辺境のコロニー、ジュネス…
その最深部、恐らくこの世界で最も深い闇の中と言っても差支えないであろう場所…
天高く聳え立つは何かの神を模した像…奇抜な風体を成している。
大勢の人間が揃いも揃って大声で何かを合唱している。
おおおーお、おおおーお…
時々チリン、となる錫杖の音がドーム状のこの場に響き渡る。
狂信…この上もなく、そして狂おしいほど純粋なそれに捕われた群衆は、皆一点を見つめ合唱を続ける。
その更に奥…控えの場で、二人の男が会話をしていた。
「いよいよ見つかったようで」
研ぎ澄まされた日本刀のような目を持つ中年の男が言う。
油断なく引き締まった全身からは、明鏡止水、一種の覇気のようなものが感じ取れる。
「うむ。この世界を裁く時が来たのだ、福音とでも言うべきか」
答えるのは厳かな、それでいて静かな…泰然自若とでも言うべきだろうか、幾分憐憫を含んだ目の男。
「では、使うのですね?マルスを…」
「マルスの力は我々の為に使用されるべきだ。来るべき新世界に向けて、な」
「ベイト大佐…」
ベイト、と呼ばれた男。神官のような衣装を纏っている。
一見胡散臭そうにも見えないこともないが、この男が持つ生まれながらの指導者としての風格がそれをさせない。
「その名は捨てたのだ。この場ではトマス金鍔次兵衛と呼びたまえ」
「失礼いたしました」
「ソウヤ君。君もそろそろ洗礼を受けるべきだと私は考えるがね。君率いる独立派の者達も含めて」
ソウヤ、と呼ばれた男は戸惑う。
自らの目的の為に力が必要となり、たまたま目的の一致したマスター・ベイト大佐率いる集団と手を組むことにしたのだが、その魂までは彼らに捧げるつもりはない。
「…フン、まあいいさ。君もやがて知ることになる。我が神の偉大さをな」
「ところで」
ソウヤこと、宗谷陽光(そうやようこう)大尉が、話題を変える。
「マルスには、教主が搭乗なさるのですか?」
トマスなんたら、と呼ぶのはいちいち面倒だ。陽光はベイトの事を普段から当たり障りのない教主、と呼ぶことにしていた。
「ああ、紹介していなかったな」
入りたまえ、ベイトが言うと、一人の少年が入ってきた。
「アレス・ルナーク少尉…洗礼名はアンデレ権八郎だ」
目の前の少年はあまりに若い。まだ16、7といったところか…陽光はその昔別れた自らの娘のことを思い出す。
一見すれば女性のように見えないこともないその少年は陽光を一瞥すると、恐ろしいくらいの無表情さで、胸の前で十字を切った。
この宗教独特の挨拶なのだろう…対して陽光の方は火星軍式の敬礼で返礼する。
「教主」
同じく神官のような格好をした別の男が、ベイトに話しかける。
「そろそろお時間です。ご教義の準備を」
「ああ。ではソウヤ君、アンデレ、私は失礼する。各々、先日伝えた計画通りに動いてくれ。諸君らに神のご加護があらんことを」
椅子から腰を上げ、先程の群衆の元へ向かうベイト。
陽光はその姿を見送るとわずかながらに溜息をもらす。
(マスター・ベイト…食えん奴だ…)
振り向くと、少年・アレスはもういなかった。
陽光はそれから暫くの間、少年がいた場所を見つめ続けていた…
その最深部、恐らくこの世界で最も深い闇の中と言っても差支えないであろう場所…
天高く聳え立つは何かの神を模した像…奇抜な風体を成している。
大勢の人間が揃いも揃って大声で何かを合唱している。
おおおーお、おおおーお…
時々チリン、となる錫杖の音がドーム状のこの場に響き渡る。
狂信…この上もなく、そして狂おしいほど純粋なそれに捕われた群衆は、皆一点を見つめ合唱を続ける。
その更に奥…控えの場で、二人の男が会話をしていた。
「いよいよ見つかったようで」
研ぎ澄まされた日本刀のような目を持つ中年の男が言う。
油断なく引き締まった全身からは、明鏡止水、一種の覇気のようなものが感じ取れる。
「うむ。この世界を裁く時が来たのだ、福音とでも言うべきか」
答えるのは厳かな、それでいて静かな…泰然自若とでも言うべきだろうか、幾分憐憫を含んだ目の男。
「では、使うのですね?マルスを…」
「マルスの力は我々の為に使用されるべきだ。来るべき新世界に向けて、な」
「ベイト大佐…」
ベイト、と呼ばれた男。神官のような衣装を纏っている。
一見胡散臭そうにも見えないこともないが、この男が持つ生まれながらの指導者としての風格がそれをさせない。
「その名は捨てたのだ。この場ではトマス金鍔次兵衛と呼びたまえ」
「失礼いたしました」
「ソウヤ君。君もそろそろ洗礼を受けるべきだと私は考えるがね。君率いる独立派の者達も含めて」
ソウヤ、と呼ばれた男は戸惑う。
自らの目的の為に力が必要となり、たまたま目的の一致したマスター・ベイト大佐率いる集団と手を組むことにしたのだが、その魂までは彼らに捧げるつもりはない。
「…フン、まあいいさ。君もやがて知ることになる。我が神の偉大さをな」
「ところで」
ソウヤこと、宗谷陽光(そうやようこう)大尉が、話題を変える。
「マルスには、教主が搭乗なさるのですか?」
トマスなんたら、と呼ぶのはいちいち面倒だ。陽光はベイトの事を普段から当たり障りのない教主、と呼ぶことにしていた。
「ああ、紹介していなかったな」
入りたまえ、ベイトが言うと、一人の少年が入ってきた。
「アレス・ルナーク少尉…洗礼名はアンデレ権八郎だ」
目の前の少年はあまりに若い。まだ16、7といったところか…陽光はその昔別れた自らの娘のことを思い出す。
一見すれば女性のように見えないこともないその少年は陽光を一瞥すると、恐ろしいくらいの無表情さで、胸の前で十字を切った。
