ロランの友人
キース・レジェはパン職人である。
中学卒業後、大手ベーカリー「ドンキー」に就職、彼は不断の努力により培ったパン作りの技術、
そして実直な性格と人望を以って若干17歳にして支店を構えるほどとなった。
現在、社長令嬢であるベルレーヌと交際中、今後が期待される有望株でもある。
順風満帆な彼の人生、しかしその胸中はどこか焦燥に駆られていた・・・
店の工房にて・・・
キース「・・・やはり何か足りない・・・」
ベルレーヌ「ねぇ、キース、最近張り詰め過ぎよ。たまには気分転換に映画でも」
キース「・・・それどころじゃないんだ!ほっといてくれ!!」
思わずキースが手を払う動作はベルレーヌの頬にぴしゃりと捉え、その感触にはっと我に返ったキースは
ベルレーヌの顔を見上げるが、遅かった。頬を赤く腫らした彼女は涙ぐんでいた・・・
次の瞬間、泣きながら彼女はパン工房のドアをバダンとけたたましく閉めた。
呆然と彼女を見送ったキースは、そのまま苛立ちと悔恨で顔をくしゃくしゃにして調理台に顔を突っ伏せた・・・
キース「と、まぁこんな感じでもう三日も口聞いてないよ」
ロラン「キースが悪いんだから素直に謝ればいいじゃない」
キース「そういう問題じゃないんだよ」
ロラン達は買い物がてらキースの店に立ち寄り、キースより先の件を聞かされていた。
その話の間、ロランにはキースの顔に時折見せる深い眉間のしわが妙に気になっていた・・・。
2
ロラン「それにしても・・・なんだか最近険しくなったね、キースの顔」
キース「お前みたいに毎日のほほんと家で過ごしているわけじゃないからね」
ロラン「・・・そういう言い方、あまりよくないよ。ベルレーヌさんもそういうキースの事・・・」
キース「お節介かよ、じゃあ、どう答えればいいんだ?教えてくれよロラン!」
ロラン「キース!」
ジュドー「ほいほい、喧嘩なら店の外でやってね♪ロラン兄ちゃん」
ロラン「あ、ごめん。つい・・・」
ガロード「へへ、いつもとは逆だな(藁」
ヒイロ「目標、一般客。菓子パンを三点購入・・・会計440円だ」
ロラン「ヒイロ、勝手に人の店のレジに立たないで」
ヒイロ「たまにはこういうのも悪くない」
一触即発、ロランは救われた気がした。今日の買い物はガロード・ヒイロ・ジュドーがロランに同伴していた。
キース「で、どうだ俺のパンの味は?正直に言ってくれ」
ジュドー「正直も何もおいしいじゃない?」
ガロード「そうそう、オネーさん方にウケるのもわかるよね」
ヒイロ「こいつらは何食べても一緒だから参考にはならないぞ」
ジュドー「じゃ、ヒイロには違いが分かるのかよ!?」
ヒイロ「主成分 小麦粉 塩 酵母 砂糖 、焼成時間約0.5時間・・・
空気含有率平均81%、口に含んだ際の触感にストレスなし。まずまず、だ」
ガロード「素直に美味い、って言えよ」
ロラン「やっぱりあてにならないか」
キース「・・・はぁ、俺のパンに何かが足らないのはわかっているんだが・・・わからないんだよ・・・」
ロラン(こんなに思い詰めて・・・何か手助けにならないものか・・)
3
ガラッ
鉄仮面「ふははははは!青春と悩みは友達。だが少年、悩み過ぎはよくないな」
キース「うわぁぁぁ!!!」ロラン「なっ!?どこから入って?」
ガラッ シーブック「カロッゾさん!配達中に人の店に忍び込むのやめてください!」
ロラン「シーブック!?なんで天井裏から??」
鉄仮面「ふははははは。ご近所に『ドンキー』の支店ができたとなれば、こうもなろう」
ジュドー「要は敵情視察っすか」ガロード「やってることは立派な犯罪だな」ヒイロ「気配はなかった・・・やるな」
キース「・・・ご近所の店長さんが何のご用ですか?」
鉄仮面「ふぅむ」
鉄仮面はキースの顔をチラリと見て、次に商品のパンが並ぶ棚へつかつかと歩き、
棚のパンの一個をパクリと一呑みにした。
ジュドー「・・・今の見えたか?」
ヒイロ「目視不可」
ガロード「すげぇ、あの仮面でどうやって・・・」
シーブック「あ、すみません、御代はちゃんと払いますから・・・ってカロッゾさん一体何でこんなこ」
鉄仮面「ふはははははは、その年でこれほどの技術、すばらしいではないか!
