き、サラミスから離れる。さらにワンテンポ遅れてサラミスの機関部が爆発し、その焔はサラミス全体をのみこんでいった。
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12/23 00:01 Windows(PC) [551]エルザス
550
「戦艦レナウンの艦長より入電、撤退を具申しています!」
バスクはオペレーターの言うことに反応しなくなっていた。目の前の凄惨かつ一方的な戦いから視線を逸らせなかった。強力な艦隊が縦横無尽に動き回る敵MSの餌食になっていく。それはまるでルウム戦役の再現のようだった。あのとき、かの赤い彗星のシャアはマゼランを一隻、サラミスを四隻も沈めた。ランスロットはすでにサラミスを二隻撃沈している。しかもバスク艦隊の前に立ちはだかってからのわずかな時間で。
「レナウンが狙われています!」
オペレーターの叫びはほとんど悲鳴のようだった。ランスロットは大胆にもレナウンの真正面から艦橋に迫り、一太刀でそれを切り裂いてしまった。ノーマルスーツを着たクルーたちが真空中に投げ出されるのが見えたかと思うと、レナウンの艦橋構造物が大爆発をおこした。クルーたちは爆発の焔になすすべもなく呑み込まれ、見えなくなった。
「戦艦レナウン、大破…」
呆然とつぶやくオペレーターの声からは、もはや焦燥や恐怖は感じられなかった。すでに自分の命を諦めている響きがあった。
「おのれ…賤しいジオンの亡霊どもめ…!」
バスクはうなった。戦艦レナウンが船体の中央から真っ二つに折れるようにして爆発した。対空砲火は敵のMSをいっこうに捉えることができない。バスク艦隊はいまや敵にとって最良の標的となってしまっていた。
「ベーダ―卿より入電!『バスク艦隊は一時後退し、第六艦隊主力に合流せよ。第六艦隊主力は戦域に到達しつつあり』、です!」
オペレーターの声を聞き、バスクは拳を握りしめた。悔しいが、ここは退くしかないようだ。
「やむを得ん…全艦急速回頭!後方の第六艦隊主力に合流する!!」
† † † † †
「バスク艦隊は第六艦隊に合流する模様です。」
カントーがあずにゃんに言った。
「一時退却したということですか?」
あずにゃんは目を細めてカントーに尋ねる。
「そのようです。ベーダ―卿がバスク少佐に直接命令を下したものと思われます。第六艦隊は前進しつつバスク艦隊の受け入れ準備中。陣形を微妙に変えています。」
「バスク艦隊を収容して改めて突進するつもりですね。」
あずにゃんはそういって戦場を見渡した。敵MSがバスク艦隊に向かってくれたおかげで、
ブラックハウス以下の第二連合艦隊はかなり前進することができた。しかしもともと数の少ない第二連合艦隊は、これ以上単独で戦うことが難しい。友軍のMS部隊はさらに敵陣の奥深くへと入り込んでいるが、それらのMSだけでは巨大なソーラ・レイを破壊することはまず不可能だ。なにしろコロニー一基を破壊するのとおなじ手間がかかるのだから。ソーラ・レイの破壊には絶対に艦隊からの強力な砲撃が必要になる。つまりあずにゃんは、第二連合艦隊をできるだけ傷つけずにソーラ・レイへの攻撃距離まで導いていかなければならないのである。この先にどれだけの敵兵力が待ち構えているか、ほとんどわからない。さきほどバスク艦隊へ向かった敵MS部隊が舞い戻ってくるかもしれない。こうなれば第二連合艦隊も第六艦隊へ合流し、全軍を挙げて怒涛の総攻撃をかけるべきか。
しかし、現在時刻は午前5時すぎ。ソーラ・レイの発射時刻まであと4時間を残すのみ。第六艦隊に合流していれば、それだけ余分な時間がかかる。このまま進むしかない―――!
「第二連合艦隊、全速前進!艦隊の防御力を増すため、先行しているMSを一部呼び戻します!ナガモンさんに指示を!」
あずにゃんがアークに言うが、アークはそれができないと答えた。
「ナガモン中尉との連絡が確立できません!シン、フェイト、ナノハの三人とも通信不能!敵陣のかなり深くまで食い込んでいる模様です!」
「黒猫さんは?」
「通じます!」
「呼び出してください。」
アークがパネルを操作し、戦闘中の黒猫とブラックハウスの間に通信が開かれた。
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01/03 20:09 Windows(PC) [553]エルザス
552
† † † † †
「あずにゃん?どうしたの?」
わたしはいま、パチュリーと一緒にブラックハウスの前方で敵の
ムサイを叩いているところだった。ブラックハウスの進路に躍り出ようとしたムサイを粉砕しつつあったのだ。
「ナガモンさんたちと連絡が取れません。そちらで確認できませんか?」
「ここにはいないよ!