この宗教独特の挨拶なのだろう…対して陽光の方は火星軍式の敬礼で返礼する。
「教主」
同じく神官のような格好をした別の男が、ベイトに話しかける。
「そろそろお時間です。ご教義の準備を」
「ああ。ではソウヤ君、アンデレ、私は失礼する。各々、先日伝えた計画通りに動いてくれ。諸君らに神のご加護があらんことを」
椅子から腰を上げ、先程の群衆の元へ向かうベイト。
陽光はその姿を見送るとわずかながらに溜息をもらす。
(マスター・ベイト…食えん奴だ…)
振り向くと、少年・アレスはもういなかった。
陽光はそれから暫くの間、少年がいた場所を見つめ続けていた…
進宇宙歴102年…
度重なる紛争や、人口爆発、食糧問題…これらの出来事を解決しようと、人類は新たなる希望を火星に抱き、テラ・フォーミングを計画してから102年…
その中で、テラ・フォーミングに携わる労働者、技術者達が、作業効率を上昇させ、また自らの住居とする為地球及び火星軌道上に幾つかのコロニー群を形成していた。
そしてテラ・フォーミングが終了し地球化したこの火星に、火星開発公社の第一次調査隊が舞い降りた。
軌道エレベータにより地上に降りる一行。
ノーマルスーツを着用し、調査用機材と共に第一歩を踏み出す。
地表は、地球の大地と大差なかった。
「呼吸は、出来るのでしょう?」
第一次調査隊の副隊長である女性、クラン・R・ナギサカが言った。
その顔は嬉々として、希望に溢れている。
一般的な女性と比べるとやや背の高い部類に入る方で、長い赤髪をひとつにまとめ、控え目な美しさを持つ女性だ。
加えてこれほど澄んだ瞳を持つ人間がいるのか、と彼女と視線を合わせた人間は言うだろう。
しかし、その澄んだ瞳の奥にどうしても拭い去ることのできないモノ…
それは、傷痕。
遠い昔に痛みと共に無くした記憶、の筈だった…
けれど、彼女は片時も失った家族の為に祈ることは欠かさなかった。
(父さん、母さん、シンシア…私は遂に、ここに…火星に来たわ)
少し遅れて、返事が返ってくる。
「はい。可能です。大気正常。地球の成分とほとんど変わりません」
モニターと睨めっこを続けていた女性隊員の一人、ミランダ・ウォンが事務的にそう告げる。
眼鏡が印象的で、太陽光が反射してキツく光っていた。
そんなミランダに困ったように一瞬だけ苦笑を見せると、
クランは静かにその顔を覆い外気を遮断しているヘルメットを外した。
「…………これが、火星の空気」
肌に触れる微風。
匂いも、感触も、全てがコロニーとは違う。
「第一号を取られてしまったな」
「すみません。マクドガル隊長」
後ろから聞こえた声に、小さく肩を揺らし、クランは振り返る。
「いや、第一号は動物実験で放たれたマウス達か。私はコロニー育ちだが、やはり星は違うな」
続くように、周りの者達もヘルメットを脱いでいく。
クランに声をかけた男性。調査隊の隊長、ギデオン・マクドガルだ。
「火星の大気も人工的に創られたものだというのにな」
「そうですね。やはりそれは、火星も生きているということなんじゃないでしょうか」
見渡す限りの土色。
広がる地平線。
それらを見ながら、黄昏の時が過ぎていく。
「おーい、積み荷は全部降ろし終わったぞー」
火星の大地を眺めていた二人に、乾いた声をかけるのは、 調査隊の男性技師であるヴァイス・トロニクスである。
「医療器具もオッケーです! みなさん、じゃんじゃんケガしちゃってくださいね!」
機材の陰からひょこっと顔を出したのは、調査隊の医療担当、モモ・マレーンだ。
あっけらかんとしたその言動に、呆れる者、短く溜息をつく者、大きく溜息をつく者。
そして微笑ましく見詰めるのは、クランだった。
第一次調査隊は、この5人によって構成されている。
年齢も性格も様々だが、火星への第一歩を踏み出すために選ばれた者達なのだ。
度重なる紛争や、人口爆発、食糧問題…これらの出来事を解決しようと、人類は新たなる希望を火星に抱き、テラ・フォーミングを計画してから102年…
その中で、テラ・フォーミングに携わる労働者、技術者達が、作業効率を上昇させ、また自らの住居とする為地球及び火星軌道上に幾つかのコロニー群を形成していた。
そしてテラ・フォーミングが終了し地球化したこの火星に、火星開発公社の第一次調査隊が舞い降りた。
軌道エレベータにより地上に降りる一行。
ノーマルスーツを着用し、調査用機材と共に第一歩を踏み出す。
地表は、地球の大地と大差なかった。
「呼吸は、出来るのでしょう?」
第一次調査隊の副隊長である女性、クラン・R・ナギサカが言った。
その顔は嬉々として、希望に溢れている。
一般的な女性と比べるとやや背の高い部類に入る方で、長い赤髪をひとつにまとめ、控え目な美しさを持つ女性だ。
加えてこれほど澄んだ瞳を持つ人間がいるのか、と彼女と視線を合わせた人間は言うだろう。
しかし、その澄んだ瞳の奥にどうしても拭い去ることのできないモノ…
それは、傷痕。
遠い昔に痛みと共に無くした記憶、の筈だった…
けれど、彼女は片時も失った家族の為に祈ることは欠かさなかった。
(父さん、母さん、シンシア…私は遂に、ここに…火星に来たわ)
少し遅れて、返事が返ってくる。
「はい。可能です。大気正常。地球の成分とほとんど変わりません」
モニターと睨めっこを続けていた女性隊員の一人、ミランダ・ウォンが事務的にそう告げる。
眼鏡が印象的で、太陽光が反射してキツく光っていた。
そんなミランダに困ったように一瞬だけ苦笑を見せると、
クランは静かにその顔を覆い外気を遮断しているヘルメットを外した。
