833 名前:クリスマス前の
とある日常 1/5 :2008/11/19(水) 16:38:24 ID:???
クリス「あー、肩こったー」ポキペキ
歳末決算を前に仕事があわただしくなるのは
ラー・カイラム社とて例外ではない。
テスト・パイロットとは言え、クリスこと
クリスチーナ・マッケンジーも大量の
デスク・ワークから逃れることはできなかった。
アストナージ「わはははは、慣れない仕事は大変だったろう。 お疲れ!」
クリス「お疲れ様です! …ケーラさんはまだ頭から湯気出してましたよ?」ヒソヒソ
アストナージ「やれやれ、アイツは書類仕事を溜め込むからなぁ…
しょうがない、ちょっとは手伝ってやるか」
クリス「うふふ、それじゃがんばってくださいね。 お先に失礼しまーす♪」
MS実験場まで敷地内に併設してあるラー・カイラム社屋は、周囲に緑をふんだんに配置してある。
しかし芝生も色が褪せ、木々も多くは葉を落としてしまっていた。
小高い丘から吹き降ろす風も、そろそろ肌寒い。
正門を守るガーディアン・ジムに手を振り、乗り場に列を作っていたエレカに乗り込んだクリスは、
IDカードをスリットに差し込む。
自動エレカ「ご利用ありがとうございます。 行き先はご自宅でよろしいですか?」
クリス「ええ…いえ、南口商店街に変更」
自動エレカ「承知いたしました。 発進いたしますのでご注意下さい」
クリス「お願いね」
自動操縦で静かに走り出したエレカの中で車内灯を点けると、
クリスはバッグから手製のカバーをかけた本を取り出して開いた。
落ち着いたコート姿とあいまって、さしずめ文学少女といった風情だが、
カバーの中身は詩集などではなく、最新のMS操縦教本である辺りがタダモノではない。
陽も落ち、街頭ばかりが目立つ郊外の道を、エレカは走る。
834 名前:クリスマス前のとある日常 2/5 :2008/11/19(水) 16:39:30 ID:???
クリス「んー、やっぱりビールよりは日本酒、よねぇ…」
気の早いクリスマス・ソングを聞きながら、繁華街を颯爽と歩く姿は、
脳裏の肴に舌なめずりしているようにはとても見えない。
ナンパ男やキャッチの類を適当にあしらいつつ、「
青い巨星」へ向かう。
そうして、一軒の書店の前を通りがかったときのこと。
クリス「ん?」
思わず左手の軍用時計――育ちのよさそうな装いの中で思いっきり浮いている――
で時間を確認してしまうほど、夜の繁華街には珍しい後ろ姿を見つけて足を止める。
クリス「ティファちゃん?」
ティファ「えっ?」
カララン…
刹那「いらっしゃいま…せ…」
ティファ「………」
クリス「刹那? …あんた何を、って、一目瞭然か」
喫茶『M&S』、蝶ネクタイに黒チョッキ、黒のソムリエエプロンでトレイを持っていれば、
どこをどう取ってもウェイター以外には見えない。
刹那「こっ、これはっ!!」
クリス「ふむ、そーいう格好もけっこう似合うわねー。 店長さんのお手伝い?」
刹那「そ、そうだ。 この所CBの活動も縮小の一途だから…」
クリス「おまけにクリスマス前は、色々と物入りだもんねぇ」ニヤニヤ
刹那「う………」
クリス「ちょっと刹那! なに油売って…あれ?」
クリス「や!」シタッ!
クリス「クリス!? こんな時間に来るのは珍しいんじゃない?」
クリス「いやははは、ちょっと悩める少女を引っ掛けちゃって」
クリス「そっかそっか。
クリスにもティファちゃん連れて『青い巨星』へ入らないだけの分別はあったんだねぇ」
クリス「くっ… お見通しなのね…」
クリス「はっはっはっ、ノンベの考えることなんて、スメラギさんでヤになるくらい知ってるわよ。
テーブル席の方がいいかな?」
クリス「ん。 お願い」
クリス「は~い。 刹那、お客様お二人ご案内~~」
刹那「…了解だ」
刹那「ミルクティーと、ホットミルク…オーダーは以上で問題ないか?」
クリス「むむむむむむー。 そうね、今食べちゃうと、晩御飯が食べられなくなっちゃうわね」
メニューの軽食部分を睨んでいたクリスは、ため息と共にリストを閉じた。
刹那「了解した」
835 名前:クリスマス前のとある日常 3/5 :2008/11/19(水) 16:40:21 ID:???