だが少年、今の君のパンには心が感じられない」
キース「!? 唐突になんだ、あんたに何がわかるってんだよ!!」
鉄仮面「ふははははは。まずは論より証拠。明日私の店に来るがいい、ふはははははは!!」シシュパッ
シーブック「そ、それじゃ失礼します。ロラン、後よろしくな」ガラッ、コトン。
ガロード「帰る時ぐらい入り口から出ろよ」
ジュドー「そういやいつのまにか他の客いなくなってるな」
ヒイロ「不審者が現れれば己の身を守るのも当然の行為だ」
キース「・・・はぁ。今日はもう閉めるか」
ロラン(パンか・・・そう言えば・・・)
次の日、キースは渋々ロランに連れられて鉄仮面の店へと向かう事となった。
キースはアルの焼いたパンを手に取った。素人目から見ても良い出来ではない。
しかし、パンをちぎり、口の中へと入れた瞬間、キースは驚きの表情を見せた。
キース「形もメチャクシャだし、表面が所々焦げてる・・・。でも中は柔らかくてしっとり、口どけ感がいい・・・」
鉄仮面「わかるだろう、気持ちが出ているのだよ」
キース「・・・そうか。味が足らなかったんじゃなかったんだ、・・・俺が足りなかったんだ。
店を任されて、肩に力が入りすぎたのか・・」
粉まみれになって楽しそうにパン生地をこねるアルを見つめて、キースはまだドンキーに入りたてだった頃を思い出した。
修行は大変ではあったけど自分の作ったものが初めて店に出された時の嬉しさ、
自分のパンを楽しそうに家族で食卓の上に囲む姿を思い、はべらせた時の事・・・
それに比べて今の自分は変に窮屈に思えてきた。そんな中焦っていた自分をベルレーヌは・・・
ロラン「ベルレーヌさん、キースの事とても心配していると思うよ。だから・・・」
ロランが言い終わる前にキースは店を出ていた。窓の外のキースの顔にどこか活気が戻っていたように見えた。
もう大丈夫だろう、とロランは思った。
「アル、僕も手伝うよ」
後日、ロラン達の元に
お土産に、と温泉饅頭を持ってキースとベルレーヌがやってきた。
仲直りの旅行に温泉に行って来た帰りらしい。
饅頭はすぐさま兄弟達の胃に収まったが、何故かコウだけは口にする事はなく、ただ恨めしそうに
見てる方が恥ずかしいくらいのアツアツっぷりを振りまくキース達を見つめていた
アムロ「そういえば」
シロー「コウも温泉に行ったんだよな」
ガロード・ジュドー「ペアでさ(・∀・)ニヤニヤ」
ウッソ「そう言えばコウ兄さんの彼女、まだ見たことないですね」
カミーユ(そっとしておいてあげろよ、みんな)
コウ「・・・(-_-)」 …ダダッ
キラ「あっ、コウ兄さんどこへ!?」
次の日の朝、コウが路地裏で一升瓶抱いて眠っていたのをヒイロの友人は目撃した。
その姿は泣き疲れて眠っていたようにも見えたと言う・・・
トロワ「ん?なんだ・・・俺の、涙か・・・」
おわり
最終更新:2017年05月28日 21:36