「…………これが、火星の空気」
肌に触れる微風。
匂いも、感触も、全てがコロニーとは違う。
「第一号を取られてしまったな」
「すみません。マクドガル隊長」
後ろから聞こえた声に、小さく肩を揺らし、クランは振り返る。
「いや、第一号は動物実験で放たれたマウス達か。私はコロニー育ちだが、やはり星は違うな」
続くように、周りの者達もヘルメットを脱いでいく。
クランに声をかけた男性。調査隊の隊長、ギデオン・マクドガルだ。
「火星の大気も人工的に創られたものだというのにな」
「そうですね。やはりそれは、火星も生きているということなんじゃないでしょうか」
見渡す限りの土色。
広がる地平線。
それらを見ながら、黄昏の時が過ぎていく。
「おーい、積み荷は全部降ろし終わったぞー」
火星の大地を眺めていた二人に、乾いた声をかけるのは、 調査隊の男性技師であるヴァイス・トロニクスである。
「医療器具もオッケーです! みなさん、じゃんじゃんケガしちゃってくださいね!」
機材の陰からひょこっと顔を出したのは、調査隊の医療担当、モモ・マレーンだ。
あっけらかんとしたその言動に、呆れる者、短く溜息をつく者、大きく溜息をつく者。
そして微笑ましく見詰めるのは、クランだった。
第一次調査隊は、この5人によって構成されている。
年齢も性格も様々だが、火星への第一歩を踏み出すために選ばれた者達なのだ。
火星開発公社…その歴史は、進宇宙歴元年にまで遡る。
元々は地球連邦に存在する一つの部署であったのだが、テラ・フォーミング計画が現実味を帯びてきて一つの企業として独立する。
初め半官半民の形をとっていた公社も、作業が進むにつれ地球本社だけではどうにもならず、コロニー支社を創設する。
やがて官・民を問わず、技術者の多くはコロニー支社の方へと流れ、地球・コロニー間の軋轢は彼らにも及ぶ。
現在では、地球本社とコロニー支社は完全な別企業として、機能しているのだった。
ちなみに、クラン・R・ナギサカを始めとする第一次調査隊はコロニー支社側、フィリア・シュードを中心とする第七次調査隊は地球本社側に属している。
元々は地球連邦に存在する一つの部署であったのだが、テラ・フォーミング計画が現実味を帯びてきて一つの企業として独立する。
初め半官半民の形をとっていた公社も、作業が進むにつれ地球本社だけではどうにもならず、コロニー支社を創設する。
やがて官・民を問わず、技術者の多くはコロニー支社の方へと流れ、地球・コロニー間の軋轢は彼らにも及ぶ。
現在では、地球本社とコロニー支社は完全な別企業として、機能しているのだった。
ちなみに、クラン・R・ナギサカを始めとする第一次調査隊はコロニー支社側、フィリア・シュードを中心とする第七次調査隊は地球本社側に属している。
クランはギデオンと顔を見合わせる。 ヴァイスに言われ、互いに考えは同じなのか、どちらからともなく頷く。
「では、隊長、準備が整い次第、作業を開始しましょう」
「そうだな。トロニクス君、グワライダーを起動させてくれ」
「へいへい。了解」
積み荷の一つであるコンテナのハッチを開くと、中からは10メール程だろうか、
少々丸みを帯び、背部からは作業用のアームが伸びている機械が姿を現した。
モビルワーカー(MW)。重機に代わり、地球や各コロニーで工事などに使用される機械である。 コックピット式になっており、精密な作業にも適しているのだ。
「掘るんスか? 隊長殿」
「軌道エレベータ建造時に、MWで少量の土は持って帰ったそうだが足りないらしいのだ
「了解ッス」
ギデオンに言われ、ヴァイスがグワライダーに乗り込もうと昇降ワイヤーに掴まった。
ヴァイスの視線とクランの視線が、重なる。
「……何か、言うことはないのかよ」
「え? 貴方との仕事は一度や二度じゃないでしょう?」
「チッ」
あからさまに嫌そうな顔をして、ヴァイスはコックピットへ登っていった。
「私、何か悪いこと言ったかしら」
「どんかーん」
首を傾げるクランに、モモは肩を竦めてやれやれと呟いた。
「では、隊長、準備が整い次第、作業を開始しましょう」
「そうだな。トロニクス君、グワライダーを起動させてくれ」
「へいへい。了解」
積み荷の一つであるコンテナのハッチを開くと、中からは10メール程だろうか、
少々丸みを帯び、背部からは作業用のアームが伸びている機械が姿を現した。
モビルワーカー(MW)。重機に代わり、地球や各コロニーで工事などに使用される機械である。 コックピット式になっており、精密な作業にも適しているのだ。
「掘るんスか? 隊長殿」
「軌道エレベータ建造時に、MWで少量の土は持って帰ったそうだが足りないらしいのだ
「了解ッス」
ギデオンに言われ、ヴァイスがグワライダーに乗り込もうと昇降ワイヤーに掴まった。
ヴァイスの視線とクランの視線が、重なる。
「……何か、言うことはないのかよ」
「え? 貴方との仕事は一度や二度じゃないでしょう?」
「チッ」
あからさまに嫌そうな顔をして、ヴァイスはコックピットへ登っていった。
「私、何か悪いこと言ったかしら」
「どんかーん」
首を傾げるクランに、モモは肩を竦めてやれやれと呟いた。
同時刻…
クラン達が降り立った軌道エレベータとは別の、もう一つの軌道エレベータ…
そこに、ディヴィッド・リマーとフィリア・シュードを中心とする第七次調査隊の面々がいた。
コロニー側の第一次調査団に対抗する為、地球側から派遣されたのが彼ら第七次調査団であり、フィリアの言う諸々の事情とは、このことを指す。
どちらにも面子というものがあるのだ。