フラッグと一緒に最前線に向かったみたい!パチュリーは一緒にいるよ!」
ムサイからの対空砲火をよけつつ言う。
「パチュリーさんがそこに?アリスさんは?」
「見てない!パチュリーもちょっと前からアリスを見てないって言ってる!うわっと!」
ムサイが狙いの正確なメガ粒子を放ち、わたしは危ういところでそれをかわした。このムサイは対MS戦に慣れている。今やらなければ味方に被害がでる。
「一度ブラックハウスのそばに戻ってきてください。第二連合艦隊はこのまま敵陣を突き進みます。MSの支援が必要です。」
「第六艦隊には合流しないの?」
ムサイに急接近しながらそう尋ねる。曳光弾が群れをなして飛んできた。
「しません。時間がありません。第二だけで進みます!」
確固としたあずにゃんの声を聞くと同時に、わたしはビームライフルの引き金を引いた。発射されたビームはムサイの機関部を直撃し、大爆発が起こった。
「了解。3分でそっちにもどるね。通信終わり。」
あずにゃんとの交信を終えると、パチュリーが話しかけてきた。
「さすがね。艦長と話しながら敵艦を撃沈なんて、常人のなせる業じゃないわ。」
「そんなに褒めても何もでないよ。それより早くブラックハウスへ戻ろう。まだこのあたりにも敵の戦闘機や小型の艦船がうろついてる。」
「了解。」
わたしはパチュリーと機体を並べて後方へと向かった。撃破された敵味方のMSがあちこちに漂っている。荒れ果てた墓場を進む気分だった。
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01/03 20:09 Windows(PC) [554]エルザス
553
† † † † †
「バスク艦隊を収容、突撃隊形をとりました。」
第六艦隊を率いるベーダー卿は、その報告を聞いて深く息を吐き出した。先行しすぎたバスク艦隊は敵MSによってさんざんに痛めつけられたが、連邦軍の主力はあくまでもこの第六艦隊だった。第六艦隊は後方から次々にやってくる増援部隊をその都度吸収し、兵力を増やし続けていた。ア・バオア・クー宙域から遅れて発進した部隊がようやくおいついてきたのだ。ベーダー卿はそれらの後発部隊をそのまま第六艦隊に併合していた。その為に進撃速度はかなり遅くなっていたが、ここまで兵力がそろえば十分だった。
ベーダー卿は指揮官席に座ったまま、拳を前方に突き出した。
「第六艦隊、全速前進!!向かってくる敵を蹴散らして進め!!」
号令一下、第六艦隊所属の戦艦群が一気に速度を増し、進撃を再開した。その中にはなんとか味方に合流できたバスク艦隊の船もあった。彼らはいま戻ってきたばかりの航路を再び取って返し、改めて敵陣へと攻め上ろうとしているのだ。
「今度こそスペースノイドどもに地獄を見せてやるのだ!すすめ!」
戦艦フッドの艦橋では、バスク少佐が変わらぬ怒号を張り上げていた。
「右翼の敵は艦隊を集結させて再度進撃、左翼の敵はなおも侵攻中か。」
ダモクレスの艦橋、ゼロは次々に入ってくる報告をもとに戦況を読み取ろうとしていた。彼は第六艦隊と第二連合艦隊の動きを正確に把握し、そのうえで野心的な作戦を思いついた。ゼロは第六艦隊と対峙しているスザクに連絡を取った。
「MS隊は敵艦隊を中央突破、そのまま敵の後方に回れ。我が艦隊の主力は敵の前方に待ち伏せて、進んでくる敵を撃つ。細かいことは今から送るデータを確認しろ。」
スザクは一瞬怪訝な顔つきになった。
「了解した。しかし、こちらの艦隊はそんなに早く移動できるのか?敵艦隊を待ち伏せるという作戦なんだろう?もし間に合わなかったら…」
黒の騎士団にも、あとから合流してきた友軍の増援があった。主に戦艦を主力とするパトロール艦隊で、MSこそ少ないがかなり強力な増援部隊には違いなかった。スザクはそれを承知していたが、その部隊の配置が間に合わなければどうしようもない。今スザク達MS隊が食い止めている敵の第六艦隊、彼らに無人の宙域を進ませてしまうことになる。
しかしゼロは、普段と変わらぬ余裕たっぷりの口調でスザクに言った。
「敵の進撃は必ず乱れる。絶対に大丈夫だ。それより敵中突破を必ず成功させろ。敵の後ろに回り込んでからは手を休めずに攻撃するのだ。」
「なにか策があるんだな?」
「ある。」
スザクの問いにゼロは即答した。スザクはもうゼロを疑わなかった。彼の戦略ならば絶対だ。自分はそれに従うのみ。
「了解した。これより敵艦隊の中央を突破し、敵の後方に回り込む。」
スザクとの通信が切れ、ゼロは再び戦場に目をやった。戦いの光はどんどんダモクレスに近づいてきていた。戦いはこれからだ。これからの戦いが、明日の未来を決定づける。
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01/03 20:09 Windows(PC) [555]エルザス
554
スザクは自分の指揮下にある全MSに通信を開いた。一世一代の大勝負だ。
「これより前方の敵艦隊の中央を突破する。全員覚悟を決めろ!スペースノイドの明日の未来のため、いまこそ勇気を振り絞れ!臆病者はここに残るがいい!だが、ここはすぐに敵の射程内に入る。だからこれだけは言っておく。ここに残るのは、二種類の人間だけだ!死んだものと、これから死ぬものだ!それがわかったら僕に続け!