クリス「編み物?」
ティファ「は…はい…」
紅茶の芳香と、ホットミルクに落とされたバニラの甘い香りに一息つき、
クリスはようやく本題にとりかかる。
クリス「やっぱり、ガロードに?」ニヤニヤ
ティファ (////)コクン
クリス「(やっべ、可愛い…)」
ティファ「それで、入門書みたいなものが無いかと思って、本屋さんに行ったんですけど…
なんだかいっぱいあって…」
クリス「(はっ! 気を確かに持て、私!)
そ、それで、ついあそこで途方にくれてしまった、と?」
ティファ「はい…(////)」
編み物といえばこの時期、少女たちの間で大流行するスキルの一つである。
それを当て込んだ書籍、雑誌の数も相当数に上る。
クリス「予備知識なしじゃ、確かに難しいわねぇ。
学校のお友達とか、えっと、ルチルさん、だっけ? から教わったりは出来ないの?」
ふるふると首を振るティファ。
ティファ「ルチルさんは、編み物が苦手だって…
学校の友達は、その、ガロードの事とかいっぱい聞いてくるし…
できれば、ガロードにはナイショにしておきたくて」
クリス「ふぅむ…」
シャギア「なるほど、編み物か…」
オルバ「おまけにガロードにナイショだよ、兄さん」
ティファ「!!」
クリス「げげっ!」
喫茶店のテーブル席を仕切る観葉植物から、フロスト兄弟が顔を覗かせている。
なまじ二人の顔立ちが整っているだけに、それはそれは異様な光景であった。
シャギア「ありえたかもしれないもう一つの君は、織物や編み物を得意としていた。
なかなかいい目の付け所だが…」
オルバ「だけど、それはイバラの道だよ、
ティファ・アディール」
クリス「ちょっと、それ、どう言うことよ!」
立ち上がったクリスはティファを引き寄せると、背中にかばう。
理由は不明だが、この兄弟はガロードとティファに対して異常な執着心を見せることがある。
836 名前:クリスマス前のとある日常 4/5 :2008/11/19(水) 16:41:16 ID:???
シャギア「まず第一に、ガロードの服装だ」
オルバ「普段の彼は真っ赤なジャンパーっていう、頭の中身を確かめたくなる格好だけど…」
お前たちが言うな。
その時、喫茶『M&S』にいた客と従業員、全員の心が一つに!
シャギア「だが、ガロードのセンスそのものは悪くない。 彼のあの姿には装飾以上の理由がある」
クリス「理由?」
オルバ「そう。 彼を彼たらしめている、大切な理由さ」
シャギア「時に。 建設機械や重機の類が、なぜ黄色やオレンジに塗られているか知っているかね?」
クリス「視認性を良くするためでしょう。 そうしないと現場で危ないから」
シャギア「即答とは恐れ入る。 そう、工事現場や、工場。
そういった場所で使用されている機械は大型故に非常に危険だ」
オルバ「同じ理由で、作業服を明るい、目立つ色にする現場も多い」
クリス「だからジャンク漁りで港や工場に出入りしているガロードは、派手な格好をしてるって言いたいの?」
シャギア「…噂に聞いていた通り、実に聡明な女性だね、クリスチーナ・マッケンジー」
クリス「んなっ!(//」
オルバ「さて。 編み物の入門編としてはマフラーが一般的だけど…」
ゆっくりと、二人の周りを歩き始めるフロスト兄弟。
シャギア「そんな危険なところに、ひらひらしたマフラーをして行くと、どうなるかな?」
クリス&ティファ「「!!」」
シャギア「その通り。 大型機械に巻き込まれて、とてもステキなことになるだろう」
両手で自分の首を掴むシャギア。
オルバ「もちろん、ガロードはそんな間抜けじゃないから、ことに臨む時は、
マフラーなんてはずして行くだろうね」
シャギア「ああ! なんという事だ! せっかくティファ・アディールが思いを込めて編んだマフラーを、
外して行かねばならないとは!」
オルバ「という訳で、マフラーは即刻、タンスの肥やし、だろうね」
シャギア「手袋も同様だ。 金属のカタマリを触るなら軍手は必須だ」
オルバ「丈夫で伸縮性に富み、何より引っ掛けて破れれば捨ててしまえるコストパフォーマンス!」
シャギア「ガロードが腰に付けているポーチに軍手が入れてあるのは知っているかね?」
クリス「…知ってるあんたたちの方がオカシイわよ」
シャギア「それは当然だろう」
オルバ「僕たちは、彼の宿命のライバルだからね」
くるりくるりとスピンしながらクリスたちの周りを歩くオルバ。
837 名前:クリスマス前のとある日常 5/5 :2008/11/19(水) 16:42:55 ID:???