二~六までの空いた数字に深い意味などない。
ただ、躍起になった地球側が「自分達は既に七回目の調査なのだ」という嘘をコロニー側に知らしめる為のものだった。
「ここが、火星か…」
短く髪を切り、清潔な服を着たデイヴがぽつりと呟く。
こうして見ればなかなかのさわやか好青年に見えないこともない。
「うん」
頷くフィリア。
「僕らの、記念すべき再スタートの場所だ」
「ああ…」
「呼吸、出来んのかな」
「うん。出来る筈だよ」
偶然にもクランと同じセリフを吐くデイヴと、それに答えるフィリア。
不意に、フィリアの端末に連絡が届く。
「…っと、ブリーフィングだ。デイヴ、君はパイロット達の方へ」
それじゃね、と言い、フィリアは去っていく。溜息をついたデイヴは、パイロットの詰め所へと足を運んだ。
クラン達が降り立った軌道エレベータとは別の、もう一つの軌道エレベータ…
そこに、ディヴィッド・リマーとフィリア・シュードを中心とする第七次調査隊の面々がいた。
コロニー側の第一次調査団に対抗する為、地球側から派遣されたのが彼ら第七次調査団であり、フィリアの言う諸々の事情とは、このことを指す。
どちらにも面子というものがあるのだ。
二~六までの空いた数字に深い意味などない。
ただ、躍起になった地球側が「自分達は既に七回目の調査なのだ」という嘘をコロニー側に知らしめる為のものだった。
「ここが、火星か…」
短く髪を切り、清潔な服を着たデイヴがぽつりと呟く。
こうして見ればなかなかのさわやか好青年に見えないこともない。
「うん」
頷くフィリア。
「僕らの、記念すべき再スタートの場所だ」
「ああ…」
「呼吸、出来んのかな」
「うん。出来る筈だよ」
偶然にもクランと同じセリフを吐くデイヴと、それに答えるフィリア。
不意に、フィリアの端末に連絡が届く。
「…っと、ブリーフィングだ。デイヴ、君はパイロット達の方へ」
それじゃね、と言い、フィリアは去っていく。溜息をついたデイヴは、パイロットの詰め所へと足を運んだ。
グワライダーを操作し、黙々と作業を続けていく第一次調査団の面々。
ただ一人ミランダだけは、未だにモニターを凝視していた。 怪訝そうに、眉が動く。 心なしか瞬きも多くなっている。
それは、モニターを睨み合いを続け疲れ目になっているわけでも、 彼女の視力が悪いからというわけでもない。
「計器の故障……ではないわ。そんなはずが」
ぶつぶつと、信じられなさそうに同じ言葉を繰り返す。
「どうかしたのか。ウォン君」
「いえ……地層の調査を行っていたところ、この先約1キロ程の地下に、熱源を……」
報告する自分自身が信じられないのか、語尾が弱々しい。
そんなミランダの言葉に、目を丸くするギデオンとクラン。
「熱源? なんのだ?」
「と、突然現れたので私も計器の故障だと思ったんですが、これは明らかに地下に建造物が」
「建造物……? まさか。ここは未開拓の土地なのよ」
ミランダの持っているモニターを覗き込む二人。
しかし、ミランダが言うとおり、モニターは地下に何かがあることを示していた。
「テラ・フォーミング以前にどこかの国が建造したのではないか?」
「そんな、考えられません。どこの国だと言うんです。月?」
答えのない議論。
持ち込んだ機材は、故障がすればアラームが鳴る。そのアラームさえ故障しているというのだろうか。
「あのぉ、迷ってるなら、行ってみたらどうですか?」
問答しあっているギデオンとクランに、モモはそう告げるのだった。
ただ一人ミランダだけは、未だにモニターを凝視していた。 怪訝そうに、眉が動く。 心なしか瞬きも多くなっている。
それは、モニターを睨み合いを続け疲れ目になっているわけでも、 彼女の視力が悪いからというわけでもない。
「計器の故障……ではないわ。そんなはずが」
ぶつぶつと、信じられなさそうに同じ言葉を繰り返す。
「どうかしたのか。ウォン君」
「いえ……地層の調査を行っていたところ、この先約1キロ程の地下に、熱源を……」
報告する自分自身が信じられないのか、語尾が弱々しい。
そんなミランダの言葉に、目を丸くするギデオンとクラン。
「熱源? なんのだ?」
「と、突然現れたので私も計器の故障だと思ったんですが、これは明らかに地下に建造物が」
「建造物……? まさか。ここは未開拓の土地なのよ」
ミランダの持っているモニターを覗き込む二人。
しかし、ミランダが言うとおり、モニターは地下に何かがあることを示していた。
「テラ・フォーミング以前にどこかの国が建造したのではないか?」
「そんな、考えられません。どこの国だと言うんです。月?」
答えのない議論。
持ち込んだ機材は、故障がすればアラームが鳴る。そのアラームさえ故障しているというのだろうか。
「あのぉ、迷ってるなら、行ってみたらどうですか?」
問答しあっているギデオンとクランに、モモはそう告げるのだった。
「遅い」
デイヴが到着した時には、既に他のMSパイロット五名はブリーフィングをしていた。
第七次調査団が使用する空中艦「カナリヤ」…
デイヴ達の搭乗するこの輸送艦は、鯨に羽を付けたような恰好で、ずんぐりとしている。全幅が全長より二倍近い大きさであり、無駄に広い。
故にその分部屋も多く、人づきあいを煩わしいと感じるデイヴはずっと一つの部屋でフィリアと過ごしており、既になんだかよからぬ噂が立ち始めていた。
「アンタか、シュード主任とデキてるってのは」
まだ若い男が話しかけてくる。
「地球連邦軍所属、ディック・オメコスキー中尉だ。…っと、手は差し出さなくてもいいぜ。ゲイ野郎」