中央突破だ!繰り返す、中央突破だ!!」
言い終えたスザクは愛機を駆って真っ先に突き進んでゆく。間をおかずにほかのMSが彼に続く。ここに残るものなど一人もいなかった。
「敵MS、突進してきます!!」
オペレーターが叫び、バスク少佐は視線を艦橋の正面に投げかけた。そして息をのんだ。
「なんのつもりだ?!」
敵のMS部隊が総力を挙げて突っ込んできた。ビームライフルやマシンガンを乱射しつつ、ほとんど一直線にこちらへ向かってきた。
「なにをしている!回避!回避だ!右へ回避しろ!」
バスクは力の限りに叫んだ。あれと真正面からぶつかりあえば、この戦艦フッドもひとたまりもない。
「戦艦マレーヤが集中砲火を浴びています!」
オペレーターがフッドの左隣を行く船の名を口にした。見れば、マゼラン級戦艦のマレーヤはいたるところに敵弾を直撃され、すでに舷側から火を噴きだしていた。敵のMS隊がこのまま進めば、第六艦隊の中央は突破される。
「左舷、全砲門開け!!敵MS隊に集中砲火!」
バスクの命令に、フッドのオペレーターたちは顔を見合わせた。
「少佐、それでは味方の船に当たります!」
「後ろに回られれば終わりだぞ!撃て!撃つんだ!」
バスクが叫ぶ間にも、敵のMS部隊は第六艦隊の中央を食い破ろうとしていた。すでに何機かのMSはフッドの横を通り過ぎて後方へ抜けて行った。艦隊は前面にだけ弾幕を張っていたため、MSがひとたび船の横に回ればもう手も足も出せなかった。一隻のサラミスが全く抵抗できないままMSに蹂躙され、撃沈された。味方を撃つことを怖れていては、自分が撃沈される。フッドのクルーは瞬間的にそれを察知した。そしてついに、フッドの左舷砲門が火を噴いた。通過しようとしていたMSの何機かが直撃をうけて爆散する。だがMSに当たらなかった砲弾はそのまま真空中を突き進み、味方の船へと飛び込んでいった。小口径の対空火器ではたいした被害にはならなかったが、フッドは大口径の主砲すら発射していた。怒涛のごとく駆け抜けていくMSは突然の砲撃に一瞬浮足立った。しかし指揮官のスザクが一喝して、部隊はすぐさま秩序を取り戻した。
「砲火を怖れずに突っ切れ!止まったら撃たれるぞ!進むんだ!」
砲撃がフッドからだと気付いたスザクは、すぐにそれを沈めようと動いた。だが、別の船も側面にいるMSへの対空砲火を開始し、スザクは行く手を遮られた。
いまや第六艦隊は中央を黒の騎士団に分断され、それに向かって左右の船が砲撃をかわしあうという、地獄のような状態に陥っていた。不運にも砲火に絡め取られたMSが次から次に爆発を起こし、それでもMSは進撃をやめなかった。
「敵MS隊、艦隊の後方に抜けます!!」
「同士討ちをやめさせろ!横へ向かって撃つなと言え!!」
ベーダー卿はいらだっていた。まんまと敵に、この艦隊の中央を突破されてしまった。背後に回り込んだ敵は即座に第六艦隊を脅かしてくる。だが…
「第六艦隊、このままの陣形でいい、前進だ!敵は我々に進撃路を譲ってくれたぞ!」
ベーダー卿の言うとおりだった。行く手を阻んでいた敵MS隊はいまや第六艦隊の後方にある。もちろんこのまま進めば艦隊の後部にいる船から順に被害が出るだろうが、それでも全速で進めば振り切れないことはない。今が前進のチャンスなのだ。
「全艦全速前進!!一気にソーラ・レイまで突っ走れ!!」
ベーダー卿はすでに勝利を確信していた。敵MS隊の主力は後方。このまま第六艦隊がソーラ・レイになだれ込めば、その破壊はたやすい。第六艦隊は早くもトップスピードに乗りつつある。
「勝ったな。」
ベーダー卿はそうつぶやいた。
だが―――
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01/03 20:10 Windows(PC) [556]エルザス
555
「前方に船の残骸多数!このままでは突っ込みます!減速!減速!」
