249 名前:カテキョ! -長い夜編 1/3- :2008/09/03(水) 08:38:13 ID:???
ザアアアアア
つけっ放しのテレビからは台風情報が流れてくる。
かなり勢力の強い台風が急激な勢いでこちらに向かっているようだった。
マリナ「雨が酷くなって来てる…シーリン大丈夫かしら」
マリナはボロアパートの窓から心配そうに外を眺める。
シーリンは所用で出かけていて部屋にはマリナ一人きりだった。
ドザザーー
雨はますます酷くなっており強風も吹き始めたようだ
ビュウーー! ガタガタ ガタガタ
一人でTVを見ているマリナはなんだかソワソワして落ち着かない様子だ。
マリナ「こんなに雨と風が一度に吹くなんて…アザディスタンでは考えられない光景だわ…」
時刻は既に夕方の6時を過ぎ、外は真っ暗になっていた。
雨と風は弱まるどころかますます荒れ狂っている。
マリナ「お腹すいたなぁ…今日の夕食当番はシーリンの番なのにまだ帰ってこないし」
ジリリーン ジリリーン
その時古風な黒電話のベルが鳴り響き、マリナ慌てて受話器を手に取る。
シーリン「もしもし、マリナ?」
マリナ「シーリン!どうしたの?どこにいるの?」
シーリン「御免、今駅のホームなんだけど電車が台風で止まっちゃって今日はそっちに帰れそうも無いのよ」
マリナ「えー!?じゃあ今日の晩御飯はどうするのよ?」
シーリン「悪いけど自分で何とかして頂戴。じゃ後ろつかえてるんでこれで切るわよ」
マリナ「ちょっ…シーリン」
ガチャ…ツーツーツー
一方的に切れてしまった受話器を握り締めしばらくがっくりと肩を落とすマリナ。
マリナ「しょうがないわ。シーリンは帰ってこられないんだから自分でやらないと…」
そういいながら立ち上がったマリナの頭に何か冷たいものが当たる。
マリナ「?」
不審に思いながら天井を見上げると…
ピチョン
マリナ「あ、雨漏り…?」
あれよあれよというウチに天井のあちらこちらからピチョンピチョンと雨粒が滴ってき始める。
慌てて鍋やら茶碗やらを総動員してなんとか雨漏りの受け皿にするマリナ。
マリナ「あぁ…これじゃあお湯も沸かせないわ…」
水をためられるものを総動員させてしまい、きゅるるると鳴るお腹を押さえて恨めしそうに雨粒の滴る天井を見上げるマリナ。
バチン!
マリナ「きゃあ?!」
マリナの部屋は一瞬にして真っ暗闇に包まれてしまう。
マリナ「な…何?今月は電気料金ちゃんと払ってたはずだけど…」
窓の外をのぞいてみると先ほどまであちこちの家の窓に灯っていた明かりがまったく見えなくなっており何時もは賑やかな街が完全に暗闇の中に沈みこんでいた。
どうやらこの辺一帯全て停電してしまっているらしい。
マリナ「はぁ…踏んだりけったりな夜になりそうだわ…」
床のあちこちにおいてある雨漏り受けの茶碗や鍋を引っ繰り返さないように四つんばいのまま手探りでレンジまで辿り着いたマリナはコンロのスイッチをひねる。
ボッ!
青白いガスの炎の灯りを頼りに戸棚の中から災害用のローソクを取り出すと火を移しコンロを止める。
マリナ「…はぁ、電気を止められた時のための非常用ロウソクが役に立つなんて…判らないものね」
ビュゥウウウ ザザザッザザッ ガタガタガタ! ガタガタガタ!
TVも止まり外の激しい風雨の音がやけにはっきりと聞こえてくる。
ミシ…ミシミシミシ…
250 名前:カテキョ! -長い夜編 2/3- :2008/09/03(水) 08:39:52 ID:???