あぁー書いててムカツク、こいつ。読んでる時もムカツクなー、って思ってたけど。
デイヴは眉一つ動かさず、淡々と喋る。
「ディヴィッド・リマー」
「デイヴィッド、ね。ハン、とにかく足手まといはごめんだぜ、オッサン」
「おい、ディック。その辺にしておけ」
「シヴォーフ」
シヴォーフと呼ばれる男が自己紹介を始める。
「同じく、地球連邦軍所属、シヴォーフ・ラーグ中尉だ。よろしくな、ディヴィッド」
ここに集まる六名…ディックとシヴォーフの二名を除いた他の四名は傭兵という形で雇われているらしかった。
各々、自己紹介をしていく。
「カマッセ・ドッグだ、よろしく」
「ゲイリー・ターレルです、ええ」
「ネルネ・ルネールネだ」
「さて」
シヴォーフが口を開く。どうやらこの男がまとめ役であるらしい。
「ここにはちょうど六名、二小隊いるわけだ。俺とディックが隊長を務める。そこで君達にはその隊員として働いてもらう」
既に班は割り振られていたらしい。選定基準はパイロットの能力といったところだろうか。
前面にあるスクリーンに、割り振りが映し出される。
デイヴが到着した時には、既に他のMSパイロット五名はブリーフィングをしていた。
第七次調査団が使用する空中艦「カナリヤ」…
デイヴ達の搭乗するこの輸送艦は、鯨に羽を付けたような恰好で、ずんぐりとしている。全幅が全長より二倍近い大きさであり、無駄に広い。
故にその分部屋も多く、人づきあいを煩わしいと感じるデイヴはずっと一つの部屋でフィリアと過ごしており、既になんだかよからぬ噂が立ち始めていた。
「アンタか、シュード主任とデキてるってのは」
まだ若い男が話しかけてくる。
「地球連邦軍所属、ディック・オメコスキー中尉だ。…っと、手は差し出さなくてもいいぜ。ゲイ野郎」
あぁー書いててムカツク、こいつ。読んでる時もムカツクなー、って思ってたけど。
デイヴは眉一つ動かさず、淡々と喋る。
「ディヴィッド・リマー」
「デイヴィッド、ね。ハン、とにかく足手まといはごめんだぜ、オッサン」
「おい、ディック。その辺にしておけ」
「シヴォーフ」
シヴォーフと呼ばれる男が自己紹介を始める。
「同じく、地球連邦軍所属、シヴォーフ・ラーグ中尉だ。よろしくな、ディヴィッド」
ここに集まる六名…ディックとシヴォーフの二名を除いた他の四名は傭兵という形で雇われているらしかった。
各々、自己紹介をしていく。
「カマッセ・ドッグだ、よろしく」
「ゲイリー・ターレルです、ええ」
「ネルネ・ルネールネだ」
「さて」
シヴォーフが口を開く。どうやらこの男がまとめ役であるらしい。
「ここにはちょうど六名、二小隊いるわけだ。俺とディックが隊長を務める。そこで君達にはその隊員として働いてもらう」
既に班は割り振られていたらしい。選定基準はパイロットの能力といったところだろうか。
前面にあるスクリーンに、割り振りが映し出される。
ラーグ隊
シヴォーフ・ラーグ、カマッセ・ドッグ、ネルネ・ルネールネ
シヴォーフ・ラーグ、カマッセ・ドッグ、ネルネ・ルネールネ
オメコスキー隊
ディック・オメコスキー、ゲイリー・ターレル、ディヴィッド・リマー
ディック・オメコスキー、ゲイリー・ターレル、ディヴィッド・リマー
「任務の内容は先日伝えた通り、火星の簡単な調査だ。そう難しくはないだろうさ。それじゃ、解散。各自召集まで待機とする」
シヴォーフが言うと、全員各々の部屋へと戻っていく。デイヴもそこに続こうとする、が…
「マジで足引っ張るんじゃねえぞ、おっさん」
デイヴは聞こえない振りをして、自らの部屋へと戻って行った。
シヴォーフが言うと、全員各々の部屋へと戻っていく。デイヴもそこに続こうとする、が…
「マジで足引っ張るんじゃねえぞ、おっさん」
デイヴは聞こえない振りをして、自らの部屋へと戻って行った。
その頃、フィリア・シュードはモニターを凝視していた。ちょうど先ほど、ミランダ・ウォンがそうしていたように。
「どうしたのだ、シュード君」
「スメッグヘッド教授」
フィリアに話しかけた男、アルフ・スメッグヘッド教授。知る人ぞ知る、火星材料工学の権威だ。
「いえ……地層の調査を行っていたところ、この先約1キロ程の地下に、熱源を……」
「何?そんなことが…コロニーの連中が…?いやしかし…」
「迅速に、かつ慎重に調査に向かうべきでしょう」
「…確かにな。これがコロニー側の仕業でないとしたら、みすみす見逃すわけにはいかん」
困惑のフィリアをよそに、アルフ教授はニヤつきながら、MS隊へ発進要請を出した。
「どうしたのだ、シュード君」
「スメッグヘッド教授」
フィリアに話しかけた男、アルフ・スメッグヘッド教授。知る人ぞ知る、火星材料工学の権威だ。
「いえ……地層の調査を行っていたところ、この先約1キロ程の地下に、熱源を……」
「何?そんなことが…コロニーの連中が…?いやしかし…」
「迅速に、かつ慎重に調査に向かうべきでしょう」
「…確かにな。これがコロニー側の仕業でないとしたら、みすみす見逃すわけにはいかん」
困惑のフィリアをよそに、アルフ教授はニヤつきながら、MS隊へ発進要請を出した。
「ったく。土いじりの次は宝探しか」
「ぼやかないでよ。でも、真実なら人類始まって以来の大発見だわ」
コックピットには、ヴァイスと共に、クランも搭乗していた。
牽引しているコンテナには、機材とギデオン達が乗っている。
「火星人かよ。発見したらエヴィデンスゼロワンとでも名付けるか?」
「もう……。貴方はいつもそうやって物事を茶化す。だから彼女が出来てもすぐに別れるのよ」
「……チッ」