オペレーターが叫び、ベーダー卿はわが目を疑った。最大船速で進む第六艦隊の行く手を遮るように、無数の船の残骸が方々に漂っていた。
「主砲撃ち方始めぇ!あれを粉砕しろ!」
慌てた射撃指揮官が叫ぶが、砲撃手があっけにとられているのか、火を噴く砲はない。
「あげ舵いっぱい!取り舵いっぱい!!」
操舵手が叫び、最大船速のままの戦艦が急速回頭を始めた。ベーダー卿は指揮官席から危うく投げ出されそうになる。
「この残骸はなんだ?!」
指揮官席にしがみつきながら、ベーダー卿は叫んでいた。彼の疑問の答えを知る者が、戦艦フッドの艦橋にいた。
「バスク少佐、これは…」
オペレーターが呆然としてバスクを見た。見間違えようもなかった。ついさっきまでバスクが自分の指揮下に置いていた船。ロイヤル・ソヴェリン、バーラム、レナウン…
その他多数の友軍艦。
撃沈されたバスク艦隊の船の残骸であった。大損害を負ったバスク艦隊は、沈んだ友軍艦を見捨てて第六艦隊へ逃げ帰った。そのツケがここで回ってきた。全速力で進んできた第六艦隊の列艦は先頭から順に急制動をかけた。後続の船はそれを避けようとして無理な旋回や後進をかけ、さらに後続の船がそこに突っ込んだ。中には船体を制御できず、戦艦の残骸にそのまま突っ込む船もあった。
「バカな…敵は、撃沈した我々の艦でバリケードを築いたというのか…!」
どうにか無事だったフッドの艦橋、バスク少佐は鬼の形相で呻いた。
そう、ゼロの作戦はそこにあった。スザクのMS隊は敵の背後に回り込み、敵艦隊を半包囲しつつソーラ・レイの側へ向かって押し出す。敵艦隊は後方のスザク隊に押され、しかも進撃路があいたのだから当然前進してくる。だがその進路上に撃沈した連邦軍の戦艦の残骸を集めておき、バリケードとして利用する。ゼロはここにジオン軍の大破した船も集めていた。結果、バリケードは広範囲にわたって展開され、第六艦隊の大半がその障害物にぶち当たった。ゼロはあらかじめ敵の進撃路を予想していたため、バリケードはその力をほぼ完全に発揮した。全速力で走っていたダンプがコンクリートの壁に突っ込んだようなものだ。第六艦隊の被害は甚大であった。
「動ける船から前に進め!後ろからは敵のMSが来てるいるぞ!」
ベーダー卿は混乱する艦隊をどうにかコントロールしようとしていた。だが、混乱は広がっていくばかりだった。数が多かったのが裏目に出た。どの船が無事でどの船が損傷を負ったのか、そしてどの船がどこにいるのかすらわからなかった。
「2時の方向より敵艦隊近づきます!!ムサイ、チベほか約10隻!」
レーダー手が絶叫した。第六艦隊は組織的な砲撃戦などできる状態ではない。たった10隻の敵艦が、第六艦隊すべてを撃滅してしまうかもしれない。しかも敵にはMSもいるのだ。
「なんとかしてこの宙域を脱出する!このままでは艦隊は全滅だ!」
ベーダー卿は叫んだ。いまやソーラ・レイのことなど完全に失念していた。自分の艦隊を生き残らせる。それがいまの彼にとっての最大の使命だった。
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01/03 20:11 Windows(PC) [557]エルザス
556
「このエリアは損傷が激しい!君は医務室に移ってくれ!」
突然そう声をかけられ、ブラックハウスの独房にいるカレンは当惑してしまった。彼女はいまブラックハウスが戦闘中であることくらいはわかっていたが、この船がそこまでひどい損傷を負ったとは思っていなかった。先ほど格納庫のほうから大きな衝撃が伝わってきたが、爆発を伴うようなものではなかった。
「戦闘はそんなに激しいんですか?」
カレンは彼女を護送しに来たクルーに尋ねた。
「激しいなんてもんじゃない。左舷の格納庫は大破だ。何人死んだのかもわからない。」
その男はカレンに対する嫌悪を隠そうともせずに言った。当然だろう。いまブラックハウスが戦っているのはカレンが所属していた黒の騎士団なのだから。