よく耳を澄ますとかすかにだが家が軋むような音も聞こえてくる…
マリナ「……だ、大丈夫かしら、このアパート…」
流石のマリナもだんだん心細くなってきてしまう。
心配すること以外何も出来無いマリナは
押入れから毛布を引っ張り出すと部屋の隅で毛布に包まると座り込んで膝を抱え込む。
マリナ「まるで世界中で私以外誰もいなくなったみたい……シーリン……刹那…」
漠然とした得体の知れない不安感に苛まれながら浅い眠りへと落ちていくマリナ。
しばらくしてふと目を覚ましたマリナは部屋の中の雨漏りが納まっていることに気が付く。
マリナ「風の音はまだしてるけど雨は止んできたのかしら?それに外も明るくなってきてるし…」
寝起きのはっきりしない頭で時計を見るマリナ。
だが時計はまだ夜中の三時前を指し示していた。
マリナ「?…じゃあこの光は…?」
そこでマリナはようやっと窓から入ってくる光が太陽のものとは違う柔らかな緑色であることに気が付いた。
見覚えのあるその光に誘われるように窓を小さく開けたマリナは、すぐ外に闇の中に浮かび上がる青と白の壁があることを知る。
マリナ「…まさか!」
窓を大きく開けたマリナが見たものは刹那・F・セイエイの愛機ガンダムエクシアの姿であった。
エクシアはシールドを巧みに屋根代わりにする格好でマリナの住むアパートに覆いかぶさるように止まっており、
その胸部にあるGNドライヴの駆動光が太陽の光のように降り注いでいたのだった。
マリナ「…刹那……刹那!!」
風に負けぬように思わず大声で叫んでしまったマリナに呼応するようにコックピットハッチが開くと中から青いパイロットスーツの刹那が出てくる。
刹那は器用にハッチを伝い窓からマリナの部屋へと入る。
マリナ「刹那…どうして…?」
マリナは窓を閉めながら刹那に尋ねる
刹那「マリナが酷い台風で困ってないかと思って必要そうなものを持ってきた」
刹那はそういいながら手に持っていたバックパックから色々なものを取り出す。
ランタンに携帯コンロ、食料、水などサバイバルグッズ一式だった。
マリナ「刹那、もしかして今までずっと外で風雨避けになってくれてたの?」
刹那は小さく頷く。
刹那「サーモセンサーで調べたらマリナは睡眠状態にはいってたようだからな」
マリナ「そうだったの…刹那。ありが…」
グキュルルルル
マリナがお礼の言葉を言おうとした瞬間、間の悪いことに彼女のお腹が盛大な音で鳴ってしまう。
顔を耳まで真っ赤にして俯くマリナ。
マリナ「ち、違うのよ刹那。これは…」
刹那「単なる生理現象だ。恥ずかしがることは無い」
刹那はそういいながら手際よく携帯コンロにガスボンベをセットすると水を入れたヤカンを載せ火をつける。
マリナ「手際いいのね、刹那」
マリナはまだ顔を赤らめながらも刹那の隣に座る。
刹那「これくらいはガンダムマイスターとして当然だ。マリナ、コンバットレーションとカップ麺どっちがいい?」
マリナ「じゃあ…カップ麺で」
刹那「了解した」
マリナ「雨…中々止まないわね」
刹那「予報では明け方までこのままの状態らしい」
マリナ「そう…」
シュンシュンシュン
沸騰したお湯をカップ麺に入れ蓋をする刹那。
刹那「そういえばシーリンは?」
マリナ「電車が止まったから帰ってこられないって」
刹那「そうか…」
251 名前:カテキョ! -長い夜編 3/3- :2008/09/03(水) 08:41:28 ID:???