また、あからさまに機嫌が悪くなった。 そんなヴァイスに、困って溜息をつく。
クランは子供が好きだったが、子供のような性格のヴァイスは苦手である。 決して嫌いではないが、会話が続かない。
ヴァイスは友好的ではないが、自分から話しかけてくることもある。 だから嫌われていないと、そう信じてはいるのだが。
『トロニクス君、一旦停止してくれ』
沈黙を、ギデオンの声が救ってくれた。 グワライダーがある地点で停止する。
「私は降りて様子を見てくるわ」
「…………」
返事は、なかった。 仕方がないと、返事を待たずに、クランはコックピットを降りた。
「どうです?」
「地下30メートル程ですね。やはり何があります」
「そうか。…………MWでは埒があかないな。爆薬を使おう」
ギデオンの決断に、クランは驚いた。
「わ、私は反対です! まだテラ・フォーミングが終わった直後の不安定な状態なんですよ!?」
「だが、この地下建造物をそのままにしておくこともできないだろう」
「地殻を刺激したらどうするんです!? それに、今回の調査内容からは逸脱しています!!」
必死になって止めようとするクラン。
しかし、ギデオンは首を縦に振ろうとはしない。
「ぼやかないでよ。でも、真実なら人類始まって以来の大発見だわ」
コックピットには、ヴァイスと共に、クランも搭乗していた。
牽引しているコンテナには、機材とギデオン達が乗っている。
「火星人かよ。発見したらエヴィデンスゼロワンとでも名付けるか?」
「もう……。貴方はいつもそうやって物事を茶化す。だから彼女が出来てもすぐに別れるのよ」
「……チッ」
また、あからさまに機嫌が悪くなった。 そんなヴァイスに、困って溜息をつく。
クランは子供が好きだったが、子供のような性格のヴァイスは苦手である。 決して嫌いではないが、会話が続かない。
ヴァイスは友好的ではないが、自分から話しかけてくることもある。 だから嫌われていないと、そう信じてはいるのだが。
『トロニクス君、一旦停止してくれ』
沈黙を、ギデオンの声が救ってくれた。 グワライダーがある地点で停止する。
「私は降りて様子を見てくるわ」
「…………」
返事は、なかった。 仕方がないと、返事を待たずに、クランはコックピットを降りた。
「どうです?」
「地下30メートル程ですね。やはり何があります」
「そうか。…………MWでは埒があかないな。爆薬を使おう」
ギデオンの決断に、クランは驚いた。
「わ、私は反対です! まだテラ・フォーミングが終わった直後の不安定な状態なんですよ!?」
「だが、この地下建造物をそのままにしておくこともできないだろう」
「地殻を刺激したらどうするんです!? それに、今回の調査内容からは逸脱しています!!」
必死になって止めようとするクラン。
しかし、ギデオンは首を縦に振ろうとはしない。
「君とは初めての仕事だったな。副隊長を務めた回数は?」
突き刺すようなギデオンの視線が、クランを襲う。
あれだけ騒いでいたクランが、凍ったように動かなくなった。
「………………これが、就任初の任務です」
「そうか。私は16回隊長職を務めたことがある」
自信と誇り…悔しいが、クランは勝てる気がしなかった。
「あのL4第8コロニーテロ崩壊事件の時も、コロニー内の調査にあたった」
「経験の差、と。そう仰りたいのでしょうか」
これ以上反論すれば、自分が惨めになるだけだった。
クランはギデオンの返答を聞かず、一歩二歩と、俯いたまま退いていく。
そんなクランを横目に、ギデオンは無線をオンにする。
「トロニクス君、爆薬を使用する。君はそのまま待機していてくれたまえ」
『了解ッス』
無線を切ると、ギデオンはコンテナに向かう。
気まずい空気の中、クランを一瞬見てミランダがギデオンを追った。
クランは拳を握る。 その拳はふるふると小さく震えていた。
「クランさん……」
「ごめんね。モモちゃん。私、まだまだね」
顔を上げるクランだが、その顔はどこか暗い。
「爆薬の使用を反対したのは、私的なことなのよ」
「え?」
「私ね。数年前、地球で家族と暮らしていた頃に、家族を失ってるの」
左腕を押さえながら、寂しそうにクランが言う。
「建物が崩れてね。……妹の15歳の誕生日だった」
モモは、かける言葉を見つからず、ただクランの顔を見ていることしかできなかった。
クランは泣いていなかったが、じんわりと瞳が滲んでいることがわかった。
クランの過去など余所に、爆薬の設置は刻々と進んでいく。
そして……
「皆、離れろ。耳を塞げ!」
ギデオンが注意を促す。
次の瞬間、爆破のスイッチが押された。
突き刺すようなギデオンの視線が、クランを襲う。
あれだけ騒いでいたクランが、凍ったように動かなくなった。
「………………これが、就任初の任務です」
「そうか。私は16回隊長職を務めたことがある」
自信と誇り…悔しいが、クランは勝てる気がしなかった。
「あのL4第8コロニーテロ崩壊事件の時も、コロニー内の調査にあたった」
「経験の差、と。そう仰りたいのでしょうか」
これ以上反論すれば、自分が惨めになるだけだった。
クランはギデオンの返答を聞かず、一歩二歩と、俯いたまま退いていく。
そんなクランを横目に、ギデオンは無線をオンにする。
「トロニクス君、爆薬を使用する。君はそのまま待機していてくれたまえ」
『了解ッス』
無線を切ると、ギデオンはコンテナに向かう。
気まずい空気の中、クランを一瞬見てミランダがギデオンを追った。
クランは拳を握る。 その拳はふるふると小さく震えていた。
「クランさん……」
「ごめんね。モモちゃん。私、まだまだね」