「ルルーシュはどうしてこんなことを…」
カレンはつぶやいた。どうしても納得がいかなかった。ゼロ・レクイエム。それが黒の騎士団最後の戦いなのだとゼロは言った。すでに決着のついた戦争をまだ続けるのだと。どう考えても狂気の沙汰だった。ゼロの目指していたものとは全く違う、人の道を外れた所業。それがゼロ・レクイエムだ。
「いいから早く歩け。」
促され、カレンは医務室に向かって歩き始めた。
医務室は地獄のような喧騒に包まれていた。床一面に血の池が広がり、あちこちに患者が並べられていた。
「麻酔はもうない!ブランデーもってこい!!」
軍医のアベが叫び、衛生兵のミチシタが大きな酒瓶を運んできた。アベはそれを取って目の前の患者の負傷した部分にブランデーを垂らした。
「くああっ…!」
焼けるような痛みに耐えきれず、負傷兵が泣きそうな声を上げる。声を上げる元気のあるものはまだよかった。本当に重症のものはすでに死んだようにして動かなくなっていた。
「かあさん…かあさん…」
カレンと同い年くらいの兵士がうなされていた。彼の眼には包帯が巻かれ、それが真っ赤な血で染まっている。その隣では、中年くらいの兵士がゆっくりと煙草をふかしていた。煙草をもつのと反対側の手は切り落とされて床に転がっていた。
「ひどい…」
カレンはショックを受けていた。これらすべてが、ゼロ・レクイエムによる犠牲者なのか。終わった戦争のために、なぜまだ人が血を流しているのか。
「クロノ副長!動いちゃダメです!」
ミチシタが叫んだかと思うと、カレンの前にクロノがゆらりと現れた。青ざめた顔は血の気がなく、どこか死人の表情を思わせた。
「カレン・コウヅキ…だったね。」
クロノがゆっくりと口を動かし、言った。
「あ、はい。」
「教えてくれ、どうすればゼロを止められる?」
「え…?」
「この船に乗っている人間では、君が一番ゼロについて詳しいはずだ。フェイトはもう出撃してしまった。だから君に尋ねている。」
「フェイトが出撃?!」
「そうだ。どうしてもゼロを止めたいと言って、パイロットやクルーを抱き込んで出撃していった。答えてくれカレン、どうやったらゼロを止められる?」
クロノはカレンの双眸を凝視した。カレンもクロノの視線をまっすぐ見返す。
「なら、私も
紅蓮弐式で出ます。」
「答えになってない。ゼロを止める方法を訊いてるんだ。」
「私が止めます!彼を止めたいと思っているのはフェイトだけじゃない。私もです。私も出撃して、連邦軍と協力してゼロを止めます。」
「君にゼロが討てるのか?」
「討ちます。討ってみせます。」
カレンはいよいよ強くクロノを見つめた。クロノは一度視線を伏せ、それからまたカレンを見た。
「君の機体、紅蓮弐式か、あれは右舷の格納庫にある。君が捕虜になったときの状態のままだ。戦闘機動は無理だろう。」
「それでも行きたいんです。」
「連邦軍が君を誤射するかもしれない。」
「なにもせずにここでじっとしているよりはいいです。」
「…君もフェイトも強情だな…」
あきれたように言ったクロノは、一瞬気が抜けたように体勢を崩した。
「ちょっ、大丈夫?!」
カレンは慌ててクロノの腕を取り、彼をしっかりと立たせた。
「すまない…大丈夫だ…ところで、覚悟はあるんだな?」
「はい。」
確信をもって答えた。嘘偽りのない、絶対の肯定。
「…わかった。右舷格納庫に案内しよう。ついてきてくれ。」
クロノはそういうと、きびきびとした足取りで医務室を出ようとした。
「あっ、クロノ副長!絶対安静ですってば!」
ミチシタが呼びとめたが、クロノは軽く手を挙げて答えただけだった。カレンもクロノのあとに続いて医務室を出る。まさか本当に出撃できるとは思ってもみなかった。ついている。
「ルルーシュ、絶対にあなたを止めてみせる。」
この宙域のどこかにいるルルーシュに向けて、カレンはそっとつぶやいた。
最終更新:2011年01月30日 14:34