シャギア「さて、以上の理由により、君に残された選択肢は、セーターしか残っていない」
オルバ「セーター!!」
シャギア「そう! 数ある編み物の中でも最も難易度の高いアイテム!」
オルバ「その名はセェェェタァアアアアア!!」
シャギア「クリスマスまで、残るは一月あまり!」
オルバ「おお、初心者にはあまりに短い!」
シャギア「それでも君はガロードのために編もうというのか、ティファ・アディール!」
弟に倣うように、こちらはゆらゆらと海にたゆたうワカメのように踊るシャギア。
クリス「………」
シャギア「さあ!」
オルバ「さあ!」
フロスト兄弟「「どうするんだい、ティファ・アディール!!」」
ピタリ!と息のあった動作でポーズを決める、人呼んで『
変態兄弟』。
クリス「―――」
クリス「―――」
その彼らの視界に映るのは、怯えたティファの姿では無く…
クリス「変態―」
クリス「退・散んんんん!!」
MURASAMAの刻印も禍々しい、金属バットを振りかぶった、二人のクリス。
刹那「…
ガンダムだ」
シャンシャンシャンシャンシャンシャン……
赤い仮面の人「生身のまま空を飛ぶとは、君たちも中々やるな」
シャギア「はっはっはっは。 だが、さすがに君が通りがかってくれなければ危ない所だったよ」
オルバ「今の僕たちは体が動かないからね、兄さん」
シャギア「うむ。 すばらしいスイングだった」
赤い仮面の人「こういう場合、『自重しろ』と言うのがこの世界のお約束なんだろうが…」
シャギア「だが仕方が無い。 我々は―」
オルバ「僕たちは―」
変態兄弟「「フロスト兄弟だからな(ね)」」
赤い仮面の人「やれやれ」パシン
シャンシャンシャンシャンシャンシャン……
なお、この後、クリスチーナ・マッケンジー指導の下、ティファ・アディールの編み物スキルは
目覚しい向上をみせつつあったが―――満足のいく作品がクリスマスに間に合うかどうかは、
神のみぞ知る。
おわり。
843 名前:通常の名無しさんの3倍 :2008/11/19(水) 17:24:13 ID:???
840
仕事がはえーよw
ちょっぴり対抗して…
がさっ!
シャギア「うん?」
オルバ「どうしたんだい、兄さん」
シャギア「なんだ? この包みは…」ヒラリ
オルバ「カードが…
T.A.? イニシャルかな?」
ガサガサ
シャギア「マフラー?」
オルバ「ミトンの手袋もあるよ、兄さん」
シャギア「我々のヴァサーゴとアシュタロンに色を合わせるとは…」
オルバ「どうするんだい、兄さん?」
シャギア「とりあえずは、有難く頂いておくとしようか、オルバよ」
オルバ「今年の冬は、ちょっとだけ暖かくすごせそうだね、兄さん」
最終更新:2013年09月23日 22:01