顔を上げるクランだが、その顔はどこか暗い。
「爆薬の使用を反対したのは、私的なことなのよ」
「え?」
「私ね。数年前、地球で家族と暮らしていた頃に、家族を失ってるの」
左腕を押さえながら、寂しそうにクランが言う。
「建物が崩れてね。……妹の15歳の誕生日だった」
モモは、かける言葉を見つからず、ただクランの顔を見ていることしかできなかった。
クランは泣いていなかったが、じんわりと瞳が滲んでいることがわかった。
クランの過去など余所に、爆薬の設置は刻々と進んでいく。
そして……
「皆、離れろ。耳を塞げ!」
ギデオンが注意を促す。
次の瞬間、爆破のスイッチが押された。
「ったく、緊急出撃かよ…」
地球連邦最新鋭モビルスーツ、「ムウシコス」に搭乗したディックがぼやく。
その後ろには、そう新しくもない、並みのパイロットが搭乗する機体、「グワッシュ」に乗ったデイヴとゲイリー。
「おい、何とか言ったらどうだよ、この落ちこぼれ」
先ほどのブリーフィングの後、デイヴの個人データを閲覧したディックが言う。
「そうですね大変ですね」
感情が籠っていない返答をするデイヴ。
「こ、ここです。到着しましたよ」
微妙な雰囲気を取り払ったのは、ゲイリーだった。
「ン…?爆発…?コロニー側の人間か!?クソッ!行くぞ、落ちこぼれ!」
加速し、クラン達のいる場所へと向かうディック。
…と、そこに…
ビュン!一閃のビームライフルが飛んでくる。
「!!!」
間一髪でそれを避けるディック。
地球連邦最新鋭モビルスーツ、「ムウシコス」に搭乗したディックがぼやく。
その後ろには、そう新しくもない、並みのパイロットが搭乗する機体、「グワッシュ」に乗ったデイヴとゲイリー。
「おい、何とか言ったらどうだよ、この落ちこぼれ」
先ほどのブリーフィングの後、デイヴの個人データを閲覧したディックが言う。
「そうですね大変ですね」
感情が籠っていない返答をするデイヴ。
「こ、ここです。到着しましたよ」
微妙な雰囲気を取り払ったのは、ゲイリーだった。
「ン…?爆発…?コロニー側の人間か!?クソッ!行くぞ、落ちこぼれ!」
加速し、クラン達のいる場所へと向かうディック。
…と、そこに…
ビュン!一閃のビームライフルが飛んでくる。
「!!!」
間一髪でそれを避けるディック。
「ヒャハハハハハ! こりゃあ爽快だぜェ!」
正体不明機。その1機を駆るパイロットが、意気高らかに声を上げる。
かつての火星の地のような深紅の、まるで薔薇のような色彩の機体。
MAS-06ローズ。火星コロニー群の独立を訴える者達によって結成された火星コロニー義勇軍の機動兵器。
「なんなんだ、ありゃ…!」
疑問を抱くデイヴだったが、すぐにその疑問を頭から取り払い、目の前のMSへと向かって行った。
正体不明機。その1機を駆るパイロットが、意気高らかに声を上げる。
かつての火星の地のような深紅の、まるで薔薇のような色彩の機体。
MAS-06ローズ。火星コロニー群の独立を訴える者達によって結成された火星コロニー義勇軍の機動兵器。
「なんなんだ、ありゃ…!」
疑問を抱くデイヴだったが、すぐにその疑問を頭から取り払い、目の前のMSへと向かって行った。
時を同じくして、陽光率いる独立派の軍勢が地球連邦に対して、宣戦布告の狼煙を上げていたのだった。
地球全域に映し出される画面演説…
「我々、火星コロニー群独立運動団体は今この時をもって、地球連邦に対し独立を宣言する!」
手にした日本刀の鞘を抜き、刀身を掲げる。
「ダイモスよりもたらされた技術が、我々を勝利へ導くのだ!!」
刀を高く突き上げる陽光。
戸惑う地球圏の人々…
地球全域に映し出される画面演説…
「我々、火星コロニー群独立運動団体は今この時をもって、地球連邦に対し独立を宣言する!」
手にした日本刀の鞘を抜き、刀身を掲げる。
「ダイモスよりもたらされた技術が、我々を勝利へ導くのだ!!」
刀を高く突き上げる陽光。
戸惑う地球圏の人々…
爆破された眼下には、人工物だと一目でわかる外壁が姿を見せている。
爆発は、その外壁の一部にまで到達しており、内部への進入が可能となっていた。
そうなれば、ギデオンはこのまま内部の探索まで行うだろう。 制止は無理だと、クランは諦めていた。
しかし、ただで諦めるつもりは、彼女にはなかった。
「隊長、建造物の中を調査するというのでしたら、私一人でいかせてください」
「なんだと?」
「この件は、今回の調査任務の対象外と考えます。隊長である貴方が、任務外のことを?」
考えを曲げるつもりはない真直ぐすぎる視線。
そして、クランの意見も、間違いではなく正しいのである。
「隊長、計器の扱いに長けているミランダさん、技師であるヴァイス、医療担当のモモちゃん」
「君が行くのが、妥当というのか」
「各々の役割を適切に分担した結果です」
興味がないと言えば嘘になる。
だが、便宜上任務の一部としなければ、職務放棄に変わりないのだ。
「わかった。許可しよう。私より、細身の君の方が活動範囲は広そうだ」
頑なだった者同士、どちらが折れなければ決着はつかない。 建造物を発見した際のいざこざが、教訓として刻まれていた。
決着がついたその時を見計らったのか、クランの前にロープが投げられる。
投げたのは、開いたコックピットから顔を出したヴァイスであった。
「やるんならさっさとやれ。俺はそろそろ昼飯が食いたい」
「了解」
ヴァイスのぶっきらぼうだが、優しさを含んだ言い方に、クランは笑った。
ロープを装着すると、足場を確認しながら、徐々に下へ降りていく。