やがてマリナが食事を終えたのを確認した刹那は腰まで脱いでいたパイロットスーツを着込み始める。
マリナ「刹那?」
刹那「エクシアに戻って台風が収まるまで監視行動を続行する。マリナは何も心配せず休めばいい」
そういいながら立ち上がろうとする刹那の腕をマリナは思わず掴んでしまう。
マリナ「まっ!……待って、刹那。もうしばらく…一緒に…」
刹那はちょっと焦った様に頭を振る。
刹那「ダメだ…夜中に女性と二人きりというわけには」
刹那はそういいながらも家を出る前にアムロに言われたことを思い出していた。
アムロ「刹那、お前をマリナさんの所にやるのは差し入れや雨風を防がせるためだけじゃない。彼女の不安を取り除くために行かせるんだ
…そのことを忘れるなよ」
マリナは普段は見せないような不安げな表情で刹那を見上げており、掴んだ腕を放そうとしない。
刹那は観念したように再び腰を下ろす。
マリナ「ごめんなさい…子供みたいなことを言って」
マリナは申し訳なさそうに、だがほっとした様子で刹那の隣に座りなおす。
刹那「いや…いい。エクシアはオートでも大丈夫だ」
マリナ「正直言うとね…シーリンもいないし、電気も止まっちゃうし、心細くてしょうがなかったのよ」
刹那「そうか」
マリナ「なんだか世界の中で自分一人だけ取り残されたような気分になってしまって…おかしいでしょ?私もう大人なのに、ね」
刹那「いや、人は本能的に闇を恐れる動物だ。恥じることは無い」
マリナ「ふふ…刹那ってば今日は妙に優しいのね」
刹那「そんなことは無い。俺は何時と変わりはしない」
マリナ「…そうね。刹那は何時も…優しい…」
コツンと刹那の肩に頭を持たれかけさせるマリナ。
刹那「どうした…マリナ?」
マリナ「………くー…くー…」
どうやらマリナは刹那が来てくれたという安堵感とお腹がふくれた満足感で急激に睡魔に襲われてしまったようだ。
幸せそうな顔で小さな寝息を立てているマリナを見て、刹那はマリナの形の良い鼻を軽く摘む。
マリナ「ふきゅ……むぎゅ…」
マリナはちょっと眉根を寄せてもぞもぞしただけで全く起きる気配は無い。
刹那「マリナ…安心しすぎだぞ」
刹那は軽く微笑むとそのまま動かないように前を向く。
鼻腔をくすぐるマリナ髪の香りを感じながら、刹那は心の奥底から湧き上がってくる得体の知れな甘い衝動を押さえ込むように自分に向かって宣言する。
刹那「任務開始。
マリナ・イスマイールが目覚めるまでこの場から指一本動かさない。そして…彼女の安眠を妨げるものを全て駆逐する!」
刹那にとって忘れられない長い夜になりそうだ。
アムロ「刹那帰ってこないな…どうやらあっちでうまくやってるようだ」
ロラン「またこんな手の込んだ事仕組んで…マリナさんをウチに連れてくれば済む話でしょうに」
アムロ「それじゃあ意味が無い。外界から擬似隔絶された状況に二人っきりで置くことに意味があるんだからな」
ロラン「そんなもんですかねぇ」
アムロ「シローとアイナさんだって雪山で二人っきりで過ごしたからこそ今のような良好な関係になれたんだぞ?」
ロラン「はぁ、まぁ…でも刹那は未成年だし、マリナさんは一国の皇女だしホントに何かあったらどうするんですか?」
アムロ「刹那に関してはもう経験しておいてもいい年頃だから問題は無い。マリナさんに関してはちゃんとシーリンさんに許可を取ってるから問題ないのさ」
ロラン「シーリンさんも共犯者ですか…w;」
アムロ「まぁ、そうは言ってもあの二人がいきなり最後の一線を越すことはちょっと考えられないが。
ともかくこの作戦の真の目的はお互いがお互いを異性として認識させる事にある」
ロラン「なるほど…まずそこからですか」
アムロ「何時までも姉弟とか親子っぽい関係で満足してては前に進めないし、たまにはこうして背中を押してやらないとな」
ロラン「押すってよりは足を引っ掛けて崖から突き落とすって感じですけどね」
アムロ「ええい、うるさい!いいから赤飯を炊いてくれ。今日はお祝いだぞ!!」
END
最終更新:2013年09月20日 21:40