ヴァイス、モモ、ミランダ、そしてギデオンが、クランを見守る。
ロープを軽く引き、張りを保ちながら、クランは一歩一歩確実に、外壁に空いた穴へと急ぐ。
爆発は、その外壁の一部にまで到達しており、内部への進入が可能となっていた。
そうなれば、ギデオンはこのまま内部の探索まで行うだろう。 制止は無理だと、クランは諦めていた。
しかし、ただで諦めるつもりは、彼女にはなかった。
「隊長、建造物の中を調査するというのでしたら、私一人でいかせてください」
「なんだと?」
「この件は、今回の調査任務の対象外と考えます。隊長である貴方が、任務外のことを?」
考えを曲げるつもりはない真直ぐすぎる視線。
そして、クランの意見も、間違いではなく正しいのである。
「隊長、計器の扱いに長けているミランダさん、技師であるヴァイス、医療担当のモモちゃん」
「君が行くのが、妥当というのか」
「各々の役割を適切に分担した結果です」
興味がないと言えば嘘になる。
だが、便宜上任務の一部としなければ、職務放棄に変わりないのだ。
「わかった。許可しよう。私より、細身の君の方が活動範囲は広そうだ」
頑なだった者同士、どちらが折れなければ決着はつかない。 建造物を発見した際のいざこざが、教訓として刻まれていた。
決着がついたその時を見計らったのか、クランの前にロープが投げられる。
投げたのは、開いたコックピットから顔を出したヴァイスであった。
「やるんならさっさとやれ。俺はそろそろ昼飯が食いたい」
「了解」
ヴァイスのぶっきらぼうだが、優しさを含んだ言い方に、クランは笑った。
ロープを装着すると、足場を確認しながら、徐々に下へ降りていく。
ヴァイス、モモ、ミランダ、そしてギデオンが、クランを見守る。
ロープを軽く引き、張りを保ちながら、クランは一歩一歩確実に、外壁に空いた穴へと急ぐ。
(やはりこれは、人が作ったもの……)
間近で見る外壁は、自分達が普段目にする建物の素材と、何ら変わらないように思える。
クランは上にいるグワライダーを見た。
グワライダーから伸びるロープは、まだ余裕がある。
グワライダーから自分を見ているであろうヴァイスに合図を送り、クランは穴の中へ降りた。
「ロープを。ゆっくりと降ろしてください」
無線を使って、ヴァイスに指示を送る。
返事はなかったが、ロープに繋がった自分が静かに下に向かうので、安心する。
建造物の中は、空いた穴から入る光だけしかなく、内部がどれ程の広さなのかも把握できない。
クランは落ちた瓦礫の上に着地する。
瓦礫の下の床は頑丈なのか、落ちてきた瓦礫でも大した損傷はない。
クランは空いた穴を見る。
(天井だけが壊れた? 天井の壁は、床とは違う材質?)
老朽化して脆かった、というわけではないように感じる。
「扉……ハッチ」
想像でしかないが、どこかで確信している。
クランは、ライトを点けた。
目の前に飛び込む、情景。
「これは……!!」
片膝をつき、王の前で一礼をする騎士のように、巨大な人型の機械が、そこにいた。
ロープを外し、クランは恐る恐るそれに近付いていく。
「貴方は誰? 何処から来たの?」
幼い子供に問いかけるように、クランは呟いた。
そして、あるものを見付ける。
胸部らしき場所に、アルファベットの羅列。所々掠れており、全てを読み解くことはできない。
「これは、地球の、ものなの?」
本当に、月かどこかの国が、この建造物を造ったというのだろうか。
アルファベットを、目で追う。
「ドール、ディーエー……ドルダ?」
クランは、本能的に何か恐ろしいことが起きるかもしれない、と思った。
間近で見る外壁は、自分達が普段目にする建物の素材と、何ら変わらないように思える。
クランは上にいるグワライダーを見た。
グワライダーから伸びるロープは、まだ余裕がある。
グワライダーから自分を見ているであろうヴァイスに合図を送り、クランは穴の中へ降りた。
「ロープを。ゆっくりと降ろしてください」
無線を使って、ヴァイスに指示を送る。
返事はなかったが、ロープに繋がった自分が静かに下に向かうので、安心する。
建造物の中は、空いた穴から入る光だけしかなく、内部がどれ程の広さなのかも把握できない。
クランは落ちた瓦礫の上に着地する。
瓦礫の下の床は頑丈なのか、落ちてきた瓦礫でも大した損傷はない。
クランは空いた穴を見る。
(天井だけが壊れた? 天井の壁は、床とは違う材質?)
老朽化して脆かった、というわけではないように感じる。
「扉……ハッチ」
想像でしかないが、どこかで確信している。
クランは、ライトを点けた。
目の前に飛び込む、情景。
「これは……!!」
片膝をつき、王の前で一礼をする騎士のように、巨大な人型の機械が、そこにいた。
ロープを外し、クランは恐る恐るそれに近付いていく。
「貴方は誰? 何処から来たの?」
幼い子供に問いかけるように、クランは呟いた。
そして、あるものを見付ける。
胸部らしき場所に、アルファベットの羅列。所々掠れており、全てを読み解くことはできない。
「これは、地球の、ものなの?」
本当に、月かどこかの国が、この建造物を造ったというのだろうか。
アルファベットを、目で追う。
「ドール、ディーエー……ドルダ?」
クランは、本能的に何か恐ろしいことが起きるかもしれない、と思った。
その頃、少年アレスも行動を開始する。
「ガンダムマルス…アレス・ルナーク、出る!」
クラン、デイヴ、アレス…三人の人間を中心に、刻は動き出す…
「ガンダムマルス…アレス・ルナーク、出る!」
クラン、デイヴ、アレス…三人の人間を中心に、刻は動き出す…
二話 終